クレイビングガンダム(A装備)
移動:9
索敵:C
限界:200%
耐久:180
運動:52
武装変更可能
武装
対艦ライフル:220 命中 80 間接攻撃可能
バルカン砲:50 命中 40
ビームサーベル:180 命中 75
エンテ・セリ・シュルフト(ランクB)
指揮 4 魅力 7
射撃 10(+2) 格闘 14
耐久 4 反応 14(+2)
空間認識能力
得意分野 ・反応
不得意分野 ・耐久(成長しない)
分からない人向けに説明しますと、高性能ヅダと典型的強化人間枠みたいな感じの数値です。
4/30
デブリ帯
<本当にあるんだろうな、シュルフト!?>
「うっさいわね、管を巻く暇があるなら手を動かしてなさい……はぁっ、ふぅっ」
苛立たしげに返答した後に、エンテはヘルメットを脱ぎ捨ててパイロットスーツの胸元をはだけさせる。
(なんて、煩わしい……)
”マウス隊”と激戦を繰り広げたZAFT艦隊は、増援艦隊と合流を果たしていた。
今は、最後の”マウス隊”奇襲によって損傷した艦艇の修理、あるいは自力航行が不可能な艦艇の牽引準備の最中である。
本来は消耗した”マウス隊”にトドメを刺すために控えていた増援艦隊だが、自力で動けない同胞を見捨てることは出来ず、追撃も断念されたのだった。
狙ってこの事態を引き起こしたのなら、敵の指揮官は中々の
「さすが、”マウス隊”、ってところかしらね……」
周辺警戒のために未だに“クレイビング”に搭乗して周辺警戒に当たっているエンテは、見る者が居れば誰もが
これは戦闘の疲れもあるが、彼女の体質が大いに関係していた。
彼女の身体能力は平均的なコーディネイターを軽々と上回る。
素早い身のこなし、華奢な体躯に似合わない怪力、そして空間認識能力。
これらの能力の代償、それは「体温調節機能の障害」。
彼女は頻繁にパイロットスーツを着て回るが、それはパイロットスーツに内蔵された体温調節機能をアテにしてのものだ。
先の戦闘でも、彼女は自分の体がいつ異常体温を発してしまうか不安を抱えながら戦っていたのだ。
「まぁ……さっきので、実戦での連続戦闘時間も、測れた……と、思えば」
愛用の鉄扇を取り出して仰ぎ出すエンテ。
MS戦では初めての緊迫した戦闘に、彼女はたしかに昂ぶっていた。
───闇の中を進んできた彼女の人生。その中で、戦いだけは虚しさを忘れさせてくれた。
死ぬならば、血湧き肉躍る戦いの中で、無慈悲に。
その時の為にも、この経験を次に活かそうと彼女が決意していた時、新たに通信が届く。
<シュルフト、あったぞ。たしかに
「だーから、言ったでしょうが……回収よろしく」
エンテは増援艦隊が到着してから、そのMS隊にある物を探させていた。
それは、先の戦闘で切り落とした”ヒドゥンフレーム”の左腕。
普段はガードコートで覆い隠されている”ヒドゥンフレーム”だが、エンテとの戦いでは機体の隠匿を考える余裕などなく、ガードコートを解除しての近接戦も行なわれた。
そしてエンテは、その時に目にした『オーブの機体である”アストレイ”』のシルエットを見逃さなかった。
明らかに連合の機密であるその機体の左腕を確保したという戦果があれば、少なくともこの戦いにおいてエンテが責任を押しつけられることはない。
(あの機体……”ブリッツ”だっけ?の、ミラージュコロイド・ステルスを見抜いた時点で仕事はしてるんだけど……。あたしも余計なものに足を取られたくないのよね)
5/2
『セフィロト』 会議室
「なるほど……新型EMP兵器、そしてZAFTの『ガンダム』か……」
「はい。私は『ガンダム』の方は直接見ていませんが、交戦したセシル・ノマ少尉の証言によれば、純粋な性能では現行のGシリーズを上回り、開発中の後期型と同等以上だろうとのことです」
ユージの前に座るハルバートンは、渋面を浮かべた。
『セフィロト』に無事帰還したユージは1日の時間を置いて、滞在していたハルバートンに先の戦いの報告を行なっていた。
無事に逃げられても、将来的な問題は残ったままだからだ。
「EMPの方は全軍に周知して対策を講じるとして、敵新型MSの存在が気に掛かる。数では圧倒しているとはいえ、万が一『ガンダム』を量産などされては友軍に多大な被害が生まれるだろう」
「彼らの生産力でそれが可能でしょうか?」
「分からん。だが戦争は常に予想を超えていくものだ。ほんの3年前まで、誰がMSなどという人型兵器が戦場の主役になるなど想像出来た?」
「……仰るとおりです」
つまり、「常に最悪の想定をし続けろ」ということをハルバートンは言いたいのだ。
しかし、ユージはあの機体───”クレイビング”については量産の可能性は少ないだろうと踏んでいた。
(あんな”ヅダ”と”ケンプファー”を足して割らないみたいな機体を量産する奴がいてたまるか)
ユージの『眼』は、たしかに”ヒドゥンフレーム”が記録していた敵機の姿から、パイロットを含めてのステータスを捉えていた。
PS装甲が無いだけならともかく、素の耐久力で”デュエル”の半分近くなどという機体は危なっかしくて下手に使えない。
それを十全に扱えるパイロットが乗っていたからこそセシルは苦戦したのだとユージは結論づけた。
だが、ZAFTが
(もう”Xアストレイ”……いや、”ドレッドノート”は完成してるんだろうな。つまり……連中は核の力を取り戻したと見るべき)
ニュートロンジャマーキャンセラー。核分裂反応を封じるNジャマーに、唯一抗う手段。
───その気になれば、ZAFTはいつでも保有する核を兵器として振るえるようになってしまった。
『血のバレンタイン』でプラント国民に核への忌避感が根付いていなければ、躊躇わずにその力が振われていただろうと考えれば、ユージは身震いを禁じ得なかった。
「それで、話は変わるが……君達が今進めている計画の方はどうかね?」
ハルバートンが言っているのは、”マウス隊”技術者達が立案した『CG計画』と、『RX計画』のことだ。
『CG計画』は多数の実験的機構を搭載した、いわゆる技術実証計画としての面が強い。
『RX計画』はそれに対し、今ある技術を用いて限界まで性能を引き上げた機体を作り出すものだ。
どちらも極めて強力なMSを作り出すという目的には違いないのだが、共通する問題を抱えてもいた。
「機体フレーム自体はほぼ完成しています、が……」
「やはり、
ユージは重々しく頷いた。
現在の完成度はどの機体も80%ほどと完成は間近、の筈が、想定しているスペックを発揮するためには、どうしても現在のバッテリー技術では不満が出てしまうのだ。
それこそ、核動力でもなければ5分も保たず木偶の坊と化してしまうだろう。
「その一点さえクリア出来れば、すぐにでも完成する筈なのですが……」
「流石の”マウス隊”でも、難しいものはあるか……」
溜息を吐くハルバートン。
この計画を続けさせるか、それとも中断させるかを彼は迷っていた。
”マウス隊”の能力については最早疑う余地は無い。性格はともかく優秀な技術者やパイロットの集まった部隊だ。
しかし、それはそれとしてこの戦争に投入出来るかどうか定かではない代物を研究させ続けることも問題となる。
少しだけ逡巡した後に、ハルバートンは決断した。
「完成出来れば、ZAFTの『ガンダム』に対抗出来るかね?」
「
「───分かった。予算は減らさせてもらうが、計画を続行してくれたまえ」
MSに対する最適な対抗手段はMS。大戦初期からMSの脅威を間近で見てきたハルバートンはそのことが身に染みていた。
今、この計画を打ち切るのは悪手でしかない。
「了解しました。必ず、ZAFTとの決戦には間に合わせてみせます」
「頼む。───それはそれとして、ムラマツ中佐。この後は?」
「本日はこれから、先日の一件に関する報告書の作成に取りかかる予定ですが」
「休みたまえ」
「しかしまだ仕事が……」
「いいから休みたまえ。まだ高G負荷によるダメージが回復仕切っていないのだろう?」
ハルバートンは、職務に対して実直かつ、あの癖の塊のような隊員を纏めているユージ・ムラマツという士官を高く評価している。
だからこそ、若干ながら足取りがフラフラとしている彼をそのまま働かせるようなことは出来なかった。
今彼が倒れたら、いったい誰があの癖の塊のような技術者達を纏められるというのか。
ハルバートンの意図を表情から読み取ったのか、ユージは渋々といった様子で了承した。
(休ませられる内に、休ませておかねばな……)
ハルバートンは手元のパソコンに映った画像……近々予定されている、
「分かりました、この後は休息に専念させてもらいます。ただ……」
「む?」
「───1つだけ、早急に解決せねばならない仕事があるのです」
『セフィロト』居住区
目的の部屋の前に立ったユージは一度だけ深呼吸をし、入り口の横のパネルを操作した。
<どうぞ、入ってくれたまえ>
「……失礼する」
入室した先で椅子に座っていたのは、アグネス・T・パレルカ。
『三月禍戦』の後に”マウス隊”に配属された女性研究員である彼女は、椅子の肘掛けに両手を預けた体勢でユージを迎える。
「おや、隊長じゃないか。どうかしたかい?」
「ああ。実は、今日と明日で休みを取る事が決まってな。その前に一仕事片付けておこうと」
「仕事熱心は良いことだが、働き過ぎじゃないかな?まあ、深くは言わないけども」
そう言うとアグネスは椅子から立ち上がり、机の上のティーポットから2つのカップに紅茶を注ぎ込む。
注ぎ終わると片方のカップをユージに差し出した。
「どうも」
「どういたしまして。だが、その一仕事とやらで何故私のところに来るんだい?それほどの火急の用件となると、私には見当も───」
「単刀直入に言おう。───
ユージの言葉を聞いたアグネスは一瞬だけティーカップを口元に運ぶ手を止め、ユージの顔を真顔で見つめると、溜息を吐いた。
「……なんで、私だと?」
アグネスは、至極あっさりと、自分が裏切り者であることを明かした。
「あっさりと認めるんだな」
「ここで言い訳を続けても、時間の浪費だからね。それに……確証があるからこそ懐に銃を隠し、扉の外にもMPを控えさせているんだろう?」
アグネスの言うとおりだった。
ユージは懐に拳銃を隠し持っているし、扉の外には完全武装のMP隊が控えている。確信を持っていなければ、ここまでする必要はない。
穏やかな様子で自白したアグネスに、ユージは複雑な表情を浮かべながら説明を始める。
「まず最初から説明していこう。先日の戦闘でZAFT側の動きに不自然なところがいくつもあった。
”ブリッツ”による奇襲が実行前に見破られたこと、そして新型EMPが投入されたこと……おかしいだろう。
まるで、あの日、あの時、あの場所で”ブリッツ”の実戦試験をやると分かっていたかのような行動だ。
もしも俺がZAFTの指揮官だったとしたら、何らかの確証がなければ連合軍に新兵器を晒すようなことはしない。
新兵器を晒すデメリットを鑑みても投入するメリットがあるなら、話は別だがな。必然、情報の流出は疑われる」
「まあ、妥当だね」
「次に、ナチュラルであるかコーディネイターであるかだな。敵は完全にZAFTの部隊だった。情報を売った人間がナチュラルだとは考えづらい。
コーディネイターならともかく、ナチュラルのスパイを作戦の後まで生かしておく理由が無いだろうからな。
そして、その事に気づけないマヌケが、”マウス隊”に来れるわけが無い」
うんうん、と頷きながら紅茶を飲むアグネス。
その姿からは、この後自分がどうなるかを想像出来ているとは思えなかった。
だが、ユージには分かった。短い期間ではあったが、彼女も大切な部下だった故に。
アグネスは、全てを悟った上で平静でいるのだ。
「あとは芋づる式に、コーディネイターかつ”ブリッツ”の情報に触れられる人間を調べていけば……結果は、ご覧の通りだ。
不自然なデータのやり取り、経歴詐称の発見……。調査部は優秀だったよ。
まさかとは思ったさ。『三月禍戦』の後にも大規模内部捜査があったというのに、それを掻い潜っていたスパイが、よりにもよって”マウス隊”の中に紛れ込んでいるんだからな」
「あの時はヒヤヒヤしたよ。なにせ、スパイである私にも事前通告が無かったんだからね。せっかく目論見通り”マウス隊”への配属が決まったのに、台無しにされるところだった」
「……やはり、ZAFTで間違い無いのか」
「まぁね。ZAFT軍第5諜報部隊実働調査員№4、コードネーム『may』。それが私のZAFTにおける肩書きさ。ちなみに本職は薬剤師だ」
「……そうか」
ユージがポケットの中に手を入れて何かを操作すると、すぐさま部屋のドアが開いて数名のMPが入ってくる。
アグネスは特に抵抗する素振りを見せず、立ち上がるとすんなり後ろ手に手錠を掛けられた。
そのまま部屋から出て行こうとするアグネスとMP達を、ユージは呼び止めた。
「1つだけ聞かせてくれアグネス。先日の戦い、出撃する前の私に栄養剤を渡したな?『最後まで意識を保っていられるように』と。何故、仕込まなかった?」
ユージは”エグザス・アサルト”で出撃する前に、アグネスから手製の栄養剤を受け取り、摂取していた。
そのおかげもあってユージは意識を朦朧とさせつつもアイザック達を連れて帰還することに成功したのだが、今考えれば不自然極まりない。
ユージの言うとおり、その時点で栄養剤に毒でも仕込んでおけば”マウス隊”には万に一つの勝機も無くなっていたのだから。
「そうだねぇ……気まぐれ、かな?99.9%勝敗が決しているのだから、どうなるか最後に試してみたかった、とか」
「お気に召す結果だったかな?」
「勿論。薬剤師冥利に尽きる結果だったよ。それと、私からも1つ。……君達との日々は楽しかったよ」
その言葉を最後にアグネスはMPに連れられ、何処かへ消えていった。
主を失った部屋の中で、ユージは渡されたティーカップを口元に運ぶ。
紅茶は、温くもなければ冷めてもいない、なんとも中途半端なものだった。
「……淹れたての間に、飲んでおけば良かったな」
5/4
『セフィロト』”マウス隊”オフィス
「───と、いうことがあったんだよ」
「まさかこの部隊にスパイが紛れ込んでたなんてな……諜報部はどうなってんだ、諜報部は!」
「ワッカさんもそうだそうだと言っているようななんですがが?ほら見たことかいきなりスパイの卑劣な行動が終わってしまっていたログは確保したからな逃げられない」
「……で、そのアグネス・T・パレルカさんがなんでこの場に平然といるのか教えていただいてもいいかな?」
2日後の”マウス隊”オフィスには、平然とした様子でアグネス・T・パレルカの姿があった。
愉快そうに自分が逮捕された時の様子を語るアグネスに、ユージは眉をひくつかせる。
「ふふ、そんなこと……私が持っていたZAFTの機密情報と、『少々の』金銭を取引材料に保釈されたに決まっているじゃないか」
『最低なんだコイツ!』
「はーっはっはっは!リスクケアくらい考えているとも!」
アグネスは元々自分が本国で冷遇、まではいかなくとも窓際族のような扱いを受けていたと語った。
遺伝子操作によって生まれた時から病気への高い対抗力を有するコーディネイターにとって薬物や薬剤師の需要は少なく、それを積極的に研究する彼女は異端そのものだったのだ。
扱いも悪ければ、研究設備もイマイチ。アグネスがナチュラルの多い国家への移住を試みるのは時間の問題だった。
「そんな時、スパイをやらないかというお達しがあってねぇ。実態は体の良い厄介払いだったのだろうが、渡りに船とはこのことだ」
現在の『プラント』は入国・脱国の取り締まりが厳しい。そんな中、スパイになれば堂々と脱国して連合圏に潜り込み、薬剤の研究に携われる。
即断したアグネスはZAFTからの申し出を即座に受け入れると同時に、冷遇されて暇だった時期に収集していたZAFTの機密を持ち出し、そして今に至るということだった。
「元々今回の一件も、ZAFTへの義理立てで実行したようなものだからね。もしも作戦が成功していたら、それはそれで適当なタイミングで雲隠れしていただろうさ」
「帰属意識皆無かよ……」
「逆に聞くが、あんな国家擬きに私が帰属意識を持つと思うかい?」
堂々と胸を張るアグネスに、ユージは呆れて言葉を無くしてしまった。
2日前のあのやるせなさを返して欲しい。
しかし、ユージには聞かなければならないことがあった。
「しかし、よくもまぁ自分で情報売り飛ばした奴らの中に平然と混じっていられるもんだよ……」
「それについては言い訳しない。私のやったことは、ハッキリ言って最低だ。人道にもとる」
「なら何故……」
「私を動かすのはただ1つ。技術者としてのプライド、さ。───見てみたくなってしまったんだよ。君達”マウス隊”の行く末に何が待っているのか」
ユージはその言葉から確信を得てしまった。
その赤い瞳の中に、見慣れたものを見つけてしまったのだ。
───飽くなき探究心、”マウス隊”技術者の誰しもが有する狂気の光を。
彼女は、来るべくして
「……どっちにしろ、お前がここにいる時点で上層部は許可を出しているんだろう。今更どうしようもない。というか、お前達はいいのか?」
ユージは納得した。だが、他の隊員はどうだろうか。
自分を売り飛ばした相手を再び同僚として見ていけるだろうか。それを無視することは出来ない。
「うーん、正直言うとすんなり許しちゃいけないという思いはある」
「だろうねぇ。君達が望むなら、殴る蹴るくらいは甘んじて受け入れるよ」
両手を広げて無抵抗をアピールするアグネス。
その姿を見た技術者達は円陣を組み、ヒソヒソと話し合い始めた。
「どうする?流石に裏切りの前科者を受け入れるには……」
「───だが、話を聞く限りだと窮地に陥ったのも彼女のせいだが、隊長を助けたのも彼女だろう?単純に敵だと切って捨てるには……」
「むしろ今まで“マウス隊”の中に裏切り者が出なかったことの方が不自然だしなぁ」
『たしかに……』
「いや、でもなぁ……」
大抵のことは笑い飛ばす彼らでも、今回ばかりは簡単に許してはいけないことなのだろう。
数分後、円陣を解いた技術者達を代表してアキラが話し始めた。
「アグネス。結論を言うと、お前を今まで通り信頼しきることは出来ない」
「うん」
「だから、
「承知した。そういうことなら、誠心誠意働くとしよう。今度は、最後まできっちりとね」
どうやら、技術者達の間では何かしらの納得がされたようだった。
とはいえ、全員がそれを許すというわけでもないだろう。この後、艦艇スタッフやアイザック達と、彼女が謝罪しなければならない人物は大勢いるのだから。
「そういえば、監視役みたいなのはいないのか?再犯防止の……」
「それは、私です」
「うおぁ!?」
背後から突如として掛けられた声に、ユージは驚嘆の声を挙げる。
後ろを振り向けばそこには、長い黒髪と金色の眼の若い女性が音も無く立っていた。
「この度、アグネス・T・パレルカの監視役として出向してきました。フィー・マンハッタン少尉です。無礼をお許しください、昔から影が薄いと言われるもので」
「あ、あぁ、よろしく頼む。……これは?」
自己紹介した女性、フィーはユージに何かのリモコンを手渡した。
フィーは同じ物を取り出し、誤作動防止のカバーを開けてスイッチを押し込む。
「あばばばべべばべばべばっらっばだだだだっ!?」
「ご覧の通り、パレルカ少尉の首輪や腕輪、服装に内蔵された装置から電撃を発するための起動スイッチです。不審な行動を取った場合、躊躇わず押してください」
「あー……致死性は?」
「ご安心ください。出力は弱と強があり、今のは弱です」
ピクピクと泡を吹きながら痙攣して床に倒れるアグネスの姿からは、この装置が処刑装置を兼ね備えていることが察せられた。
「これからは私が一挙一投足を見逃さずに彼女を監視いたします。ですので、”第08機械化試験部隊”の皆様は何ら気にせず彼女を使い潰してください」
「ふ、フィー君、さすがに、デモンストレー、ションで、ながさな───」
「おや、戯れ言が聞こえますね?」
「だだだだあら”ら”あだあだだだだだぎおんんンんんぅ!?」
「……まぁ、お手柔らかにな」
自分の部隊がますますカオスになっていくだろうことを予感し、ユージは溜息を吐くのだった。
5/3
『セフィロト』某所にて
「失礼します」
「……おや、君のような女性がこんな場所に来るとは思わなかったよ。女優か何かと言われた方が納得出来る」
「おや、随分と元気がありますね。拷問された後とは思えません」
「ふふふ……連合では、貧弱な女性を裸に剥いて縛り付ける殴る蹴る踏みつける、
「……」
「ごふっ……分かった、減らず口は止めよう。だから無言で殴りつけるのは止めてくれ……実は、結構キツいんだ」
「そうですか。じゃあ後一押しで、その口も割れますかね?精神面でも、物理的にも」
「そんなことをされては、私は恥も外聞もかなぐり捨てて泣き叫ぶだろうねぇ。『お願いだから、殺さないでください』と」
「その割には冷静なんですね。恐怖で感情が麻痺でもしましたか?」
「君にとっては不本意だろうが、そうじゃない。私は先ほどまで叫んでいた筈だよ?───『話の分かる人間さえ連れてくれば洗いざらい話そう』と。そして、それに焦れて君が来た。違うかな?」
「どうとでも、ご想像通りに。それで私が貴方の言う『話の分かる人間』だとして、いったい何を話そうというんです?」
「勿論、情報さ。私はZAFTの機密情報を持っている。それも、とびっきりのものをね。ああ、それと少しばかりの
「……我々がその要求を受け入れたとして、貴方は何を望むのです?」
「勿論自由……と言いたいところだが、少し違うな。───私を“マウス隊”へ戻してくれ。やり残した仕事がある。勿論、好きなように監視してくれて構わない」
「理解出来ませんね。裏切った部隊に戻りたがるなど、”マウス隊”のメンバーに袋だたきにされると思うのですが」
「技術者の性さ。理解する必要は無いよ」
「……いいでしょう。たかが1人の人間、しかも正体の割れたスパイなどどうとでも出来ます」
「懸命な判断だ。もしも全てが終わった後に君が生きていたとして、私を殺していれば必ず後悔していただろう。『あの時殺さなければ良かった』とね」
「そうですか。で、結局あなたは何を話してくれるんです?」
「ふふふ、急かさないでくれたまえよ。……ところで、君はなんと言うんだい?」
「あー……フィー・マンハッタンと言います」
「あからさまに『今考えました』と言わんばかりの名前だねぇ。まあいい、それではフィー君。
『ジェネシス』って、知ってるかい?」
次回から新章です。
それと、途中あるキャラの台詞が誤字してるように思われるかもしれませんが誤字ではありません。
設定通りです。(ブロント語擬き)
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。