魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第四話 ワンワンパニック!バニングス?【後編】

表があれば必ず裏もある。

 

普段は目に見えるものしか人は気づかないが、それでも見えない部分は確かに存在するのだ。

 

「なあメカ犬。こんな所にお前の言う情報屋なんて本当にいるのか?」

 

『ああ、間違いない。彼はこの場所を拠点に活動しているからな』

 

俺達は先程の戦いで犬型のホルダーを取り逃してしまった。

 

だがメカ犬がもしかしたら逃がしたホルダーの情報が何か掴めるかも知れないと言ってきた事から、現在海鳴市住宅街の裏街道を歩いている。

 

まだ日が落ちるには早い時間ではあるが何処か薄暗く、人が近くに居る気配も微塵も感じられない。

 

何でもこの街道の先にその情報屋がいると言う事なのだがどうにも胡散臭い。

 

メカ犬からその情報屋が要求する報酬というのを聞いたときも俺は、五秒前に決意した事を一瞬で放棄して突っ込みを入れてしまった程だ。

 

こんな報酬を要求するのは、一体全体どんな奴なんだとメカ犬に聞いてみたのだが、会えば分かると言うだけで全く話にならない。

 

他に手掛かりになりそうな物も無いし、このまま闇雲に探してもどうしようもないという事から、取り合えず駄目元でメカ犬の案に賛同してここまで来た訳だ。

 

ちなみに例の報酬を持って来る為に一旦、自宅に帰った所、なのはちゃん達と顔を合わせる事になった。

 

なのはちゃん達の捜査は収穫が有った様で、どうやら子犬の飼い主が三丁目で犬おばさんと呼ばれるほどに犬好きで有名な人と分かったらしい。

 

それで、一度アリサちゃんの家に寄って子犬を連れてから、その犬おばさんの所に行ってみようという話に決まったのだ。

 

俺も誘われはしたがホルダーの件があるので、急用が出来たので間に合えば後で合流すると言って、詳しい住所だけ教えてもらってから、この裏街道にやって来て今に至る。

 

なんにせよ子犬の件はこれで解決しそうなので、一つ肩の荷が下りたって訳だ。

 

『着いたぞ。マスター』

 

メカ犬の声で俺は無事目的地にたどり着いた事を知ったが、その場所で最初に感じたのは疑惑だった。

 

「本当にこの場所なのか?メカ犬」

 

俺は思わずメカ犬にそう言い返していた。

 

俺は最初案内された場所に、その情報屋の家もしくは事務所でも有る物だと思っていたのだが、何も無いのだ。

 

その場所には建物等何も無い空き地だった。

 

有る物といえば空き地の端に数個のドラム缶と所々に雑草が申し訳無い程度に生えている程度で他には目に止まりそうな物は何も無かった。

 

『うむ、少し待っていてくれマスター』

 

メカ犬はそう言うと空き地の真ん中にまで移動して、俺とメカ犬以外誰も居ない筈の空き地で声を掛け始めた。

 

『今この町で起きている異変に対して出来るだけ多くの情報が欲しい。報酬も十分な量を用意している。姿を現してくれ』

 

空き地にメカ犬の声が響き渡る。

 

メカ犬の声が響いた数秒後、俺達以外の存在が皆無だった筈の空き地を含む周辺に、突然新たな一つの気配が生まれるのを感じた。

 

俺は気配の感じた方に視線を向ける。

 

その目線の先に見えるのは俺達がやって来たのとは別の薄暗い通路だ。

 

気配が此方に近づくにつれて、気配とは違う別の情報が得られるようになる。

 

俺の耳にザッザッと地を踏みつける音が聞こえてくる。

 

気配と音が確実に俺達のいる空き地に近づいて来るのが分かる。

 

そしてその存在は、暗闇の中から姿を現した。

 

その姿は俺の思っていた人物像とは微塵も一致しなかった。

 

それは人の姿ですらなかったのだ。

 

全身が白い体毛に覆われていた。

 

所謂手と呼べる物は存在せず正に獣と呼ぶに相応しい風体だ。

 

地に着く四足には鋭い爪があった。

 

その口には人では到底有り得ない鋭利な牙を覗かせている。

 

耳は三角にピンと立って…

 

大きなつぶらな瞳が俺達をみつめていた…

 

「きゃん!きゃん!」

 

俗にチワワと呼ばれる犬種の犬が俺達の目の前に現れた。

 

「なあ、メカ犬」

 

『何だマスター』

 

「有り得ないとは思うが一つ聞きたいことがあるんだ」

 

『今更遠慮するなどマスターらしくないな。何でも聞いてくれ』

 

「ありがとうな。馬鹿馬鹿しい事を言ってるとは分かってるんだが如何しても聞きたいんだ」

 

『前置きが長いぞマスター。早く用件を言ってくれ』

 

「このチワワがお前の言っていた情報屋って事は、まさか万が一にも…有り得ないよな?」

 

『何を言っているんだマスターは』

 

「そ、そうだよな流石にチワワは無いよな。ハハハハ」

 

『彼がワタシの言っていた情報屋に決まっているだろう』

 

やっぱりそうですか!!!!!

 

俺はその場でOrzに崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼がこの海鳴市一の情報屋のジャックだ』

 

「きゃん!きゃん!」

 

メカ犬の紹介でチワワ改め情報屋のジャックが短く鳴声をあげた。

 

何時までもショックで崩れ落ちている訳にもいかないので、俺はなるべく前向きにこのメカ犬と生犬との会話に参加しようと心に決めた。

 

『それじゃあワタシがジャックの翻訳を担当するからマスターは質問を頼む』

 

本当に今更なんだがお前は犬ともナチュラルに会話が出来るんだな…

 

メカ犬についてはもう存在からして常識とかけ離れた位置に属していると分かっているが、それでも日常生活に曲がりなりにも関わっている存在として、少しだけで良いから自重してほしい。

 

「それじゃあ早速…最近飼い犬や野良犬問わずに異変が発生してると思うんだが何か分かる事は無いか?」

 

俺はジャックに話しかける。

 

メカ犬に話しかけるのは随分慣れたけど、まさかチワワにマジで会話を試みる事になるとは思ってもみなかった。

 

「きゃんきゃん。きゃきゃん!きゃんきゃんきゃん!」

 

『その件についてなら俺の方にも幾つかの情報が集まっている。事の発端は今日から二週間程前にさかのぼるが、この付近を住処にしている野良犬達が連続で行方不明になった。保健所が来た訳でも無いのに突然にだ。その翌週には野良犬だけでなく、飼い犬までもが失踪し始めた。だが今日その行方不明になった犬達が姿を現した。場所は此処、海鳴市の商店街だ。と言っている』

 

あの短い鳴声にそこまでの意味が有る事にも驚愕するが、このチワワのジャックの言っている事が真実だとしたらこの事件は間違い無くあの犬型ホルダーの仕業だろう。

 

俺は次の質問をする事にした。

 

都合良くこの質問で犯人が何処の誰かなんて分からないかもしれないが、もしかしたらってこともある。

 

「もう一つ質問させてくれジャック。今から恐らく二週間前を前後して、この海鳴市内で犬に何かしらで深く関わっている人物が緑色のガラス球の様な物を拾っている筈なんだが、何か分からないかな?」

 

ホルダーの持つシステムは強い願いに反応するとメカ犬は言っていた。

 

それが本当なら今回のホルダーは犬型な上に犬を操る特殊能力を持っていた事から、普段の生活から犬と密接に関わっている可能性が高いと考えて俺はこの質問をしたのだ。

 

「きゃん!きゃきゃきゃん!きゃんきゃんきゃん!」

 

『不確かな情報だが三丁目の赤坊の飼い主がそんな感じの物を拾っていたと言っていたな。それとそのご主人はそれを拾ってから少し雰囲気が変わったとも言っていたぞ。と言っている』

 

雰囲気が変わった?

 

この情報だけじゃ判断がしにくいと俺は考えて俺は更に質問を続ける。

 

「その情報をもっと詳しく知りたいんだけど分かるかな?それと出来ればその赤坊にも会って直接聞きたいんだけど」

 

「きゃんきゃん!く~ん、く~ん」

 

『すまないがこの件に関してのこれ以上の情報は今の所、俺も持っていない。赤坊の所在についてだが彼と会うことは出来ない。昨日行方不明になった。彼も犬だったから恐らくは今回の失踪事件に巻き込まれたのかもしれないな。後これは情報と言うよりは、俺が個人的に疑問に思った事なんだが、今日の商店街で他の最近失踪した犬が全て現れた中で、赤坊だけはその姿が確認できなかった事だな。と言っている』

 

出来ればその赤坊にも聞きたかったけど、これ以上の情報は無いって事か。

 

その拾った飼い主に直接尋ねるって手段も有るけど、違う可能性もあるし、もしホルダーだったとしても素直に自分がホルダーだって事をばらすとは到底思えない。

 

結局振り出しかと溜息をつきながら、頭の中でこれまでの情報を整理する事にした。

 

そこで俺は奇妙な違和感を感じた。

 

今までのジャックとの会話で得た情報と、別の件での幾つかの情報が合致したのだ。

 

三丁目…

 

迷子の子犬…

 

行方不明…

 

犬と深い関わり…

 

商店街に現れなかった…

 

俺の頭の中で本来交わる事の無い二つの事件が何故か繋がる。

 

俺はこの妙な情報の合致に答えを出すために再びジャックに質問を再開する。

 

「ジャック。その行方不明の赤坊って犬はもしかして、赤い首輪をしたダックスフンドの子犬じゃないのか?」

 

「きゃん!きゃきゃん!きゃん!!」

 

『その通りだ。良く分かったな。この近辺では最近生まれた子犬でいつも赤い首輪をつけている事から、彼は犬連中の間では赤坊と呼ばれている。と言っている。む!マスター、まさか』

 

メカ犬も俺の考えた答えに気づいたのだろう。

 

今回のホルダーとアリサちゃんのお願いは、意図した訳ではないが、偶然にも繋がっていたのだ。

 

恐らく今回の犬型ホルダーの正体は三丁目の犬おばさんで間違いない筈だ。

 

赤坊と呼ばれた子犬の飼い主は、なのはちゃん達の話を聞いた限り三丁目の犬おばさんの可能性が極めて高い。

 

更にジャックの情報だ。

 

確かに証拠は無いが現時点でもっともホルダーの可能性があるのはこの人しか居ない。

 

「待てよ。だとしたら今なのはちゃん達は…不味い事になってるかも知れない。急ぐぞメカ犬!」

 

『了解だマスター』

 

俺とメカ犬は急ぎ走り出す。

 

しかし俺はそこで思い出したかのように反対に向き直り、ジーンズのポケットからある物を取り出してジャックの傍に置いた。

 

「情報ありがとうなジャック。これは約束の報酬だ。受け取ってくれ」

 

「きゃん!きゃん!」

 

メカ犬の通訳は無いが今回は俺にも何となくジャックの言っている事が分かった。

 

恐らくは、ありがとうと言った感じの事だろう。

 

俺とメカ犬は再び走り出す。

 

空き地には一匹のチワワと今回の報酬であるビーフジャーキーだけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とメカ犬は走っていた。

 

なのはちゃん達から貰った犬おばさんの住所は幸いな事に、俺達が居た空き地からはそんなに離れてもいなかったので、もしかしたら三人が犬おばさんの家に着く前に出会えるかもしれない。

 

『間も無く目的地に着くぞマスター』

 

「ああ」

 

この先の道角を曲がれば犬おばさんの家がすぐ目の前に見えるはずだ。

 

兎に角間に合ってくれと俺は心の中で何度も祈りながらその角を曲がった。

 

その先には最悪では無いが、その数歩手前の状況が広がっていた。

 

既になのはちゃん達は到着しており今正に犬おばさんの家のインターホンを押していた所だからだ。

 

「ごめんくださーい」

 

インターホンを押したのは子犬を抱き上げていたアリサちゃんで、インターホンに設置されていたスピーカーに話しかけていた。

 

「みんな!」

 

俺は大声を張り上げて三人の元に駆け寄った。

 

「純君?」

 

「もう、用事は済んだの?」

 

インターホンで会話しているアリサちゃん以外が俺が走って来るのを見て声を掛けてきた。

 

「ま、まあね」

 

何とか追いついたのは良いけれど、この先どうやって説明しようかと内心考えていたら、急に犬おばさんの家の扉が開いた。

 

中から出てきたのは五十台半ばと思われる女性だった。

 

恐らくこの人が犬おばさんで間違い無いだろう。

 

「あの、この子なんですけどご近所の方が貴女の飼い犬何じゃないかと言うのでお尋ねしたんですけど…」

 

アリサちゃんが代表して犬おばさんに話しかけた。

 

犬おばさんは黙って頷いた。

 

これで何の問題も無いならそれに越した事は無い。

 

でも俺の心の中で何かがざわめく。

 

一見普通のおばさんに見えるが何かがおかしい。

 

確証は何処にも無いけれど物凄くいやな感じだ。

 

俺は言い知れぬ不安を抱きながら犬おばさんを観察する。

 

そして観察した末に見つけてしまったのだ。

 

それは俺が戦いの中で何度か目撃したもの。

 

一見ただのガラス球にも見えるが、存在感がまるで違う。

 

エメラルドグリーンに輝くそれが犬おばさんの右の人差し指に指輪状になって取り付けられていた。

 

『マスター!』

 

どうやらメカ犬もあれをシステムと判断した様だ。

 

ならば今俺がやるべき事はただ一つ。

 

「アリサちゃん!この人に子犬を渡しちゃ駄目だ!」

 

俺とメカ犬はアリサちゃんと犬おばさんの間に壁を作るように割って入った。

 

「ち、ちょっとどうしたのよ突然?」

 

アリサちゃんが抗議の声を上げるが、それよりも後ろにいた二人は、ある異変に気づいたのか後ろに一歩後退した。

 

犬おばさんの身体全体が薄緑の光を発し始めていたのだ。

 

「な、何よこれ?」

 

「良く分からないけど様子が変だ。アリサちゃんも下がって!」

 

俺の言葉と同時に更に犬おばさんを包む光は強烈になった。

 

だがそれは一瞬の事で緑色の光はすぐに飛散した。

 

そしてその場に佇んでいたのはもはや人と呼べる生物ではなかった。

 

全身に青白い体毛を生やし、その両腕と口に鋭い爪と牙を持つ怪物、商店街で一度戦った犬型のホルダーだった。

 

「「「きゃあああああああああ!!!!」」」

 

その姿を間近で見たことで恐怖したであろう三人が叫ぶ。

 

「みんなは早く逃げて!!!」

 

俺とメカ犬はホルダーに勢い良く飛びついた。

 

メカ犬は奴の視界を遮る為に頭部に、俺は少しでも動きを阻害しようとその胴体に必死にしがみ付いた。

 

「な、何やってんのよあんた!」

 

「危ないよ!」

 

「純君も早く逃げて!」

 

三人が俺の行動を見て我に返ったのか其々に叫んでいる。

 

「いいから!は、早く逃げて!出来るなら早く助けを呼んできてくれ!!」

 

俺はホルダーにしがみ付きながらも何とか三人に叫び返した。

 

この三人の前で変身する訳にはいかない。

 

もし俺がこんな危険な事をしているなんて知ったら、この子達は絶対に自らもこの一連の事件に関わろうとするからだ。

 

なのはちゃんもありさちゃんもすずかちゃんも、余りにも優し過ぎるのだ。

 

たとえ自分に力が無いとしても、それでも何かが出来るんじゃないかと考えて行動に移すんだろうなと、容易に想像できる。

 

だからこそ三人には絶対に言えない。

 

俺が力を手に入れたのは全くの偶然だけど、俺はみんなの様に力が無くても何かが出来るんじゃないかなんて考えられないけど、それでも俺はこの心優しい女の子達を全力で守りたい。

 

「早く行け!!!」

 

俺は普段より口調を荒げて叫ぶ。

 

その気迫が伝わったのかどうかは分からないが、三人は渋々ながらも納得してくれたようだ。

 

「すぐに戻ってくるからね」

 

「絶対無事でいてね」

 

「死ぬんじゃないわよ」

 

三人は口々に言って走り出した。

 

此処で手をこまねいているよりは一秒でも早く助けを呼んできた方が良いと判断したのだろう。

 

俺は走り去る三人の後姿を見て少しだけ安心した。

 

それが油断になったのかもしれない。

 

俺はホルダーの爪でシャツを摘まれて持ち上げられてしまった。

 

反対側の手にはメカ犬が摘まれている。

 

「よくもやってくれたね。あんた達」

 

俺とメカ犬を摘み上げたホルダーが恨めし気に言う。

 

「なあ、メカ犬。俺さ…凄く嫌な予感がするんだ」

 

『奇遇だなマスター。ワタシもだ』

 

俺とメカ犬の予感は全く残念な事に現実の物となった。

 

ホルダーは何を思ったのか、俺とメカ犬を人の限界を超えた驚異的な筋力を持って上空に放り投げたのである。

 

ホルダーは俺達を放り投げると一気に走り去って行った。

 

今の所最大の問題は、上空に放り投げられた俺達だ。

 

俺とメカ犬は目下パラシュート無しの逆スカイダイビングの真最中なのである。

 

もしもこのまま地面に落下すれば、メカ犬は兎も角俺の命は無いだろう。

 

一体如何したもんか?

 

『マスター!』

 

俺が半ば放心状態に陥っていると、落下しながらもメカ犬が此方に近づいて話しかけてきた。

 

『マスター!こうなったらこのままやるぞ!』

 

「…マジでか?」

 

メカ犬の言うやるとは間違いなくあれの事だろう。

 

こんな非常時にうまく出来るのかと俺は不安に刈られた。

 

だがこのまま下に落ちればそれこそ命は無い。

 

どちらにしても今は、一縷の望みを信じて賭けに出るしかないわけだ。

 

「ああ…こうなったらやけくそだ!行くぞ!メカ犬!!!」

 

『OKだ!マスター!!!』

 

俺はポケットからタッチノートを取り出しボタンを押す。

 

『バックルモード』

 

音声がすると同時にメカ犬は銀のベルトに変形して俺の腹部に巻き付いた。

 

「変身」

 

俺は決められたキーワードを叫び、バックルの中央の溝にタッチノートを差し込んだ。

 

『アップロード』

 

俺は凄まじい勢いで落下しながら白銀の光に包まれた。

 

その光が収まって現れるのは、メタルブラックのボディに銀のラインとV字の角飾りに赤く大きな瞳を持つ一人の戦士だ。

 

俺は体制を保ちながらそのまま地面に降り立つ。

 

その衝撃で幾らか地面が陥没するが俺への被害は多少足が痺れる程度だった。

 

『成功だな。マスター』

 

「な、何とか間に合った…」

 

俺は今命がある事に心から感謝する。

 

『それよりも急がないと、なのは嬢達が危険だぞ。マスター』

 

「あ!そうだった!!急いでホルダーを追うぞメカ犬」

 

『うむ!』

 

仮面ライダーに変身した俺はホルダーの後を追うべくその場から移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェイサーさんを呼んでホルダーの後を全速力で追う俺達。

 

ホルダーの反応は本当に目と鼻の先ですぐに追いつく事が出来た。

 

だが俺の視線に映る情景は余り好ましくない物だった。

 

ホルダーは既になのはちゃん達に追い着いており、なのはちゃん達は怯えながらも懸命に子犬を守ろうとホルダーと子犬の間に立ち塞がろうとしている。

 

『不味いぞマスター』

 

「分かってる」

 

俺はチェイサーさんにスピードを更に上げてくれる様に頼んだ。

 

『まっかせなさ~い』

 

軽快な返事と共に俺の頼みを聞いて一気にスピードが加速するチェイサーさん。

 

その姿はまさに放たれた一発の弾丸だった。

 

『さあ、突っ込むわよ』

 

『うむ、やはりキャラが被る可能性があるからな』

 

「今回に限っては反対しない」

 

ある意味初めて全員の意見が一つに纏まり突っ込む事になった。

 

チェイサーさんは相変わらずだし、メカ犬はまたしても意味不明なライバル心から、俺も先ほどの逆スカイダイビングは結構本気で死ぬかもと思った恨みから、二人?の意見に賛同する事にした。

 

みるみる内に俺達とホルダーの距離は縮まっていく。

 

ホルダーも近づいて来た俺達にようやく気づきはするが、反応するには遅すぎた。

 

「きゃういいいいん!?」

 

再びホルダーにチェイサーさんのバイクタックルが綺麗に決まった。

 

今回に限っては同情の余地は一切無い。

 

ホルダーは前回のきりもみ回転に加えて縦の回転も披露してくれた。

 

これを一つの技術として昇華できたならば、新体操界に新風を巻き起こすことも夢では無さそうだ。

 

「え?」

 

「何なの?」

 

「今度は何だって言うのよ?」

 

ここまでの流れの一部始終を見ていて驚いているであろう、なのはちゃん達が混乱しながらも思った事を口に出す。

 

まあ、驚くのも無理は無いだろう。

 

突然目の前の人が怪物に姿を変えて襲い掛かってきたと思ったら、バイクに乗ったメタルブラックの何かが突っ込んできたのだ。

 

驚くなと言う方が無理な話だ。

 

俺はチェイサーさんから降りてホルダーとなのはちゃん達三人を遮る様に立ち塞がる。

 

全力で突っ込んだにも関わらずまだホルダーは動く事ができる様で、ゆっくりながらも立ち上がってきた。

 

「ま、またあんたかい。一体なんだって言うんだいあんたは?」

 

立ち上がったホルダーがよろめきながらも俺に話しかけてくる。

 

最初に会った時に確かに名乗ったんだけど、どうやら覚えてくれていないらしい。

 

しょうがないから俺はもう一度改めて名乗る事にした。

 

「俺は仮面ライダー。仮面ライダーシードだ」

 

しかしこの名乗りに反応を返したのは目の前のホルダーではなく背後にいる美少女三人組だった。

 

「「「仮面ライダー?」」」

 

三人の声が見事にシンクロした。

 

そういえば三人が仮面ライダーを見るのってこれが初めてだったな。

 

「あ、あの仮面ライダーさん」

 

なのはちゃんが俺にというか、仮面ライダーな俺に話しかけてきた。

 

「私達と同じ年ぐらいの男の子があの毛むくじゃらの近くにいたと思うんだけど何か知らないですか?」

 

アリサちゃんがホルダーに指差しながら言葉を繋げる。

 

「その男の子、私達のお友達なんです。何か知っているのなら教えてください」

 

すずかちゃんが懇願するように訴えかけてくる。

 

三人が言っているのは恐らく俺、板橋純のことだろう。

 

こんな状況でも他人の心配をしてくれるなんて本当に優しい子達だ。

 

「ふん、あのムカつくガキなら今頃ミンチになってる頃だろうよ」

 

三人の質問に答えたのはホルダーの方だった。

 

ホルダーの言葉に顔が青ざめていく三人。

 

余計な事言ってくれるな、このホルダーは。

 

俺は三人を安心させるために一芝居打つ事にした。

 

「心配する事は無いぞ。お嬢さん達。お嬢さん達が言っている少年は無事だ」

 

「「「本当ですか!?」」」

 

俺の言葉に暗くなっていた三人の顔に笑顔が戻ってきた。

 

「ああ、俺がここに来る途中に助けた。今は安全な所にいるから大丈夫だ」

 

この言葉に三人は心から安心した様だ。

 

「さあ、ここは危ないから下がっていてくれ。後の事は俺に任せろ」

 

俺は安心したであろう三人に下がる様に促した。

 

なのはちゃん達はがんばってくださいと言いながら俺の指示する通りに後ろに下がってくれた。

 

さてと、本番はここからだな。

 

「おい!お前の目的は何だ。何故犬達に商店街を襲撃させた。それに何でこの子達に襲い掛かろうとしたんだ?」

 

「…いいだろう。教えてやるよ。あたしゃ犬が大好きでね。近所じゃ犬おばさんなんて呼ばれる程さ。だけどあたしゃ気づいちまった。犬を不幸にしているのは、紛れも無いあたし達人間だってことにね。あたしゃこの力で犬達が幸せに暮らせる世界を作るのさ。そのためには犬が人間を支配する必要があるだよ。人間が犬にしてきた様に、今度は犬が人間を支配してやるのさ」

 

この人も暴走したシステムの影響下にあるのか、正気の沙汰じゃない。

 

『考えそのものがプログラム侵食されているようだな。マスター、戦う以外にこのホルダーを止める術は無いぞ』

 

「ああ、分かってるさ」

 

ホルダーは話はここまでだと言わんばかりに襲い掛かってきた。

 

その両腕の爪が何度も俺を切り裂こうと振り上げられる。

 

だがそんな物に素直に当たってやる謂れの無い俺は、その攻撃を裁きながらカウンターに右と左の拳を交互にホルダーの横っ面に叩き込む。

 

「おりゃ!」

 

俺は尚も振り上げられるホルダーの腕を押さえつけてその胴体を思い切り蹴りつけて後方に吹き飛ばした。

 

本来ならここで必殺技が決められる筈なのだが、それを邪魔する存在がこの戦いの場にやってきた。

 

「ちっまたか!」

 

商店街で暴れていた犬達がまたしても俺の身体に纏わり付いてくる。

 

「ふふふ、これで形成逆転って訳だね」

 

そういえばこのホルダーの能力は犬を操る事だった。

 

俺が万事休すかと思った直後である。

 

突然俺に張り付いていた犬達が離れて、ある一点目掛けて走っていく。

 

「な、なんだい?一体如何したっていうんだい?」

 

ホルダーもこの現象が理解できずに困惑している。

 

犬達の走り去った方向の先を見ると、俺の良く見知った顔の三人組、なのはちゃん達が何かの袋を持っており、その袋の中の何かを犬達に与えていた。

 

「アリサちゃん!こっちのもうすぐ無くなりそうだよ」

 

「こっちも~」

 

「任せなさい!まだまだいっぱい有るわよ」

 

アリサちゃんはなのはちゃんとすずかちゃんの言葉に答え犬の肉球がプリントされたバックから新たにその袋を幾つも取り出した。

 

「あ、あれはまさか!」

 

その袋を見て驚いたのはホルダーだ。

 

どうやらホルダーはこの袋の正体を知っているらしい。

 

「あれは犬ならば本能のままに求めてしまうと言われる大人気ペットフード!ワンちゃんまっしぐら!!!」

 

「その通りよ!!!」

 

ホルダーの言葉にアリサちゃんが肯定の言葉を発した。

 

「真の愛犬家なら誰でも、何時だって常備している大人気ペットフードワンちゃんまっしぐらよ!どんなに躾けられた犬でもこれを出されたら五秒で落ちるわよ!!!」

 

アリサちゃんが自信満々に言い放った。

 

「くう、まさかその手で来るとは…」

 

何やら犬至高主義の二人にしか分からない駆け引きが発生しているみたいだけど、これはホルダーの能力を無効化できたって事なんだろうか。

 

「それに毛むくじゃら!あんたの言ってる事は間違ってるわよ!!!一人の愛犬家として言わせて貰えば人と犬はただの主従関係なんてものじゃ決して無いわ。犬はね、一緒に人生を生きるパートナーなのよ!!!」

 

アリサちゃんが小学一年生とは思えない犬と人の在り方についての持論を繰り広げる。

 

「仮面ライダー!!」

 

アリサちゃんが今度は俺に喋りかけてきた。

 

「一人の愛犬家としてお願いするわ。あの道を踏み外した毛むくじゃらを止めてあげて。犬を本当に愛しているなら…こんな事、犬達の為に絶対良くない事だもの」

 

確かにアリサちゃんの言うとおりだ。

 

これ以上は、このホルダー自身だって本当の犬好きなら望みはしない筈だ。

 

「少女よ。その願い。確かに俺が引き受けた。こいつは俺が全身全霊を持って止めてみせる!」

 

俺はアリサちゃんの願いを聞き入れた。

 

今俺は、愛犬家の魂と共にホルダーに立ち向かっているんだ。

 

「ふん、うるさいんだよあんたらは!!!!」

 

ホルダーは痺れを切らして再び俺に駆け込んでくる。

 

『来るぞマスター』

 

「ああ!!!」

 

俺はバックルからタッチノートを引き抜き緑のボタンを押して画面に自身の全体図を表示させる。

 

そして右腕の部分をタッチして再びバックルに差し込んだ。

 

『ポイントチャージ』

 

音声が聞こえると、バックルから白い光が放たれて銀のラインを伝って右の拳にその光が集約する。

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺は輝く右の拳を腰に持っていく。

 

「ライダーパンチ」

 

俺は走り出す。

 

勿論向かう先はホルダーだ。

 

互いにその拳が届く距離にまで接近する。

 

ホルダーは鋭い爪で、俺には全てのエネルギーを集約した拳を持って、目の前の敵を捕らえようと突き出す。

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

俺の拳がホルダーの爪を砕きそのままホルダー自身の肉体にも突き刺さった。

 

その瞬間ホルダーは全身から白い光を放ちながら爆発した。

 

後に残ったのは、仮面ライダーである俺自身とその足元で気絶している犬おばさんだけだった。

 

爆発が収まり俺はアリサちゃんに振り向く。

 

ここで言葉は要らない。

 

俺は彼女との約束を果たした事を示すために一つの行動を取る。

 

右手を肩の辺りまで持ち上げて拳を握り締め親指だけを立てて見せた。

 

所謂サムズアップだ。

 

約束への報酬は、一人の少女の最高の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの事件の後、子犬は無事に犬おばさんの元に戻っていった。

 

それというのも、犬おばさんにはホルダーとなっていた間の記憶が無かったのだ。

 

メカ犬が言うにはそれは当たり前の事らしい。

 

詳しい仕組みは聞いても俺には良く理解する事が出来なかったが、本人にとっても子犬にとってもその方が幸せだという事は間違い無いだろう。

 

兎に角これで今回の犬騒動は終わった訳である。

 

『ここは犬パラダイスだなマスター』

 

「…ああ」

 

俺は今、アリサちゃんの自宅であるバニングス邸にお邪魔している。

 

「それでね…ちょっと純聞いてるの?」

 

「ああ、うん、聞いてる。聞いてるから」

 

「それなら良いのよ!それでね…」

 

俺は今、バニングス邸で飼われている犬達の鳴声をバックコーラスに、アリサちゃんの犬談義につき合わされている。

 

あの事件以降アリサちゃんの犬好きは更に拍車が掛かり手が付けられない程となっていた。

 

なのはちゃんとすずかちゃんも呼ばれているがやはり古来からの…以下略な訳でいまだに来ていない。

 

今の俺にできることはアリサちゃんの犬談義にひたすらうなずき続ける事だけだった。

 

『大変だなマスターは』

 

「そう思うなら変わって『ワタシは用があるのでジャックの所に言ってくるぞ』逃げやがった」

 

「でね~って純!あんた私の話本当に聞いてるの?」

 

「うん、聞いてるよ」

 

取り合えず、今日の海鳴は犬も含めて至って平和だ。


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