魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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戦記編も無事に終わり、ちょっとオマケ感覚となりましたアフターも書いたので、久々の本編スタートとなります。
一話分の文章量も増えて、リアルの事情もあって更新速度は以前よりも落ちると思いますが、これからも楽しんでいただけたら嬉しい限りです。


第49話 正義の味方? を捕まえろ! 【前編】

「呼び出してしまって、済まないね」

 

「いや、俺も聞きたい事があったからな、別に構わないさ」

 

海鳴大学の一室で、互いに言葉を交わす二人。

 

一人は、この海鳴大学で教授をしており、今居るこの部屋も、この人物宛がわれた私室である。

 

対してもう一人は、勝気な一人の青年だが、別にこの大学の教員でも無ければ、生徒でも無いし、相対している教授の元生徒という訳でも無い。

 

だが、この二人には、明確な関係が存在していた。

 

雇う側と、雇われる側という、ビジネスな間柄。

 

それがこの二人、森沢教授と、鳥羽 直樹の関係である。

 

以前ここでホルダーが暴れたせいもあり、修復までは、別の部屋を使っていた森沢教授であったが、既に修復作業は終わり、また前の部屋に戻って来たのは、ごく最近の話である。

 

壁に至っては、ほぼ全壊と言っても良い状況だったので、一部は新築さながらに綺麗ではあるが、やはり棚の中に多くの古書等が並んでいたり、机類等も、以前から使っていた物を使用しているので、何処か懐かしさを感じる雰囲気が滲み出る部屋だと、認識してしまう。

 

「ふふ。それじゃあ、まずは私の用件から話すとしようか」

 

「ああ、俺はそれで構わないぜ」

 

鳥羽が了承するのを確認した森沢教授は、頷きつつ、再び口を開く。

 

「君に預けていた試作品のベルトから、かなりの戦闘データが取れたおかげで、もうすぐ完成型のベルトが出来上がりそうなのだよ。だから鳥羽君には、新たなベルトが完成したら、引き続き使ってもらいたい」

 

「そうしたら、今使ってるベルトはどうする?」

 

「本来なら返却……というのが妥当なのだろうが、試作段階のベルトとはいえ、そのベルトはとても安定しているからね。新しいベルトに不備があった時を考えて、予備としてこのまま鳥羽君に預けておくとしようか」

 

「……了解。で、森沢さんの話ってのはそれだけか?」

 

「実はもう一つあるんだがね。その話は長くなるかも知れないから、先に鳥羽君の話を聞かせてくれ」

 

森沢の返しに、鳥羽は数瞬だが、考えを巡らすが、一度だけ大きく息を吐いてから、行動へと移す。

 

まず鳥羽は、幾つかの書類をテーブルの上に置いた。

 

更にその横には、何枚もの写真。

 

「これを見て、どう思います?」

 

「……どうとは?」

 

鳥羽の問いに、森沢は平然とした態度で答えるが、その返事をする間に、彼の頬が不自然に引き攣るのを、鳥羽は見逃さなかった。

 

「知らない筈は無いよな? 森沢さん。なんせこのここに書かれている事は、全部あんたが仕組んだ事なんだろうからさ」

 

「……何時から気付いていたのかね?」

 

「ここで試作のベルトを受け取って、暫く戦い続けてから、ずっとおかしいとは感じてはいたさ。けど、決定的だったのは、ドラマの撮影の時に戦ったホルダー……あれは流石に露骨過ぎた」

 

「ふむ……君は言い方は悪いが、こういった話題に関しては、あまり興味が無いと思ったんだがね。それで、鳥羽君はこれからどうする気だい?」

 

森沢教授は、明言した訳では無いが、その言葉の節々から、鳥羽の言わんとしている事に対して肯定している態度を取り続ける。

 

一方で、鳥羽も物的な証拠として、目の前に提示しているものはあれど、やはり言葉は濁す。

 

それは互いに、この話題が他人に聞かれては不味い事となるのを、充分なまでに理解しているからであった。

 

「別に、どうこうする気はないぜ。ただちょっと、事実確認をしたかったってだけだしな」

 

「……つまり、このまま契約は続けていくと?」

 

「まあ、森沢さんが何をしようと、俺に迷惑が掛からない分には、構わないって事さ。それに俺は仕事はきっちりとする性分だからな」

 

鳥羽は、最後に、俺の話はそれだけだと、両手を軽く上げた。

 

「それで、森沢さんの話ってのは?」

 

「……いや、この話は新しいベルトを君に渡す時に、改めて話す事としよう」

 

「そうか、それじゃあ、俺はもう行くぜ」

 

踵を返し、鳥羽は手を振りながら、森沢教授にそう言うと、足早に部屋から退室していった。

 

既に話す相手が居なくなった部屋で、森沢教授は、鳥羽の出て行ったドアに視線を送りつつ、口の両端を吊り上げる。

 

「鳥羽 直樹。食えない男だが、優秀ではあるか。まだ、利用価値はある。だがもしも君が邪魔になる様な時は……」

 

そう言った森沢教授の表情は学内でする、普段の人の良い笑顔に変わりは無いが、その瞳の奥には、確かに獲物を狙う猛禽類の様な鋭さがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディアスとの戦いも終わり、ついでにドラマの収録も終わって、俺は普段の日常というものを、取り戻しつつあった。

 

まあ、それでも小学二年生が、喫茶店でアルバイトをしているという現状が、日本での普通なのかと問われれば、如何ともし難いところではあるのだが、もう長いこと、翠屋でのアルバイトを続けているので、今更だという感じもある。

 

「……だから、これも今更だって言えるんだよな」

 

俺は溜息交じりにそう言ってから、カウンター席のテーブルを拭きつつ、隣に目線を泳がす。

 

其処には、普段から良く顔を合わせる一人の女性の姿が在った。

 

その人は、以前から頻繁に厄介な事を俺にさせる事に定評があり、つい最近も俳優でも無い俺にドラマの主演をさせるという無茶振りをして来た元凶なお人……恵理さんに他ならない。

 

「ちょっと純君に、頼みたい事があるんだよね」

 

「……」

 

俺は黙々と、テーブルを拭き続ける。

 

もう、毎回の事ではあるが、恵理さんのちょっとした頼み事が、本当にちょっとした事だったのなんて、稀なのものだ。

 

まず間違い無く、碌な事にならない。

 

「実は、最近この辺りで、妙な事件が起きてるらしいのよね」

 

「……」

 

聞こえない! 俺は何も聞いていない!

 

「ところでこの前、友達が旅行のお土産に、珍しい立体パズルをくれたんだけどね。私ってそういうのが苦手だから、誰か代わりに作ってくれないかなって……」

 

「俺に、何でも相談してください!」

 

「あら、助かるわ」

 

気付けば俺は、頭で考えるよりも先に、口を動かしていた。

 

恵理さんの頼み事は厄介ではあるが、パズルに罪は無い。

 

だからこれは、仕方が無かった……うん、そう思っていないと、正直なところ、やっていられないと思う。

 

「それで、変な事件って何なんですか?」

 

幸いにも、今はお客さんは恵理さんの他に、田中さんを始めとした常連さんが数人しか居ないので、俺はカウンター席に座って、恵理さんの話を聞く事にした。

 

最早、士郎さんやヤスを筆頭とした従業員の皆さん、更に常連のお客さん達は恵理さんが訪ねて来た時点で、一時的に、仕事から外れるのは周知の事実なので、特に気にした様子も見せはしない。

 

ここから、一緒に鳥羽さんでも介入する事があれば、そのまま連れ去られるという事態すらも、想定の範囲内である。

 

「純君ってば、さっきまで無視までしおいて、切り替えが早くない?」

 

「もう……色んな意味で、恵理さんについては諦めてますからね」

 

「何だか凄い引っかかる言い方だけど、まあ良いわ。ここ三日前から、怪物に人が攫われているらしいのよ」

 

「普通に事件じゃないですか!?」

 

何でも無い様に言った恵理さんに対して、俺の方が思わず声を上げてしまっていた。

 

普通に考えれば、怪物に襲われたなどというのは、眉唾物の都市伝説くらいにしか扱われない話題で終わる事だろう。

 

だが、この海鳴市では、何度もホルダー関連の事件が起こっている。

 

ある程度の情報管制を警察がしているとはいえ、それでもこの街に怪物が出現するというのは周知の事実であり、それとなく注意を呼びかける事すらしないというのは、どういう事だろうか?

 

少なくとも、これまで俺はそういった注意等を聞いた事は無いし、様々な世間話が自然と聞こえて来る、翠屋でも、お客さんの誰一人として、話題に挙げる様な事は無かった。

 

つまり警察には、この事件を表に出さない理由があるのか、あるいはその襲われているという人達に、何か共通項があり、それが原因となっているという事だろうか……。

 

「その襲われたっていう人達がね、全員揃って、指名手配犯なのよ。しかも襲われたと言っても、どの人も命に関わる様な怪我は無かったらしくて、警察署の前に簀巻きにされて放置されているんですって」

 

「……なんと言いますか、その怪物は良い人? なんですかね」

 

恵理さんの言葉に、俺は何とも言い辛い顔をしながら答えた。

 

確かに厄介な出来事ではあると思うが、今のところそれで迷惑しているのは、逃亡中の犯罪者だけで、むしろ街の平和を守っていると言っても良い。

 

確かにその実行犯が、怪物というのは気にはなるけれども……これはまた、普段とは別のベクトルで厄介な頼み事をしてきたものであると言えよう。

 

最近の恵理さんは、ドラマの件と言い、今回の件と言い、変化球な用件を持ってくる事が多過ぎる。

 

「もう、ここまで言えば、純君なら分かってくれるわよね」

 

「……つまり、その怪物の正体が何なのかを探れと?」

 

「流石は純君ね! 話が早くて助かるわ」

 

恵理さんのわざとらしい煽て方に、俺は再び溜息を吐く。

 

今は確かにホルダーかどうかは、定かじゃない。

 

もしかしたら、正体を隠し、悪を許さず影で戦う、凄腕の元傭兵なんて可能性も、あるかも知れん。

 

いや、自分で言っていて無いなと、一瞬だけ思いはしたが、改めて俺の周りの変人率を考えてみると、あながち有り得ない話では無いのではと本気で思えて来るのが、極めて厄介だと言える。

 

だが厄介だとは言え、この騒動を起こしているのがホルダーである可能性が捨て切れない以上は、調べるべきだろう。

 

今はまだ、これだけで済んでいるとしても、もしも本当にこの騒ぎを起こしているのがホルダーならば、何時か暴走プログラムによって理性が無くなり、凶行へと及ぶかも知れない。

 

まだ話し合いが出来る余地が、あるのならば、その間に接触を図るのが得策だと言えるだろう。

 

「さてと……それじゃあ、一緒に行きますか。恵理さん」

 

「え? 行くって何処に?」

 

従業員用のエプロンを外しながら、そう言った俺に対して恵理さんが首を傾げる。

 

この人は、きっと本気で分かっていないのだろう。

 

「何処って、一緒に情報収集に行くに決まってるでしょうが」

 

「えええ!? ここからは純君とメカ犬君で、捜査してくれるんじゃないの!?」

 

「今回は普段と比べて、危険は少なそうですしね。それに偶には自分で見聞きした方が、良い記事が書けると思いますよ」

 

「それはそうかも知れないけどって……って、ちょ、ちょっと、腕を引っ張らないで!? そもそも情報収集って何処に行く気なの!?」

 

俺は駄々を捏ねる恵理さんを引っ張りながら、後の事を丁度同じシフトで出ていたヤスに任せて、翠屋を出てから、恵理さんにこれからの行き先を教える事にした。

 

「餅は餅屋って言いますからね。ちょっと、警察に行って来ましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『思ったよりも早かったなマスター』

 

「いや、メカ犬がここに居るのは別に構わないんだけどな……」

 

恵理さんを引き摺って、辿り着いた海鳴警察署で、最初に俺達を迎えてくれたのはメカ犬だった。

 

別にメカ犬が、ここに居るのは不思議な事じゃない。

 

ここに来る前に、事前にタッチノートで連絡して、警察署で合流する手筈となっていたので、メカ犬が居るのは当然である。

 

だけど……。

 

「待ってましたよ、純さん!」

 

元気よく俺を呼んだ、メカ犬の隣に居た少女は自慢のポニーテールを、犬の尻尾の様に揺らしている。

 

「今日はお兄ちゃん、翠屋でアルバイトって言ってなかったっけ?」

 

更にその隣では、長い金髪を靡かせながら一人の少女が、指を顎に当てて、首を傾げていた。

 

「なあ、メカ犬」

 

『うむ、どうしたのだ? マスター』

 

「……どうして姫路ちゃんと、アリシアちゃんが、警察署の前に居るんだよ?」

 

普通に考えて、小学生が二人で警察に何かの用事があって来るなんて事は、早々無いだろう。

 

『実はマスターと連絡を取っていた時、ワタシは家に居たのだがな、その時に玄関でこの二人が言い争いをしていたのだ』

 

何だかメカ犬の口から、穏やかじゃない台詞が聞こえて来たんだけれど、俺の気のせいだろうか?

 

「じ、実は純さんを……その……で、で、で、デートにお誘いしようかと、お家にお邪魔したんですけど」

 

「お兄ちゃんは、忙しいからデートは無理だよって何度も言っているのに、帰ってくれないんだよ」

 

目を泳がせながら、姫路ちゃんが言っている傍で、アリシアちゃんが補足説明してくるのだが、何だこの空気は……。

 

まあ、仮面ライダーファンである姫路ちゃんが、俺を訪ねて来るのは、まだ理解出来る。

 

ちょっと背伸びして、デートなんて単語を使って恥ずかしがっているのも、可愛げがあって良いとは思うのだが、いつもと変わらぬ笑顔で説明してくれているアリシアちゃんの言葉の端々から若干の棘を感じるのは、俺の気のせいだろうか。

 

二人の視線が合うと、その度に、更に見えない筈の火花をも幻視している気すらしてくる。

 

『玄関を出る際に、何処に行くのかを聞かれてな。正直に答えたら、二人とも着いて来ると言うので、こうして一緒に来たのだ』

 

「ああ……そういう事か」

 

「記事のネタには使えなさそうだけど、個人的には気になるわね」

 

何時の間に俺の腕を振り解いたのか、恵理さんが俺とアリシアちゃん達を交互に見つつ、怪しげな笑みを浮かべる。

 

正直に言ってその態度は気になるが、藪を突いて蛇どころか、ミラーワールドの契約モンスターみたいのが出て来たら、怖過ぎるので、俺はメカ犬を連れると同時に、恵理さんの腕を再び引っ掴んで、警察署内へと足を進めた。

 

「ちょっと!? 引っ張らなくても着いてくから……痛い! 痛いってば!? 今日の純君ってば、私に厳し過ぎないかな!?」

 

恵理さんが何か言っている気はするが、完全スルーを決め込んだ俺は、そのまま更に警察署内の奥へと突き進む。

 

普通であればこんな小学生の子供が、署内を歩いていたら、誰かに呼び止められるものだが、ここの所長さんとは、個人的に知り合いという事もあるし、俺は過去に何度も捜査協力という形で出入りしているからか、警察の人達も、一瞬だけ俺を見て驚くが、すぐに素の顔に戻って、自分の作業に戻っていく。

 

慣れって、ある意味で本当に怖いと、俺は改めて痛感した。

 

そんな事を思いながら、俺達はやっと目的の場所へと到着する。

 

ドアの上のプレートには、ホルダー対策特務課の文字。

 

この部屋を前にして、更に思うのだが、俺みたいな何処にでもいる様な見た目の小学生男子が頻繁に来る以前に、ここには強い特権を持った白衣を羽織ったセーラー服少女が常駐しているのだから、今更なのかも知れない。

 

「失礼します」

 

俺はドアを数回程、軽く叩き、先程から心の中で想像した白衣セーラー服少女の、入って良いわよという返事を待ってから、ドアを開けた。

 

「いらっしゃい。何か用かしらって……お姉ちゃん、何をしてるの?」

 

「あはは。ちょっとした、お仕事でね……」

 

先程の声の主であり、この特務課の最高責任者でもある恵美さんは、俺が引き摺って連れて来た自分の姉である恵理さんを見て、疑問を口にした。

 

それに対して、恵理さんも姉としての意地なのか、乾いた笑顔で対応している。

 

「あれ? 板橋も来てたのか」

 

姉妹の挨拶もそこそこに、何か情報が無いか聞こうとした矢先に、意外な人物が俺に話し掛けて来た。

 

「鳥羽さん!? 何で鳥羽さんがこんなところに?」

 

「実は今回、彼にも捜査を協力して貰おうと思って、僕が来てくれる様に頼んだんだよ」

 

「そう言うこった」

 

俺の疑問の声に答えてくれたのは、この課のもう一人の構成員である長谷川さんだった。

 

「今回のって事は……例の犯罪者を襲っている怪物についてですか?」

 

「うん。そうだけど、まだ警察では情報規制をしてる筈なのに、良く知っていたね」

 

長谷川さんの反応を見る限り、既に警察がこの件に関して独自に動いている事は分かったが、こうして鳥羽さんまでこの場に居るって事は、未だに解決していないという事なのだろう。

 

「まあ、職業柄で色々とこういった情報に詳しい人が居ますんで……」

 

俺は長谷川さんに苦笑いを浮かべながら、この情報を俺に持って来た張本人でもある、少し前まで腕を掴んで引き摺り回していた恵理さんを横目で見る。

 

「それなら話が早いんですけど、俺が聞いた話だと、指名手配犯が怪物に襲われてるって話は本当なんですか?」

 

「うん。それは本当だよ。直接被害にあった犯罪者は確かに全員がこの署の前に縛られた状態で置かれている。防犯カメラにも、一瞬だけ影の様な物が映っているんだけど、そんな速度で動けるなんて、人間業じゃないからね。これがその時の映像データだよ」

 

そう言って、長谷川さんが近くのパソコンを操作すると、画像が再生されて、海鳴警察署の玄関前が映し出された。

 

確かに、長谷川さんの説明通り、何か黒い影の様なものが通り過ぎた直後に、縛られた犯罪者が、直前までなにも無かった筈の場所に転がっているという、画像に何かしらの加工でもしなければ、有り得ない現象が映り込んでいた。

 

「この影の正体って、もう分かったんですか?」

 

「画像の解析は進めているんだけどね……」

 

「つまりまだ、解析は出来て無いと?」

 

長谷川さんは、力無く俺の台詞を肯定する様に頷く。

 

まあ、画像が解析出来たとしても、あの速さでは、物理的に止めるのは難しいだろう。

 

仮に、この警察署の玄関前に張り込んで、また犯罪者が置かれるのを待ってみたとしても、物理的に足止めするのは容易じゃ無い。

 

もしも接触を図るのであれば、野放しにされた指名手配犯を餌にするのが一番なのだろうが、指名手配犯の居場所が簡単に割り出せるならば、それこそ苦労は無いだろう。

 

「そう言えば、君が言ってた情報は間違ってはいないけど、ちょっと正確じゃないわね」

 

「え?」

 

長谷川さんに見せてもらった画像の前で、考え込んでいると、先程まで姉妹の会話に花を咲かせていた恵美さんが、俺に声を掛けてきた。

 

「昨日も犯罪者の三人組が、簀巻きにされて、ここの玄関前に置かれていたんだけどね、その三人は未成年の時に、軽い前科はあったけれど、指名手配にされる様な事はしていなかったわ。ただ近隣の住人の証言で、三人の覆面をした男達が、銀行強盗に入ったらしいんだけど、脅されたほぼ直後に、忽然と消えてしまったらしいの。今は入院しているその三人組の内の一人が、今朝方に意識を取り戻して、その証言から、銀行を襲った犯人と同一人物だと分かった……」

 

『なるほどな』

 

恵美さんの説明を受けて、メカ犬が納得したとばかりに、首を縦に動かす。

 

俺も、恵美さんが何を言いたいのか、大体は理解した。

 

つまり、怪物は指名手配に限らず、現行犯の犯罪者が居ても、同じように行動を起こすという事だ。

 

小さな違いかも知れないが、指名手配犯を用意する必要が無いのであれば、まだ違う手段を講じる余地はある。

 

「そこで私の出番よ! このライダードラマの監督を見事にやり遂げた私に掛かれば、一人の観客の興味をくすぐる演出だって、簡単なんだから!」

 

俺の思考を遮る様にして、今度は恵理さんが声を高々に宣言する。

 

「置いてくなんて酷いですよ! 純さん!」

 

「そうだよ! そうだよ!」

 

更に其処へ海鳴警察署の前に放置して来た、姫路ちゃんと、アリシアちゃんが、勢い良くドアを開けて部屋の中へと、乱入してくる。

 

「ふふふ、これで役者は揃ったわね!」

 

そんな二人に監督モードとなった恵理さんが、獲物を狙う狩人が如き、鋭い視線を、乱入するなり、文句を言ってきた二人に向けつつ、玄関先で見た時とは別種の怪しい笑い声を上げる。

 

「え? 何がどうなってるの?」

 

「な、なんか監督さんが怖いんですけど……」

 

完全に恵理さんのターゲットとしてロックオンされた二人が、引き気味なのは仕方が無い。

 

もしかしたら、今回に限って、恵理さんを引き摺ってまで連れて来たのは、失敗だったのかも知れないなと、俺は内心で後悔し始めていた。

 




ちなみに、活動報告に書いたイベント告知なのですが、本日の夜をもって締切となります。
現時点では、まだ応募者の方がゼロとなっておりますので、時間までに誰からも要望が無かった場合は、そのままイベント自体を打ち切りとさせて頂こうと思っておりますので、御了承くださいませ。
それでは。

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