魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
奇声を上げながら飛び掛ってきたホルダーは、その自身の身長程もありそうな、両腕を鞭の様に撓らせながら、振り被る。
そしてその腕を一気に振り下ろすと、ホルダーの腕はゴムの様に伸びて、俺とE2の胴体に巻きつく。
それはあまりにも唐突だった為、俺達は対応が追いつかず、いとも簡単にホルダーの腕に拘束されてしまう。
「な!?」
「ぐう!?」
俺とE2はその腕を何とか振り解こうともがくが、絡みついた腕は中々離れない。
「うぃきゃああああ!!!」
再びホルダーが奇声を上げると、俺達を腕に絡めた状態のままで、持ち上げて、そのまま一気に地面へと叩き落すという動作を何度も繰り返す。
突然に襲われる全身へのショックに、俺は声を発する事すらも忘れる。
「この!!!」
数回叩きつけられて、再度ホルダーが俺達を持ち上げた瞬間、E2が右手に持った銃の標準をホルダーに合わせて、引き金を引く。
放たれた弾丸は、見事にホルダーに命中して、確かなダメージを与える。
それと同時に、俺に絡み付いていた、ホルダーの腕の力が若干ではあるが緩む。
『今だマスター』
俺はメカ犬の声に頷きながら、力が弱まったホルダーの腕を強引に振り解き、地面に着地する。
「早さには早さで対抗だ!」
俺はそう言いながら、ベルトの右側をスライドさせて、緑色のボタンと、黄色いボタンを続け様に押していく。
『スピードフォルム』
『スピードロッド』
音声が流れると同時に、メタルブラックのボディーはライトグリーンに染め上がり、俺の右手にはこのフォルムの専用武器であるスピードロッドが握られる。
「はあああああ!!!」
俺は一気に駆け上がり、先程のE2の攻撃でよろけるホルダーに肉薄すると、ロッドによる連撃を叩き込んでいく。
最後にロッドに回転を加えながら突きを喰らわせると、ホルダーはもう片方の腕に捕らえていたE2を放して、そのまま後方へと吹き飛ぶ。
ここで更に追撃をかけようとしたのだが、俺達の行き先を、多数のホルダーモドキ達が遮る。
後ろに視線を送ると、先程ホルダーの腕から開放されたE2も同様に、ホルダーモドキ達に囲まれており、戦闘を開始していた。
向こうもホルダーに追撃をかけるのは、無理そうである。
「くそ!本当に邪魔な奴等だな!」
『だが放っておく訳にも行かないだろう。今はこいつ等を倒す事に集中するぞマスター!』
「そうだな……」
俺はメカ犬との会話を簡潔に纏めると、改めてロッドを構えなおして、目の前のホルダーモドキ達に、攻撃を開始する。
俺とE2は数十体のホルダーモドキを相手に、乱戦を繰り広げるが、どうにも数が多い。
こいつ等を倒すならば、一度に纏めて仕留めるのが、最も効率的だろう。
……それならあの技がこの状況に、最も適している。
「俺が纏めて奴等に止めを刺す!君は奴等を俺の周りに集めてくれないか!!!」
戦いながら頭の中で一つの作戦を立案した俺は、それを実践するべく、E2に協力を仰ぐ。
「解りました!何とかやってみます!!!」
俺の声を聴いたE2は、周囲のホルダーモドキ達を蹴散らしながら、提示した案に承諾し、すぐさま実行に移す。
E2はホルダーモドキ達を銃で牽制しつつ、俺の周囲を旋回して、俺を中心にホルダーモドキが集まる様に誘導する。
そしてこの場に居る全てのホルダーモドキが、俺の技の射程圏内に足を踏み入れた。
『マスター!』
「ああ!」
このチャンスを逃すまいと、俺は合図を送るメカ犬の声に、呼応する様に答えて、ベルトからタッチノートを引き抜く。
俺は引き抜いたタッチノートを、スピードロッドの溝にスライドさせる。
『ロード』
音声が流れるのを確認しながら、俺はスライドさせたタッチノートを、再びベルトに差し込んだ。
『アタックチャージ』
ベルトから発生した光が、右腕のラインを通じて、スピードロッドへと集約されていく。
「こいつで決めるぜ」
輝くスピードロッドを構えた俺は、自分自身を軸として、スピードロッドを回転させる。
「スピードロッド」
回転を続けるスピードロッドから、波打つ様な真空の刃が造り出されて、その刃は、波紋の如く広がっていく。
「ウインドテイスティング」
E2の誘導によって、ウインドテイスティングの射程圏内と入っていたホルダーモドキ達は、回避する事も出来ず、真空の刃に飲み込まれて、次々と爆発を引き起こす。
俺が回転を止める頃には、周囲に居た全てのホルダーが、無へと帰っていた。
『……どうやらホルダーには逃げられた様だな』
「そうみたいだな」
ホルダーモドキを倒した事を確認した俺が、辺り一体を見回す中、メカ犬が俺に声を掛けてくる。
俺はその言葉に答えを返しつつ、一度だけ深く静かに、肺の中に吸い込んだ息を吐き出した。
「それで私のところまで来たってわけね?」
「はい!」
「そうやで!」
恵理さんの言葉に対して、すずかちゃんと、はやてちゃんは、元気に答える。
俺はその少しで、哀愁を漂わせつつ、その光景を眺めていた。
あの戦いの後、逃げたホルダーを追跡するE2に別れを告げた俺は、二人が気になったので、合流したわけなのだが……
「それじゃあ私が仮面ライダーについて、色々と教えてあげるから、何でも聞いてね」
「「お願いします!」」
どうやら何も心配する事は無かった様だ。
ほんの少し前に、あんな目に遭ったので、落ち込んでいるのではと、心配していたのだが、実際に二人に再会してみれば寧ろ、直接会ってお礼を言わなければ気がすまないと、更なる闘志を燃やして、その勢いのままに、当初の予定通り、恵理さんの自宅に突撃する事となったのである。
取り敢えず逃げたホルダーの捜索は、現在別行動を取っているメカ犬に任せて、俺は引き続き二人の助手を務めているのだが、現状で問題は何一つ解決していない。
後は質問されている恵理さんが、上手く二人の好奇心を違う場所へと誘導してくれるのを願うばかりなのだが……
「恵美から話は聞いてたけど、何か凄そうね……」
「はい。普段雑誌で紹介されている仮面ライダーさんに似ている人が、私達を助けてくれたんですよ」
「何やかメカっぽくて、黄色かったんやで」
ミイラ取りがミイラになるという言葉は、こういう時に使う言葉なのかと、俺は一つの真理へと辿り着く。
最初は二人の質問を聞いていた恵理さんだったのだが、何時の間にか話題は先程の戦いの話になり、その時の状況を詳しく聞いた恵理さんは、どうやらE2に強い興味を覚えたの様なのである。
その結果……
「さあ!これから独占インタビューに行くわよ!!!」
「「おー!!!」」
仮面ライダー捜索メンバーに、己の欲望に忠実な雑誌記者という、新メンバーが加わった。
「どうだい、メルト。データは充分に集まった?」
強い突風が、吹く高層ビルの屋上で、藍色の怪人オーバーが、その突風を全く気にしない軽い口調で、隣に鎮座する相手へと話しかける。
「いや、まだ足りないな……」
話しかけられた相手、灰色の怪人メルトが、何時もの様に、淡々とした口調で、返答を返す。
「ふ~ん。それじゃあもう一回やってみる?」
オーバーはその手に、数十個にも及ぶ藍色の球体を握り込み、メルトに見せながら近所に買い物にでも行く様な調子で話す。
「同じ事をやったとしても、得られるデータに違いは無いだろう。次はアプローチを変える必要がある」
「そっか。まあ好きにやってみなよ」
「ふん。言われなくてもそうするさ……」
メルトが呟いた直後、ビルの屋上に一際強い突風が吹き荒れる。
その風が緩やかになった時、屋上には誰も居なくなっていた……
俺とすずかちゃんにはやてちゃん、そして新メンバーに迎えられた恵理さんが、目的地へと向けて街中を進んでいく。
今俺達が向かっているのは、この街の治安を日夜守っている海鳴署である。
探している仮面ライダー本人は俺なわけで、目の前に居る俺が突然消えるのも不自然だと感じた俺と恵理さんは、それとなく、所在地の判明しているE2を優先する様に、二人を誘導したのだ。
恵理さんの場合は、一刻も早くE2のインタビューに行きたいだけな気もするが……
まあ、そういう俺も、海鳴署に行けば、何かホルダーの情報が掴めるかも知れないという、下心が無いわけでは無いので、あまり人の事を言えないかもしれない。
「もうすぐ到着やな」
はやてちゃんが、興奮を隠しきれない様で、車椅子を押す俺に、顔を向けながら嬉しそうに言う。
「そうだね」
その隣ではすずかちゃんも、微笑みながらはやてちゃんに、同意を示す。
「もうすぐだからね皆!」
談笑する俺達に、恵理さんが目的地である海鳴署に、間も無く辿り着く事を宣言した直後である。
『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウケイホウ……』
タッチノートから警報が鳴り響く。
このタイミングで鳴れば、すずかちゃんとはやてちゃんに、また疑われる事となるのは、間違い無いが、現状はそんな余裕すらも与えてはくれなかった。
「きゃあ!?」
「な、何やの!?」
俺と恵理さんの目の前で、上空から突如深緑の体毛に覆われた人としては有り得ない長さを誇る腕が現れて、あろう事か、すずかちゃんと、はやてちゃんを絡め取ったのである。
「これは!?」
俺は突然の事態に驚愕しながらも、この腕の持ち主本体がいるであろう方向へ、視線を向けた。
「この娘達は人質だ。返して欲しければ、奴を連れて一時間以内に、船着場に来い」
すずかちゃんとはやてちゃんを絡め取ったホルダーの隣にいた灰色の怪人、メルトが俺達に淡々と要求だけを告げると、足元に構えた銃の引き金を引き、地面に着弾すると同時に発生した煙に紛れて、その姿を消してしまう。
ここまでの一連の流れは、あまりにも唐突で、俺はどうする事も出来なかった。
「奴って……誰の事なの?」
恵理さんがメルトの言葉に疑問を抱いたのか、独り言の様に呟く。
「分からないですけど、今は二人を助ける事が先決です!」
確かに俺も気にはなるが、それを考えている暇は無い。
「俺はこれからメカ犬と合流して、そのまま船着場に向かいます!」
「分かったわ。私はすぐに警察に行って、恵美にこの事を伝えるから!」
「お願いします!」
俺はタッチノートを取り出しながら、恵理さんと短く言葉を交わして、メカ犬と合流する為に、その場から急ぎ走り出した。
「ちょっと!この縄解いてくれへん!?」
「……何なんですか貴方達は?」
潮の香りが漂う海鳴の船着場の倉庫で、縄で腕と共に胴回りを縛られた二人の少女が、自分達をここへ連れてきた人外の者達に抗議の声を上げた。
倉庫は現在は使われていない、巨大な物品の保管庫の様で、少女達の声が虚しく、倉庫内全体へと響き渡る。
「ふん。お前達はただの餌だ。目的さえ果たせれば、お前達がどうなろうと構わん」
深緑と灰色の人外の内、灰色の人外、メルトが鬱陶しげにだが、律義に返答する。
「目的?」
「それに何で私達が関係あるんや!?」
「関係か……あると言えば有るし、無いといえば無い……思えば私達がやろうとしている事は……何処か滑稽であるかもしれないな……」
普段から淡々と話すメルトだが、自分の発した言葉により、ほんの少しだけ感情の篭った声色を乗せる。
「何を言ってるんや?」
「それって……」
縛られている少女の一人。
すずかがメルトに対して、何かを質問しようとしたその時、警察のサイレン音が、倉庫内にまでその音を響かせた。
「来たか」
メルトの呟きを他所に、その音は確実に倉庫に近づき、ついにはその音源が、倉庫内へと進入する。
サイレン音を響かせながら、マシンドレッサーを駆り、倉庫内へと突入して来たのは、メタルイエローの装甲と、青い複眼型のバイザーが目を引く、ホルダー対策特務課が誇る切り札である、ESシステム搭載強化ユニット、通称E2だ。
[「人質が居る状況で、銃撃戦を仕掛けるわけには行かないわ。ちゃんとC型装備にしてある?長谷川君」]
E2に搭載されたカメラを通して、現場をリアルタイムで確認している、恵美が通信機越しに、確認を取る。
「はい!」
E2は恵美の言葉に頷きながら、マシンドレッサーから降りて、側面部分に設けられている格納庫から、恵美が言っていた装備を取り出して両腕に装着していく。
「行け」
その様子を見ながら、メルトは一言だけホルダーに命令を下す。
「うぃきゃああああああああ!」
ホルダーはその命令に従い、奇声を上げると、E2に襲い掛かるべく飛び出した。
飛び掛るホルダーはその腕を最大限に伸ばし、倉庫の天井付近の鉄骨を掴むと、まるでターザンの様にその勢いを増して、E2へと迫り来る。
「はあ!」
しかしE2はホルダーの攻撃をある程度予測していたのか、直線的なホルダーの攻撃を避けきると、右腕に先程装備した新たな武器ESM02で斬りかかる。
ESM02は、両刃の剣となっており、握りの部分は小型の盾が設けられている上に、その切れ味は常に高熱を帯びている為、凄まじい威力を実現している、攻防一体を可能とした、E2の近接用専用武器だ。
高熱を帯びたESM02の一撃を受けたホルダーは、その身体から火花を散らして、天井近くの鉄骨から手を放してしまい、E2の付近にもがきながら転がりこむ。
それを確認したE2は、一旦ホルダーをその場に捨て置き、左腕に装備したESM04を天井に向けると、その先端部分を天井に向けて射出する。
ESM04は腕にはめ込むタイプの装備で、先端には小型のマシンアームが付いている特殊合金製のワイヤーを撃ち出す事が出来る、様々な場面で、多用な用途に使用出来る変幻自在な装備だ。
E2は天井にマシンアームが取り付いた事を確認すると、そのままワイヤーを巻き取りながら勢いをつけて飛び出す。
先程のホルダーがやった様に、高速で移動したE2は、メルトに近づいた辺りで、天井に取り付けたマシンアームを取り外すと、その勢いのままメルトへと斬りかかっていく。
「ふん!」
メルトもそれは予想の範囲内だったのだろう。
己の銃の銃身で、E2の一撃を受け止めると、メルトは大きく腕を振り被り、その力に任せた拳をE2の胴体へと叩き込む。
「ぐあ!?」
メルトの放った拳は狙い通り、E2の胴体を捉えて、その一撃を受けたE2は後方へと吹き飛ばされる。
[「長谷川君!?」]
通信機から、恵美の不安を滲ませた声が響く。
「だ、大丈夫です!」
それなりのダメージを受けて、よろけながら立ち上がるE2だったが、すぐに態勢を立て直すと、通信機越しの恵美に一言だけ返答を返して、再び目の前で銃を構えるメルトに向けて走り出す。
E2はメルトの銃撃を裁きながら、接近してESM02による近接戦を試みる。
「うぃきゃああああ!!!」
緊迫した戦いを繰り広げる両者の耳に、奇声が届く。
先程のE2の一撃で昏倒していたホルダーが、そのダメージから立ち直り、この戦いに参戦するべく、E2とメルトに接近して来たのである。
「さあ、ここからどうする?現状でも分が良いとは、言い難い状態で二対一だぞ?」
メルトがE2を試す様な、思わせ振りな口調で話しかける。
「二対一?いや……」
メルトの発言に対して、E2が言葉を紡ごうとしたその瞬間、この現状に大きな変化が訪れる。
近づいて来るホルダーが、予想外の方向から撃ち出された数発の光弾によって吹き飛ばされたのだ。
「何だと!?」
予想外の出来事に対して、メルトが驚愕の声を上げる。
「……だから言ったでしょ?」
それに対してE2は仮面の下で余裕の笑みを浮かべながら、続きの言葉を口にする。
「こっちも二人居るんだって」
光弾を放った張本人、スカイブルーのボディーの上に、メタルレッドの装甲を纏った存在は、先程までメルトとホルダーが居た場所で、両腕に武器を構えて佇んでいた。
人質として捕らえていた二人の少女を、解放して後ろに匿いながら。
「二人とも!ここは危ないから早く逃げるんだ!」
「「はい」」
俺の言葉に素直に頷いた、すずかちゃんとはやてちゃんは、素直に返事を返す。
力持ちなすずかちゃんが、はやてちゃんを背負ってこの場から離れるのを見送った俺は、視線をホルダー達へと向ける。
『長谷川殿のお陰で、二人を救い出す事が出来て良かったなマスター』
「ああ」
長谷川さん、E2がメルトとホルダーの気を引いていたお陰で、俺は難なく二人を助ける事が出来た。
『それにしても、メルトの奴は最初から執拗にE2を狙っていた様に見えたのだが……マスターから聞いた奴というのは、彼の事だったのだろうか?』
『先輩!今は考えるよりも先に、この戦いを終わらせましょう!』
「そうだな」
メカーズの会話を聞きながら、俺は再びサーチバレットと、ガンモードのガイアブレイガンを構えて、ホルダーに光弾の嵐を浴びせかける。
メルトの相手を引き続きE2に任せる事にして、こっちはホルダーの相手に集中だ。
サーチ・ガイアの状態となった今の俺は、遠距離における戦闘力が格段と向上していた。
他のモードで使っていたガイアブレイガンのガンモードも、この状態が最も手に馴染む。
「そろそろ決着を着けるぞマスター!」
光弾を受け続けながら、後退していくホルダーを見て、メカ犬が合図を送る。
「悪夢はここで終わらせる」
俺は頷き、答えながら、サーチバレットの溝にガイアブレイガンを差し込んだ。
『ジョイントアップ・ガイアバレット』
新たな武器を手にした俺は、そのまま左の腰にあるレバーを引く。
『マックスチャージ』
音声と共にベルトから発生した稲妻の様な光が、右腕のラインを通り、ガイアバレットへと集約される。
「こいつで決めるぜ」
ガイアバレットを構えた俺は、その標準をホルダーに定めて、引き金を引く。
「ガイアシューター」
引き金を引いた瞬間、ガイアバレットから発射されたエネルギーを凝縮された光線が、ホルダーを貫き爆発を引き起こす。
爆発後に居たのは、気絶したビジネススーツを着た男性だけだった。
一つの問題が解決したわけだが、もう一つの問題は、全く解決していなかった。
「さっきは危ないところを助けてもらって、ありがとうございます」
「それとは別に聞きたい事があるんですけど……」
戦いが終わった後、俺は逃げるタイミングを逃してしまい、こうして二人の美少女名探偵に、お礼を言われた後、質問攻めにされているのだ。
その後ろでは何時の間にやって来たのか、恵理さんが興奮した様子で写真を取り捲っている。
……この人に助けを期待するのは無理な話だろう。
「仮面ライダーさん!」
質問攻めとカメラのフラッシュに晒される俺に、メタルイエローのボディーを持った人物、E2が話しかけてきた。
「すいません、もう一体は取り逃がしてしまいました……」
「いや、気にする事は無い。奴は特別だ。そう簡単に決着をつけられるとは思っていないさ」
メルトを逃がしてしまった事を、申し訳無さそうに謝るE2に俺はフォローの言葉を投げかける。
あ!
俺はE2を見ていて、ある一つの妙案を思いつく。
これをやると、E2の装着者である長谷川さんに、多少の迷惑がかかるとは思ったが、この危機を乗り越える為の、尊い犠牲は仕方ないだろうと、断腸の思いで、作戦を実行に移す。
「それよりもE2は、俺の代わりに彼女達のインタビューに答えてくれないか」
「はい?」
「少女達よ。彼は俺の後輩で、仮面ライダーE2だ。俺はこれから急ぎの用事があるから、聞きたい事は彼に聞くと良い」
「「そうなんですか!?」」
俺の説明にすずかちゃんとはやてちゃんは、瞳を輝かせる。
「え!?何言ってるんですか仮面ライダーさ「おいおい。お前も仮面ライダー何だから、俺の事は名前の方のシードで呼べって何時も言ってるだろ?」
状況が全く分からず、説明を求めるE2の言葉の上に、俺は有無も言わさず、新たな設定を付け加える。
「あら面白そうな話ね」
俺の話に便乗してきたのは、言うまでも無く先程から写真を撮り続けている恵理さんだ。
今回の特集は海鳴の街を守るダブルライダーよ!と叫びながら俺とE2にポーズを取らせて、更なる勢いでシャッターを切る。
E2の通信機越しに恵美さんの、これは良い宣伝になるわ、という声が聞こえる事から考えると、どうやら俺はこの場で最強の姉妹の力を借りる事が出来たらしい。
悪魔に魂を売ったという言葉が、俺の脳内を一瞬だけ流れるが、俺は今だけその言葉を己の心の辞書から抹消して忘れる事にした。
人は何時だって、失くしたくない何かを守る為に、何かを捨てなくてはいけない悲しい定めを背負っているのだ。
「それじゃあ俺は、この辺で失礼するんで、後はよろしく!」
俺はE2の肩を一度だけ軽く叩くと、ベルトからタッチノートを取り出して、ホバーモードのチェイサーさんを呼び出す。
抗議の声が聞こえる前に、やって来たチェイサーさんに飛び乗った俺は、この騒動の原因となった小説の怪盗の様に、この場を華麗に去っていった。
長谷川さんの叫び声が地上から聴こえた気がするが、多分気のせいだろう。
あれからも暫く、二人の美少女探偵は、騒動巻き起こす事になるのだが、これは全く別の機会に話そうと思う。
取り敢えず興味は仮面ライダーから、赤毛の少女を探す事へと移動したのが、せめてもの救いだ。
ちなみに後日、二人の仮面ライダーが雑誌の表紙を飾る事となるのだが、それはもっと別の話である。
まあ、何だかんだ言って……今日の海鳴も、小さな名探偵が活躍する程に平和だ。