魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第十四話 アウトロー・スピード・ウォーズ【前編】

「舐めてんじゃねえぞテメエ!!!」

 

「あんだよやんのかあああ!!!」

 

海鳴市内のとあるクラブハウスの中心で、見るからに不良と分かる二人が、互いを罵倒している。

 

片や長ランにリーゼントという生きる化石の様な格好をした男と、金髪に染め上げられた短髪に、刺繍入りの改造学ランと、もう一人の方も格好が何処か古臭い。

 

店内を見渡して見れば、多少の違いはあるものの、二人と似た格好をした人達が半々に派閥を形成しており、其々が店内の中心で罵倒しあう二人の不良に声援を送っている。

 

「テメエの所も今日で終わりにしてやんよ!!!」

 

「それはこっちの台詞じゃあ!!!」

 

尚も彼らの互いを罵倒する行為は、激しさを増していき、最早何時、暴力沙汰になったとしても、おかしくは無いだろう。

 

だが実際には其処まで発展する事は無く、二人の不良は最後に覚悟しろと言った内容の啖呵を切ると、背を向けて歩き出す。

 

そして先程まで、クラブハウスの中心で、店内の全員の注目を浴びていた不良の一人の内の片方、長ラン&リーゼントが、俺に近づいてきた。

 

俺の前までやって来た不良は、勢い良く頭を下げる。

 

「つう訳で、お願いします!先生!!!!」

 

見れば他の、似た方達も俺に頭を下げて、一斉にお願いしますと声を揃えて、言ってくる。

 

『こうなっては、仕方が無いのではないかマスター?』

 

メカ犬が、無責任な発言を俺にしてくる。

 

この状況で良くお気楽に発言出来るものだ。

 

ここまで来て、その発言が出来るという事に対して俺は、もう呆れを超えて、感心すらしてしまう。

 

「はあ……分かりました。やりますよ。やれば良いんでしょ」

 

確かに目的を果たす為には、俺が彼らの願いを聞き入れるのが、一番手っ取り早い。

 

俺は溜息を吐きながらも、承諾の答えを半ばヤケクソで彼等に返す。

 

「皆!先生がやる気になられたぞ!!!」

 

俺の言葉を聞き、長ラン&リーゼントが、他の人達に吉報を伝え、それに呼応するかの様に、喝采が巻き起こる。

 

その光景を見ながら、俺は軽い頭痛を覚えた。

 

こんな事態になってしまったのも、元を正せば恵理さんのせいなのである。

 

そう……今のこの状況を作り上げた全ての原因は、俺が翠屋でバイトしている時に、やって来た恵理さんがした頼み事に起因するのだ。

 

話は今から、数時間程前にまで遡る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ純君、この辺りには、二つの大きな暴走族の派閥があるって知ってる?」

 

翠屋でバイト中の俺に、頼み事があると訪ねて来た恵理さんは、俺が士郎さんに話す許可を取ってから、席に座るとそんな事を言ってきた。

 

「暴走族ですか?」

 

俺もこの海鳴市に暴走族が居る事は知っているのだが、詳しい事までは知らないので、その事を素直に伝える。

 

すると恵理さんが、俺にその暴走族の大まかな説明をしてくれた。

 

恵理さんの話によると、その二つの派閥に分けられた暴走族は、その単語で一括りにされているが、活動内容にかなり差があるらしい。

 

先ず最初の派閥で、チーム名は海鳴連合。

 

このチームは、かなり古くから何代にも受け継がれているチームで、活動内容は暴走族では少し珍しい部類に入るかもしれない。

 

チーム方針でバイクの速さを追求しているのだが、普段は迷惑をかけているお詫びにと、ボランティア活動等にも積極的に参加しているちょっと血気盛んなお兄さんの集まりの様だ。

 

そしてもう一つのチーム名は、ドラゴンというらしい。

 

このチームは最近作られたのだそうで、元々は海鳴連合のメンバーだった一人が新たに作り出したそうだ。

 

このチームも海鳴連合と同じ様に、バイクの速さを追求しているのだが、それ以外の素行がかなり悪い。

 

メンバーの最下位位置に居る人達は、軽犯罪を繰り開始行っては補導されているし、海鳴連合はバイクを走らせる際に、人気の無い場所や、レンタルサーキットを借りるのだが、ドラゴンは周りの事等お構い無しに、街中をまさに暴走するのだ。

 

まあ、一般的な暴走族と聞けば、確かにドラゴンの方が、スタンダードと言えるかもしれないが、こうして聞くとあまり気分の良いものでは無い。

 

取り敢えず恵理さんの話で、二つの派閥の事は理解出来たのだが、その暴走族のチームと恵理さんの頼み事がどう繋がるというのだろうか。

 

「その暴走族が、如何かしたんですか?」

 

「ええ、実はその二つのチームが、最近になって抗争を始めたんだけど、その中で妙な噂が流れてるのよ」

 

「妙な噂?」

 

恵理さんは、頷きながら続きを話始める。

 

「二つの派閥は、出来るだけ平和的に事態を収束させるために、お互いが得意としているバイクで勝負する事にしたらしいんだけど、ドラゴンが助っ人を雇ったそうなのよ」

 

「確かにお互いが得意としてる分野なのに、態々助っ人を呼び込むっていうのは、妙な話かも知れないですけど、そんなに気になる事ですか?」

 

俺の返答に、恵理さんは首を横に数回振り、否定の意を示す。

 

「噂には続きがあるの。その助っ人っていうのが、如何もただの人じゃないらしくてね……変形するそうなのよ」

 

「はい?」

 

恵理さんの言葉に、俺は一瞬だが、脳内の処理が追いつかなくなり硬直してしまう。

 

しかし何とか頭の処理速度を回復させる事に成功し、俺は質問の続きをする。

 

「変形ってあの、変形ですか?」

 

俺の頭の中には、前世の頃に見ていた某ロボットアニメの映像が蘇る。

 

「そう、ドラゴンが雇った助っ人は、バイクに変形するそうなのよ」

 

真面目な顔で答える恵理さん。

 

「そんな人間居る訳無いじゃないですかって……もしかして」

 

突っ込みを入れている最中に、俺は一つの可能性に思い至る。

 

その様子を見た恵理さんが、やっと気付いた様ね、と嫌な笑顔で俺を見た。

 

「純君の考えている通り、ただの人間じゃないみたいなのよ」

 

恵理さんは、俺が予想していた通りの言葉を返す。

 

そして恵理さんの頼み事の内容も、大体だがこの時点で予測がついた。

 

「と言う訳で、純君にお願いしたい事っていうのはね……」

 

「その助っ人が、ホルダーなのか確かめてほしいってところですか?」

 

俺は恵理さんが言い終わる前に、言葉の続きを口にする。

 

「当たり!」

 

如何やら俺の予想は、当たっていた様で、恵理さんはクイズ番組の司会者の様なリアクションで、正解だと教えてくれる。

 

ここまで正解しても、嬉しくないクイズというのは、生まれて初めてだと思う。

 

「それで、頼めるかな?」

 

恵理さんが改めて聞いてくる。

 

断れるものならば、断りたいたいが、本当にその助っ人がホルダーだったとしら、放っておく訳にも行かないだろう。

 

それにバイクに変形するというのも、個人的にかなり気になる。

 

「分かりました。それで俺は何をすれば良いんですか?」

 

俺は自らの責任感と好奇心に負けて、恵理さんの頼みを承諾した後、これから如何するべきなのかを、話し合う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇の中に浮かび上がるのは、更なる闇を内包する一つの影。

 

「あ!戻ってきたんだ」

 

その影が声を上げた。

 

すると先程まで一つしかなかった筈の影が、もう一つ現れる。

 

「それで、例の実験は上手くいったのかな?」

 

元からその場所に居た影、藍色の怪人オーバーが、先程現れた影、灰色の怪人メルトに何やら確認を取る。

 

「ああ、実験は成功だ。従来のプログラムとは比べ物にならないレベルの適合性を示した」

 

話しかけられたメルトは、淡々と結果だけを言葉として吐き出していく。

 

「ふふ、その答えを聞いて安心したよ」

 

メルトの言葉を聞いたオーバーは心底嬉しそうな声で言う。

 

「ただ……」

 

しかしそこで、メルトが言葉を濁す。

 

「ただ?」

 

「素体となった人間の、闘争心が高すぎた様でな。既に暴走の兆しを見せている。あれでは仮面ライダーが嗅ぎつけて来るのも、時間の問題かもしれん」

 

「う~ん。それはそれで、良いんじゃないかな?」

 

オーバーは、数瞬考える素振りを見せながらも、メルトに対して、楽観的な発言を返す。

 

「どっちにしろ、早いか遅いかの違いでしかないんだしさ。戦うことになったなら、戦闘データを取らせて貰えば良いじゃない」

 

「……確かにそれもそうか」

 

先程オーバーがした説明に納得したのか、メルトはゆっくりと頷く。

 

メルトのその言葉を最後に、闇の中に浮かぶ二つの影が、一瞬だけ大きく揺らぐ。

 

次の瞬間に二つの影は、最初から其処に無かったかの様に、跡形も無く消え去り、ただ静寂を保つ静かな闇が広がるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで引き受けたという訳か。しかしホルダーが変形とは……』

 

事情を聞いたメカ犬が、興味深そうに呟く。

 

俺は恵理さんと話合った後、翠屋のバイトを終わらせてからすぐに行動を開始した。

 

メカ犬を呼び出し説明しながら、今俺達はある場所に向かっている。

 

「ここか……」

 

目的地に辿り着いた俺は、辺りを見渡し観察を開始する。

 

其処はジャックが根城にしている裏路地とは、また違った意味で人が寄りつかなそうな、雰囲気を醸し出していた。

 

言ってしまえば治安が悪そうなのだ。

 

海鳴市は、比較的に治安が安定してはいる方ではあるが、やはり人が多く集まれば、大なり小なりこういった場所が形成されていくのは、仕方ない事なのかもしれない。

 

先程から通りには、柄の悪い男や、汚れた衣服を身に纏った浮浪者と思われる人物が視界に入ってくる。

 

そして俺達の目の前には、一軒の建物が聳え建っていた。

 

建物には看板が立ててあり、クラブハウス・パラレルと書かれている。

 

恵理さんとの相談した結果、俺達はまずどちらかのチームと接触して、情報を得る事にした。

 

効率を考えるのであれば、ドラゴンに接触するのが、一番の近道なのだが、噂を聞く限り危険が伴うのは確実だ。

 

ならば比較的に、女子供には、手を出さないであろう海鳴連合で情報収集をする事が良いだろうという結論に至った。

 

恵理さんの話によるとここ、クラブハウス・パラレルは、その海鳴連合のメンバーが普段から常駐している場所なのだそうだ。

 

「しかし来てみたは良いけど、どうやって情報を集めれば良いんだ?」

 

俺は暴走族の牙城を前にして、途方に暮れる。

 

幸いにも店は営業している様だし、特に店の前で見張りをしている人間等も居ないので、子供の俺でも入店する事だけは出来そうだが、問題はその先だ。

 

暴走族の皆さんが、素直に話してくれる訳が無いだろうし、下手したら入った直後に摘み出される可能性だってある。

 

『取り敢えず入ってみるしか無いのではないかマスター』

 

如何するべきか思い悩む俺に対して、隣のメカ犬が助言してくる。

 

「……確かにそうだな」

 

メカ犬の言う通り、ここで幾ら悩んでいても答えは出ないだろう。

 

ならばあえて飛び込むことで、見出せる活路もあるかもしれない。

 

俺はメカ犬の助言に頷きながら、店内に入ろうとした。

 

その時である。

 

クラブハウス・パラレルの店内から、複数の怒鳴り声と、物音が聞こえて来た。

 

「行くぞメカ犬!」

 

『うむ!』

 

俺はメカ犬と、共に急ぎ店内に駆け込んだ。

 

入り口を入るとすぐに大人一人が通れる程の、狭い階段が地下に伸びており、その先には、簡単な作りの扉が設置されていた。

 

「ぐあ!?」

 

その扉を開けて、中に入ると此方に吹き飛ばされてくるリーゼントな髪型で、長ランという失われた過去の時代の化石の様な格好の男性。

 

俺はその姿を目撃して、まず何よりも、現代でもこの格好をフォーマルに着こなす事が出来る存在が実在した事に対して、ある種の感動を覚える。

 

だが今は、この感動をゆっくりと噛み締める暇は無い様だ。

 

辺りを見渡せば、店内には他にも、似たり寄ったりの格好をした男達が、倒れており死んでいる訳では無さそうだが、その全員が軽傷を負っている。

 

その中心には、拳を突き出した一人の金髪男と、それをとり巻く様に、複数の男性が、倒れている男達を見下す感じの笑みを浮かべて眺めていた。

 

彼等も制服を着てはいるが、其処には派手な刺繍が施された、所謂改造制服で、髪を金や茶、中には赤や青等と染め上げている者も居る。

 

長ラン程では無いが、此方の男達の格好も何処か古臭い印象を受ける。

 

『如何やらこの惨状は、あの者達の仕業で、間違い無い様だな』

 

現状を見て、メカ犬が俺に言ってくる。

 

恐らくはメカ犬の言っている事が、真実で間違いだろうと俺もこの惨状を見て思う。

 

そしてこの惨状を作り出した男達が多分、ドラゴンなのだろうと大体の予測が出来る。

 

「あ~あ。情けねえなあんた等」

 

倒れた男達を見下ろしながら、金髪の男が吐き捨てる様に言い放つ。

 

その発言の直後、とり巻きと思われる連中が笑い声を上げる。

 

「何の……つもりだ?」

 

殆どのリーゼントの男性が力無く倒れている中で、先程俺の近くにまで吹き飛ばされてきた男だけが、意識を保っていたのか、辛うじて苦虫を噛んだ様に言葉を紡ぎ出す。

 

「ああん?まだ喋れる奴が居たのかよ」

 

その声に反応した金髪の男が、尚も相手を小馬鹿にした笑みを浮かべながら、リーゼントの男に近づいて行く。

 

「……何でこんな事をするんだ?それに勝負の方法はバイクで着ける筈だったろ」

 

「めんどくさくなったんだよ。やる前から勝負の結果は見えてたしな」

 

「何だと?」

 

「それじゃつまらなねえと思って、折角強い助っ人を引き入れたっつう噂を流してやったのに、テメエ等は対策すらしやしねえ」

 

そう言いながら、金髪の男は己のズボンに手を入れて、何かを取り出した。

 

金髪の男が手に持つそれは、ビー玉の様な形と大きさをしており、鈍く灰色に輝いていた。

 

「だからこれ以上待っても意味がねえと思って、手っ取り早い方法に出た訳さ。それと助っ人を雇ったのはただのでまかせだが、半分は本当なんだぜ?」

 

会話の流れからして、これは海鳴連合とドラゴンの抗争なのだろう。

 

しかし今はそれ以上に気になる事がある。

 

先程の金髪男が発言していた内容と、何気なく取り出した灰色のビー玉だ。

 

何か嫌な予感がする。

 

「これから良い物を見せてやるよ」

 

金髪の男は、リーゼントの長ランの男にそう言うと取り出したそれを強く握り込む。

 

するとその手を中心に、くすんだ銀色の光が全身を包み、その姿を変質させていく。

 

『キンキュウケイホウキンキュウケイホウキン……』

 

その現象と同時に、タッチノートから、警報が発せられる。

 

「これって!?」

 

『如何やら恵理殿の予想が的中した様だな……しかし』

 

タッチノートからの反応で、あの金髪の男が、ホルダーだという事は分かるのだが、それでも分からない部分がある。

 

メカ犬もそれに気が付いているのだろう。

 

言葉を濁しながら言ったのが何よりの証拠だ。

 

あの金髪男が持っていた暴走プログラムは、今までのものとは確かに違う、初めて見るタイプのものだった。

 

更にホルダーの姿も、今までとは何処か違う異質さを感じる。

 

まるで、ロボットの様な外見に両手と両足には、車輪と思わしき物体が、装着されていた。

 

「ん?何でこんな所にガキが居るんだ?」

 

変化を終えたホルダーが、俺の存在に気付いて、首を傾げる。

 

それに合わせる様にして、とり巻きの男達も、この場にそぐわない人物である俺に、注目しだす。

 

「おいおい。ガキンチョがこんな場所に来たら駄目だろ?」

 

とり巻きの一人が、俺に近づきながら、手を伸ばしてくる。

 

後10㎝程で、男の手が、俺の頭に触れようとした時に、俺は行動を開始した。

 

恭也君の剣裁きに比べれば、こんなゴロツキの手等止まって見える。

 

俺は近づく手をすり抜けると、その腕を両手で掴んで、自身の身体を持ち上げて、男の顎に、不意打ちのドロップキックを放つ。

 

幾ら子供の一撃といえども、不意打ちの上に、普通に暮らしていては、鍛え様の無い急所に直撃したのである。

 

男の意識は一瞬で刈り取られただろう。

 

案の定男は、白目を向いて、力無く崩れ落ちる。

 

伊達に人外の強さを誇るお隣さんと、普段から命懸けな鬼ごっこをしている訳じゃない。

 

ある意味で、潜って来た、文字通り死線と場数が違うのだ。

 

こんな技は、恭也君はおろか、美由希さんにも通用しないだろうが、常識が通用する範疇の不良程度が相手ならば十分に通用する。

 

「ほう?」

 

その光景を見て、ホルダーは俺を興味深げに見る。

 

「いきなり何しやがんだ!このガキ!」

 

先程の男が倒れるのを見た男が、仲間をやられた怒りをぶつけるかの様に、俺に叫ぶ。

 

その怒声を皮切りに、他のとり巻き達も、一斉に俺に襲い掛かってきた。

 

身体が小さいというのは、こういう時には案外得なものである。

 

相手が複数というのもあるが、俺という標的に的を絞るのが、恐ろしいほどに難しくなるからだ。

 

第一この人達を十人以上相手にするよりも、手加減してくれている恭也君を相手にする方が、千倍怖い。

 

俺は雨の様に降り注ぐ蹴りと拳を回避しながら、店内に居るとり巻きの数を確認する。

 

メンバーは9人。

 

全員が十代半ばから後半程度で、男性だ。

 

この場に女性が一人でも居れば、使わずにおこうと思っていたが、如何やらその心配は無用らしい。

 

今この時、俺は男としての情を捨てて鬼となる。

 

俺が今から使う技は、出来れば良い子は勿論、悪い子もやってはいけない禁じ手中の禁じ手だ。

 

ほぼ大人と同程度の体格を持つ相手と、小学校に入りたて程度の俺だからこそ面白いくらいに決まる、必殺技……

 

その一撃を最初の相手に放つ寸前、俺はせめてもの慈悲が彼等を導いてくれる事を祈りながら、反動を着けて拳を繰り出した。

 

相手の股間目掛けて。

 

その一撃を喰らったとり巻きの一人は、最後の断末魔すら上げる事無く、自らの股間を両手で押さえながら、倒れ込む。

 

その光景を見た、他のとり巻き達が、あまりの衝撃映像に自らの股間を押さえて防御するが、そんなものは、はっきり言って無駄である。

 

俺は今度は隙だらけの頭部に狙いを定めて、容赦無く蹴りを叩き込み、意識を刈り取った。

 

両手で股間を押さえていれば、そりゃあ隙だらけにもなるだろう。

 

その後も俺は、股間を防御する相手には、頭部を狙って意識を刈り取り、その防御を捨てて攻撃に転じる者には、容赦無く股間を拳で撃ち抜くという行動を繰り返した。

 

「す、すげえ……」

 

最後の一人を静めた所で、この光景を見ていたリーゼントの男が、顔を青ざめながら呟く。

 

まあ、男としてこの光景はある意味トラウマものだろう。

 

それをやってのけた俺としても、出来ればこの技は使いたくなかった戦法の一つである。

 

「あっはははははははははは!!!!!!!」

 

リーゼントの男とは逆に、ホルダーの方は上機嫌で笑い声を高らかに上げる。

 

「良いぞ!ガキ!テメエは気にいった!!!」

 

心底楽しそうに喋るホルダー。

 

「でもよ……お遊びはここまでだぜ?」

 

その直後、今度は逆に何処までも底冷えしそうな冷たい声でホルダーが告げる。

 

如何やらここから先は、俺も本気で行かなきゃ駄目らしい。

 

「行くぞ!メカ犬!」

 

『うむ!』

 

俺はメカ犬を自身の隣に呼び寄せながら、タッチノートを取り出して、ボタンを押す。

 

『バックルモード』

 

隣に居たメカ犬は、銀色のベルトに変形すると、そのまま自動的に、俺の腹部に巻きつく。

 

「変身」

 

俺は音声キーワードを入力して、素早くバックルに差し込む。

 

『アップロード』

 

音声が流れると同時に、白銀の光が俺を包み込み、俺の姿を一人の戦士に変える。

 

メタルブラックのボディーが光るその姿で、ホルダーも俺の事を理解したのだろう。

 

確かめる様に、ゆっくりとその名を呼ぶ。

 

「ただのガキじゃ無いと思っていたが……仮面ライダーだったのか」

 

俺は何時、戦闘が開始されても良い様に構えるが、ここでホルダーは予想外の行動に出た。

 

何とくすんだ銀色の光を放つと同時に、素体に戻ったのである。

 

「はははは!!!相手が仮面ライダーなら話は別だ。おい!!!」

 

ホルダーから素体へと戻った金髪の男は、倒れているリーゼントに言葉を投げかけた。

 

「気が変わった。テメエ等、海鳴連合との勝負、予定通り受けてやるよ。ただし!!!」

 

金髪の男はリーゼント頭の男に、一つの提案を出すと続いて俺を指差して要求を口にした。

 

「テメエ等は、そこに居る仮面ライダーを助っ人に雇え!それが条件だ!」

 

言う事だけを伝えると、金髪の男は、俺が気絶させた男達を起こしながら、一旦ここを去る事を伝え始める。

 

「如何するメカ犬?」

 

いきなりの予想外な展開に、如何するべきか俺はバックルモードのメカ犬に聞いてみる。

 

『今は様子を見た方が良いかもしれん。奴は使っているプログラムも異質だ。何を隠しているのか探って見るのも手だろう?』

 

確かにメカ犬の言っている事にも一理ある。

 

もしかしたらこの前の、オーバーとメルトという奴等が関係している可能性もあるのだ。

 

今は少しでも多くの情報が欲しい。

 

俺はメカ犬との相談の結果、この場は大人しく店を出て行くドラゴンの面々を黙って見送った。

 

「あ、あの……」

 

彼等が店を出て行った直後、リーゼントの男が俺に話しかけてきた。

 

そういえばこの人への説明は、何も考えてなかった。

 

これからホルダーと勝負する為にも、海鳴連合に入らなければいけない俺は、どうやって説明し様かとしたその時、リーゼントの男が突如として、土下座をしてきたのだ。

 

「お願いします!仮面ライダー!!!いや……先生!!!!!!俺達に力を貸してください!!!!!!!!」

 

今夜の勝負が始まる三時間前の出来事であった……


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