魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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色々と今回は急展開な感じですが楽しんでいただけたら嬉しいです。

それでは。


ライダー戦記編26

『反撃の隙を与えるなマスター!』

 

「分かってるって!」

 

俺と分身体を操るメカ犬は、鎧武から受け取った旗をロッドとして使い、連続攻撃を仕掛け、この場からアナザーアギトが動けない様に誘導する。

 

「横に飛べ!」

 

その最中、後ろから鎧武の叫ぶ声を耳にした俺は、その場で旗を手放して、分身体おは逆方向へと転がり去った。

 

直後、轟音と共に、一発の巨大な火球が、アナザーアギトへと飛来する。

 

その発射地点を見ると、鎧武が、両手持ちの巨大な銃を構えている姿だった。

 

銃の後ろには、丸いライトパネルが設置されていて、鎧武がその部分に指を這わせると、良く時代劇で見る様なホラ貝を吹く音がスクラッチ状に聞こえ、もう一度アナザーアギトへと銃口を向けて、鎧武が引き金を引くと、先程の威力の高そうな火球ではなく、散弾銃の様に、小さな火球連続で発射される。

 

どうやらあの銃は、あのパネルで、銃の攻撃パターンを幾つか変える事が出来る様だ。

 

「俺達も行くぞ!」

 

『うむ!』

 

鎧武の攻撃に怯んでいる今がチャンスと、俺はベルトからタッチノートを引き抜き、駆け寄って来た分身体を後ろに向かせて、ベルトの溝へとスライドさせて、再び自分のベルトへと差し込む。

 

『アタックチャージ』

 

そうする事によってベルトから音声が流れて、発生した光は、俺と分身体の右足へ集約していく。

 

「『こいつで決めるぜ』」

 

俺と分身体は同時に構えて、跳躍して右足をアナザーアギトへ向ける。

 

しかし、ここでアナザーアギトが、俺達の行動に気付いたらしく、新たなアクションを起こす。

 

顔のギミックの一部が動き、鎧武の攻撃が身体に当たる事も構わずに、構えを作る。

 

跳躍していたからこそ、その様子を上から確認出来た訳だが、アナザーアギトの足下には、緑色の光を放つ紋章が浮かび上がっていた。

 

その浮かび上がった緑の光を放つ紋章は、渦を巻く様にアナザーアギトの両足へと集約され、一度深く腰を落とすと、俺と分身体に向かって跳躍して右足を突き出す。

 

こうなった以上は、もう真っ向勝負を止める術は無い。

 

「『はあああああああああああああ!』」

 

俺とメカ犬が放つ必殺の一撃と、それを迎え撃つアナザーアギトの攻撃がぶつかり合い、拮抗する互いの足を中心にして、激しく火花を散らす。

 

威力はほぼ互角。

 

このままでは、決着は着かないのではないかと思われたが、その拮抗を崩す切り札は既に俺の意識の外で動き出していた。

 

「せいはあああああああああああああああ!」

 

それは、横から飛び掛かって来た鎧武の叫び。

 

鎧武の手には、先程の大きな銃と最初に出会った時から装備していた、銃と剣が一体化した武器を合体させた、手前と中程に取っ手が設けられ、前面に刃のある特殊な形状の大型剣。

 

刃から迸る光は、弧を描く様を、その刃による斬撃をアナザーアギトに放った後も、少しの間だけ現実に残す。

 

流石に、この横からの攻撃には、アナザーアギトも対応出来ず、勢いよく地面へと叩き付けられる。

 

長い拮抗によるエネルギーの消費によって、分身体は消えてしまったが、何とか無事にこの勝負を切り抜ける事が出来た俺と鎧武は、アナザーアギトが地面に叩き付けられた事によって生じた土煙を黙認しつつ、地面に着地する。

 

それから少しすると、土煙は徐々に風に流されて、地面から立ち上がるアナザーアギトの姿が、はっきりと視界に映し出された。

 

「さあ、もうこれで勝負は着いただろ? 約束通りに、持っている果実を俺達に渡せ!」

 

確かに、先程の攻撃には見ていた俺からも、かなりの威力を有している事は分かったので、鎧武がここで手打ちにしようと言ったのも理解出来る。

 

実際に、アナザーアギトにも少ないダメージが、蓄積された筈だ。

 

もしもここでアナザーアギトが負けを認めずに、勝負を続けたとしても、二人で挑めば、そう時間を掛けずとも無力化する事が出来るだろう。

 

「……分かったよ。俺の降参だ、果実も約束通り、君達に譲ろう……と、言いたいところだが」

 

アナザーアギトの前半の台詞は、俺達の聞きたかった言葉で安堵したのだが、後半から声のトーンが明らかに低くなり、弛み掛けた気が、冷水を浴びせられたかの様に、一気に引き締まる。

 

「いや、すまなかったね。俺は君達の力を過小評価していたようだ。だからここからは、俺も全力で相手をしよう」

 

そう言うとアナザーアギトは変身を解き、元の姿に戻ると、優雅に指を前に突き出し弾く。

 

乾いた音が森の中に響いた次の瞬間、有り得ない事が起こった。

 

『これは……』

 

予想外の出来事に、俺と鎧武装が言葉を失う中で、唯一メカ犬だけが、ベルトから唖然としんがらも、なんとか言葉を絞り出す。

 

奴が指を鳴らした直後、俺達は、ヘルヘイムの森の大樹があった場所とは、全く違う場所に立っていた。

 

その場所は、初めて訪れた場所だと分かってはいたが、俺はここを一度だけ見た記憶がある。

 

正確に言うのならば、俺の記憶では無く、ネックレスを通じて見た、ディアスの記憶。

 

柔らかな温かい風が吹く草原と、その中央に大きな一本の木。

 

当然ながら、ディアスの記憶にあった、少年の姿と女性はこの場には居ない。

 

ただその代わりに、その時の記憶には無かった物体が、木の根元に鎮座していた。

 

二メートルは有りそうな、透明の巨大なクリスタル。

 

しかし、驚くべき点は、クリスタルの大きさでは無い。

 

その中から見えるものだ。

 

クリスタルの中には、まるで外界からの全てを拒絶するかの様に、一人の人物が、包み込まれていたのである。

 

黒いローブを羽織った一人の男。

 

クリスタルに覆われた人物は、先程まで俺達が戦っていた筈の男と瓜二つだったのだ。

 

でも、それは有り得ない話であり、悪い冗談だとしか、言い様が無い。

 

何故ならばその男は、今も変わらず、悠然と俺達の前に立っていたからだ。

 

「……これは、どういう事なんだ?」

 

「何が……どうなってるっていうんだよ?」

 

有り得ない事態の連続に動揺しながらも、俺と鎧武は、何とか口を開き、この異常な状況の全てを説明出来るであろう唯一の人物へと視線を向ける。

 

「フフフ。ここから二回戦と行きたいところだが、このまま始めるのは流石にフェアじゃないか」

 

俺達の様子を見た男は、そう言って肩を竦めて見せた。

 

確かに、唐突に今まで居た筈の場所から、こんな場所に移されて、動揺しているところを強襲されれば、俺達の咄嗟の対応は遅れる事間違い無いだろう。

 

ただ、それを態々言った上に、今もまだ襲い掛かって来ないという事は、この男にその意図は無かったという事だ。

 

「君達の強さを侮った事への謝罪と、強さへの敬意を賞して、少し昔話をしようか」

 

そう言って、男は視線を木の根元に鎮座するクリスタルへと向ける。

 

「あのクリスタルの中に居る男の名はディアス。時守の番人と言った方が分かり易いかな?」

 

男の言葉は、半ば予想出来てはいたが、やはり俺が言った推論は正しかったらしい。

 

でもクリスタルの中に居る、あの人物が本物のディアスだとすると、目の前の男本当に何者なのだろうか?

 

単純に考えれば、取って代わった偽物なのだろうが、本人が自分もディアスであると公言していたのだ。

 

ただ嘘を言っていたと断じれば、それまでなのだが、この男はずっと妙なフェアプレー精神を見せている事から、ただ俺達に嘘を言っていただけというのは、どうも違う気がする。

 

そんな俺の思考が、態度に出ていたのか、男は俺を見ると全てを悟った様な笑みを見せつつ、更なる言葉を紡ぐ。

 

「そうすると、俺は誰なんだと思うのも当然だろうし、俺はこれから君達の全てを奪う存在なのだから、知る権利がある。だから冥途への土産として覚えておくと良い。俺は先代のディアスによって創造された、時守の番人ディアス。時の果実によって楔の理をあるべき場所へと帰す存在だ」

 

俺は、この男……いや、言っている事が全て本当ならば、確かにあの男もディアスなのであろう。

 

二人目だと言ったディアスの言葉を、俺は頭の中で、一つ一つ整理していく。

 

つまり、クリスタルの中に居るディアスが、デンライナーのオーナーの言っていた、本来の時守の番人であり、今回の首謀者が、そのディアスによって生み出されたもう一人のディアスだったという訳だ。

 

どういった経緯を辿って、こんな事を仕出かしたのかは定かでは無いが、既に常識というものが通用しない相手だとは分かっていたので、これ以上深く考えても今の情報を整理するだけでは答えは出ないだろう。

 

「俺の創造主をこんな姿にしたのは、今在る世界の全てだ。ディアスは心から全ての世界を愛し、慈しみ、護ろうとして、己の全てを犠牲とした……だからこそ俺は許せなかった! 愛する者を犠牲として守られた世界を愛し続けた創造主に、世界は牙を向き、創造主すらも、俺から奪い去った! そんな世界を俺に守れと運命は、容赦なく俺の心の傷に塩を塗る! そんな世界に何の意味がある! 犠牲を伴わぬ事でしか在り続ける事の出来ない世界と、その事実も知らず、無知に生き続ける者達を守る事に何の意味があるというのだ!」

 

愛しさと憎しみ、優しさと怒り。

 

正と負の全ての感情が目の前のディアスの瞳から、感じ取る事が出来た。

 

今だから分かる。

 

これは、この男の復讐なのだと。

 

愛する者を、家族と呼べる存在を無慈悲に奪われた、世界に対しての復讐。

 

その人としての感情が、狂気となって、世界を崩壊させるという凶行へと及んだ。

 

「……さあ、これで昔話は終わりだ。全ての世界を救いたいのなら、我が創造主の愛した世界にまだ存在する価値があると言うならば、俺を止めて見せろ! 仮面ライダー!」

 

咆哮すると同時に、ディアスの身体はまたしても、変化を起こす。

 

一瞬だけ白い光に包まれたと感じた次の瞬間、その姿は人から異形へと変貌を遂げた。

 

まるでライダーの様な複眼。

 

だが、その瞳は黒く、底知れぬ闇を感じさせる。

 

逆に、その身体は、純白とでも表現すべき、白一色に彩られていた。

 

シンプルな白い装甲の胸の部分には西洋の大型の盾と二本の直剣が盾を中央にクロスしている文様が、溝となって刻まれている。

 

俺の記憶には無い、ライダーの様なこの姿こそ、きっとディアスの本気だというのだろう。

 

いや、本当であれば、世界の時の全てを見守るディアスこそが、本当の意味での仮面ライダーと呼べるべき存在なのかも知れない。

 

でも、俺は今目の前に存在する強大な力を持った相手を、仮面ライダーだと認める訳にはいかない。

 

例え、正義でも……悪だったとしても、ライダーは自分の信念を貫く。

 

だけどディアスは……。

 

『行くぞマスター!』

 

「あ、ああ!」

 

俺はメカ犬の声に、考えを途中で切り替えて、鎧武と共にディアスへと攻撃を仕掛ける。

 

だがディアスは防御をするどころか、微動だにしようとすらせずに、俺と鎧武の攻撃をまともに受けた。

 

「この程度の力が限界か?」

 

しかし、俺達の攻撃は何の意味も成さず、ただディアスの落胆した溜息交じりの声だけが耳に響く。

 

「くっ!」

 

「このっ!」

 

それでも俺は果敢に拳と蹴りを見舞い、鎧武も強力な斬撃を連続で振るうが、それでもディアスは一切のダメージすら受け付けはしない。

 

「そろそろ、俺からも行かせてもらうぞ」

 

暫く俺と鎧武が連続攻撃を仕掛けた後、ディアスは何でも無い様に言うと、俺と鎧武の攻撃を受け止めて、そのまま力任せに身体を動かした。

 

「おわっ!?」

 

「うをっ!?」

 

何とかその場に留まろうと試みるが、踏ん張る事も出来ずに、俺と鎧武はお互いの身体を強制的に体当たりさせられて、地に伏せられてしまう。

 

更にその直後、俺の腹部を強烈な衝撃が襲い、吹き飛ばされてしまった。

 

どうしてそうなったのかを理解したのは、俺がディアスに蹴り上げられたのだと、吹き飛ばされながらも何とか、視界をディアスに向ける事が出来たからである。

 

「がっぐぅ!?」

 

俺が吹き飛ばされている間にも、鎧武がディアスの攻撃に一人で晒され、身体が左右へとぶれる。

 

「は、早く助けに……」

 

強烈な腹部の痛みに、息をする事すら困難だったが、それでも俺は何とか立ち上がり、急いで鎧武を助ける為に駆け出す。

 

だが、俺が救援に駆けつけても、戦況は変わらず、ディアスの圧倒的なまでの力に翻弄されて、今度は鎧武と共に蹴り飛ばされるという結果に終わってしまった。

 

そして俺達の受けた攻撃のダメージは限界へと達し、強制的に変身が解かれてしまう。

 

「ここまで辿り着いたライダーの力もここまでか……やはり全ての世界に、護る価値など無いか」

 

変身の解けて、地に伏す俺と紘汰さんを見下ろし、ディアスは呟くと、身を翻して木の根元のクリスタルへと向かって歩いて行く。

 

このままじゃ世界が終わる。

 

だが、今のままじゃ何度立ち上がったとしても、ディアスを止める事は出来ないだろう。

 

でも……それが分かっていたとしても……。

 

「……待て」

 

「まだ俺達との勝負は着いて無いだろうが」

 

俺と紘汰さんは、全身を襲う痛みに耐えながら立ち上がり、ディアスに止まれと呼び掛ける。

 

「驚いたな。ここまで力の差を見せ付けられた上で、まだ立ち上がってくるとはな。君達は自分の力の及ばない強大な力を相手にする事が怖くは無いのかい?」

 

ディアスは振り向くと同時に、俺達を見て、予想外だとばかりに言うが、そんな事は無い。

 

「ああ、そんなの怖いに決まってるだろう」

 

戦う事は怖い事だ。

 

それは俺自身が、身を持って良く分かっている事だ。

 

「なら、どうして立ち上がる?」

 

俺の答えを聞き、新たな質問をするディアスに対して、今度は紘汰さんが口を開く。

 

「今を後悔しない為だ! ここで投げ出したら、全部終わってまうかも知れないから……だから怖くたって、俺は何度だって立ち上がる!」

 

紘汰さんの言葉を聞き、ディアスは再び溜息を零す。

 

「その心意気は称賛するが、ただの感情論と根性だけで、俺に勝てるのか? たった二人で」

 

ディアスの言葉を認めたいとは思わないが、確かに現状は絶望的だ。

 

まだ戦う力が残っていたとしても、俺と紘汰さんの力じゃ、ディアスには敵わない。

 

だけど、諦めるくらいならば、玉砕覚悟で戦う方が、まだマシだ。

 

「二人じゃないさ」

 

しかし、俺のそんな思考を遮る様に、後ろから声が響く。

 

その声は、何処か懐かしく、聞き覚えのある、俺の記憶では間違い様の無い、あの人の声。

 

俺はまさかと思いながらも、後ろを向く。

 

其処には、久し振りに見るが、全く変わらない眩しい笑顔があった。

 

目の前にその人物が居ると認識しながらも、この場に居る事が有り得ない筈だと、俺の頭の中は殆どパンク状態となる中、それでも俺は、自然とこの人物の名前を口にする。

 

「……五代さん」

 

俺が呼んだ事に、答える様にして、目の前に唐突に現れた人物……五代さんは、変わらぬ笑顔を俺に向けた。


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