魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
今回も楽しんで頂けたら嬉しい限りです。
一般の人が見ても何の機材か分からない、様々な機械に囲まれ、森沢教授は黙々と作業に没頭していた。
優秀な部下達が危険を掻い潜り持ち帰った、貴重なデータの解析に忙しく、一人の研究者としては、好きな事を満足がいくまで研究出来るという、素晴らしい環境ではあったが、教授の胸中は穏やかでは無い。
これまで集めて来たデータによって、森沢教授の目的は着実に現実へと近付いてはいる。
しかし、それでもまだ必要なデータは足りない。
そして自分の目的の邪魔となる敵の存在は、あまりにも多過ぎる。
だが、何よりも足りないと、森沢教授が感じているのは……。
「このままでは時間が……いや、まだだ。まだ諦めるには……何もかも早過ぎる……人としての道徳を捨ててまで、この研究を完成させる事を誓ったのだ……完成させなくては、知を求める者として、それが私に残された唯一の誇るべきことなのだから」
そう自分に言い聞かせながら、作業を続ける森沢教授の口の端からは、細い線を描く様に、赤い血が伝い落ちていた。
俺は翠屋で一人、静かにコーヒーを飲んでいた。
最初に言っておくと、今日の俺は今では巷でも有名な子供店員としてではなく、待ち合わせをしている一人のお客さんとして来ている。
待っている相手は、ミルファとユーノだ。
本当ならば、あの夜の公園でホルダーと戦った後、ミルファのアパートに行き、話を聞く筈だったのだが、正気を取り戻したユーノが、予想以上に精神的ダメージを受けていた事もあり、話は日を改めるという手筈になって、待ち合わせ場所を、この翠屋にした訳である。
ちなみに当初の予定では、ユーノは俺の家に泊まる事になっていたのだけど、ミルファに断固として拒否された。
何か間違いでもあったら、お互いに後悔するわよと、愁いを帯びた瞳で俺とユーノを交互に見ながら、諭してくるのはどうかと思うが、確かにあの時のユーノを傍から見ていたとしたら、そんな危機感を持ってしまうのも無理はないかも知れない。
まあ、ホルダーの能力のせいで暴走していただけなのだし、心配のし過ぎだとは思うのだが、正気に戻ったユーノにはしっかりと暴走時の記憶もあったから、処置としては正しいのかも……。
そういう事もあり、ユーノはミルファのアパートに泊まっている。
態々待ち合わせ場所を翠屋にしなくても、俺がミルファのアパートに訪ねれば済む話なのだが、ユーノと俺が二人きりになる状況が発生する可能性はなるべく少ない方が良いだろうという意見がミルファからあり、人が多く、融通の利くこの場所となった。
コーヒーを飲み始めてから、数分が経った頃。
店のドアが開き、俺の待ち人達が顔を見せる。
「こっちだ二人共!」
俺は店に入って来たユーノとミルファに、自分の居場所を伝える為に声を掛ける。
「あ、待たせたわね純!」
「……」
俺の声にミルファが反応して、無言で俯くユーノを後ろに引き連れてやって来る。
「えっと……何でユーノは、そんな恰好をしてるんだ?」
二人が席に座るのを待ってから、俺はまず一番気になっている事を聞いてみた。
先日も、ユーノはアリシアちゃんの女子制服を着ていたが、今日の格好は若葉色のワンピース。
そして前髪には、ワンピースに合わせた小さなアクセントに、四葉のクローバーのヘアピンと、今のユーノは
、昨日以上に、ちょっと気合の入ったオシャレをした女の子にしか見えない。
「本当は、ユーノに男の子用の服を着させてあげたかったんだけどね。Cランクの新人の安月給じゃちょっと無理だったのよ……ただでさえ給料日前で金欠だしさ……特別任務の危険手当も、支払われるのは任務完了した後だし……公的機関なのにちょっとブラック過ぎじゃないかしら管理局って……」
「……その、それでミルファの持ってる服を借りたんだ。僕、この世界の紙幣は持ってきてなかったから」
俺に説明していく内に、説明というよりも、勤め先に対する愚痴へと変わったいったミルファに代わり、ユーノが説明を続けてくれた。
そのおかげで、ユーノが昨日に続き女装をしている理由が分かったのだが、それ以上にユーノの心の傷が広がっていないか心配になってくる。
「あの……大丈夫かユーノ? その、色々とさ」
「……うん、昨日はごめんね。僕は大丈夫だよ、何だかこういう格好も馴れてきちゃったし」
ユーノは俺を心配させない為なのか、笑顔で俺の手にそっと触れながら言う。
最後は冗談まで口にしているのだから、まだ憤りはあるのかも知れないが、俺が思っているよりは傷は浅いのかも知れない。
もしも最後のが冗談では無く、本気だったのだとしたら、きっと俺達は燐子さん達の創作意欲の犠牲となり、俺とユーノがモデルとなったキャラクターが、世界に広がる事となってしまうのは避けられないだろうな。
『それでは、そろそろ本題に入るとしようか。異世界に居るユーノがこの世界に来たという事は、それなりの理由があるのだろう?』
何時から居たのか、俺の足下から現れたメカ犬が、どういう訳か、勝手に話の進行をする。
図々しいとは思うが、結果としてミルファも職場環境を不満によって暗黒面落ちていた状態から戻って来たし、話も進むので、結果的に良かったと言えるかも知れない。
「うん。実はあの迷宮を僕なりに調べ続けていたんだけど、その過程で新しい事実が分かったんだ」
「新しい事実?」
「試練の光の事なんだけどね。その前に確認したい事があるんだ。あの迷宮に潜った時に、番人から貰った石って、確か今はタッチノートと融合した状態になってるんだよね」
「ああ……そうだけど」
俺はズボンのポケットに忍ばせた、タッチノートを取り出して、その時の事を思い出す。
ホルダーとの戦いに敗れた俺は、不思議な夢を見た。
そして実際に不思議な事が起こり番人から貰った石がタッチノートと融合して、マスターフォルムという新しい力を引き出したのだが、このマスターフォルムは、本来ならば設計されていないと、メカ犬が言っていた。
きっと、あの石が原因だとは思うのだけれど、どうしてこんな現象を引き起こしたのかは、今も分かっていない。
「そのタッチノートを、少し見せてほしいんだ」
「あ、ああ」
俺はユーノに持っていた、タッチノートを手渡す。
「……やっぱりね」
暫くタッチノートを見た後、ユーノは呟く。
「何か分かるのか?」
「うん、この機械から魔力を感じるんだ。しかも特殊な術式が組まれてるみたい」
ユーノの口から、予想外の単語が飛び出した事に、俺はこのタッチノートをこの場では誰よりも熟知しているであろうメカ犬に視線を向ける。
「タッチノートって魔力で動いてるんだっけか?」
『いや、ワタシの知る限りタッチノートは、搭載された超小型の発電装置を動力源にしている筈だ。それに、魔力を生成する様な機構は存在していない筈だが……』
メカ犬がそう言うという事は、タッチノートにそんな機能は備わっていないのだろう。
だとしたら、考えられる可能性は一つ。
あの門番から貰った石が、ユーノが言う魔力の元となっていると考えられる。
「きっと、この術式が作動する事で、純達が言うマスターフォルムって姿になれるんだと思うよ。それとここからが本題なんだけど、迷宮の碑文の一部を解読した結果、試練の光の正式な所有者として認められる為の一連の儀式があって、純が手に入れた石は、その候補者としての証の一つだそうなんだ」
「ユーノが解読した碑文に書かれた事が真実だとしたら、俺は試練の光の所有者候補って事か?」
「それなんだけど、この候補者は純の他にも、最低で後一人は居るらしいんだよ」
ユーノは俺にタッチノートを返しながら、一旦間を置く。
「どういう事なんだ?」
「候補者の選定は二つあるんだ。一つは試練の神殿、つまりあの迷宮の門番に力を認められる事なんだけど、もう一つは、もう純達も直接見ている筈だよ」
俺はユーノが、何を言おうとしているのか、今までの戦いを振り返って、何となく理解する。
「確かホルダーが試練の光を浴びて、パワーアップするのは、試練の光自身が自分の意思で、所有者を選定してるって事だったか?」
この情報は、ミルファから聞いた事だった筈だと、ユーノの隣に座るミルファに視線を向けると、俺の向ける視線に気づいたミルファが、無言で頷く。
「そう、試練の光の後継者を選定する一部の情報は、以前から管理局でも知られていた訳だけど、碑文に書かれていたのは、そこから先の話なんだ」
『先程言っていた、マスターの他にも試練の光の所有者候補が居るという事に関してか?』
メカ犬の投げ掛けた質問に、ユーノは頷き肯定の返事とした。
「門番の試練に続く道が開かれるのは、既に候補者が一人以上存在する時なんだ」
「つまり、俺達が迷宮に潜った時にはもう、最低でも一人は候補者に選ばれた人物が居たって事か?」
「そうだよ。でも、大切なのはここからなんだ。門番に力を認められて候補者に選ばれるのは、この一連のシステムの救済処置みたいなものみたいでね」
「救済処置?」
唐突に出て来た単語に、俺は思わずオウム返しで声に出してしまう。
「元から管理局で、危険な物として管理されてきたけど、ユーノの話を聞いていて、改めて危険な力を秘めているって感じたわ。そして、そう感じたのは試練の光を作った先人達も同じだったんでしょうね」
俺の疑問に答えてくれたのは、ミルファだった。
ミルファの話によると、試練の光の選定システムでは、邪な心を持った者までが、所有者に選定されてしまう可能性も高いそうだ。
試練の光をそんな心の持ち主が扱えば、災害級の事態となってしまう。
それを回避する為、試練の光そのものをあの迷宮に封印すると同時に、万が一に備えてもう一つの処置が施された。
それがあの門番と、俺の貰った石。
「……つまり、純がそのもう一人の候補者を負かせば、試練の光の所有する、唯一の候補になれる訳なんだけど、本当の所有者になるには、もう一つクリアしなくちゃいけない事があるんだ」
大体の説明を終えてから、ユーノは最後にもう一つだけ碑文から得た情報を、俺に伝えてきた。
『急ぐぞマスター!』
「ああ! ヤスも遅れるなよ!」
「はいっす!」
メカ犬に急かされて、俺はヤスを引き連れて、目的の場所へと走る。
翠屋でユーノ達から試練の光についての新たな情報を聞いてから、数時間が経った頃。
タッチノートから、ホルダーの出現を伝える警告音を聞き、俺はヤスを連れて、メカ犬と共にタッチノートが反応を示す場所を目指して走っていた。
話が終わった後、ユーノとミルファは、まだ解読の終わっていない碑文があるという事で、すぐに異世界へととんぼ帰りしてしまい、俺はメカ犬と翠屋に残って、これからについて考えを纏めていたのだが、そんな折でのいホルダー反応。
という訳で、バイト中だったヤスを拉致して、現在に至る……。
昨日は当日に、二回もホルダーと戦い、今も日を置かず連日でホルダー反応を感知。
これは、きっと偶然では無いだろう。
おそらく裏では、森沢教授がホルダーの糸を引いている筈だ。
試練の光についても気にはなるところだが、森沢教授の企みも放置しておく訳にはいかない。
『見えてきたぞ!』
メカ犬の声に反応して、前を見ると街の中心で大立ち回りを繰り広げる、一体の異形の存在と、知っている姿が一つ。
知っている方は、メタルイエローのボディーと、青い二つの複眼が印象的な、この海鳴市をホルダーの脅威から守り続ける仮面ライダーの一人、E2だ。
そしてもう一体の異形の方は、赤茶けた武士の様な鎧姿の上に、般若の様な人々を恐怖させる顔。
この異形が、今回のホルダーだと見て、まず間違い無いだろう。
更に、日本刀を片手にE2に斬り掛かるそのホルダーの姿は、本当に歴史の教科書に出てくる武士の様だ。
腰にもその日本刀を仕舞うであろう鞘を差しているところを見ても、益々このホルダーが武士に思えてしまう。
「行くぞヤス!」
「はい!」
俺の合図に、ヤスが手に持っていたベルトを腹部に巻き付けるのを見て、俺もタッチノートを操作する。
『バックルモード』
すぐ傍に居たメカ犬がベルトに変形して、俺の腹部に巻き付き、俺はタッチノートを、ヤスは緑のカードケースを正面に構えて、同時に口を開く。
「「変身!」」
タッチノートと、カードケースを其々のベルトに嵌め込む。
『アップロード』
『アクセスリンク』
二つのベルトから音声が響き、シードとプロトアクセスに変身した俺達は、急いで戦いの場へと駆け出す。
「長谷川さん!」
俺の声に反応したE2は、専用銃であるESM01をホルダー狙い撃ち牽制しつつ、俺とアクセスの居る方向へと、後退して合流する。
「板橋君! それと……ヤス君も」
E2も鳥羽さんについて思うところがあるのだろう。
プロトアクセスの姿を見て、少しだけ言葉が詰まる。
だけど、今はその事を話し合う時じゃない。
「加勢しますよ長谷川さん!」
「助かるよ。それと戦っていて感じたんだけど、どうもあのホルダーに小手先の攻撃は効きそうに無いから気をつけて」
E2の助言を聞き、俺は改めてホルダーを観察する。
先程のE2の牽制射撃があった事で、無理に突っ込んで来る様な事はせず、様子を窺っているみたいだが、その牽制で放たれた弾丸の幾つかは命中した筈だ。
だというのに、たいしたダメージは見受けられず、微動だにする事なく、日本刀を構えるホルダー。
「あの頑丈そうな鎧が、並みの攻撃を弾き飛ばしてるってとこですかね?」
俺の隣で、同じくホルダーの動向を見ていたプロトアクセスが、意見を口にする。
どうやら、その見立てて間違いは無いだろう。
E2の牽制射撃に警戒しているところから、その防御力も絶対という訳では無いのだろうが、高い防御力を誇るのは間違いない。
更に加えて、問題なのはあの日本刀だ。
数多くある剣の種類の中でも、日本刀の切れ味は、まさに一撃必殺と言える。
迂闊に数にものを言わせて接近戦を仕掛ければ、手痛い反撃を受けるだろう。
それならここは……。
「俺が接近戦を仕掛けるんで、長谷川さんは後ろから援護をお願いします。ヤスは長谷川さんが狙われない様にサポートを頼む」
「了解です純の旦那」
「充分に注意するんだよ板橋君」
俺の提案に二人共、頷いてくれる。
咄嗟に考えた配置ではあったけど、この陣形は今の俺達としては理に適っていると言えると思う。
元からE2とは、俺が前衛を担い、射撃装備のE2が後方から支援するという戦法を使うのはセオリーだ。
そう考えると、主な装備を持たず徒手空拳で戦うプロトアクセスも前衛に加えても良かったのかも知れないが、プロトアクセスの装着者であるヤスの実戦経験を考えると、日本刀を持った相手と既に相対するには、ちょっと不安が残る。
それならば、サポートに徹してもらい、フォルムチェンジで武器を使える俺が前に出た方が、得策と言えるだろう。
『あの守りを突破するにはパワーとスピードだな』
「ああ」
俺はメカ犬のアドバイスに頷きつつ、ベルトの右側をスライドさせて、赤いボタンを押す。
『パワーフォルム』
ベルトから音声が響き、メタルブラックのボディーが、鮮やかなクリムゾンレッドに染め上がる。
力に重点を置いたパワーフォルムではあるけれど、これだけじゃまだ足りない。
更に俺はベルトからタッチノートを引き抜き操作を続ける。
『コール・ライガー』
タッチノートから音声が鳴ってから少しの間を置き、小さな手乗りサイズな緑の影が、俺の肩の上に何の前振りも無く着地した。
『呼んだジャン、マスター』
「ああ、力を貸してくれメカ虎」
『オレッチに任せとくジャン!』
俺の頼みに、肩に乗っていたメカ虎は、気持ち良く返事を返したので、俺は続けてタッチノートの操作を続けていく。
『スタンディングモード』
手乗りフルメタルなアニマルから、アタッチメントパーツに変形したメカ虎を手にした俺は、タッチノートを再び元の状態に戻しつつ、ベルトの左側をスライドさせて、アタッチメントパーツとなったメカ虎を差し込む。
『パワー・ライガー』
音声が響き、クリムゾンレッドのボディーの上に、メタルグリーンの追加パーツが、次々と装着されていく。
「それじゃあ、作戦通りって事で!」
力と速さを兼ね備える、パワー・ライガーモードとなった俺は、二人の返事を待つ事無く、一言だけ告げてから勢い良く大地を蹴り、ホルダーに向かって駆け出す。
接近する俺に対して、ホルダーは慌てた様子も見せず、日本刀を鞘に収めて腰に構えた。
それは、今も日本で一つの競技として残る、日本刀だからこそ出来る独特の技、居合いの構えに他ならない。
このまま突っ込めば、俺の胴体が上半身と下半身にお別れしてしまう可能性もあるが、止まるなんて選択を選ぶつもりは無いので、構わず走る速度を上げる。
ホルダーの日本刀の射程圏内と思われる場所に辿り着く前に、俺は走りながらアタッチメントパーツのレバー下のボタンを押した。
『ライガーファング』
ベルトから発生した光が両手両足に絡まり、虎の顔を模した形のプロテクターになり、それぞれのプロテクターからは、鋭い三本の刃が伸びる。
俺がライガーファングを装備すると、ほぼ同時に、ホルダーの日本刀を握る手が僅かに動く。
タイミングを合わせるのは、ほんの一瞬だ。
その機会を逃せば、この作戦を成立しない。
だからこそ、俺はホルダーの意識を、正面から向かってくる自分へと集中させる。
そして鞘から日本刀が素早く抜かれる瞬間に、俺は足を止める事無く力の限り叫ぶ。
ちなみに、今回のお話でもユーノが女装をしておりましたが、本来の予定では、この時点では普通の男の子服を着せてあげる予定でした。
……しかし、前回の話を読んだ友人が、やけに気に入ってしまい、結果的に私の力不足で、今回もユーノキュンは、今度はリアル世界のアレな感じの人の犠牲となってしまいました。
そして、こんな裏事情を後書きで書いた理由なのですが、更に友人は、私のもとにある物語のプロットを書いて持ってきたのです。
そのプロットの内容は、純×ユーノの短編エロな内容でした……。
催促されるままに、書いてしまった普段は私が全く書く事の無いジャンルであろう、18禁の男の娘ショタ系ボーイズラブなエロ物ですが……読んでみたいという方、居ますかね?