魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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三点リーダーなど、修正したい部分も多いので、少しずつ修正を入れていこうかと考えております。


第三話 戦う覚悟がへタレにあるか?【後編】

なのはちゃんの突然の来襲で、俺とメカ犬のシリアスな話は一旦打ち切りとなった。

 

メカ犬も答えは後で良いと、俺だけに聞こえるような小さな声で呟いていた。

 

そんな訳で今現在、俺の目の前でなのはちゃんとメカ犬が互いに自己紹介を行なっている。

 

「始めまして。私立聖祥大附属小学校一年生の高町なのはです。なのはって呼んでね犬さん」

 

『うむ、宜しく頼むぞなのは譲。ワタシはオモチャ会社の新製品の犬型オモチャだ。今日から板橋家の一員となった』

 

「宜しくね。私のお家は純君のお隣さんなんだよ」

 

『そうか。なのは譲はマスターと同年代なのだな。今もこの家に訪問しに来たという事は仲が良いのだろうな』

 

「マスター?」

 

なのはちゃんが首を傾げる。

 

『マスターとは、なのは譲が呼んでいる純君の事だ。そうだな…ワタシとマスターの関係は、ワタシを本物の犬とするならば、マスターは飼い主と言った所だ』

 

「へ~そうなんだ」

 

傍から見て思うがやっぱりこの光景は異常に見える。

 

俺とメカ犬の会話ももし他人が傍観していたとしたら今俺が感じている様な見え方になるんだろうか?

 

いや、なのはちゃんの様な美少女が小さな動物なんかに話しかけている所なんて微笑ましいものだろう。

 

人によっては大金を払ってでもその両目に映像を刻み込みたいと言い出す輩が続出しそうだ。

 

なら俺はどうだ?

 

恐らくは白けた目線か痛い何かを哀れむ視線、いやもしかしたらとてつもなく慈愛に満ちた最大級の生暖かな目線にその身を晒す事になるかもしれない。

 

しかしそれすらも序の口で、まさかの伝説の黄色な救急車が登場して俺を連行するなんて未来が待ち受けている可能性すらある。

 

これ以上の想像は俺の精神的な何かを失うと思い至ったので、俺はメカ犬となのはちゃんの会話に混ざろうと少し離れた位置から近くに寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後二人プラス一匹?でトランプをしたりして遊んだ。

 

つうかメカ犬よ。

 

お前はナチュラルにカードゲームまでこなしているが、ハッキリ言って異常な事極まりないぞ。

 

なのはちゃんもなのはちゃんで全くこのメカ犬の存在のあり方を気にした様子も無く共に遊んでいる。

 

確かに高町家は既に人外魔境と言える場所であり、その中で生活を送るなのはちゃんからして見れば喋るメタルな犬など常識の範囲内に余裕で収まってしまうのかもしれない。

 

もはや今の俺にできる事は乾いた笑い声を上げながらなのはちゃんと共に遊びに興じる事のみだろう。

 

その後暫く遊び続けたのだが、突然なのはちゃんが心配そうな顔をして俺に話しかけてきた。

 

「ねえ純君。何だかさっきから少し元気がないみたいだけど何かあったの?」

 

俺は驚いた。

 

確かに俺はなのはちゃんが来るまでにメカ犬との会話でかなり悩んでいたが、なのはちゃんが来てからはこのことは後回しにしようと考えない様にして来た。

 

決して顔に出さない様にと笑い続けていたんだけど、それでも隠し切れないくらいに自分で思っていた以上のショックを受けていて、それが顔やしぐさに出ていたって事だろうか。

 

「…良く分かったね、なのはちゃん」

 

俺はその時何を考えていたのだろうか?

 

妹分である筈のなのはちゃんに自分の情けなさを認める様な答えを返していた。

 

「うん。私ね、純君の事だったら何だって分かっちゃう自信があるんだから」

 

なのはちゃんは自分の予感が当たった事でやっぱりねと胸を張りながらそんな台詞を言った。

 

「何か悩み事とかあるの?」

 

先程まで自慢げな顔をしていたなのはちゃんだけど、またすぐに不安げな顔になって俺に話しかけてきた。

 

本来ならなのはちゃんに言う事じゃない。

 

相談するならなのはちゃんのお父さんにあたる士郎さんの方が妥当な筈だ。

 

でも俺は、なのはちゃんに相談していた。

 

勿論真実を言うつもりはないので内容を多少濁してだが…

 

「実は俺、今凄く迷ってるんだ」

 

なのはちゃんは黙って俺の話を聞いていた。

 

「俺が必ずやらなきゃいけないってことじゃ無いし失敗するかもしれないんだけど、俺じゃなきゃ出来ない事があるんだ。でも俺さ、それをやり遂げる強さも自信もないんだ。でもそれが色んな人にとって大切な事かもしれなくて…何言ってんだろうね俺、ごめん。何言いたいのか良く分かんないや」

 

なのはちゃんは俺を見つめ続ける。

 

やっぱり意味が分からないのだろう。

 

言ってる俺ですら意味が分からないんだから仕方ないかもしれない。

 

「大丈夫だよ」

 

なのはちゃんは柔らかい笑顔をしながら一言だけそう言った。

 

俺はその笑顔を見て動く事が出来なくなった。

 

唯一思った事はその笑顔が小学一年生とはとても思えなくて、何処と無く桃子さんに似ているなということだけだった。

 

気付いたときには俺の視界からなのはちゃんの姿が、俺の目の前から消えていた。

 

その代わり俺は自分以外のもう一人の体温を直に感じていた。

 

さっきまで俺の目の前に居たなのはちゃんだ。

 

俺はいつの間にかなのはちゃんに抱きしめられていた様だ。

 

「純君なら大丈夫だよ」

 

なのはちゃんは俺の耳元で赤ん坊を優しくあやす様な、寝かしつけるようなそんなやさしい口調で語りかけてくる。

 

「純君なら出来るよ。純君はすっごく強い男の子だもん」

 

俺の事を励まそうとしてくれているのだろう。

 

でも俺は自分がへタレだって事を知っている。

 

本当に強いのは俺みたいなへタレな軟弱者じゃなくて恭也君みたいな人を言う筈だ。

 

「…俺は強くなんかないよ。ただのへタレだ」

 

俺はなのはちゃんの言葉を静かに否定した。

 

自分から慰めてくれと言っている様な物なのに俺はどれだけ罰当たりなんだろうと自嘲する。

 

「そんな事ないよ。純君は強いよ。誰よりも強いよ。私のお父さんより、お兄ちゃんより、純君の方がもっと強いよ」

 

俺の言葉を否定したなのはちゃんは尚も俺に語りかける。

 

でも幾らなんでも俺があの二人よりも強いなんて有り得ないだろう。

 

それこそ一瞬で俺がKO負けになる事は誰の目にも明らかだ。

 

それでもまだなのはちゃんは俺に語りかけ続ける。

 

「純君は強いんだよ。この前だって一番に駆けつけて助けてくれたもん」

 

あれは今から思えばただの偶然の産物だ。

 

その場に恭也君が居たらもっと早くなのはちゃん達を助けていただろう。

 

「…あれはただのぐう「それだけじゃないよ」え?」

 

なのはちゃんの俺を抱きしめる力が少しだけ強くなる。

 

「純君はずっと前から私に色んなものをくれたんだよ。側に居て欲しいときは何時だって居てくれたんだよ。なのはは純君に一杯勇気を貰ったんだよ。純君は何時だってなのはのヒーローだもん」

 

そう言ってなのはちゃんは俺の身体からゆっくりと手を離した。

 

再びなのはちゃんの顔が見える様になった。

 

なのはちゃんの瞳が少しだけ潤んでいるように見えた。

 

「今から純君に貰った勇気を少しだけ私が返してあげるね」

 

そう言ったなのはちゃんは次に目を瞑ってとお願いしてきた。

 

俺は、なのはちゃんの言葉に素直に従って静かに目を瞑る。

 

「これはすっごく効き目があるから絶対大丈夫だよ」

 

なのはちゃんの言葉が聞こえる。

 

やけに近い位置から聞こえると思った次の瞬間、俺の左の頬に少し湿った温かい感触を感じた。

 

時間にしたら一分くらいだろうか、その状態が続きやがて左頬の感触はゆっくりと離れていった。

 

「もう目を開けて良いよ」

 

なのはちゃんから許可を得た俺はゆっくりと目を開く。

 

一番に目に飛び込んで来たのはなのはちゃんの顔だった。

 

心なしか両頬を赤く上気させて微笑んでいる。

 

「…元気出たかな?」

 

なのはちゃんは俺の顔を見て照れた様子を見せながら、それでも真っ直ぐに俺の瞳を見つめながら尋ねた。

 

俺はゆっくりと首を縦に一度だけ動かした。

 

言葉を発する事が何となくだが強張ってしまいそうだったからだ。

 

なのはちゃんは俺の反応に満足したようでそっかと小さく呟いた。

 

なのはちゃんと俺は暫く無言で見詰め合っていたのだが、やがてなのはちゃんは今日はもう帰るねと言って立ち上がると部屋の扉の前で。

 

「頑張ってね、純君」

 

そう言って元気良く部屋を出てお隣へと走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスター…』

 

恐らくそれほど時間は経っていないだろう。

 

メカ犬が俺を呼ぶ声を聞き俺はようやく現実に帰ってきた気がした。

 

「メカ犬、俺さ…」

 

俺はメカ犬に答えを出すことにした。

 

この結果を出した事に正しい選択をしたとは思えないそれでも俺は…

 

俺がメカ犬に俺自身の答えを言おうとしたその時だ。

 

タッチノートから以前にも聞いた憶えのある音声と警報音が流れる

 

『キンキュウケイホウキンキュウ…』

 

俺とメカ犬は無言でタッチノートを見つめる。

 

俺はゆっくりとした動作でタッチノートを手に取りメカ犬に近づく。

 

俺の答えは既に決まっている。

 

「…行くぜ。力貸してくれよ相棒!!!」

 

『ああ!!!』

 

俺はメカ犬と共に勢い良く部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでどうやって現場に向かうんだ?」

 

俺たちは勢い良く飛び出したものの未だに玄関先に居た。

 

だって仕方ないだろう。

 

現場がここから10㎞以上離れてるんだぞ。

 

2、3㎞程度なら自転車使うなりしてどうにかなるが、これだけ離れてると流石に無理がある。

 

いっその事バスで行くか?

 

でも現場には間違い無く化物、ホルダーが居るだろうから向かう車なんてパトカー位のものだろうか。

 

『マスター何やら考えているようだが少し良いか』

 

俺が現場に向かうための方法を考えているとメカ犬が話しかけてきた。

 

「なんだよ?何か良い手でも思いついたのかメカ犬」

 

『結論から言えばその通りだ。マスタータッチノートを出してくれ』

 

なんかタッチノートが最早、青い耳無しネコ型ロボットのポケットの様に思えてきたがそれは言ってはいけないお約束なのだろうか?

 

俺はそう思いながらもメカ犬の言う通り指示に従う。

 

『タッチノートの黄色のボタンを押せ。それで移動手段が手に入る』

 

俺がメカ犬の言うとおり黄色のボタンを押すと、お約束と言わんばかりにタッチノートから音声が聞こえてきた。

 

『チェイサー』

 

すると道の曲がり角から大きなエンジン音が聞こえてくる。

 

音のした方角を見てみると一台のバイクが近づいてくる。

 

黒いライダースーツを着用して黒いヘルメットを装着した人物がこれまた黒い大型バイクで此方に猛スピードで近づいてくるのだ。

 

黒で統一されたその存在は全身が隠れる程の土煙を巻き上げながら俺とメカ犬の目の前で急停止した。

 

『お待たせ~あら、この男の子がアタシ達のマスターかしら?かんわいい~』

 

なんか明らかに女口調なのに声が某カエル型侵略者の赤い奴みたいに渋い声が聞こえてきたんですけど?

 

砂煙が晴れるとそれを巻き起こした張本人の姿をより明確に確かめる事が出来た。

 

乗っている人は全身黒尽くめという点を除けばありふれた格好なのだが、バイクが凄い。

 

大型スクーターを基にしたフォルムをしているが明らかに従来使われているバイク製品ではない。

 

これをもしも車検に出そう物なら即落ちるだろう。

 

しかし現実的な部分を抜きにするとそのデザインは俺好みだった。

 

というよりもライダーファン好みと言った方がしっくりと行く気がする。

 

俺が食い入るように見つめているとまたしてもあの渋いながらも乙女なオッサンボイスが聞こえてきた。

 

『そんなにじっくり見られちゃうとアタシ興奮しちゃうわ~』

 

うん。キモさ100%です。

 

言っている事にはこれでもかってくらいに感情が篭ってるのにバイクに乗ってる黒尽くめの新宿二丁目な姉さん?は微動だにしない。

 

メカ犬とは別ベクトルの恐ろしさを感じる。

 

あれ?

 

確かメカ犬の奴は生身の人間は転送できないって話してたよな。

 

この人何処からどう見ても人間に見えるんですけど。

 

「なあ、メカ犬。確かお前の世界から生身の人間はこっちの世界には来れないんじゃ無かったのか」

 

『うむ、その通りだぞマスター』

 

「目の前でバイクに乗っている人はどっからどう見ても人間に見えるぞ」

 

『何を言っているんだマスター。チェイサーはワタシと同一のシステムの一部だぞ』

 

チェイサーってのはこの黒尽くめの人の名前みたいだけど流石にこの人が人間じゃないって言われても俄かには信じられないぞ。

 

『うふふ。信じられないって顔してるわねマスター。そんなに疑うならアタシに触ってみなさいな、きっと驚くわよん』

 

正直あんまり触りたくないなと俺は思ってしまったが、僅かに知的探究心の方が強かったようだ。

 

俺は緊張しながらもこのチェイサーさん?に触れるべく手を伸ばす。

 

そして触れたと思ったのだが何かがおかしい?

 

今正に俺は触れている筈なのに、その感触が一切感じられないのだ。

 

おかしいと思った俺は少し腕に力を入れて軽く押してみる。

 

「嘘だろ?」

 

突き抜けました!

 

何がって?

 

俺の手が!

 

チェイサーさんの身体を!?

 

こう、ずぼって!!!!

 

やっちまったのか?

 

俺はやっちまったのか!?

 

『落ち着けマスター。良く見てみろ』

 

煩いぞメカ犬。

 

俺は…俺は…俺は…あれ?

 

なんかチェイサーさんの身体が、映りの悪いテレビ画面みたいにブレまくってるんだけど?

 

これってもしかして…

 

『それはただのホログラムよ。アタシの身体はその下ね』

 

喋るフルメタルな犬に続いて今度は新宿二丁目的なバイクのご登場とそういう訳ですか。

 

なんか頭痛がしてきたよ俺。

 

『マスターあまり時間がない。早く目的地に向かうぞ』

 

頭を抑えて蹲る俺に対してメカ犬は早く行くぞと催促してくる。

 

突っ込み所満載な気がするけど、確かに移動手段は手に入ったんだ。

 

メカ犬の言うとおり急がないとな、うん。

 

「で、俺はどうやって乗ればいいんだ?」

 

見た目小学生な俺が運転すれば即逮捕されるだろうし、ホログラムに掴まってる振りをしようにも触れないから走り出した瞬間に放り出されるぞ?

 

それともここで変身してから乗ればいいのかな。

 

『このままシートに乗ればそれで良いわよマスター。後はアタシが優しくリードしてあげるから』

 

『早く乗るぞマスター』

 

メカなお二人から催促を受けた俺は、それじゃ失礼してと言いながらシートによじ登った。

 

『認識阻害装置始動』

 

チェイサーさんは俺がシートに座った事を確認すると突然こんな台詞を口にした。

 

「認識阻害?」

 

『チェイサーの能力の一つだ。周りから見ればマスターの姿は見えずにホログラムの姿しか認識されない様になる』

 

おお!なんか凄いハイテクだ。

 

『安全装置作動』

 

またチェイサーが喋りだした。

 

今度は何となく分かるぞ。

 

安全装置って事は俺がバイクから振り落とされない様にしてくれるんだよな。

 

さっきのハイテク振りからして今度は重力制御とかまたSFみたいな機能が出るのかもしれない。

 

ガキン!!!

 

…ちょっと待ってくれ。

 

突然バイクの両脇から鉄のワッカみたいのが出てきて俺の腰辺りを完全に固定してきたんだけどさ。

 

まさかこれが安全装置?

 

『さあ行くわよ~!』

 

待って。 

 

行かないで!

 

さっきまであんなにハイテクだったのに何でここだけローテク設計なの?

 

俺の不満を訴える叫びは全てチェイサーさんのエンジン音?でかき消される。

 

次の瞬間チェイサーさんはバイクでは有り得ない初速を出して走り出した。

 

ちなみに俺がこの時発した台詞は…

 

「らめえええええええええええええええええ!!!!!!!!」

 

だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これは酷いな』

 

俺達は今、チェイサーさんの運転で目的地へと向かっている。

 

現在は目的地のかなり近くまでやって来たのだがこの場所の惨状を目の前にして、メカ犬が先程の言葉を呟いたのである。

 

今俺達が通過しているのはビルが立ち並ぶビジネス街。

 

その至る所に細い植物のツタが張られているのである。

 

中には何故かツタで簀巻きにされた人達も随所に散りばめられている。

 

酷い事をするなと思いながら回りを見回していたらメカ犬が声を掛けてきた。

 

『マスター。もうすぐ視認可能な領域に入るぞ気を抜くな』

 

メカ犬の言葉を聞き正面を向いた俺にまず見えたのはこちら側に逃げてくる無数の海鳴市民の人達だった。

 

更にその先に見えたのは異形の化物、そうホルダーだ。

 

全身が緑色で身体のあちこちに細いツタを巻きつかせている。

 

頭部は種類は分からないが赤い花を模している様に見える。

 

『ホルダーで間違いない。反応は奴から出ているぞ』

 

メカ犬が叫んだ。

 

『それじゃあ、このまま突っ込むわよ~!』

 

チェイサーさんが何やら不穏な発言をしたと思ったら一気に急加速してきた。

 

マジだよ、この新宿二丁目バイク。

 

凄まじいスピードで草型ホルダーに接近するチェイサーさん。

 

流石に暴れていたホルダーも気付いたが時は既に遅かった。

 

「ぶべら!?」

 

チェイサーさんのバイクタックルを受けたホルダーが世紀末的な断末魔を描きながら宙を舞う。

 

あまりにも華麗に吹き飛ぶその姿はある種の芸術と呼べるかもしれない。

 

やがてホルダーの身体が地面に舞い落ちると、変則的な痙攣を起こし始めた。

 

やばいぞ。

 

あの痙攣の仕方は、俺の前世でお隣さんのお爺さんが可愛がっていた、猫のにゃん吉が天に召される前日にしていた痙攣とそっくりだ。

 

俺はチェイサーさんに頼んで安全装置を解除してもらいシートから飛び降りホルダーの様子を伺う。

 

幸いにもホルダーは、にゃん吉と同じ運命を辿る事無く現世に命を繋ぎ止めた様で、ゆっくりと立ち上がる。

 

「あいたたた…何だ突然に、ん?」

 

立ち上がったホルダーと俺の目線が重なる。

 

「子供?駄目だよ君。小学生がバイクの運転なんかしたら」

 

メカ犬の言うとおり本当に喋ったよ。

 

しかも凄くまともなこと言ってるし!

 

もしかしたら話せば分かる相手かもしれないかな?

 

俺はホルダーが案外まともな人格者の様なので話し掛けてみる事にした。

 

「あの、どうしてあなたはこんな酷い事をするんですか?」

 

「うん?何でかって、それは地球環境のためだよ」

 

予想の範囲を死角から鋭く抉り込む様な回答が返ってきました。

 

「地球の緑は今も急速な勢いで減ってきている」

 

ホルダーは何処かの教育番組のナレーターみたいに地球環境についての見解を話し始めた。

 

「…では何故地球の自然は破壊され続けているのか」

 

五分以上ホルダーは自然について俺に話して聞かせてきたがここからやっと本題に入るらしい。

 

「地球を汚染してきたのは人間だ。それは間違いない。しかし人間も自然の一部だ。では本当の原因は何か?それは人間の作り出した文明だ。だから僕はこの街を手始めに全ての文明を破壊する」

 

ホルダーが熱く語る。

 

正気じゃないぞこの人。

 

考えが極端すぎる。

 

「その考えはあまりに強引じゃないんですか?」

 

俺はホルダーの意見に異論を唱える。

 

「子供には分からないかもしれないね。それじゃ僕は忙しいからもう行くよ。それとも君は僕の邪魔をする気かい?邪魔するきなら子供だからといっても容赦しないよ」

 

ホルダーが俺に殺気をぶつけて来る。

 

前回の戦いでは感じる事の無かった人の明確な意思を宿した殺気だ。

 

俺はその殺気に恐怖を覚えて足を後ろに一歩引いた。

 

『マスター』

 

恐怖に慄く俺にメカ犬が話しかけてきた。

 

『「大丈夫」なんだろマスター』

 

その言葉は俺に勇気を分けてくれたお隣さんの、幼馴染の、甘えん坊の、誰よりも優しい魔法の言葉。

 

『マスターは一人じゃない。マスターはワタシを相棒と呼んでくれた。もしマスターが自分を弱いと言うのなら、相棒のワタシが幾らでも力を貸そう。それにマスターは既になのは譲から勇気という力を貰っている筈だ』

 

「メカ犬…」

 

『マスターが自分の力を信じられないなら、ワタシとマスターの二人の力と、なのは譲の勇気を信じてくれ。今のマスターは絶対無敵のヒーローだ』

 

俺の竦んでいた足はいつの間にか元に戻っていた。

 

確かに俺一人だけならただ恐怖に震えていただけかもしれない。

 

でも今の俺にはなのはちゃんから貰ったでっかい勇気と一緒に戦ってくれる相棒がいる。

 

「…そうだな。今の俺は本物のヒーローだ!」

 

『それでこそマスターだ』

 

俺はホルダーの前に立ちふさがり啖呵を切る。

 

もう俺の中に迷いは無い。

 

「あなたを野放しにする訳にはいかない。俺があなたを止めます」

 

「…言った筈だよね。子供でも容赦しないって」

 

ホルダーがどすの聞いた声で俺に語りかけてくる。

 

それでも俺はもう一歩も引きはしない。

 

「悪いけど、ただの子供じゃないんでね。行くぞメカ犬!!!」

 

『何時でもOKだマスター!!!』

 

俺はタッチノートを開いてボタンを押す。

 

『バックルモード』

 

タッチノートから聞こえる音声と共にメカ犬が銀色のベルトに変形して俺の腹部に巻き付いた。

 

俺はタッチノートを眼前にいるホルダーに向けて掲げる。

 

今から俺が言う台詞は以前とは意味が違う。

 

この言葉は弱い俺を奮い立たせる言葉じゃない。

 

戦い続ける事の覚悟の証明。

 

憧れながら見上げていた彼らと肩を並べる為の決意。

 

俺は今この時から憧れを捨て本物になる。

 

「変身」

 

この言葉を放つと同時にタッチノートをバックルの中央の溝に差し込む。

 

『アップロード』

 

バックルに差し込んだタッチノートから流れる音声と同時にバックルを中心に俺の身体を白銀の光が包み込む。

 

やがて光が収まって再び現れた俺の姿は板橋純というへタレな小学生とは似ても似つかない存在だった。

 

身長は成人男性と変わり無く、全身がメタルブラックのボディ。

 

それを彩る様に銀のバックルを中心に四肢に伸びた同色のラインと額に輝くV字の角飾り。

 

顔の半分を覆う様な二つの赤い複眼が更にその存在を引き立たせている。

 

そこに居るのは正真正銘の正義の味方。

 

仮面ライダーだ。

 

俺の凄まじいほどの変化を見たホルダーは俺に質問をする。

 

「確かにただの子供じゃないですね。君は何者なんですか?」

 

何者なんだと聞かれたら、一応仮面ライダーなんだが、これからも戦い続けると決めたんだから固有名詞が欲しいよな。

 

何か良い名前あるかな?

 

そういえばメカ犬は別の世界から来てるんだよな。

 

本来なら存在しない筈の別世界の存在。

 

もう一つの世界…そうだ。

 

俺が前世で見てたアニメでそんなコンセプトのタイトルが着いたロボットアニメやってたよな。

 

あのタイトルの名前を頂いちゃおう。

 

即興だが名前が決まったので俺は質問をしてきたホルダーに決まりたての名前を告げる。

 

「俺はシード。俺の名前は仮面ライダーシードだ」

 

「正義の味方気取りですか?やっぱり子供だね」

 

ホルダーは俺を嘲笑う。

 

「一応本物のヒーローなんだけどね。だから止めさせてもらうぜ」

 

「やれるものならやってみなさい」

 

ホルダーが此方に駆け寄ってくる。

 

前に戦った蜘蛛のホルダーとは比べ物にならない素早さだ。

 

『来るぞマスター』

 

「分かってる!」

 

俺はメカ犬の言葉に短く答えた後、ホルダーに対して迎撃体制を取る。

 

確かに素早さは段違いだけど、それでも見切れるレベルだ。

 

俺はホルダーの攻撃にカウンターを合わせて何度も己の拳を叩き込む。

 

「はっ」

 

カウンターの右ストレートから左の前蹴りを放ってホルダーを後ろに下がらせる。

 

「ぐっ中々やりますね」

 

ホルダーは膝を着きながら言うが何処か余裕を感じる。

 

何か奥の手でもあるんだろうか?

 

「でも、これならどうですか!」

 

ホルダーがそう言って両腕を大きく上から下に振ると草のツタが鞭の様に俺に襲い掛かってきた。

 

「危ね!?」

 

俺はその身を横に捻り転がりながらそれを何とかかわした。

 

「何だよあれ?」

 

『恐らくあれがこのホルダー特有の能力なのだろう』

 

「あの草の鞭みたいな奴がか?」

 

『植物の成長促進とコントロールといった所だな』

 

俺は連続で襲い掛かる草の鞭をかわしながらもメカ犬の言葉を聞く。

 

「如何すればいいんだよこんなの」

 

『接近戦にさえ持ち込めればこっちの土俵だ』

 

「こんな連続で攻撃されたら近づくことも難しいですけど?」

 

メカ犬がもっともな事を言うがそんな事は言われなくても分かってる。

 

可能ならとっくにやってるっての。

 

『こちらから近づけないなら向こうから近づいてもらえば良い。マスター、戦いで傷つく事を恐れては勝利はないぞ』

 

「何言ってんだよ、向こうからやって来てくれるわけ…なるほどね。俺の相棒は無茶を言うぜ」

 

『出来るさ。マスターなら必ずな』

 

「信じるぜ相棒」

 

『うむ』

 

俺は回避行動を止めて立ち止まる。

 

すると当然のように鞭の嵐が俺の身に襲い掛かって来た。

 

はっきり言ってメチャクチャ痛い。

 

それでも俺はその痛みを耐えながら、相棒が俺に授けてくれた作戦を成功させるべく、感覚を研ぎ澄ませる。

 

一本のツタが真横から襲い掛かる。

 

まだだ。

 

まだ。

 

もう少し…今だ!

 

俺は真横から迫り来る一本のツタをその手に掴み取る。

 

「捕まえたぜ」

 

これに驚いたのはホルダーの方だろう。

 

「な、何のつもりですか!?」

 

「どうもこうも…こうするつもりだ!」

 

俺は掴んだツタを綱引きの要領で思い切り引っ張り込む。

 

変身した事で超人的に強化された俺の筋力でツタごとホルダーをこちら側に呼び込んだ。

 

「はあ!」

 

飛び込んできたホルダーに俺は渾身の右拳を叩き込んだ。

 

「があっ」

 

ホルダーは短く悲鳴を上げて先程までいた位置に転がりながら戻っていく。

 

『流石だマスター』

 

「ああ、作戦通りだな」

 

ホルダーは悶絶しながらもまだ立ち上がってくる。

 

中々にタフネスだ。

 

「まさかここまでとは予想外ですね」

 

『これで貴様のアドバンテージは無くなった。覚悟しろ』

 

「ふふふ、諦めるという言葉は僕の辞書にはないんですよ」

 

ホルダーは再び両腕からツタを伸ばし振るう。

 

俺は襲い掛かるであろう、衝撃に備えて防御の構えを取るが一向にその衝撃は襲ってこない。

 

変に思い前方に目を向き直ると俺の頭上に草のツタが伸びていた。

 

その先端は電柱の頂上部分に巻き付いている。

 

「残念ですがこのまま戦っても勝ち目は無さそうなのでこの場はこれで失礼させて頂きましょう」

 

「何だと?」

 

「それではさようなら。仮面ライダー君」

 

ホルダーはまるでターザンの様に飛び上がりながらツタを交互に前方の電柱に巻きつけ遠ざかっっていく。

 

『マスター、このまま逃がしてはまずいぞ』

 

「分かってるけど如何すれば良いんだよ?」

 

結構なスピードで移動してるぞあのホルダー。

 

流石にチェイサーさんでもあの速度に追い着くのは無理があると思う。

 

『心配ないわよマスター。アタシに任せなさい』

 

チェイサーさんが近づいてきて自信満々にそう言い放つ。

 

『それじゃマスター、早速お願いしたいんだけど、タッチノートの黄色いボタンをもう一度押してくれないかしら』

 

またタッチノートですか。

 

マジで便利ツールだな、タッチノート。

 

俺はチェイサーさんのお願い通り、タッチノートの黄色いボタンを押した。

 

『リミットオフ』

 

タッチノートから聞こえる音声の後、チェイサーさんに変化が起こった。

 

黒一色だったボディに銀のラインが走る。

 

ボディの両脇と前面にV字マークだ。

 

更にV字の下部分は全て黒から赤へと染まる。

 

『うふふ、これがアタシの真の姿って奴よ』

 

カッコイイ!

 

カッコイイよ、チェイサーさん!!!

 

これぞライダーバイクだよ!

 

『二人とも、それぞれ興奮している所失礼するが、そろそろ追いかけないと本当に逃げられるぞ』

 

メカ犬よ、仲間のパワーアップシーンをスルーするなんてKYにも程があるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェイサーさんは元からバイクとしては有り得ないスピードだったけど、この状態になったら更にスピードが上がった。

 

仮面ライダーに変身している筈の俺ですらかなりの風圧を感じる。

 

『追い着いたぞ』

 

メカ犬が声を上げる。

 

確かに前方に見えるのはターザン飛びで逃亡を図る草型ホルダーだ。

 

ホルダーはこちらの接近に気付いたらしく小さく舌打ちして皮肉を言った。

 

「本当にしつこいですね。あんまりしつこいと女性に嫌われますよ」

 

『アタシは女なんかに興味は無いのよ。好みの男に一度アタックして断られたって、何度でもアタックしてやるんだから』

 

それは、男からしたらかなり怖い意見に聞こえる気がするんですけど、チェイサーさん…

 

ホルダーはチェイサーさんの返答は無視して今度は無言でそこらじゅうにある物をツタで絡め取って此方に投げつけてきた。

 

ポストに標識、大きな岩に横転した自動車等と兎に角道にある物は何でもだ。

 

『あら、プレゼント攻めなんてお姉さんのツボを心得てるじゃない』

 

そんな軽口を良いながらチェイサーさんはそれをことごとく回避する。

 

最早バイクの稼動限界を軽く凌駕してるよね、チェイサーさん?

 

『…でもね。アタシは愛されるよりも愛いしたいのよ!!!』

 

チェイサーさんは咆哮を上げると、ホルダーが投げてきた自動車を踏み台にして飛び上がる。

 

その軌道の先に居るのは勿論ホルダーだ。

 

ホルダーが此方に振り向く。

 

表情なんて今の状態では読み取る事は出来ないが驚愕している事だけは理解できた。

 

『アタシの愛をうけとりなさああああああい!!!!』

 

チェイサーさんがホルダーに向けて叫ぶ。

 

もしかして最初のバイクタックルも含めてこれはチェイサーさんの求愛行動なんですか?

 

「ひでぶ!?」

 

あまりにも過激なラブアタックを受けたホルダーは力無く地に落ちていく。

 

その落ち様は、またしても世紀末で芸術的だった。

 

『それじゃあ後はお願いするわねマスター』

 

先程までのやり取りなど一切無かったかのようにチェイサーさんが俺に言う。

 

俺はとりあえずこの人?だけは色んな意味で敵に回さない様にしようと密かに心の中で決意してチェイサーさんの座席シートからホルダーの近くまでジャンプする。

 

ホルダーは何とかふらつきながらも立ち上がろうとするがそれすらも叶わない様だ。

 

肉体的にも精神的にも相当ダメージ受けてそうだからな。

 

『マスター、今がチャンスだ』

 

メカ犬が俺に声を掛ける。

 

「ああ、任せてくれ」

 

俺はバックルからタッチノートを取り出して以前と同じ操作を繰り返して再びバックルに差し込む。

 

『ポイントチャージ』

 

タッチノートからの音声と共に、バックルから白い光が発生し、その光が銀のラインを伝って右足に集約する。

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺は大きく跳躍する。

 

自らの右足をホルダーに向ける。

 

今から行なう行動はこの戦いに終止符を打つ、最強の技だ。

 

「ライダーキック」

 

右足は一層その輝きを増して行く。

 

ホルダーに俺の右足が当たった瞬間、奴は白い光を放ちながら爆発した。

 

爆発後の場所には三十代に見えるメガネを掛けた男性が気絶していた。

 

その隣にはエメラルドグリーンの球体、この男性をホルダーに変えた原因である暴走システムが落ちていたが間も無くして跡形も無く砕け散った。

 

「なあ、メカ犬」

 

『何だ?マスター』

 

「…これからも宜しくな相棒」

 

『ああ、こちらこそ宜しく頼むぞ相棒』

 

俺はこの日、仮面ライダーとして戦い続ける覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの戦いの次の日、俺は恭也君に追い掛け回されていた。

 

あの後なのはちゃんは高町家の全住人に、あのときの事を詳しく話して聞かせたそうなのだ。

 

問題はこの話を恭也君が聞いていたって事だ。

 

俺は今、昨日の戦い以上の生命の危険に晒されている。

 

でも俺は恭也君に感謝しないといけないのかなとも思う。

 

俺が曲りなりにも戦えるのは恭也君のおかげだからだ。

 

そう思うとこれは特訓してパワーアップするチャンスなんじゃ無いだろうか?

 

それなら立ち向かうべきじゃなかろうかと俺は後ろを振り向く。

 

鬼が居た。

 

元恭也君という名前であったであろう悪鬼が無言で俺に迫り来る。

 

俺の生存本能が全力全開で逃げろと言っている。

 

俺は勿論プライドや男として大切なもの全てを投げ出す覚悟を速攻で決めて逃げ出した。

 

「お兄ちゃんも純君も本当に鬼ごっこが好きなんだから」

 

『マスターの体捌きはこういった日々の賜物なのだな』

 

俺と恭也君の命を賭した逃走劇を、主に俺の命が危険に晒される原因を作る一人と一匹がのほほんと見ながら談笑している。

 

何時かこいつらに目に物見せてやると俺はその心に硬く誓い、今は自身の命を守るために走り続ける。

 

とりあえず今日の海鳴は、命の危険は付き纏っているが概ね平和だ。


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