魔法科高校の詠使い   作:オールフリー

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大学フル単位とったどー!これで親にとやかく言われる心配はなくなった!

……………ごほん。失礼しました。テンションが上がっていたもので。それではお待ちかね(?)の本編をどうぞ


昼食会

 一高に入学して早くてもう三日目となった。

 いや、まだ三日目と表現すべきなのだろうか。初日ではいきなり先輩に目をつけられ、二日目の昨日はさっそく問題行動を起こしてしまった(実際に起こしたのは一科生のほうで、当事者という意味だ)。このことから達也はこれからの学校生活に不安を覚えるようになってしまった。ーー具体的に言葉に表すと、これから三年間彼が望むような平穏な高校生活はあるのだろうか、である。

 とてもネガティブな思考だが、また波乱を呼びそうな出来事があったのだから仕方がない。

 

「………達也、お前いつの間に生徒会長にフラグ建てたんだ?」

「建てた覚えはない、はずなんだが……」

「あれはどう見ても………ねぇ?」

 

 一時間目の授業が始まる前の朝の時間。1-Eの教室内は、生徒たちの声の喧騒で包まれていた。まだ教師が教壇に立っていた時代から変わることなく、この授業が始まるまでの朝の時間は生徒たちの時間なのである。そんな中で達也の机に集まってレオ、冬夜、達也の三人は今朝の出来事について話し合っていた。

 達也がネガティブな思考に陥るほどのインパクトの強い出来事、それは――

 

「まさか入学して三日目にお食事のお誘いが来るとは。お前はどこのプレイボーイだ?」

「きっと前世はジェームズ・ボンドなんだろうな」

「待て二人とも、オレを女たらしのように言うのはやめてくれないか?」

「「え、なんで?」」

「オレには覚えがない!」

「「鈍感キャラは誰だってそう言う」」

「誰が鈍感だ!」

 

 思わず達也は叫んでしまう。今朝方登校してきたときに一高の生徒会長である七草真由美が「達也く~ん」と、語尾にハートマークでもあるんじゃないかというほど馴れ馴れしい口調で声をかけてきたことが、いま彼らが話している会話の内容だ。平凡に言えば達也に春が来た、ということなのだが、それを素直に認めるような精神を達也はしていなかった。そう言われても冗談にしか思えないのである。

 

「い、いやしかしお前だって昨日呼ばれたじゃないか。そういうならお前だって」

「え?昨日のアレは生徒会長として夜色名詠士へ依頼することがあったからだぞ?フラグなんて一センチも建ってない」

「何を依頼されたんだ?」

「秘密。依頼人(クライアント)に頼まれた依頼内容を勝手にはバラせないよ。信用に関わるからな」

 

 右手の人差し指を立てて口に添える冬夜。今は彼が夜色名詠士であることを知っているレオは「そっか」と簡単に引き下がった。というか、十師族が関わっていることに首を突っ込めばロクな事にならない。

 

「大体なんでオレなんかを……」

「さぁな……正確なところは不明だが、気になったんじゃないか?実技はダメだが理論はナンバーワンの劣等生(イレギュラー)に」

「そういうのもなのか………?」

「そういうものだよ。まぁ行ってみようぜ。なにか面白いことでもあるかもしれないだろ」

 

 その時冬夜が見せた笑顔が、とても悪意に満ちていたように達也には見えた。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 で、お昼休み。

 司波達也は頭を抱えていた。

 いや本当に、今自分が置かれている状況はどうやったら打破できるのか真剣に考えていた。

 

「達也くん、あなたも男でしょう? いい加減腹を括った方がいいわよ?」

「会長、面白がらないでください」

「そうだぞ達也くん。往生際が悪い」

「渡辺先輩、ニヤニヤ笑わないでください」

「お兄様? 生徒会長直々のご指名なんですから、胸を張って引き受けるべきだと思いますよ」

「深雪……その期待に満ちた眼差しは止めてくれ」

 

 

 一般男子生徒なら勢いよく頷いてしまいそうな美少女三人の勧誘(笑顔つき)を断り、頭を抱えてもう一度頭をフル回転させる。何としてでも風紀委員会入会は避けなければいけない。

 

 なぜこんなことになったのだろう。達也は頭を抱えながらこうなった原因を思い返してみる。

 ことの始まりは今朝の登校時。生徒会長・七草真由美からの生徒会室での昼食会のお誘いを達也、深雪、冬夜の三人が受けて『なんでオレも呼ばれたのか不思議でならない』と、首を捻りながら生徒会室にやって来て、現生徒会役員の先輩へ挨拶も簡単に済ませて昼食会がスタート。何事もなく――少しの間だけ空気が凍ったが――和気あいあいとした昼食会が行われ、この昼食会の本題である深雪の生徒会勧誘が始まった。

 ……まさか深雪が「兄も一緒に生徒会に入るわけにはいかないでしょうか?」なんて言うとは、達也も予想できなかった。

 達也は内心とても焦ったが問題はなかった。深雪の前に座っている先輩が「規則で生徒会役員は一科生の中から選ばれる」と説明してくれたため、深雪も諦めてイスに座りなおしてくれたのである。

 ホッと一安心したのも束の間。続けて渡辺先輩が「大丈夫だ。君のお兄様は生徒会枠で風紀委員会に入ることが決まっている」なんて発言が出てくるなんて思わなかった。

 しかも、聞けば達也を推薦したのは本人の隣に座る夜色名詠士。達也が睨んでいたら、アイドル顔負けの笑顔とサムズアップをしてきたため、イラッと来てついその顔面にアイアンクローをかましたくなった。なんとか実行しないように腹の中に留めたが。

 そんな彼は、現実逃避気味に思ったのである――コイツのあの時の笑顔は、コレを見越してのものだったと。

 

「そ、そもそもオレは昨日問題を起こした生徒ですよ?そんな生徒を学校の警察・検察組織である風紀委員を勤めるのはよくないのでは?」

 

 達也が昨日の騒動の当事者であることを出してなんとか逃れようと試みる。だが摩利はニヤリと人の悪い笑みを浮かべて首を横に振る。

 

「騒動、か。しかしだがね達也くん。君は騒動の当事者だったとしても君は被害者であり、加害者ではない。君の性格や内面的なことは問題ないと私は思うのだが?」

「だとしても風紀委員長、オレは実技が苦手な二科生です。そんなやつが魔法が飛び交う乱闘騒ぎを止められると思っているんですか!?」

「問題ないだろう。推薦書には君があの忍術使い・九重八雲氏の弟子であることが書かれている。

 確かに風紀委員は実技が芳しくない生徒には向かない仕事だが、我々の仕事はどちらかというと『どれだけ魔法が使えるか』よりも『どれだけ魔法を使える相手と戦えるか』が要求される。

 君は学校で評価される魔法の成績は悪いが、それは成績の判定基準が君の実力を評価するのにそぐわない方法だからであり、魔法を使った戦闘能力なら一科生にひけをとらない実力者である、と推薦書にも書かれているし私も真由美もそう思っている。

 どうだい達也くん。君の持つその戦闘能力、学校の風紀を守るために役立ててはみないか?」

 

 摩利の男前な笑顔による勧誘よりも、達也は摩利の話の中にあったある部分が気になった。隣に座る夜色名詠士の方に顔を向け、疑問をぶつける。

 

「お前、なんでオレが師匠の弟子であることを知っているんだ?」

「秘密。まぁ夜色名詠士の情報網を甘く見るな、ってことかな」

 

 達也にウィンクをして優雅に紅茶を飲む冬夜。達也の手前そう言ったが、推薦した本当の理由は昨日の腹いせである。司波兄妹については他の友人たちと違って詳しく調べられなかったが、冬夜は自分や周囲の人間に危害を加えなければ誰がどんな過去を持っていようが気にしない人物なので、それについて特に深く考えてはいなかった。誰しもが口では言えないことなど一つ二つ抱えているものだ。外国の王族や貴族となると調べきれないことなどざらにある。危険がないということだけ分かっていれば冬夜は十分だった。

 

「だけど良かったわ。生徒会推薦枠の風紀委員、誰にするかで悩んでいたから。夜色名詠士の太鼓判があるなら安心ね」

「だな。私も明日からの勧誘期間の見回りをどうしようかと考えていたんだ。達也くんが入ってくれるならなんとかなりそうだ」

「待ってください。オレの入会を決定事項のようにしないでください」

「達也、お前だってわかってるだろう?事はもう済んじまってるんだよ」

「諦めてくださいお兄様。運が悪かったのです」

「深雪、お前な………」

 

 深雪が冬夜の推薦に便乗したことで、達也は呆然とした表情になる。まるで腹心の部下に裏切られた時の上司の顔だが、深雪の天使のような笑顔は一ミリたりとも崩れない。

 

「さて、達也くんのことはひとまず脇に置いておいて、冬夜くんに頼んだことも済ませないといけないわね」

「すみません会長、まだオレの話は終わってないんですが」

「それはこの用件が済んだら聞くわ。さて冬夜くん。昨日頼んだ例のアレ、出してもらえるかしら?」

「わかりました」

 

 衝撃の事実に遠い目をして現実から目を背けていた達也だったが、王手を掛けられる前に待ったをかけた。しかしそれも華麗に避されて次の話題へと進んでいく。理不尽とはまさしくこの事を言うのだろう。一方、真由美にそう言われた冬夜は何事もなかったかのように懐から一枚のメモ用紙を取り出した。

 複雑な模様が描かれているソレは、冬夜が描いた魔方陣。

 今はあまり使われていない技術だが冬夜は昔から伝わるその技術を愛用している。

 といっても、今冬夜が取り出した魔方陣自体に炎や雷を起こすような力はない。

 

「そのまま持ってくると学校に預けなければなりませんので、()持ってきますね」

 

 冬夜が魔方陣にサイオンを流し込むと魔方陣が反応して淡く輝き始めた。

 そのまま冬夜は【空間移動(テレポート)】を使う。するとメモ用紙に描かれた魔方陣の輝きが強まりーー

 

「「「えっ?」」」

「これは……」

 

 冬夜の手元にメモ用紙と同じ模様が描かれたトランクスケースが出現した。

 

「え、どうやって出したんですか!?」

「その魔方陣の効果、ですか」

「半分正解と言うところですね。市原先輩」

 

 生徒会役員の市原(いちはら)鈴音(すずね)(通称:リンちゃん)の言葉に頷いた冬夜はケースをテーブルの上に置き、中身を確認すると先に今の魔法の種明かしをした。

 

「オレの固有魔法【空間移動(テレポート)】はオレ自身が直接触れているか、オレの想子(サイオン)が触れてなければ使えない魔法です。なので普通は手元にあるものを飛ばすことは出来ても、遠くのものを手元に引き寄せることはできません」

 

 冬夜はそこでポケットからいくつかのメモ用紙を取り出す。模様こそ違うが、そのメモ用紙には同じように魔方陣が描かれていた。

 

「ですが、今オレがしたように二つの違う物質に同じ魔方陣を描いておき、片方にサイオンを流すだけでもう一つの方にもサイオンが流れるようにしておけば問題はなくなります。間接的とはいえサイオンは触れていますので、空間移動は使えるんです」

「なるほど。魔方陣の共鳴現象を利用した応用技。ということですか」

「そういうことです市原先輩」

 

 満足そうに説明を終えた冬夜は、トランクスケースを開いた状態にして真由美と摩利の方に向ける。

 

「これが先輩方が所望していた対名詠生物用のCADです。どうぞご覧になってください」

「これが例のCADか……」

 

 摩利がケースの中身に手を伸ばす。ケースの中に仕舞われていたのは携帯端末形態の汎用型一つと拳銃形態の特化型が二つ。見た目は市販されている他のCADと大差はないが、どちらも美しい青色をした模様が入っている。だが、実際に手に取った摩利にも真由美は疑問に思った。

 普通のCADとたいして変わらないように見えるこのCADは、いったいどこが名詠生物への対抗手段になるのだろうか?

 

「これがCIL(正式名称:Countered Irregular's Laboratory)のCAD……!感激ですぅ……!!」

 

 突然どこからかそんな声が聞こえてきた思ったら、声の主は先程冬夜の【空間移動(テレポート)】に驚いていた先輩だった。冬夜の真正面に座るその先輩は、ケースの中にあったCADを恍惚の表情を浮かべながら眺めまわしている。

 その場にいた全員が彼女の方を向いていたにも関わらず、彼女はCADに夢中で視線には気づいていない。

 

「あぁ夢にまで見たCILの祓戈(ジル)シリーズ。すらっとした銃身、抜きやすいよう鮮麗された形、美しい蒼い模様、なんて綺麗なCADなんでしょう……!!」

「そんなにすごいものなのですか、これは?」

 

 深雪のぽろっと溢した疑問をしっかりと耳で聞いたあずさは、席から立ち上がってそのCADについて熱く語りだした。

 

「すごいも何も!なかなかお目にかかれない希少(レア)CADなんですよコレはっ!!

 対名詠生物専門の総合研究機関のトップ、『CIL』のCAD、つまり【刻印儀礼】が施された対名詠生物用のCAD!

 あ、【刻印儀礼】というのはですね。通常現代魔法によってダメージを与えにくく、魔法師にとって天敵とも言える名詠生物に対して有効的にダメージが与えられるよう、魔法式に特殊な効果を付与する刻印魔法のことでして、現在魔法師が名詠生物を相手にするのに必須の技術と言われるものであり、その製法を知っているのは開発者を除くと極一部の人間だけというCIL自慢の門外不出の魔法なんです!!

 しかもこれはCIL製のCADの中で最も有名な祓戈(ジル)シリーズ!私も実物を触ったのは今日が初めてなんですよ!!」

「な、中条先輩?いきなりどうしたんですか!?」

 

 突然立ち上がった先輩のテンションの上がりように冬夜が付いていけず、困惑してしまった。解説してくれるのは嬉しいが、さっきまで見ていた小動物的な姿の彼女からは想像できないぐらい興奮して鼻息も荒い。いったい彼女はどうしたのだろうか。

 

「慌てなくて大丈夫ですよ黒崎くん。中条さんは【デバイスオタク】という異名があるんです」

「え?市原先輩、それは本当なんですか?」

「えぇ。当校に通う生徒の中で彼女以上にCAD について詳しい人はいないでしょう」

 

 事実、あずさは今この場にいない服部と二年生の成績で一、二位を争う才女なのだ。実技では多少服部に遅れをとるものの理論では堂々のナンバーワン。少々熱の入りようが大きいが、その熱意が彼女を去年の学年首席に導いたというのは間違いない。

 好きこそ物の上手なれ、とはよく言ったものである。

 

「あっ、それでちなみに補足なんですけど、世界で唯一公認されている魔法師主体の多国籍企業にして名詠生物討伐組織であるIMA(正式名称: International Magic-skilled holder agency)の創始者とCILの元所長は同一人物で、そのツテがあるためかIMAのトップ社員には刻印儀礼の開発者自らが手掛けた個人仕様(オーダーメイド)のCADが渡されているというとても羨ましいことが――」

「はいあーちゃん、時間がないからそこまでね?深雪さんも困っているし」

「ふえ?あ、す、すみません……」

 

 真由美にたしなめられてようやくあずさは冷静になり机に乗り上げていた体を引いた。なにがなんだか分からない内にあずさの熱弁に聞かされた深雪は困惑したままだったが、あずさの謝罪の言葉を聞いて「いえ、ご説明ありがとうございます」とだけ返す。

 一方、そこまで熱弁を振るってくれるとはくれるとは予想だにしてなかった冬夜は、苦笑してその様子を見ていた。

 

「ご説明ありがとうございます中条先輩。

 さて、中条先輩が言ったように魔法師が名詠生物と真正面から戦うには刻印儀礼入りののCADが必要不可欠になります。さっき中条先輩が説明したように、刻印儀礼は対名詠式用のCADであり、このCADを用いられて行われる事象改変は、名詠式で呼び出されたモノであっても行うことができます。

分かりやすく言うと、このCADを使えば名詠式の火炎球や閃光はいつも通り、現代魔法の改変のみで対処出来るようになります。

ただし名詠生物の場合、名詠生物の階級や能力によって改変出来ないものや出来たとしても不完全な形で作用する場合もあります。現段階でCILの刻印儀礼入りのCADを使った場合、第二音階名詠(ノーブル・アリア)の一部、第三音階名詠(コモン・アリア)までの大半の名詠生物に通常通りの事象改変が期待できます」

「なるほど。つまりこれを使えば名詠式、名詠生物の対処が出来るというわけか」

「はい。で、問題のCADなんですがCIL社の社長に直接オレが掛け合って見たところ、古い型のものをいくつか譲ってもらうことになりました。さすがに最新型のCADと比べると少し見劣りする性能ですが、学校の風紀を守る程度には十分でしょう。第二音階名詠(ノーブル・アリア)の名詠生物や第一音階名詠(ハイノーブル・アリア)の名詠生物、つまり【真精】が出てくるわけでもありませんし」

「確かにな。学校で使う分には十分かもしれん。だがよくそこまで話がついたな?昨日持ちかけられた話のはずだが」

 

 感心する反面、冬夜の仕事の速さに疑問を持った摩利が聞いてみると冬夜は苦笑しながら答えた。

 

「ええまぁ……ぶっちゃけた話、倉庫に少しでも空きができるなら、って本人は言ってました」

「あぁ………中古品だから早いのか」

「はい。念のためテストをするそうなので、届くのは明後日あたりになりますが、明日はオレが出張るんで問題ないかと」

 

 冬夜はCADをあずさと摩利から返してもらい、ケースに入れてロックをかけておいた。あずさはまだCADに未練があるのか、オモチャを取られた子供のように拗ねた顔で冬夜を睨んでいた。

 

「CILの所長と知り合い、ということは黒崎くんも刻印儀礼入りのCADを持っているんですか?」

「えぇ持ってますよ。さっき中条先輩が言った個人仕様(オーダーメイド)のものを二つほど」

「えぇ!?個人仕様(オーダーメイド)のCADを持っているなんて羨ましいです黒崎くん。私も『祓戈(ジル)シリーズ』のCADが欲しいなぁ……」

「はは。こればっかりは所長次第ですから」

 

 困った顔をして無性になにかを視線で訴えかけてくるあずさの頭を撫でる冬夜。ここで「頼んできましょうか?」といったら彼女は喜んでくれるのだろうが、生憎そういうわけにはいかない。

 確かに特許を取れば儲かりそうではあるが、IMAの創始者としてもCILの元所長としても、冬夜は余り刻印儀礼の技術を広めたくないのだ。夜色名詠士として昨今の名詠士事情に対して彼なりに思うところがあり、それが刻印儀礼の製法を秘密にしておくことに繋がるのだがそれはまた別の話。

 

「では、昼休みもそろそろ終わりますし今回はここまでにしましょうか」

「や、ちょっと待ってください」

 

 用件はすべて片付いたため真由美がきれいに終わらせようとしたところで待ったをかけた生徒がいた。いままでなんやかんやで忘れられていた達也である。彼としてはこのまま自分のことが片付かないことは嫌なのだろう。……しかし

 

「あの、オレの風紀委員の件は」

「昼休みも終わりですので、その件は放課後にということで」

「…………はい」

 

 その時刻になってしまうと、もう後戻りはできないところまで進んでしまっていそうな気がする――というか実際もうそうなっている――達也は理不尽を押し殺してうなずいた。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「………オレは、無力だ」

「だから最初から諦めろ、っていっただろ?何事も諦めが肝心だよ?」

「事の元凶が何を言う……!」

「そんなことを言われたってなー。達也が風紀委員をやったらきっと一高の風紀は良くなると思うんだけどなー、ねぇ司波さん?」

「はい。黒崎さん、グッジョブです」

「深雪、だからなんでそんなに楽しそうなんだ……?」

 

 深雪と冬夜は互いに親指を立てる。今この場において深雪は冬夜の味方だった。放課後、ずーんという効果音が付きそうな低~いテンションの達也を1-Aの教室まで連行してきた(誤字にあらず)冬夜は、達也の身柄を深雪に引き渡した。

 この様子から察するに、どうにも達也は風紀委員にはなりたくないらしい。午後の授業中もずっと策を練っていたのでその拒否感が伺い知れる。実技が苦手な達也にとっては憂鬱そのものでしかないのだろう。

 しかしまぁ、そうは問屋が下ろさない。

 共謀している冬夜と深雪の二人は何がなんでも達也に引き受けさせる気でいるからだ。

 

「まぁ達也、司波さんもお前の活躍を期待しているんだから。諦めて風紀委員やろうぜ」

「そうですよお兄様。往生際が悪いです」

 

 と、万が一のために冬夜が肩を組んで達也が逃げられないようにがっちりホールドし、深雪が笑顔で追い詰める。出会ってまだ三日。会話した時間は一時間にも満たないというのに見事な連携だった。

 そんな二人の連携に達也は思った。

 ーー面白くない、と。

 

「………………」

「達也、なんでそんな憎々しい相手でも見るような目でオレを見る?」

「さぁな」

 

 ぶっきらぼうな口調でそう言う達也。彼自身、なぜ今自分がこんなにもイライラしているのか分からなかった。彼の精神の内、根底にある『衝動』に関する部分はたった一つを除いて全て彼の母親の手によって白紙化されている。だからこそ、自分が今抱いているこの感情の理由が思いあたらなかった。

 

 思い当たるとすれば、たった一つだけ。

 でもそれは、彼個人として認めがたいーーもとい認められない感情だ。

 

(まさか、『嫉妬』しているのか?オレは)

 

 最愛の深雪()を男に取られるかもしれないという感情。根っからのシスコンである達也は、自分にまだこういった感情があることにも驚いていたが、それ以上に自分が『黒崎冬夜』という少年に対し敵対心を抱いているという事実に驚かされた。

 

 自分の感情に上手く折り合いをつけるやり方を彼は理解している。だが、今回はなぜかそれが上手くいかない。心のどこかでどうしても納得していない自分がいることを、達也は自覚していた。

 

「どうした達也?急に黙りこんじまって……具合でも悪いのか?」

「いや、そんなことはない。ただな冬夜」

「ん?」

「絶対にオレはお前を認めない」

「………はい?」

 

 突然何を言い出すかと思えば、いきなり『認めない』発言。冬夜はついていけず思わず聞き返してしまった。深雪も基本無駄なことは言わない兄の発言に驚いている。が当の本人は言ってスッキリしたのか二人が瞬き一つした後には元に戻っていた。

 

「で冬夜、お前はこれからどうすんだ?」

「え?あぁ、用事があるからこのまま帰るよ。会長や委員長によろしく言っておいてくれ」

「わかった」

 

 結局なんだったのか分からないままーー深雪が後で聞いてもはぐらかせるだけだったーー達也の発言の意味は理解できないまま、冬夜はその場で二人と別れたのだった。




最近思うこと。

黄昏色をクロスしているのに黄昏色感がでない。
………すみません。( ノД`)…

そういえば、もうすぐエデン最終巻発売ですね。凍てついた楽園の物語はどんな結末を迎えるのか楽しみです。

それではまた一週間後。感想お待ちしています!

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