魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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お休みが無かったので少し更新が遅れてしまいました。

仕事が終わった後に、寝る前に少しずつ書いてはいたので、普段よりも少なめな文章量とはなってしまいましたが、何とか一話分を書き終えたので更新します。

今月と来月は、中々お休みが取れそうに無いので、更新が遅れる日が多くなるかもですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

ではでは。


第53話 狙われた少女 【前編】

お茶の時間と言えば、人がリラックス出来る一時だと、俺は今まで認識していた。

 

俺の目の前には、急須で注がれた熱い緑茶と、小皿に和菓子という、典型的な日本式ティータイムの様相を呈しているのだが、この場を見れば誰も安らぎを得られるとは思わないだろう。

 

ホルダー対策特務課の室内で大机を囲む様に、俺とヤスにメカ犬という客人、それとこの部屋の主である恵美さんとその直接の部下である長谷川さんが席に座っている。

 

その長谷川さん達に招かれた俺達が、ここに居るのは別に構わない。

 

だが、この部屋の中にはそのメンバー以外にも、招かれざる二人の客人が、何食わぬ態度で席に座っていた。

 

藍色の怪人であるオーバーと、灰色の怪人、メルトという本来ならばこの場に居る筈の無い長く敵対してきた存在が目の前に居るのだ。

 

そんな奴等と一緒に、楽しくお茶会が出来る雰囲気になる筈が無い。

 

楽しいお茶どころか、何時この場が戦場となってもおかしくはない、重い空気がこの部屋全体を支配している。

 

『それで、何の用があってここに来たのだ?』

 

最初に口火を切ったのは、警戒心を露わにするメカ犬だった。

 

「そう邪険にしないでよ。僕達は同郷なんだし、それにせっかくの楽しいお茶の時間なんだしさ」

 

だがそんなメカ犬の態度に、オーバーは軽い口調で言いながら、目の前に置かれたお茶を手に取って見せる。

 

「それ位で止めて置けオーバー。私達は挑発しに来た訳では無く、話し合いに来たのだぞ」

 

オーバーの軽口を止めたのは、他の誰でも無いオーバー共にこの場に来たメルトだった。

 

感情の機微が分からない程に、起伏の無い口調で話すメルトではあるが、冷静に話し合うという意味では、オーバーと比べれば、まだ良いと思える。

 

「なあ、メルト。俺達と話し合いたいってのは、森沢教授の事についてか?」

 

「あはは、飼い犬君と違ってご主人様の方は、話が分かってるじゃないか!」

 

『何だと!』

 

俺は話を先に進めようと試みるが、それをオーバーが蒸し返して、メカ犬も過敏に反応を示す。

 

普段は冷静なメカ犬ではあるが、流石に奴等を前に冷静で居続けるのは難しい様だ。

 

だが、罠でる可能性があったとしても、貴重な情報を持っているかも知れない相手が、態々話し合おうと言ってきているのだから、それに乗らない理由も無い。

 

俺とメルトは其々、睨みあうお互いの相方を、鎮める事に尽力する。

 

「少し落ち着けよメカ犬」

 

「いい加減にしろオーバー」

 

まだ睨み合いを止めようとはしない互いの相方ではあるが、俺達の声は届いているらしく、すぐにこの場で戦闘が始まるという事態だけは、どうにか回避出来た様だ。

 

「……お互いに蟠りがあるのはしょうがないけど、これじゃあ話が進まないわ。話す事があるなら早めに言った方が良いと思うわよ。灰色さん」

 

メカ犬とオーバーの睨み合いを見ながら溜息を一つして、恵美さんがメルトへと話題を振る。

 

未だにこの状況で一言も話せず、俺達のやり取りを見守っている長谷川さんとヤスに比べて、恵美さんは適応能力がずば抜けて高い。

 

きっと俺もメカ犬を始めとした周りの非常識な面々で、ある程度の耐性がついてなかったとしたら、二人と同じように、ただ見守る事しか出来ていなかっただろう。

 

まあ、思い返してみれば、初めて恵美さんと出会った時も、何の迷いも無く目的の為に俺達が戦っているところに飛び込んで来る様な人だった訳で、今更と言えばそれまでなのかもしれないが……。

 

「そうだな……単刀直入に言おう。私達の目的は、あの森沢という人間の計画を阻止する事だ。だからその手助けを諸君等に頼みたい」

 

恵美さんに促されるまま、メルトは相変わらずの抑揚の無い口調で言い切ると、俺達に向かって深く頭を下げた。

 

敵である筈のメルトが、俺達に対して頭を下げてまで頼み込んで来たのである。

 

これに驚くなというのは、無理な話だろう。

 

周りを見てみれば、俺と同様に、皆も驚きを隠せないでいる。

 

だが、一番の問題はそこじゃない。

 

あのメルトが敵である筈の俺達に頭を下げてまで協力を要請する程の何かを、森沢教授が行おうとしているという事だ。

 

「なあ、メルト。取り敢えず順を追って、一から説明してくれないか。悪いがその説明だけじゃ、判断しようが無い」

 

「言われずとも、最初からそのつもりだ」

 

俺の言葉に、メルトは意も介さずに、淡々と告げる。

 

「でもさ。何から教えてあげたら良いんだろうね?」

 

「そうだな……ならば、まずは森沢という男を仲間に引き込む切っ掛けから話すとしようか」

 

オーバーの軽口に促されるままに、メルトが話を始めたので、俺達は黙ってメルトの声に耳を傾ける。

 

「始まりは私達が、異世界の管理局と呼ばれる施設から、試練の光を持ち出した事から……」

 

「ちょっと待て!?」

 

黙って聞いていようと思った矢先に、あまりにも予想外な単語が、飛び出した為に、俺は思わず叫んでいた。

 

「話の途中に水を差すなんて、無粋じゃないのかなぁ?」

 

「いや、それは素直に謝るけど……あの試練の光を持ち出した犯人ってお前達だったのか!? そもそもどうやって……」

 

もしもこの場にミルファが居たとしたら、迷わずこの二人に対して、遠慮無しの魔力弾を撃っていただろう。

 

個人的に居なくて良かった様な、残念な気もするが、今はそれよりもまず、問い質さなければいけない事がある。

 

『どうしてお前達が、ミルファ嬢が勤めている職場の本拠地を知っているのだ?』

 

俺が問うよりも先に、メカ犬がオーバー達に話し掛けた。

 

「以前に、ガルドという者が、暴走プログラムの模造品を作っていただろう。あれも模造品とは言え、システムの基本は同じ物が使われていた。その所在を突き止めるのは容易い」

 

メカ犬の問いに対してのメルトの返答を聞き、俺の中に今まで一つの仮説としてあった考えが、現実味を帯び始める。

 

「まさかネガタロスやはぐれイマジンを使って、ターミナルに保管されていた鍵や、管理局にTさんが持っていた模造品を盗ませたのは……」

 

「そんなの、僕達があいつ等に協力してあげたからに決まってるじゃない。結局は君達に邪魔されちゃって終わっちゃったけどね」

 

オーバーの言葉によって、疑惑は一つの真実に塗り変えられていく。

 

今から思えば、あの事件には幾つも不可思議な点が多かった。

 

ターミナルの鍵はまだしも、どうしてネガタロスが管理局に保管されている、暴走プログラムの模造品の存在やその利用方法を知っていたのか。

 

フィリップ君の様に、地球の本棚の様な能力でも無い限り、誰かしら事情を知る者が他にも居て、情報を提供したのだと考える方が、自然な話である。

 

そして、模造品の一件で管理局の所在を掴んだメルトとオーバーは、今度は同じく保管されていた試練の光を盗み出したという訳か……。

 

「色々と他にも聞きたい事はあるけれど、まず最初に聞きたい。どうして試練の光を盗んだんだ?」

 

メカ犬の話では、メカ犬やオーバーとメルトが居た世界では、魔法技術は無いという話しだった筈だ。

 

なのに、どうして過去に失われた、古代の魔法技術によって作られた試練の光に固執するのか、その意図が見えない。

 

「単純な話だ。あれは元を正せば、そこの犬も含めた、私達の故郷で作られた、過去の遺産なのだからな。私達の今の科学によって形成された世界の歴史とは別に、遠い過去から表の歴史には残されていない高度な魔法の文明が存在していた。そして私とオーバーの父は、その魔法の文明を支えて来た者の末裔でもある。」

 

メルトの言う自分達の父とは、おそらくメカ犬を作った博士と共に、コンタクトフィージョンシステムの製作に関わった人物……その過程でシステムに暴走する要因を組み込み、ホルダーを生み出した奴の事だろう。

 

だが、それ以上に気になるのは、メカ犬達が元居た世界でも、表側の認識では知られていないが魔法の技術が存在していたという事実だ。

 

しかも、試練の光が過去に、その世界で作られた遺産だと言う。

 

俺は目線を下に落とし、タッチノートを見つつ考える。

 

最初はただの偶然か、奇跡だと思っていたが、もしかしたらメカ竜達の他にも、最初から拡張機能として、試練の光は組み込まれていたのではないだろうか?

 

メカ犬達を作ったという博士は、一番の協力者と言える人物であるが、実はその実態は、今も良く分かっては居ない。

 

それはメカ犬が此方の世界に来る際に、それに関する記憶を失っている事もあるが、同時期に送られて来た筈のチェイサーさんを始め、他のメカーズの面々も、博士や、元居た世界についての情報は殆ど持って居なかった。

 

以前に一時期姿を見せていなかったメカ竜を捕まえて問い詰めたのだが、メカ犬を通して、自動的に送られて来る戦闘データを基に作られた後は、人工AIと自身の運用使用方法だけインプットされてから、此方の世界に転送されているらしく、博士の顔すらもどんなものだったのか、覚えていないらしいのである。

 

いや、この場合は最初から知らないと言った方が、正しいのかも知れない。

 

其処まで開発を急いで、転送してくれたのか。

 

あるいは俺に、顔を知られる事を避けているのか分からないが、少なくとも今はまだ、文字通り住む世界が違っていたとしても、共に戦い続けている仲間だと信じたい。

 

「あの……」

 

俺達が会話を進めて行く中で、今まで沈黙を守り続けていた一人である長谷川さんが、遠慮がちに手を上げる。

 

「どうしたの?」

 

会話の最中に水を差された事も気にせず、オーバーが長谷川さんに聞き返した。

 

「その……魔法って何ですか?」

 

長谷川さんの言葉で気が付いたが、俺はこの場に居る面々に、魔法関連の事は話した事が無いのを思い出した。

 

ヤスも激しく長谷川さんと同意見なのか、何度も首を頷かせて居るし、恵美さんに至っては、何か瞳を輝かせて、研究者の顔になっている。

 

「えっと……何から話せば良いのかな?」

 

俺は冷や汗を掻きながら、何処から何処までを説明するべきか、頭を悩ませた。

 

ミルファによれば、異世界と表だった交流の無い世界では、魔法や管理局の存在は伏せるべきだと言われていたのだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それではそろそろ本題に入ろうか」

 

俺がヤス達に説明を終えるのを待ち、メルトが話を先へと促す。

 

敵ではあるが、大人しく待ってくれていた事は、素直にありがたいと、俺は心の中で感謝しつつ、お茶で喉を潤しつつ、メルトの声に耳を傾ける。

 

「森沢を仲間に引き込んだ理由は、奴が独自に開発していたシステムが、更なるプログラムの発展へと繋がると考えたからだ。森沢の技術を組み込めば、試練の光の力を、ホルダーに同期させ易いと考えての事だったのだがな……だが奴は私達を裏切り、別の計画を影で推し進めていた」

 

「森沢教授は、大病を患っているわ。それと何か関係があるのかしら?」

 

恵美さんの疑問に、メルトは静かに頷く。

 

「試練の光の特性は、本来の能力を増加させる事にある。しかし、それは使い方を誤れば大きな危険を伴う、それは本来の使い方をしても同じだが、奴はその力すらも、無理に増加させて運用しようと企てている。そんな事をすれば、この世界だけで無く、それに連なる多くのものが、根底から崩れ去る危険性が出て来るのだ」

 

『この世界で好き勝手をし続けているお前達が言っても、説得力が無いとワタシは思うがな』

 

「この世界が無くなるだけならば、私達はどうともしないさ。だが話はそれだけに収まらない。もしも森沢が力を制御出来ずに暴走すれば、この世界の崩壊に巻き込まれ、また多くの別世界の崩壊が始まる。そんな事態となれば、父の計画も台無しとなるのだ。それだけは何とか避けたい」

 

「それに僕も気にいらないんだよね。壊すのは楽しいけどさ。何の目的も無いのに壊されてくのを見てるだけとか、つまらないし」

 

メルトの説明に、皮肉を口にするメカ犬だったが、メルトとオーバーには、全く通じていないらしく、返事からして通常運転だ。

 

「つまりあんた達は、止める理由がお互いにあるから、一時休戦して協力して森沢教授を止めようって言いたい訳ね」

 

メカ犬とオーバー達のやり取りを放置しつつ、恵美さんが簡潔に纏めた。

 

敵の敵は味方、という言葉を何処かで聴いた事はあるが、実際にそれをやれという状況となった今、本当に背中を任せる事が出来るかと問われれば、不安しか無い。

 

それに、ここまでの説明が真実だという確証も無いのである。

 

全てはやつ等の張った罠だったとしたら、火中の栗を拾いにいく様なものだろう。

 

「お前達が私達を信用していないという事は充分に理解しているつもりだ」

 

俺達の表情から、協力する事を渋っていると判断したのか、メカ犬との口論をオーバーに任せて、メルトが新たに言葉を紡ぐ。

 

そして、何処から取り出したのか、一枚の写真を手にして掲げて見せる。

 

写真に写っていたのは、この場の全員が知っている一人の、ポニーテールの少女の姿だった。

 

「どうして、ここで姫路ちゃんの写真を見せてくるんだよ?」

 

「この少女を守れ。それが森沢の計画を阻止する事に繋がる」

 

俺の疑問に対して、メルトはそれだけ言うと、まだメカ犬との口論を続けていたオーバーの首根っこを鷲掴み、部屋を出て行ってしまう。

 

「……姫路ちゃんを守れって、どういう意味なんだよ?」

 

最後にメルトの言い残した言葉の真意が何なのか、俺の呟きに答えてくれる人は、この場には誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんで教授。次の仕事は何なんだ?」

 

「……うん。鳥羽君には、最も重要な仕事を頼みたいんだよ」

 

ホルダー対策特務課に、二人の怪人が現れたのとほぼ同時刻。

 

人々から身を潜める秘密の施設内。

 

森沢教授と鳥羽の二人だけで、会話が行われていた。

 

「重要な仕事ねぇ」

 

「鳥羽君も面識があるとは聞いているんだがね。柊 姫路君という少女を連れてきてもらいたい。なるべく穏便に頼むよ」

 

「……姫路のお嬢ちゃんが、教授の計画に必要なのか?」

 

「ああ、彼女は私の悲願を果たすには、絶対に必要な存在だからね。それとこの件は加山君には伏せて置いて欲しい」

 

姫路を連れて来いという森沢教授の頼みにも、鳥羽は内心では驚いていたのだが、流石にもう一つの頼みには眉を寄せてしまった。

 

加山はかなり前の段階から、森沢教授の下、裏で暗躍し続けていたのである。

 

そもそも、今回の仕事が荒事ならば、鳥羽が指名されたのも分かるが、本来ならばこういった周囲の人間に悟られずに行動する方が効率的だ。

 

隠密活動が得意な加山の方が、適材だと言えるだろう。

 

しかも、それを踏まえた上で、この仕事を鳥羽に頼み、加山には言うなとまで念を押してきた、森沢教授の胸中を、鳥羽が知る術は無かった。

 

「まあ、教授の頼みなら仕方ないわな。良いぜ、姫路の嬢ちゃんに手荒な事をしないって約束出来るなら、連れて来てやるよ」

 

「ふふ、もちろんだよ。彼女は大切なお客様だからね。そんな事はしないさ」

 

「……その言葉、今は信じておくぜ」

 

言質を取り、鳥羽は森沢教授に背を向けて、このまま部屋から出ようと、ドアに手を掛ける。

 

「少し待ちたまえ」

 

だが其処で、森沢教授が鳥羽を呼び止めた。

 

「まだ何か、あるのかい?」

 

「鳥羽君。もしもの時の為に、このカードを渡しておくよ」

 

森沢教授はそう言って、鳥羽に二枚のカードを手渡す。

 

「このカードは……」

 

鳥羽は受け取ったカードを、表や裏に返し良く観察した。

 

勿論、森沢教授が手渡したカードが、普通のショップで買える様な物である訳が無い。

 

「私からの、信頼への感謝の気持ちという事にしておいてくれ。吉報を待っているよ」

 

森沢教授の言葉を背に、カードを受け取った鳥羽は、今度こそ部屋から退室した。

 

「……ふぅ」

 

鳥羽が退室するのを見届けた森沢教授は一人、部屋の中で一息ついたと浅い溜息を吐き出す。

 

しかし、森沢教授と鳥羽は知らなかった。

 

二人だけの会話を、ある人物に聞かれていたという事実を。

 

だが、ただでさえこの場所を知る者は、皆無に近い。

 

そうすると、必然的に二人の会話を盗み聞きしていた人物は限られてくる。

 

「……隠し事とは、関心しませんね」

 

森沢教授が、鳥羽に続き部屋を出るのを待ち、その人物は本当に一人きりとなった部屋の中で呟く。

 

呟く声はとても小さな音量ではあったが、一人きりの部屋の中では、やけに大きく響いた……。


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