魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「ここが噂のホラーハウスやな……」
幾つかのアトラクションを巡り、この風都ホラーハウスという、簡単に言えばお化け屋敷なアトラクションに辿り着くと、はやてちゃんが、妙に真剣な表情で呟いた。
「ここってそんなに怖いの?」
記憶が変換されなかった俺は、この風都ランドパークの前情報が何一つ無いので、素直に質問をぶつけてみる。
「純……あんたはそんな事も知らないの?」
それに対して、アリサちゃんが、呆れながら返答してくる。
「……ここはね、出るんだよ」
続いてすずかちゃんが、怪しげに言葉を紡ぐ。
「出るって、何が?」
何となく答えは分かったが、ここまで聞いたら最後まで質問し続けるのが、礼儀だと思い、俺は質問を続ける。
「決まってるやろ……本物の、幽霊や」
「にゃああああああああああああああああああ!?」
最後にはやてちゃんが、締めくくるのと同時に、なのはちゃんが叫び声を上げて、俺の腰に背後からしがみ付いてきた。
「ごめんな、なのはちゃんがそんなに怖がるとは思わなかったんや」
震えるなのはちゃんを見ながら、はやてちゃんは苦笑いを浮かべつつ、謝罪の言葉を口にする。
どちらかと言えば、幽霊そのものよりも、皆の話し方のせいで、恐怖感が煽られた様に思えるのは、気のせいでは無い筈だ。
次の予定は、このホラーハウスを回る事になっていたのだが、なのはちゃんのこの様子を見て、無理そうなら止めておこうかと、俺が提案したのだが、なのはちゃんは俺の腰にしがみ付いて震えながらも、行くと言って意見を変える事はしなかった。
このアトラクションは、最大二人組みになり、徒歩でコース内を進んでいくというタイプのものなのだが、なのはちゃんが、俺の腰を離さない為、自動的に俺となのはちゃんが、ペアで行く事に決まったのである。
ここで入る順番だが、俺となのはちゃんが、一番手となる事に決定した。
それというのも、なのはちゃんの強い要望で、順番が後になると、余計な恐怖心が高まりそうになるからだそうだ。
「それじゃあ行こう。なのはちゃん」
俺は腰にしがみ付くなのはちゃんを、取り敢えず引き離して手を繋いだ状態にした後、アトラクションの係員さんに、促されながら、ホラーハウスの内部へと進んで行く。
ホラーハウスは、怖いというよりも、幻想的な作りになっており、お化け屋敷に入ったというよりは、妖精が出てくる様な異世界に迷い込んだという方が、しっくりする感じである。
なのはちゃんも、暫くは恐怖に、表情を歪めていたが、歩き続けるにつれて、この幻想的な雰囲気を楽しみ始めるまでになっていた。
この幻想的な場所を歩きながら、改めて思うが、何故こんな場所で、幽霊が出るなんて噂になったのだろうか?
内装や演出が、入った人達を恐怖させる仕様になっているのであれば、まだ納得も出来るのだが、今の所そんな様子は見受けられない。
火のない場所に煙はたたない、なんて言葉があるが、他に何かの要因があるとでもいうのだろうか?
「ねえ、純君」
「ん、どうしたの?なのはちゃん」
もう少しで出口という所で、なのはちゃんが、何処か不安げな顔で、俺に話しかけてくる。
「今、何か聞こえなかった?」
「……声が?」
俺はなのはちゃんに言われるがまま、耳をすませてみるが、スピーカーから流れる幻想的なBGM以外には、特に聞こえてこなかった。
「ほら!また聞こえたよ!?」
しかしなのはちゃんには、確かに声が聞こえ続けているらしく、更にその表情に不安を募らせる。
「兎に角ここを出よう。なのはちゃん」
俺も言い知れない不安を覚え始めたので、なのはちゃんの手を握り直すと、急いでこのホラーハウスを出る為に走り始めた。
走り続けて出口に辿り着いた瞬間、握っていたなのはちゃんの手が、異常な震え方をした様な気がしたのだが、その次に起きた出来事の、あまりのインパクトで、その事を気にする余裕は何処にも無くなってしまう。
俺となのはちゃんが、ホラーハウスから出た直後、すぐ近くから、大きな爆発音が周囲に響き渡ったのである。
「な!?」
突然の爆発に驚きながら、俺が爆発のあった方向に視線を向けると、其処には異形の存在が居た。
『何だあれは!?ホルダーではないのか!?』
ショルダーバックからメカ犬の声が響く。
メカ犬の言う通り、あれはホルダーなんかじゃない。
実際に目にするのは、俺だって勿論初めてだが、その存在だけは、良く知っている。
魚と虫を合わせた様な姿。
それは遥か古代を生きた生物、アノマロカリスという生き物に酷似していた。
当然だろう。
何せ奴は、この地球の記憶から、アノマロカリスの記憶を引き出しているのだから。
「ドーパント……」
それがこの異形の名前だ。
ホルダーとは違うが、奴もまた脅威となる存在である。
ドーパントは此方に振り向くと、口から何かを吐き出す。
「やばい!?」
俺はなのはちゃんの手を引きながら、この場から飛び退く。
その直後、ドーパントが吐き出した何かが、凄まじい勢いで、先程まで俺達が居た場所の、後方にあるベンチを跡形も無く破壊した。
何故かは分からないが、このドーパントは、俺達を標的に定めた様である。
『どうするマスター』
俺は恐怖の為に、一言も喋れずにいるのか、沈黙し続けるなのはちゃんを背中に庇いながら、この先どうするべきか思案する。
「……迷ってる場合じゃないよな!!!」
一度だけなのはちゃんに視線を向けてから、俺はタッチノートを取り出す。
『良いのかマスター?』
「ああ、正体とか以前に、守れなかったら、何にもならないだろ!!!」
俺はメカ犬に答えながら、なのはちゃんを後ろに下がらせて、タッチノートを開き、ボタンを押す。
『バックルモード』
音声が流れると同時に、ショルダーバックから飛び出したメカ犬は、ベルトに変形して、俺の腹部に巻きつく。
「変身」
音声キーワードを入力した俺は、タッチノートをベルトの溝に差し込んだ。
『アップロード』
白銀の光が俺の全身を包み込み、メタルブラックのボディーを持つ、一人の戦士へと、その姿を変える。
「行くぞ!」
シードへの変身を無事に完了させた俺は、そのままドーパントに突っ込む。
ドーパントは先程と同じものを口から何発も吐き出して、迎撃を試みて来るが、俺はその全てを拳で弾き飛ばしながら、構わず突っ込み続ける。
「はあ!」
攻撃の届く範囲内に接近を果たした俺は、ドーパントに対して、容赦無く拳と蹴りを連続で叩き込んでいく。
「たああああ!」
最後に俺はドーパントの背中に蹴りを叩き込み吹き飛ばす。
『マスター!』
「分かってる!」
メカ犬が言おうとしている事を理解した俺は、ベルトからタッチノートを引き抜こうとするが、ここで予想外の出来事が起こる。
突如として無数の銃弾が、俺の足元に撃ち込まれたのだ。
「何でお前がここに!?」
俺は銃弾の飛んで来た方向に視線を向けて、その銃弾を撃った人物を目撃して、驚愕する。
其処に居たのは、海鳴市で、何度も戦ってきた灰色の怪人。
『何故貴様がこの風都に居るのだ!?メルト!!!』
メカ犬はその名を高らかに呼ぶ。
「ふん。まさか私も、ここでお前達に会うとは思っても居なかったぞ」
メルトはそう言いながら、銃を構えると、再び俺に狙いを定める。
「ちょっと待った!!!」
臨戦態勢を取る俺達の間に、一際大きな声が響く。
今度は何かと思い、声のした方向に再び視線を移すが、俺はその声の主を見て、先程以上の衝撃を受けた。
黒いソフト帽を目深にに被り、ドラマに出てくる様な探偵ルックな服装に身を包んだ一人の青年。
俺はその人を画面越しから、何度も見てきた。
左翔太郎。
それが俺の知る青年の名前だ。
「行くぜフィリップ」
赤と黒と銀を基調とした物体、ダブルドライバーを取り出した翔太郎さんは、この場には居ない相棒の名前を言いながら、自身の腹部へと宛がう。
ダブルドライバーが一瞬の内にベルトとして装着されたのを確認すると、続いてJのイニシャルが刻まれたUSBメモリに良く似た物体、切り札の記憶が内包された、御馴染みのガイアメモリを取り出してボタンを押した。
『ジョーカー』
辺り一体にあの音声が響き、更に翔太郎さんは、ジョーカーメモリを持った手を引きながら、ポーズを取る。
「変身」
その言葉を口にした直後、ダブルドライバーの中央に二箇所設けられている差込口の右側に、Cのイニシャルが刻まれた疾風の記憶を内包するガイアメモリ、サイクロンが装填される。
翔太郎さんは、サイクロンメモリを、深く押し込むと、続いてジョーカーメモリを差し込んで、両腕をクロスさせる様にしながら、ダブルドライバーを展開させた。
『サイクロン』
『ジョーカー』
再び鳴り響く音声と共に、翔太郎さんの周りを、細かい粒子が取り囲む様に纏わりつき、二人で一人の戦士へとその姿を変えていく。
緑色の右半身と、黒色の左半身に、額に輝くW型の角飾り。
両目の赤い複眼に、首に巻かれた銀のマフラー、ウィンディスタビライザーが、風都の風を受けて揺らめく。
その姿は見間違う筈も無い。
風の街、風都を守る二人で一人の仮面ライダー。
仮面ライダーW。
それが今の彼等の姿である。
「「さあ、お前の罪を数えろ」」
翔太郎さんとフィリップ君の声が重なり、あの台詞を口にした。
「……どうやらこの場には、厄介な奴等が集まって来る様だな」
Wを見ながら、メルトは淡々と呟く。
此方に駆け出すWに対して、銃を構えるメルトを見た俺は、我に返って、急いで行動を開始する。
「させるか!」
俺は一気にメルトとの距離を詰めて、メルトの銃の弾道からWを外す為に、拳を振るう。
「くっ!?」
メルトの舌打ちとほぼ同時に、Wはこの場を走り抜けて、ドーパントの元へと向かって走り続ける。
「邪魔をするな!」
近距離で振るわれる拳を避けながら、俺は一旦距離を取り様子を窺う。
『答えてもらおうかメルト!あの杭は何だったのだ!貴様達の本当の狙いは何だ!?』
「言った筈だろう。これは実験だと」
メカ犬の質問に、メルトは、銃を此方に乱射しながら答える。
「やっぱりこの現象は、あの時の杭が原因だったんだな!?」
俺はメルトが撃ち出す銃弾の嵐を避けながら、自らの確信を口にした。
「今この世界は不安定なバランスの中に成り立っている。だからこそ私達は新たなる実験に、着手するのさ」
休み無く銃弾の雨を俺に降らせながら、メルトは饒舌に語り続ける。
続けて俺が避けながらも、新たな質問をしようとしたところで、メルト目掛けて、ドーパントが吹き飛ばされてきた。
「ふん。どうやら話しはここまでにしておいた方が良いらしいな……」
吹き飛ばされてきたドーパントを一瞥したメルトは、ドーパントを庇う様に、一歩前に踏み出す。
それと時をほぼ同じくして、俺の隣にWがやって来た。
「よう、話してる所を、邪魔して悪かったな」
「君も仮面ライダーみたいだけど、あれは何なんだい?もう片方の灰色はドーパントでは無い様だけど……」
翔太郎さんが喋るのに続き、フィリップ君も、俺に話し掛けてくる。
「いえ、気にしないでください。それとあいつはメルト。俺にも良く分からないんですが、本人はホルダーの上位存在だと言っていました」
俺は目の前のメルトとドーパントの動きに注意を払いながらも、Wの質問に答えた。
「聞け!仮面ライダー!」
メルトが突如として声を張り上げ、俺達に宣言してくる。
「これから、この街は大きな実験場になる!止めたいならば、精々足掻いてみる事だな!」
そう言いながら、メルトは俺達の足元に銃弾を乱射した。
止め処無く撃ち出された数々の銃弾は、視界を奪う白い煙を大量に巻き上げ、その煙が晴れると、メルトもドーパントも、共にその姿を忽然と消してしまう。
「……逃げられたみたいだな」
Wは煙が晴れて辺りを見回してから、そう呟いた後、変身を解いて翔太郎の姿へと戻る。
それに続いて、俺もシードの変身を解いて、元の姿に戻った。
「子供!?」
変身を解いた俺を見て、翔太郎さんが、驚きの声を上げる。
考えてみれば驚くのは当然かも知れない。
変身している間は、大人サイズになってる訳だし、普通に考えれば、変身を解いたら子供だと考える人間は、殆どいないだろう。
「色々と話したい事はあるんですが、今は少し待ってもらって良いですか?」
驚く翔太郎さんに対して、そう言った後、俺はなのはちゃんの下に駆け寄る。
取り敢えず、今の翔太郎さんと同等か、それ以上に驚いたであろうなのはちゃんに、簡単な事情だけでも説明しようと思ったのだ。
「ごめん。なのはちゃん。今まで黙っていて……」
俺は今も沈黙を守り続けるなのはちゃんに、まずは今まで仮面ライダーとして黙っていた事を、正直に謝る事にした。
「……」
しかしなのはちゃんからの反応は、何も返ってこない。
「……なのはちゃん?」
幾ら怖かったとはいえ、ここまで何も反応が無いのは、おかしいと思い、俺は再度なのはちゃんに呼びかける。
「あ……だ……れ……」
耳を澄ますと小さな声だが、確かになのはちゃんの声が聞こえた。
俺は再度、聞き逃すまいとして、なのはちゃんの声に耳を澄ませる。
「あなた、誰なの?」
「え!?」
しかしなのはちゃんが発した言葉は、俺が予想すらしていなかった言葉だった……