魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第27話 駆け抜けるは獣の如く【後編】

冬の閑散とした並木道を異形が、視覚する事すら難しい速さで駆け抜けていく。

 

その異形の表皮は、並木道に植えられた木と同系色の、茶色の皮膚に覆われており、爬虫類特有の突起した頭部をしていた。

 

例えるのならば、その姿はRPGに出てくる、多少の差異はあるものの、リザードマンに酷似していた。

 

その異形の正体は、先程のタッチノートの反応から分かる通り、ホルダーである。

 

その後ろからはサイレンを響かせながら、長谷川がマシンドレッサーで追いかけるが、距離は縮まるどころか、段々と離されていくばかりだ。

 

「くそっ!このままじゃ……」

 

長谷川はホルダーに追いつけない現状に、苦虫を噛む様な声で呟く。

 

[「長谷川君!」]

 

そんな中、通信機から恵美の声が、長谷川の耳に届く。

 

「恵美さん!?」

 

[「大丈夫よ長谷川君。今長谷川君が走っている道沿いの先は、一本道な上に、行き止まりになっている筈だから、相手がどれだけ早かろうが、逃げ場は無い筈よ」]

 

「分かりました!」

 

恵美の通信を聞いた長谷川は、先程とは違い、覇気の篭った返事を返しながら、ホルダーを追いかける為に、限界までスピードを上げる。

 

追跡を開始してから数分としない内に、ホルダーと長谷川はこの一本道の終点となる空き地に辿り着く。

 

「しゅううううううううううう!!!」

 

空き地に辿り着いたホルダーは、空き地の壁を背にして、長谷川に威嚇の咆哮を上げる。

 

[「今よ長谷川君!」]

 

「はい!」

 

通信機から聞こえる恵美の声を合図にして、長谷川は、マシンドレッサーのハンドルグリップ脇に取り付けられているボタンを押した。

 

すると、マシンドレッサーの前方部分に存在する直系十五センチ程の射出口から、ESM03にも使用されている、特殊ワイヤーと同じ材質で作られた捕獲用のキャプチャーネットが、ホルダーに向けて放たれる。

 

「きしゃあ!?」

 

これはホルダーも予想外だったのか、突然マシンドレッサーから放たれたネットは、慌てて避けようとしたホルダーの両足に絡みつき、その動きを阻害した。

 

[「急いで長谷川君。そのネットの強度じゃ、長い時間はホルダーを押さえつけておく事は出来ないと思うから!」]

 

「了解です!」

 

長谷川は、通信機から聞こえる恵美の指示に返事を返しながら、マシンドレッサーを降りて、自身の腕に着けたメタルイエローのメカニカルな腕輪、Eブレスの操作を始める。

 

『ドレッサーモード』

 

EブレスのボタンをE・0・2の順番で押していく事により、マシンドレッサーから、機械的な音声が流れ、バイクの形状から、ボックス状の形態、ドレッサーモードへと変形して行く。

 

マシンドレッサーがバイクモードから、ドレッサーモードへと変形を完了したのを確認した長谷川は、すぐに入り口を開き、中へと飛び込んだ。

 

中には丁度一箇所だけ、Eブレスが収まるサイズの窪みが設けられており、長谷川は迷う事無く、その窪みにEブレスを押し当てると、戦う為の力ある言葉を紡ぐ。

 

「変身」

 

『音声コマンド認証。SEシステム起動』

 

その直後、機械的な音声が、ドレッサー内に響き、入り口が閉まると同時に、壁のいたる場所に穴が開き、其処から無数のロボットアームが飛び出して、長谷川が着ていた服を剥ぎ取っていく。

 

服が剥ぎ取られると、今度は入れ替わる様に、ノズルの付いた筒状の機材が飛び出して、ノズルから特殊な黒い液体が噴出されて、長谷川の全身を覆い、瞬時に乾いて、即席の防護スーツとなる。

 

それが完了すると再びロボットアームが飛び出して、メタルイエローの装甲を、長谷川の全身へと装着させていき、ここに科学の力が生んだ一人の戦士が誕生する。

 

[「気をつけてね。長谷川君!」]

 

「はい!」

 

ESシステムを搭載した強化ユニットを装着して、E2となった長谷川に恵美がエールを送り、E2は返事を返しながら、マシンドレッサーから飛び出す。

 

マシンドレッサーからE2が飛び出して、ホルダーに視線を向けると、恵美が言っていた通り、動きを阻害していたネットは、辛うじて片足に絡みつく状態となっており、既にいつ引き剥がされてもおかしくない。

 

[「あのネットが無くなったら、追いつけなくなる可能性が高いわ。攻撃するなら今よ」]

 

「分かりました。」

 

E2は頷くと、マシンドレッサーの格納庫から、近接武器となる両刃の剣、ESM02を装備して斬り掛かる。

 

「はあ!」

 

「しゃあ!?」

 

足にネットが絡み付いて、動きが鈍くなっていたホルダーだったが、元々の動きが素早い為か、決して遅くは無い筈のE2の斬撃を紙一重で避けてしまう。

 

「まだまだ!」

 

しかしE2も、そのままで終わる訳ではなく、間髪入れずに、連続でESM02を振るい、連続攻撃を仕掛けていく。

 

果敢に攻撃を仕掛け続けていくE2の攻撃が、少しずつホルダーを追い詰め始めたその時、一対一だったこの戦いの舞台に、新たな介入者が現れる。

 

「楽しそうだね。僕も混ぜてよ?」

 

その声は行き止まりとなっている空き地の壁の上から聞こえてきた。

 

「その声は!?」

 

何処かで聞き覚えがあるその声に反応したE2が、ホルダーの退路に立ち塞がり逃げられない様に、注意を払いながら、一旦距離を取って、その壁の上を見上げると、E2の予想通りの人物が立っていた。

 

藍色の異形の怪人オーバー。

 

それが壁の上から聞こえてきた声の正体である。

 

「さあ、お楽しみはこれからだよ!!!」

 

オーバーは声高らかに、そう言い放つと、無造作に幾えもの藍色の小さな球体、暴走プログラムを空き地の地面に投げ放つ。

 

地面に落ちた十数個にも及ぶ暴走プログラムは、急激な変化を始め、さして間を置く事も無く、オーバーと良く似た藍色の異形、俗に呼ばれるホルダーモドキへと変貌する。

 

「またそれか!」

 

E2はホルダーモドキを見て、叫ぶがその原因となったホルダーモドキ達は、そんな事にはお構いなしといった風情で、E2とホルダーの戦いに乱入してくる。

 

「ほらほら、何か言うよりも、身体を動かした方が良いんじゃないの?」

 

オーバーはその様子を、文字通り上から高みの見物とばかりに、笑いながら言う。

 

「この!!!」

 

大変憎らしいが、確かにオーバーの言っている事は、E2にとって正しかった。

 

E2はオーバーの言葉に多少の憤りを覚えながらも、ホルダーに加えて、襲い掛かるホルダーモドキ達にも、ESM02による斬撃をお見舞いする。

 

しかし一対一から多数へと戦局が変化した事により、E2の集中力は分散されてしまう。

 

その結果E2は、一つの大きな失敗を犯してしまう事となった。

 

「しまった!?」

 

連続でホルダーモドキ達に斬撃を浴びせる最中に、背後に気配を感じたE2が、振り向き様に上から斜め横にESM02を牽制として振り斬ったのだが、その斬撃がホルダーの足に絡み付いていたネットを切り裂いてしまったのである。

 

「しゃあああ!」

 

思わぬ偶然の産物で、自身の動きを詐害していたネットから開放されたホルダーは、E2とは反対方向である空き地の出入り口に向き直り、逃走を図る。

 

「逃がすか!」

 

このままでは逃げられてしまうと感じたE2は、走り出す前に、ホルダーを止めようとするが、その前に十数体のホルダーモドキ達が立ち塞がる。

 

「くっ……」

 

完全にホルダーモドキ達に包囲されてしまったE2は、それ以上ホルダーに近づく事が出来なかった。

 

その隙をホルダーが見逃す筈も無く、E2が動けない内に、ホルダーは常軌を逸した速度で、この場から走りだす。

 

そしてホルダーは、走りだしてから数秒もしない間に、E2の視界から、完全に消え失せてしまったのである。

 

「逃げられた!?」

 

[「長谷川君!今は目の前の敵に集中するのよ!」]

 

目の前でホルダー逃亡を許してしまった事に、憤りを覚えるE2に、恵美が冷静に次の指示を送る。

 

確かにホルダーはこの場から逃げ去ってしまったが、E2の前には依然として、多数のホルダーモドキ達が、その猛威を振るおうとしているのだ。

 

「……はい!今は僕に出来る事をやります!!!」

 

E2も現状では、逃げたホルダーにのみ、意識を払っていても仕方が無いと、意識を切り替えて、目の前の敵に集中する。

 

「たあ!」

 

四方八方から襲い掛かるホルダーモドキに対して、E2はESM02を駆使して応戦するが、ホルダーモドキ達の執拗な攻撃は止む事を知らない。

 

[「長谷川君!一気に決めるわよ!!!」]

 

ホルダーモドキ達に果敢に斬撃を喰らわせ続けるE2に、通信機から恵美の声が響く。

 

「一気にって……もしかしてあれをですか!?」

 

通信機から聞こえてきた恵美の声に、E2は驚きの声を上げた。

 

「あれはまだ、実戦で使った事が無いんですけど……」

 

[「大丈夫よ。最終調整はもう終わってるし、長谷川君だって使い方はマニュアルを読んで分かってるでしょ?」]

 

不安そうに言うE2に対して、恵美は自分自身と、それを使うE2に絶対の自信を持っているのか、威風堂々と告げる。

 

「……分かりました。兎に角やってみます!」

 

恵美の自信満々な声に励まされたのか、覚悟を決めたE2は、ホルダーモドキ達の包囲網を強引に突っ切り、マシンドレッサー目掛けて走り出す。

 

多少の攻撃を受けながらも、何とか無事にマシンドレッサーの前にまで辿り着いたE2は、装備していたESM02を手放して、再びマシンドレッサーの格納庫から、新たな装備を取り出した。

 

E2が取り出した装備は、大きな丸い筒状の物体であり、前方部分と思われる方向には、多数の小さな穴が開き、逆に反対方向には、大きめの穴が一箇所だけ開いている。

 

その新装備を取り出したE2は、迷う事無くホルスターから、ESM01を抜き放ち、銃口を筒の後ろの穴に差し込んだ。

 

そうする事で、ESM01はサブマシンガンの状態から、ガトリング式機銃のESM03へとその姿を変える。

 

「ふん!」

 

連結を終えたE2は、すぐにESM03を構えて、ホルダーモドキ達に標準を合わせて引き金を引く。

 

すると引き金を引いた状態のまま、筒の前方部分が高速回転しながら、幾多の白銀の光を纏った弾丸が発射され、その直撃を喰らったホルダーモドキ達に、多大なダメージを与える。

 

「凄い威力だな……」

 

説明としては理解していたが、実際に使ってみた事で、その威力を目の当たりにしたE2は、煙を上げながら身動き出来ないでいるホルダーモドキ達と、自身の手元にあるESM03を何度も見比べながら呟く。

 

[「さあ!本番はここからよ!!!」]

 

「は、はい!!!」

 

其処に通信機から恵美の急かす声が聞こえた事で、正気に戻ったE2は、急いでこれからやるべき作業を開始する。

 

左腰に取り付けたマガジンを取り出したE2は、普段からESM01にするのと同じ様に、グリップの底からセットした。

 

『ブレイクチャージ』

 

そうする事により、機械的な音声響くとESM03の銃口が、黄色い輝きを放ち始める。

 

それを確認したE2は、再度ホルダーモドキ達に標準を合わせて引き金を引く。

 

今度は先程とは違い、黄色い光を放つ幾多の弾丸がESM03から放たれ、その銃撃の嵐をまともに浴びたホルダーモドキ達は、跡形も無く吹き飛んだ。

 

「ははははははは!面白いものを見せてくれてありがとう!」

 

目の前の敵を倒した直後、間髪入れずに空き地の壁の上からオーバーの笑い声がE2の耳に聞こえてきた。

 

その笑い声に反応して、E2は瞬時にESM03の銃口を壁の上に向けるのだが……

 

「……居ない」

 

既にその場所には、オーバーの姿は何処にも見当たら無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスター!先程まで空き地で停止していたホルダー反応が、凄まじい速度で移動を開始したぞ』

 

リミットオフした状態のチェイサーさんに跨り、ホルダーを追跡する俺に対して、既にシードへの変身を完了させた事により、ベルトの形状になっているメカ犬が、現状を報告してくる。

 

「何処に向かってるんだ?」

 

『この並木道は一本道だ。この移動速度から計算すると、後七秒でワタシ達の目の前に現れる筈だ』

 

メカ犬が言った通り、約七秒後に俺達の目の前に、風を巻き上げながら、凄まじい勢いで走ってくるホルダーの姿が見えた。

 

「チェイサーさん!」

 

『任せなさい!』

 

俺の叫びに応える様に、チェイサーさんは、車体を横に反転させて、ホルダーの進行方向を塞ぐ。

 

普通に考えるのであれば、これでホルダーは足を止める筈だが、ホルダーは立ち塞がる俺達の前で、予想外の行動をしたのである。

 

『跳んだ!?』

 

ホルダー予想外の行動にメカ犬が叫ぶ。

 

メカ犬が叫んだ通り、ホルダーは立ち止まるどころか、更に加速した上に、俺達の頭上を大きく跳躍したのだ。

 

「逃がすか!」

 

俺はすぐにチェイサーさんを反転させて、ホルダーを追うが、追い着くよりも先に、並木道を抜けてしまい、ホルダーは、道から外れて森の中へと逃げ込んでしまう。

 

「くそ!?」

 

単純なスピードだけならば、チェイサーさんのドライブモードで追い着けそうだが、森の中に入られてしまうと、バイクであるチェイサーさんでは、その障害物の多さの為、どうしても不利である。

 

「こうなったら、スピードフォルムで追いかけるか……」

 

『どうやらここは、オレッチの出番みたいじゃん!』

 

ホルダーが逃げ込んだ森を見ながら、俺が今後の指針を呟いていると、背後からメカ犬でもチェイサーさんでもない、声が聞こえてきた。

 

振り返って背後の後部座席を見てみると、海鳴警察署で俺が預かった緑の虎が、いつの間にか陣取っていたのである。

 

「……そう言えば、警察署を出てから、ずっと連れていたんだよな」

 

あまりに静かだったので、忘れ去って居たのだが、この緑の虎……まあ、メカ虎は俺が二度に渡り黙らせた後、目を覚ます事も無かったので、取り敢えず囮捜査の時も、連れ歩いていたのだが、どうやら目を覚ました様だ。

 

『酷いじゃんマスター。出会い頭にオレッチを二回も踏み潰すなんてよ!!!』

 

メカ権の侵害だとか、抗議を申し立てるなど、目を覚ましたメカ虎は、前足を上げながら俺の背中を引っ掻き始める。

 

「あの時は悪かったよ。ああでもしないと、恵美さんに何か勘付かれそうだったしさ……それよりもさっき、出番って言っていたけど、どういう意味なんだ?」

 

『おっとそうだった!マスター。素早いホルダーが相手なら、オレッチに任せるのが一番じゃん!!!』

 

メカ虎はそう言って、胸を張ると、メカ竜やメカ海と同じ様に、タッチノートを取り出せと要求してきた。

 

俺はその要求に従い、タッチノートを取り出して、開くとメカ虎が口の部分から赤い光をタッチノートに照射する。

 

そうする事により、タッチノートに、新たな項目が追加された。

 

「ライガーシステム……これがお前、メカ虎のシステムなんだな」

 

『おうさ!マスターの様子を見る限り、オレッチ以外の奴から、詳しい説明はうけてんじゃん?早くしないとホルダーに逃げられちまう』

 

「ああ!」

 

俺はメカ虎の尤もな言葉に頷きながら、新たに加わったライガーシステムを起動させる為に、タッチノートの捜査を始める。

 

『スタンディングモード』

 

『あらよっと!』

 

タッチノートから音声が響くと同時に、メカ虎が掛け声を上げて飛び上がりながら、アタッチメントパーツへと変形して、俺の手の中に納まる。

 

俺はチェイサーさんから降りて、タッチノートをベルトの溝に差し込んでから、ベルトの左側をスライドさせて、アタッチメントパーツとなったメカ虎を差し込む。

 

『ベーシック・ライガー』

 

音声が鳴り響くのと同時に、俺の周囲に、メタルグリーンの装甲が展開されて次々と装着されていく。

 

ガイアやダイバーに比べて、薄いとも言えるその装甲は装着される毎に、何故か俺の身体が軽くなっていくのを感じた。

 

装着が完了してから、自身の全身を確認してみると、装甲の形状は虎を模しているのが一目で分かったのだが、何処か忍者の様なテイストが入っている様にも思える。

 

『ライガーモードは、スピードを極限まで引き上げるじゃん。今のマスターなら、あの足の速いホルダーにだって追い着ける筈じゃん!』

 

「良し!!!」

 

俺はメカ虎の説明に頷きながら、ホルダーを追う為に、森の中へと駆け出す。

 

メカ虎の言う通り、このフォルムはスピードフォルム以上の身軽な動きを可能にした。

 

「凄いなこれ……」

 

最初はその反応速度の速さにに戸惑っていたが、動いている内に感覚が分かってきたので、俺は森の木々を潜り抜けながら、ホルダーの後を全速力で追いかける。

 

『見つけたぞマスター!』

 

メカ犬の声を聞き、前方に目を凝らすと、ついにホルダーの姿を視界に捉えた。

 

『行くじゃん!』

 

「分かってるさ!」

 

更に急かすメカ虎の声に、肯定の返事を返しながら、俺は一気にホルダーとの距離を縮める。

 

「はあ!」

 

ライガーモードで飛躍的に強化された脚力で、俺は前を走り続けるホルダーの上空まで跳躍して不意打ちを喰らわせる。

 

「しゃああ!?」

 

流石にこの森の中を、追い着いてくるとはホルダーも思っていなかったのだろう。

 

不意打ちを受けてホルダーは、驚愕の声を上げながら、自身のスピードを殺しきれずに、地面を転がる。

 

俺はホルダーが倒れている隙に、他のシリーズ同様に、アタッチメントパーツのレバー下に設置されているボタンを押す。

 

『ライガーファング』

 

ベルトから発生した光が両手両足に絡まり、虎の顔を模した形のプロテクターになり、それぞれのプロテクターからは、鋭い三本の刃が伸びる。

 

「行くぜ!」

 

俺はホルダーが体勢を立て直す前に、ライガーファングで連続攻撃を仕掛ける。

 

基本的に戦い方は格闘戦と変わり無いが、ライガーファングのおかげで、実際素手で戦うよりも長いリーチで、ホルダーに攻撃する事が出来るのだ。

 

更にスピードフォルムを大きく上回る身体能力が、ホルダーに反撃の暇を与えるさえ与えない程の、連続攻撃を可能にしている。

 

「悪夢はここで終わらせる!」

 

ホルダーがかなりのダメージを負ったのを見計らい、俺はアタッチメントパーツのレバーを下に倒す。

 

『マックスチャージ』

 

ベルトから稲妻の様な光が発生して、俺の右足へと集約していく。

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺は自分自身の右足にエネルギーが集まるのを確認して、大きく跳躍して身体を反転させる。

 

すると同時に、ホルダーを円状に囲む様にして、四体の分身体が上空で生成されて俺と同じ様に身体を反転させてから、本体である俺と一緒に右足を大きく掲げた。

 

「ライガーチェーンストライク」

 

俺は四体の分身体と共に、右足を踵落としの要領で振り下ろして、ライガーファングの刃でホルダーを切り裂いた。

 

切り裂かれたホルダーは大きな爆発を巻き起こし、その爆発跡には、気絶した二十台後半に見える女性が気絶していた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は囮捜査に協力したという事もあり、事件の詳細を少しだけ、恵美さんから聞く事が出来たのだが、今回の事件でホルダー化していた女性は、先月の頭に性格の不一致から離婚していたのだそうだ。

 

話の本題はここからで、その女性と元旦那の間には、丁度今の俺と同じ位の年齢の子供が居たらしく、その子供の親権が、元旦那に取られそうになっていたらしい。

 

もしかしたら今回の親子連れの父親だけが襲われていたというのは、そういった部分が関係していたのだろうか……

 

「そう言えばメカ虎は、何で海鳴警察署に、落し物として届けられてたんだ?」

 

今回の事件が解決てから数日後、事件のせいですっかり聞きそびれていた話題を、部屋で立体パズルを作成しながら、メカ虎に振ってみる。

 

『それなんだけど……良く覚えて無いんじゃん』

 

『覚えて無い?』

 

『そうじゃん。オレッチが他の奴らと一緒に転送されたまでえは覚えてるんだけどよ……その途中で、何か大きなエネルギーに干渉された感じがして……』

 

『気がついたら警察署に居たという事か?』

 

『そうじゃん!』

 

「大きなエネルギーね……」

 

メカ虎とメカ犬のやり取りを聞きながら俺は自然と呟いていた。

 

メカ犬達の世界の転送技術が、どういった物なのかは、以前に不安定なものだと聞かされていたが、そういった事が起きる可能性が高いものなのだろうか。

 

思い返せばメカ犬を見つけた時も、似た様な状態だった気がする。

 

不安定な状況なら、そういう事が多いとしても、不思議は無いのかも知れない。

 

『……それは変だな』

 

しかしメカ犬は、メカ虎の言葉を聞き、予想外の言葉を口にする。

 

「何がだよ?」

 

『……まだ何も確証は無いからな。変に不安を煽る言葉を、口にする事も無いだろう』

 

俺が質問するとメカ犬は、そう言って部屋を出て行ってしまった。

 

「一体何なんだ……」

 

『さあ?』

 

メカ犬が出て行った部屋の扉を見ながら、俺とメカ虎は同時に首を捻らせて、頭上に疑問符を浮かべた。

 

 

 

 

今日の海鳴は、少し気になる事が増えた一日でもあるが、概ね平和である。


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