魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「メカ犬!」
『待っていたぞマスター』
駆け寄る俺に、メカ犬が声を掛ける。
空と友達として挨拶を交わした帰り道の途中、タッチノートからホルダー反応を知らせる警報が発せられるのを聞いた俺は、現場が病院近くだったので、先に現場である、海鳴商店街に駆けつけていたメカ犬と、急いで合流した俺は、眼前に広がる惨状を見て思わず叫んでしまう。
「ホルダーモドキが、こんなに!?」
夕暮れの海鳴商店街には異形の姿をした藍色の十数体の怪人、ホルダーモドキが周囲の建物を乱暴に破壊していた。
ホルダーモドキは確かに集団で現れる事が殆どだが、大抵そういった場合は、すぐ近くにオーバー、もしくはメルトが居る筈なのである。
しかし周囲を見回しても、商店街には暴れまわるホルダーモドキ達と、逃げ惑う海鳴市民の姿のみで、近くに二人が居る様子は全く無い。
『マスター……何かおかしくないか?』
俺の隣で同様に周囲を見回していたメカ犬が、商店街で暴れている、ホルダーモドキ達を見ながら、そんな事を言ってきた。
「確かにオーバーとメルトが近くに居ないみたいなのに、この数は異常だな」
『いや、マスターの言っている通り、それも気にはなっているのだが、ワタシはどうも奴らの行動が不可解に思えてな……』
「奴らの行動が不可解?」
『うむ。どうも奴らの目的は、この街の破壊活動では無い様に見える……』
メカ犬の言葉に耳を傾けながら、改めてホルダーモドキ達の行動を見てみると、街を破壊しているのには変わり無いのだが、やたらと首を左右上下に振ったり、破壊した建物を覗き込んでいるという様な仕草がやたらと目につく。
その行動はまるで……
「何かを探してる?」
俺がホルダーモドキ達の行動を見て、思った事を呟いたその直後。
『後ろだマスター!』
突如として隣で叫んだメカ犬の声に反応して後ろを振り向く。
すると街で暴れていたホルダーモドキ達の内の一体が、何時の間にか、俺の背後に回り込んでいたらしく、俺に対して大きく拳を振り上げていた。
「くっ!?」
この状況は物凄く不味いという事を認識した俺は、これから振り下ろされるであろう、ホルダーモドキの拳を回避するべく、咄嗟に後ろに飛ぼうとした。
しかしその行動は実行される事は無かった。
それは俺が後ろに飛ぼうとした直前に、その必要が無くなった為である。
「危ない!!!」
後ろに飛ぶ為に、足に力を込めたその時、横から一人の男性が飛び出してきて、ホルダーモドキに体当たりを喰らわせて、その場から吹き飛ばしたのだ。
「あ、あの、ありがとうござっ!?」
俺は危ないところを助けてくれた背を向けた男性に、お礼を言おうとしたのだが、俺の方に振り向いた男性の素顔を見た瞬間、言葉を失ってしまった。
その男性は、俺の憧れの人物と瓜二つの顔をしていたのである。
世界には同じ顔の人間が、三人は居ると、何処かで聞いた事があるが、それにしても似すぎているのだ。
「もう大丈夫だ」
ただ無言で立ち尽くす俺を、恐怖で動けなくなったと、勘違いしたのだろう。
男性は優しさを称えた瞳で、俺を見ながら笑顔で頭を二回程、軽く撫でた。
その声と笑顔は、紛れも無く俺の知っている人物、そのものである。
「早く逃げるんだ!」
男性は俺にそう言うと、再び後ろを向き、既に起き上がって此方に近づいてきていたホルダーモドキと対峙した。
「未確認……じゃないのか?」
体当たりを浴びせて吹き飛ばしたホルダーモドキを正面から見据えて、男性が驚きの声を上げる。
「今……未確認って言ったって事は、もしかして……」
男性の発した言葉に、俺の中に存在していた疑惑が、確信へと変わっていく。
「うをおおおお!!!」
男性は叫びながら、目の前のホルダーモドキに突進を始めた。
「ふん!」
突進と同時に思い切り振り上げた男性の右拳が、ホルダーモドキの胸に当たるが、然程のダメージを受ける事無く、ホルダーモドキは平然と佇みながら、男性に視線を送る。
「はあ!」
先程の攻撃で逆に拳を痛めたであろう男性は、その様な仕草を微塵も見せずに、続け様にハイキックを、ホルダーモドキに放つ。
その一撃は見事にホルダーモドキを捉えるが、その攻撃を喰らった当人である、ホルダーモドキは、何のリアクションもせずに、ただ男性に視線を送り続ける。
二度目の攻撃も効果が無かった事を理解したのか、男性が三度目の攻撃を加えようと左拳を放ったところで、ホルダーモドキが動いた。
「うわ!?」
ホルダーモドキは、男性が放った左拳を受け止めて、男性を俺の居る方向とは反対側に、放り投げたのである。
『何を呆けているのだマスター!?』
男性の容姿に気を取られて、ただこの状況を見るだけになっていた俺の耳に、メカ犬の声が轟いた。
俺はその声で、正気に立ち返り、急いでタッチノートを取り出す。
「行くぞメ!?」
そのまま急いで変身しようとしたその時、予想外の出来事が起こった。
「うをおおおおおおお!!!」
先程ホルダーモドキに吹き飛ばされた男性が、後ろから俺の目の前に居るホルダーモドキの腰にしがみ付いたのである。
それを振り解こうとして、ホルダーモドキが身体を大きく揺さぶるが、男性はしがみ付いたその腕を決して離そうとはせずに、がむしゃらに喰らい着く。
「早く逃げるんだ!!!」
ホルダーモドキにしがみ付いた男性は、俺に向かってそう叫ぶと、しがみ付いたホルダーモドキに振り回されながら、俺の視界の外へと向かって行ってしまう。
『マスター。彼をあのままにしては危険だ。ワタシ達も行くぞ!』
「あ、ああ……分かってる」
俺は決して出会える筈の無いあの人と、そっくりな姿の男性の言動に動揺しつつも、メカ犬の言う通り男性とホルダーモドキが向かった瓦礫の向こう側に走りだそうとしたのだが、その進行方向には多くのホルダーモドキ達が行く手を遮るかの様に、立ち塞がっていた。
『どうやら奴らを倒さないと、この先には行けそうにないな』
「そうみたいだな……」
『一気に蹴散らすぞマスター!』
「OK!」
メカ犬の掛け声に答えながら、俺はタッチノートを開いてボタンを押す。
『バックルモード』
音声が流れると同時に隣に居たメカ犬がベルトに変形して、自動的に俺の腹部へと巻きつく。
「変身」
俺はホルダーモドキ達を見据えながら、音声キーワードを入力して、タッチノートをベルト中央の窪みへと差し込んだ。
『アップロード』
差し込んだ瞬間に、白銀の光が俺の全身を包み込んで、一人の戦士を誕生させる。
光が飛散する事で現れたその姿は、メタルブラックのボディーに、四肢に伸びる銀のラインとその同色に輝くV字型の額飾り。
赤く大きな二つの複眼が、確かなまでの存在感を放っている。
仮面ライダーシード。
それがこの姿の名称だ。
『来るぞマスター!』
ベルトから聞こえるメカ犬の言う通り、変身した直後、目の前のホルダーモドキ達が、一斉に襲い掛かってきた。
「はあ!」
最初に此方へと飛び込んできたホルダーの拳を避けた俺は、カウンターに右拳を喰らわせてから、後ろから追撃を仕掛けよう走ってくる二体目に向かって投げ飛ばす。
更に三体目、四体目と同時に攻め込んで来るのが、後ろから視界に入って来る。
『相手が数で来るのならば、此方はスピードで勝負するぞマスター!』
「分かった!」
戦況を把握しながら助言するメカ犬の言葉に頷きながら、俺はベルトの右側をスライドさせて、緑のボタンと黄色のボタンを連続で押していく。
『スピードフォルム』
『スピードロッド』
ベルトから音声が流れると、メタルブラックのボディーがライトグリーンへと染まり、それと同時に放たれた光が俺の右手に集約されて、このスピードフォルムの専用武器であるスピードロッドへと生成される。
「たあああああ!!!」
俺はスピードロッドを、弧を描く様に振り回す事で、俺を囲もうと四方から迫るホルダーモドキ達に、打撃を浴びせていく。
「今は急いでるんだ!一気に片を着けさせてもらうぞ!」
この辺りに居たほぼ全てのホルダーモドキが、俺を中心とする事で周囲に集まって来ているのを一瞥して、確認した俺は、ベルトからタッチノートを引き抜いて、スピードロッドの溝部分へとスライドさせる。
『ロード』
音声が聞こえた事を確認した俺は、すぐさまタッチノートを再びベルトに差し込んだ。
『アタックチャージ』
ベルトから発生した光は、右腕のラインを通過して、スピードロッドへと集約されていく。
「こいつで決めるぜ」
光が集約するスピードロッドを構えてから俺は右足を軸にして、その場で自らも回転しながら、スピードロッドを一気に振り切った。
「ウインドテイスティング」
その瞬間に、俺を中心として、円状に風の刃が放たれる。
俺を囲む様に周りに居たホルダーモドキ達は、その攻撃を避ける事が出来ずに、次々と爆発を引き起こし無へと帰って行った。
「これでこの辺りは、片付いたかな……」
回転を終えた俺は、目に見える範囲でホルダーモドキが全て居なくなった事を確認してから呟いた。
『マスター。ここが片付いたのならば、急いで先程ホルダーモドキと共に、瓦礫の向こうに行った彼を追いかけるぞ』
「ああ!」
俺は短く頷いてから、急いでこの場から走り出した。
「があ!?」
商店街で怪物に襲われそうになっていた少年を、怪物から引き剥がす事に成功した男性、五代は瓦礫の先にまで引き摺ったまでは良かったのだが、其処で一瞬だけ気が緩んでしまったのか、腰に回していた腕を引き剥がされた上に、投げ出されてしまった。
アスファルトに背中から受身も出来ずに着地する結果となってしまった為に、肺から空気が強制的に排出されると同時に、短時間ではあるが、まともに呼吸が出来なくなってしまう。
「……く……う……」
差して間を開ける事無く、呼吸が出来る様になった五代は、痛む全身に鞭打ちながら、素早く立ち上がる。
「未確認じゃないみたいだけど……何なんだこいつは!?」
五代は間合いを取りながら、目の前の怪物、ホルダーモドキを警戒しながら考察していく。
そうしながら五代は、ゆっくりと自身の腹部へと手を添えた。
「あれから一年か……もう一度やるしかないのか……」
忘れ様も無い、一年前のあの日。
それ以来、五代は世界中を旅しながらも、一度としてその力を使う事は無かった。
そもそも今でもその力が、現在の自分に宿っているのかすら、疑わしいのである。
「それでも俺は……」
五代は、決意と共に、かつての様に、両手を腹部へと宛がう。
すると五代の腹部には、超古代の技術で作られた霊石アマダムが埋め込まれたベルト、アークルが出現した。
左手を腰に添えながら、右手を前にゆっくりと押し出す事で、集中力を高めつつ、五代はもう一度、その力で誰かの笑顔を守る為に、自身を戦士へと変える言葉を口にする。
「……変身!」
その言葉を紡ぎながら、腰に添えた手に右手を上から押し込んだ後に、一気に両腕を広げる。
そうする事により、五代の身体は急激なまでの変化を遂げて行く。
身体の上半身は、筋肉を模した造形の鎧に覆われて、頭部は二股に分かれた金の角と、赤い大きな複眼という、人間とは明らかに違った形状へと変化する。
それは五代の居た世界では、未確認生命体第二号と呼ばれていた存在。
その本当の意味を知る者は、彼をクウガと呼んでいた。
「……どうして、白いクウガに!?」
変身を終えたクウガは、自身の白い姿を見て、驚愕した。
本人の意思としては、赤い姿を望んだ筈なのに、実際に変わったその姿は本来の力を出し切れない状態だった為だ。
驚くのも無理は無いだろう。
この姿になる時の条件は、大きく分けて二つ存在する。
一つはクウガへと変身する者が、その力を上手く引き出せていない場合だ。
霊石アマダムは使う者の意識によって、その力を発揮する。
使用者の意思、覚悟とでも言うべきものが、不足しているのであれば、当然の結果としてクウガの力を十分に引き出す事が出来ないのだ。
そして二つ目は、そうならざるをえない場合である。
戦士クウガとして戦うには、大きな力を必要とするのだ。
その力が使用者、もしくはそれを司るアマダムが原因で使う事が出来ない時も、この姿となってしまうのである。
「やっぱりまだ……」
クウガは自身の腹部を見ながら、一つの確信を得た。
原因は後者にあったのだ。
あの壮絶な戦いから一年という月日を経ても尚、アマダムはその傷の全てを癒すには至っていなかったのである。
しかし敵のホルダーモドキは、そんな事情を分かる訳も無く、目の前で突如として姿を変えた敵へと、猛然と飛び掛ってきた。