魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
茶髪が目立つ、一見すると不良に見られがちな高校一年生、沢渡雄太《さわたりゆうた》。
姉御肌で勝気な女子高生、桐崎沙耶《きりさきさや》。
青く細いフレームの眼鏡が、知的なイメージを漂わせる二人の同級生、黒谷大地《くろたにだいち》。
二人の男子高校生と一人の女子高校生は海鳴市内の県立高校に通うクラスメートであり、何処にでも居る様な、一般的な学生だった。
しかしそんな彼らの日常は、高校生になって初めて迎える、冬休みに終わりを告げる。
それは異形の怪人達との邂逅から始まった……
藍色の怪人と灰色の怪人は、其々に自身の事をオーバーとメルトと名乗り、彼らにこう告げたのである。
【私達に協力してくれるのならば、お前達の夢を叶えてやる】
その言葉は三人にとって、悪魔の囁きの様にも聞こえた。
しかしそれ以上にメルトが彼らに告げたその言葉は、絶大な魅力を放っていたのである。
オーバーとメルトが、最近話題になっているホルダーという未知の怪物と、何かしらの関係性がある事を、彼らも雑誌を見て多少は一つの情報として知っていたが、彼らにはそれを理解した上で、協力したいと思える理由があった。
そして三人は悩み抜いた上で、協力する事を承諾したのである。
目の前に居る怪人達に協力するという事が何を意味するのか、薄々と感じ取っていた。
様々な人達に対して、多大な迷惑を掛ける事になるのは間違い無い。
それは今まで、一介の学生だったに過ぎない自分達が、悪事に加担するという事である。
だが三人は、それを承知した。
雄太、沙耶、大地の三人は日常を生きながら、非日常に憧れを抱いていたのだ。
図らずもその非日常が、自分達を招き入れようとしている。
三人は退屈な日常を捨て去り、特別な力を手に入れた……
「畜生!」
ホルダーモドキ達が暴れ周った事で、瓦礫の山と化した海鳴商店街から離れた住宅街の裏路地で、茶髪の青年、雄太は苛立ちを隠そうともせずに、道端に落ちていた小石を蹴り上げた。
「ちょっとは落ち着きなさいよ雄太」
その様子を見て、肩まで伸びた自身の黒髪の端を指先で弄りながら、少し吊り目気味な女性、沙耶が宥める様に声を掛ける。
「俺の方が強い筈なんだぜ!?あの野郎、突然二人に増えやがるし、反則だっての!一対一で戦ってれば、今度は絶対に俺が勝つ!!!」
「どっちが強いだとかさ……倒せればそれで良いじゃないのよ」
「五月蝿いんだよ沙耶はさっきから!」
「はいはい……分かったわよ」
落ち着かせようと発した言葉が、逆効果となってしまい、更に暑苦しくなった雄太に対して、沙耶はまともに会話をする事を諦めて、軽く受け流す方針へと変えた。
「……お待たせ」
雄太と沙耶しか居なかった筈の裏路地に第三の声が静かに響く。
その声の主は二人が居る裏路地の曲り角から、声と共にやって来た。
二人と同年代と思われる青年は、短く切り揃えられた黒髪と、ブルーフレームの薄型眼鏡が、知的な印象を与えている。
「あら、意外と早かったわね大地」
沙耶はそう言って、曲り角から現れた青年、大地を迎え入れた。
「……まだ怒ってたの?」
大地はいまだに怒鳴り散らしている雄太を見ながら、沙耶に問い掛ける。
「ええ、そうなのよ。さっきからずっとあの調子で、本当に嫌になっちゃうわ」
ゲンナリとしながら、沙耶は雄太に視線を合わせつつ、大地の質問に答えた。
「……しょうがないね」
一度小さな溜息を吐いてから、大地はそう言うと、怒りを露にし続ける雄太に声を掛けた。
「……雄太君。君の怒る気持ちも分かるけど、少し僕の話も聞いてくれるかな」
決して大きな声ではなかったが、大地の声は良く通る低い声で、シードに対しての怒りで、暴走し続けている雄太の耳にも、確実に届いた。
「ああ!?何だよ大地」
雄太は自身の怒りを隠そうともせず、仲間である筈の大地に対しても、その苛立ちを容赦無く、言葉にしてぶつけて見せる。
「……大事な話があるから、ちゃんと聞いてほしいんだ。沙耶さんも良いね?」
雄太を宥めながら大地は、沙耶にもそう言って、視線を向ける。
「オーバーさんに報告しに行った時に、何かあったの?」
やけに神妙な面持ちの大地に対して、今度は沙耶が問い掛ける。
「……だったら、早く話せよな」
先程からずっと苛立っていた雄太も、多少は落ち着いたのか、路地裏の壁を背もたれにしながら、次の言葉を促す様に大地に話し掛けた。
「……うん。それじゃあ話すよ」
雄太と沙耶の両名が、自分の話を聞く準備を整えた事を確認した大地は、ゆっくりと話し始める。
「……今の任務を引き続き継続しながら、追加の任務も入ったんだよ」
大地は一拍の間を置いて、雄太と沙耶に話し始めた。
「う……ん……ここは?」
「あ!目が覚めたんですね!?」
掠れた声を僅かに上げながら、徐々に目を覚まして瞼を開いていく五代さんに、傍らに居た俺は声を掛ける。
「君は……あの時の……」
「まだ寝ててください。病院の先生が言うには、大丈夫らしいですけど、頭を強くぶつけてるんですから」
俺はベットから立ち上がろうする五代さんを制止して、再びベットに横になる様に言った。
「……君に聞きたいんだけど、ここが何処か分かるかな?それに君は?」
五代さんは寝ぼけているのか、ベットの上から周囲を見渡しつつ、俺に質問をして来る。
商店街での戦いの後、俺は気絶した五代さんを急いで病院へと運んだ。
ここは海鳴大学病院の一室である。
五代さんが気絶してから、まだ二時間も経っていない内に目覚める辺り、流石としか言い様が無い。
暫くして五代さんが完全に目を覚ましたのを見計らい、俺と五代さんは、お互いに簡単な自己紹介を済ませた。
その自己紹介を聞いて、彼は俺の知る五代さん本人であり、しかも驚くべきことに、今現在、俺の目の前に居る五代さんは前世の世界で放映していたクウガ本編が、最終回を迎えた世界の一年後からやってきたらしい事が分かったのである。
「えっと……純が気絶した俺をここに運んでくれたのかな?」
先程の自己紹介で内心、物凄く驚いている俺に対して、五代さんが、話題を新たな話題を振ってくる。
「は、はい。でも商店街では、俺も助けてもらった側ですから、お互い様という事で……」
「そっか。……ところでさ。純が気絶してた俺を見つけてくれたって事はもしかして……全部見てた?」
五代さんは何処か聞き辛そうに、主題を抜いた状態でぼかしながら、質問を投げかけてきた。
その意図は、何となくだが、大体の予想が着く。
「もしかして、変身してホルダーモドキと戦っていた事ですか?」
「ああ、やっぱり見てたんだ……それにしてはリアクションが薄いみたいだけれど……」
どうやら俺があの戦いの場にいた筈なのに、五代さんに対して普通に接していたので、クウガになったのを見ていたのかどうか聞きたかった様である。
「まあ、この街には、ホルダーや仮面ライダーが居ますからね」
「そう。それ!そのホルダーとか、仮面ライダーってどういった奴らなのか、教えてもらっても良いかな?」
咄嗟に上手い返しが思い浮かばず、当たり障りの無い言い回しを心掛けたつもりだったのだが、五代さんは俺の答えに予想外の食い付きを見せた。
「えっとですね……」
其処で取り敢えず、俺がこの街の仮面ライダーの一人であるシードだという事を説明しようとしたその時、病室の扉から、軽くノックする音が聞こえてきた。
「失礼するわね」
そう言って入って来たのは、白衣を纏った、この病院の医師の一人であり俺の良く知る知り合いでもあった。
「「石田先生……え?」」
俺と五代さんは同時に、病室へと入って来た人物の名前を呼んだ後に、またしても同時に視線を合わせて言葉を重ねてしまった。
「空君に続いて、純君が気絶した五代君を運んで来た時には、流石に驚いたわよ」
石田先生は、俺と五代さんに微笑みながら言うが、俺としては二人が知り合いだったという方が驚きである。
だがその驚きはこれから起こる出来事への、ほんの序章に過ぎなかったのだ。
「五代さん。病院に運び込まれたって連絡があったから急いで来たんやけど、大丈夫なん?」
石田先生から少し送れて、もう一人この病室に人が訪れたのだが、その人物も俺が良く知る知り合いの一人だったのである。
「「はやてちゃん!」」
はやてちゃんの登場により、またしても俺と五代さんの声は、再び見事なシンクロをした。
「仮面ライダーの事なら、この海鳴美少女探偵団である私に任したら良いんよ」
石田先生が、次の診察があるからと言って、病室を出てからすぐの出来事である。
先程の話題に戻った直後、はやてちゃんが、自信満々に告げた。
本当ならば五代さんには、俺が先程の仮面ライダーという事も含めて、色々と説明したかったのだが、はやてちゃんが居たのでは、それも出来そうに無い。
「うん。その、仮面ライダーって何なのかなと思ってさ」
「僕も気になるな~」
はやてちゃんの言葉に、五代さんと空が……
「……いつの間に居たの?空」
俺はいつの間にか五代さんの隣で、当たり前の様に、会話に参加していたアルビノの青年、空に声を掛けた。
「うん。石田先生と入れ替わりに入って来たんだけど、何だか面白そうな事になってたみたいだから、大人しく見てたんだよね~」
どうやら空は、俺達が驚いているドサクサに紛れて、石田先生と入れ替わりにして、この病室に侵入した様だが、全く気配を感じなかった。
「僕は空って言うんだ。宜しくね。はやてちゃん」
困惑している俺を他所にして、空は笑顔を振り撒きながら、はやてちゃんと握手している。
「もしかして、なのはちゃん達が言ってた。純君の新しい友達ってこの人なん?」
「……まあね」
空に手を掴まれて、少し激しいシェイクハンドをされながら聞いてきたはやてちゃんに、俺は肯定の言葉を送った。
「えっと……五代さん……で良いんだよね。宜しく~」
はやてちゃんの次は、標的を五代さんに変えたらしく、空は、五代さんに右手を差し出す。
「ああ、宜しく!」
五代さんも、それに笑顔で答えて、差し出された空の右手を握ったのだが、其処で僅かな変化が起こる。
「「「!?」」」
ほんの一瞬の出来事だったのだが、五代さんと空が握手を交わした次の瞬間に、五代さんの腹部が僅かに光を発したのだ。
「どうしたんや?皆して鳩が豆鉄砲を喰らったみたいな顔して?」
この病室の中で、はやてちゃんだけが、空の背中が壁となったせいで、五代さんの腹部が光った瞬間を見逃したのだろう。
俺達の様子を見て、正直な意見を口にする。
「……ああ!そうだ!そう言えば仮面ライダーの話をまだ何も聞いて無かったんだっけ」
この空気の中で、一番最初に発言をしたのは、五代さんだった。
「そ、そうだね!僕も知りたいな!」
続け様に空が、畳み掛ける。
「はやてちゃん。二人もそう言ってるし、説明してあげたら?」
遅ればせながら、俺も二人に続いて、はやてちゃんに説明を促す。
「な、何やの!?皆して行き成り……」
俺達の多少強引とも思える話題の振り方に、はやてちゃんは若干の戸惑いを見せながらも、やはり話したいという気持ちが大きかったのか、俺達の態度への追求は程々にして、仮面ライダーへの説明を開始し始めた。
それから暫く、はやてちゃんによる、海鳴病院主催の第一回仮面ライダー講座が終了する頃には、病院の面会時間が終わる時刻になろうとしていた。
予め家に電話をして、事情を説明しておいたので、大丈夫だとは思うが、あまり遅くなるのも考えものだろう。
五代さんも意識が回復したのならば、そのまま帰っても良いと言われていたので、空以外は帰り支度を開始した。
そしてはやてちゃんと、五代さんが病室を出るのに続いて、俺と空も病室を出ようとしたその時……
「純……明日も来てくれ。大事な話がある。出来れば五代さんも連れて来て」
先に前を行く二人に聞こえない様に、俺の耳元で言った空に、俺が振り向くと、笑顔で頼んだよとだけ告げて、そのまま自分の病室へと戻っていってしまった。
大切な話とは、十中八九、先程の五代さんの腹部から発した光に対しての事で間違い無いだろう。
一週間前に、オーバー達が何かしらの実験を行っていた現場で倒れていた事から、空自身に、何か特別な事情があるのではないかと思ってはいたのだが、この一連の流れを経てその考えは疑惑から確信に変わった。
「空……君は何者なんだ?」
俺は既に空が居なくなった病院の廊下を見詰めながら、消え入りそうな声で心の内に燻っている疑問を呟いた。