魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第25話 山猫と少年と……【前編】

「……これで今週に入って五件目ね」

 

「そうですね」

 

冬の澄んだ空気の中、朝日が眩しいとある早朝の、海鳴警察署内の一室。

 

ホルダー対策特務課のデスクで、セーラー服を着た美少女と、スーツ姿の男性が、コピー用紙の束に書かれた内容に目を通しながら、頭を悩ませていた。

 

「例の神社のホルダー事件が解決したと思ったら、またこの騒ぎなんだから……」

 

セーラー服を着た美少女中学生という見た目からはとても想像出来ないが、この特務課で最も高い役職である恵美が、溜息を零す。

 

「まあ、そうですね……」

 

そしてもう一人の特務課に配属されている恵美の直接の部下でもある、去年の春に刑事となり、そろそろ新米という言葉が取れそうになっている、スーツ姿の青年、長谷川が恵美の言葉に同意しながら、苦笑いを浮かべ先程と同じ様に相槌を打つ。

 

二人がこの様な悩みの表情を浮かべているのは、全て今現在二人が目を通している、コピー用紙に書かれている内容が原因だった。

 

「ここ最近になって、海鳴市内の公園各地で、怪物を目撃したって証言が続いてるけど、何も被害が出てない分、前の木を切り倒していたホルダー以上に、目的が意味不明だわ」

 

「ええ。でもこの目撃証言が一件だけなら、見間違いという事もあるかも知れないですけど、連日目撃証言が増えている上に、その怪物を見たと証言している人達も大勢居る様ですし、何かがあるのは間違い無いんじゃありませんかね?」

 

長谷川の意見に、恵美は少しの間、考えてから一つの決定を下す。

 

「取り敢えず今のままじゃ、情報が少なすぎてどうしようもないわ。長谷川君は、この五件目の目撃証言があった公園で、他に何か情報が無いか、聞き込みをして来て。私はその間にやる事があるから、そうね……お昼過ぎに一度、その公園に近いし、翠屋で合流しましょう!」

 

恵美は早口にそう捲くし立てると、長谷川の返事も待たず、一目散にホルダー特務課から飛び出して行ってしまった。

 

「……は、はい」

 

そして恵美が飛び出してから数秒後、長谷川の返事が、虚しく部屋の中に響き渡った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ皆に、今日から一緒にお勉強をする事になるお友達を紹介するわね」

 

小学生になって、初めての冬休みが明けた、初日の早朝のHR。

 

私立聖祥大附属小学校の一教室内で、俺を含むクラスメイト全員が、教卓に立つ我らが担任、真理子先生の言葉に注目していた。

 

「入って来て良いわよ!」

 

俺達が話しを聞いている事を確認した真理子先生が、教室の出入り口に向かって言葉を投げかける。

 

その声を合図に、扉が勢い良く開かれるのと同時に、投げ込まれる赤いカーペットと、最早騒音とも呼べる音量を誇る壮大なファンファーレ。

 

去年の夏休み明けにも、これと似た様な光景を見た事があるなと思ったのは、俺だけでは無い筈だ。

 

その証拠に、周りを見渡せば、なのはちゃん達を含む他のクラスメイト達も、またかと言った具合の表情を浮かべていた。

 

こんなプロ野球が行われる球場で、虎的モチーフのチームの中に、一人だけ大きな人的チームのファンが紛れ込んでしまったかの様なアウェーな空気を一切読まず、一人の猛者が堂々と教室に広げられたカーペットの上を歩いて、此方へと進んで来る。

 

執事服に身を包む一人の老人が、バスケットを片手に、中に入った白い花弁を散らしながら……

 

最初に断っておくが、ここは小学校の教室であり、基本的に大人は教師及び、設備等の関係者しか居ないは筈だ。

 

勿論世の中には例外が常にあるので、もしかしたらという事も可能性として、存在するかもしれないが、断じて彼が真理子先生が言っていた転校生という事は有り得ない。

 

……というか真理子先生が、筆舌にし難い、凄い顔になっている。

 

それこそまともに目を合わせたら、トラウマになりそうなレベルだ。

 

しかし老執事は、そんな刺さる様な視線に晒されながらも、歩みを止める事無く、教壇の前まで辿り着いてしまった。

 

そして今も聞こえ続けるファンファーレの音量をも凌ぐ、大声量で高らかに声を張り上げる。

 

「姫様のおなああああああああああああああああああああありいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

変態老執事サバスチャンはそう叫んだ後、ポケットから手の平に収まる程度の板状の装置を取り出して、ボタンを押した。

 

サバスチャンがそうした事により、先程まで鳴っていたファンファーレが、ピタリと鳴り止む。

 

……もしかして今回は、録音した音を、流していただけなのだろうか?

 

今更だが護衛隊員の彼等が入ってくる様な様子は一切無い。

 

「全く……あれほど止めろと言ったのに、本当やりおったのじゃ」

 

サバスチャンの魂のシャウトを聞いた直後、銀髪の少女が右手で軽く頭を抱えながら、入ってきた。

 

「いいえ!成りませんぞ姫様!!!例え文化は違えど、姫様が姫様であるという事実は変わらないのです!!!成ればこそ、その威厳を大衆の者達に理解させなければいけません!!!」

 

サバスチャンは自身が仕えるべき主、シルバーライト島のお姫様、エミリーちゃんに、熱弁を振るい続ける。

 

だがその度に、このクラス全体の体感温度が、急激に下がっているという事実を、サバスチャンは正しく理解出来ているのだろうか?

 

「それを言うのであれば、この日本には、郷に入っては郷に従えという言葉があるのじゃ!第一こんなに散らかしおって、周りの迷惑も考えぬか!!!」

 

そんなサバスチャンに対して、エミリーちゃんが日本古来のことわざで打って出る。

 

去年の夏の頃よりも、日本においての、多くの常識を学んだのだろう。

 

あの登場の仕方が、シルバーライト島での正式な作法なのかどうかは知らないが、少なくても日本の学校でやるには恥ずかしい行為なのだと、認識したらしい。

 

「し、しかし姫様……」

 

「お話中のところ、失礼しますね?」

 

主であるエミリーちゃんに叱られながらも、サバスチャンは尚も抗議しようとするが、その言葉は我らがクラスの担任教師である真理子先生の言葉によって遮られる。

 

その表情は先程の筆舌にし難い顔ではなく、笑顔を浮かべているが、サバスチャンを見詰めるその瞳は、凍てつく様な寒さすら感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ改めて説明するわね。皆も知っているだろうけど、去年の九月に交換留学生として、クラスで一緒にお勉強をしたエミリーさんです」

 

ほんの数分前に、強制的にこの教室から排除されたサバスチャンの存在など、最初から無かったかの様に、真理子先生は、改めてエミリーちゃんの紹介を始めた。

 

いまだに教室の外から、変態老執事の咽び泣く声が聞こえてくる様な気がするが、きっと幻聴に違いない。

 

「去年の九月以来じゃな皆。中には何人か年末に会った者もおるが、また宜しく頼むのじゃ」

 

真理子先生に紹介されたエミリーちゃんが、クラス全体を見渡しながら挨拶をする。

 

最後に俺と目が会って、ウインクした様に見えたのは、気のせい……じゃ無さそうだ。

 

以前にメカ犬が帰国の際に、飛行機の中でエミリーちゃんから預かったという言伝を聞いていたので、近い内に日本に来るとは思っていたが、まさか三学期の初日に、転校生としてやってくるとまでは考えていなかった。

 

俺は思わず、苦笑いを浮かべてしまう。

 

「じゃあ、エミリーさんの席は、純君の隣で良いわね?」

 

二度目の自己紹介を終えたエミリーちゃんに続き、真理子先生が口火を切り、俺以外のクラスメイト達が、速やかに机と椅子の移動を開始する。

 

「ち、ちょっと!?」

 

その迅速な対応と、エミリーちゃんが俺の隣の席になるのが、俺以外の共通認識かの様な皆の振る舞いに、どういう事なのかと、俺は動揺の声を上げる。

 

しかし俺はここで、自分を見詰める一つの視線に気付き、その視線の感じる先、教室の扉に振り向く。

 

其処には約三十センチ程扉を開けた事で出来た隙間から、サバスチャンが顔を覗かせており、目が合った俺に対して、口パクで何かを訴え掛けようとしていた。

 

その口パクを何とか素人でも出来る範囲で、読み取ってみると、大体こんな感じだろうか……

 

【ひ・め・さ・ま・を・よ・ろ・し・く・た・の・み・ま・し・た・ぞ】

 

その内容を不本意ながらも理解した俺は、一つの真実を悟った。

 

「……これはクラスでエミリーちゃんのお世話をするのが、俺の役目だと、全員が認知しているって事なのか?」

 

俺は周りが忙しなく机と椅子を移動させる中、ポツリと呟くが、誰もその答えを返してくれる事は無かった。

 

やがて席の移動も無事に終わり、エミリーちゃんが俺の右隣の席へと歩いて来る。

 

「そういう訳じゃから、また宜しく頼むのじゃ!」

 

指定された席に座りながら、エミリーちゃんは、満面の笑みで俺に言った。

 

その笑顔を見て、それも悪く無いかという考えが、一瞬脳裏を過ぎった俺を、誰が責められるだろうか?

 

こうして朝に、多少のゴタゴタはあったものの、新たなクラスメイトを迎えた俺の、三学期初日の授業は、何の問題も無く進行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「日本にようこそ!!!」」」」

 

昼過ぎの緑屋のテーブルの一角で、なのはちゃんと、すずかちゃんに、アリサちゃん、それとはやてちゃんがそう言って、本日の主役でもあるエミリーちゃんに、盛大な拍手を送る。

 

何せこの集まりは、三学期初日という事で、午前中で終了した授業によって、普段より早く放課後を迎えた時間を有効利用した、転校生であるエミリーちゃんの為の歓迎会なのだから。

 

「み、皆ありがとうなのじゃ。……それにすまぬの。転校の話しを何もせんかったのに」

 

「まあ、確かに驚いたけどね」

 

エミリーちゃんの言葉に対して、アリサちゃんが、笑顔で皮肉を口にする。

 

「まあまあ、アリサちゃん」

 

「確かに私達もビックリしたけど、もう許してあげても良いんじゃないかな」

 

「クリスマスのシルバーライト島招待に続いて、今回の転校サプライズ……エミリーちゃんも、中々の策士やな!」

 

アリサちゃんの発言に、なのはちゃんとすずかちゃんがフォローを入れて、はやてちゃんが一人、何処かずれた感想を口にする。

 

どうやら皆、この歓迎会を早速楽しんでいる様だ。

 

「純の旦那は、一緒に参加しなくて良いんですか?」

 

俺がその光景を、見守っていると、隣に居たヤスが話し掛けてきた。

 

「まあ、今はバイト中だし、ああやって女の子達の集まりに参加するのも、ちょっとな……」

 

「ははは。嬢ちゃん達に遠慮するのは、今更って気もしますけどね」

 

ヤスは俺の台詞を聞くと、そのワイルド系なイケメン顔を笑顔に歪ませて、意見して来た。

 

……ほんの数日前まで、保奈美さんと呟き続ける抜け殻状態から、大分回復はした様ではあるが、どうも今尚後遺症が残っているらしい。

 

「……あのなあ」

 

誤解の無い様に説明しておくが、俺はいつももなのはちゃん達に囲まれて日常生活している訳では無く、ちゃんと男友達もちゃんと大切にしているのだ。

 

それと同時に、なのはちゃん達だって、女の子同士、同姓だけでの付き合いがある。

 

まだ小学一年生ではあるが、皆して考えが早熟なのか、その辺りの意識ははっきりとしている様なのだ。

 

「……兎に角俺は、今日はあの輪の中に混ざる気は無いんだよ」

 

俺は溜息混じりに、最後にヤスへの説明をそう締め括ると、なのはちゃん達のテーブルに人数分のオレンジジュースを運んで行く事にした。

 

「はい皆。これは俺の奢りだから、遠慮無く飲んでね」

 

そう言って俺は、運んで来たオレンジジュースを、なのはちゃん達に配る。

 

この輪の中に、直接参加するつもりは毛頭無いが、せっかくの歓迎会だ。

 

先程ヤスにはああ言った手前であるが、これぐらいのサービスは別に構わないだろう。

 

「ありがとう純君」

 

「どういたしまして」

 

代表して御礼を言ってくれたなのはちゃんに、俺がテンプレートな返事を返した直後、翠屋の来客用の扉が開かれる。

 

「いらっしゃいませ」

 

既に脊髄反射の域に達しつつある反応速度で、俺は扉が開かれると同時に、ウェイターとしての接客スマイルで、振り向き様に挨拶をした。

 

「こんにちは。板橋君」

 

そして扉を開けた人物は、俺が挨拶をした直後に、左手を軽く上げながら俺個人に挨拶をしてきた。

 

俺の名前を呼んだという事は、常連のお客さんの可能性が高い。

 

そう考えながら、振り向き様に最初に見えたその左腕の袖からは、メタルイエローのメカニカルな腕輪が、チラリと顔を覗かせている。

 

俺の知り合いの中で、この様な腕輪をしている人物は、今のところ一人しかいない。

 

「長谷川さんも、こんにちわ」

 

フォーマルなスーツに身を包んだ知り合いの刑事さんである、長谷川さんに俺は改めて挨拶した。

 

「あれ?今日は確か平日だった筈だけど、学校はどうしたんだい?」

 

挨拶もそこそこに、長谷川さんは、店員をしている俺や、お店の一角でエミリーちゃんの歓迎会を開いているなのはちゃん達を見て、降って沸いた様に、疑問を投げかける。

 

「俺達の学校は、今日が三学期初日の始業式で、午前中で終わりだったんですよ」

 

「ああ、そういう事か」

 

どうやら俺の説明に、長谷川さんも納得してくれたらしい。

 

「ところで長谷川さんは、今日はお一人なんですか?いつもは恵美さんと一緒に来店する事が多いですけど」

 

店員として、何名での来店なのかの確認もかねて、今度は俺が長谷川さんに質問をしてみる。

 

「板橋君がそう言うって事は、恵美さんはまだ来ていないんだね」

 

「待ち合わせでも、していたんですか?」

 

「うん。お昼過ぎに、翠屋でって話しだったんだけど、ちょっと早く着きすぎたかな」

 

長谷川さんはそう言いながら、照れくさそうに後頭部を軽く左手で掻いた。

 

「それじゃあ取り敢えず、お席にご案内しますね。こちらの空いているお席にどうぞ」

 

「ありがとう」

 

俺はこのまま長谷川さんを、入り口付近に立たせて置く訳にも行かないと思い、空いているテーブルに案内して、座ってもらった。

 

長谷川さんを席に案内した俺は、すぐにグラスに注いだ水を用意して、再び長谷川さんの座る席に舞い戻る。

 

「恵美さんと待ち合わせという事でしたけど、今の内に何か注文しておきますか?」

 

俺は長谷川さんの前に、水の注がれたグラスを置きながら、何か注文がないか伺った。

 

「そうだね……お昼もまだ食べてなかったし、このサンドイッチとコーヒーの軽食セットをお願いしようかな」

 

「かしこまりました」

 

ご注文がお決まりになりましたらお呼びくださいと言おうとしたのだが、長谷川さんは、メニューをその場で流し読みしながら、即決した様なので、俺はその場で注文を受けて、そのまま厨房の方に伝えに行く。

 

『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウケイホウ……』

 

丁度フロアを出て、カウンターで、俺が士郎さんに注文を伝えた直後である。

 

ズボンのポケットに忍ばせたタッチノートが、ホルダーの出現を知らせる警報を鳴らした。

 

「純の旦那。後は俺が何とかしますんで行ってください」

 

その時丁度近くに居たヤスが俺に声を掛けて来た。

 

「ありがとうヤス」

 

俺はヤスに礼を言いながら、急いでエプロンを剥ぎ取って、翠屋の裏口へと向かう。

 

「え!!!ホルダーが例の公園付近で目撃された!?詳しい場所は……」

 

裏口に向かう際に、フロアの方から、長谷川さんの驚く声が聞こえた様な気がしたが、俺は構わず裏口から外に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穏やかに晴れた午後の公園。

 

冬という事もあり、風は中々に冷たいが、小さい子供が遊ぶには充分な条件を満たしている。

 

しかし現在其処に居るのは、無邪気に公園の遊具で遊ぶ子供の姿では無く、異形の姿をした怪物だった。

 

『飛ばすわよ!!!!』

 

その異形に一台の乙女口調なオッサンボイスなライダーバイクである、チェイサーさんが、情け容赦ないバイクタックルをお見舞いする。

 

突然の事態に咄嗟の対応が間に合わなかった異形の存在、ホルダーモドキは、成す術無く吹き飛ばされた。

 

「何でこんな場所に、ホルダーモドキが一体だけ居るんだ?」

 

既にメカ犬と合流してシードへと変身していた俺は、一仕事終えたチェイサーさんから降りながら、疑問を口にする。

 

『どうやら一体だけ、という訳では無さそうだぞマスター』

 

しかしここでベルト状態になっているメカ犬が、俺とは違う意見を口にした。

 

すると先程のメカ犬の言葉を合図としたかの様に、公園内に十数体のホルダーモドキが、その姿を現す。

 

「そうみたいだな……」

 

俺は辺りを見渡しながら、溜息混じりに返事を返す。

 

『何が目的かは知らないが、放って置く訳にも行かないな』

 

「分かってるって!!!」

 

他にホルダーの姿も見えないし、オーバーやメルトが居るという気配も感じないのは、正直不気味だと思うが、メカ犬の言う通り、このままホルダーモドキ達を野放しにする訳にも行かないのは事実だ。

 

「行くぞ!」

 

『うむ!』

 

俺とメカ犬は、互いに短く声を掛け合ってから、ホルダーモドキ達に突っ込んで行った。

 

「はあ!」

 

ホルダーモドキは、通常のホルダーに比べて、思考能力が低いのか、単調な攻撃しかしてこないので、その攻撃を捌くのは左程難しい事でもない。

 

お世辞にも素早いとは言えない攻撃を掻い潜りながら、俺はホルダーモドキ達に、拳と蹴りによる打撃を与えていく。

 

そんな攻防が暫く続くと、道路側から聞き覚えのあるサイレンが聞こえて来た。

 

俺の耳にその音が届くのと、ほぼ時を同じくして、少し離れた位置に居たホルダーモドキ数体から、火花が上がる。

 

視線をその先に向けると、メタルイエローのボディーに、青い複眼を持つ仮面ライダー、E2が普段は右腰のホルスターに収められている専用銃、ESM01を抜き放ちながら、こちらへと走って来るのが見えた。

 

「は!」

俺達の近くまでやって来たE2は、次々とホルダーモドキ達に、銃弾を放ち続ける。

 

『ここは一気に片付けるぞマスター』

 

それを見ていた俺にメカ犬が合図を送ってきた。

 

「ああ!」

 

俺はその言葉に頷きながら、タッチノートを引き抜こうとしたのだが、その時予想外な出来事が起こった。

 

「きしゃああああああああああ!!!!」

 

謎の影が突如として、公園の茂みから飛び出して、俺に襲い掛かって来たのである。

 

「うわ!?」

 

その予想外の攻撃を喰らった俺は、驚きの声を上げながら、衝撃で地面に転がった。

 

『大丈夫かマスター!?』

 

「ああ、問題無い……」

 

予想外の出来事に驚きはしたものの、さしてダメージも受けて居なかったので、俺は心配するメカ犬に、安心する様に言いながらすぐさま立ち上がり、俺を襲った影の正体へと視線を向ける。

 

その正体は一言で表すとするのであれば、山猫という言葉が適切な気がする。

 

正確に言えば山猫に良く似た異形の存在、つまりホルダーだが。

 

飼い猫とは違う野性味溢れた茶色い毛並みに、長い尻尾と細長い瞳孔を持つ金色の目。

 

体毛に覆われた手から出し入れされる鋭い爪など、その姿はまさに山猫と言えるだろう。

 

『先程のホルダー反応の正体は、こちらだったという事か……』

 

俺と同じ様にホルダーを観察していたのか、ベルトからメカ犬が呟く声が聞こえてくる。

 

「きしゃあああああああああああ!!!!」

 

そんな間にもホルダーが奇声を上げて、再び襲い掛かって来た。

 

『来るぞマスター!』

 

「そう何度も喰らうか!!」

 

俺はホルダーが飛び掛るよりも早く、ベルトの右側をスライドさせて、赤いボタンを押す。

 

『パワーフォルム』

 

流れる音声と同時に、メタルブラックのボディーが、クリムゾンレッドへと染め上がる。

 

「きしゃあ!?」

 

俺がフォルムチェンジしたその直後、ホルダーの鋭い爪の一撃が、俺の肩に叩き込まれるが、先程とは違い、微動だにしない俺を見て、今度はホルダーが驚愕の声を上げる。

 

「おりゃあ!」

 

自分の攻撃が効かなかった事に驚くホルダーに対して、俺は右拳を思い切りホルダーの鳩尾に叩き込んで吹き飛ばした。

 

『畳み掛けるぞマスター』

 

「良し!」

 

俺はメカ犬の言葉に頷きながら、ベルトからタッチノートを引き抜いて、操作を開始した。

 

『ダイバー・コール』

 

タッチノートから音声が流れてから、殆ど時間を置かず、空から例の歌が聞こえて来た。

 

『アタイは~海の~妖精さ~ん♪』

 

メタルブルーのボディーを持つ手乗りイルカこと、メカ海である。

 

『マスターに呼ばれたから、急いで来たんだわさ~』

 

メカ海は相変わらず、戦闘の緊張感を奪う間延びした声で、話し掛けてくる。

 

「頼むよウミちゃん!」

 

俺は何とかその脱力感を防ぐ為に、出来るだけ気合を入れながら、メカ海に言いつつ、タッチノートの操作を続行する。

 

『りょうか~い』

 

……だが多少緊張感が削がれてしまうのは、どうしようも無いと、半ば諦めてもいたりする自分が確かに存在していた。

 

『スタンディングモード』

 

そんな微妙な空気を醸し出しつつも、タッチノートの操作を終えて、メカ海がアタッチメントパーツへの変形を果たして、俺の手の中に納まった。

 

俺は急いでタッチノートを再びベルト差込み、続いてベルトの左側をスライドさせて、アタッチメントパーツを差し込んだ。

 

『パワー・ダイバー』

 

俺の周囲に展開したメタルブルーの追加装甲が、瞬く間にクリムゾンレッドのボディーへと、装着されていく。

 

シードの強化形態の一つでもあるパワーダイバーになった俺は、すぐさまアタッチメントパーツのレバー下にあるボタンを押す。

 

『パワーアックス』

 

ベルトから発生した光で生成された、パワーダイバーの斧型の専用武器パワーアックスを握り締めながら、俺はホルダーに追撃を仕掛ける。

 

「きしゃああああああ!!!」

 

吹き飛ばされたダメージから幾らか回復したのか、ホルダーも俺に反撃してくるが、俺はその攻撃をものともせずに、パワーアックスによる連撃を叩き込んでいく。

 

『マスター今だ!!!』

 

「ああ!!!」

 

パワーアックスによる連撃を喰らわせて、怯んだホルダーにメカ犬が、今がチャンスだと教えてくれる。

 

俺もそう考えて、アタッチメントのレバーを引こうとしたその時。

 

「待って!!!!!」

 

公園内に幼い少年の声が響き渡った。

 

その声に振り向くと、小学二年生から、三年生程であろうか。

 

やけに線の細い、薄幸の美少年とで言う様な男の子が、叫びながらこっちに走って来る。

 

「ミケは……ミケは何も悪く無いんです!!!!!」

 

「はい!?」

 

俺は走りながら叫んだ少年の、思わぬ言葉に、驚きの声を上げた。

 

その一瞬が、不味かったのだろう。

 

突然現れた美少年にミケと呼ばれたホルダーの居た場所に再び視線を戻した時には、既にその姿は何処にも無かった。


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