魔法科高校の詠使い   作:オールフリー

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皆様お待たせしました!最新話です!!

あぁ、ゼミの課題発表と簿記のテストが近い……。


後ろを振り向けない……

【魔法】

 

 それは現代社会において、もはや欠かすことの出来ない重要なファクターとなった、人類が手にした新しい力。

 

 百年という短い期間で、()()()()()()()()誰でも使えるように進歩し、人々の生活水準を向上させ人類の生活はさらに豊かになった。

 

 ーーあくまで表面的には。

 

 その裏では今でも続けられる非人道的な実験や研究が秘密裏に進められているところもあり、一生を研究所で過ごして終える魔法師もいる。

 魔法を使って心を改造し、思うがままに操る悪党もいる。

 日々の生活にあえぐアフリカの貧しい地域では、わずかな金を得るために人身売買を行っているところも珍しくなく、またそうした実態を知らない人は多い。

 そして何より一番重大なのは、魔法を『使える者』と『使えない者』という二者の対立だ。魔法によって向上した生活を享受しているにも関わらず魔法の存在を否定する人は少なからず存在しており、また魔法が使えてもその才能が乏しいために一人前と見られず、結果として魔法を否定する側の人間になる人も多い。

 

 これらはホンの一例に過ぎない。良い意味だけでなく悪い意味でも、魔法は人間の根本的ななにかを変えようとしている。

 

 その『なにか』を具体的に『なにか』と言われても、その答えをあげることが出来ない。

 

 ただ一つ思う。魔法が、()()()()()で、人々の生活を豊かにしたのかーー

 

 その問いは、恐らく永久に私たちに付きまとうだろう。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 意外にも、由紀からの返事は早かった。

 

(まさかこんな早くに話が聞けるとは思わなかったな……)

 

 雫に美味しいお弁当を作ってもらった日の放課後。校門をくぐって下校していく生徒たちの姿を目の端に収めながら、冬夜は校門付近のベンチに座って読書に勤しんでいた。読書といっても、実際に本を開いて読んでいるわけではなく、端末にブックマークしたサイトの書籍を読んでいるだけなのだが。

 

(こんなに早く返事が返ってきたのは、オレが夜色名詠士だからだろうな……)

 

 冬夜は今日あったことを思い返す。今朝のホームルーム前に突然やって来た由紀からメール。話したのは一昨日のことだったので、こんなにも早く返事が返ってきたことに冬夜は驚いた。『都合が着くようなら今日の放課後にでも会いませんか?』という文面のもと、どうしたものかと考えてから『了解しました』と返した。放課後は生徒会で交流会の手伝いをするつもりだったが、既に同盟の組織が出来上がっているのだとすれば一刻の猶予もない。そう考えた冬夜は真由美に今日は生徒会を休むとメールで伝え(そもそも冬夜は生徒会役員ではないので本来そんな必要はないのだが)ベンチに座って由紀を待っていた。

 前を通りかかる生徒たちがチラチラと自分を見ていることなど、脳内で自動的に処理して端末に表示されている文章に意識を向ける。

 一度本を読み始めると時間が経つのを忘れてしまう悪癖はこういった時に役に立つ。メールをもらってから十分後、校舎側から由紀が走って来たのを目の端で捉えた冬夜は、サイトを閉じて端末をポケットにしまった。

 

「ご、ごめんなさい!待たせちゃいまして……」

「いえ。オレも今来たところですよ」

 

 お決まりの文句を口にして冬夜はベンチから立ち上がる。別に冬夜だって無理をしているわけではない。遅れるという文面のメールは事前にもらってあったし、十分かそこらの時間を待つことは冬夜にとって苦痛でもなんでもなかった。

 

「良かった……怒って帰っちゃったらどうしようかと」

「はは、オレは女性との約束をすっぽかすような男じゃありませんよ」

 

 特に意識することなく、冬夜の口からジゴロのような言葉が飛び出てくる。冬夜そう言われた由紀は顔を真っ赤にして目を伏せてしまった。その反応を見て冬夜は「しまった」と内心で後悔する。

 

 今の言葉。これじゃあまるでナンパ師じゃねぇか、と冬夜は思う。天然ジゴロ(達也)と同じようになるのだけは避けようと決めていたのに、ついやってしまった。

 

「え、えっと、それじゃあお話をお聞きしましょうか?」

「そ、それなんだけど。ここではなすのもなんだし、外のカフェで話さない?ほら、学校の中だと誰が聞いているか分からないし」

 

 今の発言が、きっと双眼鏡で覗き見をしているであろう幼馴染に聞かれてないことを祈りつつ冬夜は本題に話を変える。顔を真っ赤にして動揺していた由紀だったが、目的意識が勝ったのかあらかじめ決めてあったその言葉をスムーズに紡いだ。言われるがまま、冬夜も特に不自然だとは思わず、頷いて由紀と一緒に校門の外へ出ていく。

 実は、近くの木の影に

 

「…………えっと、冬夜くん行っちゃったんだけど、本当に追いかけるの?」

「うん。ーー絶対逃がさない」

((うわぁ。目が据わってるぅ……))

 

 実はそのすぐ近くの木の影に、般若の面を被った北山雫と以下二名のパーティーがおり、今の会話を全部聞かれていたことに、この時点では全く気付いていないまま。

 北山雫に率いられて、少女探偵団の三人も動き始めた。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 黒崎冬夜にとって『恐怖』とは、肉親のように慣れ親しんだ存在だ。特に『生命(いのち)の危機』という『恐怖』は、幾度も感じたことのある感覚だった。

 

 若干十五歳にして何度も生命(いのち)の危機に遭遇した経験がある。ある時は殺し屋(ヒットマン)によって、ある時は狙撃手(スナイパー)によって。所構わず強襲してきたそれらの相手をして銃撃戦になった経験だってある。十五歳にして異常すぎる人生を送ってきた彼にとっては悪意や殺意といったものはお馴染みのものであり、つい半年前まではそれらは日常的に感じていた感覚だ。

 そんな彼はむしろ『生命(いのち)の危機』というシグナルを象徴する『恐怖』という感覚を、歳を重ねるごとにより鋭敏に感じ取れるようになっていた。

 

 だが、今彼が感じている恐怖はこれまで感じたことのないものだった。

 

(なんだ、言葉にして表現するなら、死神に魂を抜き取られかけているようなこの感覚。めっちゃ怖い)

 

校門を出た辺りからずっと感じていた殺気が気になった冬夜は、存在探知を使って周囲の死角や狙撃地点になりそうなところに『存在』がどれだけあるか調べる。最初は平和な法治国家である日本でそんなことはないだろうと思っていたが、この殺気は明らかに誰かが自分の命を狙っている。

 

(白昼堂々狙ってくるとは大胆な敵だ。返り討ちにしてやーーん?)

 

腰につけたホルスターに仕舞ってあるCADをいつでも引き抜けるよう身構えるが、存在探知を使ったため、後ろにいた追跡者の存在に気付いた。誰だろう?と敵の顔を拝んでやろうと冬夜はチラッと後ろを見る。

振り向いたその先にいたのは。

 

「……………………(じー)」

(……オレの幼馴染が、あんな病んだ目をしているはずかない……!)

 

深雪が魔法を暴走させたとき以上に冷たい、凍りつくような眼差しで自分を見つめる幼馴染がいた……ような気がする。その幼馴染の後ろに白装束を着てドスを持った鬼が見えた気がしたがきっと気のせいだろう。

視線を前に戻した冬夜は、今見たものは全て幻覚かなにかだと決めた。ーー立派な現実逃避である。

 

 ここで、冬夜の【存在探知】に関して誤解のないよう説明しておこう。一見便利そうに見える冬夜の【存在探知】という能力は、ある重大な欠点を抱えている。

 それは『存在そのものの居場所』は分かっても、『探知した存在が誰なのか』までは分からないというところだ。分かりにくいので具体例を挙げて説明しよう。

 

 例えば、冬夜が目隠しをした状態で前を向き、その後ろに雫がやって来たとしよう。冬夜のその状態で【存在探知】を使った場合、自分の後ろに『誰か』が来たことは分かるが、その『誰か』が『北山雫』であることは分からないのだ。

 奇襲や暗殺防止にはもってこいの能力なのだが、人探しには不向きなのである。

 

 先天的に持っている【空間移動(テレポート)】の能力だけでなく、後天的に得た能力も併用すればその欠点も克服出来るが、諸事情によりそれはあまり使えない。

 そのため、【存在探知】を使っただけでは追跡者が雫、ほのか、英美の三人だとはわからなかったのである。

 

「どうしたの黒崎くん?顔色悪いみたいだけど……」

「あ、いえ、何でもないですよ。ちょっと考えことをしていただけですから」

 

 心配そうに顔を覗き込んだ由紀に、冬夜は慌てて手を振って問題ないとアピールする。

 また魂がズルッと引っ張られるような感覚がしたが、後ろに何がいるのか、見るのが怖くて振り向けない。

 英雄と呼ばれる夜色名詠士でも、女の嫉妬は未体験の恐怖だった。

 

「着いたわ。ここよ」

 

 雫の殺気に怯えながらも由紀に着いていくと、冬夜は学校の監視システムの外にあるケーキ屋に案内された。以前エリカに進められて冬夜がみんなにケーキを奢らされたところとは違う店で、ここもまた美味しいケーキを売っているという評判のお店らしい。平日だというのにたくさんの客が来ていることから、人気スポットであることは冬夜にも分かった。

 

「とりあえずケーキを買って、席の確保もしなくちゃね」

 

 由紀の言葉に冬夜は同調して、二人はショーケースに並べられたケーキやタルトを吟味する?幸いにも店の奥にいるイートインコーナーはまだ空いているテーブルがちらほら見える。結局、冬夜はイチゴが乗ったオーソドックスなショートケーキと紅茶を、由紀はチョコケーキとジュースを買ってから向かい合わせにして席に座った。

 

「ここって、確かこの辺りでは有名なデートスポットだよね、ほのか」

「うん。あの先輩、冬夜くんのこと好きなのかな?」

「………とりあえず監視続行」

 

 そして尾行をしている雫たちも、こっそりと飲み物を買って二人が座っている席から死角になるように座っていった。

 

「ごめんなさいね。本当は他の同盟メンバーにも声を掛けてあるから、一緒に来るつもりだったんだけど、急に学校側に呼び足されちゃったみたいで……じきに来ると思うから、先に食べてましょう?」

「そういうことでしたら、遠慮なく」

 

 冬夜はフォークを手にとってケーキを食べ始める。ふわふわのスポンジと甘すぎない生クリームが美味しい。ケーキを食べるのは久方ぶりだが、冬夜は水波へのお土産にでも買って行ってやろうかと考えた。きっと喜んでくれるだろう。

 

「あ、このチョコケーキ美味しい」

「こっちのケーキも美味しいですよ」

 

 二人とも味の感想を同時に言う。ケーキ自体もそうだがお店の雰囲気自体も良い。BGMとして店内になだれている音楽も店の雰囲気とマッチしているため、ゆったりとした気分になれる。ここのところ頭を悩ませたり、忙しい毎日を送る彼にとっては丁度いい気分転換になった。

 

「あ、あの黒崎くん」

 

 買ったケーキが残り四分の一に差し掛かったところで、由紀が遠慮がちに声をかけた。冬夜より食べるスピードの遅い由紀のケーキはまだ半分ほど残っている。

 冬夜はフォークを一度置いて「どうしましたか?」と聞く。

 

「その……そのケーキを少し分けてくれないかなぁって。私のもあげるから」

「あぁ……別に良いですけど」

「あ、ありがとう!じゃあ……」

 

 由紀は嬉しそうにそう答えると、その手にもったフォークでケーキを一切れ分け

 

「あ、あーん」

 

 ………公衆の面前でなに恥ずかしいことをやってるんですか?と、冬夜は喉元まで出かかったその言葉を寸前で腹の中に押し止めた。

 苦笑いを浮かべながらも「恥ずかしいから止めましょうよ」とやんわり断る。だが由紀はなぜか引き下がらない。

 一分、二分と過ぎていくにつれて、形勢が悪くなるのは冬夜の方だった。

 

(…………仕方ない。腹を括ろう)

 

 由紀の行動に折れた冬夜は、仕方なく、ぎこちなく口を開いて由紀のフォークに乗っているケーキを口に含む。

 ーーその瞬間

 

 

 ぞ く り

 

 

 心臓を鷲掴みにされたような感覚が冬夜を襲った。

 

「ーーーーッ!?」

 

 あまりのことに冬夜は席を立って後ろを振り向いた。やっぱり殺し屋がやって来たのか?と、冬夜は警戒心を最大まで引き上げて辺りを見回す。

 が、殺し屋らしき雰囲気を持つ人間はいない。周囲の客が「何事か?」と思って冬夜のことを見ているのに自覚して、冬夜は無言でもとの席に座った。

 

「ど、どうしたの冬夜くん?なにかあったの?」

「いえ、誰かに見られたような気がしたので振り返ってたのですが、どうやら気のせいだったようです」

 

 二人の死角ででCADのスイッチを入れそうになっている雫をほのかと英美が必死に押さえていることなど知らず、冬夜は心配そうな表情で自分を見る由紀にそう言った。雫も短絡的に魔法を使いそうになったが、魔法の不適正使用は犯罪行為だ。ここで問題でも起こしたら、父や父の会社に迷惑がかかる。そう言い聞かせて雫は必死に自分を押さえた。 よくよく思い出せばと冬夜は嫌がっていたではないか。冬夜の本意ではないのだから落ち着こう、と雫は自分に言い聞かせた。

 一方で、冬夜は

 

(警戒は怠らないでおこう。いつでも対応できるよう、空間移動の準備も忘れないようにしておかないと)

 

 殺し屋に命を狙われている、というより妻に愛人との浮気現場を見られているような状況に近いの冬夜は、いつでも行動を起こせるように身構えておく。

 ……なんだかとても、冬夜が情けない男のように見えてくるのだから不思議だ。

 

「と、冬夜くん!」

「え?あ、はい。なんでしょう?」

「そ、その……ケーキなんだけど……」

 

 由紀の言葉でそういえば食べ比べをしているのだと思い出した。顔を赤くしているところを見ると、やはり先程の「あーん」はかなり恥ずかしかったらしい。

 そんなに恥ずかしくなるならやらなければいいのに、と冬夜は思った。

 しかし、由紀が顔を赤らめている理由は彼が予想していたものを斜め上に上回るものだった。

 

「今度は、冬夜くんのを食べさせてくれないかなぁ……って」

 

 冬夜はフリーズした。

 神は人に試練を与えるというが、黒崎冬夜にとってその言葉は今まさしくこの状況のことをいうのだろう。

 由紀と雫、位置的に二人に挟まれている冬夜はそう思った。

 

(………ダメだ。このままだと、決定的になにかがダメになる……!)

 

 本能的になにかを悟った冬夜はぎこちなく笑顔を浮かべる。冷や汗をだらだらと流す冬夜の後ろで、雫がまたCADのスイッチを入れそうになったのは説明するまでもない。

 しかしこのままでは埒があかない。いっそのこと二人のもとに特攻してやろうか。冬夜のこととなると信じられないくらい行動的になる(ほのか談)雫が、そんな危険なことを考えているとは思ってもみない冬夜はこの状況をどう打破するか判断しかねていた。このままでは、北山雫(幼馴染)柊由紀(先輩)の仁義なき戦いが始まってしまう。

 

(ヤバイ。なんかよくわからないけど、たぶん今生命(いのち)の危機だ!)

 

 黒崎冬夜にとって『恐怖』とは、肉親のように慣れ親しんだ存在だ。特に『生命(いのち)の危機』という『恐怖』は、幾度も感じたことのある感覚だった。

 なんだかよく分からないが、このままでは確実に自分は死ぬと(男の)本能が察知した冬夜は、とりあえずケーキを皿ごと由紀に差し出しておく。だが、由紀はじっと冬夜を見て離さない。食べさせたのだから、食べさせてほしいのだ。

 

 どうしようかと、冬夜が本気で悩んでいると、彼にとっては幸いなことに、この時救世主が現れた。

 

「やっと終わったよ。遅れてすまない」

「もう少しあとに来てくれても良かったのに……」

「なにか言ったかな?由紀さん」

「いいえ、なんでもないです」

 

 とりあえず危機的状況を脱したことに冬夜はホッと一息つく。話しかけてきた人の服装は、自分たちの通う一高の制服だった。それも冬夜と同じ校章(エンブレム)がない方を来ている。つまり二科生の生徒だ。

 

「あれ?あの人確か……」

「え?なんでここにいるのっ!?」

 

 だがその顔を見て少女探偵団の三人は驚いていた。

 冬夜も、その体躯には見覚えがあった。

 由紀に呼ばれ、冬夜に話しかけた人物。それは………

 

 

「君が黒崎冬夜くんだね?僕は(つかさ)(きのえ)だ。遅れて申し訳ない」

 

 その生徒は、勧誘期間四日目に達也に止められて冬夜が逃がした生徒に間違いなかった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「それじゃあ、さっそく本題の方に入りましょう」

 

 剣道部主将、司甲と挨拶をした冬夜は話を切り出した。

 

「まず確認なんですけど、先輩たちの最終的な目標は【一科生と二科生の待遇改善】で間違いないんですよね?」

「あぁ。」

 

 甲は冬夜の言葉を頷いて肯定した。

 

「具体的には、どのようなことを訴えるつもりですか?」

「以前由紀さんから聞いたとは思うが、生徒会選出における一科生縛りのルール撤廃、および解散総選挙の要求をするつもりだ」

 

 甲は予め決めてあったようにスラスラと言葉を並べる。それが彼ら自身で考えたものなのか、それともブランシュの思惑が絡んだものなのか、冬夜には判断できない。

 残念ながら、探りは失敗に終わったらしい。

 

「生徒会の選出規準の改正は理解できますが……現行生徒会をわざわざ解散させる必要はあるのでしょうか?」

「もちろん。一高は開校以来ずっと一科生のみで生徒会を構成していた。そして長年ずっと、ブルーム、ウィードといった差別思想に対して具体的な方法をとっていない。

 一科生縛りのルールを撤廃した後、総選挙を行うのは一高全生徒の考えを聞くためだよ。

『このまま一科生の生徒会長のままでいいのか?』と聞くためだ。

 もしそれでまた七草会長が選ばれれば、それが大多数の意見だということになる。まぁ、明らかに二科生を見下しているような生徒を役員に選ぶような人が、また選ばれるとは考えたくないけどね」

 

 甲のその発言に冬夜は「かなり一方的な決めつけだな」と思ったが、心のなかで言うだけに留めた。今代の生徒会長(七草真由美)がこの差別思想をどうかしたいと考えていることを冬夜は知っているし、服部の発言も一般的な魔法師の考え方に沿ったものだ。態度が気に食わないのは冬夜も同感なのだが。

 真由美のことを自分達の都合のいいように解釈しているな、と第三者的な見方で冬夜は考える。

 

「一高の他の組織……大きな権力を有していると言えば他に部活連と風紀委員会がありますが、そちらに訴えは起こさない気なのですか?」

「風紀委員会へはもっと二科生の生徒を採用するようにいうつもりだ。人数の関係をいうのであれば増員すればいいだけの話だろう?風紀委員会は腕っぷしがなければ勤まらない場所だが、魔法を使う才能と魔法の使った戦闘能力は別物だと僕は思っているんだ。

 BS魔法師のように、一芸に秀でた魔法師も学校内の風紀を守るには十分戦力として数えられるんじゃないかな。君や君の相棒のようにね」

「………その口ぶりだと達也にも声を掛けているみたいですね。まぁあいつが首を縦に振るとは考えられませんけど。ところで部活連へは要求はしないのですか?」

「ついさっき、彼には断られたという連絡が来たよ。どうやら僕らと主義主張は共有できないらしい。残念だよ。

 部活連へは非魔法科系クラブへの予算をアップするよういうつもりだ。魔法が使える、使えないの違いだけで予算全体を占める割合が大きく変わっているんだよ。ここを是正するよう要求するつもりだ」

 

 この主張には「的はずれな主張だな」と冬夜は感じた。魔法系クラブの予算の割合が非魔法系クラブより多いのは、在籍人数と活動実績を反映した予算案をベースにしたものを使っているからだ。

 魔法科高校は魔法を学ぶ高等学校の中でも国内トップにあたる一流高。同然、魔法科高校の生徒は同年代の少年少女たちの中で魔法を使わせれば頭一つ二つ抜きん出た才能と実力を持つ生徒が多い。各魔法系クラブの実績もそれに基づくところが多いだろう。実績のある部活が評価され、予算を多くもらえるのは魔法を学ばない普通科高校でも珍しくない。

 

 しかし逆に言えば、他の二つに対する訴えは理解できるものだった。風紀委員会の話は、まぁ普通に増員して再考すればいいだけの話だ。特に問題ではない。実際に魔法を使って戦う場面を想定した場合、使い方を工夫した単純な魔法の方が、ありきたりな使い方をしているだけの高威力の魔法より脅威となる。そうすれば劣等意識を持っている多数の二科生の意識を変えられるだろうし、才能に驕る一科生が二科生を見下すことも少なくなるだろう。

 

そして、やはり問題なのが生徒会のところだ。ブランシュの存在がなければ冬夜も放っておけるのだが、残念ながらそれは出来ない。

同盟の方を応援しつつ、ブランシュの動きを妨害する必要があるーー冬夜は改めて自分の役目を確認した。

 

「さて黒崎冬夜くん。僕たちの考えは確かに伝えたよ。これを聞いて君がどうするのか、その答えを聞かせてほしい」

「………先輩方の考え、確かに聞かせてもらいました。自分で良いのなら、微力ですが協力していたたきたいです」

「ッ!」

 

 冬夜が少し間を置いて答えると、由紀の顔がパァッ、と笑顔になった。甲も緊張が解けたような表情をしている。冬夜は無言で紅茶を啜った。

 ーー潜入ミッション開始である。

 

「ありがとう冬夜くん!これからよろしくね!」

 

 手を握り、嬉しさのあまりなのか、大きな声で由紀がそう言って歓迎した。周囲の客が何事か?とまたこちらを見始めたのを感じて、笑顔の次は恥ずかしさで顔を真っ赤に染めた。

 同時に、冬夜も席の後方から殺気を感じたが振り替えることなく前を向き続けた。

 

「ありがとう冬夜くん。正直、君にそう言ってもらえてホッとしているよ。君も司波くんと同じように断ってしまうのではないかと思っていたからね」

「オレはあいつとは違いますよ。そもそもあの達也(シスコン)が、深雪(いもうと)と対立するような組織に入るわけがありません」

「ハハッそうか。司波くんのことは残念だったが、今は君が入ってくれたことに感謝しなければね」

「オレに出来ることでしたら、なんでもしますよ」

「なら、早速一つ頼みたいことがあるんだけど良いかな?」

 

 同盟側の活動には積極的に協力する気の冬夜は、建前ではなく本気でそう言った。しかしいきなり頼まれ事をされることに冬夜は身構える。

 さっきまでと同じくらい真剣な眼差しで冬夜を見つめている………なにか重大なことでも伝えられるのだろうか?

 

「実は、僕の兄が君に是非会いたいっていうんだ。兄はいわゆる君のファンで、君と話をしてみたいって言ってるんだよ」

 

 由紀と同じファンか。と冬夜は身構えた分、話の内容に気落ちした。この時点では冬夜はまだ断る気でいたが、甲が続けて言った言葉が、彼の答えを百八十度変えることになった。

 

「同盟を結成する時に、色々と手助けをしてもらってね。今もアドバイスをしてもらっているんだよ。君さえよければこれから会いに行きたいんだが……」

 

 冬夜の次の行動が、決まった。

 




教訓【浮気ダメ。絶対】

入学式編も佳境に入りつつあるなぁ。

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