魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
二月十四日。
この日は、世界で多くの恋人が誕生する記念日。
所謂セントバレンタインデーだ。
日本でこの言葉が一般的に使われ出したのは、歴史的にみて最近の話しであるが、その起源は意外と古いもので、一説には、269年のローマ皇帝の時代まで遡ると言われている。
ただ、国によって風習などかなり異なるので、今も明確な答えは出ていないのだとか……
その中でも日本は独特の風習で、他の国とは違い、女性が好きな男性にチョコを贈るのが、慣わしとなっていたりする。
その一ヶ月後に、女性からチョコを貰った男性が、お返しをするホワイトデーという日は、日本だけの変わった風習だ。
日本では一部の人が某菓子メーカーの陰謀だなどと言う言葉を耳にした事があるが、正確にはバレンタインデーでは無く後から独自に日本だけで設けられたホワイトデーこそが、その最たる存在なのではないかと、個人的に推測する。
まあ、日本人の場合は、ハロウィンや、クリスマスと言った様に、本来の宗教的な意味合いを、度外視して、基本的に楽しむ為の行事だと、捉えている人達が殆どかもしれない。
それはこの海鳴市内に住む住人達にも言える事で、この二月十四日という特別な日が近づくにつれて、多くの女性は当日の準備に追われ、それ以上に多くの男性は、何処か落ち着かない様子を見せ始める。
しかしそれは毎年恒例の、出来事であり、俺にとっては精々母さんと、お隣さんのなのはちゃんから、義理チョコを貰うぐらいの行事に過ぎなかったので、特に意識する事は無かった。
まあ、小学生になってから、急激に知り合いが増えたという事もあり、多少は義理チョコの貰える個数が増えるかもしれないと、暢気な事を思ったりもしたが……
まさか今年のバレンタインが、あんな事態になるなんて、俺は夢にも思っていなかった。
【この文章は、二月十四日の板橋純の日記の一部を抜粋したものである】
『マスター後ろだ!!!』
「分かってる!!!」
メカ犬の声に呼応する様に、俺は後ろに回し蹴りを繰り出す。
その一撃を受けて、俺の後ろに居たホルダーモドキが、勢い良く吹き飛ぶ。
俺はそれを確認した後に、既に両脇から、新たに肉薄する敵に、拳を振るう。
『敵の数が多い!戦い方を変えるぞマスター!!!』
「ああ!」
目の前に迫り来るホルダーモドキの一撃を避けてから、俺は一旦バックステップで、ホルダーモドキ達の包囲網抜けつつ、ベルトの右側をスライドさせて、緑色と黄色のボタンを押す。
『スピードフォルム』
『スピードロッド』
メタルブラックのボディーは、ライトグリーンに染まり、俺の右手には、ベルトから発生した光が、専用武器であるスピードロッドが生成される。
「行くぜメカ犬!」
『うむ!』
フォルムチェンジを終えた俺は、スピードロッドを構えて、ホルダーモドキの群れの中に、特攻を仕掛ける。
スピードロッドを縦横無尽に振り回しながら、俺はホルダーモドキ達を薙ぎ倒していく。
「しかし、今日は大量だな。ホルダー主催のパーティー会場でも近くにあるのか!?」
『言い得て妙ではあるが、それは無いだろう。しかし何かしらの意図はある筈だ』
俺は戦いながらも、メカ犬とこの状況を軽い冗談を交えつつ、考察する。
いつもの様に、タッチノートがホルダー反応を感知して、メカ犬と合流した俺は、急いで現場である、ビジネス街の中にあるビルの建設現場に向かった訳だが、到着した途端に、大量のホルダーモドキ達が、何処からか沸いて出て来たのだ。
「なあ、メカ犬。これって、やっぱり……」
『うむ。普通に考えれば、ワタシ達を誘き寄せる罠だと考えるのが、妥当だろうな』
俺とメカ犬の考えが一致したところで、建設途中のビルの上から、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「正解だよ」
その声のする方に振り向くと、藍色の怪人、オーバーが軽く手を叩きながら、俺達を見ていた。
『一体どういうつもりだオーバー!?』
メカ犬の叫びが、建設現場の中で鳴り響く。
「君達がさっき自分で言っていたでしょ?これは君達を誘き寄せる為の餌だよ」
「どういう事だ?」
「ふふ。別にどうって事は無いさ。ただちょっとした実験に協力してもらいたくて、君達を呼んだんだ」
オーバーはそう言うと、右手の親指と人差し指を弾かせて、音を鳴らす。
それが合図となっていたのか、オーバーの頭上の鉄骨から、新たな異形の存在が姿を現して、俺の居る近くの地面に飛び降りた。
「ホルダー?」
異形の存在は間違い無くホルダーだった。
見た目は、何だか箱状で、プレゼント用の、可愛らしいピンクのリボンにしか見えない装飾が、あしらわれていたりと、中々に奇抜な格好では、あるが確かにホルダーである。
『何なのだそのホルダーは?』
「正直僕も困ってるんだよね。道端で適当な人間をホルダーにしてみたんだけど、この子の能力が何なのか、さっぱり分からなくてさ」
オーバーはそう言うと、自らの肩を竦めて見せた。
「もしかして、このホルダーの能力が分からないから、俺と戦わせてみようとして、ここに俺達を誘い出したのか?」
「まあ、そういう事だね」
俺の投げかけた質問に、オーバーはあっさりと肯定した。
正直なところ、ふざけるなと叫んでやりたいが、既に話し合いの時間は終わっている様で、例のホルダーが、こちらに突進して来るのが見える。
『来るぞマスター!』
「ああ!」
俺はスピードロッドを身構えて、ホルダーの攻撃に備えるが、ここで予想外の出来事が起こった。
「ふぎゃ!?」
俺の眼前まで迫っ来たホルダーが、何の前触れも無く、盛大に転倒したのである。
その予想外の事態に、敵味方関係無く、この場に居た全員の視線が、転倒したホルダーに集中した。
「あ~いたた……転んじゃったよ。お~マジで痛いわこりゃ……」
何かブツブツと呟きながら立ち上がったホルダーは、身体に付いた砂埃を掃い終わると、再び俺の居る方向に向き直る。
「がああああああ!!!!!」
「やかましいわ!!!!!!」
わざとらしい叫びを上げて突進してくるホルダーに、俺は思わず突っ込みの声を上げながら、ホルダーの脳天に、スピードロッドの一撃を叩き込んだ。
「うをおおおおおお!!!いてえ!?マジでいてえよこれ!?」
それに対してホルダーは、スピードロッドによる一撃を喰らった頭を押さえながら、痛みに悶え苦しんでいる。
その反応を一瞥した後、俺はどういう事なのかと、建設中のビルの上に居るオーバーに、説明を求めようと視線を向けるが、どうやらこの状況は、首謀者であるオーバーも予想していなかったらしく、失敗作だったのかな、などと呟いていた。
「よくも俺を怒らせたな!!!!こうなったら俺の奥の手を見せてやる!!!」
ここまでの一連の流れにより、先程までの戦いの緊張感が、敵味方の双方、著しく削られたこの場で、その空気を作った張本人であるホルダーが雄たけびを上げる。
「喰らええええええええええええええええいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」
そう叫びながらホルダーが、両手を前に突き出すと、何やらピンク色のハート型の光が発射される。
『危ないマスター!!!!』
「え!?」
俺はその時、このグダグダ感が漂う空気の中で居た為に、メカ犬の声に一瞬だが反応が遅れてしまった。
気付いた時には、既にホルダーの放った光を避ける事は不可能な距離まで迫っており、俺は成す術無く、その一撃を受けてしまう。
「うわあああああああああああああああああ……あ、あれ?」
ホルダーの一撃を確かに受けたのだが、俺の身体には、何一つ異常が見受けられなかった。
試しに各関節を動かしてみたり、軽い柔軟をしてみたりと、確認作業をしてみるが、何処にも問題は無さそうである。
一通りの確認を終えて、俺がホルダーに向き直ると……
「失礼しましたああああああああ!!!!!!!」
と叫びながら脱兎の如く、その場から走り出してしまった。
本来ならば絶対に逃がすべきでは無いのだが、俺は呆気に取られてしまい、追いかける事すら忘れて、逃げるホルダーをただ見送る事しか出来なかった。
「……今のは、何の意味があったんだろうな?」
『……分からん』
その後、数秒間の沈黙が、この場を支配するが、その空気をある一人の勇気ある人物が打破してくれた。
少し離れた距離から聞こえて来るサイレンの音。
更にこちらに近付いて来るにつれて、共に聞こえて来るエンジン音が、この静寂に終焉をもたらしてくれたのである。
「遅くなってすいません!」
その二つの音を放っていた正体、マシンドレッサーから舞い降りた、この街のもう一人の仮面ライダーである、E2が、俺の近くへとやって来た。
「……ふ、ふん。どうも邪魔が入ったみたいだけど、これで面白くなってきたかな」
ここで先程までの空気を、一新しようと考えたのだろう。
いつもより多少、演劇くさい口調で、オーバーがそう言うと、俺達の周囲に居たホルダーモドキ達が、一斉に襲い掛かって来る。
「行くぞ!」
「はい!」
俺とE2はそのまま二手に分かれて、其々襲い掛かって来るホルダーモドキ達と、戦闘を開始する。
『マスター。メカ竜を呼んで一気に決めるぞ!』
「OK!!!」
メカ犬の判断に、俺は頷きながら、ベルトからタッチノートを取り出して、操作を始めた。
『ガイア・コール』
タッチノートから音声が鳴り響いた後、鉄骨の上からメタルレッドのボディーを持つ手乗り恐竜である、メカ竜が飛び降りて来た。
『お待たせしました!マスター!』
『頼むぞメカ竜』
『はい!任せてください先輩!!!』
メカーズの二人が話している間に、俺は一旦スピードロッドを地面に突き刺して、タッチノートの操作を続けていく。
『スタンディングモード』
メカ竜はタッチノートから流れる音声と同時に、アタッチメントパーツに変形して、俺の左手の中に納まる。
俺はタッチノートを、再びベルトに差し込んでから、続いてベルトの左側をスライドさせて、アタッチメントパーツとなったメカ竜を差し込む。
『スピード・ガイア』
すると俺の周囲に展開したメタルレッドの装甲が、次々と全身に装着されていき、新たな姿へと進化する。
ガイアモードへの変身を無事に完了させた俺は、アタッチメントパーツのレバー下のボタンを押して、この姿の時にだけ扱う事が出来る武器を生成する。
『ガイアブレイガン』
ガイアブレイガンが生成された事を確認した俺は、続いて地面に突き刺していたスピードロッドを引き抜いて、ガイアブレイガンを、スピードロッドの溝部分に差し込んだ。
『ジョイントアップ・ガイアロッド』
そうする事により、スピードロッドに、メタルレッドの新たなパーツが追加されて、更に強力な武器、ガイアロッドに生まれ変わる。
「はあ!!!」
ガイアロッドを生成した俺は、その武器の威力を存分に発揮して、周囲のホルダーモドキ達に攻撃を加えていく。
『そろそろ決めましょうマスター!』
「そうだな!」
俺はガイアロッドを振り回しながら、メカ竜の提案に頷いた。
周囲を見渡せば、都合の良い事に、ホルダーモドキ達が俺を中心に囲む様にして、歪な円を描いている。
確かにこの位置取りならば、一気に決めるチャンスだ。
俺は今の状況を確認しつつ、ベルトの左側に取り付けたアタッチメントパーツのレバーを勢い良く引いた。
『マックスチャージ』
そうする事で、ベルトから発生した光は、右腕のラインを通じて、ガイアロッドへと集約される。
「こいつで決めるぜ」
重心を低く身構えた俺は、下半身全体に、力を込めてから、全力で光輝くガイアロッドを振り回す。
「ガイアツイスター」
俺を軸として、振り回したガイアロッドから巨大な竜巻が発生して、俺を取り囲んでいたホルダーモドキ達はその暴風に巻き込まれ、内部で真空の刃に刻まれながら、連鎖的に爆発を巻き起こす。
自分の周囲に居たホルダーモドキ達を倒し終えた俺が、E2の方に視線を向けると、向こう側も殆ど倒し終えたのか、俺の居る方向に走って来る姿が見えた。
「あ~あ。今日は大失敗だね」
ずっと鉄骨の上から高みの見物をしていたオーバーは、そう言いながら、溜息を一つ零した後、追いかける間も無く、何処かに飛び去ってしまった。
「……帰るか」
『……うむ』
何か途中が凄いグダグダになってしまったが、無事に戦いを終えた俺達は、そのまま帰路に着くことにした。
その日は二月十三日の夜。
バレンタインデー当日まで、残り、数時間を切った時間帯に起こった事件だったのだが、この事件がまだ終わっていなかった事に俺が気付くのは、翌日のバレンタインデー当日の事だった……
「いってきます」
バレンタインデー当日の朝。
俺は普段通り家を出て、お隣のなのはちゃんの家に向かった。
普段と違うところをあえて挙げるのであれば、朝起きた時に、母さんからバレンタインチョコを手渡されたぐらいだが、毎年の事なので、あまり気にもならなかった。
そんな事を考えている間に、俺は高町家の庭先へと、足を踏み入れる。
流石にお隣さんというだけあって、子供の足でも十歩程で着いてしまうという近さだ。
「ごめんください」
俺がいつもの通りに、玄関でインターホンを押すと、桃子さんが出迎えてくれた。
お互いに朝の挨拶を済ませてから、なのはちゃんの所在を聞くと、どうやらまだ寝ているらしい。
小学校に入学してから、登校日の殆どの朝は、この会話を高町家でなのはちゃん以外の誰かと繰り返している気がするが、それも既に日常茶飯事なので、俺はその桃子さんに、俺が起こしてきますと言って、二階のなのはちゃんの部屋に向かう事にした。
「なのはちゃん。朝だよ。早く起きないと遅刻するよ」
朝の第一フェイズ。
部屋の扉を叩きながら、なのはちゃんに呼びかけてみる。
比較的に目覚めつつある時は、この後返事が返って来て、顔を見せて来るのだが、その確率は高くても30%といったところだろう。
案の定、今日もそれで返事が返って来る様子は無かった。
こうなると作戦は、第二フェイズへと移行する。
「入るよ。なのはちゃん」
第二の作戦は、部屋に潜入しての強行手段だ。
部屋の外から呼んでも聞こえないというのであれば、直接訴えかける以外、道は残されていない。
俺が部屋に入り、その部屋の家主が居るであろう、ベッドの上に視線を向けると、予想通り、なのはちゃんが毛布を被り、幸せそうな寝顔をしていた。
冬の朝のベッドの中は、さぞかし居心地が良いのだろう。
その気持ちは、少なからず分かるのだが、だからと言って、このまま放って置く訳にも行かないので、俺は気持ち良さそうに寝息をたてる、なのはちゃんの肩を軽く揺らしながら、再び起きる様に呼びかける。
「ほら。朝だよなのはちゃん。そろそろ起きないと、遅刻するよ!」
「……う~ん?」
すると今日は、寝覚めが良い方なのか、以外とすぐに反応が返ってきた。
これが酷い時は、数分は目覚めないままだし、更に酷い時などは、使い古された漫画の様に、寝言で後五分と言ってきたりもするのだから、困ったものである。
「おはよう……純君」
まだ完全には目が覚めていないのか、なのはちゃんは、目をての甲で擦りながら、俺に朝の挨拶をしてきた。
「おはようなのはちゃん。起きたなら早く着替えて下に着てね。リビングで待ってるから」
まだ寝ぼけているみたいだが、この程度ならば心配無いだろうと、俺は判断して、部屋を出る為になのはちゃんに背中を向けて部屋を出ようとすると、
「あ!ちょっと待って。純君に渡したい物があるの」
なのはちゃんから、待ったの声が掛かり、俺はその場で足を止めた。
何か後ろで物音が聞こえるので振り向くと、なのはちゃんが、赤いリボンでラッピングされたハート型の箱を手に持って立っていた。
「はい!純君に、バレンタインデーのチョコだよ!」
なのはちゃんは、笑顔でそう言うと、ハート型の箱を俺に手渡してくれた。
「ありがとう。なのはちゃん。後でゆっくり食べるね」
「うん!……あ、あれ?」
幼稚園時代から続く恒例行事を終えたところで、今度こそ部屋を出ようとしたのだが、俺はそこである異変に気付く。
「だ、大丈夫!?なのはちゃん!?」
何やらなのはちゃんの顔全体が赤くなっているのだ。
しかも、目を潤ませて、何処か足取りも不安定になっている様な気がしたので、季節が冬という事もあり、風邪でも引いたのでは無いかと思った俺は、なのはちゃんが倒れない様にする為に、肩の下から腕を通して、支えたのだが、次の瞬間に、なのはちゃんが、とんでもない行動を開始したのである。
「……純君。大好きだよ」
「はい!?」
その言動に、虚を突かれたのが、大きな敗因だろうか。
俺はバランスを崩して、先程までなのはちゃんが寝ていたベッドに、訳が分からない内に、仰向けに倒されてしまった。
「……な、なのはちゃん!?」
更に仰向けに倒れた俺に、覆いかぶさる様に、なのはちゃんが、馬乗りになって、完全なマウントポジションを形成する。
「大好きだよ……純君」
顔を赤くしながらも、なのはちゃんは俺を見詰めながら、まるで呪詛の様に、何度も同じ言葉を繰り返す。
突然の事態に、何がどうなっているのか、混乱している俺に、なのはちゃんが、顔を近付けて来る。
「もう我慢出来ないよ……もっと純君と、一緒に居たい……もっと近くに……」
そして俺が混乱している間にも、目の前でなのはちゃんは、更に突飛な行動を開始する。
「私と一緒に……ねぇ……良いよね?」
何の確認かは知らないが、なのはちゃんは俺に、そう問い掛けると、答えを返す間も無く、パジャマの上着の第一ボタンを外し始めた。