機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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第126話「忍び寄る影」

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東アジア共和国 カオシュン宇宙港 ”アークエンジェル” 格納庫

 

「こっちに3番ドライバー持ってきてくれ!」

 

「なぁ、この武器の弾規格は何だったっけ?」

 

「この配線を仮留めしてたのは誰だぁ!?」

 

“アークエンジェル”の格納庫はいつも通り、否、いつもよりも増し増しの騒がしさを保っていた。

それもその筈、明後日の5月15日にはハワイ島を奪還する『オペレーション・ブルースフィア』が実行される予定となっており、”アークエンジェル”もその作戦に参加することになっている。

一大作戦を目前にやらなければならぬことは多いのだ。

 

「マイケル、ボーッとしてる暇なんぞあるのか!?」

 

「いや、違……少し休ませて……」

 

「明後日に死んでも良いなら好きなだけ休みやがれ!」

 

「マイケル、もう少しやったら区切りが良いから、それだけやろう」

 

「もうモーターの回転音聞きたくねぇよぉ……」

 

このように、普段は待機しているパイロット達も作業に駆り出されている。

彼らも普段から鍛えている軍人であるから体力も十分備わっているのだが、その彼らが消耗していることから作業のハードさが察せられるだろう。

また、別の理由から辛そうな態度を見せる者もいる。

 

「フラガ少佐、そっちのカッターを……大丈夫ですか?」

 

「うぅ、音が()()()()()()響いていやがる……」

 

「いくら休暇って言っても、食堂で酒盛りなんかするからですよ。ミヤムラ司令にも叱られたんでしょ?」

 

「仕方ねえだろ、『ジャック・ダニエル』*1のシングルバレルなんて持ってこられたらよぉ……」

 

”アークエンジェル”がこのカオシュン宇宙港に入港したのは2日前のことであり、昨日は乗員全員に休暇が許されていた。

張れて懲罰房から解放されたキラはヒルデガルダ達と共に高雄(カオシュン)市を観光などしていたが、ムウは一部の乗組員達を集めて酒盛りをしていたのだ。

節度は守って飲んでいた筈だが、まさか監督役を自称して参加してきたマリューが悪酔いして状況を混沌とさせるとは思うまい。今頃はムウと同じように頭を抑えながら艦長業務を遂行しているだろう。

まさしく鉄火場と呼ぶに相応しき格納庫。そんな中、キラは───。

 

「最近MSの動きが鈍いと感じてきているそこの貴方、そんな貴方にピッタリな装備がありますよ!」

 

「はは……お手柔らかに」

 

どこぞのテレビショッピング番組のようなテンションのアリアと、試作ストライカーの調整を行なっていた。

 

「その名も、『アクセルストライカー』!単なる機動性の向上だけではなく、動作自体を高速化させる第一世代型ストライカーですよ!」

 

キラの目の前には、背中や手足に複数のパーツを取り付けた”ストライク”───”アクセルストライク”があった。

アリア曰く、このストライカーの本質は文字通り『加速(アクセル)』させることにある。腕や脚を動かす際に手足のパーツに内蔵されたブースターを点火し、本来そのMSが持つ敏捷性を増すことが出来るのだ。

この加速力は主に1対1の近接戦にて有効であり、対峙するパイロットは不規則に動作が加速する”アクセルストライク”を相手に立ち回らなければならない。

 

「ちなみに腕のパーツは表面に耐ビームコーティングが施されているので、シールドとしても使えるんですよ。名付けるならシールドブースター、といったところでしょうか」

 

「うーん……面白いコンセプトではあるんだけど、”ストライク”を虐めすぎてない?」

 

操縦難易度の高さは今更なので無視するとしても、『アクセルストライカー』一番の問題は、装着したMSの機体寿命を著しく縮めることだ。

本来出す事の出来ない動作速度を出すということは、機体に想定以上の負荷を掛けるということだ。

丁寧に整備すれば10年は使える機械も、無理な改造を施して出力を上げれば1年で寿命が訪れる。

 

「たしかにおいそれと使える代物ではありませんが、対ZAFT戦線においてはある程度の有用性が見込まれてるんですよ」

 

「どういうこと?」

 

「『対エース用』、ということですよ」

 

ZAFTのMSは、()()()()()()()()()()()()平均的に連合軍のMSを上回る。

例えば、ほぼ同性能とされている”ダガー”と”ゲイツ”だが、1対1で戦えば70%超えの確率で”ゲイツ”が勝つとされている。縮まったとは言え、ナチュラルとコーディネイターでは基本的能力で差があるからだ。

勿論、数で圧倒的に上回る連合軍が1対1で戦うというケースになることは少なく、たいていの場合は1機の”ゲイツ”を3機以上の”ストライクダガー”が圧殺するのが各線戦における基本となっている。

しかし、そんな基本を超えるイレギュラーとなるのがエースという存在だ。

 

「現在のZAFTの戦術ドクトリンは先制攻撃、あるいは突出したエースによる敵軍の戦線攪乱から一気にゲームエンドまで持っていく速攻型になっています」

 

「なんだか、”バルトフェルド隊”みたいだね」

 

「というか、彼らの戦術が広くZAFT内で普及してきたんですよ。隊で十分に連携が取れているなら、一番成功率と兵の生残性が高い戦術ですから」

 

相手にペースを握らせずに一気呵成で畳みかける。言葉にするのは簡単だが実際にやるには難易度が高い戦術だ。

だがZAFTは個々人の能力の高さでこれを実行に移せるのだ。失敗する部隊もいるが、回数を重ねれば重ねるほど戦術は洗練されていき、連携も強化されていく。

そしてこの戦術の成功率を高めるのがエースという存在であり、それを打ち崩すための『エースキラー』の1つがこの『アクセルストライカー』なのだ。

 

「『エースキラー』と言えば、”バルトフェルド隊”にもいたよね。3機の”ラゴゥ”」

 

「そうですね。3機がかりとはいえ、あと一歩までキラさんを追い詰めた相手ですから覚えてますよ。……やっぱり、あそこで”バルトフェルド隊”を撃破出来ていたのは大戦果ですね」

 

もし”アークエンジェル隊”が”バルトフェルド隊”を撃破出来ていなかった場合、また新たな戦術を生み出されて連合軍全体を苦しめていたかもしれない。

そう考えれば、アリアの言うことは事実だ。

 

「話が逸れましたが、つまり『アクセルストライカー』とは機体寿命を考慮から外しても使う価値のある存在……敵エースを確実に倒すための装備なんですよ。勿論、加速力以外にも魅力はあります」

 

そう言ってアリアは”アクセルストライク”の背後まで歩いて移動し背中のパーツを指差す。

そこにはコンパクトな形ながら高い出力を誇るランドセル型ブースターと、それを挟むように懸架された2本の剣があった。

 

「『フラガラッハ』。『ソードストライカー』で運用された対艦刀(シュベルトゲベール)よりサイズはダウンしていますが、十分な威力を持つレーザー対艦刀ですよ」

 

対艦刀は”ジン”の重斬刀を参考に開発されており、その用途はレーザーで溶断した装甲を大質量の実体剣で叩き切るというものだ。対艦というだけあってその破壊力はMS相手には十二分なものとなる。

その破壊力を対MS戦で有効に扱えるよう、サイズをコンパクト化したのがこの『フラガラッハ』なのだ。

余談だが、この『フラガラッハ』の後継となる武装が後の時代で”ストライク”の系列機に装備されることはユージを除いて誰も知らない。

 

「主な仮想的はPS装甲持ちの敵MSですね。先日遭遇した”ズィージス”とも、これなら渡り合えるでしょう」

 

「っ……」

 

”ズィージス”。『紅凶鳥(クリムゾン・フッケバイン)』。───アスラン・ザラ。

正直なところ、キラは未だにアスランと戦うということを受け入れられてはいなかった。

 

「まだ、迷っていらっしゃるんですか?」

 

「……うん」

 

「敵に回ったとはいえ幼なじみと戦うなんて、覚悟が出来る方がおかしいとは思います。それでも、相手もそうだとは限りません。せめて戦えるだけの能力だけは身につけておきませんと」

 

アリアの言うことは、悲しいことに事実だった。

真意はどうあれ、アスランはキラを殺すと宣言した。ならば、()()なのだと仮定して応じるしかない。

 

「大丈夫ですよ。誰も1対1の決闘ではなくて戦争をやっているんです。キラさんだけで抱え込む必要はありません」

 

「そう、だね」

 

「それに、アスラン・ザラと次に出会う時が来るかどうかも分からないんです。出会ってから考えた方が良いですよ。無いかもしれないことに考えを回すなんて無駄です」

 

おそらく、アリアなりに気を遣っているのだろう。

アリアの言うことは事実だ。前回の遭遇だって偶然に偶然を重ねた結果のような機会だというのに、また偶然が起きると考えるのは都合が良すぎる。

だが、自分(キラ)の中の何かが言っているのだ───そう遠くない未来、再び2人は邂逅すると。

ひょっとしたら、『運命』とでも言うべき何かが存在するのかもしれない。そして、運命の指し示す先にあるのは。

 

「───考え込むの、禁止です。そんな暇があるなら調整手伝ってください」

 

葛藤するキラの顔を両手で挟み、グリっと”アクセルストライク”の方を向かせるアリア。

 

「なんとか”アクセルストライク”を実際に動かしてみる時間は確保出来ました。調整に使える時間は少ないんですから、キリキリと動いていきますよ!」

 

「え、ちょ、まっ」

 

「待ちません!」

 

 

 

 

 

「何をやっているんだかな、あいつらは……」

 

キラがアリアに引っ張られていく様を、スノウは”デュエルダガー・カスタム”のコクピットで呆れながら見ていた。

彼女も機体の調整中だったのだが、他の機体と違って装備を付け替える必要が無いこともあってすぐに終わってしまい暇していた時に、偶々この光景が目に入ったのである。

 

(随分と、私も絆されたものだ)

 

出会ったばかりの頃はコーディネイターであるからと言う理由で一方的に敵視していたキラのことを、スノウは悪しからず思っていた。

そもそも、ああも甘っちょろいくせに仲間を守るためには全力を出せるような男が、裏切り者とかである筈が無いのだ。

無論、スノウ自身が変わりつつあるのだという自覚もある。先日、若手パイロット達と共に高雄(カオシュン)市を周遊した時も、思いの他はしゃいでしまった。

まるで、普通の少女のように。

 

「……『私』は、どんな人間だったんだろうな」

 

スノウ・バアルとしての記憶は、1年分しかない。

彼女にとって最初の記憶は、白い部屋、ポツンと置かれたベッド、ワケも分からずそこに座る自分。

そして、不気味なほどに神秘的な微笑みを見せる()()の女。

それ以前の記憶は存在しない。

 

『君の記憶が存在しない根本の原因はZAFTにある。───真実を取り戻したいなら、戦って勝ち取るしかない。もっとも、それが君のためになるかどうかは知らないけどね?』

 

記憶が無くても本能が訴えていた。この女は危険だ、信じてはいけない、と。

それでも戦うしかなかった。苦痛を伴う訓練、耳障りな研究員達の言葉に耐え、言われるがままにZAFTへの憎しみを募らせた。

それ以外に無かったから。私は、ワタシは、わたしは───。

 

「っ……またか」

 

ここ最近になって、スノウは奇妙なフラッシュバックを経験するようになっていた。暗い空間で、ただ1人漂うというものだ。

そんな経験をした覚えはスノウに無い。だとすれば、この覚えの無い記憶は『私』のものに違いない。

そして、フラッシュバックが起きる時は決まって頭痛がするのだ。

まるで、自分の中の何かが「思い出してはいけない」と言っているようで。

 

(……それなら、そうでもいいかもしれない、のではないだろうか)

 

思い出してはいけない記憶を無理に思い出すよりも、信のおける仲間と戦争を戦い抜く方がいいのではないだろうか。

そもそも『ZAFTが原因だ』ということ自体、自分の体を弄くり回したあの気狂い研究者共が勝手に作った妄言で、実は記憶を奪ったのは奴らではないのか?

極めて良識的な仲間達に囲まれていたためか、スノウは自分の周囲を俯瞰して見れるほどに精神的余裕を獲得していた。

今になって、自分が()()異常なのかを理解出来るようになっていたのだ。

 

<スノウちゃーん、今大丈夫ー?>

 

「ん……どうした?」

 

ヒルデガルダの呼ぶ声に応じ、スノウは機外に出た。

どうせ模擬戦に付き合ってくれというのだろう。対艦刀のような大振りな武器を好むヒルデガルダでは高速戦闘を得意とするスノウと相性が悪いのだが、「却って練習になる」といって挑んでくるのだ。

 

(軽く、一捻りしてやるかな)

 

僅かに微笑みながら、ヒルデガルダの方に向かうスノウ。

もはや記号にあらず、彼女は『スノウ・バアル』としてのアイデンティティを獲得し始めていた。

───それが、少女にとっての苦しみになるということを知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「検体の様子は?」

 

「もうダメだな……もう我々の制御下からは外れかけている。暗示の効果も消えかけて、ほとんど形骸だ」

 

「まぁいい、データは十分に収集出来た。それに、元々限界が近いわけだしな。最後に、束の間の自由を謳歌させてやろうじゃないか」

 

「仮初めの、ですがね」

 

「だが、無駄にはならんさ。───全ては、蒼き清浄なる世界のために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”アークエンジェル”通路

 

「いやー、流石ですねキラさん。ものの30分である程度動かせるようになるとは!」

 

「ねぇアリア、君ひょっとして僕がテストすること前提で装備とか試験してない?」

 

「そりゃしてますよ、キラさんでなくても出来ることなら他の人にやらせる方が効率いいでしょう?」

 

艦の外で”アクセルストライク”の動作試験を終えたキラとアリアは、再び”アークエンジェル”に戻ってきていた。

いつも通り初見の装備をすぐに習熟するキラに、アリアは全幅の信頼を寄せるようになっていた。

自分の作ったものを万全に使いこなし、なおかつもともと理工系ということもあって自分の話に付いてきてくれるのだ。そうなるのは当然と言えよう。

 

「いっそキラさん専用機とか作っちゃって───」

 

 

 

 

 

「やぁ、久しぶりだねアリア・トラスト」

 

 

 

 

 

その声が響いた瞬間、和やかな雰囲気は最初から存在しなかったかのように霧散した。

恐ろしい、とかではない。嫌悪感が湧く醜悪な声だったとかではない。むしろその逆。

美しい。声だけしか認識していないにも関わらず、そう思わせる魔性の魅力。

恐る恐る振り向いたキラの視線の先にいたのは。

 

「アリ……ア?」

 

そこに立っていた女の印象を語るなら、『黒衣の女』。その一言に尽きるだろう。

どこまでも鮮やかな、それでいて光を写さずに(とらえ)えていると思わせる金髪。健康な人間の動脈を掻き切った時に吹き出る血液のような赤い目。遍く男を引きつけ、そのまま破滅まで自ら進むことを選ばせてしまうようなプロポーション。

だがキラに最大の衝撃を与えたのは、彼女の顔が、隣に立つ少女と全く同じものだったことだ。

差異を探すなら、伸びた前髪が右目を覆い隠しているところ、そしてアリアが常に纏っている白衣を反転させたような黒衣を纏っているところだろうか。

 

「ふふ、そう言う君はキラ・ヤマト……『白い流星』と言われる『ガンダム』乗りか」

 

「貴方は……?」

 

徐々に警戒心を増しながら問いかけたキラ。

女は愉しそうに、口を妖艶に歪ませながら自らの名を宣った。

 

「ラディアナ・フォールン。アリアの……まぁ血縁者さ」

 

そう言ってラディアナはツカツカとアリアに歩み寄り、アリアの顎をくいっと上げる。

優しく、しかし無理矢理に顔を上げられたアリアの表情は、恐怖と困惑に染まっていた。

 

「で、君はいつまで黙っているんだい。久しぶりに知己と出会ったんだから、何かしらのリアクションはしないといけないよ」

 

「……お、久しぶり、です」

 

「そんなに怖がらないでくれよ……私は君に、何も酷いことをしたことは無いだろ?」

 

同じ顔でいるのに、全く対照的な表情を浮かべる両者。

詳しい事情はまるで分からないが、それでもキラはアリアとラディアナの間に割って入り、アリアを庇うように立った。

このままラディアナのペースで動かれてはマズい、そう直感したからだ。

 

「申し訳ありませんが、乗艦許可証はお持ちですか?もし無いのであれば、たとえ乗組員の親族であっても無断侵入の疑いで連行しなければならないのですが」

 

「勿論、あるとも」

 

懐から取り出されたものは、たしかに乗艦許可証だった。

正式なVIPに失礼な振る舞いをしてしまったことに気づいてキラは顔を歪めるが、ラディアナは特に気にした様子も無くアリアに話しかける。

 

「咄嗟に不審者から庇う……いい仲間じゃないか。昔と違って友人も増えたみたいで何よりだよ。それも1人は『大西洋連邦』大統領の娘とはね。繋がりは多いに超したことは無い」

 

「───あの人達にはっ」

 

咄嗟に出た言葉を最後まで言い切ることは出来ず、詰まらせてしまうアリア。

葛藤しているのだ。仲間を守りたいという気持ちと、『ラディアナに反抗する』という行為への恐怖で。

基本的に物事はハッキリ言うアリアがこうなるということは、それだけ恐ろしい存在ということの証明となる。

 

「続ける言葉は『手を出さないでください』、かな?───心外だなぁ。君が勝手に怯えるならともかく、さも私が非人道的な人物であるように吹聴されては。おかげでほら、キラ・ヤマト君がこわーい顔で私を睨んでくる」

 

「……どういったご用件で、”アークエンジェル”へ?」

 

キラはラディアナ・フォールンがどういう人物であるのか知らない。だが、ハッキリ分かったことがある。

彼女は、ここにいてはいけない人物だ。

基本的には温厚な性格のキラがこうなのだ、もしここにヒルデガルダがいたなら、もっと苛烈な態度で対峙していただろう。

そんなキラの姿勢を微笑ましいものを見るように一瞥した後、ラディアナは口を開いた。

 

「いや、実は今回アリアに会いに来たのは物の()()()でね。この艦に乗り込んでいた白衣の研究員達、彼らへのメッセンジャーが本命なんだ」

 

「あの人達に?」

 

「ああ。私は彼らの上司とも顔が効いてね、偶々にもその話を聞いて立候補したんだよ。”アークエンジェル隊”にも興味はあったし」

 

あの白衣の研究員達は、未だに”アークエンジェル隊”の異物だ。スノウを利用して何かしらを企んでいるのは明らかで、好印象を持つ乗組員は存在しない。

最高司令であるミヤムラに対してさえ、彼らが使用している部屋には立ち入れないのだ。そんな彼らの上司が、まともな人間とはキラには思えなかった。

 

「さて、私はここらで退散しようかな。用事は済ませたし」

 

「……出口までの案内は必要ですか?」

 

「不要だよ、お気遣いどうもありがとう。───またね、アリア」

 

まるで感謝していない態度でおどけるように返答し、ラディアナは背を向けて歩き出した。

しかし、彼女は途中で立ち止まって振り返る。

 

「そうそう、最後に1つだけ」

 

言いながらラディアナは黒衣のポケットから小型───USBメモリ程度の───記録媒体を取り出し、アリアに向けて放った。

アリアはあたふたとしながらもそれをキャッチする。

 

「君の開発した『アクセルストライカー』……だっけ?───欠陥品だよ、あれ」

 

「え───」

 

「その中には私が纏めた改善案が入っている。なに、今日中に多少は対策出来るさ」

 

「いきなり何を……部外者のあなたがどうやって『アクセルストライカー』の情報を見て、改善案を出せるっていうんです」

 

「───出来るから、黒衣の女(ラディアナ・フォールン)なのさ」

 

そう言ってラディアナは振り向き、今度こそ振り返ることなく去っていった。

後に残されたのは、困惑するキラと、震えながらも手の中の端末を握りしめるアリアだけだった。

 

「……あの人は、いったい」

 

「彼女は、ラディアナ・フォールン。『黒衣の女(レディ・イン・ブラック)』と呼ばれる天才研究者、です。そして」

 

アリアは端末にジッと視線を落としながら、彼女の最も忌まわしき偉業を語った。

 

「Mk.5核弾頭ミサイルの設計や、Nジャマーの原型となる装置を開発した人。……彼女の生み出した技術が、10億を超える人間を結果として死に至らしめたんです」

 

 

 

 

 

人は誰もが『影』を持つ。『影』は、どこまでも付いてくる。

少年達はそれに立ち向かわなければならない。しかし、覚悟をするには時間が足りない。

血と硝煙で満ちる島、ハワイ。この島を取り戻すための戦い。

───『オペレーション・ブルースフィア』が始まる。

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たいへん長らくお待たせしました。
途中で書き直したばっかりに……。反省します。

さて、アクセルストライクのステータスは次回に持ち越すとして、今回は連合軍側のオリキャラであるウィリアム・B・オルデンドルフと弟子であるリーフ・W・ウォーレスの簡単な解説を挟みたいと思います。
とある方からの指摘で気付いたのですが、まだ解説していなかったので……。
特に読まなくても本編に影響は無いので、飛ばしてしまっても大丈夫です。



ウィリアム・B・オルデンドルフ
再建された地球連合軍第一宇宙艦隊の提督を務める男性。階級は中将。
軍に在籍する中では高齢であり、本来は戦場に出てくるような人物ではないが、戦争序盤の戦いで優秀な将校を失ってしまった連合軍からの要請で着任した。
大鑑巨砲主義者ではあるが頭が固いわけではなく、より有効な手段があるのならばそちらを優先する優れた指揮能力を持つ。
だが対艦巨砲主義者。弟子達も多くは対艦巨砲主義者。
”ペンドラゴン”のことを「最も新しき『女神』」と崇拝している。

以前はブリテン島に存在する軍大学での教師を務めており、教え子に第八艦隊提督であるデュエイン・ハルバートンやZAFT軍宇宙艦隊の名将クロエ・スプレイグ達を持つ。
現在はリーフ・W・ウォーレスの才能に着目しており、彼女を育て上げることが自身にとって最後の仕事であると考えている。

軍大学校長になる前は『大西洋連邦』宇宙艦隊の指揮官であり、花形部署や出世コースとは無縁だったが努力で補い、今の地位にまで上り詰めた努力の人。そんな彼を慕う人間は多い。



リーフ・W・ウォーレス
ウィリアムの副官を務める少女。美しい銀髪と涼やかなつり目が特徴的な美少女。
軍人の家系に生まれている。

実はギフテッドと呼ばれる異常に知能が発達した人間であり、知能指数で同年代の人間を遙かに超えている。ナチュラルであるかコーディネイターであるかは彼女にとっては些細な違いでしか無い。
その知能を以てすれば軍人としての教育も難なくこなせるため一族は諸手を挙げて喜んだが、他のギフテッド同様に他者とのギャップに悩んでいた。

しかし、特例で飛び級入学した軍大学でウィリアムと出会い、模擬戦で打ち負かされたことを切掛けに彼を尊敬するようになり、今は超えることを目標に生きている。
ウィリアムからの思いも前述した通りであり、師弟関係は良好。
肝心の対艦巨砲主義について、実はイマイチ理解出来ていないが、理解する努力は続けている。

ウィリアムとの出会いで「自分も1人の人間だ」と認識したため、他者との関係構築も良い物にするべく努力している。
が、独特のセンスで贈り物などを選ぶため変人という第一印象を受けることが多いようだ。



誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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