魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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仮面ライダーシード&仮面ライダーW ミックスワールド・クライシス【第三章】

「実に興味深いね……」

 

メカ犬を手に取り、フィリップ君が、興味津々に細部を観察する。

 

『うむ。ワタシを観察するのは良いのだが、その蛙や、カタツムリの様なマシンは何なのだ?』

 

フィリップ君と同様に、メカ犬にとっても興味深いものが多いらしく、先程から一人と一匹の間で、質問合戦が続いている。

 

今俺達は、前世で画面越しに見ていた風都でも、多く登場していた場所。

 

鳴海探偵事務所の奥、劇中でWが良く使っていた高速移送装甲車、リボルギャリーが置かれている、秘密のガレージに居た。

 

「なるほどな。つまり本来は繋がらない筈の世界が、奴等の実験で繋がったと……」

 

俺が知りうる限りの情報を聞いた、翔太郎さんは、眉間にしわを寄せながら、考えを巡らせる。

 

自分で言っていても、現実味が無い事は、重々承知だ。

 

それを実際に見ていない上に、記憶が改ざんされているという状態で、いきなり言われても、すぐには信じる事等出来ないだろう。

 

こればかりは、彼等に信じてもらう他にない。

 

しかし今の俺には、それと同等、いや、それ以上に気になる事がある。

 

先程から、フィリップ君とメカ犬のやり取りを、不思議そうに見つめる、一人の少女。

 

俺のお隣さんで幼馴染でもある、なのはちゃんの事だ。

 

風都ランドパークで様子がおかしかった事もあり、恵理さんに適当な理由を作ってもらって、この場に連れて来た訳だが、本当にどうしたというのだろうか?

 

話し掛けても、あの一言以来、何も返事を返してくれないし……

 

何か心配事が後を尽きなくて、俺は思わず溜息を吐いてしまう。

 

「そう言えば、翔太郎さんは、どうしてあんな場所に居たんですか?」

 

俺は気持ちを切り替えて、翔太郎さんに質問をしてみる事にした。

 

思えば、あの場所に偶然居たというのは、幾らなんでも話が出来過ぎている。

 

ドーパントが居た事も含めて、何かしらの理由があると考えた方が、妥当だろう。

 

「ああ、俺があそこに居たのは仕事の依頼だ。クライアントのプライバシーに関わるから、これ以上は話せないがな」

 

俺の質問に対して、翔太郎さんは、淀み無く答える。

 

仕事の依頼……

 

確かに風都全域を仕事場にしている探偵業の翔太郎さんが、そう言うのであれば、違和感も無いのだが、何故か俺は得体の知れない大きな意思が、介入している様に感じてならない。

 

これはただの勘だ。

 

でも俺はこの勘が、当たっていると思えてならない。

 

それは翔太郎さんも同じなのか。

 

先程から思案顔を崩さずにいる。

 

「ところで、この探偵事務所には、二人しか居ないんですか?」

 

再度頭を切り替えて、俺は別の話題を振る事にした。

 

この事務所の翔太郎さん達が、どの辺りの時系列に存在するのかは、分からないが、Wに変身していた事を考えると、少なくても映画のビギンズナイトより後の時系列で間違い無い筈だ。

 

ここで鳴海亜樹子《なるみあきこ》の存在の有無が確認出来れば、かなりの精度で、現在の時間軸を確認出来る事だろう。

 

「あ~もう一人居ると言えば居るんだがな……」

 

翔太郎さんは、何処か言い辛そうに、顔を歪める。

 

「この探偵事務所の所長で、アキちゃんって言うんだけどね……」

 

言い辛そうにしている翔太郎さんに代わり、メカ犬と質問合戦を繰り広げていたフィリップ君が、会話を引き継いだ。

 

「……今は海外に行ってる」

 

「彼女は、つい最近結婚式を挙げたばかりでね。今は旦那さんと新婚旅行の真っ最中さ」

 

二人の言葉を聞いて、俺は声を出す事すら忘れて驚いた。

 

時系列どころじゃない。

 

この世界の翔太郎さん達は、俺が知っているTVの最終回よりも、もっと先の未来に居る人達だ。

 

可能性としては、ゼロではない。

 

実際にTVシリーズが終わった電王も、毎年新しい映画に出ていたし、実際に俺が会った電王メンバーも、エピソードイエローが終わった後の時系列から来ていた……

 

俺が前世で最後に視たのは、オーズの一話目だったが、後に出た映画で共演して、続編が描かれていたなんて可能性は極めて高い事だろう。

 

「……そ、そうなんですか」

 

多大なショックを受けながらも、俺は出来るだけ平静を装って、返事を返す。

 

結婚した相手が誰なのかも、気になるところではあるが、大体の予想はつくし、多分当たっているだろうから、あえてこれ以上は聞かない事にした。

 

それに俺が前世の記憶で、彼等を知っていたとしても、今目の前に居る人達はフィクションではなく、現実に存在している人格を持った本物である。

 

全てを混同して、考えるべきでは無いだろう。

 

「それで、これからどうするかだな」

 

この話題は色々と鬼門となっているのか、翔太郎さんが、当初の話題に戻す。

 

「ええ、それが問題なんですよね。メルトが言っていた言葉は抽象的過ぎて、俺達から動こうにも……」

 

こっちには、劇中でも大活躍していた、フィリップ君の地球《ほし》の本棚という凄い裏技があるが、それも答えに辿り着くキーワードを揃えないと、何の意味も成さない。

 

現在持っている情報はあまりにも少なすぎて、現状では地球の本棚は使えないだろう。

 

「取り敢えず俺は、仕事の調査を続けるぜ。ドーパントと、そのメルトって奴が、一緒に行動しているなら、何かの糸口になるかも知れねえからな」

 

翔太郎さんが、そう言ってガレージを出ようとしたその時である。

 

「……探してほしい人がいます」

 

今まで沈黙を守り続けていた、なのはちゃんが言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがお前達が言っていた力か……」

 

「ふふ、どうだい?これが君の新しい力だよ」

 

声の主である、青年と藍色の怪人以外には、人の気配が一切感じられない、廃墟となったビルの一室で、青年は自身の力の確認作業を行っていた。

 

「悪くは無いな」

 

「気に入ってもらえたみたいで嬉しいよ」

 

青年の回答に対して、藍色の怪人、オーバーは満足そうに頷く。

 

「それで、お前達はこれを使って、俺に何をさせたいんだ?」

 

自身の事である筈なのに、青年はまるで他人事の様に振舞いながら、今更な質問をオーバーにぶつける。

 

「簡単な事だよ。君はその力を使って戦ってくれれば良いんだ」

 

「誰と戦えば良い?」

 

「まあ、そう急がないでよ。物事には、順序があるんだし……まずはもっとその力に慣れてもらわなくちゃ……」

 

オーバーがそう言うと、藍色の球体、暴走プログラムの一種を三つ程、地面に放り投げる。

 

放り投げられた暴走プログラムは、地面に転がると同時に、発光現象を引き起こして、徐々に人型へとその姿を変えて行く。

 

やがて発光現象が終わりを迎える。

 

今、彼等の前に佇むのは、人と似て異なる異形の存在。

 

「取り敢えず、今の君が戦うのは、こいつ等さ」

 

オーバーは両手を広げながら、軽い口調で青年に今自分がこの場で作り上げた、ホルダーモドキ達と戦えと強要する。

 

「……良いだろう」

 

しかし青年は、オーバーの突然の要求に対しても、眉一つ動かさずに淡々と己のすべき事を実行に移す。

 

何処から取り出したのか、赤と黒に銀を基調とした、青年の片手に納まる程度の大きさをした、金属製と思われる物体を手に取り、それを青年は自身の腹部へと宛がう。

 

宛がわれた瞬間、その物体ロストドライバーは瞬時にベルトの形状へとその姿を変化させる。

 

続いて青年が右手に握り込みながら取り出したのは、紫色をした、一本のガイアメモリ。

 

本来ならば内包された地球の記憶の一部のイニシャルが刻まれている筈だが、青年が持つガイアメモリには、数字の【0】が表記されていた。

 

『サイファー』

 

青年がガイアメモリのボタンを押すと、電子音声が流れる。

 

音声が流れるのを確認した青年は、ガイアメモリを頭上に回転を加えながら放り投げて、呟く様に力ある言葉を紡ぐ。

 

「……変身」

 

言葉が紡がれた次の瞬間、空中に放り投げられたガイアメモリが、ロストドライバーの右側に設けられたスリット部分に、吸い込まれる様に装填される。

 

『サイファー』

 

そなまま青年が右手で、ドライバーを展開させると、再び電子音声が流れて、青年の身体を金属片が覆う様にして、その姿を人ならざる存在へと、その姿を変えていく。

 

全体的に鮮やかな紫のボディーに、四肢に螺旋状に伸びた緑色のライン。

 

その緑のラインは、肘と膝の部分で鋭い突起を形成し、鬼を彷彿とさせる額の赤い角飾りに、闇の様に黒い二つの複眼が、見た者に底知れない恐怖を刻み付ける事だろう。

 

「それじゃあ、早速戦ってもらおうかな」

 

青年が変身を完了させたのを見届けたオーバーは、片手で合図を送り、ホルダーモドキ達を、青年、改めサイファーにけしかける。

 

「ふん!」

 

サイファーは、迫り来るホルダーモドキ達の攻撃を避ける事無く、その身に受けた。

 

「……足りないな」

 

しかしホルダーモドキ達の攻撃では、サイファーにダメージを負わせる事は叶わなかった。

 

回避行動すらせずに、攻撃を受けながら呟いたサイファーは、一度面倒臭そうに首を回してから、ホルダーモドキ達に、容赦無く拳を叩き込んでいく。

 

吹き飛ばしたホルダーモドキとは別の個体が背後から強襲を仕掛けてくるが、サイファーは振り返りもせずに、垂直の蹴りを繰り出して、相手を沈黙させる。

 

「……お前達程度じゃ、俺の証にはならない」

 

自身が吹き飛ばしたホルダーモドキ達を見ながら、吐き捨てる様に呟いたサイファーは、ロストドライバーに装填されていたガイアメモリを引き抜くと、ベルトの右腰部分に設けられている差込口に装填し直す。

 

『サイファーマキシマムドライブ』

 

ベルトから放たれる光は両腕に集約されていき、肘の突起が光を帯びて更に鋭く長く研ぎ澄まされる。

 

其処へ最後の抵抗とばかりに、ホルダーモドキ達が、サイファー目掛けて突進して来るが、そんな事もお構い無しに、サイファーは肘の突起を外側に向けて、自身を軸として凄まじい勢いで回転しホルダーモドキ達を、容赦無く切り刻んだ。

 

切り刻まれたホルダーモドキ達は、連鎖反応を起こすかの如く、次々と爆発を起こして、その全てが塵に返って行った。

 

「凄いね。もうその力を使いこなすなんてさ。やっぱり君を選んで正解だったよ」

 

先程までの戦いを、終始観戦していたオーバーは、サイファーに軽い口調の賛辞の言葉に気の無い拍手を送る。

 

「もう茶番は良いだろう。早く本当の戦い場に、俺を連れて行け」

 

オーバーの賛辞に対してサイファーは溜息を吐きながら、次の戦いの場を求めて言及した。

 

「良いよ。その調子なら期待出来そうだし、今から連れて行ってあげるよ」

 

「最初からそうすれば良い」

 

「随分な自信家だね君は。それとも……」

 

「何が言いたい?」

 

「……いや、何でも無いさ。君が僕達の言う事を聞いて、戦ってくれるのなら、個人的な感情には興味無いしね」

 

オーバーはサイファーと言葉を交わしながら、部屋の出口に向けて歩き始める。

 

「……」

 

それに対しサイファーは数歩遅れて、無言でオーバーの後ろについて歩き出す。

 

「ああ!一つ言い忘れてた」

 

部屋を出る直前に、オーバーが思い出す様に言葉を発して、サイファーに振り向く。

 

「……何だ?」

 

「君のその姿だよ。それは仮面ライダーって言うから、これからはそう名乗る様にしてね」

 

オーバーはこの場で取って付けた様な言い回しで、サイファーに言い聞かせ始めた。

 

「俺に名前は必要無い」

 

「そう言わないでよ。仮にも今は僕達仲間な訳なんだし、名前位無いと困るでしょ?」

 

「……好きに呼べ」

 

「ふふ。それじゃあ君は、今日から仮面ライダー。仮面ライダーサイファーで決まりだね」

 

オーバーは相変わらずの軽い口調で、青年の名前を半ば無理矢理に、決定してしまう。

 

「……一つだけ聞いておきたい」

 

「何かな?」

 

「お前が言う仮面ライダーとは何だ?」

 

サイファーは先程から聞き慣れない単語について聞いてみる。

 

興味は無かったが、仮にも自分の名前だと言うのならば、最低限の意味だけは、理解しようとした為かもしれない。

 

「……ああ。仮面ライダーの意味か。実は僕も良く分かって無いんだけどね」

 

この質問に対して、名付け親とは思えない言葉をオーバーは吐き出した。

 

その様子に、サイファーは仮面の下で、呆れた様子の溜息を吐く。

 

「……でも、一つだけ僕にも分かる事があるよ」

 

サイファーが溜息を吐いた直後、オーバーがその身に纏う雰囲気を僅かばかり変えながら、続きを口にする。

 

「その名前は、君が今から戦う敵の名前さ」

 

オーバーの様子を見て、サイファーは安堵した。

 

それと同時に、暗い歓喜の感情が身体の奥底から湧き上がるのを感じる。

 

やはりこの異形の存在達に着いて来たのは間違いじゃなかったと。

 

これで己の願いが果たされるかも知れない。

 

常人には理解し難い屈折した感情ではあったが、それは唯一青年を今現在に至って正気に繋ぎ止めている、人としての最後の感情だった……


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