魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「はあ!」
オーズの拳が連続で目の前の敵へと降り注ぐ。
敵の怪人はその拳を喰らう度に、辺り一体に銀色のメダルを何枚も落とす。
この怪人の名前はヤミー。
人が持つ欲望を糧に生まれたモンスターである。
そして辺りに散らばるメダルはセルメダルと呼ばれていて、このヤミーの身体を構成しているのだ。
ヤミーはグリードと呼ばれる、セルメダルよりも大きな価値があるコアメダルを核とした上位に存在するグリードが、人間の欲望を開放させる事により、その人間を宿主として成長する。
強い欲望を持つ人間が宿主となれば、それだけ多くのセルメダルが生まれるのだが、人の欲望とは何処までも歯止めが利かず、大抵の場合は大きな厄災を招く事となる。
オーズとなった火野映司は、このメダルを巡る戦いに、巻き込まれながらも戦い続けている。
自分が戦う事で、目の前で理不尽に傷つく人々を助けられるかもしれないと思ったから、自分に出来る事があるのに放っておく事は出来ないという意思を、映司は持っていたのが何よりの戦う理由だ。
「はあああ!」
オーズはヤミーの反撃を受け止めながら、それ以上に攻撃を加え続ける。
この猛攻に耐え切れなかったのか、ヤミーはオーズの攻撃で吹き飛ばされるのと同時に、空中で翼をはためかせて、空へと逃走を試みる。
「あ!待て!!!」
その様子にオーズは、慌てて声を荒げるが、そんな言葉にヤミーが従う筈も無い。
みるみる内に、オーズの視界から遠ざかっていくヤミーを前に、このままでは逃走を許してしまうと思われたその時である。
「逃がすな映司!こいつを使って仕留めろ!」
アンクが叫びながら、二枚のコアメダルを取り出して、オーズに投げ渡す。
「おっと!」
多少投げる位置が上にずれたその二枚のコアメダルを、オーズは跳びあがりながらキャッチする。
「そうか。これなら……」
キャッチした二枚のメダルを見たオーズは、納得した様に言葉を零す。
オーズが受け取った二枚のメダルは、現在の頭部であるタカヘッドを司るメダルと同様である、赤い色をしていた。
メダルを確認したオーズは、すぐに己が次にするべき行動を実行に移す。
オーズドライバーに現在収められている、三枚のメダルの内の、向かって左から中央と一番右のメダルを平行にしてから抜き取り、代わりに先程アンクから受け取った二枚の赤いメダルを入れて変身した時と同じ様に、ドライバーを再び斜めに傾けて、オースキャナーをスライドさせる。
『タカ・クジャク・コンドル』
変身した時とは違う音声が流れて、オーズの正面に縦一列で現れる三枚のメダルを模した、オーラプレートも、一番上以外は先程とは違う、赤い色である。
それと同時にオーズの姿が変化を起こす。
頭部は先程とあまり形状は変わらないのだが、若干の細部が変化して、緑色だった複眼が真紅に染まる。
腕部も赤く染まり、左腕には円形の盾タジャスピナーが装備され、背中には大空を舞う為の翼が出現した。
更に脚部の部分も赤くなり、形状も若干だが鋭さの増した形へとなる。
この一連の変化に伴いながら、オーズは全身に炎を纏い、周囲には変身時とは別の、独特な音楽と歌が、奏でられた。
これがオーズの能力、コンボチェンジである。
グリードの核となるコアメダルで、特定の三枚を特定の箇所に使用する事で、オーズは変身を可能とするのだが、このコアメダルには、様々な種類が存在しており、その種類によって、司る力が全く違うのだ。
その中でも、かなり特異な部類に入るのが、このコンボチェンジだ。
同じタイプのメダルを三枚使用する事で、オーズは急激な肉体的ダメージを伴う代わりに、通常以上の能力を発揮する事が出来る。
先程オーズがなった、このタジャドルコンボもその一つだ。
「は!」
タジャドルコンボとなったオーズは背中の翼を広げ、大空へと舞い上がる。
凄まじい高速飛行により、逃走するヤミーに追いついたオーズは、タジャスピナーから、炎弾を発射してヤミーの動きを鈍らせる。
連続で撃ち出される炎弾に、最初は回避をしていた、ヤミーだったが、それも長くは続かず、直撃を受けて地面へと落下していく。
それを好機とみたオーズは、この戦いを終わらせる為の一撃を放つ為の準備を開始する。
『スキャニングチャージ』
オースキャナーをドライバーにスライドさせる事で、一気にメダルの力を解放したオーズは、両足を地面に落下したヤミーに向けて、急降下する。
その際に両足へと蓄積されたエネルギーが、鳥類の足の様な状態へと形状変化を起こす。
「せいやあああああああ!!!!!」
オーズの掛け声と共に、必殺の一撃はヤミーに大きなダメージを与えて、大きな爆発を引き起こした。
雨が降るかの如く、大量のセルメダルが降り注ぐ中、地面へと舞い降りたオーズはすぐに変身を解くと、力尽きて倒れこんでしまう。
コンボチェンジは大きな力を使う事が出来るが、その代わりに支払う事となる代償も大きいのである。
戦いが終わった事と、コンボを使った事により、一気に緊張の糸が切れた映司は、仰向けになって、荒くなった呼吸を整えていたのだが、何となく見上げていた空に不思議な光景を見た。
「何だあれ?」
風都タワーの辺りから、淡い緑色の光の柱が、空へと向かって伸びていくのを、映司はその視界に捉えたのである。
「まずいね」
突如として風都タワーの上から空へと発射された謎の光の柱を見て、フィリップ君が呟きを漏らす。
『何がまずいのだ?』
「あのエネルギーの先にあるのは、特殊な人工衛星だ。そこにあの凝縮されたエネルギーが照射されれば、地球全土を覆う様にエネルギーが充満して、地上に降り注ぐ事になる。それがされたら、もうワールドクライシスを止める事は出来ないだろう」
メカ犬の質問に対してフィリップ君が、地球の本棚で知ったであろう知識を俺達に説明してくれる。
「おいおい。めちゃくちゃやりやがるな……」
「どうすれば阻止出来るんですか?」
それを聞いて翔太郎さんは、スケールの大きい話に嘆息し、俺はそれを阻止する為の説明を要求した。
「これを阻止するには、あのエネルギーが人工衛星に届く前に分散させるしかない」
「つまりどうすれば良いんだよ?」
フィリップ君の説明に、翔太郎さんがもう少し、簡潔に話す様に促す。
「ようは、僕達の全力の一撃を、あのエネルギーに当てれば良い」
説明をかなり端折った感があるのは否めないが、確かにこの方が圧倒的に解り易い。
だが俺はここで一つの疑問を覚える。
「でもそんな事をしなくても、あの光を出している根元の装置を破壊すれば良いんじゃないんですか?」
「あの光が発射される前なら、エネルギーの供給さえ切れば、良かったんだけどね。今それをすれば、余剰なエネルギーが、地球の中に全て流れ込んで、また違う世界が取り込まれる可能性が高い。確実に阻止するなら、上空で全てのエネルギーを飛散させて無効化する必要があるんだよ」
それを聞いた俺達は、戦慄しながらも、この実験を阻止する為に、今するべき事を開始する。
『お待たせですマスター!』
ガイア・コールでメカ竜を呼んだ訳だが、何故かその声は上空から聞こえてきた。
疑問に思いながらも上に視線を向けると、どうしてそうなったのか分からないが、メカ竜はなんとバードモードのエクストリームメモリに乗ってやって来たのである。
一体全体何があって、その様な状況になったのか、非常に気になるが、今は時間が無いので、タッチノートの操作を続けてスタンディングモードに変形させて掴み取った。
隣ではWも、エクストリームメモリを掴み取っている。
『ベーシック・ガイア』
『エクストリーム』
俺が左腰部分をスライドさせてメカ竜を差込み、Wがエクストリームメモリを、ダブルドライバーに装填して展開させると同時に音声が鳴り響くが鳴り響き、俺のメタルブラックのボディーには、メタルレッドの追加装甲が施され、Wはセントラルパーテーションが左右に分離した後にクリスタルサーバーが出現して、共に強化変身が完了する。
更にベーシック・ガイアになった俺はタッチノートを操作して、同じくサイクロンジョーカー・エクストリームとなったWもスタッグフォンの操作を始めた。
『オレサマを呼ぶとは、とんでもねえ事が起こってるんだな!!!』
操作をした直後に、ドライブジェットに変形したチェイサーさんと、ハードボイルダーをタービュラーユニットに換装させた、ハードタービュラーが飛来する。
「チェイサーさん!あの光を追ってくれますか?」
『へへ!オレサマに任せときなマスター!!!!』
ブッチギってやるぜと啖呵を切ったチェイサーさんは、俺を乗せて空へと伸び進んでいく光に向かって高速で飛行し、Wも後ろからハードタービュラーで追走する。
もう間もなく成層圏に届きそうな高度に達する頃に、俺達はどうにか人工衛星を目指して伸び続ける光を追い越す事に成功した。
後少しでも遅れてしまい、光が宇宙にまで伸びていたとしたら、俺達にはもう打つ手は残されていなかっただろう。
間に合った事に、俺は心の底から喜んだ。
「それじゃあ、行きましょう!」
『うむ!』
「これで全部終わらせるぜ」
「皆!呼吸を合わせて同時に強力な一撃を叩き込むんだ」
光の進路に立ち塞がった俺達は、互いを鼓舞しながら、最高の一撃を繰り出す為に其々、チェイサーさんと、ハードタービュラーから飛び出す。
『マックスチャージ』
『プリズムマキシマムドライブ』
二人の仮面ライダーの両足に凄まじい力が眩い輝きとなって集約されていく。
更に出現したベーシック・ガイアの四体の分身体が、二体ずつ俺とWの背中を蹴り飛ばして、その推進力を大幅に増す。
「「「『ガイアエクストリーム』」」」
四人の声が重なり、最大級の一撃が光の柱と衝突する。
鬩ぎ合う力が、俺達の身体を軋ませて、絶え間なく苦痛を生み続けるが、それでも俺達はここから退かない。
退く事が出来る筈が無いのである。
今この一撃には地球に生きる人達の命が懸かっているのだ。
ここに辿り着くまでの、道を切り開いて今も戦い続けている仲間達の為にも、目の前で涙を流した少女の涙に報いる為にも、ここで退くなどという事は絶対に出来ないのである。
「「「『うをおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!』」」」
その想いはこの場にいる全員が、一緒なのは間違い無いだろう。
俺達は全員で叫びながら、己の全てを賭けて、限界を超えた力を込め続ける。
絶対に諦めないという信念が、大切なものを命を賭してでも守りたいという想いが、俺達に何処までも力をくれる。
ここで負ける訳にはいかない。
俺達は誰かを守る為の戦いで、負ける事は絶対に許されはしないのである。
「……だってそうだろう。俺達は……」
俺は、いや、俺達は言葉を紡ぐ。
たった一言。
それは絶対不変の永遠のヒーローの名前だ。
「「「『仮面ライダーだああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』」」」
この瞬間に更なる限界を超える。
拮抗していた力はそのバランスを崩して、俺達の一撃は、天へと伸びる光の柱を刺し貫きながら、一気に急降下していく。
引き裂かれた光は飛散しながら、空へと溶け込んでいった。
この瞬間……俺達はこの世界の危機を、確かに救ったのである。
「終わりましたね……全部」
「ああ。そうだな」
全てを終えた俺達は、変身を解いて風都タワーから、空の上で飛散し続ける光を眺めていた。
『あの光の残滓は放っておいても大丈夫なのか?』
「大丈夫さ。あの光には、もう世界を改変するだけの力は残されていない。あの光自体ももう少しすれば、跡形も無く消えてしまうさ」
俺と翔太郎さんが会話をしている少し後ろでは、メカ犬とフィリップ君が空を見上げながらいまだに空に残る光について討論をしている。
改めてこれで全てが終わったのだと俺は実感した。
思えば世界が改変されてから、あまりにも色々な事が連続で起こって状況に流され続けていたので、リラックスして物事を考えるという事を、忘れていた気がする。
「あ!そうだった!」
何か久しぶりにリラックスした状態で、考え事をしていたら、俺は一つの重要事項を一つ思い出した。
はっきり言って、この状況で今までこの一言を言葉にしなかったなんて、余程俺は余裕が無かったんだなと、改めて実感してしまう。
「あの」
俺は意を決して、その一言を言う為に、翔太郎さんに話しかける。
「うん?」
呼ばれて振り向いた翔太郎さんに、俺は例の言葉を口にする。
「サインを書いてもらっても良いですか?」
俺はやっとその一言を伝える事に成功した。