機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
『切り裂きエド』VS『黄昏の魔弾』、ファイっ。


第10話「奇策を打つのは、いつでも劣勢側」

「エドさんが、敵エース機との戦闘状態に入りました!隊長・・・・!」

 

「くっ・・・・こうなってはもはや、エドがやつを倒すことに賭けるしかない!」

 

「そんな!自分が救援に・・・・」

 

「お前の機体では、やつに太刀打ちできん。それに、敵のMSはまだお前たちよりも数が多い。エドを救援する余裕はない!」

 

「・・・・っく!」

 

ユージからの叱咤に、アイザックは口をつぐむ。それが正論だと、分かってしまう故に。

今、”ヴァスコ・ダ・ガマ”から離れてしまえば。敵に発見された時にたちまちやられてしまう。ほかの部隊をなんとかしなければ。

 

「セシル、敵部隊の動きはどうだ?」

 

「は、はい。敵部隊は一度、集結を始めました。体勢を整えているようです」

 

「っち、こちらが隠れているポイントの予測を大体洗い出したようだな。となると、次は・・・・」

 

ユージの言葉を遮るのは、振動。船体を隠していたデブリがこちらに軽くだがぶつかってきたのだ。むろん、それが偶然によるものなどではないのは明白で。

 

「敵艦隊より、こちらに向かって砲撃!めちゃくちゃだ!」

 

「落ち着け、エリク!やはり、いぶり出しにきたか!」

 

敵の思惑は簡単、”ヴァスコ・ダ・ガマ”のいると思われる方向へ片っ端から砲撃を加えることで、隠れる場所を潰していく。ただそれだけ。

悪態の一つもつきたいほどに、『強者』の戦い方だ。こちらからは手出しをできない場所に陣取って、圧殺する。

何か手を打たなければ、なぶり殺しにされる。

 

「ランダム回避運動を取りながら、移動開始!ポイントD-3だ。スレッジハマー、発射準備!”ビッグデコイ”を始める!モーガン中尉、準備を」

 

「へへっ、ついに一発かますのか!」

 

「ああ、敵の横っ面をはたき続ける。どのみち、それしか勝つ方法はない」

 

それからしばらくして、”ヴァスコ・ダ・ガマ”が移動を始める。

一発逆転の策、その大役を果たすのは、艦首ミサイル発射管から放たれる対艦ミサイル、スレッジハマーの存在と。

『月下の狂犬』、モーガン・シュバリエの手腕だった。

 

 

 

 

ところ変わって、別のエリア。そこでは、2機のMSが戦闘していた。

その様は互角とは言えず、赤いMS、”イーグルテスター”がわずかに押されている。

 

「くっそ、全然当たらねえ・・・・!パーソナルカラーは伊達じゃねえってか!」

 

エドワードは、MSに構えさせた試作斬艦刀をオレンジの”ジン”に振りかぶる。

だが、当たらない。エドワードの攻撃はむなしく宙を切るばかりであり、今までかすり傷すら与えられていない。

 

「はん、やはりナチュラルの作ったMSなど!」

 

そう嘲りながら、ミゲルは冷静に戦況を分析する。

口では馬鹿にしているが、敵の加速性能は大したものだ。また、装甲もかなり厚い。今まで敵機に撃ちかけたマシンガンの弾は、すべてその装甲に阻まれて決定打となっていない。

加えて、その手に持った巨大な実体剣も驚異的だ。いまだ一発も当たってはいないが、あれに当たれば、文字通りスクラップにされてしまうだろう。加えて、何度かあれを盾にしてこちらの攻撃を防いでいる。剣自体も、かなりの剛性を誇るようだ。

 

(だが・・・・)

 

ミゲルの頭には、既にあの剣を突破する策があった。その策を実行するために、エドワードの機体を「あるポイント」まで誘導する。

 

「ちょこまかしやがって・・・・食らえ!」

 

「かかった!そこだ!」

 

何度目かのエドワードの攻撃を避けながら、ミゲルは愛機の左手に「あるもの」を保持させ、斬艦刀の側面へそれを接射する。

瞬間、斬艦刀が半ばから折れる。

 

「なにっ・・・・ぐあっ!」

 

動揺するエドワードの機体を、ミゲルの”ジン”が蹴りつける。そのままの勢いで、デブリに背中からたたきつけられる”イーグルテスター”。

ミゲルの狙いは、撃破された僚機が保持していた散弾銃だ。それが漂っているのを発見したミゲルはその場所までエドワードを誘導し、連続での使用により耐久力を失っていた斬艦刀に命中させて破壊したのだ。圧倒的な瞬間火力を受けては、斬艦刀であっても一溜りもない。

言うだけなら簡単だがそれには、高速で移動する敵の持つ武器に、攻撃を直撃させるだけの腕がなければできないことだ。

メタ的な視点になってしまうが、専用の”ジン”で出撃できていれば、原作で”ストライク”の奪取を成功させていたかもしれないと言われるだけの腕は伊達ではない。

動けずにいる”イーグルテスター”を見て好機と感じ、右手にマシンガン、左手に散弾銃を構えさせて突撃する。圧倒的弾幕で、一気にケリをつけるつもりだ。

 

「さすがにこれだけ撃てば!」

 

「”イーグルテスター”を、甘く見るなよ!」

 

エドワードがある操作をすると、”イーグルテスター”の胸部装甲の一部がスライドする。そこに隠されていたのは、砲門。今まで隠されていたビーム砲が、突撃するミゲルの”ジン”を捉えていた。

 

「なにっ!くそ、あんなものまで仕込んでいたのか!」

 

数発のビームによって左腕の散弾銃を破壊されるが、機体自体には大きな損傷はない。

”イーグルテスター”に、背部に懸架していた二振りの斧を構えさせながら、エドワードは悟る。

今の俺では、こいつを仕留められない。だが、”イーグルテスター”の装甲はまだ持つ。ならば、やることは変わらない。

 

「もう少し、付き合ってもらうぜ!オレンジ色!」

 

「やるじゃないか、ナチュラル!だが、いつまで持つかな!」

 

両雄の戦いは、まだ続く。

 

 

 

 

 

「くそっ、連合もやってくれるぜ!初の任務が散々だ!」

 

「ぼやくなディアッカ。すでに艦隊からの砲撃が始まっている。敵の戦力も大体知れた、あとは詰めていくだけだ」

 

一方、こちらは終結したMS隊。彼らは敵の母艦が現れるのを、砲撃圏外から待っていた。

依然、こちらの有利は揺るがない。冷静に対処していけば、勝てる。

 

「アスランの言う通りですよ。ミゲルも敵の1機を抑えてますし、大丈夫です」

 

「そりゃそうだけどよ・・・・?」

 

ニコルからの言葉に返事しようとしたとき、ディアッカの目がそれを捉えた。それは、デブリの合間を縫うように、こちらに向かってくる白い機体。

間違いない、敵だ。

 

「来たぞ!連合のMSだ!」

 

「乾坤一擲か?流行らないんだよ、そういうのは!」

 

全機で、そちらにマシンガンを向ける。有効射程に入り次第、撃ち落としてやる。

彼らの目論見は、崩れ去る。その白い敵の後方から、見るからに装甲の厚そうな機体がこちらに砲撃してきたからだ。

 

「散開!当たるなよ!」

 

しかし、とっさのことに反応しきれなかった”ジン”が一機。白いMSはその懐に潜りこみ左腕に設置された、珍妙な武装を”ジン”の胴体にぶつける。

 

「あれは、ドリルか!?なんてものを武器にしやがるんだ!」

 

ドリルで貫かれた機体は、一拍おいて爆発する。推進剤に引火したのだろう。その爆発を隠れ蓑に、白いMSは再び身を隠す。

 

 

 

 

「だから、これを使いたくなかったのよね・・・・!」

 

レナは”ジャガーテスター”のコクピットで、ぼやく。その目に映るのは、左腕部の異常を報告するモニター。

ドリルをぶつけた時に、左腕部のフレームに多大な負荷がかかったのだ。こんなものをつけるくらいなら、せめてアーマーシュナイダーの1本でも取り付けてほしかった。

 

「帰れたら、絶対にあいつらをひっぱたいてやるわ」

 

ドリルを強制排除しながら、そう思う。どのみち、もう一度使ったら左腕ごと壊れるのが目に見えている。ならば、少しでも機体を軽くするほうが優先だ。

後ろ腰にアサルトライフルも懸架しているが、これ以上の戦闘継続は難しい。

 

「モーガン・・・・うまくやってよ」

 

 

 

 

「なかなか、出てきませんな」

 

「これだけ撃っても、姿が見えないとはな。やはり、小型艦か」

 

アデスの言葉に、ラウがそう答える。

これだけ撃っても隠れ続けられるとは。だが、時間の問題だ。

どう出てくる?とラウが考えたところで、通信兵が報告してくる。

 

「ミサイル、来ます!対艦タイプ、本艦に直撃コースです!」

 

「この距離をか?迎撃!」

 

アデスの号令に合わせて、”ヴェサリウス”のCIWS(対空砲座)がミサイルを迎撃し始める。他の船も同じだ。

ほどなくして、ミサイルはすべて撃墜される。ほっと息をついたところで、驚くべき報告が入る。

 

「10時の方向、こちらに接近する機影あり!MAです!」

 

「なんだと!?」

 

 

 

 

「うまく、いきましたね」

 

「ああ、あとはモーガン中尉次第だ」

 

”ヴァスコ・ダ・ガマ”のブリッジで、エリクとユージがそうやり取りする。

セシル機の高性能レーダーとリンクさせた管制システムで、敵へスレッジハマーを精密発射。しかしそれを囮に、モーガンの”メビウス・ゼロ”が加速力を活かして奇襲をかける。すべてが、個人のスキルに依存した作戦だ。しかし、そうするしか生き残る術はない。

 

「せめて、1隻・・・・いや、航行に支障を与えてくれるだけでも───」

 

そこまで言いかけたところで、オペレーターのうち一人、リサ・ハミルトンが最悪の報告を入れてくる。

 

「敵MS接近!機影は2!セシルさん、迎撃してください!」

 

「ええっ!皆さんを突破してきたんですか!?」

 

そう言いながら、自機にライフルを構えさせるセシル。やらなければやられる。それくらいは、とうの昔に分かっている。

それを見ながら、ユージは自分たちが追い込まれつつあることを感じ取る。

これでいて、まだ敵には余力があるのだ。自分たちに、何ができる?

 

「見つけた!あれが母艦か!」

 

「いくぜラスティ!あいつを仕留めりゃ、大戦果だ!」

 

「こっちに来ないでくださいってば!もう!」

 

ディアッカ・エルスマンとラスティ・マッケンジー。

それと相対するのが、マウス隊の中で最も経験の少ないセシルだというのは、まぎれもない不幸というやつだろう。

 

 

 

 

 

「ここでお前らをやりゃあ、ゲームエンドってもんよ!くたばれ!」

 

モーガンは、ガンバレルを展開し、奇襲に対応できていない敵艦の内、1隻の”ローラシア”級に攻撃する。すれ違いながら確認したところ、どうやらこちらの攻撃は、敵艦のエンジンに一撃与えることに成功したようだ。

反転し、もう片方の”ローラシア級”に攻撃を仕掛ける。こちらは惜しくも、武装にダメージを与えるにとどまったようだ。

 

「惜しい!だが、最後だ。もらうぜ、大物!」

 

最後に、敵艦隊の旗艦と思われる”ナスカ”級をターゲットする。これ以上は、敵MS隊が引き返してきかねない。だから、これで終わらせる!

 

 

 

結論から言うと、モーガンの心配は杞憂に終わった。だが、それは決してモーガン達にとって良いものではない。

白いMSが、”ナスカ”級から飛び出してきた。

その白いMS、”シグー”はそのままの勢いで”メビウス・ゼロ”に向かってくる。

 

「なにっ、こいつは!」

 

当たらない。展開したガンバレルの攻撃も含めて、こちらの攻撃をかわしながら、逆にこちらに銃撃してくる。

辛くも直撃は避けたが、ガンバレルの1機を失ってしまう。

”シグー”は、こちらを気にもせずにデブリ帯へ向かう。それは当然だろう。

なぜなら、態勢を整えた艦隊から、濃密な対空射撃が始まったのだから。

なんとかそれを避けながら、モーガンはデブリ帯へと戻る。

これ以上の攻撃は無理だ。それに、『あれ』を放っておいたら早々に全滅する。そんな予感が、あった。

 

 

 

 

 

 

 

「なかなか楽しめたが、そろそろチェック・メイトといこうじゃないか。ネズミの諸君?」

ラウ・ル・クルーゼ、出撃。




あ!野生のラスボスが飛び出してきた!
あと1話で、この戦いも終わります。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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