魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~ 作:G-3X
今回はバトルはお休みですが楽しんで頂けたら幸いです。
GWなのに、お休みが無いのが悲しいですわ……
どうにかディエンドを無力化した俺達は、ライオトルーパーが襲撃した為に、散乱してしまった内の、比較的、損傷の無かった椅子の一つを使わせてもらい、寝ている海東さんを縛り上げた。
『さて、確保したは良いが、マスターは、これからどうする気だ?』
「それは当然、洗いざらい喋って貰うさ」
俺は海東さんから奪い取った、ディエンドライバーを弄りながら答えた。
既に俺を含む、この場に居る全員が、変身を解いているので、メカ犬も今は操作していた分身体から、普段のフルメタル犬に戻っている。
「なら、とっとと起こさないとな」
俺の台詞に被せる様に、逸早く次の行動へと移したのは、士さんだった。
別に、起こす事は構わない。
寧ろ海東さんが起きない事には、話が先に進まないので、俺も賛成するが、士さんが考えた手段は海東さんにとって、凄まじく外道な方法だったと、先に宣言しておく。
「晴人。ちょっと魔法でナマコを出してくれ」
「は? どうしてナマコ?」
『何故、この状況でナマコが必要なのだ?』
士さんの注文に意味を理解出来ず、晴人さんとメカ犬が首を傾げるが、その真なる意味を理解した俺は、心の中で士さんの容赦の無さに、旋律を覚える。
前世の頃に視ていたディケイドの劇中で、海東さんが、何度も士さんはナマコが食べられないという発言を繰り返していた経緯があるのだが、実はこれにはある一つの真実が隠されていたのだ。
なんと、本当にナマコが苦手だったのは、海東さん自身だったのである。
海東さんは、過去の記憶を失っている士さんに、自分の弱点を譲る事によって、精神的に克服しようとしていたのだ。
ただ、この真実はディケイドの本編では最後まで語られる事は無かった訳なのだが、色々とあって当時よりは苦手意識は薄くなった筈だけど、流石に完全克服しているかと問われれば、頷く事は憚られる。
「まあ、取り敢えず出してくれれば良いさ。後はこっちでどうにかする」
「わ、分かった」
士さんの言葉は、説明にはなっていなかったが、その言葉から滲み出る自信は信じられたのだろう。
晴人さんは、魔法で小さな魔法陣の中から、適度な湿り気を持つ、活きの良いナマコを取り出して見せた。
「……ほら」
「助かる」
若干その独特な感触に対して、持つ事に抵抗を覚えているのか、頬が引き攣っている晴人さんから、士さんがナマコを受け取る。
その際にペシャリとした水音が俺の耳にも聞こえて来た。
ナマコを受け取った士さんは、椅子に縛り付けられながら無防備に眠る海東さんに向かって、歩を進めていく。
その足音は、まるで死神が手招きをするかの様な、そんな恐怖を感じさせ……いや、どう考えても知人が悪戯を仕掛ける光景にしか、俺には見えないが、やられる当人に、もしも意識があったのならば、そんな心境で間違い無いだろう。
「……ちょっと、くすぐったいぞ」
海東さんの頭上までナマコを持ってきた士さんはそう言って……ナマコを投下した。
その次の瞬間、哀れな一人の犠牲者の断末魔の声が、広場に響き渡ったのは言うまでも無い。
「……と言う事があったんですよ」
「そ、それでなんか……あの人は放心してるんだね」
俺のこれまでの経緯を聞いて、無事にリュウくんと合流を果たし、俺達の居る広場へとやって来た良太郎君が
、苦笑いをしながら、今も椅子に縛り付けられている状態の海東さんを見た。
「アハハ! この前の泥棒さんだ。何で縛られてるのぉ~」
「もう、好きにしたまえ……」
その海東さんを、近くに落ちていた木の枝でつつくリュウくん……と、無気力な発言をする海東さん。なんというか、普段の行いがお世辞にも良いとは言えないので、自業自得な部分も否めなくは無いが、流石にこれは不憫だろうと、俺は目の前に広がる光景を目にして、少しだけ同情を覚える。
「さてと、そろそろ喋って貰おうか。海東」
俺が後から合流した、良太郎君への説明を終えるのを待ってくれていたのか、士さんがリュウくんを押しのけて、海東さんへの質問を始めた。
「……ふっ、良いだろう。何でも聞くと良い」
抵抗出来ないのを良い事に、リュウくんに枝でつつかれ続けて、人としての何かが吹っ切れたせいか、それともその前に受けた、恐怖のナマコ爆弾のダメージから、ようやく回復したのか、海東さんは余裕の笑みを見せる。
ただしその見た目は、椅子に縛り付けられて、身動きが出来ない状態だという事に変わりは無いが……。
「聞きたい事は色々とある。まず最初に、どうしてお前は、俺が持っていた魔法石を狙った? 次に純が言っていたディアスと面識があるみたいだが、どういう知り合いだ? 今回の一連の事件について、何処まで知っている?」
矢継ぎ早に、士さんは質問を投げ掛けていく。
その質問のどれもが、俺の知りたい情報でもあった。
「そんな一度に話されても、答え切れないよ士。まずは順を追って話させてくれ」
質問の嵐に晒された海東さんは、士さんを宥めながら、まずは何処から話そうかと呟きながら、俺達に伝える情報を、頭の中で整理し始める。
「……うん。じゃあ最初は、僕がディアスと会っていた理由から話そうか」
少し待った後に、話す順番が整理出来たらしく、海東さんは口を開き、ゆっくりと語りだす。
「最初に断わって置くけど、僕は別にディアスとは友達って訳じゃないよ。ただ彼の持っているお宝に興味があって近付いただけさ」
サラッと口にする海東さんだったが、その意味を要約すると、さっきの俺達にした事と同じ。
つまり、デイアスの持っているというお宝を奪う為に、襲い掛かったというのだ。
仮に、友達ですと言われても困る処だが、ディアスもディエンドに狙われた友の会の同志だった訳である。
というか、もしかして今回の事件の発端理由って、デイアスのお宝を海東さんが盗んだからなんじゃ……。
「おっと、誤解してもらっは心外だな、少年君。確かに僕はディアスのお宝を一つ頂きはしたけど、今回の件は、それよりも前から計画していたみたいだよ」
俺のジトリとした疑いの視線に気付いたらしく、咄嗟に海東さんは訂正の言葉を俺に放つが、何処まで信じて良いものか。
「そ、そんなに疑うならば、実物を見せようじゃないか! 僕のズボンの右側のポケットを見てみたまえ! そこにデイアスから頂いたお宝が入っているから」
まだ自分の疑いの晴れていない事に納得出来なかったのか、海東さんは一番近くに居た士さんにポケットを探れと指示を出す。
「……これの事か?」
やれやれと溜息混じりに、暫くポケットの中に手を突っ込んでいた士さんだったが、少ししてお目当ての物を発見したのか、海東さんのズボンのポケットから、半透明の桜色をした丸い宝石の付いたネックレスを取り出した。
「これが、ディアスの持っていたお宝ですか?」
「うん。そうだよ」
俺の問い掛けにも、海東さんは即答で返す。
どうやら、このネックレスで間違い無いらしい。
何と言えば良いのか。
予想外な代物が出て来てしまった。
俺の予想では、具体例は特に考えてもいなかったのだが、もっと一目で凄いという印象を受けそうな物か、見慣れない珍妙な謎物体だとばかり、想像していたのである。
其処に来て、とてもシンプルとは言え、探せば近くの露天商でも買えそうなネックレスだとは、予想外にも程があるというものだ。
「わあっ! 綺麗なネックレス! これ、お姉ちゃんに似合いそう! プレゼントに貰っても良いよね? 答えは聞かないけど!」
予想外な物が出て来た事に、俺が驚いている間にリュウくんが士さんの手から、件《くだん》のネックレスを奪い取る。
いや、リュウくんの物じゃ無いんだから、答えは聞いた方が良いと思う。
そもそも、出処からしてかなり危険な気がするので、一般の人にプレゼントするのは、止めて置いた方が無難だ。
「リュウタロス。玩具じゃないんだから、ふざけないの」
「は~い」
流石に付き合いが長いだけあるのか、良太郎君が一喝すると、リュウくんは、すんなりとネックレスを諦めてくれた。
伊達にモモさんを始めとした色々と性格の濃い、イマジン達に認められているだけの事はある。
「じゃあ、これは君が持ってて良いよ」
「えっ?」
そして切り替え早く、ネックレスに興味が無くなったリュウくんは、その時に一番に近くに居た俺にネックレスを投げ渡し、メカ犬を撫でる事に行動をシフトした。
咄嗟に投げ渡されたネックレスではあったけれど、その前からリュウくん……というよりは、ネックレスを目で追っていたので、地面に落とす事無くキャッチに成功する。
ただ、思い掛けない行動であった事には変わり無く、両手で包み込む形となり、宝石の部分まで直接手に触れてしまう結果となってしまったけれど。
「ん、これって魔力か?」
俺がネックレスを手にした次の瞬間に、晴人さんが俺を見て呟く。
いや、きっと正確には俺が持つネックレスを見て、言ったのだろう。
どうして、そんな事を言ったのか、聞いてみようと俺は考え、口を開こうとしのだが、俺は直ぐにその質問を、晴人さんする事は叶わなかった。
何故ならば、俺が晴人さんに質問をするよりも先に、俺自身の意識は違う場所へと旅立ってしまったのだから。
その光景は、まるで夢を見ているかの様だった。
実際に夢なのかも知れない。
何処までも広がる青空に、頬を撫でる優しい風。
その風に草原の草も撫でられ、中心には一本の大樹と、大きな枝木と若葉によって生まれた木陰の中で休む、一人の少年と、女性の姿。
まるで、その光景は、美術館に飾られる一枚の絵から、抜き出したと言われれば、そのまま信じてしまいそうになる光景だった。
俺はその光景をただ、見続ける傍観者となっているらしい。
少年は、女性に小さな箱を贈る。
女性は優しい微笑みを浮かべ、その小さな箱を受け取ると、ゆっくりと箱を開く。
中に入っていたのは、小さなネックレス。
シンプルな中央に丸い宝石が付けられただけのデザインのネックレスは、お世辞では無く、その優しい笑顔の絶えない女性には良く似合っていた。
無事に、ネックレスを受け取って貰えた事で、少年も満面の笑顔を浮かべる。
少年の年齢は、きっと今の俺と同じくらいだろう。
そして女性の方は、二十代の前半か中半といったところだろうか。
きっとこの二人の関係は、歳の離れた姉弟か、それとも親子だろうと思う。
ただ、不思議なのは、二人とも、まるでゲームに出て来る様な魔法使いのローブを身に纏っている事だ。
そもそも、ここは何処だろうか?
あの二人は誰なんだ?
分からない事だらけであるが、今の俺でも一つだけ分かる事がある。
少年が女性に贈ったネックレス、あれは確か、俺が今……自分の手に持っていた筈だ……。
そこまでの思考を最後に、俺の視界は再び白く染まり、意識はこの夢の中の様な光景から飛び去って行った。
『どうしたマスター? 無理な体勢で取って、何処か痛めたのか?』
気が付くと、俺はリュウくんに頭を撫でられ続けているメカ犬に、声を掛けられていた。
「俺は今まで何を……」
先程まで靄の掛かっていた様な意識が、一気にクリアとなって、俺は周囲の状況を確認する。
縛られている海東さんと話す士さんに、先程も俺に話し掛けて来たメカ犬と、その頭を撫でるリュウくん。
そんな一人と一匹を見守る良太郎君と……俺がついさっきまで居た現実から一秒と経っていない光景が目の前に在った。
いや、一人だけこの中に例外が居る。
「純! さっきの魔力、何かあったのか?」
俺があの夢の様な光景に意識が持って行かれる寸前に、異常を感じ取っていた晴人さんだけが、俺に対して心配そうに声を掛けて来た。
「あれから……俺がネックレスを手にしてから、どれ位の時間が経ってますか?」
きっとこの場では一番早く、その質問に答えてくれるであろう晴人さんに、俺は確認を取る。
「どれ位って、俺が見てた限りは、数秒程度だったと思うが……もしかして、意識が別の場所に行っていたのか?」
俺は晴人さんの疑問に、頷く事で答えとした。
「まるで、誰かの思い出の中に行って来た……そんな感じです」
「誰かの記憶の中に……でも純には魔力は無いみたいだしな……いや、でも、あの一瞬だけ感じた魔力が引き金になっているとしたら」
「あの、晴人さんには、何か心当たりがあるんですか?」
「……確証がある訳じゃないけど、可能性だけなら。もしかしたら純は誰かのアンダーワールドに意識だけ飛ばされたのかも知れない」
「アンダーワールド?」
俺は晴人さんから告げられた、聞き慣れない言葉を耳にして、首を傾げた。