機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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初SSですが、完結目指して頑張って書いていきます。


第0章
第1話「いつから、主人公がパトリックだと錯覚していた?」


C.E(コズミック・イラ)70年、誕生前から遺伝子を調整することによって、高い身体能力を先天的に得ることに成功した人間、コロニーに住む「コーディネーター」と、自然のままに生まれてくる人間、地球に生きる「ナチュラル」との間には、大きな溝が生まれていた。

 

コーディネーターは生まれ持った高い身体能力を誇り、ナチュラルを見下す。

 

ナチュラルはコーディネーターの高い能力を危険視し、遺伝子を調整することは禁忌の所業、それによって生まれてくるコーディネーターは「人類の敵」であると恐れる。

 

過激派集団「ブルーコスモス」を始めとする様々な集団がコーディネーターへの悪感情を煽り、コーディネーターもまた、地球からの自立と称して独自の軍事力を拡充、農業プラントとして新たに農業コロニーを建造するなど、両者の負のスパイラルは止まることを知らなかった。

 

故に、この悲劇は必然であった。

「血のバレンタイン」。

2月14日、連合軍が農業コロニー「ユニウス・セブン」に打ち込んだ一発の核ミサイルは、24万3721人の犠牲者を出す。

 

この暴挙に対し、プラント最高評議会議長「シーゲル・クライン」は地球連合に対し、徹底抗戦の意を表明、軍事組織「ZAFT(ザフト)」による武力活動を開始する。

 

そして、幾度かの交戦の後に、ZAFTは、地球に対してある作戦を決行する。

「オペレーション・ウロボロス」。

核分裂を抑止する性質を持つ装置「ニュートロン・ジャマー」を地球に打ち込む。それは、地球にエネルギー危機をもたらした。

結果、地球圏では餓死者を始め、10億人にも昇る多数の死者を出すことになった。「エイプリルフール・クライシス」と呼ばれるその悲劇により、地球の住民の反コーディネーター感情もまた、最悪のものとなってしまった。

 

血で血を洗う悲劇の連鎖は続き、未だ戦いの終わりは見えない中、一人の男が立ち上がった。

 

 

 

ーパトリックの野望 ハルバートン編ー

 

 

 

デュエイン・ハルバートン。

地球連合軍の准将であり、第八宇宙艦隊の司令官でもある彼は、敗戦続きの現状を打開するためにある計画を立案する。

「G計画」。ZAFTで運用され、多大な戦果をあげる人型兵器「モビルスーツ・ジン」を凌駕するMSを開発する計画である。

発案当初は上層部に却下されたこの計画だが、資源衛星「新星」、後に「ボアズ」と改名され、ZAFTによって運用される衛星の陥落に危機感を感じた上層部によって、承認されることとなる。

 

中立国「オーブ」の企業「モルゲンレーテ」をも巻き込んだ、新型MSとその母艦の開発が、開戦から5ヶ月経ってからようやく本格開始した。

このことは劣勢の連合軍の、逆転の兆しとなるのだろうか。それはまだ、誰もわからないことであった。

 

 

 

C.E70 7/14 連合宇宙軍 プトレマイオス基地

 

「ハルバートン提督、上層部から『G計画』実行に関して、正式に許可が降りました。これで新型MS開発を本格的に行えます」

 

 執務室の机に座るハルバートンの目の前で、副官のホフマン大佐がそう報告してくる。

 

「うむ。開発拠点としてJOSH-Aはおろか、このプトレマイオス基地ですら無く、オーブの工業コロニーに決定したことはともかくとしても、ようやく、本格的に取り組めるのだ。加えて、モルゲンレーテから開発への協力をとりつけることにも成功した。これならば半年以内には開発は終了し、戦局を打開する一手となるだろう」

 

 上層部が未だにMSの価値を完全には理解していないために、警備を少なくせざるを得ない僻地で研究を行うことには憤りを隠せないが、以前までのように極秘かつ小規模で研究を行っていたよりは遙かにマシだ。ハルバートンは更に言葉を発する。

 

「取り回しの容易なビーム兵器、高い機動性、そして実弾を無効化するフェイズシフト装甲。これらを有するMSが完成し、高い戦果を出せれば、あの頭の固いモグラ共も少しは考え方を変えるだろう。まったく、何が『コーディネーターの作った兵器など』、だ。敵に優れた兵器があるならば、対抗手段を手に入れようとするのは当たり前の行動だ。有用性なら、とっくにZAFTの連中が示しているではないか。そもそも・・・・」

 

「て、提督?どうかその辺りで・・・・」

 

 ホフマンがおずおずとハルバートンの愚痴を静止しようとする。この提督、一度文句を言い出すと中々止まらないのだ。一年近くMSの本格研究を許可されなかったこと、戦場では何の価値もないモノに予算を費やすこと、etc・・・・。上層部への怒りは中々解消できるものではない。このままでは小一時間、愚痴を聞かされる羽目になる。

 

「む、すまんな。ようやくと思うと、つい、な」

 

 ハルバートンも、自身の欠点には気づいている故に、愚痴をやめる。

 

「なんにせよ、我々はまだスタート地点に立ったばかりなのだ。やることはいくらでもある。」

 

 お前にも、働いてもらうことになる。ハルバートンの言葉に、ホフマンは「はっ」と敬礼する。内心では多忙が約束されていることに対して、気分が落ち込んでいたが。

 

 コンコン、と扉をたたく音がする。

 

「入りたまえ」

 

 失礼します、と言って入室してきたのは、見た目は二〇代後半ほどの、連合の制服を着た男。その襟元には大尉を示す階級章が付けられている。

 

「ユージ・ムラマツ大尉であります。ハルバートン准将に、事前にお伝えした通り、具申したいことがあり、こちらに参りました」

 

「おお、もうそんな時間だったか」

 

 壁に掛けられた時計を見ると、事前にユージがアポイントメントを取った際に、こちらが指定した時刻を示している。

 

「うむ、時間通りだな。傷はもう大丈夫かね?」

 

「はい、医師からも完治したとのお墨付きです」

 

 ユージ・ムラマツは、1ヶ月前に「エンデュミオン・クレーター」と呼ばれるエリアで行われた大規模戦においてメビウス一個小隊を率いてMS「ジン」を2機撃破することに成功したMAパイロットであり、その際に負った傷を癒やすために1週間前まで療養していた第八艦隊所属の士官だ。ジンとメビウスの戦力差を考えると、十分英雄と呼ばれてもよい彼だが、基本的に職務に忠実、礼儀もわきまえているものの自主性が薄いという印象を周りに与えていたはずだ。そんな彼が、どのような意見を具申しに来たのだろうか?ハルバートンは机の上で手を組み、ユージの話を聞く姿勢を見せる。

 

「准将が以前から発案していたMS開発計画が、正式に始まったと聞きました。自分も、その計画に携わらせていただきたいのです」

 

「ふむ・・・・たしか、パイロットの選考はまだ済んでいないのだったな?」

 

「はい、今月中に選考を終える予定です。しかし、ムラマツ大尉はMSに対する適性があまり高くはなく、候補としての優先順位は低かったと記憶しております」

 

「しかし、大尉の戦術眼はすばらしい物だ。でなければ、ジンを撃破することはできなかっただろう」

 

 たしかに、ユージが撃破したジンは、僚機との高度な連携のもとに行われた対MS戦法によって撃破されている。しかし、MAを操縦するのとMSを操縦するのでは、求められる資質は異なってくる。ホフマンはそのことを事前にMS研究者から聞いていたので、ユージをMSパイロットとして登録することに難を示している。まったく才能がない、というわけではないのが言葉を濁す原因となっている。

 

「MSパイロットとしての適性が今は低い、ということでしたら、無理は言いません。しかし、自分をパイロットにしてほしい、という嘆願の他にもお聞きしたいことがあるのです」

 

「ふむ、答えられる範囲であれば教えよう。何が聞きたいのかね?」

 

 ハルバートンは続きを促す。

 

「はい。自分は先の戦いにおいて、MSの脅威というモノをその身に感じました。周りは自分を、MSを倒した英雄などと言いますが、本当に英雄であるなら、自分を含めた小隊員の4名の内、2名を失い、自分もまた、傷を負う、というようなことはなかったでしょう。そして療養中、ジンに対抗するにはどうすればよいのかを考えている内に、一つの疑問が浮かびました」

 

 それは、と一拍置いた後に続ける。

 

「ジンのパイロットは、どのようにMSを手足のように動かしているのだろうか、ということです」

 

 ハルバートンとホフマンは、ユージが何を言いたいのかがわからないでいた。パイロットがMSを動かせるのは当たり前だろう。この男は、我々に何を告げようとしているのだろうか?

 

「失礼、迂遠な言い方をしてしまいました。つまり、自分はこう言いたいのです。人型の機械をあれほどに動かすには、メビウスよりも複雑なプログラム、OSが必要になるだろう、と」

 

 ようやく、合点がいった。つまりこの男は・・・・。

 

「そのOSの開発が、進んでいるのかどうか。それを聞きたいのかね?」

 

「はい。いくらハードが優秀でも、ソフトが低レベルでは宝の持ち腐れでしょうから」

 

 ハルバートンはユージの目をしばし見つめた後に、話し始める。

 

「たしかに、OS開発には中々目処がたっていない」

 

「提督、よろしいのですか?」

 

 ホフマンが静止の声を放つ。MS開発の進捗具合を、簡単に話してよいのか、と。

 

「大丈夫だ、彼は信用できる」

 

 そう己の副官に告げ、話を続ける。

 

「先行研究の時点で、奇跡的に鹵獲に成功したジンから得た情報から、OSに関する問題は告げられていた。複雑極まりなく、とてもナチュラルに扱える代物ではない、とな」

 

「やはり・・・・」

 

 ユージは少し考え込んだ後に、意を決してハルバートンに告げる。

 

「提督、今からでも遅くはありません。OSを開発するためには、とにもかくにも稼働データが必要なはずです。MSパイロットとしての適性が高い人間を集め、データ収集のための部隊を結成するべきです」

 

「ふむ・・・・『G』に先んじてそれを動かすためのOSを開発する部隊、か。データ収集のためのMSはどうする?シミュレーションだけでは十分なものにはなるまい?」

 

「試作MS、『G』というのですか。高性能なそれを開発するのには時間が必要でしょうが、ただ『MSとしての基本的能力を持った機体』であれば、比較的低予算かつ短時間で作れるのではないでしょうか?サンプルとしてジンのデータもあるのですし」

 

「ジンではダメなのか?」

 

 ホフマンはそのことを疑問に思い、ユージに問いかける。

 

「『G』に近い構造の機体でなければ、データ収集に不十分かと。最終的にはその機体で開発したOSが『G』を動かすわけですから」

 

 まあ、どれも畑違いの考えですから想定通りにはいかないでしょうが。と続け、ユージは沈黙する。ハルバートンの反応を待っているのだ。

 自分がどれだけ持論を述べようと、最後に決めるのはハルバートンなのだ。じっと、答えが来るのを待つ。

 しばらくして、ハルバートンは口を開く。

 

「・・・・もとより、遅れている分を取り戻す必要があるのだ。やれることはやるべきだな」

 

「准将・・・・」

 

「ユージ・ムラマツ大尉。これより指令を下す」

 

 ユージは、その指令を一言一句聞き逃さないように、集中する。

 

「連合軍のMS用OSの開発を目的とした部隊を結成し、君をその責任者に任命する。隊員と必要な機材、設備についてはまた後日、追って通達する。それまでは基地の中で待機せよ」

 

 ユージは息をのむ。当然だ。ついこの間まで、MA小隊の隊長でしかなかった自分が、一つの計画の責任者へと任命されたのだから。しかし、辞退は許されない。自分で言い出したことなのだから、責任は取る。それが軍人だ。

 姿勢を正し、敬礼し、返答する。

 

「任務、拝命しました!必ずや成果を出してみせます!」

 

 

 

 

 

 失礼しました、と言って部屋を出る。その後しばらく歩いて、先ほど出てきたハルバートンの執務室のドアが見えない位置に来ると、ユージは大きく背伸びをした。一つ、成し遂げた。その達成感が、体中を駆け巡っていた。

 

「これで少しでも、未来が変わるといいんだが、な・・・・」

 

 そう、彼は未来を知っている。この戦争がどうなっていくのかを、知っている。

 なぜなら、見たから。アニメとして、この世界の物語を知っている。

 彼もまた、神のいたずらか、輪廻転生の失敗かで、前世の記憶を持ったままこの世界に生まれた人間だった。いわゆる、転生者である。メタ的な視点での話になってしまうが、様々な「C.E」で、それぞれ「原作」とは異なる物語を紡ぎ上げてきた者達の内の1人。それがユージ・ムラマツだ。

 

「まだ、なんとかなるはずだ」

 

 彼は何を望み。何を為すのか。その答えは、この物語が続いたなら知ることができるだろう。今はまだ、わからない。

 

 ユージも、ハルバートンも、誰もが。

 

 この物語のスタート地点に立ったばかりなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特別プラン「MS試験部隊設立」が実行されました。(資金:3000)

 

 

 




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