模型戦士ガンプラビルダーズビギニングR   作:級長

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 HGUC
 今でこそバリエーションが多く、メジャーとなったガンプラ『HGUCシリーズ』。だが、当初は、ていうかどっしょぱながガンダムじゃなくてガンキャノンだしマイナーな機体を多くリリースするシリーズとして有名だった。当のガンダムは21番目で、劇場版で出番を削られたギャンより遅い。
 今のガンプラには完成度で譲るものの、シンプルな作りで安いため、技術の練習台には最適なものも多い。


レポート2 ギャンバルカンはあと10年戦える

 企業連 会議室

 

 大手企業が集まり、春闘などへの対応を統一するための組織、それが企業連。今日も夜な夜な、老人達が会議をしていた。

 「問題ですな」

 「そうですな」

 彼らが見ていたのは模型雑誌。ガンプラバトルの話題が書かれていた。特集は『三代目メイジン・カワグチ』の襲名演説。自由で楽しいガンプラを目指すとのことだが、その自由こそ老人達には都合が悪かった。

 「あまり自由にやられますと迷惑だ」

 「最近の若者が上に反発するのはこれのせいなのか?」

 会議がざわつく。彼らは新人社員が上層部に盾突くという事態に危機感を感じていた。そのため、最近の会議では専ら、如何に若者から反抗力を削ぐかに重きを置いた議論が進められていた。

 「手は打ってある」

 「ヨネクラ会長! 本当ですか?」

 その中でも、一際歳老いて太った、タヌキみたいな老人が話を切り出す。彼が企業連の会長だ。

 「大会に我々の刺客を送った。これでガキ共は重油の塊作りが如何に無駄か思い知ることになるだろう」

 ヨネクラ会長は笑う。彼は戦争の後に生まれ、荒れ果てた日本を建て直したという自負がある。だからこそ、恵まれた環境に甘んじて好き勝手する若者が許せないのだ。日本を悪くするなら尚更である。

 そこ、実際に日本を建て直したのはもっと上の世代で、日本を現在進行系でダメにしているのはヨネクラ会長達が政府に組織票と引き返えに要求した優遇政策だとか、口が裂けても言ったらダメだぞ。禁句だ、禁句。

 (まずはガンプラバトルを滅ぼす。話はそれからだ)

 ガンプラバトルの自由に、魔の手が伸びる。

 

 東京某所 商店街

 

 商店街では世界大会の開催を記念して、ガンプラバトル大会が行われていた。それの観戦に、駿河改は向かっていた。

 こんな辺鄙な商店街のバトルに見る価値があるのかと問われれば、あると即答が可能だ。この地区、日本第5ブロックは世界大会のファイナリスト、イオリ・セイ、レイジ組を輩出し、『紅の彗星』ユウキ・タツヤの根城でもある。レベルが異様に高いのだ。

 「で、注目選手の一人が出場しないのか……」

 「注目選手とは嬉しいことを言ってくれますね駿河さん。僕はギャンバルカンが間に合わないかもしれないから出場しなかったけど、残念ながら間に合ったんだよね」

 駿河は注目する選手の一人、サザキ・ススムと会場を目指していた。サザキは地区でも有力の選手で、古いHGのギャンを現代改修して戦い抜く生粋のギャンマニア。一時はあのレイジをも追い詰めたほどの実力だ。

 「にわかに騒がしいな」

 「なんだ?」

 「あ、置いてくなよ!」

 会場の周辺が騒がしいので、サザキはそこへ駆け寄る。駿河は足が遅いため置いてかれた。ここは一度、女の子限定ガンプラバトル大会が行われた場所である。

 「お、おのれぇ!」

 「ご、ゴリラが負けた!」

 大会は既に決勝。元々初めから見る予定だった駿河も、サザキと駅前で話し込んでいたためここまで遅れたのだ。

 「ゴンダのゴールドスモーが! あいつのガンプラをあそこまで破壊するとは!」

 ゴンダのゴールドスモーが見事にバラバラだ。甲子園の予選で駿河もゴンダと戦ったことがあるが、あの頑丈なガンプラを破壊するとは。それも、間接部が外れただけといういつもの生易しい壊れ方ではない。

 「ガンプラなど下らん。消えるがよい」

 他の選手のガンプラも無惨に大破。敵は4人で、3人のビルダーと1人のファイターに別れているものと見られる。ガンプラはセラヴィーガンダム。

 「あいつらの服のと、ガンプラのマーキング。企業連か?」

 駿河は、敵のスーツに付けられたバッチとガンプラのマーキングから彼らが企業連の人間であると見抜く。

 「ワークスチームか? それにしては……」

 「フッ、この地区最強は我々だ。やはり、ガンプラなどただのプラスチック……」

 「聞き捨てならないな」

 企業連のファイターが高らかに勝利宣言をする中、サザキが割って入る。セイに『ガンプラの扱いが乱暴』と証されたサザキも、別にガンプラが嫌いだから破壊しているわけではない。戦いの荒さが出ているだけなのだ。

 「地区最強はこの僕と相棒、ギャンバルカンのものだ! 戦ってもないのに認められないね!」

 「ほう、では私達と戦うかね?」

 そんなわけで、急遽サザキと企業連のファイターによるバトルが始まる。駿河も、あることを予想してガンプラを出撃させることにした。

 『Please set your GP-Base. Beginning [Plavsky particle] dispersal』

 さすがに1つのバトルシステムで3人が出撃するのは窮屈だが、不可能ではない。

 『Field2,Desert』

 フィールドは砂漠。サザキにとっては、突如現れたレイジに敗北した雪辱の地だ。

 『Please set your GUNPLA』

 「サザキ・ススム、ギャンバルカン。出る!」

 ギャンバルカンはギャンの改造ガンプラ。背中のバックパックにガトリングを付け、シールドを両手に持ち、サーベルは肩に移設した。

 「とっとと倒して帰ろうぜ」

 「そうだな」

 セラヴィーは両側に無人制御セラフィム『セム』を増設した所謂GNHW/G3形態となった以外、目立った改造が無い。強いて言えば、キャノンに巨大な刃が付いたくらいか。似合わない実体剣は最早、相手のガンプラを傷付けるためだけの装備なのだろう。

 「駿河改、エクシア・ディープスペック、目標を駆逐する!」

 駿河のエクシアは肩をアストレアのものに交換、胸パーツもアストレアからパーツを追加、所々を青く塗った簡単改造。エクシアアメイジングを意識したのだ。武装のマーキュリーレヴDは未完成なので、右手にGNソード、左手にプロトGNソードを装備した。

 『BATTLE START』

 3機のガンプラがフィールドに降り立つ。企業連のファイターは2機が敵であることに不満があった。

 「おいおい、2対1かよ」

 「見学だ。サザキが負けたら次は俺がやる」

 最強を名乗る癖にみみっちいのはさすがだと駿河も感服する。ただ、あのゴンダが負けたなら、だいたいネタは割れた。

 「分量するぞ!」

 セラヴィーは背中のセラフィム、両側のセムと分量、連携攻撃を仕掛ける。だが、バックパックの分量するビルドストライク打倒を目指すギャンバルカンはその程度対策済みだ。

 「どうだ!」

 「フハハハ、無駄無駄!」

 ガトリングとシールドのミサイルを掃射したが、セラフィムとセムも含めて全ての機体がそれを回避した。

 「無人制御の動きじゃない?」

 本来、分量するタイプの機体はファンネルと同じ様な扱いを受ける。ビルドブースターの様な支援機やセラフィムの様なモビルスーツがくっついてる場合にはメイン操作を分量した方に移すことも出来るが、それでも操作が切り替わるだけで全ての分量機体に手動と同じ動きをさせるのは難しい。

 「種は割れている! お前らどうせ操作してんだろ!」

 「ど、どうしてそれを!」

 「数でピンと来たよ」

 だが、駿河は即座にトリックを見抜いた。ファイターがビルダー含めて4人、セラヴィーもセラフィムとセムの4つに分量。あまりに簡単にバレたため、ついファイターも口が滑る。

 「やっぱりか」

 「バレたなら仕方ない! 貴様のガンプラを破壊する!」

 見事に種が割れた企業連のファイターは強行策に出る。ただ、サザキと駿河も黙って倒される様なファイターではない。

 「セラフィムとセムは俺がやる! デカブツはお前がやれ!」

 「水爆使ってでも倒すよ!」

 駿河はエクシアを大ジャンプさせた。セムが一機、目でエクシアを追ったが、それは間違いだった。

 「うお! 眩しッ!」

 フィールドの太陽が視界を塞ぐ。その隙にエクシアが降り立ちながらGNソードでセムを両断した。セムが爆散し、煙でエクシアの姿が見えなくなる。それに戸惑っていたセムは煙から現れたエクシアにGNソードで真っ二つ。あっという間にセムが全滅した。

 「ば、馬鹿な!」

 それに唖然としていたセラフィムもGNソードで貫かれた。あまりに一瞬の出来事で、何も出来なかったのだ。多数との戦いに慣れた駿河らしい戦術でセラヴィーが取り残された。

 「ぐっ、このォー!」

 GNフィールド発生装置を先に破壊され、防御手段を失ったセラヴィーは逃走の姿勢を見せた。だが、手に背中を見せるのは死と同義。両手にビームサーベルを持ったギャンバルカンはセラヴィーの両肩を切断し、背中に穴を開けていく。

 「このギャンバルカンはよいものだ!」

 そして、コクピットを貫かれて爆発。あまりに呆気ない幕引きだ。

 「まだいるのか?」

 駿河は、岩山にガンプラがいる事に気付いた。ストライクガンダムの改造型で、ジムストライカーの槍と装甲が付けられていた。

 「企業連のマーキングか。懲りないな」

 「俺をあいつらと一緒にしてもらっては困るな」

 駿河はその肩に付けられた企業連のマーキングを見つけてうんざりした。ご丁寧に援軍まで用意していたのか。

 「俺は企業連のイワサキ・タロウ。こんな遊びに必死になるお前とは違う」

 ストライクのファイター、イワサキ・タロウはわざわざ通信まで寄越した。眼鏡に黒髪の真面目そうな高校生だが、他人を値踏みする様な目をしている。

 「ほう、そんな手の込んだガンプラを作っておいてかね?」

 「これは貴様らと俺の格の違いを見せ付ける道具だ。俺は貴様らと違って、必死にならなくとも強い」

 ストライクは手が込んでいるが、イワサキはガンプラが好きではない様だ。ただ合理的に勝利を求めて作られた機体は、どこと無く二代目メイジン・カワグチを彷彿とさせる。

 「ライフルもあるが、貴様程度にはこれで十分だ。生憎、俺にはお前らみたいに遊んでいる時間はない。俺はお前達と違い、高校も企業の支援する学校に入り将来を考えて生きて……」

 「貰った!」

 長話に飽きた駿河はストライクを攻撃した。バトルの最中なので問題は無い。

 「貴様! 話は最後まで……」

 「今はバトルの最中だ!」

 ストライクの槍とエクシアの剣が交差する。自分のガンプラに自信があったイワサキは敵の強さに動揺した。

 「ストライクと互角?」

 「おっと、僕も忘れてもらっては困るね」

 横からギャンバルカンが弾幕を展開した。それの直撃を受けたストライクは場外へ飛び、イワサキの手に落ちる。

 『BATTLE END』

 「チッ、帰るぞ」

 「あ、はい」

 バトルが終了した。システムから粒子が消えると、バラバラにされたセラヴィーとセラフィム、セムが横たわっていた。

 「貴様は俺に勝てない、覚えておけ」

 イワサキはそれだけ言うと、会場を去った。場外だから負けなんじゃないかとかサザキと駿河は思ったが、口にはしない。

 「どうやら、地区最強は僕とギャンバルカンの様だね」

 「だが、あいつら何だったんだ?」

 駿河は突如現れた企業連のファイターに警戒を強める。自分の私腹を肥やすことしか考えない組織が派遣したファイターだ、ろくな目的は無いに決まっている。

 「世界大会に乗じて儲けようとしてくる、とばかり思っていたが……。考え方を改める必要があるらしい」

 儲けることだけを正義とする道徳の無い人間の考えは、いくら常識人が考えてもわからない。場当たり的に対応するしか無いと駿河は諦めた。




 ガンダムビルドファイターズ MSV図鑑
 本家ガンダム作品では戦場におけるIFを補完するMSV。ガンプラとなれば、自由な発想で改造出来るため、そのバリエーションは拡大する。

 ガンダムアストレア・ダブルエッジ
 ガンダムエクシアのバリエーションキット、ガンダムアストレアの改造ガンプラ。武装は右腕のGNソードと左腕のプロトGNソード。額アンテナをエクシアのものにし、各部を青くした。奇しくも、アメイジングエクシアに似た造形となった。
 実は『HGガンダムアストレア』一つで制作可能。余剰パーツが多いキットなのだ。
 ガンダムエクシア・ディープスペック
 全体的にエクシア寄りとなった改造機。武装はマーキュリーレヴD。ベースは『HGガンダムエクシアリペアⅡ』のため、現行キットに負けない稼動域を持つ。

 ギャンバルカン
 ギャンの改修機。HGギャンはHGUCの初期、2番目に作られたガンプラであるため、稼動域など難が多い。だが、ファイターのサザキ・ススムは現代改修により、ビルドストライクにも負けない性能に仕上げた。
 背中のバックパックは外れるらしい。

 ストライクストライカー
 一番新しいガンプラなら強いに違いないという発想の元、HGCEストライクガンダムを改造した機体。ジムストライカーから装甲や武装を流用した。

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