機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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第128話「オペレーション・ブルースフィア」 2

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太平洋 ハワイ諸島より東方地点 

”タラワ”級強襲揚陸艦”ジェームズ・クック” 艦橋

 

「”スノーウインド”帰還、取得データの反映を開始します」

 

「うむ」

 

地球連合海軍第1艦隊の司令官を務めるカール・キンケイド中将はうなずき、水平線の先に存在するハワイ諸島の方向を見据えた。

現在、数十隻の艦艇で構成される第一艦隊はハワイ諸島の東から進軍しており、今は偵察から帰還した試作偵察機”スノーウインド”が獲得した敵軍の配置情報等を共有している最中だ。

実戦を経験した数は少ないカールだが、この情報があるかないかで作戦成功率が大きく上下することくらいは知っていた。

 

(まさか、この老骨を引っ張り出してくるとはな)

 

カールは御年60を超える初老の男性軍人であり、本来だったなら前線に出てくる人間ではない。実際、数ヶ月前までは軍大学にて生徒達相手に教鞭を奮っていた。

そんな彼が第1艦隊の司令官に就任して前線にやってきたのは、未だに戦争序盤の人的資源の大量損失から立ち直れていない証拠だった。

Nジャマーの力によってZAFTは連勝を重ねられたのは周知の事実だが、とりわけ被害が大きかったのが海軍だ。

 

『エイプリルフール・クライシス』以前に就航していた水上艦艇はほぼ全てが核エネルギーによって駆動していたため、ほとんどが役立たずのガラクタに成り果てた。これによって海軍はNジャマーの影響を受けなかった旧式艦艇でZAFTと戦わなければならなくなる。

結果は惨敗。戦力を大きく削られ、慣れない旧式艦艇で戦いを挑んだ海軍を迎え撃ったのは、ZAFTの投入した水中MS達。

海中を高速で機動し、ノロマな艦艇に魚雷を撃ち込んでいくこれらの存在によって連合海軍は壊滅的被害を受けた。ジェーン達”マーメイズ”が結成された原因でもある。

そして、この大敗北によって散った命の中にはカールの教え子達もいた。

 

(卑怯とは言わん。戦争だからな)

 

カール自身はコーディネイターというものに偏見は無い。それどころかコーディネイターを教え子としていたこともある。

だからこそ、Nジャマーの力と水中MSで勝利したZAFTを否定する気は無いし、むしろ感心さえしていた。無論、原発を停止させて大量の餓死者を出したことはけして許す気は無いが。

だが、カールは思うのだ。───無念だっただろう、と。

普段の厳しい訓練で得た物を何一つ活かせず、ただただ蹂躙されていった仲間達、教え子達はどれだけ屈辱だっただろうか。

それを晴らすために、カールは再び戦場に立つことを決めたのだ。

 

「Nジャマー環境下を前提に開発された艦艇、新たなる航空戦力、そして水中MS……さぁ、同じ土台に立ってやったぞ」

 

同じ物を持っているなら、後はそれを敵より多く揃え、そしてそれを十全に運用するだけの知識を持つ方が勝つ。

さぁ、当たり前のように勝ってやろう。それが散っていった者達への手向けとなる。

 

「───これより、『オペレーション・ブルースフィア』第一段階を開始する!」

 

 

 

 

 

輸送型潜水艦”ジミー・カーター” 格納庫

 

<作戦指令を受理しました。MS隊、発進準備!>

 

カールが発した命令によって、全ての艦は戦闘態勢を取り始めた。

この”ジミー・カーター”もその1つであり、この艦は水中MS隊の母艦としてこの作戦に参加していた。

しかし、格納庫内には主力である”ポセイドン”は1機も存在していない。

MS隊を発進させるために注水され、段々と水が貯まっていく格納庫内には、”フォビドゥンブルー”に似た装備のMSが3機、静かに出撃の時を待っていた。

これらの機体の名は”ディープフォビドゥン”。ジェーン・ヒューストンの駆る”フォビドゥンブルー”の制式量産機である。

”マーメイズ”の戦闘データを基に開発され、先行量産された数機がこの『オペレーション・ブルースフィア』に投入されているのだ。

 

「システム起動。TP装甲並びに『ゲシュマイディッヒ・パンツァー』、正常動作を確認」

 

その内の1機に、オリオン・ワイズマンは乗り込んでいた。

彼は大西洋連邦出身の軍人であり、士官学校を卒業して早々にMSパイロットとして抜擢された士官だ。

 

「各種パラメータ、正常値を維持。……水中MSのパイロットになるのは予想出来なかったけど、良い機体じゃないか、”ディープフォビドゥン”」

 

実戦では初めて乗る機体だが、シミュレーションは相応にこなしていたオリオンは、これならいけそうだ、と笑みを浮かべた。

MS操縦に適正のある軍人はあちこちに引っ張りだこであり、オリオンも水中戦の経験が多いわけではない。

しかし、最新鋭機を任された彼の実力は確かなものだ。加えて普段からの態度も実直であり、模範的軍人として厚く信頼されている。

 

<ワイズマン少尉、新型の調子はどうだ?>

 

「問題ありません。これなら十全に働けそうです」

 

“ジミー・カーター”艦長からの通信が届き、快い返事を返すオリオン。

 

<それなら良かった。そいつの力をコーディネイター共に思い知らせてやってくれ>

 

「……了解しました」

 

続けて艦長から発せられた言葉に僅かに眉をひそめるが、通信映像では感じ取られることはなかったようだ。通信が切れた直後に溜息を吐くオリオン。

オリオンはコーディネイターに対して特に偏見は持っていなかった。それは家族も同様だ。

だからこそ艦長のコーディネイター蔑視と思われる発言にも繭を潜めたが、それについて口出しをする気も無い。

コーディネイターを嫌う人間にも種類がある。優れた才能を持つコーディネイターに嫉妬したり恐れる者もいれば、『エイプリルフール・クライシス』で大切な人を失ってコーディネイター全体を憎むようになった人間もいるのだ。

また、純粋に地球に住んでいるコーディネイターの方が多いという事実を知らない人間もいる。それらに一々ツッコんでいたらキリが無い。

 

(でもまぁ、連合軍にもコーディネイターはいるんだから少しは考慮して発言して欲しいもんだ)

 

そんなことを考えていると、いつの間にか注水が終わっていた。あとは、小隊長を務めるオリオンの合図でいつでも出撃出来る。

これまで彼が参加した作戦の中でも、この『オペレーション・ブルースフィア』は最大規模だ。今更になって恐怖心が鎌首をもたげてくるが、頭を振ってそれを追い出そうと試みる。

 

(落ち着け、やれることはやっただろう?)

 

自分自身にそう問いかけ、覚悟を決めるオリオン。

そう、やれることはやった。ならば後は突き進むだけだ。そうやって今までだって生き残ってきたではないか。

それでも死んだのなら、それは運が悪かっただけである。そうなったらあの世で笑い話にでもすればいい。

何より、自分よりも年下の少女も戦場に出ているのだ。士官学校を卒業した自分が真っ当に軍人をやってみせなければ、そちらの方が笑い話である。

 

(ヒルデガルダ……君も、上手くやるんだぞ)

 

親の縁で知り合った少女の健闘を祈り、ついにオリオンは口を開く。

勇ましく、軍人として、戦いに赴くために。

 

「───ワイズマン隊、出撃!」

 

 

 

 

 

”タラワ”級強襲揚陸艦”ヘイハチロウ” 艦橋

 

「侵攻率20%を突破しました!」

 

「まだ20%か……」

 

開戦してから数時間が経過し、連合海軍第2艦隊の旗艦である”ヘイハチロウ”に視点が移る。

あらゆる艦艇から火砲が放たれ、目下の海中では、今まさに水中機動戦力による激闘が繰り広げられている最中だ。

第2艦隊はハワイ諸島の西側から侵攻しており、第1艦隊とはハワイ諸島を挟み撃ちにしている格好になる。

『東アジア共和国』の派閥が中心となっている第2艦隊だが、司令を務める宮坂 大知(みやさか たいち)中将は渋面を浮かべていた。

理由は簡単で、思ったよりも攻撃に勢いが無いのである。

 

「”カイシュウ”が被弾しました!損傷は軽微ですが……」

 

「何処からだ?」

 

「は?」

 

「どんな攻撃で被弾したかと聞いている!」

 

「し、失礼しました。敵陸上施設からの攻撃によるものです」

 

練度の低い船員に苛立ちを持つ宮坂だが、今はそれよりも考えなければならないことがある。敵陸上基地からの攻撃だ。

当たり前だが、ハワイ諸島の防衛網は西側に重きが置かれている。仮想敵であるアジア・ユーラシアに備える必要があるからだ。ハワイ諸島を占領しているZAFTもその設備を使っているために、第2艦隊は苦戦を強いられているのである。

逆に東側に対する防衛網は貧弱であり、第1艦隊は特に問題無く進撃出来ている。明らかに割を食った形になる第2艦隊だが、そうするだけの理由と、それを可能にする手札が彼らにはあった。

 

「そろそろ出番か……通信を”比叡”に繋げ」

 

 

 

 

 

<敵艦隊より突出する艦艇あり!……データベースに登録されていない艦種です!>

 

<なんだと!?>

 

第2艦隊から突出した3隻の艦艇を認識した時、ZAFT側の部隊は困惑した。

現在の海戦の基本は水中MSや航空機といった機動戦力が主流となり、艦艇と言えばもっぱらイージス艦(対空)強襲揚陸艦(輸送)のために運用されるのが常だ。

にも関わらず、その3隻は突出してきた。

 

<何かある、迎撃しろ!>

 

<ダメです、MS隊が接近出来ません!>

 

ZAFT側の指揮官は対処を命じたが、完全に物量で上回られている状況でイレギュラーに対処するだけの余裕はZAFT海軍には無かった。

3隻の艦の正体は、『東アジア共和国』が開発した新型艦だ。

その名も、『”金剛”型攻撃駆逐艦』。そう、()()()なのである。

 

これらの艦艇は『エイプリルフール・クライシス』後の艦隊再編計画に基づいて設計・開発された。だが、その開発過程には大きな問題があった。

それは、『水中MSに対する有効打を有していない』という点である。如何に強力な水上艦であっても、無防備な水中から攻撃されてはひとたまりもない。

加えて、ZAFTの主戦力は水中MSとその母艦である潜水艦であり、駆逐艦の敵となる水上艦はほとんど存在していなかったのだ。

このために、試作した1番艦である”金剛”が完成した段階で一度計画は停止しており、そのまま時代遅れの艦として消えていく……筈だった。

 

しかし、この場には3隻の”金剛”型が存在している。一度停止した計画が、()()()()の登場によって再開したのである。

”エアーズロック”級陸上巡洋艦。ZAFTが投入したこの艦艇は陸上・海上を問わず移動可能なホバー艦であり、”金剛”型の敵役として最適だったのだ。

このことを受けて新たに3隻の”金剛”型───それぞれ”比叡”、”榛名”、”霧島”の名を与えられた───が開発され、こうして実戦に投入されるに至った。

 

「主砲、有効射程内!」

 

「───ってー!」

 

”比叡”艦長の号令に従い、”比叡”の180mm速射砲が火を噴く。

2つほどの飛沫が上がった後に、1隻の”エアーズロック”級の艦艇に爆炎が立ち上る。直撃だ。

他の”エアーズロック”級が反撃するが、”エアーズロック”級もZAFT艦艇の常に漏れずMSや航空機の輸送に特化している艦艇であり、勢いは弱い。

それに対し、”比叡”、”榛名”、”霧島”の3隻は勇猛果敢に前進を続けながら高精度の砲撃を撃ち込み続けている。ZAFT側の水上艦隊は、この予想外の存在に完全に圧倒されていた。

 

「ヨーソローっ!はっはっは、恐るるに足らずZAFT共!」

 

大道寺 正介(だいどうじ せいすけ)少佐は自身が艦長を務める”比叡”の主砲が敵艦を捉えたことを受け、喝采を挙げた。

昔から軍艦が好きで、それが高じて海軍の船乗りになった彼だが、まさかこの時代に駆逐艦の艦長になって砲撃戦などが出来るとは思っていなかった。

 

(これだよこれ、近代のミサイル駆逐艦とかも嫌いではないんだが、やはり軍艦といったらこうじゃなくちゃ!)

 

ミサイルや艦載機、その他のハイテク機器を用いた近代の艦艇も嫌いではないが、大道寺という男はやはり砲撃というものにロマンを感じる男だった。

勿論、『東アジア共和国』もロマンで動いているわけではない。”金剛”型駆逐艦は、なにも対艦攻撃にだけ用途を向けた艦ではないのだ。

前進を続けた3隻は遂にハワイ諸島、その最北端に位置するカウアイ島に備わった陸上基地を射程に捉えた。

 

「対地攻撃ミサイルをVLSに装填!───攻撃開始!」

 

直後、”金剛”型3隻の主砲とVLSから放たれた砲火の全てが陸上基地に向けて放たれる。

『”金剛”型()()駆逐艦』と名付けられたのは、対艦だけに留まらず対地攻撃においても高い攻撃能力を誇るからだ。

そして、駆逐艦としての快速を活かして戦場を駆け回り、必殺の一撃を叩き込む。それが、”金剛”型なのである。

 

「主砲着弾!VLSも一部迎撃されましたが、有効です!」

 

「やったぜ!」

 

思わずガッツポーズをしてしまう大道寺だが、軍の船乗りならば誰もがその気持ちを理解出来るだろう。

なにせ、自分達が乗る艦の攻撃で敵の基地施設を吹き飛ばしたのだから。

その喜びに水を差すように、”比叡”全体が揺れる。ZAFTの水中MSによる攻撃が命中したのだ。

 

「ダメージコントロール!」

 

「損害は軽微、航行に支障ありません!」

 

大きな戦果を挙げてみせた”金剛”型だが、当然弱点はある。

それは、攻撃能力は高いがそれに反比例して防御力は低いということだ。

駆逐艦である”金剛”型は艦艇としては高い機動力を誇るが、あくまで艦艇に限った話でMSや航空機などの機動兵器には及ばない。加えて、攻撃力を重視しているために対空システムなどもイージス艦である”アーカンソー”級に比べれば貧弱だ。

つまり、”金剛”型はそれらの天敵から身を守る手段、あるいは守ってくれる味方が無ければ、あっさりと沈められてしまう危険性を帯びているのである。

だが、この場には多くの味方がいる。

 

「第4航空隊が援護してくれています!」

 

「よーし……ならば攻撃を続行、カウアイ島の敵拠点を叩けるだけ叩いていくぞ!」

 

『了解!』

 

“金剛”型の実戦投入が決定されたのは、このように他の部隊からのフォローが効くからというものもある。

航空部隊や水中部隊からの援護を受けられるのならば、”金剛”型は軽快に位置を変えながら敵の大型目標に対して攻撃を加え続けられるのだ。

しかし、彼らの奮戦ぶりの最大の理由は、彼らの高い闘志にこそある。

この『オペレーション・ブルースフィア』は、連合海軍にとっては初の大規模作戦だ。

今まで煮え湯を飲まされてきた相手を思いきりぶん殴っても良いという状況で、いきり立たない兵士がいるものだろうか。

 

「覚悟しろよZAFT共……倍返しなんかじゃ物足りないほど、俺達は溜まってんだぜ!」

 

 

 

 

 

衛星軌道上 ”ゴンドワナ”艦橋

 

「敵艦隊接近!」

 

「推定される戦力規模は、序数艦隊(ナンバードフリート)が2つです!」

 

「間髪入れずか……コンディションレッド発令!」

 

苦々しげに、ZAFT艦隊司令のクロエ・スプレイグは迎撃命令を出した。

 

(流石、地球連合というだけはある。まさか『三月禍戦』から2月足らずで立ち直り、こうして地上と宇宙の2方向で大規模作戦を仕掛けてくるとはな)

 

クロエは両腕を組み、シートに体重を預ける。

悪意ある遺伝子操作によって小学生高学年ほどで体の成長が止まるというハンデを背負わされながらも、ZAFT宇宙艦隊の司令という座を勝ち取った彼女だが、今回ばかりは負け戦だろうと踏んでいた。

純粋に、戦力に開きがある。

かつて彼女が指揮を取った『「世界樹」攻防戦』で、連合軍は第1から第3までの宇宙艦隊を投入した。

この戦いではNジャマーが初めて実戦で投入されたこともありZAFTが勝利を収めたが、ZAFTにとっても被害は大きかった。

 

(こちらだけがMSと、Nジャマーの恩恵を受けられた戦いでも()()()だったんだ。MSを始めとして新たなる戦力を手に入れた艦隊を相手にするのは厳しいと言わざるを得んな)

 

加えて、クロエの警戒心を引き上げるニュースが先日飛び込んできたことも多いに彼女の頭を悩ませていた。

ウィリアム・B・オルデンドルフ。彼女の師と呼べる軍人が、再編された連合軍の第1艦隊司令に着任したという内容だ。

彼が優れた指揮能力を持っていることもそうだが、自分(クロエ)に艦隊指揮のイロハを叩き込んでくれた人物と戦いたいわけが無い。

なにせ、自分のやり口を知り尽くしていると言ってもいい相手である。世話になった心情的にも、極力戦いたくなかった。

 

(まぁ、やるしかないんだがな)

 

とは言え、クロエもあっさりと引き下がるわけにはいかない。

敵が強いから、相性が悪いからすぐに諦める?───そんなものは軍人失格だ。

たとえ勝てないと分かっていても自分の出来ることがあるなら実行し、少しでも自軍の勝利に繋がるチャンスを模索する。それが軍人のあり方だと信じていたし、師にもそう教わった。

 

「し、司令!」

 

クロエが思案していると、通信士の1人が驚愕しながらクロエに報告する。

 

「どうした?」

 

「本艦に向かって、国際救難チャンネルで通信が届いています。発信元は……敵艦隊からです!」

 

溜息を吐くクロエ。通信主が分かったからだ。

 

「……繋げ」

 

「えっ、しかし」

 

「良いから。どうせ、大した内容じゃない」

 

クロエに言われた通信士は訝かしみながらも、通信回線を開いた。

果たして、そこに映っていたのはクロエの想像通りの人物。

かつて会った時よりも幾分か老け、より伸びた顎髭を撫でる老紳士、ウィリアム・B・オルデンドルフだ。

 

<久しいな、クロエ君。いや、ZAFT艦隊司令、クロエ・スプレイグ閣下とでも呼べば良いのかな?>

 

「お久しぶりです、オルデンドルフ(先生)。そういう貴方こそ、第1艦隊司令ではありませんか。老骨に鞭打って出陣とは、血気盛んにも程があるでしょう。艦隊司令の席よりも車椅子の方が良いのでは?」

 

<ふふふ、この状況でも闘志は揺らいでおらぬか。結構、結構>

 

愉快そうに笑うオルデンドルフ。

対するクロエもにこやかに微笑みながら挑戦的な言葉を返すが、内心ではオルデンドルフとの会話で何かしらの情報を引き出せないか思案していた。

 

「それで、どのような意図があってこの通信を?」

 

<当然、降伏勧告だよ。戦の前の儀礼はしなければな>

 

「それでは、丁重にお断りさせていただきます」

 

<だろうな>

 

再び笑うオルデンドルフ。

仕掛けてくるなら、ここからだ。

 

「用件がそれだけならば、さっさと───」

 

<パトリック・ザラは、本当に君の信じられる相手かね?>

 

オルデンドルフの言葉を聞き、クロエはかつて、軍大学でオルデンドルフに言われた言葉を思い出した。

 

『軍人は軍全体の、引いては国家のために尽くすものだ。しかし、ただ盲目になってはいけない。尽くすべき国家が狂ったならば、軍も狂っていき、それが全体の敗北に繋がるのだから』

 

つまり、オルデンドルフはパトリックが狂っているのではないかと言いたいのだ。狂った頭が国家全体を敗北に誘おうとしている、と。

 

「───馬鹿馬鹿しい」

 

彼女は師の言葉を切って捨てた。

たしかに彼は狂っているように見えるかもしれないし、やろうとしていることは間違い無く狂っている。

だが、パトリックの戦友としてクロエが言えることは1つだ。

パトリック・ザラは、間違い無く正気だ。正気で、世界を滅ぼそうとしている。

 

「彼を信じると決めて今この場に立っている。それが分からないとは言わせません」

 

<そうか……ならいい>

 

クロエの言葉を聞き、オルデンドルフは満足げに頷いた。

かつての弟子は、今の敵。それも、自分達の全力を向けるに相応しい極上の敵だ。

 

<ならば、全力で叩き潰すまでよ。貴軍の健闘を祈る。───精々足掻け、小娘>

 

「それでは、存分に足掻かせてもらいましょう。───戦ってる最中にポックリ逝くなよ、ジジイ」

 

互いに敵意をぶつけ合った後に、通信は切れた。

───戦う前から師弟関係を利用して揺さぶりを掛けてくるとは、流石はオルデンドルフ師だ。

罵倒はしたが、それは敵対するということの証明でしかない。クロエは今でも、オルデンドルフを尊敬している。

 

「弟子として出来る最大の恩返しは、師匠を超えることか」

 

闘志を奮い立たせるクロエ。

だが、敵はオルデンドルフだけではない。序数艦隊が2つということは、第1艦隊の他にもう1つ艦隊が参加していることになる。

十中八九、第8艦隊。連合宇宙軍で現状、もっとも多くの実戦をこなした最精鋭であり、自分の兄弟子であるデュエイン・ハルバートンの指揮する艦隊だ。下手をすれば第1艦隊よりも厄介かもしれない。

面白いではないか。

艦橋内の誰もが、クロエを見つめている。彼女の号令を待っている。

いつも通りに命じてくれ、と。

 

「さて、諸君。───奴らに我々の戦いを見せてやるとしようか」




次回から本格的にドンパチ賑やかにしていくつもりなので、気長にお待ちください!

以前に開催した『オリジナル兵器・キャラクター募集』より、『オレオブラザーズ』様のオリキャラである「オリオン・ワイズマン」を登場させてみました。
素敵なアイデアをありがとうございます!

今回登場した”金剛”型駆逐艦について、簡単に補足説明をば。
○純粋な水上艦艇で見ればC.E最強、というコンセプト。
実は本来の仮想敵はZAFTではなく、同じ連合加盟国の面々。
エアーズロック級というちょうどいい囮がいたために実戦に投入されたが、元々は「他の連合加盟国もイージス艦とMS母艦しか使ってないし、だったら我々だけが駆逐艦を持っていたら海洋戦略で有利になれるのでは?」という意図があったり。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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