【挿絵表示】
車椅子ニート(レモン)様よりいただいたファンアートです!
番外編で主役を張ったヘク・ドゥリンダ(上:大人、下:少年時代)とのことです、感謝しか勝たん!
ちなみにステータス。
ヘク・ドゥリンダ(ランクB)
指揮 11 魅力 10
射撃 12 格闘 13
耐久 11 反応 13
得意分野
・指揮 ・格闘
4/26
中部アフリカ ”アークエンジェル” エンジンブロック
「エンジンの調子はどう?」
「腹立たしい話ですが、あと半日もすれば応急修理はなんとか終わります。ここまで綺麗な壊し方をされると笑えてきますね」
マリューの問いかけに、整備兵は苦々しげに答える。
戦闘が終了しておよそ8時間が経過し、すっかりと日が落ちた時間帯になったが、”アークエンジェル”の中からは未だに大勢の乗員の声が響いていた。
今の”アークエンジェル”は飛行不可能という致命的状況に陥っており、それが治り安全圏まで脱出するまではこの喧噪が止むことはないだろう。
「綺麗な壊し方?」
「はい。こちら、被害状況の詳細になります」
「……たしかにね」
整備兵の言う「綺麗な壊し方」という例えに、マリューは納得した。
損傷が
かつて『ヘリオポリス』で”アークエンジェル”の開発に携わっていたこともあってオブザーバーとしてこの場に呼ばれたマリューだが、その必要は無かったと言って良いだろう。
マリューの見た限りでは、現状の人員でも十分に対処出来るだけのダメージなのだから。
「ミヤムラ司令の予測は正しかったということかしらね」
「”アークエンジェル”の鹵獲でしたっけ?たしかに、それならこの損傷具合にも納得ですよ。自分達で使えるようにしておきたいでしょうから」
「『深緑の巨狼』……敵ながら、見事な砲撃能力だったわ」
感嘆の声を漏らすマリュー。
後々に自分達で直して使うつもりだったとはいえ、スミレの砲撃は正確だった。
彼女が本気だったならば、艦橋を撃ち抜くことは容易いことだった。マリューはそのことを改めて理解させられたのだった。
「とはいえ、危険な状況なのは間違い無いわ。キツいかもしれないけれど、出来るだけ早くお願い」
「任せてください、せっかく”バルトフェルド隊”に真正面から勝利したんです、こんなところで死ぬんじゃ勿体ない」
ニッと力強く笑う整備兵に軽く敬礼し、マリューは艦橋への道を辿った。
後始末に追われて激務続きではあったが、今、艦長である自分が責務から離れるワケにはいかない。
「うっ……」
歩いている途中、目眩を感じたマリュー。
足取りも覚束ないまま、彼女は足を縺れさせ───。
「ドクターストップをかけさせていただきます」
倒れ込む直前に、誰かに肩を支えられるマリュー。
顔を上げれば、そこにはフローレンスの顔があった。
「ブラックウェル中尉……」
「申し訳ありませんが、これより6時間の休息を取っていただきます。既にミヤムラ司令には許可を得ています」
「だけど、私は」
「今の貴方に艦を任せたいと、私は思いません。……ご自愛ください」
フローレンスにも、現状がどれだけ危険であるかは理解出来ていた。
故にこそ、彼女はマリューに休めと言う。
艦長の働きが悪い艦など、どれだけ他の船員が優秀でも大したことは無いのだ。
結局、けして譲る気を見せないフローレンスにマリューも折れ、休息を取ることにしたのだった。
「……分かりました。部屋まで、連れていってちょうだい中尉」
「勿論です艦長。ムラマツ中佐に
「ふふ……想像出来るわね」
”アークエンジェル” 休憩スペース
<……と、いうわけでラミアス艦長はしばらく席を外すことになった。私のような門外漢では頼りないだろうが、現状の報告を頼む>
「構いませんよ。現状、正直に言うと、艦長がいてもいなくても大して変わりませんから」
モニターの向こう側に映るミヤムラに向けて、アリアは肩を竦めて見せた。
彼女は現在、彼女の居城とも言うべき格納庫から少し離れた通路に設置された休憩スペースにて、その手に持ったタブレットを用いてミヤムラと話していた。
ともすれば上官への侮辱とも取られかねない言葉だが、ミヤムラが顔を顰めたのは別の理由によるものだった。
<それほど酷いのかね、MS隊は?>
「今、それなりに装備の整ってるZAFTの部隊に襲われでもしたらアウトですね。無事に動ける機体なんかほとんどありませんよ」
彼女の言葉の真意は、正しくその通りだった。
現在も整備兵がフル稼働して傷ついたMS隊の修理作業に取りかかっているが、現状で戦闘に出せるような機体はほとんど存在していなかったのだ。
彼女が格納庫を離れてこの場所で話をしているのも、今の格納庫は怒号と作業音に埋め尽くされているために話が出来るような環境ではなかったから、というのもあった。
”アークエンジェル”は飛べない、MS隊も動けない。
このような状況では、マリューが艦長席に座っていたとしても意味はほとんどない。現状の”アークエンジェル隊”に出来ることは、修理を急ぐことだけなのだから。
「”ストライク”は機体全体の装甲に多数の損傷、フレームもかなり摩耗しています。
”デュエルダガー・カスタム”も似たような状態ですが、こちらは論外ですね。今は
”ダガー”隊の損耗も無視出来ません。特にミスティル軍曹の機体、あれはもはやスクラップ同然ですよ」
実際に見たアリアには、そのことがよく理解出来ていた。
両脚は“フェンリル・ミゼーア”に引きずられたことでモーターが圧壊寸前。左腕も”フェンリル・ミゼーア”を拘束し続けるために『パンツァーアイゼン』を使用し続けた結果、千切れかけだった。
かといって胴体と右腕も無事ではなく、それまでの激戦に晒されたことで損傷している。
MSに詳しいものならば、誰が見てもスクラップ行きが妥当という有様なのだった。
<うむ……”スカイグラスパー”はどうかね?>
「MS隊に比べればまだマシですね。イーサン・ブレイク中尉が搭乗した機体は被弾がほぼ0、ケーニヒ二等兵の機体も、上手く不時着したようで、ダメージはそれほどでもありません」
とは言え、”スカイグラスパー”1機で出来ることは大幅に限られる。
やはり戦闘可能とは言いがたいのが現状だった。
”ノイエ・ラーテ”に関しても同様だ。
先の戦闘で”フェンリル・ミゼーア”の主砲の直撃を受けたと思われた”ノイエ・ラーテ”だが、入射角が良かったこと、そして本体の頑強さが幸いして操縦者達の負ったダメージは少なかった。
”ノイエ・ラーテ”を開発した『通常兵器地位向上委員会』が、「優れた兵器は使う人間の安全を保証するものである」を信条の1つとしていたからこその結果であった。勿論、彼らの操縦技術もあってのことだが。
しかし、やはりと言うべきか機体ダメージが大きいということは変わらないため、戦闘に出すことは出来ない。
そもそも、”アークエンジェル”はMSを運用するための母艦であり、”ノイエ・ラーテ”の修理には適していない、というのが最大の難関だった。
「詰まるところ、結論は変わらず『戦闘不能』ということです」
<ううむ……。彼ら、『S.I.D』と言ったか?力を借りられれば良かったのだがな……>
「薄情ですよねぇ、『本来の任務がある』なんて言って、みーんな連れてっちゃったんですから」
”アークエンジェル”に残された最後の希望は、戦闘の最中に突如として現れた特殊部隊『S.I.D』。
しかし、彼らも既に”アークエンジェル”から立ち去っている。
<仕方あるまいさ。ナイロビ奪還作戦のために、人手はいくらあっても足りんのだろう>
『S.I.D』の隊長であるタツミは、彼らは元々、”アークエンジェル”がZAFTから奪還した捕虜を輸送する部隊の護衛が任務なのだと言った。
”アークエンジェル”を救援した理由は艦内に多数の捕虜がいたということが大半を占めており、後々に”アークエンジェル”の元に駆けつけた輸送艇に捕虜、そして半壊した”ノイエ・ラーテ”と
そして、個人的にアリアがもっとも悔しがっているのは、ドサクサ紛れと言わんばかりに持っていかれた
「いや、でも”フェンリル”まで持っていきます!?あれ撃破したの、
そう、『S.I.D』はヒルデガルダが撃破した”フェンリル・ミゼーア”を持っていってしまったのだ。
『今の”アークエンジェル”にこの機体を保持する余裕は無いでしょう。
たしかに、言っている内容におかしな事は無い。
自分達の機体の整備で手一杯な”アークエンジェル”が抱え込んでいても負担でしかないし、かといってそのまま放置いていればZAFTに回収されてしまうかもしれない。
加えていうならば、ヒルデガルダがやったことは言ってしまえば『漁夫の利』に近く、”フェンリル・ミゼーア”を追い込み、隙を作ったのは”ノイエ・ラーテ”だ。
しかし、技術者魂が内で燃えるアリアにとっては、絶好のオモチャを取り上げられたに等しいのだった。
「あ~……オリジナルの、しかも魔改造された”フェンリル”ぅ~」
<ははは……まあ、彼らが持っているという事実はあるのだし、後々情報の開示請求をするのがいいだろう>
「本当に開示してくれますかねぇ……」
「おーい、嬢ちゃん!そろそろ戻ってきてくれねえか!?」
アリアがベンチで溜息を吐いていると、マードックに声を掛けられる。
”ダガー”の整備だけならば他の者でも出来るのだが、”ストライク”や”デュエルダガー・カスタム”は特殊な機体だ。
整備班長であるアリアの力が無ければ、十全に整備は難しい。
「はーい、只今!というわけですので」
<うむ。一刻も早く、MS隊を復旧させることに努めてくれ>
ミヤムラとの通信を終え、アリアは格納庫の方へと向かって歩き出す。
その顔には未だに燻る技術者魂と、不可解な動きを見せた『S.I.D』への疑念が表情として浮かんでいた。
(はてさて、彼らの
まずアリアが疑問に思ったのは、『援軍に駆けつけるタイミングが
たしかに、”アークエンジェル”が墜落してすぐにミヤムラが救援要請を出していたため、駆けつけること自体はあり得る。
だが、彼らは”アークエンジェル”から回収した連合兵の護衛が目的だといった。
元々の予定合流地点から駆けつけてくるには早すぎる。まるで、”アークエンジェル”が”バルトフェルド隊”に攻撃を受けることを知っていて、
おかしな所は『S.I.D』の装備もだった。
彼らの機体の内1機は”へロス”。ユーラシア連邦が独力で開発した量産型MSであり、ユーラシア連合に属する彼らが保有していてもおかしくはない。
問題は、他の2機だ。
GAT-01B/SS”バスタード”。”ストライクダガー”にソードストライカーを固定化し、各部を接近戦用に調整したマイナーチェンジ機。
この機体は前線に配備された”ダガー”が、3月23日の『三月禍戦』の際に損耗したことを受け、急遽簡易量産機である”ストライクダガー”の開発・量産が決まってから作られたものだ。
実際に戦闘に配備されるには、どれだけ早く見積もっても4月中旬に入ってからになるだろう。
それを、”ストライクダガー”を開発した大西洋連邦ではなく、
技術者だからこそ感じられる違和感が、そこにはあった。
(それにあの機体、”メンインブラック”でしたか。装甲で偽装していましたが、あれは間違い無く
それは、アリアにとって非常に見覚えのある機体だった。
GAT-X102[G]”陸戦型デュエル”。”マウス隊”が開発を主導し、エドワード・ハレルソンの愛機となっているその機体は、やはり大西洋連邦のものだ。
ユーラシア連邦の部隊でありながら、大西洋連邦の新型MSを運用する。
答えの出ない疑問にアリアの額が顰められた。
「ま、今は目の前の仕事に集中しましょうかね」
とはいえ、一介の技術者でしかない自分が考えても仕方のないことである。
アリアはそう考え、格納庫へと足を踏み入れた。
彼女の戦場はここであり、政治の絡むようなことはないのだ。
「A班とB班は引き続き”ダガー”、それも負担の少ない機体から優先して修理!C班は武装のメンテナンス!
D班は私と一緒に”ストライク”の整備です!───こっからが戦争ですよ、私達の!」
アフリカ モザンビーク基地
「”アークエンジェル”は無事、捕虜も無事、更には”バルトフェルド隊”も撃破。めでたしめでたし……珍しいこともあるもんですよねぇ」
窓の外の光景を見ながら、エヴィは咥えたタバコに火を点けた。彼女の近くに座る『ジョーカー』が顔を顰めるが、気にした様子は無い。
この場所は、アフリカ大陸東部に位置するモザンビーク基地。
外では捕虜の身分から解放され、無事に帰還を果たした兵の歓迎会が行なわれている。
しかし『S.I.D』の面々はそこに混ざることはせず、移動拠点として用いている”ヘルハウンド”の待機室にて休息を摂っていた。
「珍しいって?」
「いやぁ、私達の任務でスッキリ終わることって殆ど無いじゃないですか?」
エヴィからの返答に、ああ、と納得の声を返すジャック。
たしかに、普段の彼らの『仕事』のことを考えれば、不自然なほど綺麗に終わったと言って良いだろう。
もっとも、事の運びによっては今回もそうなる可能性はあったのだが。
「あー、興味あったんだけどなぁ……”アークエンジェル”」
煙を吐き出しながら、折りたたみ式の簡易シートに寝転がるエヴィ。
大西洋連邦が保有する最新鋭MS母艦である”アークエンジェル”は、同じ連合兵の中でも注目の的だ。
アフリカ大陸での戦果の数々が周知され始めており、兵の士気を高める役割も担い始めている艦を、しかしエヴィは異なる方向からの興味を示す。
彼女にとって”アークエンジェル”は強力な味方であると同時に、『落とし甲斐のありそうな獲物』でもあったのだ。
「まぁ、俺も正直驚いてるよ。まさかまだ生き残って、戦い続けてるなんてさ」
「あー、もうちょっと遅くに着いてればなぁ」
「『クイーン』、作戦の目的と自分の願望を混同するのは止めるべきです」
あの場で孤軍奮闘する”アークエンジェル隊”の元に『S.I.D』が駆けつけた理由はただ1つ。
すなわち、『ZAFTの“アークエンジェル”入手阻止』である。
彼らはユーラシア連邦においてさえも認知度の低い特殊部隊であり、通常とは異なる情報網を利用している。
”アークエンジェル”がZAFTの精鋭部隊に狙われていることを察知した『S.I.D』は急行、”アークエンジェル”の拿捕を防ぐことに成功した。
しかし、そのための方法は
最悪の場合、彼らの手で”アークエンジェル”の破壊が行なわれる可能性もあったのだ。
今回は偶々ダイスの目が良かっただけに過ぎない。
「特にあの機体、”ダガー”の高機動カスタム機!」
「ああ、強かったな」
「ふふふ……ジャックさんは、私とあの機体、どっちが強いと思います?」
「……ノーコメントで」
『S.I.D』の中では唯一常人としての思考を持つジャックだが、エヴィの物騒な言葉に大した反応を見せることは無い。
彼女がもっとも苛烈になる時が、ZAFT兵を拷問する時だということを知っているからだ。否、もはや拷問は
人の尊厳を徹底的に奪い去られていく様を知っているのに、今更言動で動揺する筈もなかった。
「連れない……あ、じゃあ『ジョーカー』ちゃんは?」
「副流煙を垂れ流すのを止めたら答えてもいいです」
ちぇっ、と拗ねて窓の外の光景に目を移すエヴィ。
果たして彼女の目が映しているのは、近づくナイロビ奪還戦に向けて前夜祭に参加する味方側の兵士なのか。
それとも、ウインドウショッピングでもするように、『盾』でも見繕っているのだろうか。
「───揃っているようだな。『ジェントルマン』からの指示が来た、出発の準備をしろ」
『了解』
そして彼らは、再び闇の中に歩みを進め、表から姿を消した。
それらは、影のように───。
アフリカ大陸某所 野営地
「隊長、無事で何よりです!」
「……」
一方その頃、撤退した”バルトフェルド隊”は予め用意しておいた野営地に集結を果たした。
周りを見渡し、”ヘンリー・カーター”の面々がいないことを悟ったバルトフェルドは、静かに息を吐いた。
「隊長……」
「───終わりだ」
バルトフェルドは部下達の前でヒラヒラと両手を振り、これ以上は何も用意していないことをアピールする。
「ほらほら、撤退準備だ。遠足も戦争も帰るまで、って言うだろ?」
「ここで退くんですか、何も手に入っちゃいないのに!?」
「だったらなんだよ、もっかい『足付き』に仕掛けてみるか?この有様で?」
彼らの周囲に佇むMSに、傷の付いていない物は1機としてなかった。
咥えて、隊のエースであるスミレも、エースキラー3人衆もいない。
これでは、どれだけバルトフェルドが優秀な指揮官だったとしても、勝つことなど出来はしない。
「ぶっちゃけ、上から睨まれてるんだよね僕。必要だからって”フェンリル”2両借りてきたのを壊したし、そもそも3回失敗してる時点でもう次はないっていうか」
だから、終わりだ。
バルトフェルドの言葉を聞いた兵士のリアクションは多様だった。
最強だと信じてきた自分達の敗北を受け止めきれず泣き出す者もいれば、歯を食いしばり堪える者もいて、バルトフェルドを見定めるかのような視線を向ける者もいる。
いい部隊だった、とバルトフェルドは思った。
時に笑い、争い、そして勝ち残ってきた、最高の部隊だったと今も信じている。
だが、”バルトフェルド隊”は終わりだ。
「”レセップス”も返上だなぁ。たった1隻の船を何度も取り逃がした挙げ句、逃げ帰ってくるような奴に任せておいてくれる筈もない」
「あの、隊長。何をなさっているんですか?」
独り言を呟きながら何かの準備を進めるバルトフェルド。
怪訝に思い声を掛けたダコスタに、バルトフェルドは大したことは無さそうに言葉を返す。
「ん?ああ、なに、ちょっと”アークエンジェル”に
「……は?」
周囲からの「何言ってんだコイツ」という視線を浴びながら、バルトフェルドは言葉を続けた。
「いや、だからさ。悔しいじゃん、何度も負けてさ。でもまた皆で行って被害出すワケにもいかないじゃん?だから1人で───」
『ふっざけんなこのカフェイン中毒!』
一斉に浴びせられる怒声に耳を塞ぐバルトフェルドだが、その意思はたしかなようだった。
苛立ちを更に募らせる隊員達は、矢継ぎ早に怒りをぶつけていく。
「俺達置いて自分だけ特攻だぁ!?んなこと許されると思ってんのか!」
「俺達ってそこまで役立たずですか、1人でいった方がいいくらいに!?」
「ホウ・レン・ソウはどこいったんだよ!」
『納得いく説明をしろー!さもなきゃ付いてくぞ!』
バツが悪そうに頭を掻くバルトフェルド。
困った、どうやら
「……本当なら、死んでる筈だったんだよ」
最強の敵と戦い、敗れた。そして死を受け入れて自爆装置のスイッチを押した。
にも関わらず、彼は生きている。生き残ってしまった。
「女の声が聞こえてしまったんだ。それに引っかけられちゃってさ、死に損なった。
僕は自分が大好きでさ、コーヒー好きの自分とか、指揮官の自分とか、大切にしてるんだよ。……戦士としての自分を裏切った、ツケを払いに行くってだけ」
だから付いてこさせるワケにはいかない、とバルトフェルドは言った。
自分は”バルトフェルド隊”の隊長としてではなく、1人の戦士として私闘を挑むのだと。
軍人としての責務を放棄して、再びの戦いを挑みにいくのだと。
それを聞いた隊員達は、やはり呆れかえった。
やっぱり、わかっていない。
「じゃあ俺ZAFTやーめた!」
「なんだ、お前もか?実は俺も、たった今辞めるところでな」
「最近のZAFTきな臭ーし、俺も一抜け」
次々に制服を脱ぎ捨てる隊員達を前に、バルトフェルドは驚きを隠せない。
「は、あの、君達?」
「よっしゃ、皆これからどうする?」
「そうだな……バカに付き合ってバカするか」
「例えば?」
「天使様をぶち殺しにいく、とか?」
「いや、待て待て待て!?」
『待たない』
バルトフェルドの周りの兵士を代表して、ある男が進み出る。
彼は、戦争初期からバルトフェルドに付き従って戦い続けてきた男だった。
「俺達が付いていくと決めたのはZAFTじゃない、あんただ。最後まで付き合うぜ大将」
「女の声に引っ張られた、結構じゃねーか。堂々と生きて帰ってやれよ」
「……はははは」
それを聞き、笑いをこぼすバルトフェルド。
やはり、自分は幸せ者だ。
憎しみと悲しみに染まり、未だに終着点も見えないこの世界、この戦争で。
かけがえの無い絆があるのだから。
「じゃあ、行こうか」
たとえ、牙や爪を引き抜かれ、頭だけになったとしても。
───我々は、『砂漠の虎』だ。
ということで、本作のバルトフェルド隊はラル大尉リスペクト強めでいくことになりました。
『S.I.D』の面々に関してはいずれ番外編で話を書いていこうと思っています。
次回、『バルトフェルド、特攻』。
気長にお待ちください!
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。