魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第二話 動き出したかもしれない運命【前編】

「起きないと遅刻するよ」

 

俺は声を出して布団に包まった人物に声を掛ける。

 

毎朝のことなのだが本当に朝が苦手なんだなと感心してしまう。

 

だが感心していても今の事態が好転する事は無いので俺はもう一度声を掛ける。

 

「早く起きないと朝ご飯食べる時間なくなるぞ」

 

俺の声に反応したのか布団に包まった人物はもぞもぞと動き出して一言呟いた。

 

「う~ん……朝ご飯今日はいらないから……後五分寝かせて……」

 

やっと動き出したかと思ったらそんな事をのたまってきた。

 

今日は何時にも増して寝起きが悪いようだ。

 

こうなれば仕方が無い。

 

俺の精神衛生上余り使いたくない手ではあるが此処で奥の手の一つを使うとしよう。

 

「あ~あ。今すぐ起きてくれたら俺今日は何でも三つだけ言う事聞いてあげるんだけどな~」

 

布団がビクッと反応した。

 

もう少し畳み掛ければ落ちるな。

 

「後五秒以内に起きてくれれば絶対に言うこ「おはよう純君!」おはようなのはちゃん」

 

布団の主高町なのはちゃんは俺の目覚めの呪文と共に本日も無事に封印から解き放たれた。

 

「さっさと着替えて身支度してリビングに来なよ。桃子さんが朝食準備してくれてるからさ」

 

俺はなのはちゃんが起きたことを確認すると用件だけ告げてさっさとなのはちゃんの部屋を出ることにした。

 

「ちょっと待って純君」

 

「……何かな、なのはちゃん?」

 

なのはちゃんに声を掛けられた俺は、何を言われるか大体想像はつきながらもあえて知らない振りをして聞き返した。

 

もしかしたら逃げ切れる可能性も少なからず残っているからだ。

 

「今日は何でも言うこと聞いてくれるんだよね?」

 

なのはちゃんが小悪魔スマイルでそう問いかけてくる。

 

どうやらさっきの俺の台詞は確りと聞こえていたようだ。

 

なのはちゃんは朝が極端に弱いからもしかしたら良く聞き取れずに居て誤魔化せるかもと思ったのだが今日は無理そうだ。

 

しかもさり気無く三回だけという制限を取り払っている辺り妙な計画性すら窺える。

 

「うん確かに言ったよ。ただし三つだけだからね」

 

今俺に出来ることはせめて回数制限だけは死守することだけだった。

 

 

 

 

 

此処は高町家のリビングである。

 

今は平日の朝であり家族仲良く朝食をとっている。

 

そう。言葉通りとても仲睦まじいのである。

 

まずは士郎さんと桃子さんだが見ているだけでおなか一杯になる事受けあいだ。

 

次に恭也君と美由希さんだがこの二人も兄妹には見えない。

 

四人揃ってバカップルだ。

 

描写が無いのは勘弁していただきたい。

 

この一家の情景を文字で表そうとするならば余りの糖分過剰摂取のため生活習慣病になる恐れがある。

 

俺は普段から健康面に気を配っているので本当に勘弁してもらいたい。

 

だが今日に限っては俺もその光景の一部と言えるのかもしれない。

 

なぜならば…

 

「純君、あ~ん」

 

「はいはい待っててね。なのはちゃん次は何が食べたい?」

 

「うんとね、次は卵かな」

 

「なのはちゃんさっきからサラダ食べて無いでしょ」

 

「だって生のお野菜って苦いんだもん」

 

「だめだよ好き嫌いしちゃ」

 

「だって~」

 

「だってじゃ無いの。ちゃんと野菜も食べないと健康に悪いよ」

 

「……は~い」

 

さっきからこんな会話を繰り広げているわけですが、聡明な方ならこの台詞群を聞いただけで俺が現在どういった状況に陥っているのか分かってもらえると思う。

 

「食べたよ純君」

 

「うん。偉いね、なのはちゃん」

 

俺はなのはちゃんに偉い偉いと頭を撫でてあげながら褒めてあげる。

 

なのはちゃんは目を細めながら気持ちよさそうに俺の肩に頭を摺り寄せてくる。

 

そうです。

 

俺は今なのはちゃんにご飯を食べさせてあげている最中なんです。

 

誤解の無い様に言っておきますが俺は普段はこんな事致しません。

 

俺が今なのはちゃんにあ~んでご飯を食べさせてあげているのは先程の約束のためです。

 

なのはちゃんが最初にお願いしたことが、朝ご飯を士郎さんと桃子さんがしている様に食べたいとの事でした。

 

士郎さん……桃子さん……子供は幼い頃から親の真似をしたがる生き物なんですから情操教育のためにももう少しだけで良いので自重してください。

 

上のお子さんである恭也君と美由希さんは既に手遅れだと思うのでせめてなのはちゃんの前でだけは、と俺はなのはちゃんの食事の世話をしながら念を送るのだがその思いが届いているのかは甚だ疑問だ。

 

それと恭也君……殺気を向けるのは止めてください。

 

土下座でも何でもしますし、なのはちゃんに手を出す気なんてまつ毛の先程も無い、ただのへタレ転生者なので五慈悲をください。

 

普段俺は、朝ご飯は自宅で済ませてくる。

 

その後、朝に弱いなのはちゃんを起こす為、高町家にお邪魔して起こした後は高町家の食卓で、なのはちゃんが朝ご飯を食べ終わるのを待ちながら、桃子さんに淹れていただいた紅茶を飲むのを日課にしている。

 

最初の頃は起こした後は待っているだけだったのだが、桃子さんが何時頃からか、なのはちゃんを起こしてくれる御礼にと紅茶をもてなしてくれる様になった。

 

プロが淹れただけあって美味しいのは言うまでも無い。

 

前世からも含めて本格的に淹れた紅茶は飲む機会等は、皆無だったが今では朝はまずこの一杯を飲まないと始まらないと思うまでになってしまった。

 

甘い空気と命の危険を同時に感じるカオスな食事をどうでも良い事を考えながら終えた俺はなのはちゃんを連れて高町宅をあとにした。

 

 

 

 

 

士郎さんが大怪我を負ったあの日から一年が過ぎて俺となのはちゃんは小学生になった。

 

俺達の通う学校は私立聖祥大附属小学校という名前から分かる通りのエスカレーター式の良いとこの私立校だ。

 

入るには其れなりに難しい試験などもあるが其処は俺の唯一のチート能力である頭脳は田舎の大学生で無事に突破した。

 

これで合格出来なかったら俺は一生Orzだっただろう。

 

なのはちゃんに至っては、最早高町家そのものを人類というカテゴリーに含めて良いものか、専門家に聞かなければ分からない領域にまで入ってきたので俺は考えることを放棄している。

 

兎も角俺はなのはちゃんと共にこの人生勝ち組コースが半ば確定している小学校に無事入学できた訳だ。

 

この学校は市内から広範囲に渡って生徒を募集している。

 

なので同じ市内といっても中には徒歩もしくは自転車で通うのも限界がある。

 

そこで学校では海鳴市内の至る場所に登下校用のスクールバスを待つためのバス停が設置されている。

 

俺となのはちゃんもその例に漏れず、バス組なので最寄のバス停に向かっている最中だ。

 

目的地についてからなのはちゃんと雑談をして数分がたった頃迎えのバスがやって来たので、俺となのはちゃんは運転手さんと他の生徒達に挨拶を済ませながらバスに乗り込む。

 

今日は何処に座ろうかと席を見渡すと後ろの座席から良く聴き慣れた友人の声が聞こえた。

 

「なのは、純、こっち席が開いてるから早く来なさいよ」

 

声のした方を振り向くと二人の少女が手を振っていた。

 

「おはよう。アリサちゃんにすずかちゃん」

 

俺が挨拶を交わすとなのはも俺の後に続いて二人に挨拶を交わす。

 

その後二人も俺となのはちゃんに挨拶を返してくれた。

 

この二人の少女は俺達が入学してから半月足らずで知り合った友達である。

 

最初に声を掛けてきた見るからに勝気な少女の名前はアリサ・バニングス。

 

名前を聞いてわかる通り外人さんだ。

 

本人いわく英語でも話せるそうなのだが産まれも育ちも日本なので基本的に日本語で話している。

 

ちなみにリアルツンデレだ。

 

もう一人の少女はアリサちゃんと対極的に物静かなおっとりした少女だ。

 

この少女の名前は月村 すずか。

 

普段から清楚な物腰で正に生粋のお嬢様だ。

 

だが見た目とこの上品な佇まいに騙されてはいけない。

 

すずかちゃんは学年一の運動神経を有しており、まともに相手が出来るのは精々運動が得意な最上級生の中でもほんの一握りだろう。

 

見た目から言えば、力のアリサに知恵のすずかといった印象を受けるが、実際はアリサちゃんの方が勉強の成績は上だったりする。

 

本当に型にはまらない子達で見ていて飽きない。

 

更にこれはなのはちゃんも含めてなのだが三人揃って美少女だったりする。

 

そんななのはちゃん達の横に俺が並んだとしたらどうだろう。

 

立派なモブキャラだ。

 

エースオブエース的なモブキャラに俺はなる。

 

ただでさえ地味という言葉を体現している俺だ。

 

一人位ならばまだしも、三人並べられれば俺の存在は、完全に世界と同化し溶け込んでしまう事間違いなしなのである。

 

現に俺は担任の先生に入学してからこの一月半で三回も名前を呼び忘れられているのだ。

 

しかしこれだけは理解して欲しい。

 

俺は地味だが無個性ではないんだ。

 

単純に俺の周りの奴らのスペックが異常なほどに高いだけなんだよ。

 

今ではこんなに仲の良い三人組であるが出会いは意外とバイオレンスな物であった。

 

俺達の入学式が終わって一週間が過ぎた頃の事だ。

 

放課後になり帰ろうとした所なにやら教室のある一箇所が騒がしくなったのだ。

 

何事かと思い覗いてみるとなのはちゃんとアリサちゃんが取っ組み合いの喧嘩をしておりそれをすずかちゃんが慌てふためきながらおろおろとしている実にカオスな空間だった。

 

とりあえず俺は取っ組み合う二人の間に壁を作るように入り込み場が一瞬落ち着いた所ですずかちゃんが制止の言葉掛ける事でその場は収まった。

 

三人が大分落ち着きを取り戻した後俺が第三者として詳しくこうなった理由を聞いてみた所、

 

なのはちゃんいわく、アリサちゃんがすずかちゃんをいじめている様に見えたので止めに入ったとの事。

 

アリサちゃんいわく…本当はすずかちゃんとお話したかっただけなのだがどうやって話しかけて良いのかわからず物を借りる事で切っ掛けを作ろうとしていたとの事。

 

すずかちゃんいわく、話しかけてもらって嬉しかったのだが緊張してしまい過剰に反応してしまったとの事。

 

話しを聞いてみればただのすれ違いだったというだけの話だった。

 

その後三人は其々仲直りして今の仲良し美少女三人組となったのだ。

 

ちなみにその場にいて話の仲介役になった俺も事実上メンバーの一人に組み込まれたのだが担任の先生の行動を見て分かると通り俺はただのオマケであり所詮はしがないモブキャラだ。

 

「ねえ純君さっきから黙り込んでるけど、どうかしたの?」

 

「……え? ああ、ごめんねすずかちゃん。ちょっと考え事してただけだから心配ないよ」

 

先程からアリサちゃん達との出会いを思い出していたはずが、いつの間にか自分の今後の立ち居地と存在意義についての切実なテーマにすりかわってしまいそれが顔に出ていた様だ。

 

すずかちゃんは今も尚心配そうに俺の顔を覗き込んでくるので、俺は再度すずかちゃんに笑顔で何でも無いから大丈夫だよと告げる。

 

すずかちゃんは俺にいつも癒しを運んでくれる存在だ。

 

なのはちゃんとアリサちゃんは常時パワフルなスキンシップを敢行してくるので余計におっとり系のすずかちゃんと居ると心が和む。

 

俺はすずかちゃんの体から発せられる和みパワーに当てられてしまい無意識の内にすずかちゃんの頭を撫でてしまっていた。

 

我に返った時は既に後の祭りだった。

 

なのはちゃんに昔からやっていたクセとはいえ普通は同年代の女の子に軽々とやって良い物じゃない。

 

特にすずかちゃんはただでさえ引っ込み事案なのだ。

 

幾ら他の男の子より僅かばかりか知り合いである事で耐性のある俺だったとしても恥ずかしい事には変わりないだろう。

 

現にすずかちゃんの顔は真っ赤になっている。

 

俺は慌ててすずかちゃんの頭から急いで手を退けて全力全開であやまり倒した。

 

すずかちゃんは未だに顔を赤くしながらも笑って許してくれたのだが、それを横で見ていたなのはちゃんとアリサちゃんが物凄い形相で俺を見続けてきたので俺の胃が少し痛みを感じた。

 

その視線の迫力は何処か恭也君を彷彿とさせた。

 

恐らくは俺にすずかちゃんを捕られるとでも思ったのかもしれない。

 

この年頃は、同年代の同姓の友達が他の人と仲良く話していると嫉妬しやすいらしいからね。

 

もしかしたらこの三人とはもう少し距離を置いた付き合いをした方がいいのかも知れないのかなと考えながら俺はスクールバスの窓から外の景色を眺めることにした。

 

突き刺さるような視線による俺の胃腸の健康を護るために……。

 

 

 

 

 

 

 

結果から言えば今日もいつも通り平々凡々な一日だった。

 

一つの出来事を除いては……。

 

その一つというのが本日のなのはちゃんの二つ目のお願いである。

 

なのはちゃんは何を思ったのか今日は学校が終わるまで可能な限りなのはちゃん達三人の頭を平等に撫で続けなさいというものだった。

 

原因間違いなく今朝の出来事だと思われる。

 

俺がすずかちゃんの頭を撫でていた場面は不特定多数に目撃されている。

 

これでは変な噂が立つかも知れないのでそれを防ぐための作戦だそうだ。

 

はっきり言って俺のモブキャラスキルのおかげで噂になる可能性は皆無だと思うのだが、念には念を入れた方が良いという事なのだろう。

 

その友情に俺の目からは涙が零れた。

 

ついでに羞恥心で俺の胃腸もかなり痛んだ。

 

 

 

 

 

そんなこんなで俺は本日の学生のお勤めを終えて帰路についている所だ。

 

ちなみに美少女三人組は揃って習い事の稽古があるので珍しく俺は一人で登下校している。

 

今日の奇行のためか他の友達は俺に寄り付こうともしなかった。

 

友達がいないわけじゃないんだ。

 

今日は運が悪かった……ただそれだけなんだ。

 

俺は盛大な溜息を吐きながら自身の足を自宅に向けて動かす。

 

もうすぐ家も見える距離に差し掛かった所で俺は普段道端では見慣れないものを見つけた。

 

それは一見してオモチャにも見える物体だった。

 

道に落ちていたため幾らか汚れているものの、とても細かい細部まで作りこまれた犬型のオモチャだった。

 

大人の手のひらサイズでメタリックシルバーの其れは今にも動き出しそうな程だった。

 

いやもしかしたら機械工学を勉強している学生が自作した本物のロボットに分類される物かも知れない。

 

ただそうなるとわからない物がある。

 

この犬のオモチャ? はその四つの足に携帯ゲーム機に見える物を抱え込んでいた。

 

とりあえず落し物は交番に届けるべきなので俺は交番に向かうため歩き出そうとするのだが数歩歩いただけでその動きを止めてしまった。

 

理由はなんてことは無い。

 

ただの好奇心だ。

 

何となくこのオモチャの正体が気になったのだ。

 

落し物なのだから一日位借りても良いだろうと俺は自分に都合の良い言い訳を付け加える。

 

それに薄汚れているから其れも掃除してあげよう。

 

その方が渡される警察官も落とし主も喜ぶはずだ。

 

俺は改めて大義名分を心の中で唱えてから、オモチャを抱えて家路に急いだ。

 

俺はこの時まだ何も知らなかった。

 

この選択が様々な運命の輪を変えていく結果になっていく事を……。


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