魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
正直に言えば、最初はサバスチャンの小粋なジョークなのかなと、心の何処かで思っていた。
だけど渡されたスーツに着替えて、テレビでしか見た事の無い様な、大きなお城に案内された後、この国の王様とお妃様、つまりエミリーちゃんのご両親に挨拶をした辺りから、これは変え様の無い現実か、とても性質の悪いドッキリのどちらかではないかと、真剣に考える域に達してしまった自分がいる。
本当にサバスチャンの小粋なジョークだったら、せめて性質の悪いドッキリだと、ハンドマイクと看板を持って芸人さんが出て来てくれたのであれば、どれだけ気持ちが楽になっただろう。
俺は何か粗相をすれば、地下の牢獄にでもぶち込まれるのではないかというプレッシャーを、内心で抱きながら、この国のトップとの挨拶を、どうにか無難に乗り切り、パーティーが開始されるまでの一週間の間、俺がお世話になる部屋へと、サバスチャンとは別の、若い執事さんに案内されて現在に至る。
「……これからどうするべきなんだろう」
一人部屋としてはかなり広い、恐らく二十畳程はありそうな部屋の中で、これまたキングサイズな巨大ベッドに寝そべりながら、俺は頭を抱えた。
俺が王様達に挨拶をしている間に、サバスチャンか、もしくは他の使用人の人が既にこの部屋へと運び込んだのであろう俺の荷物から取り出しておいた、愛用の丸みを帯びた青いシンプルな形の目覚まし時計で、時間を確認してみると、既に夜の九時を回っている。
挨拶の後に、食事をどうするのか聞かれたが、正直なところ、いきなりな展開に着いて行けなかったので、とても食事を摂る気にはなれず、失礼とは思ったがお断りして、こうして部屋に案内してもらったのだ。
食欲が無かったのは本当の事だし、フランス料理も食べた事の無い俺は、当然ながら正式なテーブルマナーも知らない。
この国の食事作法がどういった基準用いているのかは知らないが、その国のトップとの食事で何か仕出かしでもしたら、それこそ大きな外交問題の切欠となるかも知れないのだ。
エミリーちゃんが食事しているところを見ると、特に変わった食べ方はしていなかったが、用心に越した事はないだろう。
……まあ、このエミリーちゃんの婚約者を決める為のパーティーに、何故か招待客としてでは無く、当事者の一人になってしまったというのも大きな問題ではあるが、それ以上に気になる事がある。
今日の昼間に人魚の入り江で見つけた、暴走プログラムの研究施設。
更に俺とメカ犬が知らない未知の暴走プログラムを使って、明らかに口封じを狙ってきた男……
戦う前に嘘か本当か、自身を雇われの身だと言っていたが、もしもそれが嘘偽りの無い真実ならば、少なくとも、まだあの研究施設を利用していた首謀者が一人はいる筈だ。
もしかしたら雇われた人間が他にも居て、敵は複数なのかもしれない。
情報があまりにも少ない現状では、もしかしたらという仮定の話が尽きないので、余計に考えが纏まらずに、頭が痛くなってくる。
俺は中々の難題に、頭痛を覚えながらも、取り敢えず今後どうやって情報を得れば良いのか、方針だけでも決めておこうと思ったその時、ベッドの脇から声を掛けられた。
『マスター』
声を掛けて来たのは、何気にずっと俺と、一緒に着いて来ていたメカ犬である。
お城の人達は、メカ犬が一言も喋らなかったので、おもちゃだと思ったのか、特に聞いてくる人は居なかったし、王様達のとの挨拶の際も、背景に完全に溶け込んで、やり過ごしていた。
流石にこの部屋に案内してくれた執事さんは、気になってか、頻繁にメカ犬を見ていたが、それだけである。
これも一つの隠密行動と言えるのだろうか?
「どうしたんだよ?」
『現状マスターの立場が、物凄い事になっているのは分かるのだが、ワタシはどうしても昼に戦ったホルダーを倒した事と、研究施設を破壊しただけで、全てが終わったとは思えないのだ』
どうやらメカ犬も、俺と同じ事を考えていたらしい。
「分かってるさ。こっちの件は、何とか自分で対処してみるから、メカ犬は情報収集を頼むぞ」
俺は溜息を一つ吐いた後に、恐らくメカ犬がこれから、提案しようとしていたであろう言葉を先に告げる。
『うむ。マスターがそう言うならば、ワタシはビーチ周辺を調査して来よう。森に住んでいる動物達ならば、研究施設に出入りしていた人物を目撃している可能性が高い』
「俺も出来るだけ、このお城で探りを入れてみる。あの研究を引き継げるだけの知識に、人を動かせる財力がある人間なんて言ったら、かなり絞られる筈だしな」
こうして今後の方針が決まった俺とメカ犬は、早速それぞれの行動に移っていく。
メカ犬はこのまま夜の闇に紛れて、お城を出て夜行性の動物達に聞いてみると言って、部屋を出て行った。
俺も寝るまでにはまだ少し時間があるので、廊下に出て誰かに話を聞いてみようと思い、天国の様な柔らかさを持つベッドから降りる。
幸いにも、城内で働いている人達は、友好国でもっとも近い国という事で、日本語を必修科目で学生時代に習う為、全員がある程度日本語を話せるらしい。
言葉が通じるのであれば、今回のパーティーの詳細に、あわよくば、暴走プログラムの研究を引き継げそうな人物を教えてもらえるかもしれないのだ。
そう考えながら、俺がドアノブに手を掛けると同時に、扉が数回ノックされた。
俺はこんな時間に誰だろうと思いながら、そのままドアノブを捻り、ゆっくりとドアを引いて、先ほどこのドアをノックした人物を招き入れる事にした。
「はい……」
そう言いながらドアを開けて、俺が最初に視界に捉えたのは、綺麗に風に靡く銀色の髪だった。
俺と同じくらいの小さな女の子で、この国のお姫様でもある、お昼には一緒に人魚の入江に向かい、今も俺の頭痛の原因の一部となっている異国の友達……
「夜分遅くにすまぬのう」
エミリーちゃんがそこに居た。
「……いや、それは良いんだけど、何か用事?」
まだ夜の九時過ぎではあるが、何か用事があっても、大抵は次の日に持ち越す事だろう。
態々ここまで訪ねて来たという事は、もしかしたら急ぎの用事なのかと思い、質問してみた。
「うむ。しかし廊下で話すのも何じゃから、出来れば部屋に入れてもらっても良いかの?」
「あ、ごめんね。気が利かなくて」
俺はエミリーちゃんの話が何なのか、予測を立てながら、部屋へと招き入れる。
最初は向かい合う形で、最初から備え付けられていた椅子に腰掛けて話し合おうとしたのだが、大人用に作られたそれらは、俺達のサイズに合わず、最終的には先程まで俺が寝そべっていたキングサイズのベッドに腰掛ける事で落ち着いた。
「改めて言わせて欲しいのじゃ、純!今回は本当にすまぬ事をした!!!」
さてこれから何を話すのかと思いながら、向かい側に座っているエミリーちゃんを見ていたら、開口一番で俺に頭を下げながら謝ってきたのである。
「取り敢えず頭を上げて、エミリーちゃん。俺も色々と聞きたい事はあるけど、何で突然俺に謝ったの?まずはそこから説明して欲しいんだ」
慌ててエミリーちゃんの頭を上げさせた俺は、改めてエミリーちゃんに質問をした。
「そうじゃのう……まずは何から話すべきか……」
俺の言葉に顔を上げたエミリーちゃんは、一度咳払いをする事で、気を取り直したのか、静かに語り始めたのである。
エミリーちゃんの話を要約すると、今回の婚約パーティーは、ガルドの一件が発端となっているらしい。
国王を含む国の上層部が操られていたとはいえ、元大臣のテロとも言える所業に、肝を冷やしたこの国で大きな権利を持つ者達が、自分達の世代は勿論、次の世代に同じ事が繰り返されない様に、早急に信頼の置ける人物に次代の国王となってもらおうと考えたのだそうだ。
そこで逸早く次代の国王候補を決めるのに、手っ取り早いと考えられたのが、エミリーちゃんの婿を今の内に決めてしまおうという事である。
幾ら王国とは言っても今は現代社会であり、あまり生まれた頃から、結婚相手を決める等という事は、事実上廃止となっていたが、今回の件を重く見た重鎮達が、言葉巧みにエミリーちゃんのお父さんである、この国の国王様を説得してしまったのだ。
現在はエミリーちゃんは兄と姉、弟に妹もいない、所謂一人っ子ではあるが、エミリーちゃんの年齢から分かる通り、この国の国王様とお妃様は充分に若い。
数年内にエミリーちゃんに弟でも出来れば、即座に継承権は移るのだそうだが、話はそれで終わるものでは無かったのだ。
この婿選びは表向きには、次期国王を決める為というものになっているが、様は信頼出来る上に、優秀な人材を確保しておくという上層部の目的が見え隠れしている。
しかもこの国には、基本的に結婚する際、日本の様な法的に定められた年齢は存在していない様なのだ。
以前ガルドが無理やりに、エミリーちゃんを連れ去って、婚姻を結ぼうとしたのも、それが大きな要因となっているのだろう。
この国での大人か子供かの基準は、基本的に年齢ではなく、何かしらの職業を持つか、確かな肩書きを持っているかで判断されており、それが無ければ結婚は出来ないのだそうだ。
ちなみに何かしらの職種における、見習いはこの肩書きにも該当するが、学生等の直接的な価値を見出せない類には適応されない。
もっと細かく分類すれば、他にも例外等が存在するらしいのだが、その部分ばかりを話すと、物凄く長い話になってしまう上に、俺自身もエミリーちゃんから話を聞いただけで、全てを把握出来ていないから、この辺りは必要な部分以外の説明は割愛させていただこう。
まあ、先程言った肩書きにおいて、例外に含まれる存在の一つが、エミリーちゃんの持つ肩書き。
この国のお姫様だという事だ。
その為エミリーちゃんは、生まれながらにして、この国ではたとえ赤ん坊だったとしても、大人という分類に入れられてしまうのである。
だからこの国で婿を決めるパーティーが催されて、相手が決まってしまえば、エミリーちゃんの成長を待たずに、即挙式が挙げられてしまう。
ここまで長々とこの国の上層部の思惑と、結婚制度について説明した訳だが、ここからが本題である。
先程も説明したが、このまま全てが上層部の目論見通りに進行していけば、エミリーちゃんはパーティー終了後に即結婚という運命が待ち受けている訳だ。
しかしそれには、一つだけ抜け道があった。
それが俺という存在な訳である。
正確に言えば、俺が日本人だという事が重要なのだ。
一週間後のパーティーに参加する婚約者候補は、俺も含めて三名。
俺以外の二人は、どちらもこの国の名家の生まれで、年齢も二十歳を超えており、結婚に必要な肩書きを有している。
その中で俺だけが異端なのだ。
俺の国籍は日本であり、結婚するには十八歳以上の年齢に達さなければならないと、法的に定められている。
この国は諸外国と有効な外交活動を行いながら発展を遂げた国であり、友好国である日本人を、無碍には出来ない。
それは国を統べる王族だったとしても例外ではないのである。
つまり俺が婿候補の中で、エミリーちゃんの結婚相手に相応しいと認められた上で、国籍を変える事を突っぱねれば、即挙式という強引な事は、事実上不可能になる訳だ。
他にも手段はあったのかも知れないが、この話を画策した人達も強引とは言え、国の未来を案じてこういった手段を取ったのだという事もあり、彼等を失墜させる様な過激なやり方を取らずに、納得させようと思ったら、実現可能だったのが、この方法のみな上に、先程の条件に当て嵌まり、尚且つ対等に他の婿候補と渡り合えそうな人物が、俺しか思い浮かばなかったらしい。
話を聞けば、俺はエミリーちゃんと、サバスチャン、それに日本に来ていた元護衛隊員達からの特別推薦によるもので、他の二人は数百人という候補者達から選りすぐられて勝ち上がった、エリート中のエリートなのだそうな……
普通に考えれば、日本に住んでいる一般的な小学生が、そんな面子を相手に勝負する事自体が間違っている。
それが分かっていたから、こそなのだろう。
もし全てを説明すれば、俺に断られるのではないかと危惧して、先に保護者名義で話を持ちかけてから、相談しようとした所で、俺達の親からの申し出だったとは言え、サプライズプレゼントとして進行させていくという案が出た事で、それに便乗して、勢いでなのはちゃん達を含めて、俺をこの国に連れてきた。
今だからこそ話すが、俺の家にだけ最初の手紙が、届くのが数日早かったらしいので、後からなのはちゃん達もパーティーに誘うという展開に切り替えたのだろう。
部屋に入ってきて、初めににエミリーちゃんが謝ったのは、俺に最初から何の説明もしないまま、騙す様な形で巻き込んでしまった事に対してだった様だ。
「……改めて言わせて欲しいのじゃ。一度ならず二度までも、我は勝手な都合で、純を巻き込もうとしておる。本当にすまぬ……」
大体の説明を終えたエミリーちゃんが、再び俺に頭を下げて謝る。
俺はその様子見ながら、一度頭の中で先程エミリーちゃんが話してくれた内容を、自分なりに整理してから、肺一杯に吸い込んだ空気を溜息として吐き出した。
「エミリーちゃん……」
「本当にすまぬと思っておるのじゃ……我もこんな、騙す真似はしたく無かったのじゃ……」
俺が呼びかけても、エミリーちゃんは頭を下げたまま謝罪を続ける。
「もしも純が拒むのであれば、今回の事は無視してくれて構わぬ!元々はこの国の問題で、こういった事態も我の生まれを考えれば、逃れられぬ運命と言えよう……」
「エミリーちゃん。ちょっと顔を上げてくれる?」
尚も頭を下げながら、謝罪の言葉を言い続けるエミリーちゃんに、俺は一言だけ、言葉を投げかける。
その言葉に戸惑いながらも顔を上げたエミリーちゃんに俺は……
「あ痛っ!?」
エミリーちゃんの額にデコピンを食らわせた。
「い、痛いのじゃ……」
不意打ち気味にヒットしたデコピンが相当効いたのか、エミリーちゃんは右手で額を擦りながら、涙目になっている。
「これはエミリーちゃんが、俺に何も話してくれなかった事へのお仕置き!」
俺は涙目で此方を見ている、エミリーちゃんに言い放つ。
「……純?」
「……だからこれで、俺に謝る必要は無いんだよ」
続いて俺はエミリーちゃんの綺麗な銀髪を、少しだけ触れながら、梳かす様に撫でる。
「わ、我を怒ってるのでは無いのか?」
無抵抗で俺に撫でられながら、エミリーちゃんが俺に恐る恐るそう聞いてきた。
「怒ってたけど、さっきお仕置きしたから、もう怒ってないよ。それよりも、これからの事を考えよう」
結婚ていうのは俺自身は経験が無いが、人生の上でかなり重要な出来事だと思う。
絶対とまでは言わないが、結婚をすればその大半の人生を伴侶と共に過ごす可能性が高いのだ。
理由は聞かないが、エミリーちゃんは、それを決めるのは今では無いと判断したのだろう。
今から俺がしようとしている事は、この国全体から見れば、決して良い事とは言えないかも知れない。
だけどそれが何だと言うのだろうか。
無責任で結構だ。
誰が文句を言おうと関係無い。
今目の前で、友達が困っていて、怒られる事を覚悟した上で、結果的にかも知れないが、無理やりとも言える強引な手段に出てまで、助けを求めて俺をここに呼び寄せたのである。
だから俺がするべき事はただ一つ。
友達を助けるのに、理由は要らない。
「……協力してくれるのか?」
「うん。俺に何が出来るか、分からないけどね」
「……すまぬ」
「こういう時は、謝るんじゃなくて、お礼の言葉を言って欲しいかな?」
「あ、ありがとう……なのじゃ」
この小さなお姫様の為に、俺は出来るだけの事をしよう。
それが友達ってものなのだから。
方法の一つとしては、エミリーちゃんの両親、つまり王様が認めてくれれば、今回の婿決めを画策した上層部も文句は言えない筈だ。
まあ、その方法をどうするのかが、今後の課題なのだが、それが上手くいってもしも仮に、俺が婚約者になったとしても、実際に結婚しろと言われるのは、十年以上先の事ではあるし、その間にエミリーちゃんに弟が出来れば、婚約は解消出来るだろう。
そうでなくても、最低でも数年の時を稼げれば、エミリーちゃん自身が気に入る男性と巡り合う事だって、不可能では無い筈なのである。
つまり俺は、エミリーちゃんが成長するまでと、取り巻く環境が変化するまでの、防波堤的な役割を担えば良いのだ。
かなり楽観的な考えだという事は、俺も理解しているが、今はそれ以外に講じる事が出来る手段が無いのだから、仕方が無いだろう。
「……のう、純」
これからするべき事への覚悟が決まったので、色々と考え事をしていたのだが、どうやら無意識に俺はエミリーちゃんの頭を撫で続けていたらしい。
「あ、ごめん」
エミリーちゃんの声で我に返った俺は、慌ててエミリーちゃんの頭から手を退けた。
「あ!い、いやもっと我の頭を撫でてくれて構わんのじゃぞ。それに最近はこの事で頭が一杯になっておってのう。色々と不安だったのじゃが、純のおかげで少し気が抜けての……」
そう言ったエミリーちゃんは、少し遠慮しがちに、おれの胸に顔を埋める形で抱きついてきた。
「え、エミリーちゃん!?」
「……少しだけこのままでいさせてはくれぬか?」
突然の抱きつきに、慌てた俺だったが、呟く様に言ったエミリーちゃんの言葉に、俺は静かに頷くしかなかった。
暫くはその格好のままで、俺がエミリーちゃんの頭を撫で続けるといった状況が静寂の中で続いていたのだが、エミリーちゃんが口を開いた事で、その静寂は終わりを告げる。
「のう、純」
「うん」
「人を好きになるというのは、どういう事なのじゃろうな?」
いきなり難解なテーマを問われた気がする……
エミリーちゃんが言った好きの意味は、多分家族に対してや、友人に対しての好きではなく、恋人やそういった恋愛感情に対しての好きという意味だろう
はっきり言って、前世を含めても経験皆無な俺には答える事が出来そうに無い、かなりハイレベルな質問である。
「う~ん……俺も良くは分からないけど、やっぱり相手を愛しいって思う事何じゃないかな?」
以前にプロの漫画家である燐子さんが、恋愛漫画を描く時の参考にと、母さんに相談していた時に、母さんが答えていた言葉の受け売りではあるが、経験者の言葉なので、はずれではないだろう。
そもそもこういう事は、人其々なのだから、一つの答えに絞る事等出来ないのかもしれないが……
「相手を愛しいと思うか……それならば我の、この気持ちも……恋なのかのう?」
俺の答えに何か呟いていたエミリーちゃんが顔を上げて、俺を見上げてくる。
心なしか部屋全体の空気が変わった様な気がするのと同時に、少しずつエミリーちゃんの顔が、俺の顔に近づいて来てるんじゃないかと思ったその時……
「なりませぬぞおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!姫様ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
部屋のドアが勢い良く開け放たれて、エミリーちゃん専属の老執事、サバスチャンが叫びながら登場した。
そして老人とは到底思えない、現役アスリートの様な走りで、ベッドまで辿り着くと、抱き合った状態にあった俺とエミリーちゃんを引っぺがして、エミリーちゃんを担ぎ上げる。
「どうも夜分に失礼いたしましたな純殿」
サバスチャンは俺にそう一言だけ述べて、再び部屋の扉へと、エミリーちゃんを担ぎ上げた状態で歩いていく。
「放すのじゃ!サバスチャン!もう少しで我は……」
「なりませぬぞ姫様!幾ら幼いといえど、夜も遅い時間に、男性の部屋に行き、あまつさえ抱擁を交わす等と!!!その様な破廉恥な真似はこのサバスチャンの目が黒い内は、決して許しはしませぬ!!!!!!!」
「そう言うサバスチャンは、何かあるとすぐに我に抱きつこうとするではないか!?」
「私の場合は、仕えるべき主君を想う愛ゆえにでございますから」
「不公平じゃああああああああああああああああああ!?」
何かを喚き合いながら、二人はこの部屋を出て行ってしまった。
他にもまだ色々と聞きたい事があったのだが、目覚まし時計で時間を確認すると、メカ犬と話していた時間から二時間程経過していた。
「……今日はもう寝よう」
俺は明日聞けば良いと判断して、部屋の明かりを消して、ベッドに潜り込んで暫くして眠りについた。
そして次の日から、俺に出来る事をし続けて、一週間という時は瞬く間に過ぎ去り、パーティー当日の朝を迎えたのである。