機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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第115話「インド洋を紅く染めるモノ」中編

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インド洋上空 ”アークエンジェル” 艦橋

 

「『ヘルダート』、てーっ!」

 

「左舷より敵機接近、数4!」

 

「撃ち落とせ!」

 

”アークエンジェル”の艦橋は、喧々囂々と戦況を告げる声が飛び交っていた。

現在の”アークエンジェル”は戦闘の初手に陽電子砲を敵航空部隊に撃ち込んだためにヘイトを向けられており、猛攻に晒されているのだ。気を抜く暇は無い。

だが、”アークエンジェル”に注目が向いているということは作戦が順調に進んでいるということでもあった。

 

「艦隊の侵攻率は!?」

 

「予定進路を進行中、順調です!」

 

”アークエンジェル”が攻撃を引きつけている間に、海上を進む南アフリカの艦隊は、敵基地の存在するディエゴガルシア島に向かって進んでいた。

ある程度まで近づけば、艦隊からの砲撃で敵基地を攻撃することが出来る。敵の指揮機能を奪ってしまえば、勝ったも同然だ。

 

「マイケル、大雑把に撃つな!味方も飛んでんだぞ!」

 

<い、イエッサー!>

 

<マイケル、今度は右舷から来るよ!>

 

<あーくそ、少しは落ち着けお前ら!>

 

艦橋の正面、その斜め下に見えるスペースにはマイケルとベント、2人の”ダガー”が必死に襲い来る敵航空機に向けて対空砲火を浴びせている。

甲板上という広くは無い足場での戦いに苦戦しているようだが、今のところは大きなダメージも無く戦えているのは、南アフリカの航空部隊が”アークエンジェル”の防衛に参加していることも大きかった。

 

<よし、ミサイルを使わせた!いけるぞ!>

 

<くっ、こいつらしつこ……ぎゃっ!?>

 

”スピアヘッド”で構成されたチームが”ディン”を撃ち落とした。

この機体も地上戦初期には”ディン”に対抗出来ずに多数が撃破されてしまったこの戦闘機だが、”スカイグラスパー”という”ディン”と対等以上に戦うことが出来る後継機が登場したことで対MS空戦のデータが集まり、対抗戦術が生まれたことで”ディン”と戦えるようになっていた。

 

<おーおー、アフリカの連中もやるねぇ……よっと!>

 

<ブレイク中尉、すごい……俺だって!>

 

無論、”アークエンジェル隊”の戦闘機パイロット達も黙ってそれを見ているわけではない。

イーサンはあっさりと”インフェストゥスⅡ”を撃破してみせ、トールも堅実に”アークエンジェル”へ近づこうとする”ディン”に攻撃を加えて妨害している。

敵を撃破することは勿論だが、一番の目的は”アークエンジェル”の防衛。

飛び抜けた力量は無いが、堅実に任務をこなそうとするトールは十分に優秀な兵士と言えるだろう。

今のところは順調、”アークエンジェル”の被害は軽く、本命の水上艦隊にも被害はほとんど無い。

 

「水中戦……ソード1は?」

 

「通信が不安定なために詳細は分かりませんが、信号はキャッチ出来ているので健在と思われます」

 

あとは、水中だけ。

今の地上戦線では陸戦においても航空戦においても連合軍側が押しているが、水中だけはそうもいかない。

色々な理由があるが、もっとも大きな理由としては連合軍は”ゾノ”を、ZAFTは”ポセイドン”を上回る機体を開発出来ていないからだ。

だからこそ、水中戦の行く末がこの戦いを左右すると言っても過言ではない。

眼下に広がる青い大海原。その下でどのような戦いが繰り広げられているのか、海上で知る者は誰一人存在しなかった。

 

 

 

 

 

<敵MS隊、接近!>

 

<よーし、”メビウス・フィッシュ”各機、魚雷発射用意!……撃て!>

 

この作戦のために各地域から集められた64機の”メビウス・フィッシュ”、その全てから、対MS魚雷が発射された。

”メビウス・フィッシュ”は両側面に合計4発の魚雷を装備しており、それらは”グーン”程度ならば容易く撃破出来る威力を秘めている。

64×4、合計で256発の魚雷がZAFTの水中MS部隊に襲いかかった。

 

<やられた!?……かあさ───!>

 

<水が、入って、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!>

 

避けきれずに水疱と化していく”グーン”が何機も生まれるが、両軍共にそれに気を払う者は少なかった。

256発の、しかし、細かい狙いを付けたわけでもない無造作な一斉射。

そんなものを避けられない弱者に、水中戦を生き延びることが出来るわけがないからだ。

連合軍としても、生き残った機体が単純な数で押し切れない相手であることが分かるので、そちらに注意を向けなければならない。

弱者は生きることも出来なければ、認識すらされない。

もっとも過酷で、残酷。それが『海』なのだ。

 

「始まった……!」

 

”ポセイドン”の部隊が前に出たのを確認したキラは、”アクアストライク”を同様に前進させる。

魚雷の斉射を生き残った”ゾノ”を相手取ることが、連合軍水中MS隊の仕事だ。

”アクアストライク”に気付いた”ポセイドン”から通信が届く。

その“ポセイドン”は背中に通常の水中ジェットのみならず、更に魚雷を内蔵した水中ジェットを装備しており、火力を増強した”重装型ポセイドン”と呼ばれる機体だ。

 

<そこの機体、”ストライク”だな?話は聞いている、当てにさせてもらうぞ>

 

「はい!」

 

水中においては”アークエンジェル”からの指示を聞くことは難しいため、キラには現場判断での行動をすることが最初から許可されている。

命令系統は違うが、水中戦においては素人と言ってもいいキラは”重装型ポセイドン”パイロットの指示を聞くことに決めた。

 

<良い返事だ。俺の機体は見ての通り重装型、火力はあるが機動力は低い。攪乱を頼めるか?>

 

「了解です」

 

<よし。……行くぞ!>

 

”重装型ポセイドン”のパイロットの声に合わせて、キラは”アクアストライク”を前進させる。

やがて、魚雷の群れを突破してきた敵部隊の第一陣の姿がキラの視界に映った。

その中の1機、”ゾノ”が目聡く”アクアストライク”と”重装型ポセイドン”の姿を見つけたのか、音波ビーム兵器であるフォノンメーザー砲を発射してくる。

PS装甲のおかげで魚雷はほぼ無効化出来る”アクアストライク”だが、フォノンメーザー砲だけは例外であり、絶対に避けなければならない攻撃だ。

 

「……いける!」

 

しかし、キラはそれをスレスレに回避し、最短ルートで”ゾノ”との距離を詰めていく。

数日前から”マーメイズ”の面々から特訓を受けていたことで水中戦の経験値が蓄積していたこともあるが、この動きを可能としているのは、スケイルシステムの恩恵である。

魚の鱗のように装甲表面のパーツを可動させることで自由自在に水中を移動出来るようになるこのシステムを、キラはものの数日で使いこなしていたのだ。

対する”ゾノ”はというと、”グーン”より機動性が向上しているとはいえ、特に目立ったシステムなどは積んでいないために動きに変化は生まれづらい。

本物の魚と見紛う鮮やかさで”ゾノ”に接近する”アクアストライク”。

 

「そこだ!」

 

すれ違い様にキラは”ゾノ”の背部、推進器の集中する箇所に魚雷を命中させた。

装甲の厚い”ゾノ”はこれを耐えるが、推進器へのダメージを受けて泰然と出来るワケもなく、動きに隙が生まれる。

そこに魚雷が殺到して”ゾノ”を爆発で包み込み、次の瞬間には”ゾノ”自体を爆発させた。

”アクアストライク”の後方から好機を窺っていた”重装型ポセイドン”によるものだ。

 

<やるじゃないか!流石、『白い流星』といったところか?>

 

「機体のおかげですよ」

 

<謙虚なんだな>

 

即席ペアにも関わらず連携を成功させた2機。

”重装型ポセイドン”のパイロットからの賛辞に、キラは照れながら返事をする。

実際、スケイルシステムの効果は絶大だ。この装備と、この装備に慣熟する時間が無ければこう上手くいっていないだろう。

 

<まぁ、まだ始まったばかりだ。この調子でどんどんいくぞ!>

 

「了解!」

 

男の言葉にキラは頷いた。

そう、戦いはまだ始まったばかりなのだ。魚雷の数も限られており、注意しながら戦わなければならない。

気を締め直し、キラは戦闘を続けるのだった。

 

 

 

 

 

「活きの良い獲物がうじゃうじゃと……狩り尽くすよ!」

 

『了解!』

 

一方、ジェーン達”マーメイズ”も敵部隊との戦闘を開始していた。

ジェーン達に気付いた”ゾノ”が向かってくるが、ジェーンは獰猛な笑みを浮かべながら機体を加速させた。

 

<なんだこいつ、”ポセイドン”じゃ……!?>

 

「遅いんだよ!」

 

その勢いのままに”ジェーン”は”ゾノ”に接近し、右腕に持たせた銛を突き込む。

何度も戦っているからかその一撃は過たず”ゾノ”のバイタルパートに命中し、撃墜せしめた。

 

ジェーンが今搭乗している機体は”フォビドゥンブルー”。連合軍が開発した『後期型GATシリーズ』の1機である”フォビドゥン”を水中戦に特化させた機体だ。

なんといってもその特徴は、背部に背負ったバックパックに搭載された『ゲシュマイディッヒ・パンツァー』だろう。

このシステムは装甲表面に発生させた磁場でビームを曲げることが出来るという強力なシステムなのだが、”フォビドゥンブルー”はその磁場を利用して水圧や抵抗を軽減することで、高い水中戦能力を獲得しているのだ。

『原作』においては、深海で電力が尽きて『ゲシュマイディッヒ・パンツァー』とTP(トランスフェイズ)装甲が使えなくなった場合、水圧で圧壊する欠点が存在していたことから『禁断の棺桶(フォビドゥン・コフィン)』と呼ばれる本機だが、この世界では”ポセイドン”の戦闘データでこの欠点はある程度改良されている。

 

<オリバー!くっ、新型機か!?>

 

「見え見えの攻撃に当たるか!」

 

もっとも、ジェーン・ヒューストンの能力が合わされば、そもそも欠陥があるとすら思えないのだが。

『ゲシュマイディッヒ・パンツァー』による抵抗軽減の効果は凄まじく、単純なスピードではスケイルシステムを装備した機体すら超える。

その機動性を活かしてジェーンはもう1機の”ゾノ”から放たれるフォノンメーザー砲を悠々と回避してみせる。

 

<よそ見は厳禁ってね!>

 

この戦場に現れた『人魚』は1人ではない。

”フォビドゥンブルー”に注意を向けていた”ゾノ”は横合いから飛んで来たフォノンメーザー砲に撃ち抜かれて爆発する。

 

「やるじゃないか、エレノア」

 

<お褒めにあずかり光栄です、ってね!やっぱ”ゾノ”を1撃っていうのは楽ですね!>

 

今回”マーメイズ”の”ポセイドン”3機は、試作されたフォノンメーザー銃が装備していた。

”ポセイドン”が証明したことでもあるが、主な攻撃手段が魚雷となる水中ではPS装甲が強力な防御手段となる。

そのため、いずれZAFTが投入してくるだろう『PS装甲の水中MS』に備えて開発されたのが、このフォノンメーザー銃だ。

エネルギーは消耗するが、擬似的にビーム兵器のように扱える本装備の意義は大きく、現在生産が進められている装備である。

 

「消耗は激しいんだ、気を付けて使いなよ」

 

<了解です!>

 

<───3時の方向、更に敵機!>

 

「よし、いくよあんた達!」

 

ジェーンを先頭に、”マーメイズ”達は更なる獲物を求めて突き進む。

一糸乱れぬ連携で海中を蹂躙していくその姿は、人魚(マーメイド)を超えて、1匹の大魚(リヴァイアサン)のようですらあった。

しかし、彼女達の目的は雑魚などではない。

もっと大きく、獰猛な()なのだ。

 

 

 

 

 

<“グーン”だ、抜けてきた!>

 

<連携で仕留める!行くぞ!>

 

互いの水中MSが激突する中、その合間を塗って連合軍の母艦に突き進む”グーン”。

それを見つけた”メビウス・フィッシュ”の小隊は、即座に仕留めに掛かった。

 

<な、こいつらMAの癖に……!>

 

”グーン”のパイロットは”メビウス・フィッシュ”達にフォノンメーザー砲を射かけるが、それらは当たることはなく、むしろ反撃の魚雷を必死に避けなければならなくなった。

体躯で大きく勝る”グーン”、しかし数の差には勝てずジリジリと追い詰められていく。

 

()()()()()()だ、行くぞ!>

 

小隊長の号令に合わせて行動を開始する”メビウス・フィッシュ”達。

先行する2機の”メビウス・フィッシュ”が、2方向から”グーン”に魚雷を射かける。

当然それを回避しようとする”グーン”だが、この時既に、彼の運命は決まっていた。

 

<逃げたつもりか?甘いんだよ!>

 

”グーン”は魚雷を避けた。しかし、それは誘導されてのもの。

避けた先には既に魚雷が放たれており、今度は避ける事が出来ず被弾する”グーン”。

 

<たかが……MAごときにっ!?>

 

敗北が信じられないと言わんばかりの言葉、それが彼の最後の言葉となった。

先行して攻撃した”メビウス・フィッシュ”2機が再び陣形を組み、”グーン”に魚雷を発射していたからだ。

ユージ・ムラマツが考案した『複数機のMAによる対MS戦術』であるフォーメーション・ダブルクロス。

2機のMAによる十字砲火(クロスファイア)を連続することによって確実にMSを撃破する戦術は、海中においても有効だった。

 

かつて”ジン”相手に1:5の撃墜比(キルレシオ)という屈辱を味合わされていた”メビウス”は、改修されて水中に戦場を移すと同時に躍進を遂げていた。

一方、”ポセイドン”の登場によってそれまで水中の王者だった”グーン”はその立場を完全に追い落とされてしまっていた。

それもその筈、”グーン”の役割はあくまで鈍間(のろま)な潜水艦に高速で接近して魚雷を至近距離で撃ち込むというもので、対MS・MA戦闘などまるで考慮していないのだ。対MAも考慮していた“ジン”とは話の根底から違っているのである。

加えて、”メビウス・フィッシュ”の機動力は“グーン”と大差がない。

同等の機動力を持ち、なおかつ多勢で襲い来る”メビウス・フィッシュ”相手に生き残れるわけがない。

 

<撃墜を確認……よし、補給に戻るぞ!>

 

『了解!』

 

とはいえ”メビウス・フィッシュ”も相応に魚雷を消耗しており、母艦に帰投しようとする。

”メビウス・フィッシュ”の本来の役割は”グーン”の撃破ではなく、”ポセイドン”らが敵MSを撃破した後の母艦攻めなのだから、それは当然の行動だ。

しかし、それは彼らにとって致命的な隙となる。

 

<なっ、ぎゃ!?>

 

突如として断末魔を挙げ、反応を喪失した”メビウス・フィッシュ”。

僚機に何が起こったかを確かめるために反応した一瞬で、更にもう1機の反応が途切れる。

一瞬で半壊した小隊の生き残りは、そこに()()の姿を見た。

 

「ふんっ、所詮は小魚か」

 

『鯱』が乱雑にその凶悪な爪で”メビウス・フィッシュ”を3枚卸にしたのは、マルコ・モラシム。

彼が搭乗する機体は間違い無く”ゾノ”ではあったが、その形体は大きく様変わりしていた。

カラーリングはまるで本物の鯱を思わせる黒と白に彩られており、両腕の爪はより大きく、凶悪な形になっている。

更に両肩アーマーには開閉口らしきものが備わっており、何かしらの武装を搭載していることが窺える。

この機体の名は”ゾノ・オルカ”。(オルカ)の名が示すとおり、マルコ・モラシムに与えられた専用カスタム機である。

 

<なんだこいつは!?>

 

<わからん、が、逃げるぞ!>

 

敵わぬと見て逃げ出す”メビウス・フィッシュ”達。

その判断は正しかったが、もはや意味を成さないものでしかなかった。

 

<はやっ───!?>

 

「お前らが遅いんだ、クズ共が」

 

全力で逃走した”メビウス・フィッシュ”に”ゾノ・オルカ”は一瞬で追いつき、その爪で力任せに引き裂いた。

通常の”ゾノ”であればこの状況からも味方の元まで逃げることは出来る。しかし、”ゾノ・オルカ”は機動力さえも大きく向上させていたのだ。

残る1機の”メビウス・フィッシュ”は全力で距離を取ろうとするが冷静ではなく、逃走する方向で致命的選択をしてしまう。

逃走する先にあるのは、()()()()だ。

 

「まず、1匹だ!」

 

無造作に進路の途中にあった小魚(メビウス・フィッシュ)を切り裂き、”ゾノ・オルカ”は体を倒した巡行形態へ移行し、潜水艦に迫る。

”メビウス・フィッシュ”のミスは、母艦の方向へ向かってしまったこと。

これでは、モラシムは”メビウス・フィッシュ”を撃破するために付けた加速を殺さずに潜水艦に直進出来てしまう。

つまり、モラシムの撃破効率を高めてしまうのだ。

肩アーマー内の開閉口が開き、中からスーパーキャビテーション魚雷が姿を見せる。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

母艦の護衛についていた”ポセイドン”が魚雷を発射するが、そんなもので今のモラシムを止められるわけがない。

”ポセイドン”を弾き飛ばしながら”ゾノ・オルカ”は魚雷を発射し、Uターンする。

結果など見る必要もない。モラシムこそ、”グーン”の基本となる戦術を戦争初期からこなしてきたベテランなのだから。

爆散する潜水艦をバックに、愕然とする”ポセイドン”や”メビウス・フィッシュ”に向かって、威嚇するように腕を広げる”ゾノ・オルカ”。

 

「さぁ来い、ここが貴様らの死に場所だぁ!」

 

 

 

 

 

「今の爆発は!?」

 

”アクアストライク”の頭部には、通信が難しくなる水中での使用に特化した通信ユニットがヘルメットのように増設されている。

キラはMSやMAのものよりも大きな爆発を感知し、通信機器を操作する。

 

<ダメだ、効いてない!たすけ───>

 

<まさかこいつ、『紅海の鯱』か!?>

 

<母艦に近づけるな、やられたらお終いだぞ!>

 

阿鼻叫喚といった様相が窺えるが、聞き覚えのある単語をキラは耳にした。

『紅海の鯱』、それはたしか、ジェーン達”マーメイズ”因縁のZAFT軍エースパイロットだった筈だ。戦線を抜けて自軍母艦に迫ったのだろう。

このまま敵母艦を攻めるべきか、それとも味方の救援に向かうか。

 

<危ない!>

 

ここまで共に戦っていた”重装型ポセイドン”パイロットの声と同時に”アクアストライク”を衝撃が襲う。

敵からの攻撃によるものではない、”重装型ポセイドン”が”アクアストライク”を突き飛ばしたのだ。

直後、”重装型ポセイドン”に複数の方向から光条が浴びせられる。

 

<ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!>

 

フォノンメーザー砲によるものだとキラが気付いた時には”重装型ポセイドン”は各所を撃ち抜かれていた。

直後、爆発。

キラが迷った一瞬の隙に───キラが迷って隙を晒した為に───名前も知らない1人のパイロットが死んだのだ。

他の誰でもない、キラを庇って。

 

「あ、あぁ……!?」

 

呆然としそうになるが、2度も同じ轍を踏むキラではない。

戸惑いを封じて、第2射を避ける。

 

<ちっ、()()()の方しかやれなかったか>

 

気付けば”アクアストライク”は3機の”ゾノ”に囲まれていた。どうやら、3機がかりでキラを仕留めるつもりのようだ。

砂漠で相対した3機の”ラゴゥ”のことが思い返された。キラの顔に汗が滲み始めた。

 

「くっ……!」

 

<このマーレ・ストロードが『白い悪魔』に引導を渡してやる。行け、お前ら!>

 

 

 

 

 

「がぁっ!……弱いな、ナチュラル共!」

 

”ポセイドン”の胴体にフォノンメーザー砲を撃ち込みつつ、モラシムは嘲り笑う。既に2機の”ポセイドン”を含む戦力がモラシムによって撃破されていた。

───蹂躙するのも嫌いではないが、敵が弱すぎるというのも考え物だ。弱い相手を嬲ったところで、自分(モラシム)の激情が収まるわけでは無い。

 

(どれだけ足掻こうがナチュラルは所詮ナチュラルか)

 

所詮ナチュラル。そう見下す程にモラシムの怒りの炎は燃え上がっていく。

こんな奴らに自分の妻子は殺されたのだと思うだけで、何もかもを壊し尽くしてしまいたい衝動に駆られるのだ。

自分達がやったことが原因で自分の子供と同じ歳の子供が死んだとしても、彼は気にも留めないだろう。

それが当然の報いだから。自分達の復讐が正しいのだから。……正しくなければならないのだから。

あの日(血のバレンタイン)から、とっくに彼の論理は破綻し、狂っていた。

 

「むっ!?」

 

そんな彼の元に数発のフォノンメーザー砲が射かけられ、それと同時に銛を装備した見たことの無い機体が”ゾノ・オルカ”に突進してくる。

フォノンメーザーはあくまで支援射撃、本命はこの突進と見抜いたモラシムは、正面から突進してきた機体を迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた……見つけたぞ!今日こそ引導を渡してやる、マルコ・モラシム!」

 

「そのエンブレム……”マーメイズ”とやらか、面白い!」

 

ジェーン・ヒューストン。

マルコ・モラシム。

『原作』では相対することの無かった両雄が今、激突する。




次回は水曜の祝日使って早めに更新したいと思います。

久しぶりにオリジナル兵器リクエストからアイデアを引っ張り出してきました!
『骨までうまかったぜ』さんからのリクエストで『重装型ポセイドンガンダム』です!
すごく登場させやすくて扱いやすいリクエストでした、感謝します!

もう2年以上前かぁ……またリクエスト企画開きたいなぁ……。
無理かなぁ、まだまだ使ってないリクエストあるもんなぁ……。
でも、やって欲しいって人いたしなぁ。……

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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