魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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仮面ライダーシード&仮面ライダーW ミックスワールド・クライシス【第九章】

「次の交差点を右に曲がってください」

 

『OKよ~!』

 

ユイの言葉に、チェイサーさんが、肯定の返事を返しながら、その指示に従う。

 

俺とユイは、チェイサーさんの座席に固定された状態で、メカ犬は俺の肩にしがみ付いたまま、ユイが示す場所を目指して走り抜ける。

 

そしてその後ろを、翔太郎さんがハードボイルダーで追走する。

 

「その次は左に曲がって、後は直進です」

 

「あれは……」

 

再びユイの指示が飛び、チェイサーさんが、左に曲がった所で、俺の視界の遥か先に、特徴的な建造物が見えてきた。

 

それは風の街をテーマに、大きな風車が回る、この風都の象徴とも言えるシンボル。

 

「もしかして、奴等は風都タワーに居るのか?」

 

『マスター!』

 

俺が一つの仮定を口にしたその時、メカ犬が声を上げる。

 

更にメカ犬が声を上げるとほぼ同時に、チェイサーさんが急停止したのだ。

 

何事かと思い、視線を正面に見据えると、そこに居たのは一人の青年だった。

 

黒髪黒目で、顔の造形は日本人そのものである。

 

年齢は見た目通りであるのならば、恐らく翔太郎さんとあまり変わらないだろう。

 

「……降りろ」

 

突如として俺達の目の前に現れた青年は、痛みを覚えそうな程の、鋭い殺気を放ちながら、言い放つ。

 

「気をつけろ。あいつはまともじゃない」

 

ハードボイルダーから降りながら、翔太郎さんが俺に注意を促してくる。

 

「ええ……」

 

俺もチェイサーさんから降りながら、警戒を強めた。

 

この場所は今から戦場になる。

 

戦いの場特有の空気、とでも言えば良いのだろうか。

 

俺の人としての、生存本能がそう訴えかけている。

 

しかしここで、戦いとは無縁ともいえる、人物が言葉を発した。

 

「兄さん!」

 

チェイサーさんから降りながら、ユイが目の前に立ち塞がる、青年に向かって叫ぶ。

 

いや、この場で俺は予測出来ていた筈だ。

 

だってそうだろう。

 

「あなたは私の兄さんなんですよね!?」

 

俺はユイの口から直接、この事を聞いていたのだから。

 

風都ランドパークで戦った、サイファーと呼ばれていた仮面ライダーの変身前の姿は、俺は見た事が無かったのだが、翔太郎さんから事前に聞いていた特徴と照らし合わせても間違い無いだろう。

 

そしてユイから聞いた、ユイ自身の兄かも知れないという人物……

 

それが現在俺達の目の前に居る、青年である。

 

「兄さん!私よ!」

 

ユイは訴える様に叫び、続いてあまり聞き覚えの無い名前を言う。

 

それは生前のユイの本名だった。

 

全ての記憶を思い出したユイは、当然ながら自分自身の本来の名前も、既に思い出している。

 

しかしユイは、俺達には今まで通り、ユイと呼んでほしいと言われた。

 

どういった意図があって、俺達にそう言ったのかは分からないが、ユイにも何か思うところがあったのかもしれない。

 

その理由を知りたいとは思ったが、そう言った時のユイの表情を見た俺は、それ以上何も聞く事が出来なかった。

 

「兄さん……」

 

「……俺はお前の兄じゃない。例えその話が本当だったとしても、今の俺には関係の無い話だ」

 

ユイの声は、目の前の青年の心には、何も届いていないのか、それ以上青年はユイとの会話に、取り合おうとはしなかった。

 

「今の俺に必要なのは、絶対的な証だ。戦いだけが俺を、俺自身として、この世に繋ぎ止めてくれる」

 

青年はユイから視線を外して、俺と翔太郎さんに視線を移すと、狂気を含んだ笑みを浮かべた。

 

「どうして……兄さん」

 

悪鬼ともいえるであろう、その青年の姿を見たユイが、その表情を絶望に染めながら膝を着く。

 

それは明らかな拒絶だった。

 

ユイのただ一つの望みであった筈の、兄との再会は、伝えたい言葉を伝える事無く、否定され深い絶望へと落とされる。

 

まるで全てが終わったかの様に、崩れ落ちるユイの光景を見た瞬間、俺の中にある一つの感情が一気に高ぶるのを確かに感じた。

 

「話はもう終わりだ。お前達は俺の証になれば良い」

 

「ふざけるなよ……」

 

「ん?」

 

戦いを促そうとする青年に対して、俺は一歩を踏み出して、拳を強く握り締める。

 

「ふざけるなよ……あんたは今、自分が何て言ったのか、本当に分かってるのか?」

 

俺は爆発しそうな感情を、無理やり押さえつけて、目の前の青年に己のした事の意味を、分かっているのかを問い質す。

 

「意味の分からない事を聞くな。言っただろう今の俺には、関係の無い事だと」

 

改めて答えた青年に、ついに俺の感情は爆発した。

 

「ユイがどんな気持ちで、お兄さんに、あんたに会おうとしたのか本当に考えたのかよ!」

 

その感情は怒りだ。

 

でもそれ以上に、大切な人に拒絶されたユイの悲しさを、絶望を、言葉に表せない程に傷つけられた心を思うと、やるせない気持ちが、俺の思考を支配していく。

 

「あんたに何があったのか俺は知らない!ユイと同じ様に記憶が無いのかも知れない!でもな、今目の前にあんたを兄だと慕う妹が現れたんだぞ!」

 

この人の過去を俺は知らない。

 

ユイと生前何があったのかは、聞いている以上の事は俺の知るよしも無いだろう。

 

でも俺はあえて言う、言わなくちゃいけないんだと、心が雄たけびを上げる。

 

「戦う事があんたの証だと!?本当にそうなのかよ!?それなら何で、リボルギャリーからユイが落ちたあの時、あんたは自分が一番大切だと言った、戦いを放棄してまで助けたんだ!?例え忘れていたとしても、自分自身にとって何にも代え難い、大切なものだって心の何処かで気付いていたからじゃないのかよ!!!」

 

ユイは言っていた。

 

助けられて抱きとめられたその時に、懐かしい暖かな温もりを、確かに感じたと。

 

だからこそユイは気付いたんだ。

 

自分の兄に、自分の失った筈の生前の記憶に。

 

「そんなあんたなら分かるだろ!思い出せよ!自分が誰なのかを!本当に大切にしていたものを!あんたなら思い出す事が出来る筈だ!生前とは姿も何もかも違っていたユイを、無意識だったとしても助けたんなら、あんたの心の奥底には、絶対にあんたの本当の心が、残っている筈だろう!!!!!」

 

俺は信じて叫び続ける。

 

この二人には確かな深い絆がある。

 

たとえ死が二人を引き裂いたとしても、覚えていなくても、それでも奥底に眠った心の中に存在し続ける絆は揺るぎはしない。

 

記憶が無くても、姿が違おうとも、そんな事は関係ないんだ。

 

理屈じゃない。

 

俺はただこんな現実を認めたくないから信じて叫ぶ。

 

感動の再会の筈がこんな、バッドエンドで終わって良い筈が無いんだ。

 

どうにもならない現実は確かにある。

 

でも今は、まだ終わっていない。

 

この二人の再会の物語は、まだ始まってすらいないんだ。

 

だから信じて叫ぶ。

 

本人が否定しようが、俺は認めない。

 

忘れているのなら、殴ってでも思い出させる!

 

「……戦え」

 

青年は静かに呟いた。

 

「俺にも分からない。俺の中で生まれたこの感情が何なのか、俺が本当に大切にしていたものは何なのか……」

 

呟きながら青年はロストドライバーを取り出して、腹部に宛がう。

 

瞬時にベルトとなった事を確認した、青年は、続いて一本のガイアメモリを取り出した。

 

そこに刻まれた文字はアルファベットでは無く、数字のゼロ。

 

数字の刻まれたガイアメモリなんて、俺は初めて見た。

 

つくづくこの世界は、俺の知っているWの世界とは何処か違っている。

 

『サイファー』

 

ガイアメモリのボタンを押した青年は、すぐさまメモリを、頭上に放り投げた。

 

「……変身」

 

言葉を紡ぐと同時に、ガイアメモリはロストドライバーのスロットに装填され、青年はそのままドライバーを展開させる。

 

『サイファー』

 

ドライバーから音声が響き渡り、青年の姿を、戦う為の戦士へと変えていく。

 

身体全体を覆う紫の装甲に、四肢に伸びる螺旋を描くラインにその進行方向となる肘と膝には、鋭い突起が形成されている。

 

頭には鬼を彷彿とさせる二本の角飾りと黒い二つの複眼。

 

その姿は認めたくは無いがまさしく、経緯は違えど、仮面ライダーと呼ぶに相応しいだろう。

 

「俺の名前は仮面ライダーサイファー。もしもそれが違うと言うのならば、戦って証明してみせろ。戦う事が俺の証では無いのだと、理解させてみせろ!本当に……俺に心があるというのならば、その拳で救ってみせろ!仮面ライダー!!!」

 

青年、サイファーは俺に言い放つ。

 

それは戦いへの宣戦布告だ。

 

でも俺にはせいファーが、何かを思い悩む様に見えてならない。

 

だから救いたいと思う。

 

こんな俺に、本当に救えるのかは、実際のところは分かりはしない。

 

だけど俺は今、この兄妹を繋ぐ事が出来る、架け橋になる存在に一番近い場所にいる。

 

「ああ、それしかないなら、俺は戦うさ。思い出すまで、認めるまで、殴り倒してでもあんたに分からせる!」

 

だから俺は、そう言い切って、己の覚悟を確かなものにする。

 

失敗を恐れて尻込みしている場合じゃないんだ。

 

俺は静かにもう一歩を踏み出した。

 

「翔太郎さん。ここは俺に任せて、先に行ってくれませんか?多分奴等は風都タワーで実験を行おうとしている筈ですから」

 

振り向いた俺は翔太郎さんに言う。

 

それに対して、翔太郎さんは、無言で頷いて見せた。

 

この戦いは、俺にとって避けられない戦いだが、それと同時に今は、この世界を左右する事象が起きようとしている。

 

それは絶対に阻止しなければいけない。

 

俺がここに留まるのに、翔太郎さんを付き合わせる訳には行かないし、何よりそれでタイムオーバーとなったら、目も当てられないだろう。

 

「面白い余興が見れそうで、ワクワクするんだけど、それは困っちゃうな~」

 

翔太郎さんが、ハードボイルダーに乗ろうとしたその時、聞き覚えのある軽い口調の声が周囲に木霊する。

 

建物の影から出てきたのは、その声の主である藍色の怪人オーバーとその横には、同じく灰色の怪人であるメルトだった。

 

しかも後ろには、先程の戦いの時以上に多くのホルダーモドキ達を引き連れている。

 

「ふん。ここから先に行かせる訳には行かないな」

 

メルトがそう言うと、数体のホルダーモドキ達が、一斉に俺達に飛び掛ってきた。

 

まだ変身すらしていない俺達は、咄嗟に身構えるが、何時までも予想していた筈の衝撃はやって来なかった。

 

突如として耳に響く轟音と、視界を埋め尽くす黒い影。

 

それがリボルギャリーだと気付くまで、そう多くの時間は掛からなかった。

 

どうやら間一髪のところで、リボルギャリーが間に入って、飛び掛ってきたホルダーモドキ達を吹き飛ばしてくれたらしい。

 

「翔太郎。どうやら大変な事になっていたみたいだね」

 

リボルギャリーの装甲が中心から二つに分かれて、フィリップ君が出てきた。

 

「私聞いてないよ~」

 

その後ろからは一人の女性が、大きな紙袋を手に持って、ふらつきながらも、聞き覚えのあるフレーズを口にしながらやって来る。

 

「あ、亜樹子!?お前今は照井と新婚旅行中じゃなかったのかよ!?」

 

フィリップ君の後ろからやって来た女性を見て、翔太郎さんが驚愕した。

 

この女性の名前は、鳴海亜樹子《なるみあきこ》さん。

 

鳴海探偵事務所の現所長であり、俺が前世で視ていた仮面ライダーWでは外せない重要な登場人物だった人だ。

 

「いや~それがね。安いと思って予約してた飛行機の往復チケットの日にちがね……」

 

簡単に話を纏めると、安いから買った飛行機の往復チケットは、予定していた滞在日数とは違うチケットだったという余程の人では起こしようの無い、天然を発揮したのだそうで、お金も勿体無いからと、泊まっていたホテルを早々にチェックアウトして、間違えて買ったチケットの日程通りに、戻ってきたのだそうだ。

 

「あとこれ、旅行先のお土産だからね」

 

大体の説明を終えた亜樹子さんはそう言って、手に持っていた紙袋から、お土産の品を取り出そうとするが、そこで翔太郎さんが、待ったをかける。

 

「あ~今は取り込み中だから、また後でな」

 

その声に反応して、亜樹子さんは周囲の状況を確認する。

 

「どどどどどど、ど、ど、ドーパント!?」

 

そして辺り一体のホルダーモドキ達を見て、驚愕の声を上げた。

 

ドーパントでは無く、ホルダーなのだが、仮面ライダーが戦う怪人という捉え方で考えれば、あながち間違いとも言えないかもしれない。

 

「僕の身体を頼むよ。アキちゃん」

 

そう言ってフィリップ君が、翔太郎さんと一緒に俺の横に並ぶ。

 

「この街を泣かせる奴は、誰であろうと俺が……いや、俺達が許さねえ」

 

翔太郎さんが、目の前のホルダー達に、啖呵を切る。

 

一瞬だけフィリップ君を、そして俺を、見た様な気がするが、俺も翔太郎さんの言う【俺達】に入っているのだろうか。

 

『マスター。今は全てを賭けて戦う時だ。そして皆で守ろう。私達の大切な世界を!』

 

何時の間にか俺の隣へとやって来たメカ犬が、壮大な言葉を口にした。

 

「世界を救うか。はっきり言って、柄じゃないけど……やってやるさ!」

 

そしてたった二人の兄妹の絆だって救ってみせる!

 

俺は勢い良く取り出したタッチノートを開いてボタンを押す。

 

『バックルモード』

 

隣に居たメカ犬がベルトに変形して、俺の腹部に自動的に巻きつく。

 

『ジョーカー』

 

『サイクロン』

 

その隣では、ダブルドライバーを腹部に巻きつけた、翔太郎さんと、フィリップ君が、ジョーカーメモリとサイクロンメモリのボタンを押している。

 

そして俺達は己の大切なものを、そしてこの世界の全てを守る事を誓って、力ある言葉を口にした。

 

「「「変身」」」

 

俺はタッチノートをベルトの溝に差込み、フィリップ君はサイクロンメモリをスロットに差し込むと、その意識を手放す。

 

後ろからは、この感覚も久しぶりねと亜樹子さんの声が聞こえてきた。

 

そしてフィリップ君の意識と共に、翔太郎さんのダブルドライバーに転送されてきたサイクロンメモリを、翔太郎さんは、更に深く押し込んで、続いてジョーカーメモリをスロットに差し込むと一気にドライバーを展開させる。

 

『アップロード』

 

『サイクロン』

 

『ジョーカー』

 

俺の全身を白銀の光が包み込み、翔太郎さんは、渦巻く風を纏いながら、その姿を戦う戦士へと変えていく。

 

仮面ライダーシード。

 

仮面ライダーW。

 

それがこの戦士達の誇り高い名前だ。

 

「悪夢はここで終わらせる」

 

「「さあ、お前の罪を数えろ」」

 

二人の戦士は、大地を蹴って、己の全てを賭けて、戦いの場へと駆け出した。


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