魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第十話 俺が執事で怪盗を追う!ちなみに主は・・・【前編】

窓の外から、朝の爽やかな陽射が降り注ぐ。

 

俺はその光を浴びて、今日の始まりを感じながら、長い廊下を歩く。

 

良く掃除が行き届いているのであろう、塵一つ見当たらないその清潔な廊下を暫く歩き、辿り着いたのは、とある部屋の前である。

 

俺はその部屋のドアを数度ノックする。

 

これが今日という長い一日で、俺が最初にする仕事になるのだ。

 

返事があれば俺が取り敢えずそれ以上する事は無いのだが、この部屋の主からの返事が無ければ、次の行動に移らなければならない。

 

・・・・・

 

如何やら結果は後者の様である。

 

「しょうがないな・・・」

 

俺はそう呟き、返事が返ってこないと分かっていながらも、失礼しますと言って、部屋へと入室する。

 

部屋には別に鍵が掛かってるという訳でも無く、すんなりと入る事が出来た。

 

ノックをしたのは、プライベートを尊重したマナー的なものである。

 

俺が入った部屋は一般家庭と比べれば、かなりの広さを誇っている。

 

部屋の主の趣味が反映されているのであろう。

 

室内には大量の犬グッズが見受けられる。

 

「・・・くぅ・・・くぅ・・・」

 

その部屋の主は幸せそうな表情で、全長一メートルはあろうかと思われる、白と黒の斑点カラーな犬のヌイグルミを抱いてベッドの上で眠っていた。

 

その顔を見ていると、起こすのが忍びなく思えるが、これも俺の仕事なのでそうも言っていられない。

 

俺はこの部屋の光を遮っていたカーテンを勢い良く横に引っ張る。

 

そうする事で、今までこの部屋の光の進入を防いでいたカーテンは、その役目を終えて朝日が部屋の全体に満ちていく。

 

それはベッドの上も例外では無く、この部屋の主の顔にも光は降り注がれる。

 

「・・・う、う~ん」

 

目を閉じていても顔に当てられる光に眩しさを覚えたのだろうか、部屋の主は不快に感じた様で、怪訝そうに声をあげた。

 

俺は起こすなら今だなと、これを好機と見て、声を掛ける。

 

「もう朝ですよ。早く起きてください」

 

部屋の主は俺の声の反応したのか、ゆっくりと瞼を上げた。

 

「・・・もう朝?」

 

まだ寝ぼけているのか、俺にそんな質問を投げかけてくる。

 

「はい。そうですよ」

 

だから早く起きてくださいね、と俺は部屋の主を急かす。

 

「分かったわよ・・・」

 

そう言って部屋の主は、ベッドから上半身を起こして、欠伸をしながら伸びをしてから、

 

「おはよう純」

 

と言って俺に朝の挨拶をした。

 

「はい。おはようございます。アリサお嬢様」

 

俺はこの部屋の主である、アリサちゃんのその言葉に、爽やかな笑顔で返事を返す。

 

執事服を着た状態で・・・

 

へタレ転生者、板橋純。

 

バニングス邸にて、見習い執事生活を始めて三日目の朝の出来事だった。

 

何故俺がアリサちゃんの家で執事見習いをしているのかというと、鮫島さんのしつこ過ぎる熱意についに折れたという訳では無く、ちゃんとした理由があるのだ。

 

それは今を遡る事、三日前の出来事なのだが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【三日前】

 

 

 

『最近謎の怪盗が海鳴市に出没するそうなのだマスター』

 

メカ犬が唐突に俺に告げた。

 

自室でカップのバニラアイスを食べながら寛いでいた俺は、いきなり部屋に入ってきて、発言したこのフルメタルドッグを如何したものかという表情で見る。

 

夏休みが終わり、二週間を過ぎても、まだまだ残暑の厳しいこの時期。

 

その上夏休み明けから最近までは、海外からお姫様が留学生としてやってきたり、ホルダーの大群と大立ち回りを演じる等忙しい事この上なかった。

 

更にこれから小学校では運動会という大きなイベントが控えているのである。

 

おかげで俺は最近疲れ気味なのだが、メカ犬の言動からは更なる疲れを助長しそうな予感がビシビシと伝わってくるのだ。

 

久しぶりに少しだけ、ノンビリと過ごす事が出来る時間がやって来たので、寛いでいた訳なのだが、如何やら安息の時間は開始数分で終わりらしい。

 

「・・・それが如何したんだよ?」

 

無視する訳にも行かないので、俺はリラックスタイムを終了させて、嫌々ながらも話を進める事にした。

 

『マスターは海鳴市に出没する怪盗の話を知っているか?』

 

「ああ・・・まあ、最近有名だからな」

 

海鳴市の謎の怪盗。

 

それは以前から偶に話題に上がって来ていたのだが、今年の夏休みが終わった辺りから、急激に知名度の上がってきた話題である。

 

怪盗は女性であろうという事意外は、全て謎に包まれている謎だらけの存在だ。

 

そんな怪盗がどうして皆の注目を集めたのかというと、それなりの理由がある。

 

世間では裏で悪い事をする権力者等、何時の時代でも居るものなのだが、今回メカ犬が言っている怪盗は、そういった奴らの家に予告状を送り盗みを働くのだが、その際に権力者の裏の部分を明るみにして、世間に公表しているのだ。

 

そしてこれはあくまで噂なのだが、その盗んだ物は換金されて、世界中の恵まれない人々に匿名で寄付されているらしい。

 

最初に誰が言い出したのか、この女性怪盗を人は何時からか現代のネズミ小僧の再来と言い、レディーマウスと呼ぶ様になった。

 

ただしこれは、夏休みが終わる以前に流れていた噂である。

 

最近話題になっている噂では、今まで流れていたレディーマウスの話とは全く別の話なのである。

 

今流れている噂では、レディーマウスは兎に角海鳴市近辺のお金持ちの家に予告状を送りつけて、金目の物を強奪していくらしいのだ。

 

しかも今までは、その容姿も性別が女性であること意外は、表に流れて来なかったのだが、この新しい噂では一つの容姿が提示されている。

 

人外の異形。

 

もしくは怪物だ等と言われているのだ。

 

メカ犬も恐らくはその噂からこの事件はホルダーの仕業かも知れないと、あたりを着けたのかもしれない。

 

『最近の噂でワタシはこの怪盗が怪しいと思うのだが、マスターは如何思う?』

 

メカ犬の発言から、俺の予想は当たっていたらしい事が分かった。

 

「確かにここまで以前と違う内容の噂が流れるのは気になるけど・・・」

 

気にはなるが何処で待ち伏せすれば会えるのかも分からないし、どうやって探せば良いのか想像もつかない。

 

唯一の手段に出来そうなのは、予告状の送られた場所に犯行予告日に張り込む位だが、一般人である俺にそれを知る手段は無い。

 

こういう事は、雑誌記者の恵理さんに聞くのが一番手っ取り早いと思うのだが、それは残念ながら無理なのである。

 

恵理さんは現在タイミングが悪い事に、海外に取材に出ており、戻るのは来月になるそうなのである。

 

何でも海外の都心部で恐竜の様な何かが目撃されたとかで、緊急チームを組んだらしいのだが、海鳴ジャーナルは何処まで手広く取材する気なのだろうか?

 

『心配無いぞマスター』

 

俺が思案顔で考えていた為か、その表情から俺の考えを読んだのであろうメカ犬は、自信満々に俺に言う。

 

「如何いう事だよ?」

 

『実は犯行予告された場所に、心当たりがあるのだ』

 

質問した俺に対しメカ犬は、当たり前の様に答える。

 

それこそ如何いう事だって話だ。

 

「何でメカ犬がレディーマウスの犯行予告なんて知ってるんだよ?」

 

『ジャックからの情報だ』

 

ジャックとは、メカ犬と個人的にも仲が良いチワワの情報屋だ。

 

情報屋なので、ジャックがこの情報を知っていてもおかしくないと思えるのだが、その情報ソースも基本は動物からなので、目撃情報等は集まりやすいが、逆に人の中だけで完結する内容は集まり難いと思っていたのだが、意外な情報源があるのだろうか?

 

「良くジャックがそんな事知ってたな」

 

俺は素直な感想を口にする。

 

『うむ。何でも予告状の届いた家で飼われているコジローという者が、主人から相談されたのだと言っていたぞ』

 

「ああ・・・」

 

そういえば居るよな。

 

一人暮らしのOLさんとかが、飼い犬とかに人生相談するとか・・・

 

それも考慮するならば、案外動物発信の情報でも、意外な情報が入ってくるものなのかもしれない。

 

「取り敢えず居場所に見当がつくなら、動いても良いと思うけど、その犯行予告日って何日後なんだ?」

 

『今日の夕方五時だ』

 

「は!?」

 

俺はメカ犬の声を聴き、急ぎ部屋の壁に取り付けられている時計に視線を向ける。

 

現在の時刻   午後四時二十五分十八秒

 

「後三十分位しか無いんじゃないか!?」

 

俺は時計の時刻を確認して驚愕した。

 

『うむ。急がなければ間に合わないので行くぞマスター』

 

メカ犬はそう言うと部屋を足早に出て行く。

 

「ち、ちょっと待てって!」

 

俺も急ぎメカ犬を追って部屋を後にした。

 

家に帰ってから気付くのだが、食べかけの俺のバニラアイスは完全に溶けていた。

 

出かける前に冷凍庫に入れてくれば良かった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コジローってこいつがか?」

 

俺達はチェイサーさんに犯行予告のあったお屋敷にまで連れて来てもらった。

 

意外と自宅からも離れていなかったので、余裕で時間に間に合った俺達は、ジャックの情報源にもなったコジローに詳しい話を聞こうと思ったのだが・・・

 

「コジローってワニだったのかよ!?」

 

全長二メートルを超えそうな巨体のワニが、鋭い瞳で俺を見ている。

 

ここのお屋敷の主で、このワニのコジローの飼い主は齢七十を超えるお婆ちゃんなのだが、お婆ちゃんは異常な程にコジローを溺愛しており、メカ犬がコジローの友達だと言ったらすんなりとお屋敷に入れてくれたのだ。

 

そんなアッサリ入れてしまって大丈夫なのかと思ってしまうが、お婆ちゃんは嬉しそうに言う。

 

「コジローのお友達が訪ねて来るなんて初めてでね~。お散歩に行く時も皆コジローを避けるから、お友達が居たなんてあたしゃあ安心したよ」

 

突っ込み要素が多すぎて、何処から突っ込んで良いのか判断に困る。

 

それに下手に突っ込みを入れて、お婆ちゃんの機嫌を損ねて追い出されては、元も子もないので俺は全面スルーを決め込む事にした。

 

お屋敷の庭にある、コジロー専用の池に案内してくれたお婆ちゃんは、ゆっくりしていってねと言って、屋敷に戻っていった。

 

俺としてはお婆ちゃんから話を聞いた方が、内容的にも命の安全的にも良いと思うのだが、メカ犬は早速とばかりにコジローと話し始めるし、今からお婆ちゃんを追うのも躊躇われるので、なるべく大人しく事の成り行きを見守る事にした。

 

それにしてもメカ犬・・・

 

・・・お前はワニとまでもナチュラルトークが出来たんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は間も無く午後五時を迎えようとしている。

 

現在俺とメカ犬は、コジローの池がある近くの茂みになっている部分に身を潜めていた。

 

「しかし本当に来るのか?」

 

俺は茂みに身を潜めながら、同じく隣で身を潜めているメカ犬に質問する。

 

『コジローの言っている事が真実ならば間違い無いだろう』

 

メカ犬の通訳で聞いたコジロー話は、非常に驚くべき内容だった。

 

犯行予告で盗むと言われた物とは・・・

 

何とコジロー専用の歯磨きだったのである。

 

この歯磨き、勿論ただの歯磨きな訳が無い。

 

ボディーには高い純度の純金が使用されており、更にその中には一般人の結婚指輪よりも高価なダイヤモンドを始めとする様々な宝石が埋め込まれ、ブラシの部分には高級象牙が使われていたりする。

 

恐らくその総額は、サラリーマンである俺の父さんの年収所か、一生涯で稼いだ金額でも、精々二割に届くかどうかといった所であろう。

 

何でも飼い主のお婆ちゃんが、コジロー用にオーダーメイドしていた物が、後から追加で要望を継ぎ足しているうちに、この超高級ワニ用歯ブラシを誕生させてしまったのだそうだ。

 

金持ちの道楽なんて言葉があるが、これは既にその一線を越えてしまっている気がする。

 

さて、肝心のその高級歯ブラシなのだが、毎朝お婆ちゃんがコジローの歯を磨いた後は、池の横に設けられている歯ブラシ置き場(諮問照合の鍵付き)の中に片付けるらしい。

 

コジローの話だと今日も予定通りに使用した後、お婆ちゃんは元の位置に戻したんだそうだ。

 

鍵があるからといって、外にこんな高価な物を置いておく等、一般市民の思考を持つ俺には想像すら出来ないが、これは待ち伏せするには好都合である。

 

普通ならば、警備員の人とかが見張りをしそうな物だが、そんな事は一切無かった。

 

まあ、内容だけを聴けば、お宅のペットの歯磨き取っちゃうぞというだけの話である。

 

お婆ちゃんも、取られたら新しい歯ブラシを買ってあげるから、と話ただけでこの話題は終わったそうなのだ。

 

ハッキリ言って次元が違うと思った。

 

俺はお婆ちゃんとの間に決して越えられない、見えない壁の存在を確かに感じたのは、いた仕方ない事だろう。

 

「本当に『キンキュウケイホ』!?」

 

もう一度メカ犬に文句を言おうとした所で、タッチノートから警報が鳴り響いた。

 

咄嗟に警報音を切り、出来るだけ気配を消す事にした俺達の目の前に、異形の存在が現れる。

 

タッチノートが反応した事から、あの異形がホルダーなのは間違い無さそうだ。

 

その異形は身のこなしが軽いようで、お屋敷の高い塀を意図も容易く飛び越えてきた。

 

その異形は全身が灰色の体毛に覆われており、お尻には肌色の細長い尻尾、頭の上には二つの丸い耳が付いていた。

 

一言で例えるなら超ド級にデカイ二足歩行のネズミである。

 

巨大なネズミは歯ブラシの保管されている場所に手を突っ込み、中から無理やり取り出し、一目散にその場を走り去っていった。

 

あまりの強引さと素早い行動に俺は呆気に取られる。

 

『何をしているマスター!早くしないと逃げられるぞ!?』

 

「は!そうだった!!」

 

メカ犬の言葉で我に返った俺は茂みから飛び出し、タッチノートを開く。

 

「行くぞメカ犬!」

 

『うむ!』

 

メカ犬の返事を聴いた俺はタッチノートのボタンを押す。

 

『バックルモード』

 

タッチノートから音声が流れて、隣に居たメカ犬がベルトに変形すると、自動的に俺の腹部に巻きつく。

 

「変身」

 

音声キーワードを入力した俺は、バックルの中央の窪みに、タッチノートを差し込んだ。

 

『アップロード』

 

音声と共に白銀の光が発生すると、その光が俺の全身を包み込み、一人の戦士の姿に変える。

 

メタルブラックのその姿は、知っている者ならば皆が仮面ライダーと呼ぶであろう、まさにそれだ。

 

『奴の素早さに追いつくにはスピードフォルムだマスター!』

 

「ああ!」

 

俺は短い返事を返しながら、ベルトの右側をスライドさせて緑色のボタンを押す。

 

『スピードフォルム』

 

メタルブラックの身体は光に包まれ、飛散すると同時に鮮やかなライトグリーンへと変貌する。

 

「それじゃあ行くぞ!」

 

『うむ!』

 

全身が軽くなる事を実感した俺は、急ぎ走り去ったホルダーの追跡を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた!」

 

スピードフォルムの恩恵で、素早さが上がっているからか、ホルダーに追いつくには、さほどの時間は掛からなかった。

 

「か、仮面ライダー!?」

 

俺の声が聞こえたのか、振り向いて俺の姿を見たホルダーが驚きの声を上げる。

 

その声は男性的な低い声である。

 

「声は明らかに男だけど、こいつはレディーマウスじゃ無かったのか?」

 

ホルダーが発した低い声を聴いた俺は、このホルダーはレディーマウスの偽者なのかと思った。

 

『それを判断するのは、早計だぞマスター』

 

ベルトからメカ犬の意見が聞こえる。

 

「如何いう事だメカ犬?」

 

『あまり使う機能ではないのだが、ホルダーの中には自身の肉声を変質させる事が出来るタイプもいる。素体となった人間が本物の怪盗だとするならば、その特性を持つ可能性は極めて高い』

 

メカ犬の言っている事はつまり・・・

 

「正体を見ないと、如何とも言えないって事だな」

 

『そういう事だ』

 

俺とメカ犬の間で一つの議論が完結した所で、ホルダーが俺に言い放つ。

 

「仮面ライダーが私に何の用があるんだ。私は別に誰かを襲うような事をした覚えは無いが?」

 

詭弁でこの場を何とかしようとでもいうのか、ホルダーが言い訳がましい事を言ってきた。

 

俺はホルダーの右手に握られている物を指さして、言い返す。

 

「襲ってはいなくても、盗みは働いただろう!大人しくその右手に持った歯ブラシを持ち主に返すんだ!」

 

この一文だけを文章化して皆に見せたら何言ってんだこいつはって感じの台詞ではあるのだが、その歯ブラシが一本あれば、人生観が変わる位の大金が手に入る品なのだ。

 

とても冗談で済む話ではない。

 

「・・・仕方が無い」

 

ホルダーは右手を下ろすと・・・

 

「・・・なら貴様を倒すまでだ!!!」

 

下げた右腕から細長い尻尾が歯ブラシを巻き取り、両腕が自由になったホルダーはそう叫びながら襲い掛かってくる。

 

『来るぞマスター!』

 

メカ犬が近づくホルダーに対し、俺に警告する。

 

「分かってる!」

 

俺は返事を返しながら、拳を振りかざすホルダーをバックステップで避けながら、ベルトの右側をスライドさせて、黄色のボタンを押す。

 

『スピードロッド』

 

音声が流れると同時にベルトから光が発生する。

 

俺がその光を掴むと変化を起こし、スピードフォルムの専用武器であるスピードロッドへと姿を定着させる。

 

「はっ!」

 

ロッドを回転させながら俺はホルダーの頭部、腹部へと一撃ずつ喰らわせていく。

 

「ぎゃあ!!!」

 

ホルダーはロッドの連撃に耐え切れずに吹き飛ぶ。

 

しかしダメージは思ったよりも負っていなかったらしく、すぐに立ち上がると、俺に戦いでは敵わないと悟ったのか逃走を始めた。

 

『逃げる気だぞマスター!』

 

「待て!」

 

建物を跳躍しながら、逃走するホルダーを追って、俺も同じ様に建物を飛び越えながら追跡する。

 

追跡を開始して暫くすると、ホルダーは逃げ切れないと悟ったのか、

 

「そんなに返して欲しければ返すよ!!!」

 

そう言って尻尾に巻きつけていた歯ブラシを俺に投げつけた。

 

「うわ!?」

 

突然の事に俺は、慌てるものの、何とか歯ブラシを取りこぼす事無く、見事にキャッチに成功する。

 

「・・・良かった」

 

俺はその手に抱き止めた高級過ぎる歯ブラシの無事を確認しながら、安堵の溜息を吐いた。

 

『マスター!ホルダー反応が消失したぞ!?』

 

安心した所で、メカ犬が現状を報告してくる。

 

恐らくホルダーは逃げる為の一瞬の隙を作る為に、俺にこの歯ブラシを投げつけて来たのだろう。

 

俺はまんまとホルダーの作戦に引っ掛かったって訳だ。

 

だが小市民の俺に、ホルダーを優先してこんな高価な物をぞんざいに扱う事など出来る筈も無い。

 

「どの辺りで反応が消えたか分かるか?」

 

『うむ。それなのだが・・・』

 

何かメカ犬は言い辛そうにしている。

 

「如何した?」

 

『反応が消えた場所なのだが・・・驚かないで聴いて欲しい』

 

メカ犬が改めて言う。

 

『反応が消失したのは・・・バニングス邸。アリサ嬢の家だ』

 

「はあ!?」

 

俺が驚いたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バニングス邸周辺を独自に調べてくるという事で、一足先に家に帰ってきた俺が、部屋の中で無残にも溶けきったアイスを目撃してから暫くして、メカ犬も調べ事を終わらせて家に帰って来た。

 

『結論から言おう。今回のホルダーは今日バニングス邸に居た人物の誰かで間違い無い』

 

この日メカ犬は、俺達がホルダーと遭遇する前に、ジャックに頼んで海鳴市の動物達に何か異常が無いか探らせていたのだそうだ。

 

更にバニングス邸の飼い犬達に意見を聞いた所、俺達がホルダー反応を見失った前後の時間に、見知らぬ人物は見かけなかった。

 

そう。

 

見知らぬ人物は見かけなかったという事は・・・

 

ホルダーはバニングス邸の飼い犬達が良く知る人物の可能性が極めて高いのである。

 

「これから如何する?」

 

俺は何か良い方法は無いものかと、思考しながら、メカ犬にも意見を聞いてみる。

 

するとメカ犬は・・・

 

『ワタシに一つ良い方法があるぞ』

 

と言った。

 

その方法は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日から一週間という短い間ですが、執事見習いとして指導させて頂きます。板橋純です。宜しくお願いします」

 

メカ犬の言う良い考えとは・・・

 

潜入調査というものだった。

 

こうして俺は執事見習いとしての生活をスタートさせたのである。


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