魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第十四話 アウトロー・スピード・ウォーズ【後編】

彼等の戦う前に行う伝統行事が、無事に済んだ所で、俺の出番がやって来た訳だ。

 

俺を助っ人に迎えた海鳴連合とドラゴンは、クラブハウスを出て、海鳴市の街から少し離れた山へと移動する。

 

そして辿り着いた場所は、目視で確認出来る範囲では、通る車すらも確認出来ない峠。

 

ここが俺とホルダーが勝負するフィールドとなる。

 

ルールは至ってシンプル。

 

この峠の始まりから、終わりまでを先に駆け抜けた方の勝利だ。

 

俺は呼び出したチェイサーさんに跨り、スタートの時を待つ。

 

既にリミットオフをしてあるので、何時でも全力が出せる状態だ。

 

ちなみに俺は、クラブハウスの中で変身してから、ずっとその変身を解いていない。

 

あの場でホルダーを除けば、俺の変身を目撃したのは、海鳴連合で唯一意識を保っていたリーゼントで長ランを着た人だけだったので、その人にだけ口止めをして、他の人達には最初から仮面ライダーの姿で助っ人することにしておいた。

 

「それが仮面ライダーのバイクか?」

 

今回の勝負の相手、金髪の男が俺に近づきながら、くすんだ銀色の光を放ち、その姿を異形の存在、ホルダーへと変化させる。

 

完全に変化を完了させたホルダーは、軽く飛び上がり、更にその姿を変えていく。

 

空中で両手と両足を垂直に合わせると、車輪部分が前方と後方に重なり合いながら、移動してホルダーの身体自身がバイクの様な形になる。

 

そのまま地面に着地した後も、ボディーの部分が一部スライドされて、よりバイクと呼ぶに相応しいフォルムを形成した。

 

これが噂に聞いていた変形なのだろう。

 

確かにこれを一言で表すならば、変形という言葉が、一番しっくり来る気がする。

 

というかそれ以外に言様が無い。

 

「まあ、俺以上に早く走れるとは思えないがな」

 

バイクへの変形を果たしたホルダーが、俺達を見下しながら、けたたましくエンジン音を唸らせる。

 

『あら、面白い事を言うじゃない?』

 

その言葉に反応したのは、チェイサーさんだった。

 

何時もの乙女口調な、オッサンボイスだが、その声からは何処か何時も以上に意味不明なプレッシャーを感じる。

 

「ほう……仮面ライダーのバイクは喋るんだな」

 

ホルダーが感心と驚きを交えた声で呟く。

 

それを言ったら、お前は自分がバイクになってるだろうがと、突っ込みを入れたいが、今はチェイサーさんのプレッシャーが、過去最高に不味い事になっているので、俺は言葉に出すのを躊躇う。

 

『初めまして。アタシはチェイサーよ。自分を倒す相手の名前ぐらいは覚えておきたいでしょうから、特別に自己紹介してあげるわ』

 

如何やらこのホルダーは、チェイサーさんの触れてはいけない琴線に触れてしまったらしい。

 

更なるプレッシャーをホルダーに放ちながら、チェイサーさんは、悪意がたっぷりと篭った挑発をする。

 

「……何だと?」

 

その言葉を聞いたホルダーの方も、声からは余裕が消えて、怒り一色に染まってしまう。

 

ホルダーとチェイサーさん。

 

両者の間に、必ずこいつをブッチギルというオーラが立ちこめる。

 

『これは荒れるな』

 

「下手な事言うなよ。こっちに飛び火するかも知れないだろうが……」

 

その様子を見ながら呟いたメカ犬に、俺は小声で突っ込みを入れた。

 

白熱する両者が、何時その感情を爆発させたとしてもおかしくないと感じ取った俺は、スタートの合図を任されている暴走族の一人に、早く合図を出せと指示を出す。

 

合図を送る方も、何か良からぬ気配を感じ取っていたのだろう。

 

素早く頷き、全ての準備を整える。

 

チェイサーさんに乗った俺と、ホルダーが、真横に並び更にその隣には白と黒の網状に模様の入った、カーレース等で、良く見かける旗を持った暴走族の一人。

 

「スタート!」

 

その暴走族が言葉を発しながら旗を振るのをスタートの合図にして、俺とホルダーはアクセル全開で、静かな夜の峠に、ライトの光とエンジンの爆音で色と音を与える。

 

最初に先頭に出たのは、ホルダーの方だった。

 

最高速にどちらが分があるのか、まだ判断出来ないが、初速に関しては相手が一枚上手だった様だ。

 

「ははははは!!!!大口叩いてたわりにその程度かよ?」

 

前を走るホルダーが、笑いながらチェイサーさんを小馬鹿にしてくる。

 

「悔しいけど早いな」

 

『……マスター。今からちょっとだけ激しく動くからしっかりと掴まってなさいね」

 

俺が素直な感想を口にした直後、チェイサーさんが、普段とは全く違う抑揚の無い声で、俺に宣言する。

 

先程のホルダーの発言が、チェイサーさん自身が持つバイクとしてのプライドを刺激した為だろうか?

 

直線の道路が終わりを告げて、今度は峠特有の山の外周を不規則に曲がる連続カーブへと突入する。

 

突入した瞬間、俺はチェイサーさんが、先程俺に言った言葉の意味を、嫌という程理解した。

 

連続カーブを減速する事無く、猛スピードで駆け抜けたのである。

 

一度曲がる度に、側面が地面すれすれに、それどころか肩が多少擦れる程に倒しながらだ。

 

その迫力は、普段のジェットコースター張りに走るチェイサーさんの走りが、遊園地で見かける100円入れると動くハンドル付き某動物乗り物シリーズ(一番有名なのは中国に生息する白黒で熊の仲間)に乗っていると思えてくる程である。

 

『一気に抜くわよ!!!』

 

チェイサーさんは宣言通り、カーブが終わる直後に、減速したホルダーを一気に抜き去った。

 

俺はチェイサーさんの凄まじい走りに悲鳴を上げる事も出来ない。

 

何とかしがみ付くだけで精一杯だ。

 

それと今更気付いたのだが、チェイサーさんは単独でも走れるのだから、俺って乗ってる意味無いんじゃないだろうか?

 

そもそも俺は文字通り、お荷物になっている様な気さえしてくる。

 

……まあ、それは兎に角、俺達がこのままホルダーよりも早く、ゴールになっている峠の終わりまで辿り着ければそれで勝利なのだ。

 

しかし勝負は終わってみるまで分からないと、幾多の先人達が言っていた。

 

そして俺達にもその現象が舞い降りたのである。

 

「何だ!?」

 

突如後ろから、激しい衝撃が加わった。

 

何事かと後ろを振り向けば、先程抜き去ったホルダーが後ろまで追いついている上に、チェイサーさんに体当たりを喰らわせていたのだ。

 

「卑怯だぞ!?」

 

「はっ!誰も相手の邪魔をするな、なんてルールは言って無いだろうが!ようは先にゴールに着きゃ良いんだよ!!!」

 

俺の抗議に、ホルダーは吐き捨てる様に言い放つ。

 

奴にはもう走る事への、プライドすら無いのかも知れない。

 

『勝つわよマスター』

 

尚もホルダーに体当たりを続けられながら、チェイサーさんが、俺に言った。

 

『バイクは走る為に生まれてきたわ。アタシはその代表として、この勝負を汚したホルダーを許して置けない!』

 

静かに、だけど熱い程の闘気を漲らせるチェイサーさん。

 

バイクであるチェイサーさんにとって、この純粋なスピードだけを追求した勝負は、それだけ神聖なものだったのだろう。

 

チェイサーさんが闘気を漲らせたその瞬間、俺の視界の中にウインドウが映りこむ。

 

「何だこれ……ドライブチェイサー?」

 

取り敢えず一番上の部分の文章を俺は、声に出して読んでみる。

 

声に出したその時、チェイサーさんが黄金色に輝き始め、その姿を変えていく。

 

銀色のラインの脇に金のラインが走り、黒と赤を基本としたボディーカラーの上に青と、緑のカラーリングの追加ボディーが、足されていく。

 

視界に映るウインドウを読み上げるとそこには、この現象に対しての詳細が書かれていた。

 

ドライブチェイサーモード。

 

チェイサーさんの中に組み込まれている自己学習プログラムが、一定以上成長する事によって、初めてなる事が出来る強化形態らしい。

 

つまりこの勝負の最中に、チェイサーさんの自己学習プログラムが、規定値に達してチェイサーさん自身の感情の爆発を引き金とする事で発動したのである。

 

『飛ばすぜマスター!!!』

 

チェイサーさん改め、ドライブチェイサーさんが叫ぶ。

 

というか何時もの乙女口調じゃ無くなっている!?

 

叫びと同時に、ドライブチェイサーさんは、今まで以上に有り得ない速度で峠を一気に越えていく。

 

そしてホルダーを置き去りに、圧倒的な差を着けて俺達は勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

峠の終わりで、俺達が待機していると、大分遅れて、ホルダーが追いついてきた。

 

『オレサマの勝ちで文句は無いだろ?』

 

ドライブチェイサーさんが、上から目線で、やって来たホルダーに言う。

 

もう一人称まで変わってしまって、この人?が先程まで、新宿二丁目風な喋り方をしていたとは到底思えない。

 

「……う!?」

 

ショックを隠しきれないのか、無言でいたホルダーだったのだが、何故か急に苦しみ出す。

 

「何だ!?」

 

『マスター!あのホルダーの身体から異常な程の熱源が発生しているぞ!』

 

突発的な事態に驚く俺に、メカ犬が説明してくれた。

 

メカ犬の説明を聞きながらホルダーを見てみると、ホルダーの身体は、自身が放つ熱のせいで、赤く変色しだしている。

 

「……ない……とめない……オレが負けたなんて認めて堪るか!!!!!!!!」

 

先程まで苦しんでいたホルダーが、今度は一転して、辺り一体を揺るがす程の叫びを上げる。

 

『これは……システムが暴走しているのか?』

 

ホルダーの様子を見ながら、メカ犬が呟いた。

 

「暴走って、如何いう事だよメカ犬!?」

 

『うむ。如何やらあのホルダーが使っていたシステムは、欠陥品もしくは、試作品だったのだろう』

 

俺達が初めて戦ったホルダーも確か欠陥品だって、メカ犬が言っていたが、今目の前に居るホルダーの状態はあまりにも結びつかない。

 

これは恐らく欠陥品というよりも……

 

『恐らくは奴等の仕業だろうな』

 

メカ犬が推測を口にする。

 

多分メカ犬が言っている奴等とは、この前いきなり出て来たオーバーとメルトの事で、間違い無いだろう。

 

何をしようとしているのかは分からないが、このホルダーも奴等の作戦の一部なのかも知れない。

 

「うをおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」

 

より一層大きな叫びを上げると、ホルダーは先程来た峠を、来た時とは比べ物にならないスピードで、逆走を開始する。

 

「不味い!?」

 

俺は思わず声を上げる。

 

あのまま行けば、スタート地点には、他の暴走族の人達が居る筈だ。

 

今のホルダーが、彼等と接触すれば、大きな被害を出す可能性がある。

 

「お願い出来ますか?」

 

俺はドライブチェイサーさんにホルダーを追う様に頼む。

 

「オレサマに任せておけ!すぐに追いつくぜ!」

 

ニヒルに笑いながら言うドライブチェイサーさん。

 

その時またしても、オレの視界にウインドウが現れる。

 

またかと思いながらも、俺は再びその文章の頭を読んでみる事にした。

 

「ジェットドライブモード?」

 

俺がその文章を読み上げた瞬間、またしてもドライブチェイサーさんに変化が訪れた。

 

まるでホバーモードの様な形態に変わって行くのだが、追加された部分のボディーパーツが、両脇にバーニア状に接続される。

 

『さあ!飛ばすぜ!!!』

 

俺を乗せたドライブチェイサーさんが、凄まじい速度で、空へと舞い上がる。

 

ホバーモードの時も、それなりの速さは出ていたが、今はそれの比じゃない。

 

そして俺達は瞬く間に、峠を爆走する、ホルダーに追いつく。

 

「見つけた!」

 

『マスター。見つけたのは良いが如何やって奴を止めるつもりなのだ?』

 

ホルダーを見つけた所で、メカ犬が俺に、そう指摘する。

 

そう確かにそれが一番の問題だ。

 

現在ホルダーは物凄い速度で、峠を疾走している。

 

奴の足を止めようにも、あの速度じゃその攻撃を届かせる事すら出来ない。

 

『ここはオレサマに任せな!!!』

 

何か名案は無いかと、思案する俺に対して、ドライブチェイサーさんが、自信満々に言い放った。

 

本当に性格変わっちゃったなこの人?は……でも、その言葉が今は何よりも心強く感じる。

 

「……分かりましたお願いします!」

 

俺達は一度ホルダーの進行方向に上空から先回りして、正面から迫り来るホルダーに突っ込む。

 

「悪夢はここで終わらせる」

 

俺は言いながら、タッチノートを引き抜き、全体図を表示させて両足をタッチさせて、再びタッチノートを差し込んだ。

 

『ポイントチャージ』

 

『ポイントチャージ』

 

ベルトから発生した光が、両足に集約し、光を帯びる。

 

「こいつで『こいつで決めるぜ!!!』……台詞取られた」

 

俺は予想外のドライブチェイサーさんの乱入に、気を落としながらも、両足を踏ん張り、力を蓄積させていく。

 

その瞬間ドライブチェイサーさんが垂直状態で、急停止すると、俺の身体は、急加速によって生み出された力を得た状態で、勢い良く射出される。

 

「ジェット・ドライブ・スマッシュ」

 

俺は輝く両足を突き出し、ドライブチェイサーさんの力を借りた一撃を繰り出す。

 

その一撃はホルダーの身体を突き抜けて、爆発を引き起こした。

 

俺は着地するものの、勢いの付いた身体は止まる事を知らず、地面と接している足の裏から火花を散らしながら、数メートル前に移動して、漸く停止した。

 

その現象に先程の技の威力が、とんでもないものだったという事が、改めて窺い知れる。

 

後ろを振り向けば、気絶している素体となった金髪の男と、塵となり消えていく灰色の暴走プログラム。

 

「本当に何が起ころうとしてるんだ……」

 

誰にとも無く呟いた俺の言葉に答えが帰ってくる事は無かった。

 

唯一帰ってきたのは、峠の中、吹き荒ぶ風の音だけだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ。負けちゃったね」

 

峠の最も高い木の上で、藍色の怪人オーバーが、言葉を漏らす。

 

「ふん。所詮は実験段階に過ぎないのだ。精々あの程度だろう」

 

その隣には、灰色の怪人メルトが居る。

 

如何やらこの二人は、この場所から先程までの仮面ライダーとホルダーの勝負を見ていたらしい。

 

「そんな事言って、本当は結構悔しいんじゃない?」

 

オーバーが、ふざけた態度を取りながら、メルトに質問をぶつける。

 

「馬鹿な事を言うな……私は行くぞ」

 

「あれ、もう行っちゃうの?」

 

「もう既に十分なデータは取らせてもらったし、予想外のものも見れたからな。これからの参考にさせてもらう」

 

それだけ言うとメルトは、木の上から飛び降りて、この場を去ってしまった。

 

「メルトは仕事熱心で偉いね。僕なんて仕事よりも、寧ろ楽しみたいって思うんだけどな……」

 

オーバーは独り言を口にしながら、尚も峠の先を熱心に見詰め続ける。

 

その瞳の奥に、鋭い狂気を抱きながら、一人の少年を捉えて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

「如何したの純君。今日は何だか溜息ばっかりだよ?」

 

朝の登校途中、スクールバスのバス停に向かう中、俺の本日何度目か分からない溜息を聞き、なのはちゃんが、心配そうに声をかけてくる。

 

なのはちゃんには悪いと思うが、今の俺は自分で思う以上に心が疲弊しているらしく、溜息が止まらないのである。

 

それというのも全ては昨日のあの出来事が原因だ。

 

昨日は恵理さんの頼み事を聞いたお陰で、色々と大変な目に遭ってしまった。

 

まあ、結果的にはホルダーを早期に発見出来たので、寧ろ良かったのだが、一番の問題は其処じゃない。

 

どちらかと言えば今の俺の疲れは、ホルダーを倒した後から来るものだった。

 

ホルダーの暴走を食い止めた後、俺が気絶した金髪の男を連れて、スタート位置に戻ると、一気に歓声が巻き起こった。

 

如何やらこの勝負には、お互いのチーム存続が賭けられていたらしく、海鳴連合に助っ人として参加した俺が勝った事によって、ドラゴンが解散する事になったからの様である。

 

これ以上は俺が関わる事はでは無いと思い、気絶した金髪の男を渡して、さっさと立ち去ろうとしたのだが、ここでその場に居た暴走族の全員が、俺に対して土下座をして来たのだ。

 

しかも何故か、海鳴連合とドラゴン両名共々である。

 

如何してこんな事をするのかと聞くと、長ランリーゼントの男、如何やらこの人は、海鳴連合のリーダーらしい、が純粋な夢見る少年の様な瞳で俺に言ってきた。

 

何でも俺の走り(正確にはチェイサーさんだが)と俺の強さ(クラブハウスでの俺の連続反則攻撃だが)に惚れたのだそうで、新たなリーダーになってくれと頼まれたのだ。

 

勿論丁重にお断りしたのだが、それでも尚、暴走族の皆さんはしつこく付き纏ってきた。

 

最後には仮面ライダーの身体能力で、振り切ったのだが、ある意味戦う以上に疲れたのは言うまでも無い。

 

そんな事をなのはちゃんに話す訳にも行かないので、俺は少し疲れてるだけだから大丈夫と返すので、精一杯だった。

 

話しながら歩いていたら、バス停が見えてきたのだが、如何にも様子がおかしい。

 

何時もは他にも何人かが、バス停でバスを待っている筈なのだが、通りの途中で、何やら怖いものを見たかの様に震えているのである。

 

「如何したんですか?」

 

なのはちゃんが、上級生と思われる女の子に聞き込みを開始した。

 

「えっとね……何だか怖いお兄さん達が、バス停近くで並んでるんだよ」

 

女の子は震えながら、俺達にも近づかない方が良いと忠告してくる。

 

「怖いお兄さん達?」

 

なのはちゃんが首をかしげながらオウム返しで言葉を返すが、俺は何となくこの話を聞いて、嫌な予感がした。

 

「ちょっと様子を見てくるから、なのはちゃんはここで待ってて」

 

そうなのはちゃんに告げながら、俺は自分の予想が外れていたら良いなと願いつつ、バス停に急いだ。

 

……そして嫌な予想は、残念な事に的中してしまった。

 

「あ!!!魔巣田さん!!!!おはようございます!!!!今日もご勉学頑張ってください!!!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おはようございます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

リーゼントの長ランの男を先頭に、数十人の厳つい顔をした男達が、俺に頭を下げて挨拶してきたのである。

 

良く見てみれば、集団の中には、金髪の男や、俺がクラブハウスの中で、撃沈させた男達も混ざっていた。

 

突っ込み所は多々あるが、俺は取り敢えずリーゼントの長ラン男を一人呼び出して、如何いう事なのか説明を求める事にした。

 

「如何いう事なんですかこれは!?」

 

「はい!実は俺達、あの後も海鳴連合のリーダーは魔巣田さん以外考えられないと思って、何処の誰なのか、聞き込みしたんですよ。そしたら海鳴ジャーナルで記者をしているらしいお姉さんが、ここで待っていれば、会える筈だと教えてくれたんすよ!」

 

海鳴ジャーナルの記者でお姉さん……間違い無く恵理さんだな。

 

結果報告は後で良いと思って、昨日は帰ってそのまま寝ちゃったのは悪いと思ったけど、これはその異種返しか!?

 

「それとさっきから俺の事を魔巣田と呼ぶのは何故ですか?」

 

「ああ!それも記者さんから聞いたんですよ。部下にはそう呼ばせていると聞いたんで」

 

これはあれか?

 

恵理さんの復讐なのか、それとも本名は伏せてくれている優しさと受け取って良いのか、判断がしにくいにも程がある。

 

特にあながち間違いでも無い所が、余計に性質が悪い。

 

「それと俺の事は、気軽にヤスって呼んでください魔巣田さん!!!」

 

そう言ってリーゼント改め、ヤスさんは、俺に再び頭を下げた。

 

後ろを見れば、ヤスさんが頭を下げるのを見た男達もそれに習い、俺に頭を下げてくる。

 

俺はその光景を見ながら、また一つ大きな溜息を吐き出した。

 

今日の海鳴は、良い天気で平和である。

 

何せこの街の暴走族のリーダーが、小学生に決まってしまった程なのだから……


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