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”スピノザ”艦橋
(あーあ、何やってんだか)
騒然とするその場所で、エンテ・セリ・シュルフトは1人だけ、呆れた目で周囲を見ていた。
せっかく
だが、笑い話とは恥に恥を塗ってようやく成立してしまうものだ。
このままでは戦果無しで帰ることになってしまうと、焦って追撃を開始するなど、大局が見えていない証拠である。
(もう少しで到着する後続の艦隊を待っていれば、余裕を持って対処出来たっていうのに……敵艦より”ナスカ”級の方が速いってこと、忘れてんの?)
打てる手を堅実に打っていけば、勝てる勝負だった。しかし、今は僅かに”マウス隊”へ光明が差し始めている。
「───私も出るわ」
「なに?」
「このまま突っ立ってて後から責任押しつけられるのは嫌よ、私は?」
サラリと『このまま何も出来なければお前は無能だ』という皮肉をぶつけながら、エンテは艦橋を出て行った。
傍若無人な振る舞いに艦長は歯がみをするが、『グングニール』を回収し終えるまで何も出来ないのも事実。
艦長は、憎々しげに悪態をつく他無かった。
「
(なんだ、何が起こっている……どうしてこうなった!?)
自分の息づかいの音だけが、嫌に反響して聞こえる。まるで光の無い洞窟の奥底に立っているかのようだ。
男はこの作戦に参加したMSのパイロットであり、現在は愛機の“ゲイツ”を駆ってデブリ帯を彷徨っていた。近くに友軍機は存在していないが、それには理由がある。
奪還された2機の『ガンダム』を奪い返すために追撃を開始したはいいが、MS隊の隊長は6機残っていたMS隊を3機ずつ、2部隊に分けて進撃させた。
1部隊が敵を引きつけている内にもう片方が敵艦隊を強襲するという、それなりに定石に沿った戦術だった。
それが仇となったのだ!
「一瞬で、あんな一瞬で2機もやられるなんて……」
男のチームは陽動を掛ける側。敵を引きつけることが役割だったために、何時襲われてもおかしくはなかった。
そのために、警戒は厳としながら進んでいた。
『くそっ、あんな悪あがきをしやがって……!』
『落ち着けよルーキー。実戦なんてどんな想定外が起こってもおかしくはない』
『でも、あれだけ苦労したのにみすみす逃すなんて……』
『
数分前、男は他2人のメンバーと共に会話しながら敵が逃げた方向へと向かっていた。
この部隊に配属されて間もない新人がぼやいていたが、先任の男達はそれをなだめすかす。
そう、たとえ『ガンダム』を奪い返されようが、未だにZAFTが優位なのは間違い無いのだ。増援が到着するまでの10~20分、敵艦をその場に留めてしまうだけで勝利は確定する。
そんな中、敵部隊に使える戦力はというと、先ほどのMAと機体前面を装甲で覆い隠した狙撃用MS、そして精々が艦隊護衛の量産MS数機がいいところだろう。
護衛の3機を除けばたった2機、しかも片方は『ガンダム』の回収を優先して動けない。
たとえ敵がどれだけの凄腕だろうが、狙撃用のMS1機で6機のMSをこの短時間で撃破出来る訳がない。男はそうタカをくくっていた。
それが間違いだと思い知らされたのは、その10秒後だった。
『それじゃ手柄が……』
新人らしい増長した言葉を窘めようとした直後、ザザッという音と共に新人の声が途切れた。
何かと振り返れば、新人の乗った”ゲイツ”は力無くその手足を投げ出し。
───その腹に空いた、銃弾が貫通した跡の穴を見せつけていた。
その後ろからヌッと姿を現したのは、男達が探していた相手。
機体前面を装甲で覆い隠した、”アストレイ・ヒドゥンフレーム”である。
その装甲の一部が展開し、その隙間から突き出した腕に握られた大型リボルバー拳銃から煙が上がっているのが見えた瞬間、男は絶叫した。
『っ、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?』
残された2機の”ゲイツ”が必死に銃撃を行なうが、”ヒドゥンフレーム”はヒラリとそれを躱し、デブリ帯の中へと消えていく。
『ちくしょう、狙撃機じゃねぇのかよ!?』
男達の反応が遅れたのは、”ヒドゥンフレーム”が狙撃用MSだと勘違いをしていたことにある。
”エグザス・アサルト”の大立ち回りの後に差し込まれた高精度の狙撃は、男達に狙撃を警戒させた。まさか、接近戦を仕掛けてくるとは思っていなかった。
”ヒドゥンフレーム”のパイロットであるセシルはその隙を突いたのだ。
加えて、これはセシルに限った話ではなく”マウス隊”全員に言えることだが、彼らが実戦に投入されたばかりの頃、彼らは待ち伏せを仕掛けやすいデブリ帯での戦闘を多くこなしていた。
デブリ帯で敵に気付かれることなく接近するのは十八番と言っても良い。
そんなことは露知らず、男達は機体同士を背中合わせにして更なる攻撃に備える。
『どうする!?』
『どうするも何も、やるしかねぇだろ!俺達が戦わなきゃ、あいつは別働隊の方にいくだけだ!』
『だが、これじゃ……』
敵が近距離戦も仕掛けてくるということが分かった以上、男達はあらゆる方向、あらゆる距離からの奇襲を警戒せざるを得なくなった。
最大限まで引き上げられた警戒、しかし、セシルにとってそれは、好都合なことでしかない。
『反応……っ!』
センサーが感知した方向に銃を向けるも、そこには”ヒドゥンフレーム”の姿は無く、先ほど撃ち抜かれた新人の”ゲイツ”の残骸が漂っているばかり。
───次はお前がこうなる番だ。
そう言われているような気がして、男達の精神力は削られていく。
次の瞬間、レーザーが片方の”ゲイツ”の脚部に命中した。
セシルがしたことは簡単だ。”ゲイツ”の残骸を残った敵の方に向けて押し出し、敵がそれを”ヒドゥンフレーム”と誤認した隙に頭部から射出したインコムで攻撃しただけである。
『あっ、わっ、バランサーが!?』
MSを動かす上で非常に重要な脚部、それも防御の薄い膝裏を攻撃されたことで機能不全が起きたのだろうか。攻撃された”ゲイツ”の動きがぎこちなくなる。
無傷の”ゲイツ”がフォローしようとするも、それを見越して”ヒドゥンフレーム”は既に移動を終え、再びインコムによる攻撃を加える。
『ああっ、わぁぁ、はぁっ……!?』
『くそっ、くそっ、くそがぁ!』
まるでいたぶるように、執拗に加えられる攻撃に男達が錯乱しかけた、その時。
ふと、攻撃が止んだ。
『あ、あ……?』
『……なん、だってんだよ』
どういうことだろうか。このまま攻撃を加え続ければ、自分達を撃破することなど容易いだろうに。
レールガンを構えて周囲を警戒する2機の”ゲイツ”。だが、いつまで経ってもこない攻撃に、男達は息を吐く。
───もしもこの時、男達が早々に母艦まで後退することを選んでいれば、その先の運命も少しは変わっていたかもしれない。
『……はっ!?』
気付いた時にはもう遅かった。
デブリの陰から飛び出した”ヒドゥンフレーム”は片方の”ゲイツ”を蹴り飛ばし、そして。
脚部のダメージによって満足に動けない方の”ゲイツ”に向けて、右手のリボルバー拳銃を発射した。
『まっ───』
て、と続けられる筈だった言葉は、破壊音によって中断された。
時間にして、3分も経っているかどうか。そんな短時間で、男は2機の僚機を失ってしまったのだ。
もう言葉は出なかった。こんな化け物を相手に、たった1機で時間稼ぎが出来るわけもない。
男はすぐさま、味方と合流するためにスラスターを全開にしてその場を立ち去ろうとした。
『残り11発。……
年若い女の声に男の思考が一瞬停止する。
幸いにも足はスラスターを操るためのフットペダルを踏み込み続けてくれたが、男は一瞬後に、女の言葉の意味を悟った。
(やばい、やばいやばいやばいっ!あいつ、ダメだ、勝てない、逃げなきゃやられる!)
つまり、
1機につき、1発。敵は、自分達を拳銃弾で仕留めるゲームをしているのだ!
新人も、先ほど殺された仲間も、1発で殺されている。
たかが1機の狙撃機?とんでもない!
『あんな化け物、どうしようもあるかよっ!?』
そうして場面は戻る。
ただ1人生き残った男は、別働隊と合流するために機体を進ませていた。
艦隊の方へ向かう選択肢もあるにはあったが、どちらかと言えば別働隊の方が近かったこと、そして、一刻も早く安心を得るための行動である。
陽動の役割を放棄したことを問題にされるかもしれないが、どっちにしろあんな怪物相手に1機で立ち向かったところで瞬殺されるのが関の山。
それよりも敵の脅威を伝えることで、自分の生存率を高めることを優先するのは、生物として真っ当と言えるだろう。
「あっ……いた!」
周囲を警戒しながら進み、遂に彼は別働隊の反応を捉えた。
自分達に近づいてくる機体を確認したのか、隊長機から通信が届く。
<むっ、貴様は別働隊の筈ではなかったか?何故ここに……>
「隊長、奴は───!?」
返答するために口を開いた瞬間、男は光と熱に包まれた。
男は、最後まで自分が、別働隊の元へと案内させるために生かされた『生き餌』にされていたことに気付くこともなくこの世を去ったのだった。
「残り3機。運が良かったです、別働隊のところに案内してくれるなんて」
セシルは、モニターに映る”ゲイツ”が自身の狙撃で腹を撃ち抜かれ、火の玉になるのを見届けつつそう言った。
そう、
「私は一度も、
そう、ここまでの全てがセシルの思い通りに進んでいた。
最初にユージの撤退を援護するために狙撃を見せつけたことで、ZAFT部隊は”ヒドゥンフレーム”を狙撃機と勘違いした。
実際の”ヒドゥンフレーム”は『狙撃戦に向いた装備を備えている機体』というだけで、”プロトアストレイ”由来の高い白兵戦能力は何一つ失われていないのだ。
そうして敵が狙撃を警戒している間に接近、ハンドガンで2機の“ゲイツ”を撃破した。
ここで、セシルは更に仕込みを加えた。
狙撃機と思っていた敵に接近戦を挑まれた挙げ句に2機を瞬殺される。それだけでも衝撃的だというのに、その敵に『残り4発で十分』と言われたら、どう思うか?
───平常心を失っている者ならば、『自分達をハンドガンだけで仕留めるつもりなのだ』と思い込むのも無理は無い。
そうなれば、今度は不意の接近戦に注意を傾けなければならなくなり、狙撃への警戒が緩む。
敵の心理すらも利用し、自らの思い通りに事を進めるこの戦い方故に、セシルは『ゲームマスター』の異名を持つエースパイロットなのだ。
もっとも、この戦い方を見た者はほとんどがその場で戦死しているために、認知度は低いのだが。
「さて、残りの3機はどう仕留めますかね……」
セシルは残った敵MSに対して狙撃を続けながら、この先の展開を予想していた。
しばらくMAに乗っていなかったユージがあれだけやれたのは良い意味で予想外だったが、それでも何かしらの無理はしている筈だ。
そうなれば、艦隊の総指揮を取るのはおそらく”コロンブスⅡ”の艦長を務めるカルロスだろう。
おそらく離れたところに待機していただろう敵の増援がたどり着く前に速やかに、かつ確実に撤退するために彼はどう決断するだろうか。
「まぁ、順当にいくなら
”コロンブスⅡ”格納庫
「空気の注入完了確認、気密隔壁を解放します!」
「電磁カッターを持ってこい!EMPを受けたならコクピットをこじ開ける必要がある!」
「救護班急げ!」
一方その頃、無事に”コロンブスⅡ”へと帰還した”エグザス・アサルト”と2機の『ガンダム』の元には大勢の船員が駆けつけていた。
EMPを受けてほぼ全ての電子機器にダメージを受けた『ガンダム』からパイロットを救出する必要がある。
しかし、現在船員を焦らせているのは『ガンダム』の方ではない。
「ユージっ!……っ、ドクター!」
”エグザス・アサルト”のハッチを開けたマヤ・ノズウェルが見たのは意識を朦朧とさせながらグッタリとシートに体を預けるユージの姿だった。
端から見ても、あの”エグザス・アサルト”の機動は無茶をしていると分かる物だった。
久々に実機へと搭乗したユージは、常人ならば途中で失神していてもおかしくないだけの負荷が掛かっていたのだ。
それでもこうして母艦にたどり着き、なおかつ意識を残しているのは、精神力のタフさを称える他にない。
「眼球が赤い……典型的なレッドアウト*1だな。よくここまで保ったものだ……。担架を用意しろ、医務室に運ぶ」
「命に別状は……」
「ない。直ちに対処すればな」
”アークエンジェル”に移籍したフローレンスの後にやってきた壮年の船医は、ぶっきらぼうな口調とは裏腹に丁寧に診察を行なった。
彼の言葉を聞き、ホッと息を吐くマヤ。
「だが、しばらくは出撃は控えた方が良いだろうな。何度もこんな風に戦っていれば、寿命が縮む」
「時間がないからとノーマルスーツも着ずにいくなんて真似、二度とさせません」
「……マヤ」
「ユージ、無理しないでください」
か細い声でユージがマヤを呼ぶ。
マヤが制止しようとするが、ユージはマヤが持つ通信機を指差す。
「カル……ロス……に」
”コロンブスⅡ”艦橋
「それで、隊長は『任せる』とだけ言ったんだな?」
<はい>
「委細承知した。ノズウェル大尉にはそのまま『ガンダム』の緊急整備を頼みたいのだが……出来るか?」
<勿論です、今は生き延びること優先ですから>
通信を切り、カルロスは顎に手を当てて考え始めた。
ユージが気を失う直前に自分に残した言葉、『任せる』。
彼が指揮を執れない現状、この艦隊でもっとも高い階級を持つのはカルロスだ。となれば、代理で艦隊全ての指揮権を任せられたと見ても良いだろうとカルロスは結論づけた。
(あのEMP兵器は、確実に『ガンダム』を鹵獲するために使用されたものだろう。我々を潰すためだけにあんな隠し球を用いるなど、普段なら臆病ZAFTと笑い話だが、自分達を脅かしたのは事実だ)
そして、もしもこの戦いがZAFTによって仕込まれたものだとすれば、敵が合計3隻の小艦隊だけで有るはずがない。
必ず増援がいる。そう仮定するべきだ。
いつ来るかは分からないが、そう遠くない内にだろう。
(増援艦隊が全て”ナスカ”級なら、こちらの足で振り切ることは出来ない。ノマ少尉の帰還を待ってからでは尚更……スカーレットチームは全機健在、ならば───)
「あの、艦長?」
考え込むカルロスに、不安そうにオペレーターが声を掛ける。
1分1秒が惜しいこの状況で上官が言葉を無くせば、不安に思うのは当然だ。
そんな彼らに、カルロスはニヤリと笑みを見せ、声を張り上げた。
「諸君!」
『は、はいっ!』
「───”マウス隊”らしい
「残り、1機」
自分の僚機が火の玉に変えられる瞬間を目撃し、隊長機の”アイアース”が動揺した素振りを見せる。
しかし、セシルはそれを見ても、無感動に残った敵の数を呟くのみ。
むしろ頭の中は『これから味方が既に開始しているだろう行動に対して自分はどう動くか』という思考が大半を占めてさえいた。
残った”アイアース”さえも、今の彼女の前では『多少面倒な障害物』程度でしかないのだ。
(おそらく隊長は限界、カルロス少佐辺りに指揮権を臨時に委譲しているはず。少佐の思考なら───)
”アイアース”の射撃を軽々と避けながら思考するセシルだが、流石にいつまでも時間を無駄にするワケにいかないと判断し、ガードコートを纏って”アイアース”に向かっていく。
これまでのらりくらりと───かつ、”ゲイツ”を撃破していった───相手が一気に勝負を決めに来たことに驚きつつも、”アイアース”は機敏に反応し、ビームサーベルで迎え撃つ姿勢を見せた。
「……」
直後”アイアース”は、胸部から原型機である”イージス”からコピーしただろうビームを発射する。
これまでの戦いでガードコートの防御力を察していた”アイアース”のパイロットは、バカ正直にビームサーベルを構えて待ち構えるなどとはしなかったのだ。
───セシルの想像通りに。
「くっ……!」
セシルは放たれたビームのスレスレを掠めるようにして突撃を続ける。
来ると分かっている攻撃など、怖い筈もない。
セシルとて、”
まったく勢いを殺さずに突き進んでくる”ヒドゥンフレーム”を、今度こそビームサーベルで迎え撃とうとする。
一瞬の攻防を制したのは、”ヒドゥンフレーム”だった。
「生憎、パリィはフロムの例のあれ*2とかで慣れてるんですよ……!」
ビームサーベルが直撃する瞬間に、セシルはガートコートを展開した。すると、どうなったか?
ビームサーベルが、弾かれた。
元々”ヒドゥンフレーム”のガードコートは、通常装甲の内部に鉄筋コンクリートと同じ原理でPS装甲の
つまりセシルは、実質的に耐ビームシールドのようなものであるガードコートの開閉ギミック*3を利用し、敵の攻撃を弾いたのだ。
そして、耐ビームシールドと違う点は、腕に保持する必要がないこと。
ガードコートが覆い隠していた”アストレイ”独特のマッシブなシルエットが明らかとなると同時に、”アイアース”のパイロットは、その両手にビームサーベルが握られており、今正に振われようとしている光景を目にした。
ガードコートが前面を覆い隠していたがために、”アイアース”側にその攻撃への備えはなかった。
「終わりです……!」
<まだ終わりじゃないのよね、これが!>
「っ!?」
セシルが咄嗟にレバーを引いていなければ、今頃”ヒドゥンフレーム”は、何処からか飛んで来た弾丸に命中していただろう。
敵はちょうど”ヒドゥンフレーム”と”アイアース”の間の僅かな隙間を通すように、狙撃したのだ。
同時に、セシルはそれを為した相手に対して戦慄を覚えた。
(少しでもズレていれば、味方を……)
誤射をも恐れずに放たれたその一撃から読み取れる情報は1つ。
───この敵は、とびっきりの狂人だ。精神も、腕前も。
しかし、モニターに映し出されたその姿を見た時、セシルは更なる衝撃に包まれることとなった。
おそらく、セシル以外の誰が見ても驚愕に包まれることだろう。
その機体が、その『顔』が持つ意味を、その力を、身を以て知っているからだ。
「───『ガンダム』!?」
「あはっ、まあ簡単にはいかないわよね……そうこなくっちゃ」
“ヒドゥンフレーム”を狙撃した張本人であるエンテは、笑った。
蛇のように、狼のように、獅子のように。
<貴様、なんのつもりだ!味方ごと……>
「さっさと帰んなさい。……次は当たっちゃうかもね?」
<な───>
エンテは有無を言わさずに、”アイアース”からの抗議の通信を切った。
複数で挑んでおきながら全滅しかける程度の雑魚はただ目障りでしかない。余計な手出しをする前に母艦に帰投させるのが一番だ。
また余計なことを言い出さないうちに、エンテは、愛機がその両手で保持する対艦狙撃ライフルを用いて”ヒドゥンフレーム”を射撃し始めた。
”アイアース”と分断するように放たれる狙撃を前に”ヒドゥンフレーム”は”アイアース”の撃破を諦め、懸架していたビームスナイパーライフルで応射し始める。
何か言いたそうにしていた”アイアース”も、今の自分がやれることはないと判断し、母艦への帰投を始めた。
「それでいいのよ、それで!」
そう、これでいい……否、
おぞましき願いによって生み出され、アルビノと蔑まれ、心の中に闇を持つ同士達と共に世界を嗤う。
どうしようもなくおぞましい
「これで、邪魔なく戦えるわねぇ!?」
その機体の名は、”クレイビング”。
『渇望』の名を持つ
またも更新間隔を空けてしまったこと、誠に申し訳なく思います……。
もはや謝罪芸と呼ばれても仕方有りませんね、これ。
今回登場したオリジナル機体の設定を載せておきます。
一応、私のオリジナルです。
長いし本筋に関わらないので読み飛ばしても大丈夫です。
ZGMF-XX03
クレイビングガンダム
ZAFTが開発した試作MS。『クレイビング』は『渇望』の直訳。
現在開発が進められている『ファーストステージ』と呼ばれる核動力搭載型機体群の内、その役目を終えて解体された試験機のフレームを通常動力機として調整した上で新型ブースターを背中に取り付けている。
本機の形式番号である「XX(トゥーエックス)03」の由来は、「ZGMF-X03A」を原型としていることから。
本機の特徴は背中に取り付けられた試作エンジン「サターン」による高機動力。
巨大な単発エンジンはその高出力のためにジンやゲイツでは扱いきれず、最悪空中分解しかねない代物だったが、核動力に耐えうるフレームの本機は問題無く扱うことが可能となっており、バッテリー駆動のMSで本機を上回る機体は両軍に存在しない。
弱点は、エンジンに電力を供給するためにPS装甲との両立が出来ず通常装甲となっているために防御力が低いこと。
特に背面装甲は一部フレームが露出している箇所もあるため、かすり傷でも致命傷になりかねない。
もう1つの弱点として、「じゃじゃ馬」と呼ぶに相応しい操縦難度の高さが挙げられるが、元々エンテのために開発されたような機体なので実質問題にはなりえない。
強者との戦いを『渇望』する彼女に相応しい機体と言えるだろう。
コンセプトは「ケンプファー」と「ヅダ」を足して2で割らないガンダム。
色はエンテのイメージカラーに合わせて白い装甲と赤いツインアイ。
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。