高校毎に仮想国家に別れ、ネット内で領地を奪い合うガンプラバトルの高校生大会。
インターネット内でバトルを行うため、特別な装置が必要だが大会本部より支給される。大会主催者はPPSEのプラスフキーネットワーク研究部門の主任、星影雪菜。
ロマンシス領内 コロニー
ガンプラ甲子園の予選、領土戦の範囲は宇宙にも及ぶ。駿河改は新たに組み上げたガンプラで宇宙を飛んでいたら、ガンプラバトル世界大会の前夜祭真っ最中の今に活発なコロニーを見つけたのだ。
「みんな前夜祭に言ったとばかり思ってたが……まだいるのか」
駿河は一週間もフルで前夜祭にはいないので、警備が手薄な今のうちに偵察をしていた。前夜祭に行けよ、という主催者からの推薦なのか、制圧用フラッグは機能していない。制圧出来ないが、偵察くらいなら出来る。
「所属国家はロマンシス。なんでもない普通の高校だ」
コロニーに侵入したエクシアは肩や膝、胸部にスキー板みたいなダッシュユニットと一部だけアヴァランチユニットを装備している。
コロニーに侵入すると、まだ警備のガンプラがいくらかいた。茶色のベアッガイ達をブルーディスティニー1号機が率いている、なかなか見られないシュールな光景だ。
「熊?」
ベアッガイはコウサカ・チナがベアッガイⅢの原型にした最新モデルで、ブルーディスティニー共々素組らしい。エクシアを初めとするGNドライヴ搭載機は熱を発さないため、まだ気付かれてはいなかった。
「ブルーディスティニー、登録ファイターは鹿島遊……全員女子か」
相手が素組ならと、駿河は姿を晒してみる。相手の熟練度を確かめに行く作戦だ。
『か、鹿島くーん! 敵がー!』
『おやおや、安心してお姫様達。ここは私が……』
ブルーディスティニーに続き、ベアッガイ達がドタドタとエクシアに迫っていた。ベアッガイでブルーディスティニーの場所がわからなくなっている。そもそも、意外とベアッガイはボリュームがあるので18メートル級モビルスーツのガンプラなんぞ簡単に埋もれてしまう。
「お、おい……」
さすがに駿河も逃げるしかなかった。自分が飛行出来るエクシアを操縦していることを忘れ、走って逃亡である。
『コラッ、鹿島ァ! 部活サボってんじゃねぇ!』
その時、怒声と共に上空からビームが飛んで来た。ベアッガイの群れで埋まったブルーディスティニーを正確に射抜いている。それが狙撃に特化した機体ではなく、どノーマルのクランシェなのだから駿河も感嘆した。
『うちの馬鹿が迷惑かけたな』
クランシェはブルーディスティニーの残骸の、足を引っ張って飛び去った。ベアッガイ達もそれを追う。
「何だったんだ……あれ?」
『演劇部のお迎えは相変わらず凄いな。ガンプラバトルにまで参戦だ』
呆然と立ち尽くすエクシアの隣に、マスラオカラーのスサノオが立っていた。手には刀みたいなビームサーベルが収まっている。駿河は声を聞いて、声だけならフェリーニに似てると感じた。
「ここの人?」
『訳あって模型部の助っ人をしている。俺は野崎だ。こっちがクラスメイトの佐倉に、友人の御子柴だ』
スサノオが紹介したのは、先程と同じベアッガイを赤く塗って頭の両側に白い水玉の赤いリボンを付けたものと、赤いタイプRのガンダムアストレアだ。
「へぇ、ベアッガイが特に良く出来てるじゃないか」
佐倉の作ったベアッガイは、塗り分けのラインではみ出しの少ない出来がいい作品だった。バトルに出すのが惜しいくらいだ。
『野崎くんのガンプラもカッコイイよ! 元キットの色を変えたんだね!』
佐倉はベアッガイというチョイスからわかってはいたが女子みたいだ。野崎のガンプラを佐倉が褒め讃えたが、彼はこう答えた。
『スサノオとマスラオをニコイチしただけだから』
『塗ってすらなかった!』
野崎はスサノオとマスラオの共通パーツを入れ替えて色変えしただけだった。それを示すかの様に、スサノオの武装である強化サーベルが腰のバインダーに付けられていた。
『だって塗るの面倒だし』
『残ったパーツがもったいないよ!』
野崎と佐倉の漫才みたいなやり取りはさておき、駿河は物陰に隠れているアストレアが気になった。
『なんだよ! やんのか!』
「隠れながら言われてもなぁ……」
『ウハハハハハッ!』
その時、コロニーの丸い床の彼方から不気味な笑い声が聞こえてきた。上空をフラフラと飛ぶバンシィがミサイルに落とされ、墜落した爆発の中からスーパーカスタムザクF2000が現れた。
侵入した敵を落としたかの様に見えるシーンだが、レーダーで見るとロマンシスの機体がロマンシスの機体を撃墜した様にしか見えない。
「あれ、識別はお前らの仲間だよな?」
『若松がやられた!』
『お、千代じゃん』
スサノオが頭を抱える中、ザクのファイターが通信を開く。なんと、ファイターは女子であった。
「ファイター登録は、瀬尾結月。女子なのか……」
スーパーカスタムザクは素組だが、操縦技術は高いらしい。瀬尾は駿河を見て、一言言い放つ。
『ちょっとー、そんな表情しないでくれる?』
「こっちの表情とかわかるのか……?」
『「こんなかわいい女の子にバトル挑まれちゃって本気出せないぜ」って顔してんじゃん』
(なんかイラッとするな、こいつ)
駿河は瀬尾に一瞬いらついた。どうやら空気が読めないタイプらしい。というか敵に向かってこの発言である。死ぬ気なのだろうか。
『あ、じゃあそろそろ行くわ、俺』
『そろそろ帰るか』
「お、おーい!」
何か用事があるのか、全ての機体がそそくさと帰ってしまう。コロニーに残されたのは駿河だけとなった。
「なんだったんだ? あれ」
某出版社 事務所
「で、そういうわけでファッションモデルの佐治さんに来ていただいたわけですが……」
スサノオのファイター、野崎梅太郎は少女漫画家だった。彼の担当編集者である剣さんはガンプラバトルの経験が無く、『少女誌に載せられるガンプラ漫画』を、という編集長からの無茶振りに対してファッション誌のモデル、佐治晴香の協力を扇いだ。
この件について珍しく野崎に愚痴ってしまった剣さんだったが、『剣さんが弱っている!』と野崎が謎着火。彼の知り合いである漫画家の都ゆかりが先輩にガンプラバトル経験者かつ女性という人物を見つけたので、早速協力してもらうことにした。
佐治晴香はガンプラ甲子園の主催者、星影雪菜の先輩でもある。彼女はモデルだけではなく、ガンプラに適した小物のプロデュースもしている。佐治モデルの工具は瞬く間に売り切れ、ガンプラの新規開拓に一役買っている。
編集長も彼女の名前が載せられれば効果的な宣伝になるとして、協力を推奨した。
「それがこれですか」
佐治は届いたネームを読んでいた。野崎の代表作の人物がガンプラバトルに参戦するという、ガンプラを知らない人も取っ付き易い内容なのだが。
『鈴木くん! このGNハイメガランチャーで消えてもらうわ! あなたは知り過ぎたのよ!』
『ま、マミコー!』
「殺し合ってませんか?」
佐治はいきなりツッコミ所を見付けてしまう。編集者達の苦労は絶えない。
甲子園案内
浪漫学園
仮想国家名:ロマンシス
領土は拠点であるコロニーと周辺のデブリ帯。あまり活発な国家ではないが、たまに助っ人で来るスーパーカスタムザクF2000により不眠症を起こすプレイヤーが周辺国に多い。