機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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はい、案の定投稿間隔空きました。
……仕方ないやん、アーセナルベースめっちゃおもろいんですもん。


第103話「バルトフェルド、特攻」中編

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”アークエンジェル” 艦内通路

 

「敵は第12ブロックから侵攻しているぞ!」

 

「進ませるな!そうすりゃ勝手に弾が切れて自滅していくだけだ!」

 

叫ぶ兵士のすぐ近くを銃弾が掠めた。男性兵士は舌打ちをしながらバリケードに身を深く潜める。

”アークエンジェル”艦内では現在、至る所で銃声と怒号が飛び交っていた。無理も無い、タダでさえ昼間の戦闘で疲弊しているところに、予想外の攻撃を仕掛けられたのだ。

接近に気付いてバリケードを築くものの、そもそも現在の”アークエンジェル”に対人戦に長けた兵士はほとんどいないことも相まって、戦局は若干だがZAFT優位に進んでいた。

 

「ちくしょう、まるで火力が足りてねえ!おい、援軍はまだか!」

 

「ダメだ、第17ブロックの方からも侵入されてる!こっちに回す戦力なんて残ってねえだろうよ!」

 

Holy shit(くそったれ)!」

 

悪態を吐きながら男達は物陰から拳銃を撃ち返すが、次の瞬間にはその10倍はあろうかと錯覚する弾幕に襲われる。

当然のことだが、普段から艦内で拳銃以上の装備を持ち歩くことは基本的に禁じられている。

そして、ZAFT部隊が速攻での奇襲を仕掛けてきたために”アークエンジェル”の兵士は十分に武装する暇もなく、自前の拳銃だけでの戦闘を強いられていたのだった。

対するZAFT側はそんなことお構いなしにアサルトライフルや軽機関銃を使用し、連合兵達を圧倒していた。

しかし、そんな状況を打破する一手が訪れる。

 

「お待たせしました!」

 

「おい、てめぇどこ行って……!?」

 

先ほどから姿が見えなくなっていた少し年下の同僚が姿を現し、その場にいた兵士達はぎょっと目を剥いた。

その青年兵は、爛々と目を輝かせながら、隙間から手榴弾がはみ出た───おそらく、他にも色々と詰め込んでいる───リュックを背負い、両手には機関銃を抱えていたのだ。

明らかに興奮状態にある青年兵はリュックを床に置き、手榴弾を差し出す。

 

「さっき、武器庫から貰ってきました!使ってください!」

 

「……言いたいことはあるが非常時だ!よくやった!」

 

兵士達はリュックからそれぞれ装備を取り出し、物陰に隠れながら好機を窺う。

現在、敵は制圧射撃*1を行なっている。給弾のためにそれが途切れた時が、彼らにとって逆転の好機となる。

 

「今だ!」

 

兵士達が一斉に手榴弾を敵部隊の側に向かって投げ放ち、その隙に青年兵は持ってきた機関銃、M240B機関銃をバリケードの平面に固定する。。

 

「由緒正しき7.62mm弾を喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」

 

「やれやれぇ、ぶっ放せぇ!」

 

形勢逆転、今度は”アークエンジェル”側が制圧射撃を行なう側に回る。

壁に命中したり跳弾した弾が壁や床に弾痕を刻み、整備士が見れば間違い無く悲鳴を挙げるだろうダメージを刻み込んでいくが、そんなことを考慮する余地が彼らに残っている筈が無い。

パワーバランスの変化に喝采の声を挙げる連合兵士達。だが、そのままで済ませてくれるような人間が“バルトフェルド隊”にいるわけもなかった。

気前よく連射されていた機関銃弾が突然途切れる。弾が切れたのだ。

 

「リロード……っと!?」

 

「何やってんだバカ……ふせろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

弾を補充しようとする青年兵士。しかし、その手つきは滑らかとは程遠い。

あくまで彼らは艦艇の乗組員であり、対人戦に秀でているわけではないのだ。使い慣れない機関銃の装弾に手間取るのは当然だった。

そして、先ほどの光景を焼き直すかのようにZAFT兵が手榴弾を投げつけてくる。

咄嗟に隠れようとして成功する者もいれば、反応が遅れて逃げ切れなかった者も生まれる。

 

「あが、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」

 

「くそっ、目がかすむ……!」

 

「落ち着け、怪我した奴を引っ張って後退するぞ!」

 

目を押さえて苦しむ味方を引っ張りながら、連合兵達は後退を開始した。先ほどの爆発でバリケードが限界を迎え、崩壊してしまったからだ。

必死に負傷した味方と共に物陰に隠れた男は、ふと、先ほど機関銃を持ってきた青年の姿が見えないことに気付いた。

素早く周囲を窺い、彼はそれを見つける。

───床に転がった機関銃の残骸と、そのグリップを握ったままの形でひっついている、人間の右腕を。

 

「っ……くそ!」

 

こみ上げる吐き気を抑え込み、必死に銃を敵兵に向けて発射する。

次の瞬間には、自分が()()なっているかもしれない。

自分の命が掛かっているこの状況で、悲しむ暇など残されてはいなかった。

 

 

 

 

 

”アークエンジェル” 艦橋

 

「第7ブロックで爆発を確認しました!爆発の規模から、おそらくRPG*2によるものかと思われます」

 

「大盤振る舞いね!貰ってばかりで、心苦しくなるわ!」

 

CICから挙げられてくる報告に、マリューは皮肉を漏らす。

現在、艦橋内部とその外では銃撃戦が繰り広げられており、艦橋内部の損傷やマリュー達の足下に落ちている空薬莢の数は加速度的に増していた。

艦橋正面に空けられた風穴はその数を増やしており、2方向から行なわれる射撃にマリュー達は必死に撃ち返すも、状況は極めて芳しくなかった。

 

「くそっ、切り返せない……!」

 

「どうすんの、これじゃじり貧だよ!?」

 

穴からは死角となる物陰に隠れながらエリクとアミカが悲鳴を挙げる。その原因は、戦闘時に下ろされるシャッターにあった。

”アークエンジェル”の艦橋内部は普段は強化ガラスで外の空間と隔たれているが、戦闘時には脆弱なガラスを保護するためにシャッターが下ろされる。

しかしそのシャッターは至近距離での爆発で穴を空けられたばかりか、骨格が歪んだことが原因で挙げることも出来ない。

しかもZAFTは持ってきた爆薬などで好き放題に爆破出来るのだ。シャッターは今や、ZAFT兵にとっての強力な壁として機能してしまっていた。

防げた筈の無様さにマリューは歯がみをするが、何も打開策がないわけではない。

CICの内部に隠れながら、マリューはサイに問いかける。サイは銃撃から身を隠しながら、必死にノートPCを介して艦内の状況をマリュー達に知らせていたのだ。

 

「クレンダ中尉の班の動きは!?」

 

「現在、第4ブロックを通過中!あと少しで非常口にたどり着きます!」

 

CICの内部に隠れながら、マリューは隣のサイに問いかける。サイは銃撃から身を隠しながら、必死にノートPCを介して艦内の状況をマリュー達に知らせていた。

クレンダ中尉とはMPの1人であり、現在彼は数名の部下と共に小隊を編成し、艦外に繋がる非常口を目がけて走っていた。

彼らが外から艦橋を攻撃しているZAFT兵を攻撃してくれれば、この状況を打開出来る。

奮戦しているだろう味方を信じて、マリューは拳銃の弾倉を交換する。

 

「苦しいけれども、頑張って耐えるわよ!」

 

「はい!」

 

サイの返事に頷き、マリューは再び銃を敵に向かって発射し始めた。

キラやトール、ここにいるサイのような少年達が必死に戦っているのだ。大人の自分が怠けられる筈もない。

マリューの一念が通じたのか、マリューの発射した弾丸が艦外から僅かに顔を覗かせていたZAFT兵に命中する。

兵士はそのまま足を滑らせて艦橋から脱落していった。

 

「やった!」

 

「気は抜かないで!まだ、たったの1人よ!」

 

歓声を挙げるクルーをマリューは制する。彼女の言うことは正確だった。

───戦いはまだ、始まったばかりなのだ。

 

 

 

 

 

”アークエンジェル” 格納庫

 

「お待ちしておりましたよ、ヤマト少尉!」

 

「トラスト少尉、機体は?」

 

「最悪一歩手前ですが、なんとか!」

 

格納庫内にたどり着いたキラ達を、ヘルメットを被ったアリアが出迎える。

その顔には笑みが浮かんでいるが、それが不安の裏返しのヤケッパチからくるものだということは、誰にも理解出来た。

格納庫の内部でも、既に整備士達の武装やバリケードの設置が半ば完了しており、遠からずこの場所も戦場になることを予感させる。

 

「手早くいきましょう。動かせるのは”ストライク”と”ダガー”が1機、マイケルさんのです。他は動かせる状態じゃありません」

 

「なんで俺のが?」

 

「一番MS隊でヘイトを買い辛かったからです」

 

先の戦闘では、他の”ダガー”隊はそれぞれに攻撃を集中させるだけの理由があった。

ムウは優先して落とすべき隊長機であり、ベントはランチャーストライカーの高火力装備をしていたため、積極的に攻撃が加えられていたのだった。

結果的に、一番被弾や負荷の少なかったマイケルの機体だけは戦闘可能状態にまで復旧出来たのである。

 

「なので、申し訳ないんですが他のMS隊の皆さんには格納庫の防衛を手伝って貰おうと思います」

 

「ちっ、動かせねえんじゃ仕方ねえか。武器は?」

 

「向こうに。でも時間が無くて、数が不足してます」

 

「分かった。キラ、お前にMS隊の指揮権を一時的に委譲する。出来るな?」

 

如何にムウといえどマイケルの、他人のために調整された機体に乗って出撃しようという気にはならなかった。

それくらいなら使い慣れた本人に任せた方が良いと考え、MSに乗れない自分の代わりに、自身に次ぐ階級のキラに臨時指揮官を任せようとする。

実際の指揮経験などキラは持っていないが、幸か不幸か他の味方はマイケルのみ。ならば2人組(ツーマンセル)の感覚で出来るだろうと考え、頷いた。

 

「やってみます」

 

「頼んだぞ。───行くぞ、ヒルダ、ベント」

 

やることが無くなってしまったムウは、同じくMSに乗り込めない2人を引き連れて武器弾薬が集められて分配されている場所に向かおうとする。

2人はそれに頷いて追従しようとするが、立ち止まってキラとマイケルの方に振り返る。

 

「キラ君、マイケル……無事で」

 

「あたし達はこっちで頑張るから、そっちも頑張ってね」

 

2人からの言葉にキラとマイケルはうなずき、アリアに先導されながら乗機に向かって走り始めた。

もしかしたら、これが今生の最後の対面かもしれない。それは当人達にとっても分かっていた。もっと言葉を交わしたかった。

しかし、そんな時間は残されていないということを彼らはよく理解していたのだ。

彼らは少年ではなく、軍人だった。

 

「良いですか?現在の”ストライク”は各部品の摩耗と整備不足によって、概算で2割近く性能が低下してる状態と考えてください」

 

「2割……」

 

「いつもの調子でぶん回してたら、あっという間に()()()()になりますから気を付けてください」

 

外側から見る“ストライク”の装甲は、昼間の戦闘で付いた傷が付きっぱなしになっていた。

これから乗り込むと考えると不安しか無い有様だったが、それでもこの状態にするまで整備士達が全力を注いでくれたのだ。むしろ2割の性能低下で済んでいることを、キラは感謝した。

キラがよく見ると、アリアはタブレットを持つ手を震わせている。キラの視線に気付いたアリアは、彼に苦笑いを見せる。

 

「あはは……分かります?」

 

「……うん」

 

「戦争やってるくせにっては思うんですけど、実際に撃ち合うってなったら震えて怯え出すっていうのも馬鹿馬鹿しい話なんですけどね……」

 

「……早く安全なところに隠れた方がいい」

 

”ストライク”のコクピットに乗り込みながら言うキラの言葉に、アリアはどこか投げやりな言葉を返した。

否、()()()()()()

 

「もうこの艦で安全な場所なんて残ってませんよ。それでは、お気をつ───」

 

けて、と言おうとしたタイミングで言葉は中断された。

格納庫内のドアの1つが爆発し、そこから銃撃が開始されたからである。

ついに敵は、格納庫にまで到達してしまったのだ。

 

「え───」

 

突然の状況に事態をハッキリ認識出来ないアリア。

彼女は技術者としての力量は高かったが、咄嗟の判断力には欠けていた。

そしてキラは、”ストライク”のコクピットの前という、格納庫内で最も無防備かつ開けた場所に立つ彼女にライフルを向けるZAFT兵の存在を認識した。

 

「少尉っ!」

 

「きゃあっ!?」

 

咄嗟にアリアの腕を掴み、コクピット内に引き込むキラ。直後、アリアの立っていた場所を銃撃が通過していく。

ホッと息を吐き、コクピットハッチを閉じるスイッチを押す。

PS装甲は非起動状態(ディアクティブ)であっても多少の頑強さはあり、歩兵火器程度で破壊することは困難だ。ましてや周囲から攻撃を受けている状況下でZAFT兵もわざわざ”ストライク”を狙うことはしないだろう。

ひとまずの安全を確保出来たことでキラは息を吐いた。

 

「あの……」

 

耳元で聞こえた声にキラは一瞬思考停止した。

考えれば当然のことだが、キラは先ほど、アリアを銃撃から守るために”ストライク”のコクピットに引きずりこんだ。

ここで計算外だったのは”ストライク”のコクピットの狭さだ。

”ストライク”を始めとするGATシリーズの機体は、どれも試作機としてデータ収集のために様々な機材をコクピット周りに搭載している。その影響で、通常のMSよりも機内が狭いのだ。

勿論、通常時は1人で乗るために問題にはならないことではあるのだが、現状はキラとアリアが無理に同乗している状態であるため、2人が自由に動けるスペースはほぼない。

結論、アリアがキラに抱きつくような形になっていた。

 

「あっ、えと、ごめん緊急事態的なあれっていうか……その……」

 

「いえ、別に……」

 

何故か機内に漂う気まずい空気。

キラの状況判断はけして間違ってはいないのだが、同年代の女子と密着する事態に対して彼の精神的防御力はけして高くはない。

訓練生活中にユリカという、やはり同年代の少女と生活を共にしたことはあっても、このように直接触れることは少なかった。

加えて、彼の性格は『ヘリオポリス』の工業カレッジ学生の時から大きく変化していない。

ナードの少年にこの状況は劇薬に等しかった。

 

「きゅ、窮屈ですし、ちょっと脇に避けますね」

 

「う、うん」

 

「んしょっと……あっ」

 

「っ!!?!!!!?!???!??」

 

せめて少しでもスペースを作ろうとアリアが身じろぎするが、無理に飛び込んだ影響で崩れたままの体勢だったため、却ってキラと体を縺れさせてしまう。

結局キラはこの後、艦橋との通信が繋がるまで、機械油に紛れた少女の香りや衣服越しでも感じられる女子の柔らかさと苦闘することになる。

彼もまた、兵士であると同時に少年であった。

 

 

 

 

 

”アークエンジェル”医務室付近通路

 

「ちくしょう、撃たれた!」

 

「落ち着け、防弾チョッキ着てるだろ!」

 

「着てても痛えもんは痛えよ!」

 

「そりゃそうだ!」

 

キラが悶々としている頃、医務室付近のこの場所でも、激しい銃撃戦が繰り広げられていた。

今も襲撃前に武装することにした船員の1人が肩に銃撃を受け、その痛みに苦しんでいるが、それでも彼らは戦うことを止めない。

否、()()()()()()のだ。

 

「しっかりしろ、ここを突破されたら……。後ろには戦えない怪我人しかいないんだぞ!」

 

医務室やその付近には、昼間の戦闘で撃墜されるも生還したトールを始めとして多くの怪我人が集められている。

もしも彼らがこの場所を突破されれば、戦えない者達が危険に晒されるのだ。であれば、どれだけ不利でも退くワケにいかない。

しかし敵も決死の覚悟で挑んで来ているだけあり、防衛側が反撃に転じることを許さない。

銃の弾丸を装填する隙は小さく、時折手榴弾を投げて防衛側のバリケードの突破を図ってくるのだ。

既にこの場所に来るまでも2箇所のバリケードを突破されており、防衛側にとって認め難いことではあったが、突破も時間の問題と言えた。

 

「チクショウ、せめて、せめて少しでも反撃の機会があれば……」

 

「───目を閉じ、耳を塞ぎなさい」

 

突如聞こえてきた指示に男達が首を傾げていると、防衛側の奥、つまり医務室の方角から、何かがZAFT側に向かって飛んでいく。

反射的に指示通りに行動出来た者は幸運だ。

その直後、その空間を激しい閃光と金斬り音が埋め尽くしたのだから。

何者かが、鎮圧用手榴弾(スタングレネード)を投げ込んだのだ。

 

「───っ!?」

 

両手で耳を塞ぎ、金斬り音から鼓膜を防護していた船員達は、白衣を着た何者かがバリケードを飛び越し、ZAFT兵の方向に向かって行くのを見た。

ZAFT兵と思しき怒鳴り声と銃撃音が金斬り音の中に混ざり、そして金斬り音と共に消えていく。

 

「っはぁ、なに、が起きた!?」

 

「ZAFTは……」

 

「───拘束具を持ってきてください!早く!」

 

戸惑っている船員達の元に女性の声が響く。

声の主は、先ほどまでZAFT兵が身を隠していた曲がり角の向こうにいるようだった。

数人が警戒しながら向かうと、その場所には胴体を撃ち抜かれたZAFT兵の死体が2つ。

そして。

 

「クソが、なんなんだこいつはぁ!?」

 

「大人しくしなさい。貴方達は病気です。直ちに治療を行ないたいところですが、残念ながら今はその余裕がありません。なのでしばらく拘束させてもらいます」

 

ZAFT兵をうつ伏せに組み伏せ、その頭部にデザートイーグル*3を突きつけるフローレンス・ブラックウェルの姿があった。

状況に戸惑いつつも手錠を使ってZAFT兵が拘束されたのを確認すると、フローレンスは数人の船員に声を掛ける。

 

「そことそこ、そして貴方。力を貸してください、これより船内の負傷者を救助に向かいます」

 

「えっと、それは良いんですが……」

 

「なにか?」

 

「着いてくるんですか……?」

 

Origin-12ショットガンに弾倉を装填するフローレンスに引き気味になりながら船員は尋ねる。

何故この軍医は、世界最速の連射速度を誇るとされたショットガンを使う準備を進めているのだろう。

そして、何故そのショットガンが医務室の中から取り出されるのか。常備しているのか?そしてそれは船医としての仕事のどういった用途で使うものなのか?

 

「当然です。既に医務室近辺の患者への応急手当は完了しました。ならば後は、船内各所の患者を救出するべきです」

 

「いや、仰る通りではあるんですが……」

 

「では行きますよ。他の皆さんは引き続き防衛をお願いします」

 

「あっ、はい……」

 

動揺から立ち直れない船員を引き連れて、フローレンスは銃撃音の響く方向へ向かって走り始めた。

フローレンスを追って選ばれた船員達が駆けていくのを見ながら、後ろ手に拘束されたZAFT兵は船員に尋ねる。

 

「なあ、連合の軍医ってのは、皆()()()()なのか……?」

 

『断じて違う』

 

残された船員達が声を揃えて返事をしたことに、ZAFT兵は心底安心した息を吐いた。

 

 

 

 

 

”アークエンジェル” 特別区画

 

「なんとかしろ、MPだろ!」

 

自分の後ろ、それも射線の通らない場所から喚く研究員に弾丸を撃ち込みたい衝動に駆られながら、男は必死にZAFT兵に向かって銃撃を繰り返す。

先ほどまで艦外で先輩MPと共に目視による監視を行なっていた彼は武装を完了して迎撃のために移動している最中、研究員に声を掛けられた。

その話を要約すると、『自分達を安全な場所まで護衛しろ、しかし検体や研究データ保護のためにしばらくは動けないのでそれまではこの場所で防衛しろ』とのことだった。

こんな状況下で何を言っているのかと男は思ったが、一応彼らも船員であることからその場での防衛を開始したのが、ここに至るまでの経緯だった。

 

「先輩、増援は!?」

 

「……ダメだ、どこも手一杯で来れそうにない!」

 

「泣きてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

彼が弱音を吐くのも当然のことだった。今現在、この場所を守っているのは自分と先輩の2人だけなのだから。

むしろ、敵が白兵戦においても高度な能力を誇るコーディネイターであることも考慮すれば、未だに防衛戦が成り立っているのが奇跡ですらあった。

先輩隊員とて弱音を吐きたいのは同じであり、なおかつ研究データなどのために余計な手間を取らせる者達など放り出してしまいたかったが、それが出来ない理由がある。

 

「せめて()()()が逃げる時間くらいは稼げ!やれるだろ!?」

 

部屋の中には、先の戦闘の後に気を失ってしまったスノウもいる。

16歳の少女を残していけるほど、男達は意地を失ってはいない。

 

「やりゃいいんでしょ、やりゃあ!」

 

「その意気だ!」

 

男達が奮起する中、研究員達は部屋の中で紛糾していた。

 

「くそっ、早くしろ!このままでは皆殺しにされるぞ!」

 

「大丈夫だ、これで……」

 

薄着でベッドに横たわり、うなされるスノウの腕に研究員は注射器を刺し、その中の液体を注入する。

この液体は普段の薬剤よりも多量の成分が含まれており、使用者の体への負担も大きいために研究者達も使用には乗り気ではない代物だった。

しかし、この状況から生き延びるためには、なんとしても目の前の少女(生体CPU)に目覚めてもらう必要があった。

 

「さぁ、起きろ!起きて奴らを皆殺しにするんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤダ、ヤメテ、トメテ、イタイ。

イタイ、イタイ、イタイ。

イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ。

……コワイ。

 

『なら、殺さなきゃ』

 

……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コ ロ ス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貸せ」

 

「あぁ!?……えっ?」

 

後ろから聞こえてきた平坦な声に怒鳴り返す男だが、その声の主に気付き、困惑の声を挙げる。

彼の後ろには薄着のスノウがユラユラと立っており、その手には、男が背中に背負っていた戦斧が握られていた。

 

「ちょ、何やって」

 

男が言葉を発しきるより前にスノウは跳躍。

()()()()()()()敵の弾丸を避けて接近する。

 

「なんだこい───」

 

「───ぐるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

そこから先の光景を、2人のMPは「まるで獰猛な獣による狩りのようだった」と後に語った。

斧で敵兵の首を切断し、蹴りで成人男性を5メートル近く吹き飛ばして壁に叩きつけ、掴んだ男の首を握りつぶす。

終いには壁に叩きつけられて苦しむ兵士の元に一飛びで到達し、顔面に跳び蹴りを叩き込む。

壁に真っ赤な花が咲いたみたいだ、などと男が思ったのは、目の前の光景を作り上げた存在の正体を正しく理解したくなかったからかもしれない。

首から上を失った死体が崩れ落ちるのを確認した後、再びユラユラとした足取りで、(スノウ)は何処かへ歩いて行った。

MP達はそれを追いかけようとしたが、後ろから手を掴まれてそれを阻まれる。

 

「何をやっている、さっさと私達を───」

 

「何やったんだお前らぁ!」

 

守れ、と言おうとした研究員の手を振り払い、男は研究員を壁に突き飛ばした。

咳き込む研究員の胸ぐらを掴み、男は怒りのまま詰め寄る。

 

「あんなのがテメエらの研究成果とやらか、ふざけんな!人をなんだと思ってたら()()()()()が出来る!」

 

「げほっ、貴様、こんなことをして、ゆるさ」

 

「許されたくもねぇよお前らなんぞに!」

 

感情にまかせて振りかぶった拳を、先輩隊員が掴んで止める。

何故止める、と振り向いた男だが、先輩隊員は首を振り、研究員達を安全と思しき方向へ誘導を始めた。

 

「なんで俺達、こんな奴らを」

 

「スマン。正直言えばあのまま殴らせてやりたい気持ちはあった」

 

ポツリとこぼした先輩隊員の言葉に、男は耳を傾ける。

 

「だが、あのまま殴らせたら、撃っちまいそうだったからな。……スマン」

 

表情の死んだ顔でそう言った先輩隊員に、男は「自分が正常である」という安心感を得て、自嘲する。

そんなことがどうしたというのか。

『異常』な人間によって殺戮機械へと変えられてしまった少女に、何が出来るわけでもないのに。

 

 

 

 

 

混迷を極める戦場と化した”アークエンジェル”艦内。

しかし、そこに更なる凶報が届く。

MS3機と、”ピートリー”級陸上駆逐艦が1隻、”アークエンジェル”目がけて接近している、と。

*1
対峙している敵勢力に対して間断のない射撃を加え続けることによって敵の自由行動を阻止し、味方の行動機会を作るために行われる攻撃

*2
携行型対戦車ロケットランチャー

*3
.50AE弾を使用する世界最強クラスの威力を誇る大型自動拳銃




というわけで、中編です。
たぶんあと2話くらい掛かります()。
ほんと話進まねえなこの小説。

現在のアークエンジェル艦内の様子
①艦橋が銃撃戦の真っ最中で機能停止。
②出撃可能MSが2機。
③格納庫内でも銃撃戦が発生。
④軍医が船員複数名を引き連れて艦内で救助活動を開始。
⑤スノウ、暴走。

頑張れキラ。
特にお前が頑張ってどうにかなることとか無いけど、とにかく頑張れ。
ちなみに今のスノウは肉体のリミッター的な物が外れているので危険。
他作品で例えるなら、コードギアスのスザクが斧持って半ば理性消失した状態で艦内練り歩いてるようなもんだけど、まあ、頑張れ。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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