魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
変身を終えたクウガは、両足を肩幅程に広げ、右手を突き出し、左手を胸の内側へと宛がうという、独特の構えで目の前に対峙するガンナーと身構える。
「五代さんが……変わった?」
それを後ろの街道の隅に座った状態で見ていたはやてが、表情を驚愕の色に染めながら呟く。
「あら?雄太の話と違うみたいだけど……私としてはこっちの方が楽しめそうね……それに赤い色なのも私好みよ!」
はやての至極当然とも言える反応に続き、ガンナーは今度はクウガを値踏みする様に、見定めてから、自身が戦うに相応しい相手と判断を下し、クウガ目掛けて駆け出した。
ガンナーの手甲はただ遠距離用の装備を内臓させているだけではない。
本来の用途である防御の強化、そして肉弾戦における、拳の威力の倍増にも一役かっているのである。
「ふん!」
交互に繰り出されるガンナー拳を、クウガは見事に捌いていく。
「ちょこまかとウザッタイわね!」
己の拳を避け続けるクウガに、業を煮やしたガンナーは怒声をあげながら、一旦距離を置いて、手甲に設けられた銃口をクウガへと向ける。
「喰らいなさい!」
手甲の先にあるグリップを握り込むのと同時に、赤い光弾が連続で連続で放たれて、クウガへと襲い掛かる。
「くっ!?」
クウガは襲い掛かる光弾を側転で回避していく。
「これじゃあ簡単には近づけない……ん、これは?」
光弾を避け続ける内にクウガは、はやての乗っていた車椅子の残骸の傍へと行き着いていた。
「……そうか!これを使えば!」
残骸から一つの閃き得たクウガは、その中から車椅子の骨格の一部となっていた長いパイプを拾い上げる。
「あはは!そんなガラクタでどうするつもりかしら?」
パイプを拾い上げたクウガに対して、ガンナーが嘲笑の言葉を投げかけるが、その笑いを気にする事無く、クウガは意識を集中させるべく、構えを取りながら叫ぶ。
「超変身!」
その叫びと共に、クウガの赤い身体は、青く染まり筋肉を模した鎧の形状も、より洗練されたフォルムとなり、複眼の色も同色の青へと変わる。
「五代さんが……また変わった!?」
クウガの変化を目の当たりにして、はやてが再び驚愕の声を上げるが、変化はそれで終わる事は無かった。
握り閉められていたパイプにまで、大きな変化がもたらされたのである。
パイプはその形状を変化させていき、全体的に青い棒状で、クウガの鎧に刻まれたものと同様の古代文字が刻まれた武器、ドラゴンロッドへとその存在を昇華させたのだ。
「なんですって!?」
その様子を見て、はやてに続き驚愕の声を上げるガンナーをよそに、クウガがその手に生み出したドラゴンロッドを回転させると、両端が突き出して、ドラゴンロッドは更にその長さを増す。
「形が変わったぐらい!何だって言うのよ!」
ガンナーはクウガの変化に驚きながらも、手甲から光弾をクウガに向けて撃ち出す。
その攻撃はクウガが全ての変化を終えた直後に撃ち出されており、先程までのクウガの動きでは、対応するには遅すぎた。
確実にこの攻撃は当たる。
他の誰でもない、攻撃を仕掛けたガンナーはそう確信するが、結果は予想通りとはならなかった。
「はっ!」
なんとクウガは、その攻撃に反応したどころか、先程とは比べ物にならない驚異的な素早い跳躍で、ガンナーの放った光弾を避けたのである。
赤いクウガ、マイティーフォームが格闘戦に優れた状態とするならば、この青いクウガ、ドラゴンフォームは、俊敏さと跳躍力に秀でた状態だと言えるだろう。
単純な格闘時の攻撃力・防御力はマイティーフォームに比べて、著しく低下してしまうという弱点はあるが、その代わりに動きはより俊敏となり、特にドラゴンフォーム時のジャンプ力には目を見張るものがある。
更に攻撃力の不足も、専用武器のドラゴンロッドがカバーしてくれるのだ。
「うをおおおお!」
ドラゴンフォームの特性を上手く活かして、ガンナーの攻撃を避けたクウガは、気合を込めた叫びと共に、ドラゴンロッドを頭上から勢い良く振り下ろす。
「きゃあああ!?」
その反撃を予測していなかったガンナーは対応が間に合わず、迎撃する事を諦めて、手甲を頭上で交差させて防御に徹するが、思った以上の衝撃がドラゴンロッドを受けた手甲に伝わり、踏鞴を踏む。
クウガはその隙を逃がす事無く、ドラゴンロッドを巧みに操り、ガンナーが体勢を立て直すよりも早く、連続攻撃で畳み掛けていく。
「はああ!」
そしてクウガがドラゴンロッドの連続攻撃により、ガンナーが完全に防御を崩したところで、裂ぱくの気合と同時に繰り出された蹴りが、ガンナーの腹部を捉えて、後方へと弾き飛ばす。
「く……うっ……」
蹴りの衝撃が残っている為に、多くの戦いから、後もう一押しすれば、この勝負に決着が着く事を感じ取ったクウガが、そのもう一押しとなる攻撃を仕掛ける為、ガンナー目掛けて駆け出すが、その攻撃がガンナーに通る事は無かった。
「五代さん!?」
それは、はやてが叫ぶのとほぼ同時に起こった出来事である。
「ぐっ!?が……ああ!?」
ガンナーへと駆け寄るクウガの目の前で突如として爆発が起こり、その爆風でクウガをガンナーから遠ざけたのだ。
それはクウガにとって、まさに不意打ちとなり、ただでさえ防御力の低下するドラゴンフォームには、その攻撃は最も爆発地点に近かった右の脇腹を焦がし、かなりのダメージとして残って、クウガに苦痛を与える。
「あの攻撃は……」
痛みに苦しむクウガとは逆に、腹部の痛みが若干ながらも和らいだガンナーが、爆発の起こった場所の先に視線を送ると、ガンナーとハンター同様に、ブラウンの基本カラーの全体と、上半身を覆う銀のプロテクター。
黒いベルトの中央に嵌め込まれた青い球体に、それと同色の複眼と、炎を模した角飾りを持つ仮面ライダーが、爆発で生じた残り火の中を、歩いてくる。
「……どうも苦戦していたみたいなんで、加勢しに来ました。沙耶さん……」
「余計なお世話って言いたいけど……正直助かったわ。ありがとうね。大地」
ガンナーはその勝気な態度は崩さないが、助けてもらった事実に対しては、素直に感謝の言葉を述べながら立ち上がった。
「でも良いの大地。助けて貰ってなんだけど、あんたがここに居るって事は、折角の作戦が無駄になるんじゃない?」
「……ああ。それなら大丈夫だよ。僕の相手は……」
立ち上がったガンナーの質問に答えている最中に、その声が街道の奥から鳴り響くサイレンの音によって掻き消される。
「……どうやら来たみたいだね。僕の相手……仮面ライダーボマーの相手が……」
呟くボマーの視線の先には、闇夜を赤いランプの光で照らしながら、白と黒のツートンカラーの大型バイクに跨り走って来る、海鳴市の平和を守る、一人のメタルイエローのボディーと青い複眼を持つ、仮面ライダーが映し出されていた。
『マスター。後約一キロメートル程で、目的地に到着するぞ』
チェイサーさんに跨り、夜の海鳴市の街道を爆走する俺に、既にシードに変身している状態の為、ベルト状態となっているメカ犬が、報告を入れてくる。
「分かった。それにしても……」
『あら?どうしたのマスター。何か悩み事かしら?』
メカ犬に返事を返しながら、考え込む俺を不思議に思ったのか、チェイサーさんが、会話を挟んできた。
「いや……今日はやけにホルダーが出没すると思いまして……」
今日の夕方に続き、病院帰りに突如として大量のホルダー反応を察知した俺は、メカ犬と合流して反応元へと急行している最中なのだが、どうにも考える事が多くて、頭の中の整理が追いつかないでいるのだ。
以前にもこういった一日に何度もホルダーが出没する事が、無かった訳ではないが、そういった時、大抵は必ずと言って良い程に、何か大きな事件が巻き起こる前触れだったのである……
そうでなくても、五代さんと空の存在。
俺の知らない三人の仮面ライダーなど、明らかに何かが起こっていますと、宣言されている事態のオンパレードなのだ。
仮面ライダーに対しては、下手に知識があると、余計に混乱してしまう。
『うむ。確かに今日はマスターの言う通り、ホルダーの出現する数が異常な程に多い。その上に仮面ライダーを名乗る三人組が現れたりと、ワタシ達の知らないところで何かが始まっていると見て、まず間違い無いだろうな……』
チェイサーさんからの質問に答えた俺に続き、メカ犬も自身の考察を述べる。
「……そうだな」
『それにマスター。ワタシ達とは別に戦っていたあの男性……確かマスターは彼をクウガと呼んでいたが、彼も別世界に居た赤い者やフィリップ達と同様の仮面ライダーなのか?』
「ああ。あの人は……」
『お話中のところお邪魔して悪いけど、そろそろ目的地に到着するわよ。二人とも』
俺とメカ犬の話に割り込む様にチェイサーさんが言葉を潜り込ませて来たので、俺とメカ犬はそこで会話を一旦止めて、辺りに意識を集中させる。
辿り着いた場所は、市街から離れた港。
以前にガルドの船が停船していたすぐ近くだ。
俺はチェイサーさんから降りて、薄っすらと月明かりが照らす港の中を歩き始める。
「思ったよりも静かだな?」
『用心した方が良いぞマスター。ホルダー反応が少なくても十体以上は出ていた。何処に潜んでいたとしても、おかしくは無い』
注意深く俺達が辺りを探っていたその時である。
「待ってたぜ。仮面ライダー」
夜の闇の中から、一人の男の声が、俺の耳に届いた。
声のした方向に振り向くと、其処には夕方にも会った、変身して仮面ライダーハンターと名乗った茶髪の青年と、その後ろに大量のホルダーモドキを従わせているという光景が飛び込んできた。
「これって……」
『ホルダーモドキ達を従わせているという事は、オーバー達と関連していると見て確実だな』
「ああ。しかも……こんなあからさまな場所に、さっきの待っていたって台詞は……」
『うむ』
俺は夜の闇の中から次々と現れるホルダーモドキ達を警戒する為に、構えを取りながら、メカ犬と短い会話を交わして、同一の答えへと行き着く。
ホルダー反応を追ってやって来た、夜の人気が無い港に、大量のホルダーモドキ……
これは間違い無く、俺達を誘き出す為の罠だ。
「夕方は世話になったな……だが今度はどうかな?」
茶髪の青年は、ぎらついた瞳で俺を睨み付けながら、黒いバックルと黄色い玉を取り出す。
そしてバックルを腹部へと宛がい、ベルト状に変形させると、唇の両端を上げて、ぎらついた瞳に笑顔の唇という、中々に迫力のある表情を作り出す。
「行くぜ……変身!」
その表情のまま、言葉を紡いだ茶髪の青年が、バックルの窪みに黄色い玉を嵌め込むと、全身が黄色い光に包まれて、今日の夕方にも見た、仮面ライダーハンターへとその姿を変化させる。
「さあ。始めようぜ……パーティーの時間だ!」
変身を完了させたハンターが、軽く首を一回ししてから、そう言って右手を無造作に俺へと向けると、ハンターの後ろに待機していた十体以上のホルダーモドキ達が、一斉に走り出して、その全てが俺を目指して襲い掛かる。
『来るぞ!』
「そんなの見れば分かる!」
メカ犬の注意を促す言葉に軽く返事を返しながら、俺はまず一番最初に拳の射程圏内へと侵入してきたホルダーモドキに対して、先制攻撃を仕掛けて殴り飛ばす。
続けて迫り来る二体のホルダーモドキには、回し蹴りを叩き込んで、更に後ろから来る後続に対しての防波堤にして、その進行を遅らせると同時に、ハンターの動きを探る為の時間稼ぎとして有効活用する。
そして戦いの中でほんの少しだけ出来たホルダーモドキ達との間合いの中で、ハンターの動きを探ろうと、視線を少し先へと向けるが、既にその場所にハンターの姿は無かった。
『右だマスター!』
何処に行ったのか探そうとした、その矢先にベルトからメカ犬の声が響く。
俺はその言葉を信じて、振り向く間を惜しんで、無理やりに上体を捻ると、その直後に頬を、鋭い音をさせながら一迅の風が通り過ぎる。
そのまま大体の目安を想定して、捻った身体を更に移動させて、右足をその場所に繰り出すと、確かな手応えが俺の右足へと伝わった。
「ぐわっ!?」
振り抜いた右足を地面につけてから、バックステップで、一旦距離を置くと、其処には二本の銀のナイフを逆手に持ったハンターが、数歩ほど下がりながら、よろけている姿が飛び込んで来た。
「ちっ!ムカつくが……やっぱりあんたは強いな……でも今回は……これで良い……」
ハンターは再び、ナイフを構えながら、静かに呟いた。
「何を言ってるんだ?」
『マスター!もう二つ反応が別の場所に反応が出た!この反応は……目の前に居るハンターと同質のものだ!』
俺がハンターに対して質問をするよりも早く、メカ犬が俺にそう叫んだ。
そしてメカ犬の言葉を耳にしたハンターもまた、盛大な笑い声を上げ始めた……