魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「やっぱりその声はメー君ね!?」
アリサちゃんがメカ犬の声を聞き、嬉しそうに言う。
咄嗟にタッチノートは隠したので、何処から聞こえているのかまでは分かっては居ない筈だ。
「アリサちゃん!今から俺とメカ犬で、あの魔王を倒す秘密兵器を準備するから、少しの間だけ時間を稼いで欲しいんだ!頼めるかな?」
「ふ~んなるほど!そういう展開な訳ね。夢ながら結構ドラマチックじゃないの」
ただ単にメカ犬と俺の会話を聞かれたくないから、デタラメな事を言っただけなのだが、どうやらアリサちゃんは、都合の良い解釈をしてくれたらしく、ホルダーの前に一歩踏み出して、タクトを構えた。
「ウインドウォール!!!!!」
アリサちゃんが技名を叫びながら、タクトを回転させると、強い風がホルダーの周囲に渦を作り、その場から動かない様に押し止める。
「ここは私に任せなさい!!!」
タクトを回し続けながらアリサちゃんが俺に向かって叫んだ。
「うん!頼んだよ!!!」
俺はアリサちゃんに返事を返してから、後ろを向いてタッチノートを取り出して、メカ犬との会話を再開させた。
「多分アリサちゃんに危害が出る事は無いと思うけど、急ぐぞメカ犬」
『マスター。もしかしてこのホルダーの能力に気が付いたのか!?』
「ああ……予想通りなら、合っていると思うぞ」
メカ犬の驚き方からして、俺の予想は少なからず間違いでは無いかもしれない。
『うむ。先に結論を言ってしまえば、現在マスターとアリサ穣が認識しているこの世界は夢の中だ。
「やっぱりな……」
『正確に言うのであれば、人間の脳が睡眠時において見る夢をホルダーの能力で、意識的にコントロールして改変された擬似空間とも言える』
メカ犬が言うには、俺とアリサちゃんは、戦いの最中に浴びた光で、トランス状態になった後、ホルダーの能力で意識をこの夢の世界に、無理矢理に引っ張り込まれてしまったらしい。
どうやら俺の予想は外れていなかった様だ。
何故俺がその事に気づいたのかというと、それは前世に見た仮面ライダーWが要因である。
最近本物と会って、思い出しやすくなっていたというのもあるのだが、そのWで見たTV放映の内の話の中で、今の俺達に酷似したストーリーが展開していたのを思い出したのだ。
勿論大きく異なる部分も多々あるし、このホルダーの能力と、ドーパントの能力が、完全に一致するものだとは思えないが、ヒントとするには、十分に役立ってくれたのである。
『このホルダーは、他の人間をゲームに似せた夢の世界に取り込み自身がこの世界のゲームマスターとなる事を目論《もくろ》んでいたのだろう』
「だからそのプレイヤーである俺達が、不快に感じる痛みや疲れの感覚を、遮断したんだな。一生抜け出そうとしない様に……」
『うむ。現にアリサ穣もこの世界をただの夢と認識して、現状を楽しんでいる節があるからな。被害者が増えれば、この世界を現実だと認識して、この世界から離れなくなろうとする人間が出てきてもおかしくは無いだろう』
俺の前世の友達だったら、こんな世界に来たらさぞかし大喜びする事間違い無いだろうな……
「ああ。それでメカ犬がこっちの世界に介入出来たって事は、打開策も当然あるんだよな?」
『あのホルダーの能力は、あくまで人間の脳に対して有効な能力だからな。機械のワタシには効かない上に、能力的にはシステムを使用してマスターの脳と常時アクセスしているのだ。融合した状態のワタシは、奴の能力を逆に隅々まで調べさせて貰ったぞ』
「……やっぱりな。という事は現実の俺の身体は?」
『今も変身している状態だ。それに現実ではあれから数分も経ってはいない』
「それは流石に驚いた……」
ホルダーの能力が多岐に渡るのは、これまでの戦いから良く知ってはいたが、これは特殊過ぎである。
正直な話、こういったタイプの相手は、あまりしたくは無い。
『話を戻すが、ここからマスター達が出る為の方法が解析結果から一つだけ判明した』
「……予想外の相手ってところか?」
『その通りだマスター。この夢の世界は、ホルダーが全て管理している。言わばその世界の管理者とも言えるホルダーに対して、この世界のどんなに強力な武器や能力を使おうとも、ホルダーにダメージを与える事は出来ない』
「だから俺とアリサちゃんの攻撃は、一切効かなかった訳だ」
『うむ。だからマスターに今から一つ、あのホルダーと戦う為の力をイメージして欲しいのだ。マスターのイメージをワタシがこの世界に擬似的にデータとして転送する。その力で戦えば、この世界からホルダーを追い出せる上に、管理者のホルダーがこの世界から居なくなれば、マスターとアリサ穣の目も覚める筈だ』
戦う力をイメージか……
「分かった!やってみる!」
『頼むぞマスター』
俺は目を閉じてメカ犬に言われた通り、この世界で俺が使う力を明確にイメージする。
俺がイメージする力と言えば……
『マスターのイメージをデータ化して転送したぞ。これを使えば、この世界から脱出出来る筈だ』
タッチノートからメカ犬の声が聞こえる。
身体的な変化は何も無いが、俺のイメージを本当にこの世界で実現出来ているとするのであれば、この状況を打開する事は可能な筈だ。
「お待たせアリサちゃん!」
準備を整えた俺は、今もタクトを回し続けて風でホルダーをその場に押し止めているアリサちゃんに声を掛ける。
「準備出来たのね!?」
「うん!ここからは選手交代だ!」
俺はアリサちゃんに返事を返しながら、横をハイタッチして前に出る。
そして後ろに回ったアリサちゃんが、タクトを回すのを止めると、ホルダーを包んでいた突風が止み、その中心から、やはり無傷のホルダーがゆっくりとした足取りで此方に近づいて来た。
「最後の悪あがきか?殊勝な事だな」
「悪あがきかどうか……試してみれば分かるだろ!!!」
そう言って俺が意識を集中させると、俺の手の中に、ある二つの物体が現れる。
「な、何なんだそれは!?」
見慣れない物体を見てホルダーが驚きの声を上げた。
それもその筈だろう。
少なくてもこれをこの世界で知っているのは、俺だけの筈なのだから、ホルダーが驚くのは当然と言える。
「驚くのはここからだ」
それは白を基調としたバックルと、そのバックルのデザインに合わせた収納ケースに見える物体……
正式な名称を言うのならば、ディケイドライバーとライドブッカーという、ライダーファンならば当然知っているであろうツールだ。
俺はディケイドライバーを腹部に当てて、ベルト状にして、ライドブッカーを腰に装着してから、ディケイドライバーの中央を展開さつつ一枚のカードを掲げる。
そのカードにはマゼンタを基調とした一人の戦士の顔が写されていた。
「変身!」
俺はいつもよりも少し強い口調で力ある言葉を紡ぎ、カードをドライバーに差し込んで、展開させた状態を元に戻す。
『KAMENRIDE……DECADE!』
音声が流れると同時に俺の全身を、モザイクの様な影が包み込み、その大きさを大人サイズに変貌させながら、頭上に六枚のプレートが展開されて俺の頭部に装着されていく。
そうするとモザイクの様な影が晴れて、マゼンタと白に黒を基調としたボディーに頭部に装着された六枚のプレートの奥から緑の複眼が覗き変身を完了させる。
「じゅ、純の姿が変わっちゃった……」
俺の変身を見て、アリサちゃんが驚く。
流石にやりすぎたかもしれないと思うが、シードにさえ変身しなければ、まだ誤魔化し切れる筈だ。
「な、何者なんだお前は!?そんな奴ファイナルクエストのデータには無かったぞ!?」
偶然なのだろうが、ホルダーがお決まりの台詞を言ってきたので、ここは俺もそれに習ってこの台詞を言っておくべきだろう。
「俺か?俺は通りすがりの……仮面ライダーだ!」
本家の台詞を言った俺はそのまま走り、ホルダーを殴りつける。
「ぐあ!?そ、そんな馬鹿な!?この世界では無敵の筈なのに!?」
俺の拳を受けてダメージを受けたホルダーが困惑しているが、それに一々付き合う義理は無いので、更に追撃を仕掛けていく。
「特別サービスだ少しだけ他の力も見せてやる……変身!」
ホルダーを蹴飛ばして距離を取った俺は、先程変身した時と同様に、ドライバーを展開させて、ライドブッカーから一枚のカードを取り出して、ドライバーに差し込んで、再び元に戻す。
『KAMENRIDE……BLADE!』
ディケイドに変身した時と同じ様に音声が流れると、今度は俺の目の前に、カブトムシの様な絵柄が浮かぶ青いゲートが現れる。
そのゲートを潜り抜けると、ディケイドの姿が、トランプのスペードを彷彿とさせる頭部に、赤い複眼と銀と藍色を基調とした、古代のコロシアムで戦うグラディエーターにも似た戦士、ブレイドの姿へと変わった。
「何だと!?」
俺は驚くホルダーを他所に、腰のライドブッカーを剣型のソードモードに切り替えて、一気に斬り掛かる。
「ぐあ!?……この!?」
困惑し続けていたホルダーも、この異常に気付いたのか反撃を仕掛けてこようとするが、それも想定済みだ。
「甘い!」
俺は更にカードを一枚取り出して展開させたドライバーに差込み元の状態の戻す。
『ATTACKRIDE……MACH!』
本家のブレイドが使うカードの力を模したアタックライドのカードを使用した事により、急速な加速を得た俺は、ホルダーの反撃を難なく避けて、逆に連続で斬撃を叩き込む。
「さてと……そろそろ現実世界に返らせてもらうぞ」
連続攻撃で弱っているホルダーから少し離れた位置で、ブレイドから最初の状態のディケイドに戻った俺は、ライドブッカーから、取っておきのカードを一枚取り出して展開させたドライバーに差し込んで使用する。
『FINALATTACKRIDE、DE、DE、DE、DECADE!』
音声が流れるのと同時に俺と標的となるホルダー間に、ホログラム映像状のカード型エネルギーが十枚現れる。
それを確認した俺はその場から跳躍してホログラムを通過して、ディケイドの必殺技の一つでもあるディメンションキックをホルダーに放つ。
そしてディメンションキックがホルダーに当たるのと同時に、この世界は光に包まれた。
『……起きろ……起きろマスター!!!』
「ん!?」
俺はメカ犬の声に反応して、飛び起きた。
『どうやら無事に戻ってこれた様だな』
「ああ……そうみたいだな……」
俺が辺りを確認すると、見覚えのある海鳴市の街並みと少し離れた場所で眠っているアリサちゃんの姿が見える。
そして自分の姿を確認してみると、メカ犬の言った通り、変身した状態であり、メタルブラックのボディーだった。
「あれ!?ホルダーが何処にも居ないぞ!?」
更に周囲を見渡すが、ホルダーの姿は何処にも見当たらない。
『恐らくは一足先に現実世界に戻ってこの場から逃げ出したのだろうな』
「そんな悠長に言っている場合か!?」
あのホルダー自身の強さは別として、能力は厄介極まり無いものだ。
このまま逃がしたとしたら、多くの人間があの世界に引きずり込まれる事になるかもしれない。
『大丈夫だマスター。ホルダーが逃げてから、殆ど時間は経っていない筈だ。メカ虎を呼んで、一気に叩くぞ!』
「あ!そうか!!!」
その言葉でメカ犬の言いたい事を理解した俺は、急いでタッチノートを引き抜いて操作を始める。
『ライガー・コール』
タッチノートから音声が流れるてから少しして、素早い動きで緑の虎、改めメカ虎がやって来た。
『オレッチを呼ぶなんて、何かあったじゃん!?』
「来てくれたところ早速で悪いけど、逃げたホルダーを見つけるのに協力してくれ!」
『任せるじゃん!』
俺の頼みに快く答えてくれたメカ虎の返事を合図に、俺はタッチノートを更に操作していく。
『ホルダーをこの市内で探索するのならば、サーチフォルムが最適だぞマスター』
「分かった」
俺はメカ犬の助言に頷きながら、サーチフォルムに変形した後、アタッチメントパーツに変形したメカ虎を、ベルトの左側をスライドさせてから差し込んだ。
『サーチ・ライガー』
音声が鳴り響くのと同時に、俺の周囲に、メタルグリーンの装甲が展開されて次々に、スカイブルーのボディーへと装着されていく。
「それじゃあ行くぞ!!」
『うむ!』
『じゃん!』
俺はそう言ってから、電柱の上に飛び上がり、全神経を周囲に集中させる。
街を行き交う人々の足音から、空を飛ぶ小鳥の羽の音に、見渡せる限りの景色を……出来るだけ多くの情報を、拾い集めていくその中で……
「居た!」
俺が居る電柱から約一キロ先の道路を、夢の世界で見たのと同一の姿をしたホルダーが走っている。
俺はベルトの右側をスライドさせて、黄色いボタンを押す。
『サーチバレット』
生成されたサーチバレットの引き金を引いて、ホルダーを狙い撃つ。
放たれた光弾は見事に命中して、ホルダーを昏倒させる事に成功した。
動きが鈍くなった隙を突き、俺は電柱伝いにホルダーの真上まで素早く移動して、アタッチメントパーツの下に設置されたボタンを押す。
『ライガーファング』
ベルトから発生した光が両手両足に絡まり、虎の顔を模した形のプロテクターになり、それぞれのプロテクターからは、鋭い三本の刃が伸び、専用武器であるライガーファングを装備する。
「悪夢はここで終わらせる」
更に俺は続け様に、アタッチメントパーツのレバーを下に倒す。
『マックスチャージ』
ベルトから稲妻の様な光が発生して、俺の四肢に装備されたライガーファングへと集約していく。
「こいつで決めるぜ」
空中で構えた俺は、狙いを地上にいるホルダーに定めて、一気に振り切る。
「ライガークロスラッシュ」
振り切るのと同時に放たれた衝撃が無数の刃に変わり、ホルダーの頭上から雨の様に降り注ぐ。
その必殺の一撃を受けたホルダーは大きな爆発を起こした。
爆発跡には、少し小太りな青年が気絶していたのだが、多分この人がホルダーの素体となった人で間違い無いだろう。
「あっ!そう言えば!!!」
俺は気絶していた青年を見ていて、ある事を思い出す。
『どうしたのだ?マスター』
「いや……素体になった人が気絶してるのを見て思い出したんだけど、寝てるアリサちゃんをそのままにしてきちゃった……」
『迎えに行くじゃん』
「……はい」
俺は気絶した小太りの青年を、安全な場所に送り届けるついでに、途中で眠っているアリサちゃんも回収していった。
今回は色々と厄介な事があって疲れはしたが、夢の中とは言え、憧れの平成ライダーに変身出来た事は良い思い出である。
夢の世界から無事に帰ってきた翌日の、朝の登校途中のバスの中、昨日の事をやけにリアルな夢だと疑わないアリサちゃんが、同じバス通学である俺となのはちゃんにすずかちゃんの三人に対して、熱弁を振るっていた。
「兎に角凄い夢だったのよ!何だかはやてに借りたゲームに内容はソックリだし、その中では私は魔法使いだったんだから!!!」
「「へえ~」」
アリサちゃんの熱弁に、なのはちゃんとすずかちゃんがバスの振動に揺られながら、同じ返事を返す。
「あ!それと純も出てきたわよ!」
夢の中で体験した冒険を語っていたアリサちゃんが、俺を見て思い出した様に言う。
「純君は夢の中でどんな感じだったの?」
その一言を興味を示したのか、なのはちゃんがアリサちゃんに質問をぶつける。
「そうね……見た目的には、村人って感じだったわ」
覆しようの無い事実なので、訂正しようも無いが、そうはっきり言われると、正直泣きたくなってくる。
自分でも地味な奴だという自覚があるだけに、悲しさは増すばかりだ……
「でもね!純は凄かったわよ!氷の魔法で戦うし、最後は見た事も無い仮面ライダーに変身しちゃったんだから!!!」
「「へえ~」」
続いて言われた追加の説明を聞いて、なのはちゃんとすずかちゃんが、俺を見ながら再び同じ相槌を打つ。
俺は尚も続くアリサちゃんの、夢談義を聞きながら思った。
今日の海鳴は、平和だったら良いなと……
「やっと準備が出来たんだね?」
「ああ……漸くだ。漸く次の実験を行う事が出来る……」
朝日すらも届かない闇の中で、二人の異形が全長二メートル程の筒状の機械を見ながら話をしていた。
「それじゃあ早速始めようよ」
藍色の怪人オーバーが、心の底から楽しそうに言うが、その声からは何処か寒気すらも感じられる。
「少し落ち着けオーバー」
はしゃぐオーバーに対して、灰色の怪人メルトが抑揚の無い、平坦な声で制止の声を掛ける。
「何で止めるのさメルト?」
「これは前回の実験とは違い、精密な操作が必要になる。慎重に事を進めなければならないからな……」
「精密な操作ねえ……それで一体何を呼び寄せようって言うのさ?」
意外なところで、お預けの形となったオーバーは、多少の嫌がらせの意味も込めて、嫌味な笑いを浮かべながら、この筒状の機械の製作者でもあるメルトに質問した。
「何をか……そうだな強いて言えば……」
オーバーの質問に数瞬の間考えたメルトは、一時の静寂を打ち破り、一言だけ口にした。
「……究極の闇か」
その一言は静寂の中で何処までも響き渡った。
海鳴市が存在しない……ある世界のメール
五代君へ
このメールを見ていたとしたら、急いで日本に帰って来てほしいの
どうしても見て貰いたいものがあるから
桜子より
そしてこのメールには、あるデータが共に添付されていた。
そのデータは、ある古代文字の写真であり、こう訳されていたのである。
【聖地にて 究極の闇をもたらす者 狭間へと 封ずる 願わくば この眠りが 永久であらんことを】