魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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少し戦闘はあっさりめかもしれないですが、今回も楽しんでいただければと思います。
ではでは。


ライダー戦記編24

腹が減っては戦は出来ぬとは、日本では有名な言葉だと思うが、その立場に実際に立ってみて、この言葉は至言であると、俺は改めて理解した。

 

俺の口の中に広がる、適度な塩気の効いた米の旨み、充分なまでに咀嚼してその味を楽しんでから飲み込んだ後は、爽やかな苦みが清涼感を与えてくれる、冷たい緑茶で喉を潤す。

 

空腹という名の最高のスパイスも加わり、シンプルな食事も至高の料理となる。

 

「ご馳走様でした!」

 

俺は両手を合わせて、先程の俺が食べたおにぎりとお茶、そしてこれらの食糧を俺に分けてくれた人物に対して感謝の言葉を口にする。

 

「はは、お粗末様でした」

 

そんな俺の言葉に律儀にそう返してくれたのは、何処かまだ幼さの残る青いパーカーを着たお兄さん。

 

なんと、この人が驚く事に、あの鎧武に変身していた人物なのだ。

 

お兄さんの名前は、葛葉 紘汰《かずらば こうた》さん。

 

「何だかすみません。貴重な食糧を分けてもらってしまって」

 

「そんな気にするなって、困った時はお互い様って言うだろう」

 

『いや、ワタシと違ってマスターは生身だからな。食糧も無い状態で、長時間この様な森に居たら、流石に危なくなっていたかも知れん。ワタシからも改めて礼を言わせてくれ』

 

俺と紘汰さんの会話に、自然と入って来るメカ犬だったが、話し掛けられた紘汰さんの方は、俺に助けを求める様な視線を投げ掛けてくる。

 

まあ、その気持ちは何と無く分かるので、俺としても苦笑いを浮かべる他無い。

 

思えば、俺とメカ犬と紘汰さんは、お互いの名前位しか紹介しあってしかいないのだ。

 

こうして、紘汰さんからおにぎりを貰って食べていたのも、互いの名前以外の話をしようとしたところで、不覚にも俺の腹が空腹を告げるアラームを必要以上の大音量で流した為に、こうして話を中断して、先に食事をしたという経緯があったりする。

 

「メカ犬の事は、あんまり気にしないでください。別に悪い奴では無いですけど、こいつの存在は、こういうものだと思ってくれれば構わないんで」

 

説明していると長くなる上に、またややこしい話になる恐れがあるので、俺はメカ犬の存在についてはあまり多くを説明しない事にしておく。

 

『ワタシはオモチャ会社の新製品でな……』

 

「そうなの!?」

 

『うむ。それにワタシ以外にも似たものがあと四体ほど居るぞ』

 

「こ、こんな自由に喋るオモチャがあったんだな」

 

俺がメカ犬の話題を無理やりにでも終わらせようとする中で、当人であるメカ犬が、余計な事を口にして、紘汰さんを惑わせる。

 

というか、そのかなり無理のあるハイスペックオモチャ設定は、俺も久々に聞いた。

 

「話がややこしくなるから、メカ犬は少し黙っててくれ」

 

「えっと、純達はどうしてこんな場所に来たんだ? ただの迷子って訳じゃないんだろ?」

 

紘汰さんもライダーなだけあって、超常的な事には耐性があるらしく、メカ犬ショックから回復するどころか、気を使ってフォローまで入れてくれる。

 

俺は心の中で感謝しながら、紘汰さんのフォローを無駄にしない為にも、話を続ける事にした。

 

「話せば長くなりますけど……」

 

冒頭にそう言ってから、俺は出来るだけこれまでしてきた、ディアスとの戦いを簡潔に話し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは遥か遠い一人の男の記憶。

 

男は幼き頃から、逃れる事の出来ぬ、運命があると悟っていた。

 

何故その役目を担う事となったのが、自分なのかと、答る者すら居ない問答を、男は何度も繰り返す。

 

その運命の為に、大切な人を失い抗おうとも、男の未来は変わりはしない。

 

もしその男が、悠久の時間に耐えうる精神を持つ者だとしたならば、全ては変わらなかったのかも知れないが、男は人である事を超える事は……いや、人である事を捨てる事が出来なかった。

 

望まぬ完全を世界から望まれながら、男は不完全である事を貫く。

 

だからこそ、生きるという事が、辛く苦しいとさえ思えた。

 

悲しみと憎しみに、その身を焦がし、人の心が修羅へとなっていくのを、男は自覚する。

 

しかし、歪であったからこそ、男は愛というものを知った。

 

それが男にとって唯一の救いだったのか、それとも滅びへと導く序章に過ぎないのか。

 

その答えは、まだ誰も分からない。

 

今という時間の先に、答えはあるだろう。

 

だが、その未来は確定していないのだ。

 

それでも、男は止まりはしない。

 

ただ、自分が欲しい答えを掴むべく、男は歩みを止める事は無いだろう。

 

森の中でも、一際大きくそそり立つ大樹を前にして、自らに渦巻く全ての荒々しい感情を、内側へと抑え込み、男は口を開き、優しげな口調で呟く。

 

「もうすぐ全てが終わるよ……ディアス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この近くだと、この先の木が一番大きい奴みたいだな」

 

「そうですね。今度こそ当たりだと良いんですけど……」

 

『うむ。マスターの言う通り、流石にこれで十本目だからな。それに後どれだけの時間が残されているのかも分からん。急ぐに越した事は無いだろう』

 

俺とメカ犬に、紘汰さんの、二人と一匹は、そんな会話を続けながらヘルヘイムの森を歩き続ける。

 

事情を話した結果、紘汰さんにも大事な目的があるらしいのだが、協力してくれると言ってくれたので、こうして共に行動していた。

 

そして幸いというべきなのか、鎧武にもシードでいうところの、サーチフォルムに近い能力が使えるフォームがあるらしく、俺達は休憩を挟みながら周囲を索敵してから、大きな木のある場所を目指すという行動を何度も繰り返し、こうして十本目に見つけた木のある場所を目指している次第である。

 

幸いにも道は、開けていて一本道なので、迷いそうにもなかったという事もあり、今は変身を解いた状態で行軍していた訳だが、俺はその道を塞ぐ様に立ち塞がる存在を前にして、平和な旅路はここまでだという事を悟った。

 

「……どうやら、この先の木が、当たりの可能性が高そうだな」

 

『うむ。油断するなよマスター』

 

タッチノートを開きながら、俺は警戒を強める。

 

「あれが、純の言ってた奴か。確かに色以外は俺とそっくりだ!」

 

そして俺の隣で、そんな感想を零す紘汰さんから分かる様に、目の前に居るのは、鎧武を漆黒に染めた存在である、ダーク鎧武だ。

 

厄介な相手と遭遇してしまった、という事実に変わりは無いが、それ以上に今度こそ目的の場所へと近付いたのだという期待感が高まる。

 

『バックルモード』

 

『ロックオン』

 

いつもの様に、俺がタッチノートを操作して、メカ犬をベルトに変形させている中で、隣にいる紘汰さんも、変身する準備を整えていた。

 

これまでも、周囲を探索する上で、紘汰さんが鎧武に変身する場面は何度か見ているのだが、紘汰さんがいうところの、アーマードライダーと呼ばれるライダーの変身には、専用のベルトに加えて、ロックシードという錠前が必要だというのだ。

 

「「変身!」」

 

俺と紘汰さんは同時に叫び、俺はタッチノートをベルトの中央の窪みへと差し込み、紘汰さんはオレンジマークのロックシードをベルトの中央に付けて、ベルト横の小さな刀状のレバーを素早く倒すと、ロックシードの前面部分が開き、まるで果物を一刀で輪切りにした様な状態となる。

 

『アップロード』

 

『ソイヤッ!』

 

お互いのベルトから、音声が響き俺の全身は光に包まれ、紘汰さんの真上には巨大な鋼のオレンジが出現し、ゆっくりと降下して、すっぽりと頭から被った。

 

そして俺がシードへと変身を完了させている隣で、紘汰さんも同じく鎧武への変身を果たすのだが、オレンジアームズ! やら、花道とか、ステージと中々に賑やかな音声が変身中も流れている。

 

これは聞いた話によると、ベルトを作った人の趣味だそうで、他のアーマードライダーも、変身する時は、程度に差はあれど、皆してこんな感じで、賑やかな変身をするらしい。

 

何か紘汰さんの知り合いには、バナナのロックシードを愛用している人物も居るらしく、頭から巨大なバナナを被った状態で、悠然と歩行したりとかするそうだ……。

 

どうやら、俺の知らないところで、ライダーは新たなステージへと進んでしまったらしい。

 

まあ、そうなった経緯も、色々と複雑な事情があるのかも知れないが、今はそれよりもまず、目の前の戦いに意識を集中するべきだろう。

 

「行くぞ!」

 

最初にそう言って、ダーク鎧武に向かって突っ込んで行ったのは鎧武。

 

俺も遅れる訳にはいかない。

 

素早くベルトの右側をスライドさせて、緑色と黄色のボタンを連続で押していく。

 

『スピードフォルム』

 

『スピードロッド』

 

ベルトからは音声が響き、変身した直後は必ずなるベーシックフォルムのメタルブラックのボディーが、ライトグリーンへと染まり、同じくベルトから大量に溢れ出た光は、スピードフォルムと同色の専用武器でもある、スピードロッドとなって、俺の腕の中に納まる。

 

ダーク鎧武は、本物の鎧武と同じく、近接装備である二振りの剣を装備しており、これを時には二刀流で使って来る上に、何と片方の剣にはトリガーと銃口があって、カイザブレイガンの様な、遠近同時に攻める様な攻撃も可能としているらしい。

 

ならば、同じ獲物を使う上に、こちらが二対一という有利な状況で戦えるのであれば、スピードで翻弄しつつ、連携してみるのも一つの手だ。

 

「はっ!」

 

俺は切り結ぶ鎧武達に向かって、スピードロッドを構えて駆け出した。

 

今までの世界での戦いにおいても、コアを持った敵は、他の敵と比べて手強く、それは目の前のダーク鎧武も例外では無かったが、それでも脅威的な力とまではいかない。

 

少しずつではあるが、確実に戦いのペースは俺達の方へと傾きつつある。

 

常に鎧武が、ダーク鎧武と接敵して手数で攻撃を繰り返し、俺はスピードフォルムの身軽さを発揮して、フォローに回りつつも、確実にロッドによる打撃を叩き込んでいく。

 

そして、戦闘を開始してからそう間を置くこと無く、遂に勝機が訪れる。

 

俺と鎧武の連続攻撃に耐え切れず、ダーク鎧武がよろけたところで、俺と鎧武は其々の獲物を使った一撃によって、ダーク鎧武が両手に持つ剣を叩き落とす事に成功したのだ。

 

「このっ!」

 

「おりゃっ!」

 

その隙を突き、鎧武が無防備となった、ダーク鎧武の胸を斬りつけ、完全に態勢が崩れたところを、俺が渾身の蹴りで吹き飛ばす。

 

『今だ!』

 

ベルトから聞こえるメカ犬の声に頷きながら、俺はベルトのタッチノートを引き抜き、スピードロッドの中央にあるスリッドへとスライドさせ、鎧武も、オレンジロックシードを、ベルトの刀状レバーを二回倒してから、そのままベルトから取り出して、持っていた剣の窪みへと宛がう。

 

「はああああああっ!」

 

「せいはああああっ!」

 

俺と鎧武が裂ぱくの気合と共に、其々の武器をダーク鎧武に向かって振り下ろす事で、鋭い光の斬撃が十字となって、ダーク鎧武を通過して、一拍の間を置くと同時に、許容量を超えるダメージに耐えられなかったのか、ダーク鎧武が大きな爆発を起こして、今度こそ無へと帰った。

 

俺と鎧武は、無事に勝てたという事もあり、お互いに手を挙げてハイタッチを交わすが、あまり勝利の余韻に浸っている訳にはいかず、注意深くダーク鎧武が爆散した地点に視線を戻す。

 

これまでの戦いの経験から、コア持ちの相手は倒した後にこそ厄介な事となる事が殆どだったのだ。

 

まあ、今回においては、既にコア事態は一度は倒したという事もあり、例外になるかも知れないが、それだって油断して良いという理由にはならない。

 

だが、俺の警戒も空しく、ダーク鎧武が爆発した際に生じた炎と煙が風に流されると、焼け焦げた地面があるだけで、他に脅威となりえる存在が襲い掛かって来るという事態にはならなかった。

 

『どうやら、これで打ち止めの様だな』

 

「……ああ、取り敢えずこれで、コアとの戦いは終わりってことで良いのかも」

 

メカ犬の言葉を聞き、俺もやっと、安堵の溜息を吐き出す。

 

「まだ、安心するのは早いだろう。純達が言うのが本当なら、まだ厄介な奴が残ってるんじゃないか?」

 

「……ええ。きっとこの先に居るでしょうね。今回の黒幕が!」

 

俺は鎧武の言葉に頷き、改めて気を引き締め直し、目的の場所へと向かって、再び歩を進める。

 

歩き始めてから、そんなに時間が掛かる事無く、俺達は目的の場所へと到着し、そしてこの場所こそが俺達の目指していた場所であるという確信を得た。

 

想い石によって、精神世界へと飛んだ際に、見えた黒いローブを身に纏った一人の男が、巨木を前に佇んでいたのだから。




やっと、黒幕との初対面が実現しました。

ここまでなんだかんだで、長かったです……。

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