模型戦士ガンプラビルダーズビギニングR   作:級長

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 「アスランは既に少し錯乱している!」とは、脱走したアスランを追う際にレイがシンに向けて言った一言である。まあ確かにエクストリームVSでのトゥヘァーなアスランは既に少しどころかかなり錯乱している。
 何故『少し』なのかは不明。だがやはりトゥヘァーなアスランを見ると錯乱してる感は否めない。
 そんなアスランだが、大多数の二次創作ではツッコミに回ることが多いみたいだ。だからとりあえずトゥヘァーをネタにするのはモウヤメルンダァッ!
 こんなことを書いて、あんなサブタイトル付けてる作者も既に少し錯乱している。
 富士川海士とグリーンズゴック、我道躍人とアルケーが作者の所属するサークルのメンバーからの提供であるという大事なことをアナウンスし忘れている作者は確かに錯乱してる。
 ガンダムSEEDMSVのテーマ曲『ZIPS』をリピートでこんな時間(午前3時)に聞いてればそりゃ錯乱する。割り切れても錯乱する。メタメタ嬉しくても錯乱する。


9.レイは既に少し錯乱していた

 天上高校 食堂

 

 「今日はケバブフェアか」

 灰音は食堂で食券を買いながら呟いた。天上高校では時々、奇妙なフェアを食堂でしていることが多い。今日はケバブがメニューに加わるケバブフェアの日だ。だから普段お弁当の灰音も食堂にいる。

 カウンターに向かう灰音に、ある声が聞こえた。教師二人の言い争いらしい。灰音は聞き耳を立ててみた。

 「ケバブにはこのチリソースをかけるのが……」

 「いやいや、ケバブといったらヨーグルトソースだろ!」

 チリソース派の女性教師、明日葉先生とヨーグルトソース派の外国人教師、バルトフェルド先生が言い争いをしていた。ケバブフェアといえば、チリソース派とヨーグルトソース派の論争が名物となっている。

 その横を偶然通りすがった灰音だが、突然教師二人に話を振られた。

 「「で、お前はどっちだ?」」

 「えっと……」

 灰音は悩んだ。ここはどちらにも味方せずに質問をかわさないと、今後に影響する。こうして話を振られた大半の生徒は、中立の『何も付けない派』を装い逃げるのだ。が、最近は何も付けない派すら第三勢力として認識されつつある。

 灰音は朝ごはんのトーストに付けた物をとっさに思い付き、それを言った。

 「うーん。みかんジャムかなー?」

 「それは旨いのか?」

 あまりな選択にバルトフェルド先生は思わず聞いた。灰音はドヤ顔で言い放つ。

 「ええ、それはもう」

 「お前は死んだ方がよさそうだな」

 バルトフェルド先生は左腕の義手を外してサイコガンの様なものを出した。義手と義足を付けた軍隊上がりの教師であるバルトフェルド先生は、英語ではなく社会科の先生で、生活指導も担当している。サイコガンを見せるだけで服装違反を全ての生徒がやめるので、生活指導に抜擢されたのだ。

 「セーフティーシャッター!」

 灰音はセーフティーシャッターを用意してしてサイコガンを避ける準備。しかし、飛んできたのは包丁。包丁がバルトフェルドがいる方向とは全然違う場所から飛んできたのだ。

 「ミゲルとは違うのだよ! ミゲルとは!」

 謎の名言を残して、灰音は包丁を回避。包丁は床に突き刺さる。

 「なんだこりゃ……」

 「第三勢力の攻撃か?」

 バルトフェルド先生と明日葉先生は一時休戦して包丁を投げた犯人を探す。

 「奴か、逃げるぞ!」

 灰音は全速力で逃げ出した。そして、食堂に入ろうとした雪菜、佐治、そして剣道部の山田凜の三人に声をかける。

 「どうされた灰音殿」

 「お前ら逃げろ! ヤバいのが来た!」

 凜が声をかけると、灰音はヤバいとだけ言って走り去った。

 雪菜達が見たのは、セーラー服を着た女子中学生が包丁を持って暴れまわる光景だった。

 「逃げよう」

 どういう理由か知らないが、雪菜は包丁を持った中学生がこちらに殺気を向けてるのに気がついた。

 「あれって、人類革新中学の制服よね?」

 佐治はさすがモデルというべきか、制服だけで中学を言い当てた。そして、雪菜はその中学に聞き覚えが会った。

 「それって、灰音くんの出身中学……」

 「雰囲気がやはり灰音殿に似ておるな。なら妹君か。話のわからん相手ではないのは確かだ」

 凜は事態を解決するため、灰音の妹らしき中学生に説得を試みる。

 「貴女は灰音殿の妹君か?」

 「お前が、お兄ちゃんを!」

 だが、中学生は包丁を構えたまま凜に突撃してきた。凜はギリギリで回避。凜が文化部だったら死んでいた。

 「なっ!」

 「死ねぇー!」

 ヤバい相手とわかり、凜は雪菜と佐治を連れて逃げた。相手に背を向けるのは嫌だが、こちらは丸腰で分が悪い。

 「逃げるぞ! なんか奴はヤバい!」

 「それは見た時からわかってるよ!」

 「ウケる、いやウケない!」

 この場を明日葉先生、バルトフェルド先生という天上二大強力教師に任せ、三人は戦線を離脱した。

 

 模型部部室

 

 「なるほど、灰音の妹がヤンデレか」

 状況を聞いた富士川はそんなことを言った。灰音もあの女子中学生を妹と認めた。模型部の部室には雪菜、佐治、富士川といつものメンバーに加えて他に人がいた。

 まず、剣道部の凜に不良の亜仁。そして何故か生徒会のルナや、前回模型部との戦いで駆り出されたルナの友人がいた。

 部室の扉及び窓は鍵がかけられ、尚且つ即席のバリケードで塞がれた。

 「ええ。俺の妹、荒屋雪音です」

 「雪の字、一緒だね。読み方もゆきだし」

 灰音の妹は雪音という名前らしい。雪菜とは一文字被ってる。兄妹らしく、音の字は一緒だ。しかし妹がヤンデレなのは厄介だ。

 「今日ケバブフェアだから外で食うって言ったらあの始末ですよ」

 「なるほど、妹に弁当を作って貰っていたのか」

 「ヤンデレだからな。恐らく灰音の影に女の気配でも感じたんだろ」

 凜は灰音と雪音の関係を即座に察した。亜仁はこの現状を見て言った。富士川以外、男が灰音しかいないのでは完全なハーレムだ。

 「ステラ、あいつ倒す」

 「こらこら、安全のために逃げてるんだから戦わないの」

 自分をステラと言った背の低い金髪の女子生徒が灰音に戦いを挑もうとするので、ルナは止めた。灰音は彼女がガイアガンダムのパイロットだろうと目星を付け、ルナに事情を聞いた。

 「こいつは?」

 「天上高校は外国人生徒も外国人教師も受け入れててね。生徒会にも一人いるのよ。名前は……」

 「レイ・ザ・バレルだ」

 いつの間にか長い金髪を垂らした男子生徒が部室に侵入していた。部室が固くとざれていたことを知る全員が驚く。

 「何処から……!」

 「私にとって、鍵とバリケードなど造作もない。この不可能を可能にする薬があればな」

 富士川が侵入経路を聞くと、レイは青と白のカプセルが入ったケースを見せた。レイの後ろの扉は開けられ、バリケードは撤去されていた。

 それを見た一同が戦慄した。しかし、レイは気にせず灰音の方へ歩く。そして、灰音の両手をとった。

 「女性と付き合えないとは困りましたね。ですが、私がいます」

 「お前……」

 レイはそんなことを言うが、灰音もまんざらでもない様子。ダメだコイツら早くなんとかしないと。

 「では、よろしくお願いしますね灰音さん」

 「おいおい、さん付けはないだろ。ハ、イ、ネ、でいいぜ」

 妙な空気が部室に流れ、全員が黙った。生物教師に一般人、モデルに剣道少女、加えて不良なメンツでは、この状況を打破するなり萌えへ昇華するなりできる人間はいない。腐女子キャラの需要がだだ上がりだ。

 「一応……初対面だよね、レイ」

 「ヤンデレ妹がいたんじゃ恋愛どころか夜も寝られないさ。灰音も思春期、どこか限界が来てたんだろ」

 ルナが口を開き、富士川は教師らしく灰音の心情を察した。しかしここで一同に疑問が残る。

 「扉開けたけど、大丈夫か?」

 「さあ?」

 亜仁が思う通り、扉を閉めていたのはあるきっかけによるものなのだ。そう、ヤンデレ妹から逃れるために。ルナは、同じ生徒会のメンバーがBLし始めたために、早く帰りたくなっていた。

 「お兄ちゃん……」

 「「ぎゃあああああああっ!」」

 そこへヤンデレ妹襲来。雪音は返り血まみれで包丁を持っていた。灰音とレイ以外が絶叫する。

 「ガンプラよりキャラの方が濃くないか? この小説」

 「おーメタいメタい」

 あまりの事態に、山田は戸惑う。富士川はメタ発言を指摘する余裕があるあたり、まだ冷静だ。

 「その返り血……」

 「教師が邪魔だから切っちゃった」

 灰音が返り血に言及すると、雪音は笑顔で答える。まさか、バルトフェルド先生と明日葉先生を倒してきたというのか。

 だが、灰音は最後の希望を思い出す。

 「いや……、まだ体育のキスノ先生兄弟が……。あの人達は徒歩で北米横断したんだ!」

 「あの邪魔な二人組? それも切ったよ?」

 「ぎゃあああ!」

 体育の兄弟教師、ノルト・キスノ先生とベルデ・キスノ先生まで、ヤンデレ妹の毒牙にかかったのだ。野球、ブレイクダンス、ボーリング、果てにはモグラ叩きなど、なんでもござれなキスノ先生もヤンデレには勝てなかった。

 さて、希望を失った天上高校は大ピンチである。ヤンデレ妹一人に、学校が壊滅状態だ。なんてことをしてくれたのでしょう。

 「なら、ガンプラバトルで勝負だ!」

 そんな中、レイだけが希望を失わなかった。レイは雪音に対し、ガンプラバトルを仕掛けたのだ。一同が顔を見合わす。

 「ガンプラバトルで私達が君に勝てば、灰音との交際を認めてくれますね?」

 「そんなこと言っちゃっていいのかな? じゃあ、準備があるから帰るね」

 雪音はレイに言って、部室を去った。天上高校は壊滅を免れ、一同は息をついた。レイの登場で一瞬おかしくなった話の流れだが、彼は単に女性陣がやるべきだった役割を自ら代役したのみ。

 灰音をたぶらかすのが女ばかりと思っている雪音に対しても、男のレイがたぶらかすことで一瞬錯乱させることが可能だ。

 「ガンプラバトルなら、雪音もルールに従うしかないだろ」

 「やったねレイ!」

 灰音とルナはレイを称賛する。レイのおかげでヤンデレ妹は去ったのだ。だが、富士川の表情は厳しい。

 「一つ、気掛かりがある。灰音、お前は最近、ジルスペインを使ってたな。今までに使った機体はどうした?」

 「他のやつは家ですが……?」

 富士川は灰音に、他のガンプラの所在を聞く。そして、所在がわかると言い放った。

 「お前ら、今回は全力だ! ここの全員で、ヤンデレ妹を叩く!」

 「そりゃそうとも!」

 雪菜は最初から全力で戦うつもりらしいが、富士川はそれでも不安を拭えなかった。

 ガンプラバトルでガンプラを強くする要素として、ガンプラビルダー達の間で囁かれているのが、ガンプラへの思い入れだ。

 ベアッガイやニャッガイなど、猛威を振るったガンプラの一部はビルダー自身が組み立てたわけではないのに関わらず、驚異的な強さを見せ付けた。

 その理由が、ガンプラへの思い入れだという。そのビルダーはベアッガイ、ニャッガイに対する思い入れが強く、自分が組み立てたわけではないが、その思いにガンプラが応えたのだ。

 富士川が心配するのは、ヤンデレ妹が灰音のガンプラを持ち出すことだ。あのヤンデレっぷりなら、兄の作ったガンプラへの思い入れが本人より強くなりかねないのだ。

 そんな富士川の心配もよそに、部室にいる全員は天上高校の命運を賭けた戦いに備え、ガンプラを強化していた。

 

 富士川は灰音が作ってる物を見た。多くの武装を入念にチェックし、ハードポイントを増設したジルスペインに装着する。

 使用したキットはガンプラではない。コトブキヤの『モデリングサポートグッズ』から出ているウェポンユニットだ。無改造で持たせられるものも多く、武器を増やしたいならもってこいだ。

 ただ、灰音のジルスペインは武器が増え過ぎてハリネズミみたいなことになっていた。

 「どうしてそうなった」

 「ガンプラは自由なんですよ」

 富士川と灰音が話している一方で、雪菜達女子グループは簡単な強化をしていた。

 「まず、リタッチね。ニッパーでパーツを切ると、白化するからね」

 それぞれのガンプラで、パーツが白くなっている部分にマーカーや筆塗りで色を塗っていく。これで白くなった部分が目立たない。

 「これだけでも随分違うのだな」

 「次は部分塗装ね」

 佐治に促され、凜とステラの初心者組は部分塗装に入る。特に凜のアヘッドは、ビームサーベルがクリアーなので、攻撃力に関わる大事な作業だ。

 「メイン武器の形成色が再現出来てないとは……バンダイさんもケチだな」

 「クリアパーツが複数ある場合はどうしてもね。私の1.5も、クリアパーツが複数だから、サーベルはクリアーなの。でも、そっちの方が塗りやすいよ?」

 凜がバンダイさんを批判するが佐治の言う通り、変に違う色を付けられるより、無色透明の方が塗りやすいだろう。

 「逆に、武器を透明プラ板で作って、インジビブルエアみたいな……」

 「亜仁さん、それ別のアニメ」

 亜仁が聖杯戦争の騎士王みたいなことを提案して、ルナに突っ込まれた。確かに効果的かもしれないと、遠くで聞いていた富士川は感じた。

 そういえば、亜仁達との戦いでズゴックのビームクローを作った際、予備のクローが残っていたと思い出す。あのクローは、透明なプラ板でズゴックのクローを複製し、クリアピンクの塗料で塗ったものだ。

 富士川も独自の強化プランを立て、ズゴックを改造する。

 

 模型屋『ネェルアーガマ』

 

 「こいつは参ったな……」

 模型屋の店長は、返り血まみれで包丁を持ったままの雪音に恐れをなしていた。きっとあれは赤い塗料だ、と店長は自分に言い聞かせるが、雪音から臭ってくるのは塗料独特のシンナー臭ではなく、血液独特の鉄臭さだ。

 「まだかなぁお兄ちゃん」

 「来てやったぜ!」

 雪音が痺れを切らしそうになった時、扉を開けて灰音達が現れた。灰音、雪菜、富士川、佐治、亜仁、凜、ルナ、ステラ、レイと、見れば見るほどそうそうたるメンバーだ。この前知り合った駿河も呼ぼうと思ったが、子供を危険に晒したくはなかった。

 「来ましたか、早くこの危険人物をなんとかして下さい!」

 「任せておいて下さい。ルール無用の殺し合いではさすがのバルトフェルド先生も不覚をとりましたが、ルールのあるガンプラバトルなら!」

 店長にレイは意気込むが、灰音は妹がルールを守ってくれるか不安になった。

 「では、始めようか。こちらへどうぞ」

 店長は何故か敬語で、全員を店の奥に招待した。だが、その瞬間に店の扉が勢いよく開かれた。

 「また敵となるか、ガンダム!」

 「その声は、あの時の!」

 佐治が声に反応する。中間テストの時、戦った黒いファルシアのパイロットの声だったからだ。そして、灰音も反応した。

 「友利?」

 「知り合い?」

 灰音と佐治が後ろを振り返ると、雪音と同じ中学のセーラー服を着た田村友利がいた。そう、あのガンダムヒロインでいえばユリンとティファを足して二で割った感じの中学生だ。

 彼女は久しぶりの登場となる。灰音が最後に会ったのは、佐治がストーカーに付き纏われてると言い、灰音達に捕獲を依頼した時か。

 「私もガンダムだがな!」

 やたらハイテンションで友利が見せたのは、黒いガンダムアストレイ。ブルーフレームが基準だが、バックパックはエールストライカー。カラーリングは白を黒に、青を赤に変えている。

 「あのカラーと肩のマーキング……死神部隊!」

 佐治は友利が死神部隊であると気付いた。

 「恐れるな、死ぬ順番が来ただけだ」

 「お前キャラ変わったぞ?」

 知り合いの豹変ぶりに、灰音が戸惑う。そして、雪音が表情を険しくする。

 「いつも私の邪魔を……!」

 「灰音お兄ちゃんに迷惑かけて、お前だけは……絶対に許さない!」

 死神部隊としての正体を明かした友利は、雪音と睨み合う。

 模型屋の店長はプレッシャーに押し潰されそうになった。

 

 戦闘フィールド オリバーノーツ

 

 戦闘フィールドはオリバーノーツが選択された。煉瓦造りの建物が目立つ港町で、ガンダムAGEのキオ編スタート地点でもある。今回はポッドを使ったガンプラバトル。ヤンデレ相手はリアルファイトが怖い。

 『俺達の入る隙ないな』

 「ねー」

 灰音の声が無線から響き、雪菜は答える。二人の機体は建物の裏に隠れていた。雪菜のセブンソード装備ダブルオーの隣に灰音のオレンジ色をしたジルスペインがいた。

 オリバーノーツ上空では、ヤンデレ妹雪音のグフイグナイデッドと友利のアストレイが激しく交戦していた。たまにルナのインパルスやレイのプロヴィデンスが混じって戦うが、すぐに弾き飛ばされてしまう。

 『レイは素組だもんな。そりゃ不利だ』

 「対して妹ちゃんは大好きなお兄ちゃんのグフ……」

 雪音は灰音の作ったグフを持ち出して戦いに来た。ここは富士川の予想通りだが、その力が予想の範疇に止まるかは疑問だ。

 地上に佐治とステラが構え、海中に富士川が潜伏する完璧な布陣だが、問題は友利達が雪音を地上に叩き落とせるかだ。今回の作戦は雪音を海中に引きずり降ろして富士川と戦わせるというもの。

 敵が空中ではズゴックは手も脚も出ず、地上なら戦えるが確実性を狙うなら海中がベストだ。

 『でりゃあああああ!』

 『落ちろ田村!』

 空中では女子中学生二人による総勢な戦いが繰り広げられていた。雪菜と灰音にはもはや、黒い帯と橙色の帯が動き回ってる様にしか見えない。

 「あれじゃ入れないよね……」

 『あれに入れるのは躍人先生くらいだろ。富士川先生は湿地及び水中と極地型だし』

 雪菜と灰音は改めて自分の無力さを思い知る。思い知ったところでどうしようとも思わないのだが。

 『撃ったら当たるんじゃないか?』

 「やってみる」

 雪菜はビームサーベルを掴み、適当に投げた。

 『何っ!』

 雪音の驚く声が聞こえた。奇跡的に雪菜のビームサーベルが当たったのだ。

 『マジか!』

 『今だ!』

 灰音が驚愕し、友利が渾身の一撃を決める。ビームサーベルを手に、グフに切り掛かった。

 友利の一撃が雪音のグフを叩き落とす。グフは地面スレスレで体勢を直し、着陸した。だが、地上には伏兵がいた。

 『作戦通り、ウケる!』

 佐治が3ガンダムのライフルでグフを撃つ。グフは体を上手い具合に捻って回避した。だが、灰音のジルスペインもいる。

 『撃て撃て!』

 『お兄ちゃん!』

 灰音は全身の銃火器でグフを牽制しつつ、ビームサーベルで突撃する。だが、その後ろからアレが迫った。

 『邪魔だぁあああぁぁぁぁあああ!』

 『え?』

 『灰音お兄ちゃん!』

 謎の雄叫びに灰音が振り返る。友利は悲鳴に近い声を上げていた。

 「ステラ!」

 雪菜も気付いた。ステラのガイアガンダムが獣の姿で灰音のジルスペインに迫っていたのだ。そして、ガイアの翼でジルスペインが真っ二つになった。

 『ちょ、おまっ……!』

 『灰音くん!』

 灰音は爆散した。だが、ステラは爆風に紛れ、雪音に急接近した。ステラのガイアが雪音のグフを押しのけ、港まで引きずる。海に落とすつもりだ。

 『落ちろおおおおぉあああっ!』

 『よくも……お兄ちゃんをおおぉぉぉ!』

 ステラが全力で押すも、グフはギリギリで踏ん張る。だが、その拮抗を崩すものがいた。

 『灰音の犠牲を無駄にしないために、貴女を討つ!』

 レイのプロヴィデンスが後ろからガイアを押す。少しアリオスの機体が海に近づいた。

 「いや普通に攻撃するでしょ……」

 雪菜はツッコミを入れながら、雪音のグフへ攻撃するべくGNソードを抜いて駆け付ける。友利のアストレイが雪菜のダブルオーに寄り添って、共にグフへ向かう。

 「行くよ!」

 『行きます!』

 二人は声を掛け合い、グフへ狙いを定めた。雪菜がGNカタールを投げ、それを友利が撃ち抜いた。

 「いけ!」

 『射撃!』

 グフに飛んで行ったカタールをライフルが。ほぼ初対面だが、息が合った攻撃だ。シールドでカタールを防ぐが、それを狙っていたのが今回の連携攻撃。それを撃って誘爆させる技なのだ。

 『しまった!』

 爆発によりグフは弾き飛ばされ、海へ落ちた。シールドも無くすことが出来る強力な技だ。

 海に落ちたアリオスは上昇を試みる。だが、海面からビームがいくつも飛んできて上昇できない。

 『くっ、待つしかない!』

 雪音が歯噛みすると、下から緑色のズゴックが現れる。奇妙なことに、クローが付いていない。

 『潰れろ! このヤンデレめ!』

 富士川のグリーンズゴックだった。ズゴックは爪の無い手をグフへ突き出す。雪音は余裕を持って避けたが、何故かアリオスの右腕が引きちぎられる。

 『え……?』

 一瞬、雪音の動きが止まる。その隙を富士川は逃さない。グリーンズゴックの右腕には、クリアのプラ板で作った透明なクローが取り付けられていた。水に入ると尚見えづらい。

 『ズゴック、インジビブルエア!』

 富士川はズゴックの爪を突き出し、グフのコクピットを貫く。一瞬の隙すら逃さず、確実にトドメを刺す。富士川はズゴックの特性を知り尽くした、百戦錬磨の『緑色の流星』。

 グフは光に消えた。これで一応、ヤンデレ妹の脅威は去った。

 

 模型屋『ネェルアーガマ』

 

 「向こうでヤンデレ妹を潰しても、こっちじゃ生きてるからな」

 「異常なし」

 戦闘の後、富士川がゆっくりカプセルから出ると、レイは警戒するように辺りを見回していた。

勝利した富士川達がカプセルを出る前に、おそらく敗北した雪音はカプセルを出て何処かに潜伏してるのだろう。ゲームに負けたくらいで引くなら、ヤンデレとは言われない。

 「んー。お兄ちゃん、ここどこ?」

 「え?」

 雪音を見つけたレイはギョッとした。雪音は普通に目を擦って、辺りをキョロキョロ見渡していた。

 「ようやく戻ったか……」

 「毎回大変だよー」

 灰音と友利が安心したように言った。他の全員が混乱する。というか、雪音が不意打ちとかしてこないか警戒した。

 「二重人格……なのか?」

 亜仁がだいたいの事情を理解した雪音は二重人格なのだ。

 「ガンダム00のアレルヤと同じだね」

 横から雪菜が現れて言った。アレルヤみたいに制御出来れば苦労は無い。キャラとしてネタにされるのが嫌だからヤンデレ化なのかとか憶測が飛び交う。

 「雪音はストレスが溜まるとたまにプッツンして、ヤンデレ化するんだ。だからケバブフェアに乗じて、今日はお弁当作り休ませたんだが……」

 「それが原因でプッツン」

 灰音と友利が原因を予測した。灰音の気持ちを雪音は察することが出来ず、何をどう勘違いしたのかわからないが、天上高校を襲撃したのだ。

 「勘違いであの惨劇を?」

 凜は驚き呆れた。ほんの勘違いとストレスで、この雪音は天上高校の教師を4人ほど葬り去ったのだ。死んでないけど。

 「厄介な妹さんね」

 「年一ペースなのがまだ救いだよ」

 ルナが言うと、灰音はため息を着いた。雪音は周りを見渡して、眠そうに呟いた。

 「あれ……記憶が曖昧です……何があって……。あ、もうこんな時間! 早く夕飯作らないと……!」

 慌てた雪音の肩を、灰音はそっと掴む。そして言った。

 「いや、お前疲れただろ。そんなんで包丁持ったら怪我するぞ。今日はみんなで食いに行こうぜ」

 こうしてなんとか事件は収束した。だが、佐治が後ろを振り向いた。この見られる感覚は、以前経験したものだ。写真部によるストーカー事件後のストーキングは雪音によるもので確定なのだが。

 そんな佐治に雪菜が声をかける。

 「どうしました先輩?」

 「いや、またストーカーかな?」

 佐治はどうせ気のせいだと判断し、そのまま飯屋へ向かう集団に加わった。

 

 「なんで俺だけいつもぼっちなんだよ、あんた達って人はーっ!」

 しかし、佐治の感覚は気のせいではなかった。ガンプラを積んだ棚の後ろに、男子生徒がいたのだ。

 彼は生徒会副会長、飛鳥シン。何故かいつも知らず知らずの間にぼっちになってるのが特徴だ。

 「おのれ模型部……! また戦争がしたいのか、あんた達は!」

 生徒会のルナやレイすら一緒にご飯に行くというのに、自分だけ呼ばれてないのが不満なのだろうか。シンは『HG ディスティニーガンダム』の箱を握り締め、悔しそうに叫んだ。




 ガンプラ図鑑
 HGSEED ディスティニーガンダム
 ディスティニー放送当時に発売、特に後半に発売されたガンプラは悪名高き『HGストライクフリーダムガンダム』の様に出来が悪いものが多々あった。
 だが、そこはさすが正式な主役機。色分けや稼動こそ今のガンプラに敵わないまでも高評価で出来がよいとされる。

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