特に言うこともないから、本編にいきましょう!
あ、そうだ。やっぱり一言だけ言います。
リーナ、魔法科LZプレイアブルキャラクター参戦決定おめでとう。
日本という国は、よく日本以外の他国、主にUSNAやEUなどの欧米諸国と比較されて表現されることが多い国である。対外的に軍事力を持って領地をーーつまり先住民族に対する侵略なのだがーー広げてきたそれらの国々と対照的に、歴史上の長い期間を鎖国国家として過ごしてきたからこそ得られた独特の風習というものが存在する。
身近なところでいうのなら日本食がそうだろう。世界無形遺産にも登録されたこの食文化の中で特に有名な【
または【和菓子】がそうだろうか。世界広しといえど、和菓子ほど美しい菓子は存在しないだろう。もちろん、世界で活躍するパティシエ職人の方々が作る菓子も見事なものだが、和菓子職人がその技術をもって作り上げるその菓子の美しさと並ぶものはないのではなかろうか。
と、このように、日本には日本独特の美点というものが数多く存在する。これは世界に誇ることであり、それは魔法が開発されておよそ百年経った今でも変わらず存在している。
しかし、美点が多いからと言って、欠点が全くないわけではない。
日本人を表す言葉の中には、『本音と建前』というものがある。この言葉が何を意味しているかというと『本心ではこう考えている(本音)が、社会的、周囲の雰囲気を鑑みるとこう答える(建前)べき』という考え方だ。協調性を重視するがために個人を殺し、他と協調する考え。実に『場の雰囲気』を重視する日本人らしい、集団主義的な考え方だ。
欠点としてこの『本音と建前』を挙げたが、この考え方が悪いと決めつける事はできない。時には建前を重視しなければならないこともある。つまりケースバイケースということだ。だがしかし、いくら集団に合わせなければならないからと言って、個人が抑圧され続ければ、当然歪みが生じる。
例えばーー
「………………………………平穏がほしい」
USNAから電話をかけてきた友人に、心配をかけまいと建前で『大丈夫。問題ない!』と言ったこの夜色の少年のようになる。
「達也くん大変。冬夜くんが灰になってる」
「そんなこと言われてもオレにはどうしようもないんだが」
「燃え尽きちゃってますね。完全に……」
「冷静に状況を言い表している場合じゃないと思うぜ……?」
入学して一月経った時点で、多忙な毎日を送る夜色名詠士、黒崎冬夜は平穏な学校生活というものをついに諦めた。平穏な学校生活なんて高望みしすぎたと、彼は机に突っ伏しながら考えていた。
………いや、波乱万丈な人生を送るのは、ある意味主人公の役目というか生まれついて宿した悲しい性と言うべきではあるのだが、こんな悲壮感が漂う形で受け入れられると困ってしまう。人生一度しかない青春なのだ。もっと明るく、テンションを挙げて青春を謳歌して貰わなければ困る。
「今のうちに保健室に行った方が良いんじゃないでしょうか……?」
「心の問題だから、保健室に行ってもあんまり意味ないような……」
入学当初に見せていた元気はつらつな姿はどこにもなく、富士の樹海に迷い込みそうな背中を見せる友人に、クラスメイトの千葉エリカと柴田美月は心配そうに声をかける。彼らだけでなく、その周りのクラスメイトも似たような顔だ。死にかけたセミを思わせる希薄な存在感を持つような冬夜に、全員が冬夜のことを気にしている。ただ、あまりにも問題が重過ぎるためにどうしていいかわからず声をかけられずにいる。困った顔をして冬夜を見つめるクラスメイトの中でと、夜色の少年の親友であるドイツ系クォーターの少年、西条レオンハルトは腕組みをしながら呟く。
「心の問題っていうなら遥ちゃんに相談すべきじゃね?せっかくのカウンセラーなんだしよ」
「そうだよ冬夜くん!そんな灰色の人生を送る覚悟をする前にちゃんと専門家に相談したほうが」
「いや、実は一人暮らしを始めた次の日には小野先生に相談しに行っててな……。家に一人でいると、なんだかセンチメンタルな気分になっちゃって困ったんだ」
と、ムクリと顔だけ持ち上げた冬夜はそう言う。センチメンタルな気分になった影響でここ最近寝ていないのだろう、目の下に立派なクマができている。
「で、行ってみてどうだったんだ?」
「行ったんだけど、即症状が緩和されるような良いアドバイスはもらえなかった」
「だろうな」
冬夜の返しに達也は「当然」と言いたげな顔をした。魔法が開発されて早百年近くたった今でも、人の精神構造は完全に明らかに出来ていないのだ。精神系魔法においても、そのやり方がわかっているだけでどういう原理で人の心に作用しているか分からないのだ。もちろん薬物に頼れば簡単なのだが、今の冬夜を見ていると依存症になりそうで簡単にそう言えない。
「一応寂しさを紛らわせるって教わった【ぬいぐるみ療法】があったけど、あんまり意味なかったなぁ……」
「せっかく十文字先輩からぬいぐるみを貰ったのに、無駄になったな」
「え?ぬいぐるみ?十文字先輩が?」
「あぁそうらしい……。オレも後で深雪から聞いたときは、思わず耳を疑ったよ」
ボソボソと何気なく呟やかれた冬夜の一言を、しっかり聞き取ったエリカは少し肝を抜かれた顔をしていた。事前に話を聞いていた達也以外の二人も、どこか呆けた顔をしている。
…………憔悴しきっていく様子を見て気を効かせてくれたのだろう。達也が風紀委員の見回りに行っている最中に、部活連の会同を務める十文字克人が突然生徒会室へやって来て、ゲームセンターで取ったという巨大ひよこのぬいぐるみを渡していった。本人曰く三百円で取ったらしいが、スゴいのかスゴくないのか冬夜には分からない。
「え、あの先輩、ゲーセンとか行くクチなの?」
「意外すぎる……」
「まぁ、十文字家は代々空間認識力が高いから、十文字先輩にかかればクレーンゲームなんてお手の物なんだろう。あの先輩にぬいぐるみというのは、どうにもミスマッチな気がしてならないが……」
巌のような人だと前に評したことのある達也にとっても、未だ事実なのか疑うその情報。もしかしたら、十数年前に流行ったという【クリスマスの奇跡で
「そういえば、十文字先輩が持っているハンカチには、クマの刺繍がしてあるって前に美術部の先輩が言ってたような」
「美月止めて。それ以上言うと私の中のイメージが崩れる」
「書斎でクラシックを聞いている、とかだったらまだしも、刺繍はちっと……」
「人間、見かけでは分からないことなんてたくさんあるからな。今の
達也が話題の軌道修正を入れると、全員が思い出したように机の上でぐったりしている夜色名詠士の方を見る。冬夜は「はぁぁぁ………」と魂が抜け出るような溜息をつく。
「もう家に帰りたくない。でも実家にも戻れない。どうすりゃあいいんだよオレは……」
「おいおい。そんなんで交流会は大丈夫なのかよ?ここ最近なにかと物騒なのに」
「例の連続殺人のことか」
「昨夜も起こったんですよね……」
美月が不安気に顔を顰めてそう言う。A級
そんな状況なので、現在冬夜の存在は生徒たちにとってその恐怖を和らげる精神安定の役割もあるのだが、当の本人がこんな状態なので達也としても困っているのだ。
(
「この事件、いったい何時になったら終わるんでしょう?」
「エリカ、千葉家でなにか関係のある話みたいなのは聞いてないのか?」
「捜査情報なんてたとえ身内でも簡単に教えてくれるわけないでしょ。つーかその
「そうか……」
「………でも、大分苦戦しているみたい。ウチのバカ兄貴、この間かなり疲れた声で電話してきたから」
「かなりの難事件、ってことか」
「うん。『解決するまでは相当かかりそうだ』とか愚痴ってたし」
エリカは兄のことを思ってか心配そうな顔を浮かべる。ほかの面々も神妙な面持ちで事件のことを考えていた。
正体不明、動機不明、殺害方法も不明な連続殺人犯ーー。
はたしてこれから起こる交流会は、何事もなく終わるだろうか?
「………………だいじょーぶだいじょーぶ。みんなの事はオレが守るから。だからそんな難しい顔すんなって」
「いや、灰になったままそう言われても全然説得力ねーぞ冬夜」
「やっぱり、最初にコイツをどうにかしないとダメみたいだな」
「み、みんなで冬夜くんが元気になる方法を考えましょう!」
美月のその一言をきっかけに、友人四人は冬夜の再生作業に着手した。
◆◆◆◆◆
親と子というものは、似るものである
「……………………やる気が出ないわ」
さて、所変わってここは山梨県の山奥に立つ屋敷の中。
黒のドレスを纏った一人の女性が、憂鬱そうに椅子にもたれていた。
「というかどうしようもなくだるい。いったい何ででしょうね?」
「さて、なぜでございましょうな。真夜様」
相変わらず黒のドレスに身を包んだ親バカ十師族、冬夜の母、四葉真夜は執務室の中で愚痴をこぼしていた。それを黙って聞くのは、彼女の補佐をする右腕役の執事、葉山忠則。彼は、今日真夜がこなさなければならない仕事の資料を整理しながら、チラリと主の顔を見る。綺麗に整ったその顔はどこか浮かない顔をしており、心ここに非ずという感じだ。ここ数日間はずっとこんな感じでいる。
といってもまぁ、原因はわかっているので、あまり大したことではないのだが。
「冬夜は今頃何をしているのでしょうね……」
「今の時刻ですと、ちょうど一時間目の授業が始まったころでしょう。遅刻してなければ体育着に着替えてグラウンドを走っているのではないでしょうかな」
「朝ごはんちゃんと食べたのかしら。あの子、トースト一枚とかで済ませていそうで怖いわ」
「冬夜様のマンションは自動配膳機も付いておりますので、食生活は問題ないでしょう」
「夜はしっかり寝ているのかしら。いつも夜遅くまで仕事しているようだし、不安ね」
「冬夜様の家にあるHALのデータを見る限り、きちんと睡眠もとっておられるようです」
「………私の目がないからって女の子と夜な夜な遊んでないかしら。あの子、自然と女の子を口説くところがありますから、そういうことになりやすいでしょうし……不純異性交遊とかしてないといいんですけど」
「もしかしたら北山様や光井様の家に厄介になっているかもしれませんな。冬夜様は立派な自制心があります故、そのお二人に手を出すことはないでしょう。もちろん、その他の女子に対してもですが」
見てわかる通り、真夜がこんな状態なのは今現在四葉邸に住んでいない冬夜のことが気になって仕方がないからだ。十三の頃の体験により、子供ができない体になってしまった彼女のもとにやってきた、彼女の遺伝子から作られた少年。同居した当初こそぎこちなかった関係だったものの、今ではどうしようもない親バカに彼女は成長していた。どうしてそうなった?と問われれば、葉山は「私にもよく分かりません」と答える他ないほどに。
「………ふぅ。不安だわ。会うことも電話することも出来ないから、顔を見られないというのが一番ダメね。ホント、何でこんなことになってしまったんでしょう?」
「不思議でなりませんな」
今はこうして呆けているだけに留まっているが、冬夜が突然引越しをした直後は大変だった。夜色名詠士の冬夜に話を聞くため、連日冬夜が暮らすマンションの前に張り込みをしていたテレビ局や報道誌に圧力をかけるよう指示したり(悪質なゴシップ記事を書く出版社は除いて止めた)、冬夜に纏わりつくファンの素性を洗い出して闇討ちを命じたり(少なからずそこに私欲が混じってたと葉山は思っている)、果てには「自分も冬夜の家に引っ越す!」とか言い出したりと大暴走。それを何とかなだめ、落ちつかせた今は「もう間違っても地雷は踏まないようにしよう」と葉山は固く誓っている。本当はここ最近の冬夜の睡眠時間はないに等しいのだが、嘘をついてでも真夜が暴走しないように全力を尽くす。
「さ、真夜様。仕事のお時間です。いつまでも呆けたままで仕事を放棄していては、冬夜様に会わせる顔がありませんぞ」
「そうね……じゃあまず最初は冬夜との養子縁組を組むための書類を用意して頂戴」
「それは後にしましょうか」
「…………チッ」
淑女にあるまじき行動を取った主を見て見ぬふりをして葉山は牽制する。何度も言うが、彼こそが四葉家のプライドとか体面とか面目とかを保つための最後のダムなのだ。
「そうは言ってもね葉山さん。ここ最近の仕事はいつも同じ名前が出てくるから嫌になってきちゃったわ」
「U.N.Owenなる人物ですか」
「そう。警察組織だけでなく
そう言って彼女は、山のように積み上がった資料に辟易しながらとりあえず一番上に置いてあるファイルを取った。書類の内容はU.N.Owenが起こした昨夜の事件についての簡単なレポート。詳しい調査はもうすでに始まっているのだろうが、おそらくなにも進展はしないだろう。犯人の目的、殺害方法、プロファイリングによる人物像の予想。すべての情報が、裏付けの取れてない信憑性に欠けるもの。
妖怪にでも騙されているんじゃないかと、真夜は思っていた。
「誰にも気づかれることなく、どんな監視カメラや包囲網にも映らず、どんな手口を使っているのかも分からない殺人。そしてそれを成し遂げる殺人犯………」
「まるで、三文推理小説の中身を読んでいるみたいですな」
「笑いごとではなくてよ。現にそれで被害者が出ているのですし、面白がって真似る模倣犯まで出てきている始末。早急に対処しなければならないわ」
「申し訳ありません」
睨み付けてきた真夜に葉山は頭を垂れる。十師族の当主の一人としてこの凶悪犯は早急に捕まえなければならないのだが、真夜はどうすればいいのかまるで分からなかった。四葉家の諜報役を担っている黒羽を使っても、めぼしい情報は得られず、つい先日使った真夜個人が持つ秘密の情報網を使っても何一つ分からない相手。
「なにかあるはずなのよ。すべてを完璧に成し遂げる殺人なんて、あってはならないことだわ」
「他の十師族の当主様に助力をお頼みしますか?」
「そうね。まずは
「畏まりました」
「それから……いえ、やっぱりなんでもないわ」
これからどうするのか的確に指示を出した真夜は、何かを言いかけてそれを喉にひっこめた。思わず口に出してしまいそうになったが、
(それにしても……)
真夜は次の仕事に取り掛かりながらもU.N.Owenという人物が起こした事件について考えていた。先ほど葉山を諌めたが、言われてみれば確かにそんな気がしてくる。
これではまるで、小説の中から飛び出してきた本物の殺人鬼が、東京という都市を舞台に小説を再現しているようではないかーー。
「………バカバカしい。そんなことあるわけないのにね」
自分の言葉を否定して、真夜は次の指示を出す。しかし、まだ目に見えた成果がないためかどのような指示を出しても徒労に終わりそうな気がしてならない。模倣犯共はどうとでもなるが、
「せめて犯人の目的が分かれば良かったんですけどねぇ……。それすら分からないのでは、手の打ちようがありませんわ」
「………真夜様はこの『U.N.Owen』なる人物について、いかなる人物だとご想像されますか」
意味のない文字の羅列となった書類を脇に置いて、次の書類に手を伸ばした女主人に葉山は聞いてみた。腹心の部下から突然の問いに、真夜は葉山の顔を一瞥して考え込んだ。
「そうね。私もよく分からないわ。なんとなく『幽霊みたいな存在だ』とは思ってますけど、それは個人の感想にしかすぎませんし……」
こんな時、彼女の姉だったら何と答えるだろうか。自分と違って、四葉の血筋
精神干渉系魔法を身に宿した魔法師は他者の心に直接干渉する関係か、直感的洞察力が優れているという。生前の姉曰く、『理由はわからないがなんとなくピンとくる』らしい。【精神構造干渉魔法】という特異中の特異魔法を宿していた真夜の姉、司波(四葉)深夜は特にそれが優れていた。
しばらく黙考した後、真夜は口を開いた。
「………やっぱりよく分かりませんね。足跡の付かない、まるで幽霊のような相手としか思えません。ただ……」
そこまで言って、真夜は再び口を閉じる。彼女にしては珍しく言い淀んでいる。葉山は、真夜が言いかけた言葉の続きが気になったため、改めて聞いてみた。
「ただ……なんでしょう?」
「ただ、このまま放っておいてはいけない。今のうちに倒しておかないと必ず後悔することになるーー。そんな気がしますわ」
「……それは、犠牲者が更に増えるという意味でございますか?」
「いいえ。もっと重大な……今以上に危険なことになりそうな気がするわ。なにかが、起りそうな気がする……。単なる勘違いだと、いいんですけど」
真夜の予感が当たることになるとは、この時誰も予想してなかったーー。
さて、年もあけてようやく再投稿しました魔法科高校の詠使い。どうだったでしょうか。あまり変わってない?まぁたしかにそうでしょう。ですが、これから少しずつ変化していきます。
とりあえず今は、バイトもしつつ、最新話の続きを書いています。むー。ベッドシーンは書くのがたいへーー。いえ、なんでもありません。冗談です。気にしないでください。
年末が多忙だったので、一時休稿にしましたが、それでも感想を書いてくださった方がいらっしゃったので、オールフリーはビックリしました。いやー。これから頑張るよ。頑張るからね!
それでは、再始動しました魔法科高校の詠使い。もう一度よろしくお願いします!(^_^ゞ