機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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お待たせしました、ディエゴガルシア島攻略戦です!
色々と現実が立て込んでおりまして……(汗)。


第114話「インド洋を紅く染めるモノ」前編

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ケープタウン基地 タラワ級強襲揚陸艦”ルツーリ”艦橋

 

「提督、お時間です」

 

「うむ……」

 

ヘリー・ラベアリベロ中将は自身の副官の声に応えつつ、窓の外に広がる景色を眺めた。

埠頭には南アフリカの誇る兵士達が立ち並び、”ルツーリ”を始めとする艦隊に向かって敬礼を送っている。

これより、ヘリー率いる海軍艦隊はインド洋に進出し、ZAFTが支配するディエゴガルシア島基地に対する攻略作戦を実施するのだ。

 

「壮観だな……。そうは思わんかね?」

 

「万感の思いであります。こうして再び、立派な水上艦隊を見られるなど」

 

アフリカに限った話ではないが、『エイプリルフール・クライシス』の折に投下されたNジャマーの影響で原子力を採用している艦艇のほとんどは使い物にならなくなった。

ZAFTが戦争序盤における海戦で圧倒的だったのは、Nジャマーの影響を免れた旧式艦で挑まなければならなかったからだ。

しかし、現在はNジャマーの存在を考慮して改修が施された艦艇である”タラワ級強襲揚陸艦”や”デモイン級イージス艦”など、十分に戦うことの出来る艦艇が存在している。

そして何より、今は連合軍にも水中機動戦力が存在しているのだ。

自らの指揮する艦隊の威容に、ヘリーは震えた。勿論、歓喜によるものだ。

 

「ニエレレ中将は第2次ビクトリア基地攻防戦にて、被害を抑えた上で撤退戦を成功させてみせた。陸軍の中将がやって見せたのだ……海の我々が、遅れを取るわけにはいかんな」

 

 

 

 

 

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インド洋 ”アークエンジェル”格納庫

 

「よーし、集まったな」

 

左腕を包帯で釣ったムウの前に、キラ達パイロットが集う。

艦隊がケープタウン基地を出港して既に1日が経過し、”アークエンジェル”もそれに同道、戦闘が始まるまでおよそ1時間という海域にて、パイロット達による最終ミーティングが行なわれようとしていたのだ。

 

「それじゃあ、今から最終ミーティングを始めるぞ。つっても、作戦に大きな変更は無い。各々の役割をこなしつつ生き延びていれば、いずれは勝てる戦いだ」

 

「いいですよねー、隊長は。こんな時に負傷で離脱中なんて」

 

「いいだろ、名誉の負傷だぜ?」

 

戦場に出られないムウをヒルデガルダが揶揄するが、ムウはシニカルに笑いながら左腕を掲げてみせる。

ヒルデガルダも本気というわけではなく、戦闘前の軽いコミュニケーションのつもりでしかない。その証拠に、周りのパイロット達は苦笑している。

スノウだけは溜息を吐いて呆れているが、その様子からは気負う様子は見られない。

何かと体に問題を抱えがちな彼女だが、今はベストコンディションのようだ。

 

「っと、それと……イーサン、調子はどうだ?」

 

「いつでも行けますぜ、隊長。“アークエンジェル隊”だろうがどこだろうがイーサン・ブレイクはやっていけるってところを見せてやりますよ」

 

彼はイーサン・ブレイク中尉。元は”スカイグラスパー”の試験運用を行なっていた部隊『グラスパーズ』に所属していた腕利きの戦闘機パイロットだ。

かつてZAFTの捕虜となり、そして”アークエンジェル隊”の活躍によって解放された筈の彼が、何故この場に立っているのか。

事の経緯は数日前に遡る。

 

 

 

 

 

『ブレイク中尉!いらっしゃいますか、イーサン・ブレイク中尉!』

 

『ん、ブレイクは俺だが……』

 

ケープタウン基地に着いた時、イーサン・ブレイクは無事に下船手続きを終え、あとはケープタウンで大西洋連邦からの指示が届くまで待機している予定となっていた。

しかし、そんな彼に待ったが掛かる。

 

『ああ、こちらにいらっしゃいましたか。貴方宛に辞令が届いてます』

 

『辞令?……あ”ぁ”!?』

 

渡された封筒の中から出てきた紙には、信じがたい事が書かれていた。

 

 

 

○辞令

イーサン・ブレイク中尉

5月3日付で”第31独立遊撃部隊”への転属を命ずる。

 

 

大西洋連邦空軍 マルティノス・バンパー准将

並びに”第3航空試験隊”隊長 アダム・ゼフトル大尉

 

P.S 新兵の機体と接触事故を起こした挙げ句捕虜になるような阿呆は『グラスパーズ』に要らん。

天使様のところで鍛え直してこい。

 

 

 

『あの……ガイル顔がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 

 

 

 

突如として下された転属命令(クビ宣言)に慟哭したイーサンだったが、この采配は複雑な事情が絡んだ末のものである。

まず、追伸で彼の元上司であるアダムが述べたように、彼の腕が悪いが為に転属させられたという意図は一切存在していない。

アフリカ大陸における戦闘を通じて航空戦力が手薄という弱点が発覚した”アークエンジェル”は、当然のように”スカイグラスパー”のパイロット補充を要請した。

しかし、現在は大規模作戦の準備のためにどこもかしこも人手が足りない状況。そんな状況で”アークエンジェル”にパイロットを補充する余裕などない。

そこで白羽の矢が立ったのが、ちょうど捕虜の身分から解放されて”アークエンジェル隊”と共におり、なおかつ”スカイグラスパー”の扱いに長けたイーサンだ。

既に『グラスパーズ』がイーサン抜きでも活動出来るように再編が終わっていたこともあり、隊に復帰してもあぶれることになるイーサンを”アークエンジェル隊”に移籍させるのは、渡りに船だったのだ。

 

「ま、何処だろうがやることは変わんねえさ。改めてよろしく頼むぜ」

 

そういって親指を立てるイーサン。

いったん命令が下れば彼も軍人として逆らう気はない。むしろ、航空戦力の手薄さを懸念していた”アークエンジェル”に自分を配属することはベストだとさえ考えていた。

持ち前の気さくさもあり、ベテランパイロットとしての風格も伴う彼は既に部隊内で受け入れられている。

 

「よろしくお願いします、ブレイク中尉」

 

「おう、空は任せな。トールも、まあそれなりに見れるようにはなったしな」

 

「あははは……手厳しい」

 

イーサンの隣に立つトールが苦笑いする。

正式に部隊に転属してからまずイーサンが行なったのは、トールの特訓だ。

トールは基礎的な航空技術は身につけていたものの、MS隊の支援を主だったために航空戦においては力不足だった。

これから先、激化していく戦いの中でそれでは生き残っていけないと考えたイーサンの誘いにトールはためらい無く頷いた。

自分の力不足を実感していたトールに、頷かない理由はなかった。

 

「でも、アームド装備は使えるようになりましたからね。これからは俺もやってやりますよ」

 

「使えるってだけだろ?俺から言わせりゃまだまだってところだ」

 

その目の中に確かな自信を感じさせるトール。特訓を経て一皮むけたということらしい。

そんなやり取りをしている間に、艦内放送が鳴り響く。

 

<本艦は間もなく、戦闘領域に到達します。パイロットは直ちに機体に搭乗してください>

 

「っと、時間か。───最後にもう一度だけ言う。絶対に死ぬな、生き延びろ。これは俺の絶対命令だ。いいな?」

 

『了解!』

 

「よし、それでは搭乗開始!健闘を祈る!」

 

ムウの声と共にパイロット達は各々の機体に向かって走っていく。

今、彼らにとって初となる大規模作戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

ディエゴガルシア島 ZAFT軍基地 司令室

 

「広域レーダーに感あり!間違いありません、敵艦隊です!」

 

「遂に来たか……!」

 

モニターには望遠モニターが捉えた連合軍の艦隊が映し出されていた。それを見た基地司令のフォード・リンバンは思わず親指の爪を噛む。

予想が出来なかったことではない。ディエゴガルシア島がどれだけの戦略的価値があるかなどというのは、基地司令であるフォードがもっとも知っている。

それでも信じられないという思いがあったのは、ひとえに、これまで一度もこの基地が攻撃を受けたことが無かったからだ。

 

(くそっ、くそっ、くそっ……ここは安全だと思っていたのに!)

 

フォード・リンバンは小心者だった。

戦場で挙げた功績と言えるようなものは無く、八割程度の労力で補給任務などの裏方の仕事をこなして今の地位にも就いた男だ。

基地司令を勤め上げる能力は十分に備わっていたが、性根が伴っていなかった。

 

彼が基地司令に就いた当時は、ちょうどZAFTが勢いにのって支配地域を増やしていた頃。

その時はインド洋の連合軍は大人しかったし、当然、敵と言える敵などいるはずもなかった。

しかし、今は違う。

連合軍は海洋戦力を整え、このディエゴガルシア島基地を攻め落とそうと迫ってきている。

そしてそれを迎え撃つのは、実戦経験の無い自分が率いる守備隊。

 

「……あっ、待ってください!敵艦隊の内1隻が飛翔しました!”アークエンジェル”だと思われます!」

 

「なんだと!?」

 

”アークエンジェル”のことはフォードも聞き及んでいた。

たった1隻で”バルトフェルド隊”を返り討ちにし、中でも、『白い悪魔』と揶揄される『ガンダム』タイプの機体は数多くの同胞を単機で撃破したスーパーエースだと聞き及んでいる。

海戦においてはどうか知らないが、けして、たかが1隻と侮ってはいけない相手だった。

戦う前から圧倒されかかるフォード。

 

「……コンディションレッド発令!ナチュラル共の艦隊など恐れるに足りない、迎え撃て!」

 

『了解!』

 

それでも、フォードは声を張り上げた。

彼は楽をしたがる小心者だったが、司令としての役割を放棄するほど不真面目な人間ではなかったのだ。

加えて、彼には1つの勝算があった。

 

「狼狽えるな!所詮水上艦隊など水中からの攻撃には無力、いい的だ!」

 

この地上戦線において、陸戦では”ノイエ・ラーテ”、空戦では”スカイグラスパー”らが登場したことでパワーバランスは連合軍に傾いてしまった。

しかし、水中戦においては未だにパワーバランスは拮抗している。

そして、今この基地には()()()がいる。

 

<リンバン、敵艦隊の規模は分かるか?>

 

モニターが切り替わり、パイロットスーツ姿の男が映し出される。

マルコ・モラシム。『紅海の鯱』の異名を持つこの男は、ZAFT水中戦におけるプロフェッショナルだ。

粗暴な性格もあって優先指揮権が認められるバッジは授与されていないものの、その能力は疑うものではない。

南アフリカの動きが活発化していることに備え、各所に頭を下げて連れてきた()()()()()。この男がいるということが、フォードの心に僅かな光明をもたらしていた。

 

「水上艦隊は8隻、内1隻は”アークエンジェル”だ。おそらく、潜水艦隊もいるだろう」

 

<"アークエンジェル"……!面白い、それくらいこなくてはな!>

 

”アークエンジェル”の名を聞いても恐れるどころか、闘志を漲らせるモラシム。その姿を見て僅かに安堵を覚えるフォード。

水中戦を彼率いるMS隊が抑えてくれるなら、自分は海上戦力の対処に専念するだけでいい。

 

「頼むぞ、モラシム」

 

<当たり前だ。ナチュラル共なぞ皆殺しにして、魚の餌にしてやる>

 

モニターからモラシムの顔が消え、フォードはふぅと息を吐く。

しかし、フォードは知らない。

連合軍が、モラシムの参戦を予想していたことを。

『紅海の鯱』を狩るために、人魚達を呼び寄せていたことを。

 

 

 

 

 

輸送型潜水艦”アルゴー” 出撃ドッグ

 

「あんた達、用意は出来ているね!?」

 

<勿論!>

 

<いつでもいけますよ、姉御!>

 

(しぃ)

 

乗機のコクピットにて、ジェーンは部下に呼びかける。

モニターにはMSを水中に送り出すために水がたまっていく様子が映っており、出撃まで猶予は殆ど無いことが分かる。

 

「アフリカからZAFTを一掃する切掛になり得る一大作戦だがやることはいつもと変わらない、分かるね!?」

 

<<<歌声に釣られた馬鹿共を、一匹残らず刈り尽くす!>>>

 

「そうだ!私達は”マーメイズ”、船乗り達を惑わせ、船を沈め、深い深い海の底に誘う怪物さ!」

 

人魚のイメージと言えば大抵の人間は「美しい」と評するかもしれないが、その美しい歌声で男を惑わせ、破滅させる怪物として描かれることもある。

麗しい見目の隊員達で構成されていながらも、いざ戦いとなれば数多のZAFT兵達を葬り去ってきたからこそ、ジェーン達は”マーメイズ”と呼ばれるようになってきたのだ。

だが、今回に限っては僅かに話が違った。

彼女達が向かう先には、恐ろしい『鯱』がいるかもしれないのだから。

 

「もしもマルコ・モラシムが出てきたら、抑えられるのはあたし達だけだ!魚雷は温存しておくんだよ!」

 

<大丈夫です、あのクソ野郎用の魚雷ならいくらでもありますから!>

 

<今日こそあいつを海の藻屑にしてやれるかと思うと、ワクワクが止まりませんね!>

 

モラシムは連合海軍にとって不倶戴天の敵だ。

隊長であるジェーンは珊瑚海にて発生した『珊瑚海海戦』で多くの仲間をモラシムによって殺されており、モラシムへの復讐を誓っている。彼女が初期から水中用MS開発に参加したのもその為だ。

 

無論、モラシムに対して怒りを抱いているのはジェーンだけではない。

金髪をポニーテールで纏めたエレノア・リングスもジェーンと同様に『珊瑚海海戦』の生き残りであり、同じようにモラシムへの恨みは深い。

黒髪にメッシュを入れたイザベラ・ディスミスは『カサブランカ沖海戦*1』にて”グーン”に蹂躙されている。

”グーン”の開発にはモラシムが搭乗した”ジン・フェムウス”のデータが活かされているため、恨む理由は十分にある。

闘志漲る部下達。しかしジェーンは、僅かに気遣うように最後の1人、林凜風(リン・リンファ)に声を掛ける。

 

「リンリン……逸るんじゃないよ?」

 

<大丈夫です、皆に迷惑は掛けませんから>

 

凜風はもの静かかつ穏やかな女性だ。本来なら軍に入隊することもなく、一般人として生活しているべき人物でもある。

だが、とある海戦にてモラシムが彼女の婚約者の乗った軍艦を沈めたことが、彼女の運命を変えてしまった。

ナチュラルであり、戦いに向いた気性でもない彼女が”マーメイズ”に所属しているのは、ひとえに彼女の執念と、それに伴う努力の成果故だ。

ジェーン以上に深い憎しみをモラシムに抱いている彼女が戦いの中で目を曇らせるのではないかとジェーンは心配したが、それは懸念に終わりそうだと判断する。

───凜風は、これ以上に無い程にベストコンディションだ(冷徹に殺意を研ぎ澄ましている)

 

「ならいい。───聞き飽きたかもしれないが、もう一度言わせて貰う!死ぬな、殺せ!もう一度、全員で笑おう!」

 

<<<了解っ!>>>

 

<こちら管制室!注水完了、発進よろし!>

 

「よーし、”マーメイズ”発進!刈り尽くせ!」

 

ジェーンの乗機、連合海軍肝いりの新型MS”フォビドゥンブルー”の目に光が灯った。

その手に構えた銛は、果たして、獰猛な鯱を貫けるのか。

 

 

 

 

 

”アークエンジェル”格納庫

 

<ハッチ開放!ワンド3、ワンド4は発進後艦上にて対空防御に参加してください!>

 

<了解!ベント・ディード、発進します!>

 

<マイケル・ヘンドリー、行くぜ!>

 

威勢良く出撃していく2人の声に、キラは操縦桿を握る手に力を込める。

マイケルとベントの”ダガー”はランチャーストライカーを装備して出撃し、”アークエンジェル”の艦上にて対空砲火に加わることになる。

海上艦を守るために敵航空部隊を引きつける役割を担う”アークエンジェル”は激しい攻撃に見舞われることが予想されるが、2人の力を信じるしかない。

 

<続いて、ペンタクル1、ペンタクル2、発進してください!>

 

2機の”スカイグラスパー”がカタパルトに接続され、今か今かとエンジンを震わせ始める。

 

<トール、この規模の戦いだと俺もお前をフォローしきれない!その時は死ぬ気で踏ん張れ!>

 

<は、はい!>

 

イーサンがトールに発破を掛けた。

これまで直接的な戦闘は避けてきたトールにとっては初の大規模航空戦となる。

イーサンに直接指導されてきたとはいえ、トールが緊張するのは当然だった。

 

「大丈夫だよ、トール。南アフリカの部隊だって援護してくれるし、”アークエンジェル”は頑丈な船だ」

 

<キラの言うとおりだ。戦いなんてのは生き残ること優先で、敵を倒すなんてのは二の次なんだよ>

 

キラと、艦橋にて戦いを見守るムウからの声援を聞き、トールの目に力が漲る。

緊張はしているが、彼もこれまでの戦いをくぐり抜けてきた”アークエンジェル”隊の一員だ。

タフさを身につけた彼は、精一杯の笑顔と共に親指を立てて見せた。

 

<進路クリア!ペンタクル1、発進どうぞ!>

 

<おう、先に行ってるぜトール!───ペンタクル1、テイクオフ!>

 

イーサンの”アームドグラスパー”が飛び立っていく。

次は、トールの番だ。

 

<ペンタクル2、発進どうぞ!───トール、死ぬなよ!死んだらミリィに言いつけてやるからな!>

 

<こんな所で死ぬもんか!───ペンタクル2、発進します!>

 

管制官を務めるサイの軽口に強気に返しながら、トールの”アームドグラスパー”も飛び立っていく。

次は、自分(キラ)の番だ。

この瞬間だけは慣れない、とキラは思った。

殺し殺されの戦場に出向くのだから慣れたいわけではないが、この()()()()は不快だ。

 

<キラさん、何度も説明しましたけど背中の()()は最終手段にしてくださいね>

 

モニターに映るアリアが言う()()とは、数日前に調整が完了した試作水中戦用装備だ。

背中の水中ジェットに急遽取り付けられた()()は持ち手が付いていることから近距離戦用の装備と分かるが、刀身保護のために普段は鞘のようなパーツで覆われており、全容を確認することは出来ない。

だが、キラはアリアに言われるまでも無くこの装備を使うことは避けるつもりでいた。

これまで試験してきた中でもとびきりのキワモノだったからだ。

 

「まさか、君から『使うのは避けろ』って言われるとはね」

 

<水中戦用の装備は、ハッキリ言って”マウス隊”の苦手分野なんです。性能は保証しますけどね>

 

「余裕があったら使ってみるよ」

 

<そうしてください。───ご武運を>

 

敬礼で見送るアリアに、キラも敬礼を返す。

実際に近距離戦になったとしても、『アーマーシュナイダー』があることもある。何も問題は無い。

バルトフェルドとの戦いでボロボロになった”ストライク”も、整備班達の奮闘で十全な状態を取り戻した。

ならば、あとは勝ってくるだけだ。

 

<ソード1、発進どうぞ!慣れない海なんだ、無茶はするなよ!>

 

「勿論。───ソード1、行きます!」

 

 

 

 

 

インド洋 上空

 

「くそっ、大天使だかなんだか知らないが、ここで好きにやれると思うなよ!」

 

“インフェストゥスⅡ”のパイロットは視界に映る白亜の宇宙艦に毒づいた。

彼は何度もこの地球で戦いを経験したベテランパイロットであり、航空戦に関しては相応のプライドを持っていた。

だからこそ、宇宙から降りてきた挙げ句にアフリカで暴れ回った”アークエンジェル”に対しては、まるで部外者に割ってこられたような苦々しさを感じているのだ。

 

「C.Eに天使の出番なんぞない、ここで落としてやれ!」

 

『おぉっ!』

 

”アークエンジェル”を見たZAFT兵達が奮い立つ。

しかし彼らは知らなかった。”アークエンジェル”は、彼らが想像する以上に。

───衝撃的な一手を打ってくるのだと。

 

<”アークエンジェル”に動きあり!艦首が開いて……>

 

「っ、全機散開!避けろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後の世に『ディエゴガルシアの戦い』と呼ばれる戦端は、”アークエンジェル”によるZAFT航空部隊への、容赦ない陽電子砲の一撃により切って落とされた。

*1
原作では『第一次カサブランカ沖海戦』と呼ばれる戦い




次回は遅くても2週間以内には更新したいと思います……。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております!

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