機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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ついに、マウス隊完全オリジナルの『ガンダム』が登場です。


第121話「隼の名を持つガンダム」

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『セフィロト』 第4管制室

 

「『スカーレットチーム』、全滅!」

 

「ふむ、10分52秒。中々だな」

 

停止したカウントを見つめながら、満足げにユージは頷く。

現在、彼と数人のスタッフはこの場所で模擬戦のデータを計測していた。

模擬戦は3対3で行なわれており、一方はお馴染みの『スカーレットチーム』。

もう一方は、地上から帰還して間もないエドワード達だ。

 

<あぁ~、またダメだった……>

 

<ぼやくなジャック。模擬戦は事後のミーティングまで終わらせてこそ……>

 

チームにおける最年少であるジャクスティンのぼやきを、年長のブレンダンが諫める。

しかし、その声にも何処か覇気が無い。

それは当然のことで、彼らが敗北したのは、歴戦のパイロットと言えども先日まで地上で戦っていた者達なのだから。

これまでずっと宇宙で戦ってきて、なおかつ普段からアイザック達と模擬戦をしていたことに起因する自信があったのだが、結果はいつも通りの全滅。

落ち込んでも仕方が無いことではあった。

 

「彼らには酷かもしれんが、しっかり成長自体はしているんだよなぁ……」

 

「エド達を相手に10分以上持ちこたえられるだけでも、かなり上澄みの方なんだけどね」

 

ユージの隣でマヤが肩を竦める。

彼女の言うとおり、連合軍どころか戦争全体で見てもトップエースに分類される猛者であるエドワード達を相手にしたと考えれば十分に優秀な成績だ。

加えて、戦いの途中経過も非常に見応えのあるものだった。

 

先手を打ったのはエドワード達だ。レナとモーガンから援護射撃を受けつつ敵部隊に切り込み、早期決着を狙った。

この戦法は“マウス隊”結成当時から彼らが得意としたものであり、今回の模擬戦の舞台となったデブリ帯においては定石と言っても良い。

だが『スカーレットチーム』はその猛攻を凌ぎきり、反撃に転じる構えまで見せた。これが出来る部隊も、両軍全体で見ても限られるだろう。

結果的には分断からの各個撃破に戦術をシフトしたエドワード達が勝利したが、双方の現在の実力を図る意味ではこの模擬戦は大成功だ。

 

「エド達も、久しぶりの宇宙戦でも問題無く戦えていたようだし、次の作戦は問題なさそうだ」

 

「感心するのはいいけど、『本番』は次だってことを忘れないでね」

 

「分かっているさ」

 

マヤの言うとおり、彼らの模擬戦はあくまで()()()

次に予定されている試験の方が、重要度は高い。

なにせ、最初から最後まで”マウス隊”が手がけた初の『ガンダム』の稼働試験なのだから。

 

 

 

 

 

<システムオールグリーン。”プロトG1”、起動完了しました>

 

モニターには、赤と白で彩られた1機のMSが移っていた。

全体的に鋭角的な印象を与える姿形のそのMSは、『CG計画』に基づいて開発されたMSの1号機にあたる存在だ。

『CG計画』のCGは『Change Getter』の略。その名の通り、変態技術者達が『ゲッターロボ作りてぇ!』という情熱に起因している。

切掛こそ褒められたものではないが、完成した本機───正式名称は決定していないために仮称”プロトG1”───へ掛けられた労力は計り知れない。

 

『CG計画』の機体は、スーパーロボット”真ゲッターロボ”の各形体をモチーフとして開発されており、”プロトG1”の姿からもそのことが窺える。

頭部には『ガンダム』特有のV字アンテナが額に備わると同時に、”ゲッター1”系列に近い2本の大きな角が斜め後方に突き出ていた。これもタダの飾りではなく、高性能センサー類が詰まっている。

胸部中央の緑色のクリスタルセンサーと合わせて、白兵戦用MSでありながら高いセンサー性能を誇っているが、これは迅速に戦場全体の様子を把握し、直ちに駆けつけることを可能とするためだ。

また、腹部には何らかの開閉ギミックが備わっており、その下に何が備わっているかは、『ゲッターロボ』という物を知っていれば想像に難くない。

 

若干の違和感を抱かせるのは四肢の形状であり、”真ゲッター1”のように膨らんではおらず、”デュエル”や”ストライク”のようなスマートなデザインに収まっている。

かといってパワーが低いかというとそうではなく、その内側のフレームはほぼ完全新規設計であり、そのパワーはGATシリーズを優に上回る数値だ。

仮にこの機体と”デュエル”が両手を組み合って押し合いをした場合、”デュエル”の両腕が先に負荷に耐えきれず圧壊するだろうという予測が出ているほどである。

 

そして本機でもっとも目を引く箇所は、なんといっても背中の大きな翼のようなパーツだろう。

まるで悪魔のような漆黒の翼は”真ゲッター1”のそれよりもむしろ『ガンダムW』シリーズの”ガンダムデスサイズヘル”のそれに酷似しており、実際の運用方法もそちらに依っている。

この翼には”ヒドゥンフレーム”の防御兵装『ナーク=ティト』で試験運用された『フェイズシフトコアアーマー』の技術が用いられており、骨子のように組み込まれたPS装甲が翼全体に高い防御力を与えている。

更に”ヒドゥンフレーム”の『ナーク=ティト』同様に耐ビームコーティングも施されたこの翼は、防御装備として極めて高い性能を誇っているだけでなく、姿勢安定用の機構も兼ね備えるなど、本機の生命線と言ってもいいだろう。

 

その翼の間に配置されるように背負った1本の棒は、本機の主兵装である『試作高出力ビーム戦斧”ヒーツ”』だ。

”ゲッター1”系列の代名詞と言える斧だが、流石にリスペクト元と同じように体から飛び出て来るという脅威の伸縮性を再現することは出来ず、背中に背負うという形になっている。

使われている技術的には通常のビームサーベルと同様のものだが、それを2重3重にと展開し、圧倒的な破壊力を1機のMSに付与する代物だ。

大抵のMSの耐ビームシールド程度ならば紙のように引き裂けるとはいうが、実際に振われた姿は未だ誰も見ていない。

 

「”真ゲッター1”をモチーフに開発された『ガンダム』、か……『スーパーロボット大戦』でもやらないような代物だな」

 

「スーパーロボット大戦……?」

 

「ああ、そういえばそんなのもあったな」

 

マヤが疑問の声を、そしてアキラが懐かしむような声を発する。

そう、実はこの世界では『スーパーロボット大戦』シリーズの知名度は恐ろしく低いのだ。

『マジンガーZ』や『ゲッターロボ』といったロボットアニメこそ存在したが、如何せんその2つに並んで御三家と称されるほどの『ガンダム』シリーズが生まれなかったことは、本シリーズに多大な影響を与えていた。

「あらゆるスーパーロボット達を指揮するSRPG」と謳われる『スーパーロボット大戦』において、『ガンダム』のような主人公達が軍に属していることを違和感無しに組み込める題材が無いことは致命的だ。

『超獣機神ダンクーガ』のように主人公が軍属のアニメもあるにはあるが、『ガンダム』ほどのネームバリューを持たない彼らでは、残念ながら役者不足と言わざるをえない。

正に、「知る人ぞ知る」レベルの展開しか出来なかった『スパロボ』シリーズの有様に、少なからずユージも哀愁を漂わせた過去を思い出す。

 

(いや、それだけじゃないな……)

 

『ガンダム』が生まれなかった影響で生まれなかったロボットアニメは数知れず。

改めて、『ガンダム』がもたらした世界の影響というものをユージは実感する。

 

(あるいは、『ガンダム』のように『地球人類同士が宇宙戦争をする物語』が存在していれば、この世界も戦争を避けられただろうか)

 

そんな夢想をしたユージは、しかしそれを振り払う。

前世も合わせれば60近い生を送ってきた。だからこそ、人類がそれほど簡単な生物ではないことも分かっている。

アニメの1つや2つで後の戦争が回避出来るなら、苦労はしない筈だ。

妄想を否定したユージは現実に立ち返り、試験の指揮を再開する。

既に”プロトG1”は発進しており、指示を待つばかりとなっている。

 

「───いよいよだね。専門外ではあるが、私も些か高揚してきたよ」

 

「アグネスか」

 

入室してユージに声を掛けるアグネス。その後ろには、監視役のフィーの姿もある。

彼女はいつも通り、少し余った白衣の袖を揺らしながら楽しそうに言葉を紡いだ。

 

「アイザックには、渡してきたか?」

 

「勿論。ま、彼はものすごく嫌そうな顔をしていたが」

 

”プロトG1”に搭乗しているアイザックは、その直前にアグネス謹製の薬液を摂取している。

カフェインを始めとした様々な成分を内包した、アグネス曰く「高級気付け薬」だが、その効果はユージお墨付きである。

動かしただけで多大な負荷がパイロットを襲うと予測されている”プロトG1”、使える物は何でも使わなければならなかった。

避けられない問題も、当然あった。

 

『───ふざけないでください!なんで敵のスパイの作ったものなんか飲まなければいけないんですか!?』

 

アグネスはかつてZAFTのスパイであり、実際に彼女の手で”マウス隊”は窮地に陥ったこともある。

悪印象で済めば良い方で、直接アグネスに危害を加えようとする者が現れるのも必然。

況してや、アイザックはZAFTが引き起こした戦争の影響で暴徒と化した民衆の手で、両親を殺害された過去を持ち、ZAFTに対して深い憎しみを持っている。

事情を知らされた瞬間に目の前のアグネスに飛びかかろうとしたアイザックを、ユージはフィーと2人がかりで押さえ込んだのだ。

もしもそれを止めなければ、アグネスは死ぬまで殴られていた事は想像に難くない。

 

「ま、隊長命令だからね。そう言ったら彼も黙って薬を飲んでくれたよ」

 

「迂闊な発言はするなよ。……何度も庇ってはやれんぞ」

 

「勿論。まだこんなところで死ぬワケにはいかないからねぇ」

 

「どうだかな。……マンハッタン少尉、面倒を掛ける」

 

「お構いなく。これが仕事ですので」

 

表情を変えず、平坦な口調で返答するフィー。

謎の多い彼女だが、職務に対する姿勢は真面目そのもの。その点についてユージは心配していない。

時々アグネスに非致死性の電気ショックを与えている姿は新たな“マウス隊”の名物になりつつあるが、それこそが彼女が真面目に仕事をしているということだろう。

 

「ふふ、クールだねぇフィー君。時折鏡の前で銃を構えながらポーズを取っているとは思えあばばばばばばばばあばばばばば」

 

「あれは射撃姿勢の自己診断をしているだけです。さも私が青少年的心理の持ち主かのように語るのは止めてください」

 

「ほどほどになー……」

 

頭を振って思考を切り替えるユージ。

この雰囲気は嫌いではないが、今は真剣にやらなければならない。

 

(さぁ、見せてくれ。『簒奪者(ゲッター)』の似姿として生み出された『ガンダム』の力を)

 

 

 

 

 

(まったく……いくら”マウス隊”だからって、隊長も何を考えているんだ?)

 

その頃、”プロトG1”のコクピットにて試験開始の合図を待つアイザックは、内心でユージに対する愚痴を漏らしていた。

先ほど、いつもと変わらない───それこそ、裏切りが発覚する前からの───胡散臭い微笑を携えながら、薬液を差し出してきたアグネスに対して、アイザックは未だに怒りの炎を燃やしていた。

信頼出来る仲間達との触れ合いもあって、戦闘時以外は穏やかな青年の様相を見せるアイザック。

しかし、彼は元々復讐者として連合に入隊した男だ。

たとえ他の誰が許したとしても、彼にはどうしてもアグネスを認めることが出来ない。

 

(前々から思ってたけど、”マウス隊”の皆は一度でも身内になったら甘いんだ。特に隊長。彼の美徳でもあるけれど……)

 

<アイク、聞こえるか?>

 

放っておけばいつまでも愚痴が続いただろうアイザックの思考に、ユージの声がストップを掛ける。

試験を行なう準備が出来たということだ。アイザックはひとまずアグネスのことを思考の端に追いやり、操縦桿を握る手に力を込める。

 

「はい、聞こえます。いつでもいけますよ」

 

<分かった。……それではこれより、試作MS”プロトG1”の機動試験を開始する>

 

今回の試験の内容は至って単純で、予め配置された模擬標的を近接攻撃で順々に攻撃していくというものだ。

目標設定時間は3分ほどだが、アイザックには問題無くこの試験をやり遂げるだけの自信があった。

というのも、彼はこの形式の試験を”デュエル”で何度もこなしたことがあり、どのような武装を用いても3分以内でクリアすることが出来るようになっていたからだ。

 

(でも、気は引き締めておかないとね)

 

初めて動かすMSで慢心するほど、アイザックは増長していない。

カタログスペックは把握しているが、それだけでもこの”プロトG1”の性能は凄まじいものだった。

再度計器のチェックを行ない、異常がないことを確認したアイザック。

 

「いきます!」

 

彼は、フットペダルを踏んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ド ワ ォ

 

 

 

 

 

「───」

 

一瞬、ほんの一瞬だけアイザックは、()()()()

知覚も出来ないほどの空隙、一瞬のことであった。

直後、彼は自分の中で何かが弾ける感覚を得た。

アイザックはこの感覚に覚えがあった。過去に、何度か経験したことのあるものだった。それが起きるのは、決まって強敵や苦境と直面した時のことだった。

即ち、命の危機が迫っている時である。

 

「───っ!?」

 

我に返り、操縦桿を操作する。

”プロトG1”が『ヒーツ』を手に取り、目の前にあった模擬標的を切り裂いた。

それで止まることなく、”プロトG1”は次々に模擬標的を切り捨てていく。

 

<すごい……”デュエル”の倍以上のペースです!>

 

<だが、あれは……アイクの動きじゃないぞ!?>

 

<機体の運動性に振り回され掛けているのか……!>

 

通信の先でユージ達が何かを言っているが、その内容をアイザックは理解出来なかった。

そのような物に思考リソースを割く余裕など無かったからだ。

 

「くっ……!」

 

搭乗し、動かすだけでパイロットを危機に追いやる怪物のような”プロトG1”。

アイザックとて、危機に陥った際の特異な感覚による補正が無ければ、機体の制御を失って追突事故の1つは起こしていたやもしれない。

だが、アイザックは笑っていた。獰猛に、歓喜するように。

彼の本能が、このMSこそ求めていた『力』だと叫んでいた。

全てを屠り得る、最強の『力』だと。

 

<これ以上の機動はパイロットに危険です、試験の中止を……>

 

<今あいつの集中を乱してみろ、それこそ危険だ!……続けるしかない>

 

<それがベストだ。それに……見ろ隊長。もう最後の1つだぞ>

 

気付けば、模擬標的の残りも1つとなっていた。

今回の試験はあくまで近接戦闘機動の試験だが、最後の標的だけは近接戦ではなく、射撃武装で破壊することになっていることを思い出し、アイザックは武装を切り替える。

『ヒーツ』を背中に背負い直した”プロトG1”は、腹部のシャッターを展開し、そこに隠されていた砲口をさらけ出す。

『ジェネレーター直結式400㎜超高インパルス砲”ドラゴン”』。

『アグニ』と同様の原理で臨界したプラズマエネルギーを発射する武装だが、ある程度の量産を見越して作られた『アグニ』とは異なり、こちらは機体同様のワンオフ品。

その破壊力は『アグニ』を超えるとされているが、未だに戦闘出力で放たれたことはない。

 

(ターゲット……ロックオン!)

 

それを、今ここで撃つ。

位置的に言えば、自分の座っているシートの下に臨界したプラズマエネルギーが、今か今かと解き放たれる時を待っていた。

その身のうちの危険な衝動に従い、アイザックはトリガーを引いた。

 

「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 

 

 

 

第4管制室

 

「機動終了……記録は、34秒。信じられない、”デュエル”でも1分を切ることは出来なかったのに」

 

「……」

 

モニター越しに見たその光景に、ユージは呆然と口を開け、突っ立っていることしか出来なくなっていた。

『ドラゴン』から発射されたプラズマエネルギーは模擬標的を、完全に消滅させてしまった。戦艦の装甲なみの強度を誇った模擬標的を、である。

間違い無く、既存のMSのどれもを上回る火力だ。

桁外れなのは『ドラゴン』だけではなく、『ヒーツ』もだ。

『ヒーツ』が紙のように切り裂いていったのは、一般的なMSに装備される対ビームシールドと同様の対ビーム処置が施されていた。

つまり、MSでは真正面から防ぐことはほぼ不可能と言っていいということだ。

 

「うーん……ま、こんなものか」

 

それを、ユージの隣で見ていたアキラはなんということはない調子で感想を零すだけに留めた。

マヤは通常のMSを遙かにこえるこのMSの力を見たことで多少戦慄しているようだったが、やはりユージほど動揺はしていない。

これはむしろ、「想定はしていたが実際に見ればやはり圧倒される」といった類いのもので、覚悟はしていたというところだろうか。

 

「お前は……お前らは、これでも満足いってないのか?」

 

微かに震えた声で、ユージはアキラに問いかける。

ユージの様子に気付いたアキラは、苦笑しつつ答えた。

 

「まぁ、あくまで『ゲッター』の似姿だしな。()()がどれだけヤバいか、隊長はご存じだろう?」

 

「そうだが……今ここにある時点で、あのMSはおそらく最強の機体だ」

 

「そうか?……ほら、見てみろ」

 

アキラがモニターを指差す。

そこには、エネルギーが不足してPS装甲がダウンし、灰色になっていく”プロトG1”の姿があった。

たしかに『ドラゴン』の火力は凄まじいもので、MSの持てる武装の中では最強だ。しかし、それを十分に扱うには、従来のバッテリーによるものでは余りにも役者不足に過ぎる。

 

「一発撃っただけでダウンする、そんなものを実戦で使えるか?1分にも満たない時間しか最強でいられない、そんなものを俺達は『簒奪者(ゲッター)』とは呼べない」

 

「……そうか」

 

「それに、だ。『ドラゴン』な、実はあれでも妥協したんだぞ?本当は、一撃で新宿を消し飛ばせるくらいのものを目指した。……流石に、技術が足りなかったが」

 

その言葉に、ユージは溜息を吐くしか無かった。

今は「彼らが味方で良かった」という安堵に縋るのが、精神的平和を保つ最良の手段だったからだ。

 

「アイク、聞こえていたら返事をしろ」

 

<……はい>

 

「感想は後で聞く。今機体を回収させるから、それまでは待機していろ」

 

<了解……>

 

放心した様子のアイザックの声に、ホッと息を吐く。

管制室で観測していた限り先ほどのアイザックのバイタル、つまり体調は危険域ギリギリの状態だったが、今は若干落ち着いてきている。

アイザックの命に危険は、今のところは無いということだ。

 

「まさか、機動試験でここまでハラハラさせられるとはな……」

 

「まぁ、元にした物が物だしね。データはこっちでまとめておくから、アイクの出迎えに行ってあげてください」

 

「ありがとうマヤ、助かる」

 

礼を言いながら退室し、”プロトG1”の帰還する予定の格納庫に向かうユージ。

その後ろを付いてくるアキラが、ユージに声を掛ける。

 

「そういえば、名前はどうする隊長?」

 

「名前?」

 

「”プロトG1”ですよ。正式な名前は決まってないんです。何も無いなら、仮名称で『イーグル』とか付けときますけど」

 

歩きながら顎に手を当てて思案するユージ。

ZAFTのように大それた名前を付けるのは気恥ずかしいし、かといってそのまま鷲の名を付けてしまうのは、捻りが無い気もする。

良くも悪くも小市民の気質も持つユージは、鷲の属する猛禽類の中から良いものは無いかと探った。

 

(ホーク)……鷲とあまり変わらないな。(ストリクス)も、賢者って風じゃないし)

 

少し思案した後に、ユージは頷いた。

あの驚異的なスピードと攻撃性、それでいてスマートな機体フォルム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───(ファルコン)。“ファルコン・ガンダム”」

 

「ほう、無難に纏めてきたな。でもまぁ、いいんじゃないか?」

 

隼の急降下時、即ち獲物に攻撃を仕掛ける際のスピードは時速400㎞に迫るとさえ言われており、これは地球全体で見ても最速のものだ。

加えて、ユージの魂の故郷とも言える日本では電車や戦闘機など、速いものに対して隼と名付けられることがある。

そのことを思い出したユージの名付けは、それなりの好印象で収まったようだ。

 

「……ん?」

 

しばらく歩き、格納庫にたどり着いたユージ達。

そこには既に”プロトG1”改め”ファルコン・ガンダム”の姿があり、整備点検が始められていたが、それを見た瞬間にユージの視界に”ファルコン・ガンダム”のステータスらしきものが表示される。

不思議なことに、試験が始まる前までは表示されていなかったにも関わらずである。

 

(名前が正式に決定していないと、表示されないのか?細かいな……)

 

未だに詳細が掴めていないこの能力に辟易しつつ、ユージはステータスを注視した。

 

 

 

 

 

ファルコン・ガンダム

移動:9

索敵:A

限界:220%

耐久:500

運動:62

PS装甲

ガードコート(射撃ダメージ30%カット)

 

武装

腹部プラズマ砲:360 命中 70(間接攻撃可能)

ビームガトリング:220 命中 60

ハイパービームアックス:500 命中 80

ダブルトマホーク:200 命中 65

電流放出:150 命中 60(MAP兵器)

 

 

 

 

 

「……加減しろ、バカ共」

 

 

 

 

 

5/10

『セフィロト』 アグネス・T・パレルカ用研究室

 

「ふむ、君がここに来るとはね、ヒューイ少尉?」

 

「……」

 

「で、何の用かな?流石にこの場で暴れられるのは困る。うっかり危険な薬物を零したりすれば大惨事だ」

 

「そんなことはしないよ。第一、マンハッタン少尉がいる前で君を襲えると思うかい?」

 

「賢明な判断だね。で、本題は?」

 

「……昨日の機動試験、最初に”プロトG1”を動かした時に僕は失神した」

 

「聞いているよ。そこからあれだけの機動をしてみせるのは流石だと思うね」

 

「最初から最後まで、機体に振り回されっぱなしだった。……でも、普通に乗っただけだったらたぶんそうはならなかった」

 

「うん?」

 

「たぶん、僕が最後まで意識を保てたのは君の薬の影響もある。だから……その……ありがとう」

 

「マメだねぇ。……紅茶でもいかがかな?」




Q.ファルコン・ガンダムってどんだけやばいの?
A.一年戦争でバチバチやり合ってる中、唐突にキュベレイinハマーンとタイマン張れるレベルの奴が出てきた。

やり過ぎたとは思ってるが、後悔はしない。
それに燃費最悪で3回くらい戦ったらすぐガス欠するし、大丈夫大丈夫!

次回は本編ではなく番外編の方を更新したいと思います。
具体的には、南アフリカのナイロビ奪還作戦を書こうかと。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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