魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
「明日も頼むぜ?く・る・と君♪」
夕焼けに染まる海鳴公園の隅で、数人の中学生が、一人の小学生の少年を囲んで、笑っている。
「うん……分かったよ」
小学生の少年は、ぎこちない笑顔で、その中学生達の一人が言った事に対して、返事を返す。
その反応を見た中学生達は、より一層楽しそうに笑うと、満足した様で、夕方の公園に少年を一人残して去って行った。
一人公園に残された少年は、中学生達の姿が完全に見えなくなるまで、そのぎこちない笑顔を浮かべ続けた。
そして中学生達の姿が、居なくなるのを確認した少年は、その貼り付けた様なぎこちない笑顔を止めて、代わりに憎しみをその顔に浮かべながら、拳を強く握り締める。
少年の心の中には、様々な感情が渦巻く。
先程まで居た、彼等に対しての憤怒、己自身の情けなさ、全てを分かった上でも如何にも出来ないでいる焦燥感。
幾重もの負の感情が、その小さな身体の中を駆け巡り、大粒の涙を地面に落としながら、少年は一言だけ言葉を発する。
「強くなりたい」
自分が強くなれば、全てが解決する。
弱いからこうなるのだ。
自分が弱いから、だから他の強者や集団に良い様に搾取される。
強ければこんな事にはなりはしない。
自分の何かを他者に奪われる事も無いし、それどころか返り討ちにする事だって出来るのだ。
だからこそ、今を変える力を少年は心から渇望した。
「その願い……私達が叶えよう」
少年以外誰も居ない筈の夕暮れの公園で、少年以外の声が、風の音に乗りながら、その耳に届いた。
「ありがとうございました!」
翠屋でそんな威勢の良い声が、響き渡る。
声の主は翠屋の従業員エプロンを身に着けて、左胸の辺りに手書きの研修中と書かれたプレートを取り付けたイケメン男子だ。
180cmを越す高身長に、強い意志を秘めた鋭い瞳と、短く切り揃えられた短髪。
恭也君を爽やか系と表すのであれば、彼はワイルド系に分類される事だろう。
「それじゃあ次は、接客とは別のホールの仕事を覚えてもらうから宜しく」
「はい!純の旦那!」
俺の言葉に、元気良く返すワイルド系イケメン男子。
彼の名前は、高木康則《たかぎやすのり》。
通称ヤス。
何を隠そう彼は、この海鳴市に古くからある暴走族、海鳴連合の元リーダーで、現在は自称俺の弟子らしい。
いや、俺は弟子にした覚えは無いのだが、本人がそう言って聞かないのだ。
突然そんな事を言っても、理解が追いつかない人が殆どだと思う。
なので彼が、何故翠屋でアルバイトをしているのかという事を、順を追って説明して行きたい。
事の始まりは、俺が朝のバス停で、数十人の暴走族に、リーダーになってくれと頭を下げられた時の事だ。
結局俺は、リーダーになる事を、改めて丁重にお断りした。
その前日に仮面ライダーである俺に、散々しつこく付き纏っていたので、もっと某大豆発酵食品並みに粘り強く交渉してくると思っていたのだが、彼等は案外素直に引き下がってくれた。
理由を聞いてみると、本当は仮面ライダーと俺のツートップで、リーダーになって欲しかったそうなのだが、次に断られたら、潔く引き下がろうと事前に皆で決めていたらしい。
ここで一つ気になる発言があったと思う。
彼等の中で、仮面ライダーと俺が別人として扱われているのだ。
確かに俺は、このリーゼントのヤスという人と、ホルダーになっていた金髪の男以外の前では、変身していない。
この場に居る人達も、現場には居はしたが、全員気絶していた。
ホルダーになっていた金髪の男は、ホルダーだった時の記憶は無いし、ヤスという人にも口止めはしていたのだが、その場の流れで、俺が仮面ライダーだという事に気付いた人が居るものだと思っていたから尚更だ。
だが現実には、俺は仮面ライダーの知り合いで、俺があの勝負に助っ人として仮面ライダーを呼び出したという事になっていたのである。
如何してそんな話になっているのか、この場でそんな情報操作が出来るのは一人しかいない。
リーゼントが激しいまでに自己主張をしているヤスという人を見てみると、約束は果たしましたよと言わんばかりの、何かを成し遂げた後に見れる、良い笑顔を俺に向けてくる。
如何やら俺はこの人に、一つ借りが出来たみたいだ。
それでは何故、彼等の中で全てを解決した、仮面ライダーとは別人になっている俺にまで、リーダーになってくれと頭を下げに来たのかというと、仮面ライダーに逃げられたという事もあるが、単純に俺がドラゴンのメンバー相手に大立ち回りした事が、原因だったらしい。
更に俺が、仮面ライダーを助っ人として、呼び寄せた事になっているのも大きな要因になっている様だ。
こんな子供に頼むのはおかしいのではと、疑問に思い聞いてみると、海鳴連合のOBの人から聞いた話では、過去に今の俺と殆ど年齢の変わらない木刀を持った少年に連合を半壊させられたり、大人以上の怪力な少女に病院送りにされた等の過去があるそうなので、自分達以上に子供が強くても不思議は無いと教えを受けてきたそうな……
何か一部俺の知り合いに心当たりがある様な気もしたが、あまり詮索しても良い事は無さそうなので、俺は其処でこの話題を終わらせる事にした。
そうして最後に、何か困った事があれば、何でも言ってくれと言い、暴走族の皆さんは帰って行った……一人を除いて。
残ったのはリーゼントの長ランを着たヤスという人だった。
まだ何かあるのかと思い、話を聞いてみると、突然に再度頭を下げられて、個人的に弟子にしてくれと志願してきたのだ。
何でも俺の生き様に漢を見たとかで、俺の傍に居ながら、その生き方を学びたいと言ってきたのである。
あまりにも真剣に言ってきたので、冗談を言っている訳では無いと、理解出来たが、それならば俺は益々この人を弟子にする訳にはいかない。
俺はそんな柄では無いし、基本ヘタレだ。
一般の人よりも多少戦えるのは、必要に迫られたからであり、副産物でしかない。
本当に漢としての生き様を学びたいのであれば、俺よりもお隣さんの士郎さんに頼んだ方が良いと思い、この人ならば会わせても大丈夫と感じた俺は、士郎さんを紹介する事にしたのだが、今になってこの選択は間違っていたのではないかと、自問自答する事になる。
士郎さんを紹介した週末、俺が翠屋のバイトに出ると、暴走族時代の姿とはまるで違う、ワイルドイケメンが居たのだ。
その一番のトレードマークだった、リーゼントはばっさりと切られて、かなり短い短髪となっていた。
今まではそのリーゼントという特徴に目が行きがちだったが、その顔は、荒々しくも、均等の取れた顔立ちをしていたのである。
容姿だけを見れば、地味な俺と比べるまでも無く、翠屋に相応しい。
というか、紹介しておいて何だが、まさかこんな事になるとは、思ってもいなかった。
「だから、その旦那って呼ぶのは止めてくれないかなヤス」
「そうは言っても、やっぱり俺にとって純の旦那は、生き方を変えてくれた恩人に代わり無いんですよ!こればっかりは譲れません!」
「じゃあ……せめてバイト中だけでも、違う呼び方にしてくれないかな?」
「う~ん。それじゃあバイト中は、チーフとお呼びします!」
「……もう良いよそれで」
俺は取り敢えず、その呼び方で妥協する事にした。
ヤスがバイトを始めてから、まだ二週間も経っていないが、今ではすっかりここに馴染んでいる。
俺の知り合いは何故、揃いも揃って、異常な程に適応力が高いのだろうか。
それと翠屋で変わった事は、新たにヤスがバイトに来た事だけでは無く、先程ヤスが俺の事を呼んだ様に、桃子さんの指示で俺はフロアチーフに昇格したのだ。
なので新人研修も任されたので、こうやって新人のヤスに指導している訳なのだが……ヤスへの指導は、ただ単純に仕事を教えるという事とは、別ベクトルで疲れてしまう。
仕事自体は、教えればそれなりに早く覚えてくれるのだが、俺に対しての態度が何かと体育会系の後輩みたいな接し方をしてくるのである。
俺がヤスに敬語を使わないのも、最初にさん付けで呼んだら、ヤスに敬語を使わないでくれと、かなりの勢いで言われたからだ。
まあ、俺もヤスには一つ借りがあるので、それくらいはしょうがないと諦めている。
そんな訳で、今日も翠屋での俺は、大忙しだ。
「これから純の旦那は、如何するんですか?」
翠屋のバイトを終えて、店を出た俺に、ヤスが話しかけてきた。
ヤスも同じ時間に、バイトが終わったので、今は二人して私服で外を歩きながら会話をしている。
流石に翠屋で働き出した人間に、魔巣田は通用しないと思い、本名を教えたのだが、それからずっとこの調子だ。
いい加減、勘弁してもらいたいという俺の気持ちは、二週間が過ぎた今でも健在である。
だが最初の頃こそ、俺も辟易としていたが、人は環境に適応していく生物であり、最近では以前程の違和感は感じなくなってきた。
慣れというものは、本当に恐ろしいものである。
「特に予定は無いけど?」
俺はヤスを見上げながら、返事を返す。
こうも身長差があるのに、並んで話すのは首が疲れて仕方が無い。
「実はこれから新作のレースゲームが入ったそうなので、ゲーセンに行こうと思っているんですが、純の旦那も如何ですか」
ヤスは、楽しみを隠し切れないのか、笑顔で喋り始める。
余程楽しみにしていたのだろう。
言っておくが、こう見えてヤスは、高校二年生なのだ。
つまり恭也君と同い年なのである。
学ランを着ていたから、もしかしたらと思っていたが、本人から改めて聞くと、新鮮な驚きがあるものだ。
最初俺は、コスプレで着ているのかと思っていた比率が大半を占めていたので、尚更である。
何でも海鳴連合全体が、若い年齢層で構成されており、最高齢でも十代でチームを抜けるのが、決まりらしい。
普段はバイクで、練習場を走り、偶に慈善活動に勤しむ……人はそれを暴走族ではなく、サークル活動と呼ぶのでは無かろうか?
しかし本人達が、自分を暴走族だと言っているのだから、あえて指摘する事も無いだろう。
この疑念は俺の心の中に、そっとしまっておく事にした。
それにしてもゲームセンターか。
前世の頃は、良く遊びに行ったものだが、今は全く行っていないな。
何せ今の俺は見た目が小学一年生である。
ゲームセンターに一人で行くのは、用事でも無い限り、敷居が高すぎる。
だからと言って、なのはちゃん達を連れて行くのにも、抵抗があるので、行く機会が全く無くなっていたのだ。
昔を思い出すと、久しぶりに遊びに行きたくなってきた。
幸いにも、翠屋でバイトをしているお陰で、今月のお小遣いには、まだ全く手を着けていない。
タダ券に感謝である。
考えて使えば、少しくらいの出費は問題無いだろう。
「そうだな。それじゃあ俺も行くよ」
俺はヤスの提案に賛同して、二人でゲームセンターに向かった。
ゲームセンターの入り口である、自動ドアを潜ると、奥の一角に人だかりが出来ていた。
「何だろう、あれ?」
「あの場所は確か、格闘系のブースですね。少し覗いて行きましょうか」
俺とヤスは、ゲームセンターに入ってすぐに見つけた人だかりに好奇心が刺激され、野次馬となるべく、その人の山の中心を目指した。
その中心に辿り着くと、ゲームセンターの店員であろうか、派手なベストを着たお兄さんが、マイクを片手に解説&実況をしている。
周りを見渡すとその脇には、壁に貼り付けられた、トーナメント表があり、三十台と思われる男性と、小学校の高学年と思われる男の子が、格闘ゲームで、熱い戦いを繰り広げていた。
「如何やら今日は、大会のイベントがあったみたいですね」
「みたいだな」
納得がいった様に言うヤスに俺も頷きながら答える。
折角なので俺達は、そのまま二人の戦いを最後まで見守る事に決めた。
画面からは、派手な衝撃音が鳴り、終に決着が着く。
勝ったのは男の子の方で、司会をしていた店員が、男の子の右腕を持ちながら、勝利を祝福した。
如何やら今の戦いは、決勝戦だったらしく、周りのギャラリーからは、盛大な拍手が送られる。
男の子は、勝って当然とばかりに、自信満々の笑みを浮かべながら、勝利者インタビューに答えている。
「ん?」
その男の子の目を見た瞬間、何か違和感を感じた。
あの男の子を見たのは、初めての筈なのに、何処かで会った事がある様に思えたのだ。
勿論そんな記憶は何処にも無い。
それにそう感じたのは、顔と言うよりも、男の子の目に対してだ。
あの目を俺は以前にも見た事がある気がする。
「如何したんですか?」
俺がその何かを思い出そうと、思案していると、ヤスが話しかけてきた。
俺がその声に反応して、辺りを見回すと、ギャラリーは既に居なくなっており、現在この場所に残っているのは、俺達とイベントの後片付けをしている店員だけだった。
あの男の子も、既に居なくなっている。
「いや、何でも無い。それよりも新作のレースゲームを探そうか」
俺は先程感じた妙な気持ちを、四散させながら本来の目的を達成させる為の活動をするように、ヤスを促す。
「あ!そうでしたね!早く探しましょう!」
俺の言葉で、目的を思い出したヤスは、駆け足で格闘ゲームのブースを後にした。
その姿はまるで、大きな子供である。
俺は走ると危ないぞと注意を促しながら、ヤスを追いかけた。
お目当てのレースゲームは、店内の隅に設置されている為か、あまり人が居なかった。
今日は先程までやっていたイベント等もやっていたから尚更なのだろう。
まあ、待たなくても良いのは助かったので、早速ゲームで対戦をしようという事になったのだが、其処に突如異変が生じた。
「ねえ~来人君。俺達に何か言う事は無いのかな?」
数人の中学生程の男達が、それよりも明らかに年下である男の子を囲んで、何かを話し始めたのである。
しかもその囲まれた男の子は、先程のイベントで、優勝した男の子だった。
「何の事ですか。僕には意味が分かりませんけど?」
「嘘はいけないな~。病院に入院してるあいつがうわ言みたいに呟くんだよ。来人が、来人がってな……何か知ってるんだろ?」
そう言うと中学生の男は、来人と呼ばれた男の子の胸倉を掴む。
何かを揉めている様だが、これ以上黙って見ている訳にも行かないと思い、ヤスと一緒に割って入ろうとしたのだが、ここで俺達以外に新たな乱入者が現れる。
「待て!」
割って入ってきたのは、中学生程の少年で、その顔立ちは、何処か来人と呼ばれた男の子と似ていた。
「あいつは……雅人」
以外な事に、ヤスが突然現れた少年の名前を口にする。
「知ってるのか?」
「はい。昔俺がガキの頃通っていた空手道場の息子で、照屋雅人《てるやまさと》って言います」
聞かれたヤスはスラスラと答える。
それにしてもヤスが知り合いだったとは、世間とは以外と狭いものだ。
「それじゃあ、あの男の子とも?」
「いえ、俺もあの小学生には会った事がありませんが、多分弟でしょう。以前雅人から、生まれつき身体の弱い弟が居ると聞いていましたから、確か名前は来人《くると》と言っていましたから、間違い無いでしょう」
俺達が会話をする間にも、照屋兄弟は、数人の中学生と揉め続けている。
「あんた達いい加減にしてくれよ!来人は知らないって言ってるだろ!?」
「だからそれを確認してるんだって。それに最近来人の奴も生意気言う様になったから、一度解らせないといけないと思ってたしな」
「……最低だな、あんた達」
今にも一色即発という雰囲気になってきたので、俺達は急いで、その場に割り込む。
「何やってんだよ兄ちゃん達?面白そうだから俺も混ぜてくれねえか」
ドスの効いた声で、ヤスが中学生達に睨みを利かす。
その姿は、さすが元暴走族のリーダーといった所だ。
「康則さん!?」
ヤスの姿を見た、雅人君が驚きの声を上げる。
「康則って、もしかしてあの海鳴連合のリーダーの!?」
続いて雅人君の発言に反応した中学生達に動揺が走る。
「それで、俺の同門に何か文句でもあるのか?」
「ひ!?」
更に睨みを利かすヤスに、中学生達は竦み上がり、早々に退散して行った。
それとほぼ同時に、来人君も何処かへ走り去ってしまう。
「あ、来人!」
雅人君が急いで追いかけようとするが、人込みに紛れて、その姿を見失ってしまう。
「さっきのは、お前の弟か?」
ヤスが落胆する雅人君に質問する。
「……はい。それとさっきはありがとうございます。おかげで助かりました」
雅人君は深々とお辞儀をしながら、礼の言葉を述べる。
「それにしても随分と雰囲気が変わりましたね。声を聞くまで誰だか分かりませんでしたよ」
「まあ、今の俺があるのは純の旦那のおかげだけどな!」
雅人君の質問に答えながら、ヤスは俺の肩を軽く叩く。
その様子を見た、雅人君が、一瞬キョトンとした顔をするが、次の瞬間には相変わらずですねと苦笑いした。
如何やらヤスのこういった性格は、筋金入りらしい。
「えっと、俺急いでますんでもう行きますけど、本当にありがとうございました!」
そう言って、雅人君は、来人君が走り去った方向に向けて、走って行ってしまった。
一体何があったのだろうと思うが、如何やら俺にはそれを考える時間も無い様である。
『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキンキュウ……』
突如鳴り響く、タッチノートの警報。
【『聞こえるかマスター』】
続いて聞こえて来たのは、メカ犬の通信音声だった。
【『今マスターが居る場所のすぐ近くで、ホルダー反応があった!すぐに行くからマスターは先に現場に向かってくれ』】
「分かった!」
俺はメカ犬との会話を手早く済ませてから、タッチノートで、場所を確認する。
確かにメカ犬が言っていた通り、ホルダーの出現場所は、このゲームセンターの目と鼻の先だった。
「お供します!純の旦那!」
ヤスが俺にそう進言して来る。
出来れば危ないので、来て欲しくは無いが、ヤスはそれを言っても聞き入れないだろう。
取り敢えず着いたら、避難誘導に協力する様に言い聞かせた俺は、現場に向けてヤスを連れて走り出した。
「た、助けてくれ!!!!」
俺達が現場であるゲームセンターを出た道の先の裏通りに辿り着いた時、ホルダーは数人の中学生を襲っていた。
しかもその中学生は、先程ゲームセンターで照屋兄弟と揉めていた中学生集団である。
それに襲い掛かるホルダーは赤い毛並みをしており、最も近い表現をするのであれば、大きな熊が、柔道着を着ている様な姿をしていた。
まだメカ犬は着ていない。
だがここで指を銜えて見ている事も出来ないので、如何にかしてホルダーの気を引こうとした時、突如タッチノートが、反応を示したのである。
『キンキュウケイホウキンキュウケイホウ……』
その反応を察知したその次の瞬間に、目の前に新たなホルダーが現れた。
そのホルダーの姿は、赤毛のホルダーと酷似していた。
一番の違いを上げるのであれば、それはその毛色だろう。
先程まで暴れていた赤い毛並みのホルダーに対して、新たに現れたホルダーは青い毛並みをしている。
まだメカ犬も着ていないこの状況で、更に事態が悪化した事を、如何するべきか、俺は必死に考えるが、ここで新たに現れた青い毛並みのホルダーは、俺の予想とは違う行動に出た。
青い毛並みのホルダーは、赤い毛並みのホルダーを背中から羽交い絞めにすると、その動きを阻害し始めたのである。
何が起こっているのか分からない。
だがこれはチャンスだ。
「ヤス!今の内にあの人達を逃がすぞ!」
「はい!」
俺はヤスに指示を出しながら、突然の恐怖に見舞われて動けない彼等に、逃げる様に促す。
『マスター!』
全員を無事に逃がした頃に、やっとメカ犬が現場に到着した。
「遅いぞメカ犬!」
『すまないマスター。それよりも途中から反応が増えたのだが、この状況は何なのだ?』
「俺にもさっぱりだ!兎に角今は急いで変身するぞ!」
『うむ!』
俺は急いで、タッチノートを開きボタンを押す。
『バックルモード』
銀色のベルトに変形したメカ犬が、俺の腹部に自動的に巻きつく。
「変身」
俺は音声コードを入力して、タッチノートをバックルの溝に差し込む。
『アップロード』
音声が流れると同時に、白銀の光が、俺の全身を包み込み、その姿を一人の戦士へ変えていく。
光が飛散した際に現れたその姿は、メタルブラックのボディーと、その四肢に流れる銀のラインが光る仮面ライダーである。
「行くぞ!」
『うむ!』
俺達が気合を入れて走り出そうとしたその時、突如俺達の足元の地面に銃弾が撃ち込まれる。
「何だ!?」
その銃弾の打ち込まれた先を見据えると其処に居たのは、銃を構えて、何時でも引き金を引ける事を主張する灰色の怪人が居た。
『メルト!』
メカ犬がその怪人の名を叫ぶ。
その叫びにメルトは答える事も無く、再び引き金を引き絞る。
「くそ!?」
俺は急ぎ次弾を回避する為の行動を開始した。