模型戦士ガンプラビルダーズビギニングR   作:級長

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 駿河改
 所属仮想国家:セレスティ(天上高校)
 所属部隊:第一小隊
 使用ガンプラ:ガンダムアストレア・ダブルエッジ
 ステータス
 トータル命中率 89%
 トータル回避率 85%
 トータル防御率 67%
 地形対応評価 B+
 空戦対応評価 A-

 ガンダムアストレア・ダブルエッジ
 装備:GNソード、プロトGNソード、GNビームサーベル、GNバルカン
 搭載機能:トランザム、クイックブースト、アサルトアーマー、プライマルアーマー


レポート1 ガンプラアイドル決定戦

 静岡 世界大会会場

 

 第7回ガンプラバトル選手権世界大会の会場となる静岡のドーム。ここでは世界大会を前に熱い戦いが繰り広げられていた。

 『ただいまから、ファン投票により決定したガンプラバトル選手権世界大会のレポーターを発表します!』

 選手権のレポーターを勤めるアイドルを決める戦いだ。会場はそれぞれのファンで埋め尽くされ、今にも戦争が始まりそうな空気で満たされていた。

 だが、所詮はテレビ局のイベント。出来レースに決まっている。

 「なんで俺まで……」

 「応援団はたくさんいた方がいいからね。あんたもミホシを応援するのよ、いいね?」

 「アッ、ハイ」

 その中に、場違い感に悩む高校生がいた。名前は駿河改。金髪からして不良っぽいイメージを受けるが、休日なのにブレザーの制服を着ているとは真面目だ。制服は天上高校のものである。ただ、ブレザーのジャケットの下に白いパーカーを羽織っていた。

 隣にいる金髪美女は親戚のお姉さんであるリディア・ルーベイ。その関係性から見るに、金髪は遺伝で駿河はハーフかクォーターなのだろう。

 「ミホシさんが遂に世界デビューか。感慨深いな」

 「何処目線よ。まあ、でも確かにそう思うよ」

 リディアはミホシと中学以来からの友人である。イギリスから転校してきたリディアによくしてくれ、それ以来社会人になってからも連絡を取り合う親友である。

 「最近有名なアイドル、『アサルト40』から自称ガンプラマニアが立候補してるが、正真正銘ガンプラアイドルはあの人だからな」

 リディアと暮らしている駿河もミホシとは面識がある。ファンというわけではないが、その高い制作技術とガンダム知識は同じビルダーの駿河をも上回ることも知っていた。

 『投票の方法はCDを購入し、そこについてくる投票権での投票となります。ファンクラブ会員はさらに投票権獲得、ダウンロードすればもう一つ投票出来ます!』

 「阿漕な商売だな、全く」

 投票方法は握手券商法での投票権入手。これにはミホシ本人も苦言を呈したという。ガンプラアイドル、キララことミホシのファンはその大半がガンプラビルダー。つまり、ガンプラを買うためにお金を使ってるので高いCDを複数買う余裕は無い。

 「オマケにミホシさんのCDは当初からオリジナルカラーのガーベラテトラが付属している。そこに応募券付属だから単価が高くなっちまう」

 「狙ったか! アサルト40!」

 悪いことは続くもので、投票権が付くことになったキララのCDには初めからガンプラが付属する予定だったため単価が高い。最早、狙ってやったと疑われても仕方ないレベルだ。

 『はい、投票による勝敗は前評判通りアサルト40に軍配が上がりました』

 「納得出来るかー!」

 「ふざけんな!」

 当然の様に不満が噴出する。元祖ガンプラアイドルはファンも知る通りキララなのだが、選手権の話を聞き付けてアサルト40のメンバーがガンプラマニアを自称し始めたというわけだ。40人以上いるアイドルグループではいかに賎しくとも個性を増やすのに必死だ。

 『おや、何かキララさんから提案があるそうですよ』

 『ファンも不満があるそうだし、ガンプラアイドルというのならガンプラバトルで決着よ!』

 キララが出した提案は、わかりやすくガンプラバトルにより対戦。これには、今度はアサルト40のファンがブーイング。いやこれに関してはブーイングする権利すらないぞお前ら。

 「じゃあ何のためにCD買ったんだ!」

 「金返せ!」

 『では、この大型バトルシステムのテストを兼ねてバトルをしましょう。ガンプラ甲子園で適用されている「領土戦」でのバトルになります。票数に差があるためハンデ戦となります』

 アサルト40のファンがごねたため、ハンデが付いてしまった。ゴネ得である。ガンプラ甲子園は駿河も出場しているガンプラバトルの高校生大会で、現在は予選の最中。特殊ルールで戦うのだ。

 PPSEが開発したオンラインバトル用のマシンでインターネット上に作られたフィールドに入り、そこで領土を賭けて戦う。全てのバトルフィールドが地続きであり、拠点など特殊な要素も多い。

 「なるほど、ハンデとはなんだ?」

 『領土戦はチームバトルですので、腕に覚えのあるファンの皆様は下のフロアにお越し下さい』

 領土戦はチームでの戦い。少数ながら全員がガンプラビルダーであるキララのファンは、もちろん参戦する。駿河もリディアに連れられて下に降りた。

 下に降りると、観客席からはよく見えなかった様子がわかる様になる。選手権のイメージキャラクター争奪戦に参戦したのはキララとアサルト40のメンバーのみ。つまり、アサルト40が余計な真似してでしゃばらなければ事は平和的に解決したのだ。

 ファンの総数にも差がある。好きなアイドルに吊られてガンプラを始めただろうファンが、まともに組めてるかも怪しいガンプラを引っ提げて参戦を表明した。アサルト40はメンバー全員がいきなりガンプラ好きを公言し始めている、不審な集団だ。

 「久しぶりッス、ミホシさん」

 「同窓会以来だねー」

 「歳がバレる!」

 駿河とリディアはキララに挨拶をしておく。ファンクラブも、この二人はキララの知り合いとして知っていた。本人は同級生に来られると歳がバレるというが、キララもリディアもそこまで見た目年齢に差がある様には見えない。

 二人共、20代後半とは見えないくらい若く感じる。

 「で、あいつらが相手ですかい」

 駿河はアサルト40のメンバーを見遣る。最近、番組でガンダム好きを公言し始めたが、ビクザムをモビルスーツと呼んだり、実は初代ガンダムが2号機ということも知らなかったり、本当にガンダム好きか怪しいものであった。

 「やあやあ、もう既に20を越えた超高齢アイドルのキララさんじゃないですか」

 「あなたもガンプラ人気に乗っかった口ですか?」

 アサルト40のメンバーが挑発に来たが、キララは意にも介さない。さすが、伊達にガンダム全作品を見たわけではない。便乗を疑われないレベルの高い知識を持ち合わせていた。

 「キララを舐めるなよ、この『にわか』め!」

 「岩絵の具くっつけるやつじゃないんだぞ!」

 「そりゃ『にかわ』だ」

 ファンのマニアックなボケに突っ込める駿河は何なのか。普通の高校生は日本画の画材であるにかわを知らないのが一般的だ。

 「文句があるなら、ガンプラバトルで勝ってから言うのね」

 「ふん、この戦力差を埋められるものならやってみなさいよ」

 キララとリーダーが激しく激突していた。駿河も今回の戦いを見越して、装備を整える。ベースのガンプラはガンダムアストレア。駿河のアストレアは余剰パーツを利用して、右にGNソード、左にプロトGNソードを持つ。さらに、肘など青色が増え、頭部アンテナもエクシアのものを青くしたやつに変えた。

 「近接装備が、今回にうってつけだな」

 「弾切れは無さそうだな」

 「剣まみれだな」

 駿河は愛用のカスタム機で勝負に出る。因みに、ダンボール戦機などの様にカスタマイズ前提ではないガンプラだが、発売時期が近いと手足の換装が容易だったりする。また、他のガンプラからランナーを流用するバリエーションキットは余剰パーツでカスタムしやすい。

 なんとアストレアは、初めからエクシアがバリエーション前提のランナー構成だったこともありエクシアのパーツがスイッチで排除されず、エクシアのランナーは全て付属する大サービスぶり。駿河のアストレアが持つGNソードも、別のキットから移植したものではなく余剰パーツで組み上げたものだ。

 『では、バトルを開始します! 先ほど述べた通り、ハンデ戦となります。まず、ファンの参戦自体が一つのハンデです。バトルスペースに入らないファンの皆さんも、観客席からオンラインシステムで参戦できます!』

 モニターには通常のバトルシステムからガンプラとGPベースをセットする部分だけ切り離した様な機械が映し出される。

 「オンラインシステムか。面倒な」

 駿河はガンプラとGPベースをセットする。指定されたスタート地点は大型バトルシステムではなく、周囲に点在する小型のバトルシステムだった。

 『各バトルシステムには互いの拠点があります。それを奪いあって下さい!』

 「なるほど、領土戦だな」

 本格的な領土戦である。確かに奪い合う拠点が一つだと、単なる陣取りゲームである。

 『Please set your GP-Base』

 アナウンスが流れる。駿河がGPベースをセットすると、ベースにはガンプラのデータが出現する。外見からは設定出来ないビームの色など細かい調整をするため、GPベースを使用する必要がある。ガンプラバトルをするにはガンプラとGPベースの情報が一致してて初めてまともな戦いが可能というわけだ。

 『Beginning [Plavsky particle] dispersal. Field5,City』

 戦場は市街地。キララ側の拠点は何の設備もない『倉庫』や『町』。対してアサルト40側の拠点は防衛設備の多い『要塞』や『基地』ばかり。これがハンデということか。

 『Please set your GUNPLA. BATTLE START』

 「駿河改、ガンダムアストレア、出るぞ!」

 操縦用のコンソールが出現し、バトルが始まる。敵の数は100以上に上り、こちらが物量では不利。

 「戦いは数だ。しかし、それが通用するのは個の力が掛け離れていない時のみ!」

 敵の大半が素組しただけのガンプラ。バリもまともに取らない、シールも手で張るような組み方では勝てるわけがない。

 アストレアのソードが棒立ちのストライクやF91を切り裂く。一方、あちらの攻撃は駿河に当たらない。

 「いくらプラモ自体が新しくても、組めてなければな!」

 稼動域の広さからガンプラバトルでは初心者向けの機体として有名なアデルやジェノアスも敵にいたが、旧式なはずのキララ側のガンプラに歯が立たない。キララのファンはいずれも実力の高いビルダー、旧キットの現代改修なんて朝飯前。

 ビルダーとしての腕は駿河より上だ。

 「もらった! サテライトキャノン!」

 ガンダムDXがアストレアにサテライトキャノンを放とうとした。だが、それは不発に終わり、結局斬られて爆散。

 「月は出ていないぞ!」

 「く、このオタク共め!」

 今度はウイングガンダムがバスターライフルのフルバーストでアストレアを攻撃。

 「トランザム、GNリフレクション!」

 駿河は直撃の直前だけトランザムを発動。なんと、バスターライフルを反射した。集まっていた他の敵をバスターライフルが焼く。これは外伝漫画でアストレアのパイロットが使った技を再現したもの。『まともなパイロットは使わない』と言われた技だが、使い熟した。

 「何ィ? バスターライフルがッ!」

 「パチリというまではめないから!」

 逆にバスターライフルが分解し、隙が生まれる。バリを取らなかったがために、バスターライフルがしっかりはまってなかったのだ。ライフルは基本的に所謂『モナカ』構造であり、大出力で撃ちたいなら必然として合わせ目消しついでの接着が必要だ。

 「くっ! こっちにもシールドが……」

 「残念だったな」

 「は?」

 ウイングガンダムのシールドはアストレアのライフルを防げず、機体ごと破壊された。シールドもしっかり作らねば、性能を発揮しない。

 特別強いわけでもないライフルさえ防げない有様だったシールドは、バリを取ってはめ込むべき場所がはまっておらず、グリップもバリで接続が最悪の状態だった。また、ウイングのシールドは稼動があるため、余計にキッチリ作らないと脆い。

 「雑魚は一気に消す!」

 数が多いため、二刀流で一気に片付けるしかない。むしろ、そのための二刀流だ。

 「ドッグファイトの基本は、ダイブアンドズームだ!」

 アストレアは複数の敵を引き寄せて、上空まで飛んでいく。アストレイが飛んだ方向には太陽があり、敵を見ながら背面飛行するアストレイには影響が無いが、敵は目が眩んでしまう。

 「ネメシス裏奥義! 太陽落とし!」

 「み、見えん!」

 太陽を利用した目潰しで敵を確実に倒す。上空限界まで飛翔したアストレアは、空を蹴って重力に乗り、一気に下降する。

 だが、敵も馬鹿ではない。横からアストレアに迫る。2機による挟み撃ちだ。

 「サイドがガラ空きだ!」

 「甘い!」

 サイドに迫ったまではよかったが、スピードに追い付けず同士討ち。

 「しまった!」

 「なんだと?」

 戦略も重要だが、圧倒的な敵に安い戦法は無意味。それどころか、墓穴を掘る結果になる。

 「俺はこのまま本隊を叩く! 要塞は任せた!」

 「わかった!」

 残るファンにこの場を任せ、駿河は巨大バトルシステムにある最重要拠点に向かう。トランザムしてそのまま一気にスピードを増し、要塞を横断してエリアを離脱する。

 「なるほど、バトルシステムの間はプラスフキー粒子で道が出来てるのか。ならば!」

 「行かせるか!」

 敵も駿河を追跡する。バトルシステムの間を移動するために、プラスフキー粒子の道が出来ていたのだ。駿河は予定を変更し、全ての小型バトルシステムを回っていくことにした。

 長距離移動が必要になるガンプラ甲子園の予選を戦い抜くため、アストレアにはある機能があった。

 「クイックブースト!」

 「なんだあのスピードは!」

 急にアストレアは速度を上げる。トランザムしただけとは考えられないスピードだった。

 「アストレアに組み込んだ新機能、クイックブースト!」

 「が、ガンプラが持たん! ぎゃあああ!」

 「ば、化け物め!」

 敵のガンプラはアストレアに追い付くべくスピードを上げたが、ブースター類が分解して爆発していく。駿河のアストレアは合わせ目消しの際に接着したため、スピードに耐えられる。

 「ガンプラには、堅牢さが必要だ」

 細かい作業の末、本来存在しない機能の搭載に成功していた。普通のガンプラなら耐えられない性能も、改造次第では出せる。

 アストレアはバトルシステムを巡り、敵施設に打撃を与えていく。

 「なんだよあいつ!」

 「あれがガンプラ甲子園の出場選手の実力か?」

 奇想天外な駿河のアイデアは敵味方関係無く驚愕させた。施設に大打撃を与え、遂に駿河は巨大バトルシステムまで到達した。

 巨大バトルシステムでは、敵施設の征圧が終わっていた。だが、アサルト40のリーダーがキララと一騎打ちをしている。デンドロビウムまで持ち出しても、キララのガーベラテトラに肉薄すら出来ない。その様子を、駿河は要塞の上で見ていた。

 「おいおいマジかよ。デンドロビウムで手こずるなんて」

 「そこまでだ!」

 「この数ではどうすることも出来ないでしょうね」

 突入してきた駿河のアストレアを他のメンバーが取り囲む。だが、駿河は落ち着いてコンソールを操作した。

 「なんだ?」

 「これは!」

 アストレアが何かをチャージし、周りのガンプラを弾き飛ばした。しっかりパーツが組まれていないガンプラ達は、これだけで粉々に砕かれた。周りの地形も粉砕している。

 「GNアサルトアーマー。制作のヒントはガンダム作品の外にもあるのさ」

 駿河が使用したクイックブーストとアサルトアーマーは、他のロボット作品にあった技。その作品では特殊な粒子がこの技の鍵となるため、駿河は参考にしたのだ。

 「援軍? ならば!」

 「プライマルアーマー、展開」

 リーダーがデンドロビウムのマイクロミサイルを駿河に放つが、またしても奇妙な技に阻まれた。アストレアの周りにはGNフィールドとは違い、流動的な粒子の膜が出来ていた。

 「何?」

 「GNフィールドとの差別化だな。受け流しが出来るからあちらより防御は固い」

 駿河のアストレアがもつGNリフレクション、クイックブースト、アサルトアーマー、プライマルアーマーは何れも全身にあるスラスターを微妙に動かし、粒子をコントロールして発動する。

 ガンプラ甲子園を戦い抜くファイターは、他のファイターと毛色が違う。

 「なんなのよ……あんた」

 「俺か? 俺は仮想国家『セレスティ』第一小隊所属、駿河改。人呼んで、『青い騎士』!」

 天上高校の甲子園出場チーム、仮想国家『セレスティ』は決してメンバーが多いわけではない。数を増やすために多くの学校が模型部の外からメンバーを募り、天上高校も同様の措置をしたが、3人チームを2つしか用意出来なかった。だが、それでも天上高校が戦えるのは個々の強さとチームワークがあるから。

 第一小隊は彼の他に『赤い山猫』と呼ばれるスナイパー、そして新進気鋭のファイター『エンジェル』がいる。山猫が遠距離から狙撃し、騎士が戦況を切り開くことでルーキーの天使をサポートする布陣だ。

 第二小隊は、あの『緑色の流星』率いるチーム。赤、青、緑を一つのチームにすれば確かに強いが、ルーキーの多い国家だけにそのアシストも必要、バランスの取れたチーム構成が勝利の鍵だ。

 「消えろ!」

 「GNリフレクション!」

 巨大なビーム砲すら、GNリフレクションで反射される。せっかくのデンドロビウムも、ちゃんと作れなければ意味が無い。まさにデンドロビウムの無駄遣い。

 ミサイルコンテナに直撃を受け、デンドロビウムのユニット、オーキスが誘爆した。

 「しまった!」

 オーキスから分離したガンダム、ステイメンは大破。離脱が間に合わなかった。キララのガーベラテトラがビームサーベルでステイメンに切り掛かる。辛うじてビームサーベルで受けるステイメンだが、パワーが足りない。

 「この! ガンプラアイドル風情が!」

 「ガンプラアイドル名乗ってそれじゃ、話にならないのよね!」

 完全に押し切られ、ビームサーベルを取り落とすステイメン。原作の死闘が蘇る対戦カードだけに、ステイメンが弱いことが残念でならない。

 「だったら、数で勝負!」

 アサルト40には40人近いメンバーがいた。先ほどのアサルトアーマーで倒れたのは僅か数人のため、まだ30人近くいる。戦いをファンに任せた分、本隊のアサルト40は減っていない。

 「な、なんだ?」

 キララに突撃しようとしたメンバーの内、一番後ろにいたガンプラが動きを止める。そのガンプラ、ユニコーンガンダムをGNソードが貫いていた。

 「邪魔をするな!」

 「なっ!」

 ガンプラバトルに原作の強さは関係無い。ちゃんと作れていないと、フルサイコフレームのユニコーンでさえバターの様に切断される。

 「こんな遊びに本気になって……!」

 「私達は仕事なの!」

 「命懸けてんのよ! あんたと違って」

 アストレイのレッド、ブルー、ゴールドがアストレアに迫る。ただ、3人程度で勝てる相手なら駿河に異名など付かない。

 「馬鹿め、遊びだから本気になれるんだよ!」

 まずレッドが日本刀で切り掛かるが、刀ごとアストレアが縦に両断する。ブルーが大剣を横に振るいながら突撃しても、その大剣が切り裂かれて攻撃は通らない。そしてあっという間に上半身と下半身は泣き別れ。ゴールドはその乱戦に乗じてミラージュコロイドによる透明化でアストレアを狙った。

 やはりガンプラは上手く組まないといけないようで、透明化が甘かったため簡単に場所がバレて十字に解体された。ゴールドフレームはビームサーベルを使おうとしており、それと移動時の推進剤でどの道バレバレ。

 「ミラージュコロイドは熱と音までは隠せん。覚えておけ」

 「こ、こんなおもちゃの戦いで仕事が無くなるなんて!」

 「ガンプラアイドルが聞いて呆れる」

 アサルト40はこの調子で瞬く間に全滅。所詮、ガンプラを仕事を得る材料としか思っていないのでは、強力なガンプラは作れない。

 「これで最後よ!」

 ステイメンはガーベラテトラに斬られ、フィールドに散った。同時に全ての拠点が征圧され、勝敗が決した。

 『ちょ……これはどうしましょうか?』

 「いや大人しく諦めろよ」

 主催者側も、まさかの結果に慌てていた。あれだけ数の差があって、負けるとは微塵も考えていなかったのだろう。

 『当然、勝者を選ぶべきだ』

 「誰だ?」

 駿河は声のした方を向いた。要塞の上にケンプファーが立っているではないか。だが、ただのケンプファーではない。駿河が確認すると、機体名は『ケンプファーアメイジング』とされていた。

 「アメイジング……ユウキ・タツヤか?」

 『私はユウキ・タツヤではない。三代目メイジン・カワグチだ』

 「いや、ジオン系量産機といいスタンダードな改造といい、紅くはないけどどう見てもユウキ……」

 『では見せてやろう、これがメイジン・カワグチの素顔だ!』

 メイジンを名乗るユウキ・タツヤは、通信越しに素顔を駿河に見せた。

 「やっぱりユウキ・タツヤじゃねーか!」

 『とにかく、勝者に任せる約束ならそうするべきだ』

 渋っていた主催者もメイジンの鶴の一声で黙った。メイジンは大会主催者であるPPSEのワークスチーム代表。

 『えー、ですが我々も一応プロダクションとの契約が……』

 『では、キララは大会のイメージキャラクターに起用しよう。それでいいな』

 『あ、はい』

 メイジンに圧されて、主催者も何も言えなかったという。テレビ局はこんな醜態を晒したアサルト40をレポーターに使うだろうが、キララは結果的に予定より大きな仕事を得た。

 『BATTLE ENDED』

 「作戦終了。全く無駄な戦いだったな」

 残されたのはキララ側の無傷のガンプラと、アサルト40サイドのガンプラの残骸だった。

 「お前何してんだ? 学校は? 甲子園出ねーの?」

 「私はユウキ・タツヤではない、メイジン・カワグチだ」

 「なんだそりゃ」

 とりあえず、駿河はメイジンに聞きたいことがあった。二代目メイジンを知るからこそ、この疑問が浮かんだ。

 「お前、まさか二代目の思想に染まったわけじゃないよな?」

 「無論だ。それより、君に渡すものがある」

 「なんだ?」

 メイジンは駿河に薄い箱をいくつか渡す。箱には『三代目メイジン・カワグチプロデュースカスタムキット、マーキュリーレブD』と書かれていた。

 「メイジンモデルの試作品だそうだ。PPSEとバンダイが共同で開発した。君になら使い熟せる。モニターをしてもらいたい」

 「メイジンも大変だな」

 軽口を叩く駿河だったが、既に自分が作るべきガンプラの姿が脳裏に浮かんでいた。

 彼が生み出すだろうガンプラ、ガンダムエクシア・ディープスペックの姿が。




 ガンプラ甲子園
 星影雪菜が設立したガンプラバトルの高校生大会。今回が第1回。戦闘フィールドのプログラムや管理は彼女がしており、天才の本領が発揮されている。
 学校毎に仮想国家に別れ、様々な効果を持つ拠点を取り合う。例えば、鉱山を手に入れれば塗料やプラ板が送られてくるなど特典がある。

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