魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
『ベーシックフォルム』
俺はハンターの拳をスピードロッドを斜めに構えて、先端から滑らせる様にして、その衝撃を逃がしてから、そのままロッドを手放して、すぐさまベルトの右側をスライドさせて、黒いボタンを押す事で、ライトグリーンのボディーがメタルブラックに染め上がり、シードの基本形態であるベーシックフォルムへと変わる。
「はははは!それが噂のフォルムチェンジって奴かあ!!!」
フォルムチェンジを見たハンターは、陽気な笑い声を上げながらも、力任せにその拳を振るい続ける。
『マスター。この場所では……』
「分かってる!」
ハンターの攻撃を受けきるには、スピードフォルムでは力不足と判断して、肉弾戦に適したベーシックフォルムにフォルムチェンジした俺は、気絶した五代さんに危害が及ばない様にメカ犬と算段を立てて、ハンターの攻撃を捌きながら、少しずつこの場から移動させる。
「さっきの白い奴といい、ライダーってのはちょこまかと、鬱陶しい奴ばかりだな!」
ホルダーの連続攻撃を回避し続ける俺にイラついたのか、ハンターが吼える。
直接戦ってみて分かったのだが、ハンターは戦い慣れていない。
力と速さは、今まで戦ってきた相手の中でも、かなりの上位に位置する事は間違い無いのだが、攻撃が単調で先の動きが容易に予測出来る。
恐らくは手に入れた力を、制御しきれていないのだろう。
その証拠に倒されたとは言え、本来の力を出しきれていない筈の、グローイングフォームのクウガでさえ、全ての攻撃を防いでいた。
止めの一撃もマイティーフォームか、タイタンフォームになっていれば、完全に防御しきる事が出来ていた筈だ。
どういった経緯で、茶髪の青年がハンターの力を手に入れたのかは知らないが、悪戯に戦いを長引かせて、ハンターが自分の戦闘スタイルを確立してきたら、厄介な相手になる事は間違いない。
確実に倒すのならば、まだ戦い慣れていない今が、最大のチャンスだ。
「メカ犬。ハンターからもホルダー反応がしていたって事は、俺が倒せば元の姿に戻せるんだよな?」
『うむ。奴の力はシステムに差異は見られるが、ホルダーと同質のシステムと見て間違い無い。ホルダーと同様に倒せば良い』
「OK!」
『メルト達が作った試作品という可能性もある。暴走には注意しろマスター!』
十分に場所を移動した事を確認してから、ハンターの攻撃を捌きつつ、俺はメカ犬に質問をしていく。
「ごちゃごちゃと五月蝿いんだよ!」
ハンターは攻撃を避け続けながら、目の前でメカ犬と会話を交わす俺に痺れを切らせたのか、叫びながら両手をベルトの中央に嵌め込まれた黄色い球体に翳すと、淡い光がハンターの両手を包み、その光は大振りで無骨な二本の銀色のナイフへと生成された。
二本のナイフを逆手に構えたハンターは、容赦無くナイフの切先を俺に向ける。
「刃物は危ないだろ!?」
先程の拳と同様に、連続で放たれるナイフの斬撃を回避しながら、俺は反撃の狼煙を上げる為に、ベルトの右側をスライドさせて、黄色いボタンを押す。
『ベーシックファントム』
音声が流れると同時に、ベルトから大量の光が発生して、本来赤い複眼が、灰色となっているシードの分身体が生成される。
俺はハンターの右腕を、そしてメカ犬が遠隔操作する分身体が左腕を掴む事で、ナイフによる攻撃を含め、かなりの動きを制限させる事に成功した。
「ぐはっ!?」
その状態から俺と分身体が放った膝蹴りが、ハンターの腹部に決まり、苦悶の声を上げる。
「このまま押し切るぞ!」
『うむ!』
膝蹴りの衝撃により、後ろへと後退したハンターに対して、俺とメカ犬は、左右から畳み掛ける様に同時攻撃を加えていく。
「この!」
ハンターも時折ナイフで反撃を試みては来るが、俺とメカ犬が操る分身体を同時に相手にする事で、狙いが定まっていないのか、攻撃が今まで以上に単調となって来たので、更に避けやすくなった。
「『たあああ!!!』」
俺とメカ犬は、ハンターのナイフから繰り出される斬撃を掻い潜り、懐に飛び込み、同時に蹴り込み吹き飛ばす。
『行くぞマスター!』
「ああ!」
吹き飛ばされたハンターを見ながら、俺はメカ犬の言葉に頷きつつ、ベルトからタッチノート引き抜こうとするとその直前に、突如として俺達とハンターの間に爆発音が響くと同時に、大量の砂埃が空中を舞う。
『気を付けろマスター!奴と同系統のホルダー反応が二つ付近に現れた!』
砂埃で視界が遮られる中で、メカ犬の声が風に乗って俺の耳へと届く。
時間にして一分も掛からない内に、砂埃は風に乗り目の前の視界がクリアになる。
「あれは!?」
俺は視界が開けた直後、目の前に映った光景に驚愕した。
「ちょっと大丈夫なの?雄太《ゆうた》?」
「一人で……突っ走るからそうなる……」
砂埃が晴れた事で俺が見た光景は、ハンターの両脇に悠然と佇む二人の仮面ライダーの姿だった。
その姿は殆どハンターと同じブラウンを基調とした身体に、上半身を覆う銀のプロテクターという容姿であり、違いは頭部の角飾りの形状が若干異なる事と、ベルトに嵌め込まれた球体と複眼の色が、其々に赤と青だといったところだろうか。
赤い複眼のライダーは、その声からして、若い女性なのだろう。
俺とメカ犬の攻撃のダメージにより、ふらついているハンターに肩を貸して支えていた。
その隣では、声の調子が平坦で、年齢までは良く分からなかったが、男性とだけは分かる、青い複眼のライダーが、何か筒状の物体を手にして俺とメカ犬の動きを警戒している素振りを見せてくる。
「……余計な事しやがって!」
「何を言ってるんだか!あんたボロボロにやられてるじゃないのよ!」
「……ぐっ!」
見た感じが明らかにハンターと同系統の二人のライダーは、ハンターを助けに来た増援なのだろう。
ハンターとそれを助け起こしている、女性ライダーの会話を聞く限り、間違い無いと断言出来る。
「メカ犬。あの二人もやっぱり……」
『うむ。先程も言った通り、奴らからもハンターと同じ、ホルダー反応している』
俺とメカ犬は警戒を強めながら、突如として現れた二人のライダーを見据えていると、新たな動きが発生する。
「兎に角ここは、一旦引くわよ」
「はあ!?何言ってんだよ!?俺はまだ戦えるぜ!」
「……人数では此方が勝っているけど……向こうは確実に、僕達より戦い慣れしている。……それに君は弱ってるし、これだけ派手に暴れていたら、何時もう一人が現れてもおかしくない。戦うなら、少なくても此方の戦力を整えてからの方が良いよ……」
「ほら、大地《だいち》もそう言ってるんだから、大人しく言う事を聞きなさいよね。怪我人君?」
「チッ!分かったよ……」
どうやらハンターを含め、三人のライダーはこの場から退散する算段をつけているらしい。
『逃がすと後々厄介だぞマスター』
メカ犬に言われるまでも無く、そんな事は分かりきっている。
「逃がすか!」
俺は分身体のメカ犬と共に、三人のライダー目掛けて駆け出した。
「……させない……」
しかし俺とメカ犬が、三人の前に辿り着くよりも先に、青い複眼のライダーが呟くのと同時に、手にしていた筒状の物体を俺とメカ犬が操る分身体の足元に放り投げてきた。
咄嗟にバックステップで、後ろに下がるのとほぼ同時に地面に落下した筒状の物体は、一瞬だけ膨張したと思うと、そのまま大きな爆発を引き起こして、周囲が爆煙に包まれる。
『これは先程と同じ爆発か!?』
再び視界を奪われ何も見えない中で、俺の耳にメカ犬の声だけが届く。
メカ犬が言った通り、この爆発はさっきの砂埃を巻き上げたものと同じ様だ。
「今日はこれ位にしといてやるけどな!次に会った時が、お前の最後だぜ!!!」
爆煙の中で、徐々に遠ざかって行くハンターの声が聞こえてから暫くすると、爆煙は風に流され再び俺に視界が帰ってきたので、周囲を見渡したが、既にハンターと、新たに現れた二人のライダーの姿は、影も形も無くなっていた。
『反応も完全に見失った。残念だが追跡も不可能だな……』
「逃げられたのは痛いけど、あいつ等の目的は俺やE2と戦う事みたいだし、その内に向こうからやって来るだろ?」
探し出そうにも、何の手掛かりも無い今は、悔しいが出来る手段は、今の現状では少ないと言わざるおえない。
突然出てきたハンターを名乗る仮面ライダーとその仲間に、この商店街で暴れながら、不可思議な行動を取っていたホルダーモドキの集団……
俺達の知らない場所で、何かが起こっているのは間違い無いが、それを調べるよりも先に、今は先にやらなければいけない事がある。
「メカ犬。急いで五代さんを病院に運ぶぞ!」
『マスターはその男性と知り合いなのか?』
「悪いけどその話は、また後でな」
瓦礫の影で未だ気絶している五代さんを担ぎ上げた俺は、メカ犬からの質問を後回しにしながら、海鳴大学病院へと急いだ。
「オーバー。例のものは見つかったのか?」
「まだ駄目みたいだね。取り敢えずめぼしい場所に探しに行かせて見たんだけど、見つける前に、皆やられちゃったみたい」
一筋の光すら届かない、暗闇と静けさのみが支配する、今は使われていない海鳴市の地下深い、旧地下水道の開けた空間で、異形の怪人である、オーバーとメルトの会話だけが虚しく響き渡っていた。
「私が新しく開発した、試作のシステムを持たせた三人もか?」
「ああ、あの子達は大丈夫だったみたいだよ。一人だけ先走っちゃって、怪我しちゃったみたいだけどね」
メルトの質問に、オーバーは手をわざとらしく振って、手を傷めた様なリアクションを取りながら、オーバーに説明する。
「既にあれから一週間が過ぎている。儀式までにあと三日しか残されていないからな……」
「それは分かってるよ。扉に封じられた闇を解き放つ為の【鍵】と【巫女】。その両方がこの海鳴市にあるって言うんでしょ?」
「そうだ。私達は既に器と鍵を手にしている筈だったが、実際に今、私達の手の中にあるのは器のみだ。急がなくてはならない」
「本当に良いタイミングで、仮面ライダーが邪魔してくれちゃったからねえ……」
「だからこそ、今回はその邪魔を排除して、計画を先に進める為に、試作段階の新システムを、動員したのだからな。存分に役に立って貰わなければならん」
「捨て駒だとしても?」
何時も通りの抑揚の無い喋りで、淡々と語るメルトに対して、今度はオーバーが、静かに問い質した。
「捨て駒だからこそ、それなりの働きをして貰わなければ困る」
「人使いが荒いんだよメルトは!まあ、いざとなったら僕も出て行くよ。そん時はメルトに儀式の準備を全部お願いしちゃうからね?」
「……好きにしろ」
メルトとは逆に、無邪気な声で質問の答えに対して返答するオーバーだったが、その声色には何処か、メルト以上の寒気すら感じさせる。
「あ!そう言えば、もう一つ報告しとかなきゃ行けない事があったんだよ」
「……何だ?」
「帰ってきたあの三人の内の、先走って怪我した子が言ってたんだけどね。シードとE2以外にも、もう一人見た事の無い仮面ライダーが居たらしいんだよ」
「……そうか」
オーバーの報告に、数秒だけ間を置いたメルトは、一言だけそう呟いた。
「あれ?以外とそっけない反応だね。もう少し驚いてくれると思ったんだけど?」
事前に予想していた反応が帰って来なかったのが面白く無かったのか、オーバーは少しだけ気分を害した様な仕草を見せる。
「私達がこれからしようとしている事を考慮に入れれば、それは想定の範囲内だからな。それに……」
「それに?」
メルトは淡々と語りながら後ろを向き、それに釣られてオーバーも後ろを振り向く。
「究極の闇と凄まじき闇は、対を成す存在だからな……」
光すら届かない暗闇の更にその奥。
二人の異形の瞳が見詰める更なる深い闇を纏う空間のその先から、それを心の底から渇望するかの様に、声が聞こえて来た。
「……クウガ」
その言葉は声を発した本人に残された、本能と理性が生み出した唯一の言葉……
「……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……クウガ……」
最初に発したその言葉を皮切りに、まるで念仏の様にその言葉だけを呟き続け……
【殺す】
最後に何処の世界の言語にも当て嵌まらない言語で、その意味となる言葉を静かに呟いた。