初めての決算作業で色々と頭もおかしくなっておりましたが、更新再開していきます。
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デブリ帯
<くそっ、どこに隠れやがったんだ……!?>
<敵は『ミラージュコロイド・ステルス』で透明になっている、僅かな反応や違和感も見過ごすな!>
隕石や艦艇の残骸が漂うその空間を、合計12機のMS編隊がくぐり抜けるように、かつ何かを探しながら進んでいく。
彼らは、先ほど”ブリッツ”が攻撃に失敗した艦隊から出撃してきたMS隊だ。
彼らの目的は罠に掛かった”ブリッツ”、そして”マウス隊”を撃滅すること。しかし、それはけして容易なことではない。
1機の”ゲイツ”が油断なくレーザー対艦刀を構えながら、破壊された”ローラシア”級の残骸の陰を確かめる。
敵の姿が見えないことに安堵した瞬間、彼の意識は永遠に刈り取られた。
『ミラージュコロイド・ステルス』を発動して透明になった状態で近づいてきた”ブリッツ”に、背後からサーベルで撃破されたからである。
「まず、1機!」
<いたぞぉっ、いたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!>
味方が撃破されたことを察知してすぐさま”ブリッツ”に向けて射撃が加えられる。
しかし、未だにZAFTではビームライフルを標準装備した量産MSは存在しないため、透明化を解除してPS装甲を展開した”ブリッツ”には碌なダメージも与えられない。
悠々とその場を離脱し、隕石の陰に隠れる”ブリッツ”。
しかし、パイロットであるセシルの心は焦りで満ちていた。
(残り11機……流石に私1人では無理ですねぇ。その前に”ブリッツ”のエネルギーが尽きますぅ。ていうかワンミスで死……うぅ、アイクさん、カシンさん、スカーレットチームの皆さん、隊長、助けてぇ……)
セシルが焦りを感じる理由は2つ。
1つは、”ブリッツ”のエネルギー切れ。”ブリッツ”は最大で80~90分の『ミラージュコロイド・ステルス』連続展開を可能としているが、それは戦闘を考慮しているものではない。
ただ展開するだけでその時間なのだ。戦闘行動も含めれば更に時間は削れる。
それに加えて、低温ガスの残量も問題となってくる。
『ミラージュコロイド・ステルス』でもスラスターの熱を隠すことは出来ず、たとえ透明になっていても熱を探知されてしまうとその隠密性は失われてしまう。
そのため、透明になっている時は熱を発生させない低温ガスを用いて移動するのだが、その残量が半分を切っているのだ。
そうなればもはや『ミラージュコロイド・ステルス』を用いても意味が無い。10を超える敵MSに囲まれてなぶり殺し……ならまだ良い方。
”ブリッツ”を鹵獲されてしまうやもしれない。
「それだけは勘弁なんですけどぉ……」
チラリと隕石の陰から敵部隊の方を窺うセシル。
先の失敗は繰り返さないと言わんばかりに最低でも2機以上の徒党を組んで”ブリッツ”を探す敵部隊。しかも、どの集団に攻撃を仕掛けてもすぐに他の集団が救援に駆けつけられる位置についている。
いくら”マウス隊”がデブリ帯での戦闘を得意としていても、これで攻撃するのは命知らずの所業に他ならない。
(それに……)
セシルの2つ目の懸念は、敵部隊の数が
ZAFT艦は基本的に6機のMSを搭載可能だ。そして、先ほどセシルが確認した敵艦の数は3隻。
───6機、足りない。
艦隊の護衛に回しているのかもしれないが、セシルの勘は「何かある」と囁いていた。
<セシル!>
遠くから飛来した極大のビームがZAFT部隊に向かって飛んでいく。カシンの乗る”バスター改”が、背中に装備された試作ビーム兵器を高出力で放ったのだ。
破壊力が大きいその一撃は弾速を犠牲にしているため、気付いたZAFT兵の号令によって避けられる。
カシンの目論見通りに。
<今のうちに離脱を!>
<ここは僕達が抑える!>
「はいっ!」
カシンは最初から敵を撃破するためではなく、敵部隊の統率を乱し、”ブリッツ”の逃げる隙を作り出すために攻撃していた。
その意図を理解したセシルは早々にその場を離れ、全速力で母艦の”コロンブスⅡ”へと向かう。
それを追いかけようとする”ゲイツ”の前方を遮るように、アイザックの駆る”デュエル改”が立ちはだかった。
<ここを通りたかったら、僕達を倒してからにするんだね!>
「取り逃がした……!」
ZAFTのMS隊、その隊長を務める男は舌打ちをした。
まだ完全に作戦が失敗したわけではないが、それでもZAFTにとってあの
あれだけの戦闘力と透明化を両立するのは、今のZAFTでは不可能だ。もしもあの機体が正式に量産されてしまえばと思うと、男は身震いをせざるを得ない。
まぁ、今はそれどころではないのだが。
<ナーダ!ちくしょう、こっちは12機いたんだぞ……なんでもう3機も落とされてんだよ!>
<焦るな、落ち着け!敵は”マウス隊”なんだぞ!>
これで3機。敵は合計で3機のMS、しかも1機は既にこの場を離脱して相手にしているのは2機だというのに、既にZAFT側の戦力は12機から9機、最初の4分の1を削られていた。
そのパイロット達も、けして腕が悪いわけではなく、実戦への参加経験を十分に持つ者達ばかりだというのに、この有様。
その原因は、
<なんっ───>
今もまた”バスター改”の発射したビームが、盾を構えた”ゲイツ”を、
”ゲイツ”の構える盾は耐ビームコーティングが確かに施されているのに、あのビーム兵器はそれを物ともせずに貫き、それどころかその先のMSをも撃破してしまえる威力を持つのだ。
”ブリッツ”を逃がす際に放たれた高威力ビームを放ったのも”バスター改”だとすれば、現在”バスター改”が背負っている武装は1つしかないため、1つの武器で2種類の弾を撃ち分けたということになる。
この調子で暴れ続けられた場合、”マウス隊”を撃滅するどころか逆に撃滅させられるのは時間の問題と言えた。
操縦桿を握る手の力を強くしながら、男は今回の作戦の要となる
「まだか……『雷』はまだなのか!?」
<カシン、次はあの”アイアース”だ!>
「OK!」
アイザックの言葉に頷き、カシンは照準用スコープをのぞき込む。
最初は適当に相手をしつつ、“ブリッツ”の帰投を確認次第撤退するつもりだったカシン達。
しかしそんな本人達の思いと逆行するかのように、敵を圧倒しているのはカシン達の方だった。
「……そこっ!」
”バスター改”が腰だめに構えた武器───『ヴェスバー』から、通常よりも早いビームが”アイアース”に向けて連続で放たれた。
1発目と2発目が”アイアース”のすぐ横を通り過ぎる。これはわざと外し、敵の動きを牽制するためだ。
3発目が”アイアース”の構えた盾に命中した後に貫通、その先の左腕ごと破壊する。流石に”アイアース”、ZAFTが”イージス”を元に開発した高級量産機だけあって、”ゲイツ”の装備する盾よりも高品質な盾を装備していたのだろう、即撃墜とは至らない。
そして、4発目が”アイアース”の胴体を捉え、その胸に穴を空けた。
「”アイアース”を、こんな簡単に……」
その威力にZAFT兵達は恐れおののいたが、それを操るカシンも同様に戦慄せざるを得ずにいた。
『ヴェスバー』の弾が敵の耐ビームを貫通するのは、言ってしまえば
故にこそ、ビーム兵器が両軍に広く普及し始めたこの時代であっても、対策となる実弾兵器の開発は何処でも進められていたのだ。
しかし、そこに「待った」を掛けたのが、”マウス隊”技術者陣の取りまとめ役であるマヤ・ノズウェルだ。
『ビーム兵器で正面から対ビーム盾を突破することは可能か』
その疑問に対する一種の解答として出されたのが、この『ヴェスバー』の高速射出モードである。
対ビーム盾は、命中したビームを屈折・拡散させて無効化している。高威力のビームであっても無効化出来るのは、高出力故にビームの収束率が低くなってしまうなどして拡散出来てしまうからだ。
───ならば、ビームが拡散しきる前にそのコーティングの一点に過剰な負荷を掛ければ、突破は可能なのではないか?
コーティングが拡散するよりも速くコーティングを貫通し、特殊鋼材の振動を物ともしない収束性を持ったビームならば?
そうして、レアメタルを始めとする資源と開発資金と時間を消費して出来上がったのが『ヴェスバー』だ。
問題は1つ作るので最低でも5~6機のMSが作れてしまうだけのコストが掛かることだが、これについては然したる問題ではない。
責任者であるユージが、「金を融通するにも限界はあるんだぞ」という表情を浮かべる
ついでに”マウス隊”の方に資金を持っていかれた他の部隊から睨まれることもあるが、これについては誤差の範囲内と言えよう。
それが許されるだけの成果を、”マウス隊”は挙げてきたのだ。
「これは……ちょっと、強力
現在の”バスター改”は本来装備している武装類を取り外し、右背部に『ヴェスバー』、左背部に予備のエネルギータンクを背負う形になっている。
『ヴェスバー』の正式名称は可変速ビームライフルなのだが、通常のライフルのように連射するには、MS1機から供給されるものだけでは足りず、別個にエネルギー源を用意しなければならないのだ。
だが、それで十を超えて十二分だったのだ。開発した人間達が『完成した』と言う頃には、どれだけの化け物になっているのか。カシンには想像もつかない。
「っと、それどころじゃない、ね!」
思案しながらも、カシンは自機に向けられた攻撃を避ける。
『ヴェスバー』をどう扱うかも、全てはこの場を切り抜けてからだ。カシンはそう考えて戦闘に集中し直した。
カシンは気付いていない。自分達が、
彼女とアイザックの技量があればそれは十分可能だったが、今回に限っては彼女は気付くべきだった。
この戦闘に、明らかにZAFT側が企みを持っていることに。そして、3隻いた艦隊から12機しか出撃していないことに。
<あれは……?>
アイザックが何かに気付いたような声を発する。
レーダーを見れば、後から発進してきただろう2機の”ジン”が、MSよりも大きな何らかの装置を持って、戦場に近づいてきているのが分かった。
その装置が何なのか、カシン達は知らない。
だが、培われてきたパイロットの勘は、最大級に警戒を促していた。
「任せて、私が……!?」
カシンが装置に攻撃を加えようとした瞬間、”バスター改”への攻撃が激化する。
明らかに”バスター改”を妨害しようという動きだ。これでは、”バスター改”にはどうしようもない。
”デュエル改”もどうにか対処を試みるも、先ほど撃破したのとは異なる”アイアース”の猛攻を捌くので手一杯だ。
「どうするつもり……!」
カシンが戸惑いの声を発した瞬間。
───宇宙に、『雷』が奔った。
「せ、成功したか……!」
”アイアース”のパイロットも務めるMS隊隊長は、モニターに映るもの───装甲色が灰色に変わり、動かなくなった”デュエル改”を見てホッと息を吐く。
その、本来有り得ない光景こそが、彼らの作戦の成功を知らせていた。
「『グングニール』……有効だったようだな」
『グングニール』。北欧神話のオーディン神が持つ槍の名を持つその装置の正体は、ZAFTが開発した新型
EMP自体には旧世紀から対策が存在しているおり、”デュエル改”と”バスター改”にもそれは施されている。
しかし、宇宙でしか製造出来ない特殊な圧電素子を用いたこの『グングニール』を防ぐことまでは出来なかったようだ。”ナスカ”級の格納庫をMS3機分埋めてまで持ってきた兵器なのだから、効果が無かったら困りものである。
実際、内部機器を電磁波で破壊され尽くした2機のPS装甲も、通電が止まったためにフェイズシフトダウンしてしまっている。
<やった、やったぞ!>
<俺達が、忌々しい”マウス隊”を、『ガンダム』を倒したんだ!>
隊員達の歓喜の声が聞こえ、隊長である男も思わず頬を緩めるが、気を抜くわけにもいかない。
作戦は、無事に帰投するまでが作戦なのだ。
「よし、それではグレンとハルキム、お前達が『ガンダム』を拘束しろ。───これより、『ガンダム』の鹵獲を開始する!」
『了解!』
開発されてから多少時間が経過したとはいえ、『ガンダム』は高性能機だ。そのパイロットも連合で5本の指に入るだろう強者達。
手の内に収めてしまえば、如何様にも出来る。
加えて、”バスター改”の装備する
部下の”ゲイツ”が2機の『ガンダム』を拘束したのを確認し、部隊は母艦への帰投を開始した。
本当ならば”ブリッツ”もここで捉えてしまいたかった隊長だが、問題はないと考えている。
なぜなら、戦闘が開始したことを確認次第、遠方に控えていた3隻の”ナスカ”級が駆けつける予定になっているからだ。
そちらには18機のMSがきちんと搭載されているため、エースを欠いた今の”マウス隊”で対処することは不可能である。
気付かれるのを避けるために遠方に待機させていたので、到着に20分ほど掛かるが、然したる問題ではない。
何故なら、既に勝敗は付いたようなものなのだから。
「これより、MS隊は”スピノザ”に帰還する!」
”コロンブスⅡ”艦橋
「何が起こった!?」
「電波障害発生、敵がEMP兵器を使用したと思われます!」
”ブリッツ”が”コロンブスⅡ”に着艦した直後、それは起きた。
あらゆる電子機器にノイズが発生し、艦内の電気が点滅したのだ。明らかな異常事態である。
そして、ユージには敵部隊が用いたEMP兵器に心当たりがあった。
(まさか『グングニール』……このタイミングでか!?)
『原作』において『グングニール』は、地球連合のパナマ基地をZAFTが攻撃した際に用いられた兵器だ。だからこそ、ユージも前世の知識で存在自体は知っていたものの、まさかという気持ちでいた。
───”マウス隊”を潰すために、こんなものまで使ったのか!?
だが、現実問題として『グングニール』を使われたのは事実。
そして、”コロンブスⅡ”よりも『グングニール』に近い場所にいたであろう2機のMSがどうなったかも。
「望遠機能復帰……ああっ、”デュエル”と”バスター”が!?」
未だノイズが奔るモニターに映し出されたのは、自慢の『ガンダム』2機が、抵抗出来ずに連れ去られていく光景だった。
ここで、ユージの中には2つの選択肢が存在していた。
1つ目は、アイザックとカシンを助けに行くこと。
そして2つ目は、2人を見捨てて、速やかにこの場から撤退することだ。
(今なら、安全に”ブリッツ”と、『グングニール』の情報を持ち帰れる……)
”ブリッツ”を、『ミラージュコロイド・ステルス』の技術を敵に渡すことだけはなんとしても避けなければならない。
加えて、『グングニール』の情報を持ち帰ることで、連合軍全体に対策を促すことも出来る。
そして、実は”デュエル”と”バスター”の2機が失われても、現時点では大した損失ではないのだ。
高性能とは言っても、既に連合軍は後期GATシリーズを始めとする更なる高性能機の開発が進められている。
『ヴェスバー』の技術が渡るのも痛いが、如何に『プラント』であっても『ヴェスバー』の高コストを解決することは出来ず、少数のMSに配備されるに留まるだろう。
あとは、あの2人を、アイザックとカシンを見捨てるだけ───。
「馬鹿か、俺は!───カルロス艦長、指揮を頼む!」
「どちらへ!?」
「
すぐに艦橋を飛び出し、格納庫へとユージは走った。
あの2人を見捨てる?部隊設立当初から共に戦い続けた戦友を?
一瞬でもそんなことを考えた自分を
(走れ、ユージ・ムラマツ!───ここで戦友2人救えない男が、この世界に抗えるものか!)
そして、彼は息を切らしながら格納庫にたどり着いた。
「やはり来ましたね、大馬鹿者。───準備は出来ていますよ」
予め格納庫で準備を進めていたマヤ・ノズウェルが手で差した、その先。
そこに、ユージの
後は、ユージが心を決めるだけだ。
「スマンが、逝ってくる!」
「ん……?」
順調に母艦へ帰投していたMS隊、その隊長は、自分達を追ってくるような反応があることに気がついた。数は1。
(馬鹿な奴らだ。たった1機で俺達と戦い、なおかつ『ガンダム』を奪い返すつもりか?)
ひょっとしたら補給を終えた”ブリッツ”が戻ってきたのかもしれないが、探し出そうとしていた先ほどとは違い、迎え撃つ分には対処出来なくも無い。
(いざという時には『ガンダム』を盾にするのも手だ。その場合は万が一破壊されても惜しくない
隊長の思案は、しかし
”ブリッツ”にしては、否、MSにしては
『ガンダム』と使用済みの『グングニール』を牽引しているとはいえ、ZAFT部隊が5で進んでいるとすれば、近づいてくる反応は10を超え、15を超える速度で迫ってきているではないか。
敵の新型MSかと疑ったが、それならば何故、先ほどの戦いでは出張ってこなかったのか。
そうしている間にも反応は近づき、そして、ついにモニターがその姿を映し出す。
「……MAだと!?」
「んんんんんぬおおおおおおおおおおおおおおっ!」
過剰なGに体を晒しながら、ユージは操縦桿とフットペダルを操作して敵部隊に近づく。
彼が乗っている機体、その名は。
「”エグザス”、ならばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
”エグザス”。本来の歴史であれば2年後に登場するこのMAに何故ユージが乗っているのか。
発端は、連合軍の広報部が「トップエース部隊の隊長であるユージ・ムラマツに専用機があった方が見栄えが良いのではないか」と考えたところからであった。
「隊長である自分が出撃する事態があるとは思えない」
そう言って最初は断っていたユージだが、技術部からの「貰えるものは貰っておけ」という突き上げ───実際は新たなオモチャを欲しただけ───を喰らい、ハルバートンの許可も降りたことで、専用機を手に入れることとなったのだ。
しかし、ユージは元MA乗りであってもMSを動かすことは出来ない。素質は問題ないが、MS操縦訓練を受ける暇が無かったのだ。
そこに目を付けたのが、かの”ノイエ・ラーテ”等を輩出した『通常兵器地位向上委員会』だ。
何処かから───十中八九、『委員会』メンバーでもあるヴェイク経由───このことを聞きつけた彼らは、
「”マウス隊”の隊長ほどの人物がMAに乗って活躍でもすれば、より多くの人間がMS以外の通常兵器に目を向けるかもしれない!」
そう考え、試作機が完成していた”エグザス”の提供を申し出たのだ。
先の時代に開発されている筈の”エグザス”がこの時点で存在しているのも、ひとえに彼らの努力の賜物である。
とは言え、ユージが”エグザス”を運用する上で大きな問題もあった。
”メビウス・ゼロ”の後継機である故に“エグザス”にも搭載されているガンバレル・システム。それを扱うのに必要な『空間認識能力』を、ユージは持っていなかったのである。
よって、この”エグザス”はユージが扱えるように改造が施されていた。正真正銘のユージ専用機でもあるのだ。
機首下部には本来の2連装リニアガンに代わって2連装ビーム砲を装備しており、この時点で十分な火力を備えている。
問題のガンバレル・システムは撤廃、その代わりに専用のウェポンポッドが取り付けられた。
ウェポンポッドはガンバレル同様に機体にX字状に配置されるが、上の2機には45㎜高速機関砲、下の2機には12連装マイクロミサイルランチャーが内臓されており、武装のバリエーションも豊富である。
機首も専用の物へと改造されており、なんと横方向にビームサーベルを展開することが出来るようになっていた。これにより、この機体はすれ違い様に敵MSを切り裂くことを可能としている。
もはや”エグザス”を元にした新型機であると評された本機を、改造を担当していた者達はこう名付けた。
”エグザス・アサルト”、と。
そして、”エグザス・アサルト”には明確に原型機を超える長所が存在する。
ウェポンポッド後部に搭載されたブースターが、ガンバレルの機能を取り除いた分パワーアップしており、更なる加速性能を発揮することが可能、という点だ。
「射角設定……軌道予測完了……連続発射間隔0コンマ5秒……射撃開始!」
ユージの設定した通りにミサイルが射出されていくが、驚くべきことに、ミサイルは前に飛んでいかない。
並走しているのだ。それはつまり、今の”エグザス・アサルト”がミサイルと同じ速度で進めるほどの機動力を持つ証明である。
そうして放たれたミサイルは、しかし敵部隊を狙ったものではない。近くに動けない”デュエル”と”バスター”がいるのだから当然でもある。これは単なる牽制だ。
いきなりの襲撃に混乱するZAFT部隊を”エグザス・アサルト”はそのまま通り過ぎ、大きめの隕石にワイヤーアンカーを射出、突き刺す。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
スイングバイ*1の要領でぐるりと方向転換した”エグザス・アサルト”の先には、突然の事態に対応出来ずにいるZAFT部隊。
極限まで研ぎ澄まされたユージの眼は、”デュエル”にほど近い位置の”ゲイツ”に目を付けた。
(俺は、天才じゃない。神様転生にありがちなチート能力なんかは
それでも、彼はたしかにこの世界を生き抜いてきた男だった。
そして生き抜くために培われたMA操縦技術は、そう簡単に失われたりはしない。
MSを上手く操縦出来ない?艦長としてもそこそこ?哀れな中間管理職?
───知ったことか!
「アーマー乗り、舐めんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
誇りを胸に行なわれた決死の突撃。機首からビームサーベルを発しながら行なわれたそれは、たしかに”ゲイツ”の胴体を両断した。
<なんだとっ……>
「ぐっ”っ”っ”っ”っ”っ”っ”っ”っ”!」
意識が飛びそうになるのを気合いで耐えたユージは機体を方向転換させつつ、霞む視界の中、左右に2機備わったワイヤーアンカーを”デュエル”と”バスター”に射出、牽引を開始した。
事態に対応し始めたZAFT部隊は当然それを妨害しようとするが、遠くから放たれたビームによって遮られる。
”ブリッツ”から愛機である”アストレイ・ヒドゥンフレーム”に乗り換えたセシルが、敵部隊をそのビームスナイパーライフルの射程に捉えたのだ。
「セ、ジル……まが、せたぁ!」
「任されましたぁ!」
高速で自分の脇を通り過ぎていく”エグザス・アサルト”を見送り、セシルは正面を見つめた。
そこには、”エグザス・アサルト”を追撃し、”デュエル”と”バスター”を奪い返そうと迫ってくるZAFT部隊の姿があった。
この時点で6機のMSを失っている以上、成果無しに帰るわけにはいかないのだろう。
ユージが撃破した分、『グングニール』を持ち帰るために離れた機体の分を合わせても、敵MSは残り6機。たった1機で相手をするには無理がある。
「───あなた達には、今から私の主催するゲームに参加してもらいます」
セシルの目が、スッと細まる。この状況に憤っているのは、セシルも同じだったのだ。
”ブリッツ”を奪わせないために自分が戦闘に参加できずにいる間に、思い人と、貴重な同性の戦友を奪われるかもしれなかったのだから仕方のないことではある。
そして、MSパイロットどころか普段は出撃することの無い自分の隊長があれだけ奮戦したのに、自分は何も戦果無しなど認められるわけがない。
普段は気弱で引きこもり体質なゲーマーの彼女だが、彼女にも、”マウス隊”の一員としてのプライドがたしかに存在していたのだった。
「私が
『サッカーやろうぜ、ボールはお前な』と」
”ヒドゥンフレーム”の前面を隠すように展開された防御用ガードコート。
その裏で、それぞれ両手に握られた2丁の大型自動拳銃が、鈍く煌めいていた。
1話辺りに毎回1万字も書くから投稿遅いんだよっていうのはわかってるんですけどね……とりあえず、更新です。
ギレンの野望でヴェスバーが登場したら「敵ユニットのシールド無効化」とかの特性付いてるかもなと深夜テンションで妄想してる日々です。(なお、そんなことしたらゲームバランス崩壊不可避)
エグザス・アサルトとユージのステータスを載せておきます。
エグザス・アサルト
移動:9
索敵:C
限界:180%
耐久:150
運動:52
武装
2連装ビーム砲:150 命中 75
マイクロミサイル:80 命中 60
機関砲:70 命中 55
ビームサーベル:160 命中 80
???(隠し武器):250 命中 30
ユージ・ムラマツ(Sランク)(成長限界)
指揮 15 魅力 13
射撃 13 格闘 9
耐久 12 反応 10
ちゃんと主人公を主人公らしく活躍させたの、いつ以来だろう……()。
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。