魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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シード外伝 第十六.五話 仮面ライダーE2ストーリー

「君!パンツはブリーフ派?それともトランクス派?」

 

青年は、出会って開口一番に、セーラー服を着た女の子にそんな事を質問された。

 

この言葉がキッカケとなり、新たなる物語が紡がれる事となる……

 

ちなみに青年は、ブリーフ派だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

海鳴市の平和を日夜守り続ける、海鳴警察署。

 

周りでは忙しなく同僚達が働いているのを尻目に、青年は朝から盛大な溜息を吐いていた。

 

青年の名前は、長谷川啓太。

 

今年の春から、晴れて念願の刑事となった、正義感溢れる若者である。

 

しかしこの青年、長谷川は、刑事になってから、何かと不思議な事件に巻き込まれる事が多い。

 

先ず始まりは刑事になりたての春だった。

 

突如として街に現れて、破壊活動を行う謎の怪人ホルダーの出現。

 

それに呼応するかの様に現れた、仮面ライダーを名乗る超人。

 

普段から扱う事件だけでも、忙しいというのに、新人刑事である長谷川は、日々の対応に追われて、毎日がてんてこ舞いだった。

 

漸くそんな忙しさも慣れて来たと思っていた秋頃、上から異動のお達しが届く。

 

何でも、新設される、デンライナー署と呼ばれる部署に行けとの事である。

 

この街で、不思議な事件には随分と慣れたと思っていたのだが、長谷川はここで更なる不思議と遭遇する事となる。

 

同僚はその殆どが、着ぐるみを来ているのか、素顔が解らず、素顔を晒しているメンバーはどう見ても中学生。

 

更に途中から加入された、協力者は小学生……

 

おまけに電車が飛ぶし、仮面ライダーと思わしき人物が何人も出てくるし、世界の危機だとか、もう自分とは全てがかけ離れたファンタジーだった。

 

その後デンライナー署は無事に事件を解決して、長谷川も元居た部署に異動となったのだが、寒さが際立つ冬になる頃、再び異動の辞令が下ったのである。

 

「ホルダー対策特務課か……」

 

事務的に受け渡された書類に、目を通しながら、長谷川は呟く。

 

ホルダーとは、今年の春から現れた怪人の総称である。

 

にわかには信じられない話であるが、この街で発売されている月刊海鳴という雑誌で、仮面ライダーの特集及び、独占インタビューが、掲載されて、その記事の中で、怪人の名称も記載されていたのだ。

 

海鳴警内でも愛読者は多く、気付けばこの名称が、正式採用される事になっていた。

 

それにしても何故自分はこういった類と、縁があるのかと、自らに起こる事象に疑問を覚える。

 

赴任直後に始まったホルダーが起こす事件に始まり、デンライナー署への異動。

 

やっと元の部署に戻ってきたと思った矢先に、このあからさまな名称の部署への異動である。

 

この名前からして、これから自分が今まで以上に、ホルダーと関わりあう事になるのは間違い無いだろう。

 

そう考えると、常人であれば、溜息の一つも零したくなるのは、当然の権利と言える。

 

長谷川は重い足取りで、署内の廊下を移動して、これから自分が働く事となる部署が設立されている部屋の扉へと到着した。

 

「失礼します」

 

三回程扉をノックした長谷川は、部屋に入る際の、お決まりとも言える言葉を口にしながら、部屋へと入室する。

 

最初に視界に飛び込んできたのは、セーラー服を着た、ポニーテールの美少女。

 

そして長谷川と、セーラー服を着た美少女が最初に交わした言葉は、冒頭へと遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい?」

 

「だからパンツよ!トランクス?それともブリーフ?」

 

思わず声を漏らす長谷川だったが、セーラー服姿の美少女は、気にした様子も無く、再度長谷川に質問をぶつける。

 

「えっと、ブリーフ派ですけど……」

 

このままでは話が進まないと思った長谷川は、取り敢えず、答える事にした。

 

「それなら大丈夫ね!はい!これを履きなさい」

 

一体何が大丈夫なのだろうか。

 

長谷川の答えを聞いた美少女は、嬉々とした様子で、ビキニタイプのパンツを手渡して、身に着けるように催促し始める。

 

「あ、あの君は誰なんだい?それにどうして学生が署内に!?」

 

美少女の勢いにたじたじになりながらも、長谷川はどうにかまともな質問をする事を成功させた。

 

「うん?そういえば自己紹介がまだだったわね」

 

神が奇跡を起こしたのか、美少女はその怒涛のパンツ布教活動を一時中断して、やや小さめな胸を張りながら、自己紹介を開始する。

 

「私の名前は、風間恵美。今日からこのホルダー対策特務課の特別主任になったの。つまり長谷川君!私は君の上司ってわけよ!」

 

最後によろしくねと言いながら、ウインクをする。

 

その辺りのアイドルよりも、魅力的であろうその笑顔は、世の多くの男性を虜にする事、間違い無しだが、生憎と長谷川は虜になる所か、困惑の極みへと到達しようとしていた。

 

「僕の上司!?それに何で学生が!?」

 

「あ~パニックになってる所悪いんだけど、さっそくお仕事よ。取り敢えずこのパンツを履いたら、第三倉庫に来なさい。そこで全部説明してあげるから」

 

風間恵美と名乗った美少女は、困惑する長谷川に、パンツを手渡しながら、そう告げると、部屋を出て行ってしまう。

 

ろくな説明も無いままに、一人放置された長谷川は、その手に持ったパンツを見つめながら。

 

「……一応履くかな」

 

そう呟いて着替え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着替えを終えた長谷川は、風間恵美の言う通りに、第三倉庫にやって来た。

 

「来たわね。ちゃんとパンツは履いた?」

 

「ええ、まあ一応は」

 

「そう!なら良いのよ!」

 

やって来て早々に、仁王立ちで待ち受けていた恵美が、長谷川に確認を取る。

 

今のところ、長谷川の中で、彼女の印象は、外見的な特徴を除けば、重度のパンツマニアでしかない。

 

「あの、風間さんで良いですか?」

 

「あら、フランクに名前で呼んでくれれば良いわよ!」

 

「……それじゃあ、恵美さん。どういう事なのか、納得のいく説明をお願いしたいんですけど」

 

「じゃあ次は、左腕にこれを付けてね」

 

漸くパンツ以外の話題に突入出来たと長谷川が思った矢先、恵美は新たなる布教品を取り出してきた。

 

それは数字とアルファベットが、幾つも取り付けられた腕輪状の機械で、黄色を基調とした、メタリックな色彩を放っている。

 

「これは?」

 

「ふふん。これはEブレスって言って、私達ホルダー対策特務課の切り札よ!」

 

そもそも長谷川は、この特務課が、具体的にホルダーに対して、どういった対策をとろうというのか、理解出来ていないのに、そのEブレスを切り札だと言われても、どう反応して良いのか解らない。

 

だが興奮しだした恵美は止まる事を知らず、説明する口調は早口な上に、テンションも一気にトップギアへと押し上げていく。

 

「更にこのEブレスが、その真価を発揮させる為に用意したのがこれよ!!!」

 

テンションが最高潮まで、上り詰めた恵美は、倉庫の後ろにあったブルーシートを、勢い良く引き剥がす。

 

「……バイク?」

 

恵美が満を持して見せたそれは、長谷川の呟きの通り、一台のバイクだった。

 

恐らく恵美が、第三倉庫にやって来る様に指示を出したのも、長谷川にこれを見せるのが、目的だったのだろう。

 

バイクは警察の使う物に相応しく、白と黒が基調とされている。

 

ただしバイクとしてはかなり大きい。

 

その大きさは、通常の大型バイクの1.5倍はありそうだ。

 

「名前はESシステム搬送用二輪車両。通称マシンドレッサー!はっきり言って、最高傑作と言っても過言じゃ無いわ!!!」

 

恵美は声高らかに、バイクの名を告げる。

 

「そうなんですか」

 

説明してくれると言っていたのに、何一つ理解出来ない長谷川は、そう答える以外なかった。

 

そもそも恵美の説明は、長谷川が聞きたい事を、飛び越しての説明である為、全くと言って良い程に、要領を得ない。

 

「そうなんですかじゃないわよ!長谷川君!早くEブレスを付けなさい!!!」

 

「は、はい!」

 

しかし恵美にはそんな長谷川の事情を察する事が出来る筈も無く、問答無用で自分のペースを貫き、長谷川にEブレスを装着させる。

 

「付けたわね!それじゃあ次はこれよ!!!」

 

長谷川がEブレスを付けた事を確認した恵美は、続いてバイク用のヘルメットを、長谷川に投げ渡す。

 

「え!?」

 

「昨日の夜、匿名で警察に、ある情報が届いたわ」

 

突発的に進んでいく事態に困惑する長谷川に対し、恵美はなおも自分ペースで、話を続ける。

 

「本日の午前十一時に、海鳴美術館にホルダーが現れるかもしれないってね」

 

「え!?ちょ!?」

 

「ホルダーの狙いは、宝石としても、文化的にも価値が高いとされる、風の囁きと呼ばれるブローチよ!」

 

「さっきから一体何を!?」

 

「これは私達、特務課の初めての任務よ!何としてもホルダーから風の囁きを守り抜きなさい!!!」

 

「だから話が全く見えないんですけど!?」

 

恵美の大切な部分を飛ばした説明に、長谷川が抗議の声を張り上げるが、恵美には通用する筈も無くヘルメットを装着した長谷川は、強引にマシンドレッサーに乗せられる。

 

「Eブレスは、通信機にもなってるから、美術館についてからの指示は、任せなさいね!」

 

こうして長谷川は、その場の成り行きにより、マシンドレッサーで、海鳴美術館へと向かう事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マシンドレッサーを走らせ、長谷川が間も無く海鳴美術館に到着しようとしたその時、美術館の在る方角から、爆発音が鳴り響き、続いて絹を裂く様な悲鳴が聞こえてきた。

 

「何だ!?」

 

[「長谷川君、聴こえてる?」]

 

爆発音に驚愕する長谷川に、Eブレスから恵美の通信が入る。

 

「恵美さん?」

 

[「今さっき海鳴署に、美術館にホルダーが現れたと、通報が届いたわ」]

 

「あの、それで僕は何をしたら良いんですか?」

 

ここまで来てその質問もどうかと思うが、長谷川は何も聞いていないのだから、仕方が無い。

 

[「戦うのよ」]

 

「へ?戦うって、もしかして僕が!?」

 

[「当然でしょ!!!」]

 

「む、無理ですよ!戦えるわけ無いじゃないですか!?」

 

あまりにも予想外な恵美の発言に、長谷川は否定の言葉を全力で唱える。

 

[「無理じゃないわよ!なんたってその為の特務課なんだから!」]

 

声だけなので長谷川には確認できないが、恵美が良い顔をしながら、ウインクをしたのは、間違い無いだろう。

 

「……その為の特務課?」

 

[「取り敢えず美術館に到着したら、指示を出すから、それに従って!」]

 

「は、はい!」

 

長谷川は半ばヤケクソで、恵美の指示に従い、美術館に到着すると、マシンドレッサーを停車させて、再び恵美に連絡する。

 

「海鳴美術館に到着しました!」

 

[「分かったわ。まずはマシンドレッサーから降りて、私の言う通りに、Eブレスを操作しなさい」]

 

「はい!」

 

長谷川は言われた通り、マシンドレッサーから降りて、何時でもEブレスを操作出来る様に、態勢を整える。

 

[「準備は良い?まずはEブレスのコードで、E・0・2を押しなさい」]

 

言われた通り長谷川は、Eブレスの操作を開始する。

 

そして恵美の指示通り、コードを押した瞬間、長谷川の目の前で、信じられない現象が発生した。

 

『ドレッサーモード』

 

すぐ隣に停車させていたバイク、マシンドレッサーから、機械的な音声が聞こえたかと思うと、何と変形し始めたのである。

 

「はい!?」

 

その光景に心底驚く長谷川をよそに、マシンドレッサーは、変形を続け、成人男性一人が、余裕で入れそうな、ボックス状の何かに、その姿を変えた。

 

更にボックスは開閉が可能であり、変形を終えたマシンドレッサーは、誰かが中へと入るのを待ち望むかの様に、入り口を開き続けている。

 

「何ですかこれ!?」

 

[「それはマシンドレッサーのもう一つの姿!ドレッサーモードよ!それよりも早く中に入るのよ長谷川君!!!」]

 

「入るって……もしかしてこの中にですか!?」

 

[「もしかも、カモシカでも無くそうよ!男の子でしょう?根性見せなさい!!!」]

 

今度の上司は、余程無茶振りが好きなのだろうか。

 

長谷川は内心でもうどうにでもなれと、勢いだけで、マシンドレッサーの中へと飛び込む。

 

その勢いは、まるで京都の清水の舞台から飛び降りるかの様な姿だった。

 

長谷川がマシンドレッサーに飛び込むと、入り口は待っていたと言わんばかりに、まるで獲物を逃すまいとする、食虫植物の様に、唯一の出入り口を閉じてしまう。

 

「へ!?」

 

出入り口が閉ざされた瞬間、一筋の光すら差さない闇が、長谷川を包み込むが、それは本当に一瞬の事であり、長谷川が、驚きの声を上げた直後には、内部がライトで照らされ、闇を払拭してくれた。

 

[「長谷川君。ドレッサーの中に入ったら、Eブレスを出入り口を正面にした左側の壁の窪みに押し当てて、後ろの壁に背中を着けるのよ」]

 

再び聴こえてきた恵美の指示に従い、長谷川は言われた通りの行動を行う。

 

「次は何をすれば良いんですか?」

 

[「これが最後だから安心して。最後に音声コマンドを入力すれば、完了よ」]

 

「音声コマンド?」

 

[「ええ。今から私が言う言葉を繰り返してその言葉は……」]

 

長谷川は、恵美の言葉を聴き、その言葉を自身の言葉として、発する。

 

その言葉は戦士の戦う覚悟を示した言葉。

 

力ある言葉。

 

長谷川がその言葉を発した瞬間、一人の青年が、新たな運命を背負う戦士へと変わる。

 

「変身」

 

『音声コマンド認証。SEシステム起動』

 

音声コマンドを入力した直後に、機械的な音声が、ドレッサー内に響き、壁のいたる場所に穴が開いたと思うと、其処から無数のロボットアームが飛び出す。

 

「へ?あ!ちょ!?やめて!!!」

 

しかもそのロボットアームは、あろう事か長谷川が着ている衣服を剥ぎ取りに掛かる。

 

抵抗する間も無く衣服を剥ぎ取られた長谷川が、現在身に着けているのは、先程恵美から渡された、ビキニタイプのパンツと、Eブレスのみだ。

 

全裸にされなかっただけありがたいと、現状に混乱しながらも、安堵の息を吐き出す長谷川だったが、予想外の出来事は、休む間も無く長谷川に降り注ぐ。

 

続いてロボットアームが引っ込むと、それと入れ替わる様に、ノズルの付いた筒状の機材が飛び出して、ノズルから、謎の黒い液体を長谷川の身体へと吹きかけ始める。

 

「な、何なんですかこれ!?」

 

謎の黒い液体を吹き掛けられながら、長谷川は思わず恐怖と、困惑が入り混じった声を上げてしまう。

 

[「安心しなさい。それは身体に害なんて無いから」]

 

長谷川の悲鳴を聞きながらも、恵美はマイペースな声で答える。

 

確かにこれでこの液体が有害物質ならば、この行為はただの拷問だが、それにしてもやられる身としては、あんまりな対応と説明である。

 

「あれ?何かこの液体凄い勢いで乾いてません!?」

 

液体を浴びせ続けられている長谷川が、自身の状態を見て、疑問を口にする。

 

長谷川が言った通り、液体は凄まじい勢いで、乾き始めてまるで全身ゴム製のスーツを着ている様な、状態となっていく。

 

[「それは空気中の酸素と結合する事で、瞬時に固形化する特殊素材よ。耐熱、耐寒、耐刃、耐弾、耐ショック性に優れてるんだから!凄いでしょ?」]

 

恵美の説明を聴きながら、己の身についている特殊素材を、眺めていると、吹き掛けられていた液体が止まりノズルが収納されると、再びロボットアームが飛び出す。

 

「今度は何が……」

 

しかもロボットアームは、Eブレスと同色の、メタルイエローに輝く人型ロボットの様なパーツを掴んでいる。

 

ロボットアームは、そのパーツの一つ一つを丁寧に長谷川の全身へと、装着させていく。

 

そして最後に、仮面ライダーに似た形の青い複眼状のバイザーが目を引く、フルフェイスタイプの頭部パーツが装着される。

 

「この姿は……」

 

[「それが私達、ホルダー対策特務課が誇る、対ホルダー迎撃ユニットE2よ!」]

 

「E2……」

 

長谷川が今の己の姿を呟いた瞬間、閉ざされていたドレッサーの扉が開かれる。

 

[「取り敢えず装備は、標準のA型を初期装備にしてあるから、それで戦ってみて」]

 

「これで本当に戦えるんですか?」

 

[「大丈夫!私を信じなさい!!!」]

 

出会ってから数時間しか経っていない相手を信じて、命懸けの戦いをしろというのは、些か乱暴な話である。

 

「……はい!」

 

しかし長谷川は、覚悟を決めて、ゆっくりと頷く。

 

確かにこの破天荒娘は、出会ってから、好き放題に自分の意見も無視して、先へ先へと進んでいく。

 

だが、彼女の言う事は正しかった。

 

本来ならば、人知を超えたホルダーという存在に、自分は手も足も出ないだろう。

 

でも彼女は、風間恵美というセーラー服を着た美少女は、その道を長谷川に示して見せた。

 

だから一度だけ信じてみようと思う。

 

自分が刑事を目指したのは、周りの小さな幸せをこの手で守る手助けをしたいと願ったからだ。

 

そして今この瞬間に、その大切な思いが、壊されようとしている。

 

迷えばその守りたいものは、己の手から、簡単に零れ落ちていく。

 

覚悟を決めるのならば、今しかないだろう。

 

「行きます!」

 

長谷川は覚悟の言葉を叫び、飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「現場に到着しました。前方約20メートル先に、ホルダーを二体確認。戦闘行動に移行します!」

 

[「分かったわ!頼むわよ長谷川君!」]

 

「はい!!!」

 

現場に到着したE2は、すぐに二体のホルダーを目視で確認した。

 

一体は蝙蝠を模した姿をしており、もう一体は、背中に大量の大きな針を持つ、ハリネズミに似ている。

 

突如として現れた、邪魔者であるE2に対して、ホルダー達が襲い掛かる。

 

「ふん!」

 

E2は先制攻撃を仕掛けてきた蝙蝠型ホルダーの拳を受け止めて、逆に側面から、腹部への強烈な蹴りを叩き込む。

 

更に時間差で襲い掛かるハリネズミ型のホルダーに対しては、先程の攻撃により、蹲る蝙蝠型ホルダーを振り回して、投げつける事により、牽制を図る。

 

「凄い……まるで自分の身体じゃないみたいに身体が動く!」

 

E2は自らの一連の動きに、驚きを覚える。

 

[「当然よ!強化式外骨格に、柔軟性に優れた人工筋肉、まだ現代科学では一般化してない最新技術を惜しみなく使ってるんだからね」]

 

「良く分からないですけど、兎に角凄いという事は理解しました」

 

珍しく聞きたい事を答えてくれた恵美には悪いが、さっぱり意味が理解出来ないので、E2はそのまま戦闘を続行する。

 

なおも接近戦を仕掛ける蝙蝠型ホルダーに対して、ハリネズミ型ホルダーが、不自然に距離を取り、背中をE2に向けると、その背中を小刻みに震わせ始めた。

 

何を始めたのかと思うと、突如として、蝙蝠型ホルダーが、翼を広げて上空に飛び上がる。

 

「何!?」

 

それに気を取られ、E2が叫ぶ。

 

しかしこの時、ハリネズミ型ホルダーから、視線を外してしまったのがいけなかった。

 

「ぐっ!?」

 

視線を外した瞬間に、E2を鋭い衝撃が襲う。

 

メタルイエローのボディーからは、所々衝撃による煙が立ち上がり、装着者である長谷川にも、幾らかのダメージが届く。

 

よろけながらも、辺りを見渡すと、巨大な針が幾つも落ちている。

 

正面を見据えれば、ハリネズミ型ホルダーが再び背中を震わせて、第二射を射出してきた。

 

「くっ!」

 

今度はしっかりと視界に捉えていたので、E2は転がりながら、その攻撃を何とか回避する。

 

[「あの遠距離攻撃は厄介ね……長谷川君!こっちも遠距離攻撃を仕掛けましょう」]

 

E2の頭部には、小型カメラが設置されており、恵美はそのカメラを通じて、E2が見ている光景と同じ物を見る事が出来る。

 

だからこそ、恵美は確実なアドバイスをリアルタイムで提示する事が出来るのだ。

 

「遠距離……何か武器があるんですか!?」

 

[「そうよ。右側のホルスターに、E2専用対ホルダー銃、ESM01があるわ。使い方の基本は普通の銃と大差無いから、長谷川君でも使いこなせる筈よ」]

 

「分かりました。やってみます!」

 

E2は頷きながら、右手を腰のホルスターに合わせると、確かに恵美の言った通り、一丁の銃が在った。

 

所在を確認したE2はそれを素早く引き抜くと、ホルダーに標準を合わせて、引き金を引く。

 

すると銀の淡い光を纏った弾丸が射出され、更にある程度の距離で、炸裂すると、ハリネズミ型ホルダーの飛ばす針を全て相殺して、残りはハリネズミ型ホルダーに直撃して、確実にダメージを与える。

 

「凄いなこれ……」

 

その威力に驚きを隠せず、E2は自らの専用武器である、ESM01をまじまじと見詰める。

 

[「今がチャンスよ長谷川君!ホルダーブレイクを決めるのよ!」]

 

「ホルダーブレイク?」

 

恵美が言った新たな単語に、E2は疑問の声を上げた。

 

[「ホルダーは元々人間なのよ。それでホルダー化した人を元に戻すのが、ホルダーブレイクってわけ」]

 

「良くそんな事が出来る様になりましたね……」

 

[「まあね!それに仮面ライダーに頼んでサンプル採取させてもらったから、確実よ!!!」]

 

「ははは……」

 

あまりにもアグレッシブな発言をする上司に対して、E2はもう苦笑いをする事しか出来ない。

 

[「それじゃあやり方を教えるから、その通りにお願いね」]

 

「はい!」

 

二人は気持ちを切り替えて、ホルダーを倒す事にのみ、意識を集中させる。

 

[「まずは左側の腰に、ESM01用のマガジンパーツがあるから、それをセットして」]

 

恵美の指示を聴きながら、E2は自らの左腰に取り付けていたマガジンパーツを手に取り、ESM01の底部分にセットする。

 

『ブレイクチャージ』

 

機械的な音声響くと銃口の中が、薄っすらと黄色い輝きを放つ。

 

[「次はホルダーに狙いを定めて、引き金を引くのよ!」]

 

「は!」

 

E2はそのままホルダーに狙いを定めて引き金を引く。

 

銃口からは黄色い光弾が放たれ、網目状に広がると、ホルダーの全身に纏わりつき、その動きを阻害する。

 

[「最後はESM01をホルスターに戻して、右足で思い切り蹴るのよ!!!」]

 

ESM01をホルスターに戻すと、黄色い光が右足に集約して、輝きだす。

 

「はああああああ!!!」

 

E2は一気に駆け出すと、ホルダーの目の前に来ると同時に、輝く右足による回し蹴りを喰らわせた。

 

その一撃を受けたホルダーは、爆発を起こしその身体を四散させる。

 

爆発地点に残ったのは、E2と気絶した二十代前半の男性のみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良くやったわね。長谷川君」

 

「でも、ホルダーを一体取り逃がしてしまいましたし……」

 

「何言ってるのよ!初陣としては上出来なんだから!」

 

「そうでしょうか?」

 

「ええ!でもまあ、確かにもう一体のホルダーをこのままにしておく訳には行かないわね」

 

「はい……」

 

ホルダーとの戦闘を終えた長谷川は、一度署に戻り、恵美と美術館に居た、もう一体のホルダー対しての対策を練っていた。

 

「あの……一つ良いですか?」

 

ホルダーについて考えてる最中に、長谷川は今更ながらに思った事を口にする。

 

「何?」

 

「どうして僕がE2の装着者に選ばれたんですか。普通ならもっと格闘技が得意な人とかが選ばれると思うんですけど?」

 

これは長谷川が、純粋に思った事である。

 

自分よりも、E2の力を最大限に引き出せそうな人材は大勢居るだろう。

 

この質問は戦うのが怖いという訳ではなく、実際にシステムを使ったからこその意見だ。

 

「……E2はね長谷川君が装着するからこそ意味があるの」

 

「僕が……ですか?」

 

「私にはこのESシステムの先に夢がある。その為には長谷川君の協力がどうしても必要だったのよ」

 

今日初めて会ってずっと続いていた高いテンションはなりを潜め、恵美は真剣な眼差しで語る。

 

「それって……」

 

「今は言えない。でもきっと、何時か話す時が来るから……長谷川君。改めてお願いするわ。私と一緒にこれからも戦ってくれる?」

 

その瞳は何処までも透き通り、純粋で穢れを知らず、何より強い意志を秘めていた。

 

「……はい。これから宜しくお願いします」

 

長谷川は目の前の少女にこれ以上何も聞かず、ただ肯定の言葉を返す。

 

何故自分がそんな事をしたのか?

 

答えは簡単だ。

 

恵美と出会ってからまだ一日も経っていないが、これだけは分かる。

 

彼女は何時だって真っ直ぐなのだ。

 

その言葉も行動も……そして生き方さえも。

 

だから彼女が何時か話すと言ったならば、何時か必ず話してくれる時が来る。

 

ならば今無理に聞き出そうとしなくても、その時を待っていればそれで良い。

 

それに長谷川は、恵美に不思議と興味を持った。

 

勿論恋愛感情などと呼べるものではないが、ただ単純にもう少し彼女と一緒に、この仕事を続けて行きたいと思えたからだ。

 

「……ありがとう」

 

その時の恵美の笑顔は、長谷川にとって、どんな宝石よりも輝いて見えた気がした。

 

「ところで、もう一つ質問何ですけど、E2って誰が作ったんですか?」

 

長谷川にとっては恵美が自分の上司である以上に、E2の存在自体が謎なのだ。

 

「あら、言ってなかったかしら?開発者は私よ」

 

「は?」

 

「だから、E2を設計開発したのは、超天才の私なんだってば!」

 

恵美のカミングアウトにより、長谷川の脳内処理は追いつかず、不具合を起こしたのか、ただただ沈黙が、この場を支配する。

 

「はあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!????」

 

暫くの沈黙の後、本日海鳴市一の絶叫が、海鳴警察署から聴こえてきたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

第十七話 ミッドナイト・ミッションに続く?


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