魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第27話 駆け抜けるは獣の如く【前編】

「どうだいメルト。研究は進んでる?」

 

様々な機材が持ち込まれ、元々の内装とはかけ離れてしまっている廃ビルの一室で、藍色の怪人、オーバーが、この部屋の原型を留めぬ程に改造して、研究に没頭する張本人である灰色の怪人、メルトに話しかける。

 

「オーバーか。そうだな……もうすぐだ……前回の実験で、世界を融合一時的に融合させる事には成功した。ならば次は……」

 

相変わらず強弱の無い平坦な声で喋り続けるメルトだが、普段から同じ時間を過ごす事の多い、オーバーから見れば、今日のメルトはいつもよりも、饒舌だと思えた。

 

それはメルトの研究が、完成に近づいているのだという事実を実感させる。

 

「まあ、無理せず頑張ってよ……」

 

このまま居ても、メルトの研究の妨げにしかならないと判断したオーバーは、再び研究に没頭するメルトに踵を返して、この場から立ち去る事にした。

 

部屋を出て、人気の無い廃墟と化した廊下を歩きながら、オーバーは呟く。

 

「本当に頑張ってよメルト……道が開けば僕達の計画は、大きく前に進む事になるんだからさ……」

 

この人気の無い廃墟と化したビルで、オーバーの呟きは、誰に聞こえる事も無く、静寂の中へと掻き消されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはまだ肌寒さを感じる冬の、昼過ぎの出来事だった。

 

美由希さんの受験も無事に終わり、翠屋での労働力に、余裕が出て来たので、今までは基本的にアルバイトに出ていた休日が、今日は本当の意味での休日となったのだ。

 

他に約束もしていなかった事もあり、久しぶりに、何も予定の無い一日を手に入れた俺は、この一日を有意義に過ごそうと思い、取り敢えず途中で作るのが遅れていた、立体型ジグソーパズルの完成に着手しようと、部屋の棚に閉まっていたパズルの入った箱を、取り出したところまでは良かったのだが……

 

『マスターに、電話だぞ』

 

いざ作り始めようとしたところで、メカ犬が電話の子機を背中に乗せて、俺の部屋にやって来た。

 

「ん、誰からだよ?」

 

この時間帯だと、友達の可能性が一番高いが、恵理さんの無茶な依頼という可能性も否定できないので、注意が必要だ。

 

今日は折角の休日なのである。

 

もしもこの電話の相手が恵理さんであれば、メカ犬には居ないと言ってもらうとしよう。

 

ホルダー絡みの事だったとしたら、メカ犬がこんなにのんびりとした対応はしないだろうし、俺の考え過ぎだとは思うのだが、念には念を入れておいた方が何かと安心だ。

 

『電話の相手なのだがな……』

 

そして俺はメカ犬の口から、その電話の主の名前を聞く事になる。

 

『長谷川殿からだ』

 

「長谷川さん?」

 

予想外の人物の名前が挙がったので、俺は思わず鸚鵡返しに、聞き返してしまう。

 

確かに俺と長谷川さんは、面識もあるし、今では仮面ライダーとして、一緒に戦っているという事も含めて、仲間意識も存在するのだが、それは俺の一方的な認識であり、長谷川さんは、シードの正体が俺だという事を知らないので、俺は近隣の小学校に通う、子供ぐらいにしか、思っていない筈である。

 

「一体何の用事があるっていうんだろうな?」

 

シードとE2としてならばまだしも、その中身である板橋純と長谷川啓太としての接点は、顔見知りレベルである為、個人的な用事があるとは、どうしても考えつかない。

 

『取り敢えず話を聞いてみたらどうだ?』

 

「……そうだな」

 

メカ犬の言う通り、考えていても答えは出そうに無いし、風間姉妹と違って、長谷川さんならば、無茶な事も言わないだろう。

 

そう考えた俺は、メカ犬が背中に乗せていた、家の電話の子機を受け取り、保留状態を解除して、電話に出た。

 

「もしもし、板橋です」

 

[「ああ!板橋君。ごめんよ。休日に電話を掛けたりして」]

 

俺が電話に出ると、その電話越しから、確かに長谷川さんの声が聞こえてきた。

 

「いえ、それは大丈夫何ですけど、長谷川さんが、俺に電話をして来るなんて、初めての事だったので驚きました」

 

[「はは……それも含めてごめんよ。実は板橋君に協力して貰いたい事があるんだ」]

 

「協力ですか?」

 

[「うん。詳しい話は電話ですると、少し不都合があるから、出来れば海鳴警察署に来てほしいんだけど、これから来てもらっても大丈夫かな」]

 

「……取り敢えず話しを聞くだけでしたら、それでも大丈夫ですけど」

 

[「良かった。署に着いたら受付で、名前とホルダー特務課を言えば、通して貰える筈だから」]

 

「はい。分かりました」

 

[「それじゃあ、また後で」]

 

長谷川さんはその台詞を最後に、電話を切った様で、既に子機のスピーカーからは、先程まで聞こえていた長谷川の声に代わり、通話状態以外に流れる、独特の電子音が流れていた。

 

「……ふう」

 

俺は軽く息を吐きながら、子機の通話状態を解除して、メカ犬の背中に再び戻す。

 

『これから出かけるのか?』

 

長谷川さんとの会話を聞いていたのであろう、メカ犬が俺に質問を投げかける。

 

「ああ……何の話か分からないけど、俺に協力してもらいたい事があるんだってさ」

 

『協力?』

 

「警察に出向く時点で、何か怪しい気もするけど、取り敢えず行ってくるな」

 

別に長谷川さんを疑う訳ではないのだが、刑事が一般人、しかも一時的に同じ職場で、仕事をしたとは言え、実質は顔見知り程度の俺を、警察署に呼んでまで話したいというのは、普通では有り得ない話だと思う。

 

先程もメカ犬に言ったが、明らかに怪しい……

 

それでも俺が行こうと思ったのは、長谷川さんには何度も助けてもらっている借りがあったからに、他ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これは、どういう事なんですか?」

 

海鳴警察署に行き、長谷川さんに言われた通り、名前と部署を受付の婦警さんに告げると、すんなりと案内してもらう事が出来た俺は、現在、ホルダー対策特務課と書かれたプレートが付けられている部屋の扉を開けた訳なのだが、部屋の中に居る人物を見て、俺は思わず声を上げてしまった。

 

この部屋に居たのは、俺を呼び寄せた張本人でもある、長谷川さんと、その直接の上司である恵美さん。

 

ここまでは別に構わない。

 

俺の予想の範囲内の出来事だ。

 

しかしこの場には、もう一人……俺の予想を超えた存在が……カウント数を一人として良いのだろうか?

 

兎に角、存在していたのである。

 

『あ!あんたがオレッチのぶきゅう!?』

 

俺はその存在に何かを言われる前に、踏み潰して、その軽そうな口を回らない様にする。

 

その存在は、手のひらサイズの大きさをしており、メタルグリーンのボディーが輝く身体を持った、一言で例えるとするのであれば機械仕掛けの虎という表現が、一番分かりやすいかも知れない。

 

その存在は、俺の予想が正しければ、以前メカ竜から聞いた内の一体で間違い無い筈だ……

 

「ど、どうしたんだい!?」

 

部屋に入った直後に俺が行った行動に驚いたのか、長谷川さんが慌てて止めに入ってくる。

 

「あ、す、すいません。急に取り乱してしまって……」

 

俺は長谷川さんに、出来るだけ笑顔で対応しながらも、踏み潰していた緑の虎を、余計な事を喋らせない様に注意しながら、片手で持ち上げた。

 

「そのオモチャというには、疑わしい位に高性能に見える、それって板橋君の家に居るメカ犬と同じメーカーの試作品なんですってね?」

 

俺と長谷川さんのやり取りをしている最中、恵美さんの声に反応して、俺が視線を向けると、恵美さんがこれでもかと言わんばかりの、疑いの眼差しで、俺と、その手の中で沈黙している緑の虎を凝視していた。

 

「え、ええ……まあ」

 

どんな経緯で、そんな話に行き着いたのかは知らないが、ここは話を合わせておいた方が、得策だと思い、俺は恵美さんに愛想笑いを浮かべるのだが、恵美さんの疑惑の眼差しは、少しも衰えるという事を知らない。

 

「怪しい……やっぱりどう考えても怪しいわ……」

 

「まだ、そんな事を言ってるんですか?」

 

恐ろしい呪詛を唱えるかの様に、俺を見ながら呟き続ける恵美さんに、長谷川さんが、溜息を吐きながら両肩を軽く落として、苦笑いした。

 

「えっと……恵美さんは、一体どうしたんですか?」

 

このままでは俺も状況がイマイチ理解出来ないので、この場で最も話を聞けそうな、長谷川さんにそれとなく話を振ってみる事にした。

 

「うん。実は昨日の話なんだけどね。今板橋君が持っているそのオモチャが、落し物として、署に届けられたんだけど、その受け渡しを、恵美さんが偶然見つけたんだよ」

 

「はあ……」

 

「それで何か分からないけど、研究魂に火が着いたらしくて、開発ラボに持ち帰って、分解しようとしたらしいんだ」

 

落し物を勝手に持ち出して分解するとか、やる事が相変わらず凄まじい人だとは思うが、俺は恵美さんがというよりも、風間姉妹が一度走り出すと止まる事を知らない暴走特急だという事を、嫌という程に理解しているので、今更その辺りに、突っ込みを入れ様とは思わない。

 

心なしか、長谷川さんが、ラボで分解と発言した辺りで、俺の手の中で沈黙し続けている緑の虎が、小刻みに震えた様な気もするが、気にするのは後にしておこう。

 

「それで分解作業を始めようとしたら、起動させてしまったらしくてね。板橋君の名前を呼んでいたから、何か知ってるんじゃ無いかと思って、呼んだんだよ」

 

「そうなんですか。でも、それなら態々呼び出さなくても、電話で話してくれれば良かったんじゃ……」

 

俺と長谷川さんが、会話をしていると、急に恵美さんが、勢い良く立ち上がった。

 

「それは私が説明するわ!」

 

先程まで一人で、呪詛を唱え続けていた恵美さんは、勢い良く立ち上がると、高々に宣言し始める。

 

「その虎にも、個人的に凄く興味があるけど、今回はただのついでよ。本題はここから……板橋純君!!!君に捜査協力を、正式にお願いするわ!!!」

 

「はい!?」

 

俺に向けて指差す恵美さんの、何故か自信に満ち溢れた笑顔を見ながら、俺は思わず驚きの声を上げた。

 

小学生に何を言っているのだろうかと、思わないでもないが、恵美さん自身も本来ならば中学生で、外部からの協力者だというし、この部署そのものが、かなりの異端なのだという事は、一時的にデンライナー署が設立された前例から、何処となく察しがつくが、それにしても突然である。

 

そこで俺を呼び出した張本人でもある、長谷川さんに、視線を向けると、後頭部を右手で掻きながら、苦笑いをしつつ、俺にごめんねと、謝罪の言葉を言ってきた。

 

どうやら俺は、恵美さんに嵌められたらしい……

 

今にして思えば、電話の後に感じた嫌な予感とは、珍しく神様が俺に手を差し伸べようとしてくれた虫の知らせだったのではないかと考えてしまう。

 

『酷いぜマスびみゅう!?』

 

俺がここまでの話の流れを多少は理解したところで、先程まで俺の手の中で、沈黙を守っていた緑の虎が、再び喋りだしたので、俺は取り敢えず黙らせておく事にした。

 

第一この緑の虎が、この場所に居るという時点で、色々と不都合が多い。

 

特に恵美さんは、今でもメカ犬に疑念を抱いている人物の代表格だ。

 

メカ犬の話術ならば、切り抜けられるだろうが、俺がこの部屋に入った時の、様子を見る限り、恵美さんの疑いの視線は、今までで、最高潮な状態へと昇華していた。

 

現状では唯一ストッパーとなれるメカ犬も、事情を知っていて、上手くフォローに回ってくれる恵理さんも、居ないと言うのに、これ以上この緑の虎を迂闊に喋らせておく訳には行かないのである。

 

「取り敢えずこれは、俺が預かりますんで……それで、俺に捜査依頼って、何をすれば良いんですか?」

 

兎に角俺は、何かボロを出さない内に一秒でも早く、この場を緑の虎を連れて立ち去りたかったので、話を進める為に、恵美さんに質問する事で話を促す。

 

「長谷川君に聞いたんだけど、君って前にも警察で捜査協力をしていたのよね?」

 

「え、ええ……まあ、そうですけど」

 

「その実績を見込んで、今回は囮捜査に協力してもらうわ!」

 

恵美さんの中では、既に決定事項なのだろう。

 

その自信に満ちた顔からは、俺が断るという可能性があるとは微塵も考えていない様に思えた。

 

しかしそれ以前に、気になる事がある。

 

「……あの、囮捜査って何をするんですか?」

 

それは一体俺に何をさせ様としているのかという、人として誰もが疑問に思う事であり、誰かにお願いがあると言われれば、大抵はその内容を確認するものだろう。

 

だが俺はこの時、選択肢を間違えたと、本能的に悟った。

 

会話をしていたのが普通の感性の持ち主であれば何も問題は無いのである。

 

しかし……今、俺が会話をしているのは、あの恵美さんなのだ。

 

少なくても何も聞かずに、無理ですと言って、この場を逃げれば、まだ少しは違った未来を手にする事が出来たかもしれない。

 

せめて長谷川さんに質問をしていれば、心に余裕も持てていた……

 

しかしそれに俺が気付いた時には、既に手遅れだったのだ……

 

恵美さんは、獲物を狩る獣の様な瞳を俺に向けて、放っている。

 

強者と弱者、狩る者と狩られる者……

 

今この署内の一室で、弱肉強食という自然界の厳しい掟が、刹那的に展開される。

 

だが、俺もただ黙って狩られるだけの、子羊ではないのだ。

 

「き、急用を思い出したんで、俺はこれで失礼しますね!!!」

 

俺は一縷の望みを託して、早口で捲くし立てながら、この部屋の唯一の出入り口である扉に向かって走り出すが……

 

「良くぞ聞いてくれたわ!!!」

 

自分にとって都合の良い部分だけは、はっきりと聞こえていたのだろう。

 

恵美さんの手が、俺の肩を掴み、最後の悪足掻きは、失敗に終わり……俺という哀れな子羊は、恵美さんという獰猛な獣に、無残に狩られたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はあ」

 

夕方の並木道を歩きながら、俺は大きな溜息を吐いた。

 

「ごめんね。板橋君」

 

そしてその隣には、普段のフォーマルなスーツ姿ではなく、カジュアルな私服に身を包んだ長谷川さんが、俺の溜息を見る度に、律儀に謝罪を口にする。

 

「……別に気にしてないんで、大丈夫ですよ。それよりも、今は囮捜査の途中なんですから、しっかり演技しましょう……父さん」

 

俺と長谷川さんが、現在この並木道を歩いているのは、昼過ぎに署に呼び出されて、説明された囮捜査を実行している最中だからだ。

 

事件の始まりは、今から五日前にまで遡る。

 

何でも、小学生程の息子を連れた父親が、連続して何者かに襲われるという事件が、多発しているそうなのだ。

 

不幸中の幸いとでも言うべきか、被害者は全て父親の方で、今の所、その襲われた人達も、怪我をして入院しているが、命に別状は無いらしい。

 

ここまで聞くと、ただの通り魔の犯行にも思えるが、それは被害者の証言で、普通の事件とは、逸脱したものだという事が理解出来た。

 

被害者は声を揃えて言っていたのである。

 

【目に見えない速さで動く何者かに跳ね飛ばされた】のだと……

 

最初は自転車やバイクという可能性も考慮に入っていたが、一緒に居た子供達の証言からも、事件直後に自転車やバイクが近くを走っていなかったとあり、実際に現場検証した結果からも、そういったタイヤの跡は検出されなかった。

 

だがその代わりに、奇妙な痕跡が発見されたのだそうだ。

 

それはまるで、巨大な爬虫類の足跡だったという……

 

しかもその足跡は、驚くべき事に、アスファルトの上に、大きな摩擦で焦げた様な状態で残っていたのだそうだ。

 

この事から、犯行を行った犯人は、普通の人間では無い可能性が高いと判断され、ホルダー特務課に事件が回ってきたらしい。

 

そして事件を早期に解決するのならば、襲われているのが親子連れの父親という事から、思い切って囮調査に踏み込もうと、恵美さんが決定したのである。

 

……ここまで言えば、分かってもらえると思うのだが、その囮捜査の子供役に選ばれたのが、俺だった訳だ。

 

普通ならば、そんな危険な目に遭うかもしれない囮捜査に、子供を使うなんて有り得ない話だが、このまま放っておけば、いずれ新たな被害者が出るのは必然なのである。

 

しかも確定ではないとはいえ、ホルダーが関係しているかもしれないとなれば、俺としても全くの無関係ではない。

 

その事から、俺は結局この囮捜査への協力を承諾したのだが、その俺の決断に驚いたのが、現在、隣を歩いている長谷川さんだった。

 

恵美さんが無茶な事を言ってくるのは、いつもの事だという認識を、長谷川さんも持っていた様だが、その無茶な要求を俺が承諾するとは、思っていなかった様なのである。

 

まあ、常識的に考えれば、それが正しいとは思うし、俺自身、最初の頃と比べれば戦いに慣れたとはいえ、やっぱり自分から危険に飛び込むのは今でも怖い。

 

でも最近は、俺の戦う理由に、少しずつ変化が出てきた。

 

メカ犬と出会って、訳の分からない内に、戦いに巻き込まれて、がむしゃらにやってきたが、最近は良く思うのである。

 

俺とメカ犬が出会ったのは、偶然じゃなくて、何か意味があったんじゃないだろうか。

 

デンライナーが突如として来訪したのを皮切りに、オーバーとメルトの出現。

 

更に実験と称して、別の世界を融合させて、一時的にだが、Wと同じ世界になった……

 

思えばこの世界で、今起こっている不可思議な現象は、俺の前世の記憶で知っている仮面ライダーと密接に関わっている様に思えてならない。

 

もしも仮に、何か大きな意思が、俺を選んだとしたのならば、一体何の為に?

 

その大きな意思は、俺に何をさせようとしているのだろうか。

 

今はただ、大切な人達を守りたいから、俺は戦い続けている。

 

だけど近い未来に、それだけではいけない、大切な選択の時が来る様な……

 

『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウケイホウ……』

 

そんな事を考えていたからなのだろうか。

 

ポケットの中に忍ばせたタッチノートが、警告音を響かせる。

 

「長谷川さん!!!」

 

「うわ!?」

 

俺は咄嗟の判断で、長谷川さんの腰に体当たりして、その場から押し倒す。

 

その直後、自動車でも通り過ぎた様な突風が、俺達の背中を襲う。

 

急いで後ろを振り向けば、焼け焦げたアスファルトに、焦げ臭い空気が周囲に漂っている。

 

「板橋君はここに居て!」

 

現状を確認した長谷川さんは、俺にそう言うと、腕に付けたEブレスを操作して、白と黒の大型バイク、マシンドレッサーを呼び出して、急いで跨ると、風が通り抜けた方向に走り去っていく。

 

「俺も後を追わなくちゃな……」

 

マシンドレッサーで走り去る長谷川さんを視線に捉えながら、俺はタッチノートを取り出して、操作を始めた。


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