魔法科高校の詠使い   作:オールフリー

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金もネタも浮かばない。どうしろっていうんだ……orz


あの日のように、いつものように……

 

sheon lef dimi-cori riec-c-wavir(黄昏(はじまり)の鐘を鳴らしましょう)

elma Ies neckt evoia twispeli ki(わたしはあなたを愛(のぞ)みます)

 

夜色名詠式第一音階名詠(ハイノーブル・アリア)ーー夜色の真精である牙剥く者(アマデウス)始まりの女(イヴ)を呼ぶ詠。冬夜にとってこの詠はとても特別なものだ。自身の身に宿った名詠式の象徴でもあり、彼自身の持つ最後の切り札。そしてなによりも、冬夜自身がこの詠に強い想いを抱いていた。

 

 初めてこの(うた)を詠ったときのことを、冬夜は今でも鮮明に思い出すことができる。

 あの時も、今と同じように自分一人ではどうしようもない、周りの大人の助けを借りても、|夜色の小型精命(ベリスたち)の力を借りてもどうすることもできない状況だった。

 

『どうすれば、どうすればあそこまで行くことが出来る?』

 

 三年前、英国のクーデター事件が起こった時のこと。当時【王立首都警護近衛騎士団】の見習い(本当はお茶請け)だった彼は、騎士団団長だった英国第三王子の願いで英国の王女の遊び相手になっていた。

 色々無茶をやらかした挙句、局長の命令に背いて夜色名詠式の名詠生物と共にテロリストを対峙していた彼は、天空に漂う一体のドラゴンを見つめて拳を握っていた。

 

『フォカロルに頼んで連れて行ってもらっても、あの白い龍をどうにかしないと何も変わらない』

 

 一瞬の隙だった。

 テロリストがバッキンガム宮殿に侵入し、そこで王女を連れ去った原因は、冬夜が見せた一瞬の隙だったのだ。今、連れ去られた王女はあの白いドラゴンの背中に乗っている。今回の、このクーデターの首謀者と一緒に。

 

 『助け出したい』。これまで大切なものを失いすぎて、力のみを求めるようになっていた彼は久しぶりにそう思った。

 『でも、力がない』。夜色名詠式や空間移動の力を有していても彼は無力だった。例え運よく首謀者を撃破できたとしても、あの白いドラゴンを倒さなければ英国は滅びてしまう。

 

『どうすれば、アイツを助けられる?』

 

 だから彼は願った。『力が欲しい』と。自分のためでなく誰かのために。銃撃戦や爆撃音が耳を突き刺し、住宅街が火事で燃えている中、彼は炎に囲まれながら膝をついて祈った。まるで、神に祈りをささげる敬遠な信徒のように。

 一心に、ただ一心に祈り、願った。

 

『頼む。来てくれ。オレはもう、大切な人を失いたくない』

 

 祈りと一緒に、賛美歌の代わりに讃来歌(オラトリオ)を歌う。

 終曲に近づくにつれ、彼と共に戦っていた名詠生物が彼を囲んでいる炎にある金属が入ったビンを投下する。

 地面に当たったビンが割れ、真っ赤に燃え上がる炎が赤紫色をした夜明け色のような炎に代わる。そして、幼い三代目夜色名詠士は詠の終詩を紡いだ。

 最後に、より一層彼の願いを強く念じながら。

 

『それを護れるだけの力が欲しい!』

 

 異世界にて、再び『夜色の炎』が生まれ、

 そしてそれが、空に昇り空を覆い尽くすような夜色の名詠門を形成(作り)

 夜色の名詠門が砕けると同ーー夜の真精が少年の元に初めて訪れた。

  

 

 

 その時彼が願ったことは、ある意味少年にとって『存在理由』のようなもの。

 自分はなぜ生まれ、生きているのか。その答えを形作った最初の想い(願い)

 幼いがゆえに純粋で、そして何よりも強固な、彼自身で定めた戦う理由(存在理由)

 後に少年が、立ち止まり挫けそうになったとき、生涯をかけて貫き通すと決めた、夜色の誓いだった。

 

◆◆◆◆◆

 

sheon lef dimi-cori riec-c-wavir(黄昏(はじまり)の鐘を鳴らしましょう)

elma Ies neckt evoia twispeli ki(わたしはあなたを愛(のぞ)みます)

 

 総計幾千体か。地上にも空中にも数えきれないほど存在している名詠生物たちが冬夜たちに襲い掛かる。時間が止まった世界の中で、この事態を切り抜けるために冬夜は第一音階名詠(ハイノーブル・アリア)を歌い始めた。

 

(マスター)が歌いきるまで耐えろ!』

 

夜色名詠生物を代表して冬夜と最も付き合いの古いべリスが、号令をかける。夜色名詠式の名詠生物たちはそれぞれ獣型が咆哮を上げ、人型は武器を掲げて灰色名詠の名詠生物と戦い始めた。一体一体、多少なりとも損傷しているが地上にいる敵は大半が第四音階か第三音階名詠生物。対してべリスたち夜色名詠生物は皆、第二音階名詠。いくら数で押される数と言えど、質で優っている分、こちらが優位だろう。

 しかし『数の暴力』というものは、往々にして『質の違い』という差など軽々超えていくものだ。それを裏付けるかの如く一分と掛からないうちに冬夜たちは灰色の敵に囲まれ乱戦状態に陥った。

 

zette Yer cana arcasha Loo(だからこそあなたが何処で泣こうとも)ifex LoR zarabearc sm(誰よりも先に迎えに行きます)

Lom firis leya mihhya lef hid, ravience Stalwari(あなたは此処にいる至美者(願い高き人))

 

 対する灰色の名詠生物たちの反応、もとい攻撃も凄まじいものだった。これから冬夜が名詠しようとしている存在がいかに強力であるか。讃来歌(オラトリオ)を歌うことによってほんのわずかに漏れ出たその気配に敏感に察知し、それを排除しようと冬夜に向って群がる。石化か、そうでなくとも名詠を中断させることができればそれでいい。この状況から讃来歌(オラトリオ)をもう一度歌いなおすことは不可能に近いだろう。しかしそれを、夜色の名詠生物たちがさせまいと薙ぎ払い、一切攻撃を通すことなく送り還す。

 

 --死力を尽くした総力戦。生きるか死ぬかが懸かった一世一代の大博打。

 

 目を閉じ戦闘風景に気を散らされないよう集中して名詠に望む冬夜は、はやる気持ちを落ち着かせて自分に言い聞かせる。

 

(大丈夫。なんとかなる) 

 

 詠い手が変わり、長い時を経ても、世界が変わっても、その繊細で清廉な響きに変わりはない。

 いつもと同じようにーーあの時と同じように。

 冬夜は自らの想い(願い)を込めて、歌った。

 

◆◆◆◆◆

 

「なかなか面白そうなことをしているな。オレも混ぜてくれよ」

「「冬夜(黒崎さん)!」」

「来たか冬夜。良くもまぁ、あれだけの名詠生物をかき分けてきたものだ」

「空間移動で一人先に来たのさ。……後は夜色名詠の名詠生物たちとカインツさんとユミエルさんに全て任せてきた」

「『押しつけてきた』の間違いじゃなくてか?」

「『背中を預けた』のさ。あの人たちもプロだしオレはベリスたちを信じる。だから、オレは今ここでお前を倒す」

 

 冬夜の姿を真似て出てきた零式行列(マイナス・パレード)は、音楽室の様子を見ながら達也たちの隣に並ぶ。予想以上に酷い状況だが、達也たちが無事な様子を見て、まだ勝算があると彼女は感じた。

 

「すまん。駆けつけるのが遅れた」

「相変わらず遅い。間に合わないかと思ったぞ」

「アイツが学校に放った名詠生物たちを送り返してたんだ。少しぐらいの遅刻は目を瞑ってくれ。ーーなんて言葉は言えないな。すまん。もっと早く駆けつけるべきだった」

「謝るなら素直に謝れ」

 

 姿だけ見るなら、四葉本家が生んだ化け物二人が肩を並べているという、彼らの真の実力を知っている人間なら身震いしてしまうような光景。その気になれば本当にこの世界を終わらせられる能力をもっている為、この二人にかかれば灰色の名詠生物なんて相手じゃないと思いたいが、しかしその中身は反唱が使えない単なる戦略級魔法師と、蒼氷色(アイスブルー)の双剣を持たない偽物の夜色名詠士。零式行列は白色の反唱も出来るため戦力にはなるのだが、本物に比べると頼りない。

 

(さて、どうやって倒しますかね)

 

 まやかたちの意識がない以上、正体がバレても大きな問題にはならなくなったが、今のこの雰囲気を壊すような事態にはさせたくない。ヘマをやらかして夜色名詠式が使えない偽者だと発覚する前に、最低限人質の解放だけは行わないと。

 

(……ごめんねまやか、朋也。その姿から解放するのはもう少し待って)

 

 彼女の背中で物言わず固まっている幼なじみの石像に、心の中で謝罪した零式行列は敵戦力の確認を始める。見た感じ、今の敵側の名詠生物は人質を捕らえている無骨な岩人形一体のみだが、あの『孵石』という触媒(カタリスト)がある状態ではすぐにそれは変わる。奴の言うとおり『後罪(クライム)』がなくどんな色の名詠式でも使えるのであるならば魔法師としてこれほど厄介な物はない。

 

「達也、今オレ達がやるべき事ーー分かっているな?」

「人質の解放とあの孵石(カタリスト)の強奪。それも可能なら同時に行いたい」

「あぁ。つまり、アイツの隙を作らなきゃいけないわけだ」

「隙、か……。魔法が使えない以上、使い捨ての肉壁になるしかないのは辛いな」

「そう悲観するな達也。人間、必ずしも得手不得手があるんだ。大事なのは、今持っているものをどう()()するかだよ」

「………冬夜?」

「考えろ達也。お前なら、オレの考えている事ぐらい分かるだろ?」

 

 言葉を濁したまま、アイコンタクトで何かを伝えようとする零式行列(冬夜)。流石の達也でも冬夜が今なにを言わんとしているのか咄嗟には分からなかったが、戦闘経験のおかげゆえか、それとも冬夜の視線を辿ってその意味を考えたためか、冬夜の言いたいことをすぐに察することができた。だがしかし、それはあまりにも賭けに近い。冬夜がこれからやろうとしていることの危険さに対して、達也は内心ため息を吐いていた。

 

(まったく。勝敗の行方を名詠初心者のオレに託すとは、どういう神経をしているんだか)

 

 だが、確かに有効な策ではある。正直に言って成功するとは思えない方法だが、それでもプロの言うことを信じてやってみるしかない。

 

「作戦会議は終わったか?」

「あぁ。目に物見せてやるよ。……城崎さん、四条がなにを名詠しても対応できるよう達也の前に」

「わ、分かった」

 

 最後、修にそう指示を出した零式行列(冬夜)はポケットから二つの人工ルビーを取り出す。しっかりとそれを握りしめた彼(彼女)は讃来歌(オラトリオ)を口ずさむ。

 

 

 ーーO ora,(歌え、)tyna fo sfre lef hid(あの日の誓いを果たすために)

 

 二つの宝石を使い、彼(彼女)は二体の名詠生物を呼び出す。ーー赤獅子(マンティコア)炎鱗の蜥蜴(サラマンデス)。どちらも赤色第二音階名詠(ノーブル・アリア)に属する強力な名詠生物。今の彼女の名詠(ストック)の中で、一、二に強力な二体だ。

 

「赤色名詠か。お得意の夜色名詠式はどうした?使わないのか?」

「あいにく触媒(カタリスト)が切れてな。こいつらしか名詠出来ないんだよ」

「……触媒が切れた、だと……?」

 

 零式行列の言い分に敵である四条は眉を顰める。彼は冬夜の固有魔法、自分の『時間停止』が形を変えて発言した冬夜の『空間移動』の能力を知っている。異空間を倉庫代わりにして触媒をストックしておけば、よほどのことがない限り触媒が切れることなどまずあり得ない。そして四条が張ったこの時間停止結界の中でも、同系統の魔法である冬夜の空間移動だけは無効化できない。

 

「………そうか。やはりお前、本物の冬夜じゃーー」

「っ!行け!!」

 

 冬夜の正体に気が付いた四条が、余計なことを言う前に零式行列は名詠した二体に指示を出す。赤獅子が音楽室の長机に器用に飛び乗ると、一足飛びに四条の喉元に飛びかかる。既に精霊と化している四条は物理的なダメージなど全く受けないのだが、向かってくるなら反唱で送り返すだけと赤色の宝石を取り出して待ち構える。

 

「!」

 

 だが、それと同時に冬夜から少し離れた位置に移動していた炎鱗の蜥蜴(サラマンデス)が。炎を吐いて人質のいる灰色の小型精命を炙った。いきなり火に炙られた深雪とミアは「キャッ」と悲鳴を上げて炎から身を庇うように背を向けようとする。牙を突き立てる相手を、空中で四条から炎にたじろいだ灰色の名詠生物に変えた獅子は深雪たちを抱える岩の腕に噛みついた。もちろん、鉱物で形成されているために相手に痛みというシグナルは持ち合わせていない。だが噛みついた瞬間に自分たちを縛めていた力が弱まったのを察知した深雪は、その力が弱まっている内にミアを抱えて達也たちの所に思いっきり跳んだ。

 

「狙いは人質の解放か。だが、そんなものは一時凌ぎにしかならんぞ?」

 

 深雪たちが脱出するのを一瞥し、空中に滞空しているわずかな間に四条は次の手を打つ。内心であっさりと人質を解放して見せた偽物の手腕に拍手を送りながらも、『そんなことは無駄だ』と言わんばかりの笑みを強めて孵石を掲げた。四条の意志に呼応するように、卵型の触媒は銀光を放ち始める。このままいけば再び灰色の名詠門が形成されまた新しい敵が増えてしまうだろう。

 しかし、今回は一味違った。

 

「ーー Isa da boema foton doremren(さあ 生まれ落ちた子よ) ife I she cooka Loo zo via(世界があなたを望むのならば)

 O evo Lears(あなたは貴方となれ) ―― Lor besti via-c-bloo = ende wue(生まれ咲いて慕う者)

 

 修の後に隠れた()()()()()による緑の閃光が、音楽室の全てを照らした。

 名詠した本人も含め、修や四条も目を瞑る。瞬間的なものではあるが視界が全く効かなくなった今の状況下で、零式行列はあらん限りの声を張り上げる。

 

「今だ!」

「ッ!?貴様ッ!!」

 

 詠い手の声に反応して、赤獅子が四条の手に持っていたーー正確にはポルターガイストで浮かせていた孵石を蹴り上げる。一瞬の油断にポルターガイストの支配力を緩めてしまった四条はとっさのことに怒号を上げることしかできない。

 天井にぶつかりコロコロと床に転がって来たソレを修は拾う。おっかなびっくりといった、たどたどしい手つきで孵石を抱えた。一高に保管されていた五色の孵石と違い、それは触っても何の反応も起こらない。

 一方、灰色名詠の呪縛から解き放たれた深雪とミアの二人は、達也が受け止めて床に下ろした。

 

「形勢逆転、だな」

 

 最後に、孵石が奪われたことにわずかながら狼狽した四条に冬夜が勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

 

◆◆◆◆◆

 

 

「ミア!大丈夫か!?」

「お、お兄ちゃぁぁぁん!!」

「無事か深雪?」

「ご心配おかけしましたお兄様。脱出する時に少々、髪が火に炙られてしまいましたが……特に怪我はありません」

「そうか……良かった」

 

 冬夜の作戦によって、無事人質状態から解放された少女二人に駆け寄る兄二人。石になることもなく、少々手荒かったが取り返すことが出来た最愛の妹に触れられたことに達也は心の底から安堵する。時間にしてわずか数分(本当は決壊のせいで一秒たりとも時計の針は動いていないのだが)しか離れていなかったのにも関わらず、もう何年も会っていなかったような気持ちになった達也は、深雪が生きているという感触を確かめるべく、少し強めに彼女を抱き寄せた。

 

「お、お兄様……」

「良かった深雪。お前が無事で本当に」

 

普段なら絶対にしてくれないであろう達也の行動に、深雪はついさっきまで人質だったということを忘れて甘えてしまう。はた目から見れば兄妹の感動の再会にしか見えないのだが、深雪の緩みかけた顔を見ているとなんだかやるせない気分になる。シリアスブレイカーは冬夜だけで十分なのだ。

 深雪としてはいつまでもこうしていたい(四条とかエリカのことは忘れている)のだが、元が真面目な(?)達也はそうはいかない。妹の安全を一通り確認した後、深雪から離れて達也は冬夜(零式行列)の方に向かって歩いていき、その頭に軽いチョップを入れた。

 

「痛った!?なにすんだよ達也!?」

「………お前、あんな危険な手を使うなら先に言え。深雪が火傷でもしたらどうするんだ」

「火傷ぐらい良いだろ?この状況で命さえ無事なら。贅沢言うな」

「そうか、なら深雪のキレイな髪が炙られた件については?髪は女の命なんだが?」

「良いトリートメント法教えるからそれでチャラという方向で」

「お前、後で覚えてろよ?」

 

 助けてくれなかったならばこの場で冬夜を半殺しにしてやるところだが、達也は自分の怒りを抑える。考えてみれば自分一人ではどうしようもなかったのだし、そもそもあれだけ絶望的な状況で深雪を取り返してくれたのだから文句を言うのは筋違いだろう。礼を言うのは癪に障るので絶対に言わないが、それでも憎まれ口を叩くぐらいにしておく。

 一方で修も泣きじゃくる妹の頭を撫でながら「良かった。本当に良かった……」と安堵していた。達也と同様、彼も最悪の状況もが頭に過ぎっており、助けられる気が本当はしてなかったが、冬夜(偽)のおかげで助けられた。

 

「……驚いたな。あぁ驚いたとも。俄仕込みの、しかも偽物が咄嗟にたてた策にしては上々だ。まさか人質を解放されるだけでなく、この私から孵石を奪うとはな……。

 認めよう。お前たちに最初から油断してはならない相手だった」

 

 孵石のない手を握りしめ、四条は俯きながら自らの慢心と油断を戒める。昨夜カインツに圧倒できたことがこの事態に繋がったのか、それともこれまでの事件で一方的な展開をしてきたことが原因か。いずれにしろ、彼は心の中で達也たちに敗北したことを認めた。

 人質を取り返して安心したのも束の間。四条が灰の粒が入った瓶を取り出したのを見て、達也たちは再び戦闘態勢に入る。四条は、先ほどまでのにやついた表情(かお)とは違い引き締めた表情をして達也たちを見る。

 

「お前たちに敬意を表してーー私も本気を見せよう」

 

 loar dime,(風、嗤う、) Hir qusi fluse feo nen rawa cley(地に這う砂の儚さを )

 sheza dime,(羽、笑う、) Hir qusi nazarie feo eza da wavir uc corne(火に酔う灰の愚かさを)

solitie kaon,(孤独の牢宮、) writh lef eza,(芥の宴)lastis os fisa endehec mofy(終わらぬ惨劇を敗者が笑う)

 arsei glio,(玉座は王に飢え)ovan ezis glia jes reive(されどその椅子に座すのは埃のみ)

 

 マズイ。

 達也と冬夜は四条の詠を聞いてそう直感した。あの歌は完成させてはならない。生物の持つ本能に従って、とっさに達也はCADを構え、冬夜は二体の名詠生物に指示を下した。

 だが、達也たちの攻撃が届くよりも早く、詠は最後まで綴られてしまった。

 

 

  omunis via-c-univa,(万象は転じ、)Yer sis tera peg ezis, eza(わたしは塵と埃に流れゆく)zette yupa thes I neckt loern(ならば、この世界に勝者は不在)

 Isa da boema foton doremren Ser la lemenent,(さあ、生まれ落ちた子よ)clar lef ilmei arsa(そなたらは王に傅く子供たち)

 jes effectis qusi fo Lastihyt,(その諸手に王の剣)ecta peg sterei orza(十二から成る威光の翳し)

 miqvy O evoia arsei tearl dis elmaei I(いま、世界のすべては敗者となれ) ―― sterei efflectis Ezehyt = ende arsa(王剣・十二銀盤の哮れる日)

 

 銀光が、迸った。

 四条が取り出した灰の瓶。蓋が開けられ、その中に入っていた灰が四条の詠に反応して名詠門(チャネル)を開く。あまりの光量に達也たちも目を閉じずにはいられない。まばゆい銀の閃光が収束すると同時に現れたのは、両腕を大剣に、胴体に当たる中心部分を針金を合わせたような歪な人型にした、十二の剣を従える灰色名詠の真精。

 

十二銀盤の王剣者(イーゼルハイト)】。

 

  カインツも含めた最強格の名詠士・祓戈民(ジルシェ)でも手を焼く、灰色名詠最強の名詠生物。魔法師相手ならば、この一体のみで過剰戦力といって差し支えないほどの大物が、達也たちの前に現れた。

 

 

 

 





次週、ついにアマデウスとイブマリー登場!(予定)

ようやく出せる……。黄昏ファンの皆様、楽しみにしててくれッ!

予想と違っても責めないでね(´・ω・`)

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