魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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仮面ライダーシード&仮面ライダーW ミックスワールド・クライシス【最終章

「メリークリスマース!!!!」

 

全てを終えた俺達が、やっと帰ってくる事が出来た、鳴海探偵事務所の玄関の扉を開けると同時に、クラッカーを持った中年のサンタルックなおじさんが、クラッカーでカラフルな紙吹雪と火薬の匂いを撒き散らしながら叫んだ。

 

最初はあまりの出来事に驚愕していたが、この人物には物凄く見覚えがあった事を思い出す。

 

この中年のサンタコスをしたおじさんは、W製作スタッフの間で通称となっていた、風都イレギュラーズの一人、サンタちゃんで間違い無い。

 

しかも後ろに視線をやると、サンタちゃんだけではなく、ウォッチャマンやクイーンとエリザベスまで居る。

 

「あ、皆お帰り~」

 

「遅かったな」

 

「どうも。僕まで呼んでいただいて、ありがとうございます」

 

俺達の帰宅に気づいた他の人達が話し掛けてくる。

 

亜樹子さんと照井さんがいるのは理解できるのだが、何故か長谷川さんまで居たのだ。

 

だが想定外の出来事はこれだけでは終わらなかった。

 

「何処行ってたのよ純!」

 

「こんな面白そうな場所があるんなら、最初から私達にも教えてくれたっても良かったのになあ~」

 

「うん。なのはちゃんと一緒に、知り合いの家に行くって聞いてたけど、探偵事務所だったんだね」

 

どうしてなのか、アリサちゃんに、すずかちゃんと、はやてちゃんが俺を出迎えてくれたのである。

 

「ちょっとお姉ちゃん!その唐揚げは、私が先に目をつけてたんだからね!」

 

「あら、この唐揚げには、恵美の名前が入ってるのかしら?」

 

しかも風都イレギュラーズの皆さんの中に、さりげなく風間姉妹が溶け込んでいるし……

 

事務所内を良く観察してみると、幅を利かせていた大きなソファーは隅に片付けられており、何処から調達してきたのか、大きなテーブルが二つ並んで設置されている。

 

そのテーブルの上には、大量の料理が所狭しと占領しているのだ。

 

この状況を一言で表すのであれば、立食パーティーというのが妥当だろうか。

 

「あの、これは一体何の集まりなんですか?」

 

「何の集まりって……純。今日が何日なのか、覚えてないの?」

 

俺は亜樹子さんに聞いたつもりだったのだが、何故かアリサちゃんが、俺の質問に対して、質問で返す。

 

今日が何日か……俺は頭を捻らせながら必死に考える。

 

「あ!」

 

そこで思い出す。

 

昨日は確か、十二月二十三日。

 

つまり今日は……

 

「変な事言うんやな、純君は」

 

「今日はクリスマスイブなんだよ」

 

やっと気づいたのかと、アリサちゃんに続き、すずかちゃんとはやてちゃんも苦笑いを浮かべながら言う。

 

暫くして、俺が落ち着いてから、皆にどうしてこうなったのかの経緯を聞くと、念の為に恵理さんに教えておいたこの探偵事務所に、俺達の帰りが遅いという事で直接向かえに来たらしい。

 

そこで亜樹子さんと会って、俺の知り合いだと言ったら、人数が多い方が楽しいからと、このパーティーに招かれたのだそうだ。

 

そもそも何故この鳴海探偵事務所で、クリスマスパーティーが行われているのかというと、隣で話している翔太郎さんと亜樹子さんの会話を聞く事で理解する事が出来た。

 

かいつまんで説明すると、戦いが終わった後に、亜樹子さんが祝勝会をしようと言い出したそうなのだが、ちょうど今日がクリスマスイブだったという事で、他にも今から参加出来る人達を集めて、パーティーをしようという事になったらしい。

 

ちなみに長谷川さんと恵美さんが居るのは、戦いが終わった後に、直接招待したのだそうだ。

 

それにしても思うのは、二つの世界の暦についてだ。

 

どうやら俺達が居た世界の方が、基本ベースとなっているらしいのだが、翔太郎さん達の世界は、照井さんと亜樹子さんの結婚と新婚旅行の時期や、本来は忙しい時期の筈なのに、すぐに集まれた風都イレギュラーズの

事を考えると、彼等にとっては本当の暦とは違うのではないかと考える。

 

元々違う世界が不安定な形で一つとなっているのだから、何処かで歪みや世界の修正力というものが働いているのかもしれない。

 

まあ、幾ら考えても俺に答えを出す事は出来ないし、フィリップ君の話しでは、明日の朝には全てが元通りになるというのだ。

 

悩むのはこれ位にして、俺もこの一時を楽しんだ方が得かもしれない。

 

そう決断した俺が、皆のパーティーの輪に加わろうとしたその時だ。

 

「……純」

 

この祝いの場には似合わない、小さな声が俺の耳に聞こえてきた。

 

「なのはちゃん……じゃなくてユイか?」

 

なのはちゃんが普段から見せる雰囲気とは違う事で、俺はこの見知った少女がユイだという事に気づく。

 

そしてユイは俺が呟いた言葉に対して、静かに首を縦に振り、俺の考えが間違いでは無かった事を証明してくれる。

 

「少しだけ二人で話したいの」

 

「話しって?」

 

「ここじゃ話しづらいから、外で良いかな……」

 

俺はユイのこの申し出を承諾して、皆に外の空気を吸ってくると言って、二人で探偵事務所の外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に太陽も沈み、夜の闇を月明かりが優しく照らしている。

 

もう少し歩けば、綺麗なクリスマスのイルミネーションが見える場所に行けそうではあるが、今の俺とユイがいる場所は、そういった装飾は施されては居ないので、明かりは所々に設置された電灯と空から降り注ぐ月明かりのみだ。

 

「……最後に兄さんが純にありがとうって言ってたんだ」

 

月明かりに照らされながら、暫くの沈黙の後、ユイは優しく微笑みながら言った。

 

「……そっか」

 

何を言うべきなのか、考え付かなくて、俺は辛うじてそう返す事しか出来なかった。

 

「ありがとう」

 

何故かユイはもう一度その言葉を口にする。

 

「さっきのは、兄さんに頼まれた分で、これは私から。純には何度言っても言い足りないんだけどね」

 

「ユイ……」

 

ユイの言葉に、俺は戸惑う。

 

俺に出来た事は何だったのか。

 

メカ犬は俺がユイのお兄さんに、笑顔を取り戻させたと言ってくれたが、何処か後悔の念が拭いきれない。

 

もしかしたら他に何か方法があったんじゃないかと、未練がましい考えが何度も脳裏を過ぎる。

 

「これが最後なんだから、そんな悲しい顔をしないでよ」

 

ユイはそう言うと、俺を抱き寄せて、耳元で語りかけてくる。

 

「私の中に眠ってるあの子が教えてくれるんだ。純は優しすぎるから……だからね。もう私達、兄妹の事で迷わなくて良いんだよ」

 

まるで春の微風の様に、ユイの言葉が、俺の心を癒していく。

 

だけど、それでも俺の心の中から、消えてくれない後悔の気持ちが残り続ける。

 

「もう全部終わった事だったんだよ。誰も悪くないの」

 

「……だけど俺は」

 

「きっとね。神様が私のお願いを叶えてくれたんじゃないかなって思うんだ」

 

言いかけた俺の言葉に被せる様に、ユイは語り続ける。

 

「私も兄さんも、本当は言えない筈だったお別れの言葉を言う事が出来たんだよ。それに最後を笑って終わりに出来るから……ううん。きっと私はこれから始まるのかも」

 

「ユイ……もしかして」

 

「私も今から兄さんの居る場所に行くね。それで全部最初から始めるんだ」

 

お互いの吐息すら感じ取れる様な距離で見た、ユイの笑顔には一片の曇りも見えなかった。

 

「最後にもう一度ありがとう……この子と何時までも仲良くしなくちゃ駄目だよ」

 

ユイは俺にそう言った後、目を閉じて全身の体重を預けてきた。

 

「……ユイ?」

 

俺がユイに言葉を投げかけると、暫くしてゆっくりと、閉じていた目を開ける。

 

「……純……君?」

 

その言葉を口にした少女の表情は、俺が良く知る幼馴染のものだった。

 

そしてこの事象が、俺に一つの別れを理解させる。

 

「……ここって何処なの?何か外も真っ暗だし?」

 

完全に覚醒したなのはちゃんが辺りを見回しながら、現状を把握出来ずにあたふたしている。

 

何時ものなのはちゃんだ。

 

一連の動作を見て、この子はユイではなく、俺が昔から知っている、幼馴染のお隣さんの同い年の女の子なんだと、改めて実感する。

 

「なのはちゃん!!!」

 

「え!?ふわ!?じゅ、純君!?」

 

俺は湧き上がるこの感情を抑える事が出来ずに、思い切りなのはちゃんに抱きついてしまう。

 

この感情が再会の喜びなのか、永遠の別れを実感した事への悲しみなのか、様々な考えと自分でも理解出来ない感情が俺の中で混ざり合い、整理する事が出来ずに、今はただ目の前に居るなのはちゃんを抱きしめる事しか出来なかった。

 

最初は俺に抱きつかれて、慌てていたなのはちゃんだったが、暫くするとただ優しく俺の頭を撫でていた。

 

不思議と撫でられる度に、俺の中に湧き上がった感情は、落ち着きを取り戻していく。

 

「……ごめんなのはちゃん」

 

どうにか落ち着いた俺は、謝罪の言葉を口にする。

 

「大丈夫だよ。少し驚いただけだし。ところでここって……あ!」

 

なのはちゃんが言い掛けたその時だ。

 

空から小さく白い結晶が俺達の目の前に舞い降りた。

 

「雪だね」

 

「ああ」

 

静かに少しづつ降り積もる雪を、なのはちゃんは小さな手を広げて掬い取る。

 

何処と無くこの語呂と幻想的な雰囲気は、先程別れを告げた、彼女を連想させた。

 

まだ少し心の整理はつかないが、最後に微笑んで自分のこれからやりたい夢を語ってくれた彼女に、俺も笑顔でさよならを言おうと思う。

 

ありがとう。

 

そして、さよなら……ユイ。

 

静かに降り積もるこの雪達が、俺には今頃再会しているであろう、仲の良い兄妹を祝福している様に思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しかし不思議なものだなマスター』

 

「そうだな」

 

次の日の夕方。

 

俺とメカ犬は自宅の部屋で、ここ二日で我が身に降り注いだ体験について話していた。

 

結局はフィリップ君が言った通り、クリスマスパーティーが終わり、自宅に帰って、今日の朝を迎えると、全てが元通りになっていた。

 

しかもメカ犬が先程言ったように、不思議な事なのだが、過ぎ去った筈の二日という時間までもが、巻き戻されていたのである。

 

つまり今日は、十二月二十三日の夕方で、学校の終了式があり、明日は皆で隣町の遊園地に遊びに行く約束をしているのだ。

 

俺とメカ犬以外の人達の記憶も、その日以前の状態にまで、改竄されていた。

 

『今にして思うが、あれはワタシとマスターが見た夢だったのではないかと思えてくるぞ』

 

「夢か……」

 

メカ犬の言葉を聞きながら、俺は部屋の一点を見る。

 

「いや、あれはきっと本当にあった事さ」

 

そこには俺の憧れる人達が書いてくれたサイン色紙が置いてある。

 

その存在が、これは夢なんかじゃなくて、本当に起こった一つの現実だのだと教えてくれるのだ。

 

だけどきっと、それは誰にも語られる事の無い、忘れられた物語。

 

皆が忘れてしまったとしても、俺は覚えている。

 

世界の危機を救った仮面ライダー達と、深い絆で結ばれた兄妹の物語を……

 

 

 

 

今日の海鳴は、何も変わらず、平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

W編   完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

「のう、サバスチャン。例の手紙は日本の皆に届いたかのう?」

 

「はい。確かに届いている筈でございますよ姫様」

 

「それなら良いのじゃ。我は今から楽しみなのじゃ!」

 

「姫様。慌てなくても、きっと大丈夫ですよ」

 

「うむ!」

 

これは、とある国のお姫様と、老執事の会話である。

 

 

 

 

 

次回の本編に続く?


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